クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 アムネシアの少女 作:気まぐれキャンサー
「さて、アルテミスで出発したは良いものの・・・」
少女は今、最初に目覚めた島とは別の島にいた。なぜここにいるかというと、
「見つかんないよ!アルゼナルぅ~~~!!」
少女は迷子になっていた。島を発ってから半日ぐらい海の上を飛んでいたのだが、アルゼナルらしき建物のある島はなかなか見つからなかった。
「う~、海の上を飛んでいればその内見つかるかなと思ったけど、これだけ探しても見つからないとは。アルゼナルなのにどこにもナイゼナル・・・なんて言ってる場合じゃないよね。はぁ・・・」
少女はため息を吐くしかなかった。アルテミスの燃料にはまだ余裕はあるものの、このまま無計画に飛び続けていてはやがて燃料切れになり、墜落するのは必至。その為、休憩を兼ねてこの島に降りたのだった。幸いここも無人島だった為、騒ぎになる事はなかったがアルゼナルへ行く見通しは立ってなかった。
「これからどうしようかな。まあ、雨が降りそうな天気だし飛ぶのは無茶だよね」
少女は空を見上げる。島を発つ時は雲が殆ど無い青空だったのだが、いつの間にか雲が広がり、一雨来そうな空模様となっていた。カウルが付いていないパラメイルで雨が降る中、移動するのはキツい。アサルトモードにすれば雨は防げるが、燃料消費がフライトモードの比ではないのでこの選択もできない。何より、アルゼナルがどこにあるのか分からなければ意味が無い。
「とりあえず食料を探すがてら、雨宿りできそうな場所を探そう」
そう言うと少女は森の中を散策する。しばらくすると、
「洞窟?でも。これって・・・」
そこには洞窟があったのだが、中を見てみると居住スペースになっており、家具が一通り揃っていた。まるで誰かが住んでいるかの様に。
「なんかどこかで見た事がある様な気がするけどまあいいや。休む場所は確保できたな。あとは、食料だね」
それから少女は森を散策して、果物を見つけた。洞窟の中には古びていたが釣竿もあったので海で魚も釣れた。水も森の中に綺麗な泉があった。今日の分の食料も確保した彼女は焚き火をして釣った魚を焼いた。魚の焼ける匂いが辺りに広がる。やがて、いい具合に焼けた魚を口にほおばる。
「う~ん、おいしいよぉ。なんか久しぶりに食べ物を口にした様な気がするなぁ」
焼き魚と果物に舌鼓をうつのだった。やがて食事が終わると、
「そうだ。汗もかいちゃったし、さっきの泉で水浴びでもしようかな」
焚き火を消してから少女は水浴びをしに泉へ向かうのだった。
その頃、アルテミスが置いてある海岸では、
「なんだこれは?パラメイル、なのか?」
茶髪の少年がアルテミスをみて首を傾げていた。
(どういうことだ?ここにパラメイルの残骸が流れ着いてくる事はよくあるけど、こんなに傷ひとつない綺麗な状態であるなんて。それにこのパラメイル、どことなく“ヴィルキス”に似ている様な・・・)
少年はしばらく考えていたが、
「もしかして、誰かがこの島にきているのか?」
そう言うと少年は森の中へ入っていく。自分が寝泊りに使っている洞窟に行き、中を調べるとそこには誰かが部屋の物を弄った跡があり、さらに近くには焚き火の跡もあった。
「やっぱり俺以外の誰かがこの島にいるな」
確信をもった少年はさらに森を散策してみる。すると、
「♪~♪~♪」
どこからともなく歌声が聞こえてきた。
「これは、歌?泉の方から聞こえる。行ってみよう」
少年は泉の方へ向かう。すると泉の近くにある木の枝にある物が掛けられていた。
「これは服・・・いや、ライダースーツか?」
果たしてそれは女性物のライダースーツだった。少年はそれを手に取ると木陰から泉の方に目を向けてみる。
「♪~♪~♪」
そこには1人の少女が一糸纏わぬ姿で水浴びをしていた。綺麗な歌声とすらりとした体形、背中まである白い髪が神秘的な雰囲気を醸し出していた。その姿に少年は思わず見惚れる。が、
パキッ!
「しまっ!」
「え?誰かいるの!?」
足元にある小枝を気付かずに踏んでしまい、音を立ててしまう。物音に気付いた少女が歌をやめ、少年がいる方に目を向ける。少女は泉から上がると、
「いるなら出てきて。私は何もしないから」
呼びかける様に言ってきたので少年は覚悟を決めて木陰から出る。
「す、すまない。覗くつもりはなかったんだけど・・・」
そう言いながら少女の顔を見た少年は目を見開く。少女の目の色が赤と青で片方ずつ違っているのだ。この世界でもとても珍しいオッドアイに再び見惚れる。が、
「! ご、ごめん!」
彼女が裸だった事を思い出し、目を背ける。しかし、少女の方も少年を見て驚いた顔をしていた。
食事を終えた少女は泉で歌を口ずさみながら水浴びをしていた。この歌はアルテミスの操縦桿を握った時に操縦法と共に頭の中に歌詞と一緒に流れ込んできたものである。
永遠語り
映像の中でアンジュが歌っていた歌。これを聞いた時、少女はとても懐かしい気持ちになった。そして、この歌を覚えた少女はこれをすっかり気に入って、口ずさんでいた。
しかしその最中、物音と共に気配を感じた少女は水浴びを止め、泉から上がり物音があった方へ呼びかけると少年が出てきたのだが、彼の顔を見て目を見開く。
(え?な、なんでタスクがここにいるの!?)
タスク 窮地に陥ったアンジュを救い、彼女と心を通わせる少年である。
彼との思いがけない邂逅に驚いていたが彼が顔を背けたのを見て少女も自分の今の姿を思い出す。
「! きゃあ!み、見ないで!」
顔を赤くして腕で大事な場所を隠す。それから、彼女はタスクが手に持っていた物に気付く。
「あ、それ私のライダースーツ。か、返して!」
「あ!ち、違うんだ!これは、木に何か掛かっていたから手に取っただけで決して君を困らせようとかそんなつもりは・・・」
「わかったから!お願いだから早く!」
「ご、ごめん!すぐに・・・って、うわっ!」
スーツを渡そうとしたタスクだったが草に隠れた木の根に足をとられてしまい、
「きゃ!」
目の前にいた少女を巻き込み転倒してしまう。
「いたたっ。あれ、顔に何か柔らかいものが・・・!!!」
タスクは何かと思ったがすぐに気付く。彼は今、少女の胸に顔を埋めるように倒れていた。
「~~~~!!!!」
先程から赤かった少女の顔が熟したリンゴの様に真っ赤になる。
「あ、あの~。これは事故・・・」
タスクは慌てて離れ弁解しようとしたが、
「キャーーーーーーーー!!!」
パシーーーーーーン
島に少女の悲鳴と小気味よい音が響き渡るのだった。
「あ、あの。ごめんね。私、びっくりした上に物凄く恥ずかしくなってつい・・・」
「い、いや、いいんだ。俺もうれし・・・じゃない!君に迷惑かけてしまってごめん」
あれから程なくして、雨が降ってきたので2人は今、洞窟にいる。もちろん、少女はスーツを返してもらい既に身に纏っている。ちなみにタスクの顔には少女が付けた赤い手形が綺麗に残っていた。だが、先程の事もあり2人の会話はどこかぎこちなかった。2人とも、顔を赤くして互いに俯いていたがやがて、
「ね、ねえ。君に聞きたい事があるんだけど」
「え!う、うん。何かな」
タスクが訊ねてきたので少女は返事をする。すると彼は真剣な顔つきになる。
「海岸にあったパラメイル。あれは君のなのか?」
「うん、そうだよ。私、あれに乗ってこの島に来たんだ。アルテミスっていうんだ」
「アルテミス、か。君がメイルライダーって事は、君はノーマなのか?」
「う~ん。たぶんそうなんじゃないかな?」
「なんか曖昧だな。っと、ごめん。急にこんな事聞いたりして。そういえば自己紹介がまだだったな。俺はタスク、この島で暮らしている。君は?」
「・・・ごめんなさい。わからないの」
「わからない?それってどういう・・・」
「ああ、これじゃわからないよね。実は・・・」
少女はこれまでの経緯を説明した。しかし彼女はアルテミスが見せた映像でタスクやアンジュ達の事を知っているのは黙っていた。これはアルテミスに乗っている時に決めた事である。
「私がアンジュやみんなに会えたとしても、私が彼女達の事を知っているのは黙っていよう。信じてもらえないだろうし、下手すれば警戒されるかもしれない。みんなを騙す様で気は引けるけど」
いっそのこと自分の事だけでなく、この世界の事やみんなの事も分からなければよかったのに。そう思わずにはいられない少女だった。
「そうか。つまり君は記憶喪失なんだ。でも、それならどうしてパラメイルを動かす事ができたんだ?」
「操縦桿を握ったら操作方法が一瞬で理解できたの。それに動かしてみたら、まるで自分の体みたいにとても馴染んだんだ」
「へぇ、そんな事もあるのか。変わったパラメイルもあったもんだな」
「まあ、あまりにも現実離れしてるから信じられないかもしれないけど」
「いや、信じるよ。君が嘘付いている様には見えないしね」
笑顔で言うタスクに少女は罪悪感が沸いた。心の中で『ごめんね』と言うのだった。
「それよりも君はこれからどうするの?他に行くアテとかはあるの?」
「ううん。私には行く場所もなければ帰る場所もない。だからどうしようかと思ってるんだ」
本当はタスクにアルゼナルの場所を聞く事ができればいいのだがそうもいかない。アルゼナルの存在自体、世間から秘匿にされている上にアルゼナルに連れて来られるノーマは乳児であれ幼子であれ自分の意思ではなく、ノーマ管理法に基づいての強制送致。自分から行きたいなんていう物好きはまずいないだろう。そんな事をすれば不審に思われる事は必至。となれば、方法は1つ。
(彼が自分からアルゼナルの事を話す様に仕向けるしかない、か)
嫌なやり方ではあるが、かといって他に方法がある訳でもない。そして、少女は口に出す。
「私みたいな人達がいる様な所があればいいんだけど・・・」
それから少女はタスクを見る。彼はしばらく考えた後に、
「あのさ。あまりお勧めはしないんだけど、君が言っていた様な所がない訳じゃないよ」
「本当!?どこなの、教えて!」
「うん。アルゼナルっていう孤島の施設がある。君がノーマならそこへ行くと良いと思う」
「アルゼナル?」
タスクは少女にアルゼナルの事を説明する。
ローゼンブルム王国が管理する世界中のノーマが集められる軍事施設。そこでノーマ達はパラメイルに乗り、ドラゴンと戦う。そして、そこで一生を終える事となる。
彼から聞いた事は少女は既に知っているが、あたかも初めて聞いた様に振舞う。
「そんな場所があるんだ。じゃあ、そこの場所を教えてくれないかな?」
「いいのか?今、言ったけど危険な場所でもあるんだぞ」
「うん。でも、私には他に行くアテは無い。それにそこへ行けば何か分かるかもしれない」
「そうか、わかった。でも、今日はもう遅いから明日教えるよ」
それから2人は寝る準備に入る。ベッドは1つしかなくタスクに悪いと思った少女は毛布を貰って床で寝ようとしたが、タスクが『自分が床で寝る』と譲ってくれたのでベッドで寝れる事となった。疲れていた少女はベッドに入った途端、すぐに寝息を立てて眠るのだった。
少女が寝た事を確認したタスクはそっとベッドに近づき、少女を見る。
「不思議な子だな。白い髪にオッドアイ。そして記憶喪失。それにあのアルテミスという名のパラメイル。一体、何者なんだろうこの子・・・」
タスクはしばらく少女を見ていたが彼女の胸に光る物を見つける。
「あれ?このペンダント、どこかで・・・」
タスクは思案して、ハッと思い出す。
「そうだ。これは昔、アレクトラが付けていた指輪に似ている!まさか、この子もどこかの王族の関係者なのか?」
タスクは疑問を抱くも結局は分からずに首を振る。それから、机に向かいペンを取り何かを書き始めるのだった。
翌日、空には昨日の雨が嘘かの様に綺麗な青空が広がっていた。少女とタスクは海岸にいた。
「それじゃ、この地図を頼りに行けばいいんだね」
少女はタスクから地図を貰った。地図には自分達が今いる島からアルゼナルのあるバツ印が付いている島までのルートが記載されている。方角に関してはアルテミスにはコンパス機能が備わっているので問題ない。
「そうだ。あと、これを君に渡しておく」
タスクは少女にある物を手渡す。それは手紙だった。
「この手紙をアルゼナルの責任者であるジル司令官という人に渡してほしい。そうすれば、彼女は君を受け入れてくれる筈だ」
「そうなの?何から何まで本当にありがとう、タスク君」
少女は笑顔でお礼を言う。タスクは顔を赤くする。
「い、いや。礼には及ばないよ。君も早く自分の記憶が戻るといいね」
「うん!」
少女はアルテミスに乗り込む。起動したアルテミスは浮遊を始める。
「さよならタスク君~!元気でね~!」
少女はタスクに別れの挨拶をするとアルゼナルのある島を目指し飛び立っていった。
「君も元気で~!いつかまた会おう~!」
タスクは少女が見えなくなるまで手を振るのだった。
少女がアルゼナルを目指し島を発った頃、ミスルギ皇国では1人の皇女の運命を大きく変える事件が起こっていた。2人の少女が出会うのはそう遠くはないだろう。
タスクとの出会い。次回は“彼女達”と遭遇する事となります。楽しみにしていてください。それでは