クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 アムネシアの少女 作:気まぐれキャンサー
「第一中隊、所属不明機を拿捕しました」
オペレーターの報告を受け、ジルはモニター越しに所属不明機を見てみる。そこにはゾーラ隊に混じって見慣れない機体がアルゼナルへ向けて移動していた。
(あれが所属不明機か。ライダーの顔はヘルメットで隠れてて分からんが、女である事だけは確かだな。しかしあのパラメイル、どことなくヴィルキスに似ているな。まあ、気のせいかもしれんが・・・)
ジルがモニターを注視しながらそう思っていると、
「司令、あの機体とライダーはなんなのでしょう?アルゼナル以外にパラメイルを所有する組織があるという事なのでしょうか?」
エマが不安そうに尋ねてくる。彼女がそう言うのも無理はない。パラメイルがあるのは世界広しといえど、このアルゼナルだけ。というのが彼女が所属するノーマ管理委員会の認識なのだ。アルゼナル以外の組織が所有しているという事はこの世界の秩序と平和が崩れかねない程の由々しき事態なのである。
「さあな。奴がどこかの組織の人間か、あるいは個人で動いているのか。どちらにせよ、直接聞き出してみない事には何も分からんさ」
尤も、ジルにはエマが言っていた組織に心当たりはあるのだが、それは彼女と一部のノーマが企てている“ある計画”に関わる事なので口には出さない。その計画の事を人間側のエマに知られる訳にはいかないのだ。
「え!?うそ、これって・・・」
新米オペレーターのオリビエが驚いた顔である書類に目を通していた。
「ちょっと、オリビエ。何を驚いてるのよ?」
先輩オペレーターのヒカルと主任のパメラが何事かと思い、オリビエの方へ向かう。
「先輩、これを見てください」
オリビエが2人に書類を手渡す。その内容に2人も驚く。
「そんな!こんな事って!?」
「ちょっと、これ何かの間違いじゃないの!?」
「間違いじゃないですよ!私、何度も確認したんですから!」
「お前達!何を騒いでいる?」
オペレーター達が騒ぎ出したのでジルが彼女達に聞いてみると、
「司令、このデータを見てください」
パメラが例の書類をジルに渡す。ジルが目を通すとその内容に彼女は眉を顰める。
「・・・本当なのか?これに記載されている事は」
「間違いありません。私も目を疑ったのですが・・・」
オリビエが真剣な表情で答える。
「司令、どうかされたのですか?」
何事かとエマがジルに訊ねると、
「監察官、これを」
ジルが書類を見せる。そこには先程の戦闘の詳細なデータが記載されていた。
「これがなにか?」
「さっきの戦闘で第一中隊と例の所属不明機が撃墜したドラゴンの数だが、第一中隊が撃墜したのはガレオン級1、スクーナー級30。対して所属不明機の方はスクーナー級20」
「それがどうかしたんですか。普通に第一中隊が多くドラゴンを落しているじゃないですか」
「そうだ。しかし、このスクーナー級30というのは第一中隊が全員で撃墜したのを合算した数なんだ」
「全員で・・・って、え!?ちょっと待ってください。確か所属不明機は1機でしたよね。それで撃墜したスクーナー級は20・・・まさか!?」
「そうだ。奴は第一中隊が総がかりで撃墜した3分の2の数のスクーナー級を1人で仕留めた事になるな」
「そんなバカな!?」
エマが驚くのも無理はなかった。通常、1回の戦闘で現れるドラゴンの数は様々な種類を含めて平均で20~30匹。対して、駆逐する為に送り込まれるパラメイルは中隊で7~10機。今回の様にドラゴンが50匹来る事も異常だが、更に異常だったのは所属不明機の撃墜数。ライダーの腕や機体の性能にもよるが、中隊に置けるライダー1人の平均撃墜数は5~6匹。10匹でも大戦果といえるのだ。
「驚くべき点はもう1つある」
「ま、まだあるんですか!?」
ジルはもう1枚の書類をエマに見せる。それはパラメイルが移動や攻撃する際の瞬間速度を表した物だが、
「こ、これって!!」
エマが目を見開く。所属不明機の瞬間速度は第一中隊のパラメイルを大きく上回っていたのだ。機動性に優れたヴィヴィアンのレイザー機でさえも。
「あ、有り得ません・・・こんなことが」
「確かにな。だが、これが現実だ。機体が優れているのか、ライダーが特別優秀なのか」
唖然とするエマを余所にジルは不敵な笑みを浮かべていた。
「第一中隊、所属不明機を伴い帰投しました」
ヒカルが報告するとジルが席を立つ。
「さて、第一中隊がアルゼナルへ着いた様だし、例の所属不明機とそのライダーの顔を拝みに行こうじゃないか」
「あ、司令。待ってください」
ジルとエマはドックへと向かうのだった。
アルゼナルのドックでは第一中隊のパラメイルが続々と帰投していく中、アルテミスも付随する様に停泊する。アルゼナルに入った事を確認した少女はアルテミスを降りる。すると、
「わっ!」
アルゼナルの職員達が銃を構えて、少女とアルテミスを囲んでいた。自分は外部の者だから当然といえば当然なのだが。
「お前達、銃を下ろせ。ここは私に任せてくれないか」
ゾーラが彼女達の前に出てきて、取り成す。ゾーラの言葉に従い、職員達は銃を下ろす。そして、ゾーラは少女の元へ歩み寄る。
「お前が所属不明機のライダーか。早速で悪いが、その無骨なヘルメットを外してもらおうか」
ゾーラに言われ、少女は頷くとヘルメットを外す。彼女の白い髪と顔が晒される。少女の顔を見たゾーラは目を見開き、周囲の者達も思わず息を呑む。
「ほう、これはなかなかの上物じゃないか」
気に入ったらしく、ゾーラは舌をなめずる。
「ねえねえ、サリア。あの子の髪の毛、ちょー真っ白だよ!」
「何なのあの子。白い髪なんて見た事ない」
「あらあら、随分と綺麗な子ねえ」
「おいおい、あいつ本当に人間なのかよ・・・」
「まるで妖精みたい」
遠巻きから見ていた第一中隊の面々も少女の容姿に目を奪われる。
「なあ。あいつ変わってんのは、髪だけじゃないぜ。あいつの目を見てみろよ」
ヒルダの言葉に彼女達が少女の目を見てみると、
「あ、あいつの目の色、左右違ってるぞ!」
「うん。赤と青の2色だ」
「オッドアイってやつね。私も初めて見たわ」
「おろろ?オッドアイとはなんぞ?」
「左右の目の色が違う人の事をいうのよ。ヘテロクロミアとも呼ばれているわ」
余りにも異質な容姿の少女に周囲が騒ぎ始めるが、
「お前達、静かにしろ!見世物じゃないんだぞ!」
ゾーラの鶴の一声に周囲が押し黙る。
(あ、あはは・・・やっぱり私の容姿って変わっているのかな)
少女が周囲の反応に心の中で苦笑していると、不意にゾーラに身体を押さえられる。
「きゃっ!」
少女は離れようとしたが、ゾーラの力は強く振り解く事ができなかった。
「さて、お前にはこれから色々と口を割ってもらうぞ」
そう言うゾーラの手は少女のお尻に伸び、少女の身体は強張る。ゾーラの顔を見てみると、まるで獲物を狙う猛禽類の様な表情をしていた。それを見た少女はある事を思い出す。
(しまった!ゾーラ隊長は確か、レズビアンで隊員にも手を出す人だった!!)
自分も標的にされたと悟り、冷や汗が流れ、身体が震えてくる。
「いいなあ。その怯える小動物の様な表情。ゾクゾクしてくるぞ」
怯える少女を見たゾーラは興奮したのか、更に恍惚な表情をするのだった。
「あ~あ、可哀想に。あいつ、ゾーラの玩具にされるわね」
言葉とは裏腹にヒルダは意地悪そうな笑みを浮かべており、この状況を楽しんでいる様だった。
「また始まったわ・・・隊長の悪い癖が」
サリアは額に手を当てて、呆れていた。こういう事は日常茶飯事なのだろう。
「あ、あの。私、ここの責任者の人と話をしたいんですけど」
少女は慌ててゾーラに懇願するが、
「そう焦るな。司令になら後でちゃんと会わせてやるからさ。だからぁ」
ゾーラは怪しい笑みを浮かべながら、少女に顔を近づけてくる。少女は思わず目を閉じたその時だった。
「そこまでだ!」
凛とした声がドックに響いたと思うとそこにはジルがエマを伴い、現れたのだった。
「まったく新兵だけに飽き足らず、捕虜にまで手を出すのかお前は」
「ゾーラ隊長。公然の場で風紀を乱す様な行為は控えてください!」
ジルは呆れた様に言い、エマはゾーラに注意するのだった。
「なんだよぉ、邪魔しないでくれよ司令に監察官よぉ。折角、いい所だったのに」
「何がいい所だ。兎に角、そいつを離してやれ」
「はいはい。ほらよ」
ジルに命じられゾーラはしぶしぶ、少女を解放するのだった。少女は安堵し、一息つく。
「さて、お前が所属不明機のライダーだな。私はアルゼナルの責任者である司令官のジルだ。隣にいるのは監察官のエマ・ブロンソンだ」
「監察官のエマよ」
2人は少女に自己紹介をする。少女はジルの方に向くと、
「あなたがジル司令ですか。実はある人から貴女にこれを渡す様に言われてます」
少女はタスクから預かった手紙をジルに差し出す。
「手紙だと?誰からだ?」
「それは・・・読んで見れば分かると思います」
少女の言葉にジルはいぶかしみながらも手紙を受け取り、読んでみる。すると1枚目には短く、こう書かれていた。
彼女を信用における人物として貴女に託します ヴィルキスの騎士タスク
これを見たジルは驚いた顔をして、すぐに2枚目にも目を通す。そこには少女の事が記載されていた。
「・・・お前、この手紙の主とはどこで会った?」
「どこって、ある無人島で会いました」
「無人島・・・なるほど、そういう事か」
少女の言葉にジルは得心したかの様に納得する。
「あの、司令?その手紙はいったい・・・」
エマはジルに訊ねようとしたが、
「監察官、こいつは私が直接尋問する。その間、司令部を預かっててもらえないだろうか」
「え、司令自らですか。それなら私も一緒に・・・」
「ダメだ。こいつが何もしないとは言い切れないからな。まだ安全が確認された訳でもないのに監察官殿を危険に晒すわけにはいかん」
「司令がそうおっしゃるなら」
ジルに言われエマはしぶしぶ頷き、ドックを出て行った。
「なあ、司令。そいつの尋問、私に任せてもらえないか。私の部屋に連れてって、色々聞き出してやるからよぉ」
「お前は何を聞き出すつもりだ。言った筈だ、こいつの尋問は私がすると。それから、メイ。こいつが乗ってきたパラメイルを調べておけ。さあ、一緒に来てもらおうか」
「はい、分かりました」
ゾーラの提案を一蹴しメイに命令すると、ジルは少女を連れてドックを出て行った。
「残念だったわね、隊長。折角の新しい玩具、司令に取り上げられちゃって」
ヒルダは茶化すがゾーラは余裕の態度を崩さない。
「まあいいさ。もし、あいつが正式に隊員になってウチに配属されりゃ、やりたい放題さ」
「配属って・・・そんなの分からないじゃない」
「なるさ。あれだけの腕を持った奴を司令が粗雑に扱う筈がないからな。しかし、こうなると私の気が済まないな」
折角、やる気十分だったのに水を差されてしまい、ゾーラは欲求不満気味だ。
「ヒルダ、ロザリー、クリス。今夜、空いてるなら私の部屋に来い。4人で朝まで燃え上がろうじゃないか」
「ちょっと、私達あの子の代わりなわけ?なんか納得いかないんだけど」
ヒルダの言葉にロザリーとクリスも不満げに頷く。
「なんだぁ、嫉妬しているのか。可愛いなぁ、お前達は!」
ゾーラが3人とじゃれあっていると、
「隊長!スキンシップは程々に。新兵のココとミランダからも揉み方が痛いと苦情が来ています」
サリアが窘める様にゾーラに提言する。
「はいはい、気をつけるよ。副長」
ゾーラは全く意を介さず、嫌らしい手つきをしながら答える。それを見たサリアの顔が強張る。それから、ゾーラは3人を連れてドックを出て行った。
「ねえねえ、サリア、サリア。クイズ。あの子、ウチの隊に配属されるのかな?」
「それは司令が決める事よ。今は何とも言えないわ」
「でも、配属されたらまた賑やかになりそうね」
ヴィヴィアンのクイズの様な質問にサリアは冷静に答え、エルシャは楽しみに言うのだった。
その頃、司令部では、
「こちら、アルゼナルです。はい、わかりました。監察官殿、外部より入電です」
「入電?どこから?」
「それが、ミスルギ皇国から“廃棄物”を引き取ってほしいとの事です」
「またなの。昨日もそうだったじゃない。それで、そのノーマのデータは?」
「一緒に送られてきました。これです」
パメラが送致されてくるノーマのデータをエマに見せる。
「えっと、ノーマの名前はアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ。元ミスルギ皇国第1皇女・・・って、なんですって!?」
ノーマのデータを見たエマはその素性に驚愕するのだった。
次回こそ、オリ主の名前が決まります。