クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 アムネシアの少女 作:気まぐれキャンサー
プロローグ
「んっ・・・あれっ、ここは?」
強い日差しを浴びて、少女は目を覚ます。身体を起こし、少女は辺りを見回す。そこは見慣れない場所だった。青い海に緑の樹々、そして白い砂浜。
「な、なんで私、こんな所にいるの?」
少女は戸惑う。当然だ。自分にはここにいる身の覚えが全くなかったのだから。
「こんなのおかしいよ。だって私は・・・え?」
少女はここにいる前の事を思い出そうとしたが、
(私、前はどこにいたんだっけ?いや、それよりも・・・)
「私は・・・誰?」
少女はどこにいたかは元よりも何も思い出せないでいた。家族の事はおろか、自分の名前すらも。
「どうして!?なんで何も思い出せないの?ねえ、誰か教えて!ここはどこなの!?なぜ、私はここにいるの!?私は・・・いったい誰なの!!??」
少女は悲鳴に近い叫び声を上げる。目からは涙も滲んでいた。だが、少女の問い掛けに答える者は誰もいなかった。
しばらくすると、少女は落ち着きを取り戻し始める。
「なんか、叫んだら落ち着いてきたな。冷静になろう。正直、分からない事だらけだけど悩んでても仕方ないよね。それよりもまずは、ここがどこなのかを把握しないと」
少女はとりあえず、辺りを軽く散策してみることにした。砂浜を抜け、森の中を歩いてみたが小さい森で迷うほど広くはなかった。そして、森を抜けた先にあったのは、
「また砂浜だよ・・・」
やはり、そこは砂浜だった。先ほど自分がいた所と代わり映えのない風景が広がっていた。
「う~ん。見たところ、ここは島みたいだね。でも、人の気配はなかったし無人島かな、って、ん?あれはなんだろ?」
砂浜の方に見慣れない大き目の物体があったので少女はそこへ行ってみた。近くに行くとそれは、
「なにこれ、ロボット?」
果たしてそれは、見た事もない変わった形をしたロボットの様な乗り物だった。全体が白と黄色でコーティングされており、操縦席らしき部分もある。そして、極め付きは、
「先端に付いているコレ、機関銃だよね・・・」
誰が見てもこれは兵器である事が分かる物がそこにはあった。
「何なのかなこれ?どこかで見た事がある様な気もするけど・・・」
そう言いながら、おもむろに機体のボディに手を触れてみた。すると、
「!? な、なに。一体、何が起きているの!?」
少女のいた世界は急に真っ暗になった。そして彼女の周りにいくつもの映像が現れた。それはこの世界の事。そしてその世界で生き、数多の戦いを繰り広げてきた“ある少女”と彼女を取り巻く人々が織り成す群像劇。
舞台はとある世界。人間は“マナ”と呼ばれる不思議な力を行使できるようになりそれにより世界から貧困、格差、暴力、差別が失われ人々は平和を謳歌していた。
ミスルギ皇国の第1皇女である“アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ”もまた家族に愛され、国民に慕われて幸せな人生を送っていた。
だが、そんな彼女の人生は16歳の洗礼の儀の日に大きく変わる事となる。洗礼の儀の最中、兄である“ジュリオ・飛鳥・ミスルギ”によって彼女がこの世界にとって異分子である存在、“ノーマ”である事が明かされる事となる。
ノーマ。それは人間ならば誰もが使える筈のマナを行使できず、マナを無力化する存在。女性にしか生まれないソレは、世界の平和を脅かす存在として人々から忌み嫌われていた。
ノーマである事が発覚したアンジュリーゼは一瞬にしてミスルギ皇国の敵となってしまい、父親であり皇帝の“ジュライ・飛鳥・ミスルギ”は国民を欺いたとしてジュリオによって皇帝の地位を剥奪、拘束されてしまい、母親である“ソフィア・斑鳩・ミスルギ”もまたアンジュリーゼを庇い、命を落してしまう。
かくして、アンジュリーゼは皇女としての身分だけでなく実の名前すらも失い、世界中のノーマが集められる場所、“アルゼナル”へと送られる事となる。そして、そこで彼女は“アンジュ”として世界の脅威である存在、“ドラゴン”を“パラメイル”と呼ばれる兵器を使い戦って倒していく一兵士として生きていく事となってしまう。仲間との衝突、残酷な現実を目の当たりにし、悩み傷つきながらもアンジュは戦い、生きる。己の信じるものの為に。
「アンジュ・・・なんだろう。この子、初めて見る子なのにどこか懐かしい」
アンジュの波乱に満ちた人生の始まりと結実までのクロニクル。そして彼女を取り巻く人々が織り成す群像劇。まるで映画の様な内容に少女の心は奪われていた。少女の目にはいつの間にか涙が零れていたがそれすら気にならない程、少女は映像に魅入られていた。やがて映像は消えてなくなり、少女の目の前には元の世界が広がっていた。
「つまり、ここはアンジュという子が暮らす世界。そして、これは彼女と仲間達が乗っていたパラメイル。でも、どうしてそんなのが出てきたんだろう?それに結局、私自身の事は分からず終いだし」
少女は疑問に感じたが考えても仕方ないと頭を切り替える。そして、ある事を試してみる。
「もし、ここが今見た世界だとしたら私はどっちになるのかな?人間かノーマか、試してみないと」
少女が辺りを見回すと浜辺に手頃な枯れ枝が落ちていた。
「よし、あれで試してみよう。えっと、確かマナを使う為には・・・」
少女はそう言うと枯れ枝に向かい手を掲げ、
「マナの光よ!」
と叫ぶ。しかし、
「あれ、何も起きないな。じゃあ、もう1回。マナの光よ!」
再び叫ぶもやはり枯れ枝は転がったままで何も起こらなかった。
「マナが使えないという事は、私ノーマなんだ。まあ、使ってた記憶もないから使えたら使えたでビックリしたけど」
少女は得心すると、これからの事を考える事にした。
(さてと、これからどうするかな。ノーマとなると行ける場所は限られる。ミスルギ皇国なんて論外だし、ローゼンブルム王国も安全とは言い難いよね。他の国もまた然り。となるとやはり・・・)
「アルゼナルしかないよね・・・」
少女はため息を吐きながら結論を出した。
「正直、ドラゴンと戦うのは嫌だけどノーマが暮らせるのはあそこだけだしね。問題はどこにあるのかとどうやって行くかだけど」
そう言うと少女は先程のパラメイルに目を向ける。
「やっぱりこれを使って行くしかないのかな」
少女はパラメイルに近づくとコクピットに乗り込む。しかしある事を思い出す。
「ちょっと待って。よく考えたら私、パラメイルに乗った事ないよ。動かせなかったら意味ないじゃん!」
アルゼナルに行く事ばかり考えていた為に肝心な事をすっかり忘れていた。少女はどうしようかと思い操縦桿を握ってみた。
「!? えっ、今度はなに!?うっ!!」
操縦桿を握った途端、先程と同じ様な映像が今度は頭の中に直接流れてくるような錯覚に襲われた。しばらくして、それが終わる。すると、
「どういうこと?私、分かる。これ、動かせるよ・・・」
ついさっきまで分からなかったパラメイルの操作方法を一瞬の内に理解した自分がそこにいたのだった。ふと、彼女は自分の姿を確認してみると、
「あ!今まで気付かなかったけど私が今着ているの、ライダースーツじゃない」
そう、彼女が身に纏っていたのはメイルライダーがパラメイルに騎乗する時に着るライダースーツその物だった。
「うう、今更ながらこれってけっこう布地の面積が少ないよね。恥ずかしい。ん、これは?」
恥ずかしがっていると足元に何かある事に気付いた。それは手鏡だった。ふと、中を覗き込むと、
「えっ!?こ、これが私なの?」
そこには自分の顔が写っていたのだが、それはとても普通とは言いがたいものだった。まずは髪。背中まで伸びたロングヘアーなのだが問題はその色だった。
「何これ、すごく真っ白・・・」
彼女の髪の色は雪の様に白く、まさに純白といっても過言ではない色だった。世界広しといえでも、ここまで白い髪はそうはないだろう。
極め付きは彼女の眼だった。普通に見えてはいるのだが、
「目の色が片方ずつ違う・・・」
そう。目の色が左右違っているのだ。左目は炎の様な赤色で右目は海の様な青色なのだ。いわゆるオッドアイと呼ばれるものである。病気でなってしまう人もいるが中には生まれつきという珍しい例もある。
しかし、異質だったのはこの2点のみで全体から見れば彼女の顔はとても整っており、美少女と呼ぶに相応しかった。
「あれ、これって?」
少女が自分の首に掛かっている物に気がつく。
「ペンダント?」
それはペンダントだった。先にはとても綺麗な宝石が付いていた。
「なんかこれ、心なしかアンジュがお母さんから貰った指輪に付いている宝石に似てるような・・・」
何かとは思ったものの後で考えようと思い、今はアルゼナルへ向かおうとパラメイルを動かす準備をする。先程、頭の中に流れてきた映像の手順に従って準備をし、起動させてみる。すると、操縦桿の所にあるメインモニターが光を発するとそこに映像が映し出された。
「あ、何か出てきた。これってこのパラメイルの名前かな?“ARTEMIS”
アルテミス?何だろう、どこか懐かしい様な・・・ってうわ!」
少女が考えているとアルテミスは砂浜から浮き上がり始めた。辺りに砂埃が舞うとアルテミスは地面を離れ、たちまち島全体が見渡せるほどの高度にまで上昇した。
「へぇ~、こうして見てみると私がいた島って結構小さかったんだね。さてと、準備は整ったし、アルゼナルへ行くとしますか!」
少女は中にあったヘルメットをかぶると操縦桿を握り、アルテミスを発進させた。
「うわっ!すごいGだよこれ。だけど、なんだろう。この機体、まるで自分の体みたいにとても馴染む」
発進した時のGに戸惑いながらもその後は問題なく操縦する事ができた。まるで、今までもずっと乗ってきたみたいに動きに無駄がなかった。
(自分が何者でどうしてこうなったかは分からないけれど、私はこの世界で生きていくんだ!だから・・・)
「だから、待っててね。アルゼナルとこの世界のみんな!」
少女はそう言うとアルテミスで空を駆け、自分が目覚めた島を後にするのだった。
地に堕ちた皇女と記憶を無くした少女。2人が出会い交錯するとき、世界の、運命の歯車は静かに回り始める。
初投稿で至らない部分もあるかとは思いますが、読んでいただき、出来れば感想も頂けたらなと思います。続きも是非楽しみにしていてください。それでは
追記 内容を一部変更しました。