クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 アムネシアの少女 作:気まぐれキャンサー
タスクと別れた少女はアルテミスのコクピットにいる。彼から貰った地図を見てルートの確認をしている。
「えっと。今いるのがここだから、アルゼナルはもうすぐだね」
地図によるとアルゼナルは今いる海上を越えた先のすぐ近くだった。ようやく近辺にまでたどり着けた事に少女は安堵する。が、ふと少女にある疑問が浮かぶ。
「そういえば、今は一体いつ頃なんだろう?」
自分が今過ごしている時期は映像で見たアンジュ達の軌跡のどの辺なのか。タスクが既に青年といえる姿だったので遠い過去ではない事は確かである。
「こればかりは実際にアルゼナルに行ってみないと分からないか。はあ、こんな事ならタスク君に今は何時なのか聞いておけばよかったかな」
悔やんでも仕方がないので地図を片付け、アルゼナルへ向かおうとした。その時だった。
「! え!?今のは何?」
突然、頭に電流が迸るような感覚に襲われる。それだけでなく、全身に鳥肌が立つ感覚も覚えた。
「なんなんだろうコレ。まるで、『こっちに来い』って言われてるような感じがする・・・」
何かに導かれるかの様に少女はアルテミスの方向を変えてしまう。
「アルゼナルはもう目の前なんだけど、行かなくちゃいけない。そんな気がする」
少女はそう言うとそのまま感覚がした方向に向けて、アルテミスを発進させるのだった。
少女がアルゼナル付近へ来る数刻前。
『エマージェンシー!第一種攻勢警報発令!』
アルゼナルでは職員達が右往左往していた。観測所からの通達で異世界の生物、ドラゴンがこの世界へ来る為に通るゲート、シンギュラーポイントが発現したのだ。パラメイル第一中隊の面々もまた出撃準備を行っていた。
「全電源接続!各機、ブレードエンジン始動!弾薬装填を急げ!」
格納庫にメカニックであるメイの声が慌しく響く。
「よし、お前達!準備が完了次第、出撃するぞ!!」
『イエス、マム!!』
隊長のゾーラが隊員達に命令し、隊員達もそれに応えると彼女たちは各々パラメイルに乗り込む。
『全機発進準備完了!誘導員が発進デッキより離脱次第発進どうぞ!』
「よし!ゾーラ隊出撃!」
ゾーラが出撃したのを皮切りに隊員達も次々と出撃していく。やがてゾーラ隊は戦闘区域近くまで到達する。
「各機、戦闘態勢!フォーメーションを組め!」
『イエス、マム!!』
隊長のゾーラを戦闘に各機が陣形を組む。
「ゲートが開くぞ!!」
ゾーラがそう言うと前方の空間が歪み、空に穴が開いた様な状態となる。そこから一際大きいドラゴンを中心にドラゴン達が続々と現れるのだった。
『ドラゴン出現を確認!スクーナー級が50。ガレオン級が1!』
オペレーターがゾーラ隊に敵戦力を伝える。スクーナー、ガレオンというのはドラゴンの体躯の大きさを指す。スクーナー級は小さく、ガレオン級が1番大きくその体長は100mをゆうに超える。他にも、ブリッグ級、フリゲート級というのが存在する。
「スクーナーが50!?」
「マジかよ、おい・・・」
「ったく、うじゃうじゃ現れやがって」
重砲兵のクリスが驚き、軽砲兵のロザリーが唖然とし、突撃兵のヒルダが呆れる様に言う。
「おお~!じゃんじゃんいるねぇ~!」
「あらあら。これは骨が折れそうねえ」
突撃兵のヴィヴィアンが目を輝かせ、重砲兵のエルシャは苦笑する。
「あなた達!無駄口を叩いている暇は無いわよ!」
そんな彼女達を副長であるサリアが窘める。
「お前達!まずはカトンボ共を殲滅し、退路を確保する。全機、駆逐形態!陣形空間方陣!」
「イエス、マム!!」
ゾーラの指示で彼女を含めた全員のパラメイルがフライトモードからアサルトモードに変形する。各々武器を持ちドラゴンに向けて構えると、
「ファイヤ!」
ゾーラの号令と共に攻撃を開始する。スクーナー級は次々と撃墜され、海に落ちていくが50匹ともなるとなかなか減る様子が無い。対してゾーラ隊の人数は隊長を含め7人。いかにパラメイルが強力であり、ベテランパイロットを数人も擁する第一中隊といえども、次第に数で押され始める。しかもスクーナー級を殲滅させても、さらに強力なガレオン級がいるのだ。
「いくら倒したって、これじゃキリがねえ!」
ヒルダは愚痴を零しつつも、攻撃の手を緩めない。
「隊長!アルゼナルに増援を要請した方がいいのでは?」
「バカ言うんじゃないよ!アタシらは死の第一中隊だ。こんなカトンボ連中も自分達で始末できない様じゃ、いい笑いものだ。お前達!敵は確実に減っている。このまま手を緩めずに一気に行くぞ!!」
サリアが進言するもゾーラは一蹴し、隊員達を鼓舞する。その甲斐あって、スクーナー級は徐々にだが減りつつあった。そんな時だった。
「きゃあ!」
クリスがスクーナー級に張り付かれてしまう。必死に振り解こうとするが強く絡み付いており中々、解く事ができない。
「クリス!」
ロザリーはすぐにでも助けに行きたかったが目の前のスクーナー級に阻まれ、それもままならない。それは他の者達も一緒だった。そして、最悪な事態に直面する。
「グガアアアァァァ!!!」
なんとガレオン級が魔方陣を展開し、クリスの乗る機体に向けて攻撃魔法を放とうとしているのだ。アサルトモードのパラメイルは防御力は高いが、ガレオン級の攻撃をまともに喰らえばひとたまりもない。ましてや、クリスの機体は本人がなかなか稼げない事もあり強力なカスタマイズはされてなかった。
「あっ、あっ、あっ・・・」
クリスの顔が恐怖で歪む。スクーナー級に絡み付かれて反撃する事も回避する事も出来ない。
「クリスちゃん!」
エルシャが叫ぶもどうにもならない。ガレオン級の魔方陣が光を発する。
「きゃああああああああああ!!!」
クリスは悲鳴を上げ、死を覚悟する。その時だった。
シュバババババ!!!
どこからともなく銃撃音が聞こえたかと思うとガレオン級の魔方陣は打ち消されていく。そして、クリスに張り付いていたスクーナー級もまた背後から何者かに撃たれて、海へと落ちていった。
「え、な、何が起きているの・・・」
何が起こったか分からず、クリスは呆然とする。ふと、振り返ってみるとそこには1体のパラメイルがアサルトライフルを構えて立っていた。
「こっちだ。どんどん感覚が激しくなっていく」
少女は感覚のする方へ向けてアルテミスを飛ばしていた。そして彼女は目撃する。
「パラメイルがドラゴン達と戦っている!」
パラメイルの部隊がドラゴンと交戦していたのだ。そして、1体のパラメイルがスクーナー級に張り付かれている上に前方にいるガレオン級の攻撃を今にも受けようとしているのを見つける。
「大変!早くしないとあれに乗っている人が死んじゃう!」
少女は急いでアルテミスをアサルトモードにする。戦うのは今回が初めてなのだが、迷ってはいられない。少女はアルテミスの武装を確認する。
「アサルトライフルがある。確か、ドラゴンの魔方陣はアサルトライフルで打ち消す事が出来た筈」
少女がライフルを構えるとガレオン級に向けて発砲する。それにより、魔方陣は打ち消されていった。魔方陣が消えたのを確認すると今度は機体に張り付いていたスクーナー級に向けて発砲し、これを撃ち落とすのだった。
「すごい。初めてなのに分かる。私、戦える!」
パラメイルの無事を確認すると少女は戦線に赴くのだった。
「うおおお!なんじゃあ、あのパラメイルはぁ!」
ヴィヴィアンがアルテミスを見て興奮して叫ぶ。
「おいおい、どうなってんだよ!何だよ、あの機体は!?」
突如、現れた機体にヒルダも驚きを隠せない。
「隊長!あれは一体?増援を要請したんですか!?」
「私はそんな事はしていない。まさか、所属不明機なのか!?」
サリアはゾーラに問うが彼女は否定する。ゾーラ自身、この事にはとても驚いていた。
一方、アルゼナルの司令部では、
「戦闘区域に所属不明機が出現しました!」
「所属不明機ですって!?」
オペレーターの言葉に監察官のエマ・ブロンソンも驚きを隠せない。だが、司令官のジルは冷静に状況を見極めていた。
(所属不明機だと?どういう事だ。なぜ、所属不明機がうちの部隊を助ける様な真似をする?)
ジルは内心、戸惑いつつもゾーラに通信を繋ぐ。
「ゾーラ。所属不明機の動向はどうだ。お前達に危害を加えているのか」
『こちら、ゾーラ。いや、所属不明機はアタシらなんて目も暮れずにドラゴンを狩りまくってるよ』
「そうか。よし、ならば今は所属不明機に警戒しつつ、ドラゴンの殲滅にあたれ!所属不明機がお前達を攻撃してきたら迎撃しろ。いいな!」
『イエス、マム!!』
そう命令を出すと通信を切る。
「司令!よろしいんですか!?」
「構わん。所属不明機の目的は分からんが向こうもドラゴンを殲滅するつもりならこっちもそれを利用してやるまでさ」
そう言うジルの顔はどこか楽しそうだった。
「落ちろおおおおお!!」
少女はアサルトライフルを使い、スクーナー級を次々と撃ち落していく。スクーナー級も狙いをアルテミスに変えて襲い掛かる。やがて、ライフルが弾切れになったので武器を切り替える。
「他の武器は・・・あった!これは、剣か。名前は“カラドヴォルグ”」
カラドヴォルグという名の剣を構え、少女はスクーナー級の群れに突っ込んでいく。カラドヴォルグの斬れ味は抜群でスクーナー級は次々と真っ二つになって海へと落ちていく。
「なんだろう。パラメイルに乗って戦っているのにまるで、自分で銃や剣を持って戦っているみたい」
不思議な感覚にとらわれながらも少女は手を止めずスクーナー級を斬り伏せていくのだった。
「すげえ。あいつ、あれだけの数のスクーナー級を1人で・・・」
「いったい、誰が乗ってるんだろう・・・」
ロザリーとクリスはアルテミスの実力を目にして驚きを隠せない。
「ちっ、いきなり割り込んできやがって。面白くねぇ」
「ねえねえ、エルシャ、サリア。あのパラメイル、すごいよぉ!!」
「あらまあ。本当にすごいわねえ~」
「何なの、あのパラメイルは・・・」
ヒルダは面白くなさそうに舌を打ち、ヴィヴィアンはすっかり興奮していた。エルシャものほほんとしながらも驚いており、サリアは唖然としていた。
「お前達!気持ちはわかるがまだ戦闘は終わってないぞ。スクーナー級はあの所属不明機に任せて我々は残ったガレオン級を落とすぞ!」
『イ、イエス、マム!』
ゾーラに叱咤され、サリア達は頭を切り替えガレオン級の撃墜にかかる。ガレオン級は魔方陣を展開し攻撃を仕掛けるも、ゾーラ隊の巧みな連携の前に追い詰められていく。そして、
「これでチェックメイトだ、デカブツ!!」
ゾーラの乗るパラメイルの凍結バレットがガレオン級の身体を貫く。ガレオン級は断末魔の悲鳴を上げながら、海へと落ちていった。ガレオン級が落ちた後、海は凍結バレットの影響で氷原と化すのだった。
「ミッションコンプリート!ゾーラ隊よりアルゼナルへ、ドラゴンは殲滅した」
『ごくろうだった・・・と言いたい所だが、お前達にはまだやる事が残っているぞ』
「・・・そうだったな。お前達、これよりあの所属不明機を拿捕するぞ!」
『イエス、マム!!』
ジルに命じられ、ゾーラ隊はアルテミスの方へ向かうのだった。
「これで終わりだよ!」
最後のスクーナー級も斬り伏せて、ようやくアルテミスも戦闘を終える。カラドヴォルグに付いた血を振って落とすと機体に戻す。周囲を見るとガレオン級も撃墜されたらしく、下の海は氷原となっていた。
「はあ、疲れた。でも、何とかあの人達を助ける事ができたな」
少女がパラメイルが1機も落ちてない事を確認すると安堵する。が、パラメイルの部隊はアルテミスをたちまち囲みこんだ。
「え!?な、なんで・・・あっ、そうか」
少女は慌てるもすぐに理解する。ここにいる者達にとっては自分は部外者であり、それは敵と同じ。たとえ、ドラゴンの殲滅に協力したとしても変わらない。パラメイルの部隊はライフルを構えながら、アルテミスに通信を入れてきた。
『こちらはアルゼナルの第一中隊だ。ドラゴン殲滅の協力には感謝するが、軍規により身柄を拘束する。直ちにパラメイルを飛翔形態に戻し、投降せよ!』
通信の内容を聞いて、少女は驚く。
(第一中隊、って、まさかあのパラメイルに乗ってるのはサリア達なの!?)
サリア達との思わぬ遭遇に少女が目を丸くしていると、
『どうした!指示に従わないのならば敵とみなし、撃墜するぞ!』
通信の声にハっとなり、少女は慌てて返答する。
「こちら、アルテミス。投降します、少し待っててください」
そう言うと少女はアルテミスをフライトモードにする。すると、他のパラメイルもフライトモードになるのだった。
「なんだ。抵抗するかと思ったけど、あいつあっさり投降したわね」
抵抗すると思っていたヒルダは拍子抜けしていた。
「まあいいさ。その方がこちらも手間が省けるからな」
ゾーラはそう言うと再びアルテミスに通信を入れる。
「私は隊長のゾーラだ。これよりお前をアルゼナルへ連行する。念の為に言っておくが逃亡を図った場合は撃墜する」
『分かりました。あなた達について行きます』
返答をもらってからゾーラはメイルライダーの顔を見てみる。が、彼女の顔はヘルメットで覆われており分からなかった。
(やれやれ。アルゼナルに着くまでおあずけってわけかい。まあ、そっちの方が楽しみが増えるからいいけどね)
ゾーラは内心、ほくそ笑むのだった。隊長としては有能だが、手グセが悪い。それがゾーラの特徴だった。
「!!??」
ゾーラの応答に応えた少女だったが直後に背筋が凍るのを感じた。
(え、なにこれ。なんか嫌な予感がするけど、どうして?まあいいや。予定とは少し違うけどこれでアルゼナルへ行く事ができる)
多少の不安を覚えながらもゾーラ隊と共にアルゼナルへと向かう少女だった。
次回、ジルとの対面。そして、オリ主の名前が決まります。