アラフォー社畜の俺が命懸けで庇った少女が大人気VTuberだったらしい。以後、激重の恩返しと甘々のお世話が止まらず、人生が180度変わってしまった。   作:花染彩葉@幼馴染ハーレム2巻発売中!

7 / 7
第7話『退院後の生活』

 入院から1ヶ月が経過して、めでたく退院の日が訪れた。

 医者曰く、日常生活に戻っても問題ないとのことだ。抜糸も無事に終わり、すでに歩き回れる程度には痛みも引いている。仕事に復帰するのはもう少しあとになりそうだが、差し当たって自宅に帰れるぐらいには快調とのことだった。

 ただ、俺にはどうしても確認しなくちゃいけないことがある。

 今後のQOLに関わる重大事項だ。

 ――診察室。

 カルテを確認する男性医師に、俺は満を持して切り出した。

 

「先生。最後にひとついいですか」

「どうしました?」

「今後の生活についてなのですが……。僕、サウナと筋トレだけが生き甲斐だったんですけど、退院したら普段通りの生活に戻っても大丈夫ですよね?」

 

 ジム通いとサウナ。この一連のルーティンこそが、社会で摩耗した精神を回復させる唯一の息抜きだった。

 1ヶ月の入院生活で体は鈍り切っている。一刻も早くベンチプレスを上げてロウリュの熱波を浴びたい。

 しかし、先生の反応は冷たかった。

 

「あなた腹に穴が空いてたんですよ? 馬鹿言わんでください」

 

 まさか行くなとでも言うつもりだろうか。

 

「退院なんですよね? なら、リハビリがてら軽く汗を流すぐらいは」

「退院後もしばらくは絶対安静です。傷口は塞がりましたが、中の組織が完全に癒着するには時間がかかります。腹圧のかかる筋トレなんて以ての外。傷が開いて逆戻りしたいんですか?」

「そんな! それじゃあ、俺は今日からなにを生き甲斐にすれば……」

 

 絶望である。

 筋肉は裏切らないと思っていたが、物理的な損傷の前には無力なのか。

 だが……まだだ。まだ俺には救いがある。

 そう、食だ。薄味の病院食から卒業した今、俺の舌は旨味を求めていた。

 

「で、ではラーメンは? こってり系とは言いません、あっさり系のやつでもいいんで」

「駄目です。消化の良い物を食べてください」

「うどんは消化にいいと言いますよね? 同じ麺類ならラーメンも」

「でしたらうどんを食べてください。脂が多い料理、刺激物、塩分の高い食べ物は内臓に負担をかけます。そういった食事はなるべく控えるよう」

「なるべく、ってことは多少なら? もちろんスープは飲みません」

「駄目です。……片桐さん、あなた以前から健診でも引っかかっているでしょう。これを機に生活習慣を見直してください」

「…………」

 

 取りつく島もない。

 ヤブ医者め……。

 

「また来週、経過診療でお待ちしています。くれぐれも安静に。いいですね?」

「……はい」

 

 診察室を出る足取りは岩のように重かった。

 

         *

 

 最後の帰り支度を済ませるべく、長い間お世話になった病室に戻る。

 暦は7月も半ばになり、窓の外には梅雨明けの快晴が広がっている。

 そして――。

 

「おかえりなさい、宗介さん。先生のお話どうでした?」

 

 病室の窓際には、清楚なワンピース姿の深月が控えていた。

 

「……終わったよ」

「えっ、なにか悪い結果でも!?」

「いや、検査結果は良好だ。けど、人生の楽しみをすべて奪われた」

 

 ベッド脇の椅子に腰を下ろす。絶望を体現するように項垂れながら。

 

「退院しても当面は絶対安静なんだとさ。筋トレ禁止、サウナ禁止。食事も質素に、ラーメンすら食うなって。独身男性にはキツいよ」

「ああ……。でもまあ、当然ですよ。あんな大怪我だったんですから」

「こっちは1ヵ月間ずっと病院食だったんだぞ? 退院したらなにを食べようか、それだけを希望に耐えてきたのに……」

「宗介さんって意外と食いしん坊ですよね。いっつも病院のご飯に文句言ってましたし」

 

 口元に手を当てて、深月はクスッと笑みをこぼす。

 入院当初こそ、1週間もしたら飽きて来なくなるだろうと思っていた。だが、その予想は見事に外れた。深月は来る日も来る日も病室に足を運び、甲斐甲斐しく俺の世話を焼いてくれたのだ。

 いつの間にか名前で呼ばれるようになり、俺もまた、いつの間にか敬語を使うのをやめて――今ではこうして気の置けない仲にまで発展している。

 しかし、夢のような時間にもいつか終わりは来る。

 今日で退院、この関係もお終いだ。

 

「まあ、完治するまでの辛抱さ。せいぜいそれを楽しみに、コンビニのサラダチキンとかで耐え忍ぶよ」

 

 諦め半分にため息を吐く。

 すると、深月は名案を思いついたとばかりに眉を上げた。

 

「あの。でしたら、私がご飯作りましょうか?」

「は?」

 

 俺は耳を疑った。

 

「これでも料理は得意なんですよ? 小さい頃から家のご飯作ってましたし」

「スキルの問題じゃなくて。深月は忙しいだろ。活動再開の準備だってあるし」

「まだ休止中ですから時間はありますよ。宗介さん、自炊とかしなさそうですし、放っとくと傷とは別に体を壊しそうです」

 

 自炊のスキルなんてとっくの昔に捨て去った俺にとって、消化に良く、栄養バランスが取れていて、血糖値を上げない食事を毎食用意するなど不可能に近い。

 必然、医者の言いつけを守るなら、コンビニでサラダチキンでも買うか、健康食を謳う飲食店を利用するしかないだろう。

 深月の言は正しい。正しいのだが……。

 

「不健康な生活で倒れられたりしたら、私、一生自分を許せません」

「いや、しかし……」

 

 飯を作ってもらうということは、深月が俺の部屋に来るということだ。ひとり暮らしの中年男性の家に、未婚の若い女が来る。

 いくら気の置けない仲になったとはいえ、そこは線を引かないとマズいのではないか。

 入院中にVTuber業界については軽く調べた。それで知ったことだが、この業界は一部の層を除いて、基本的にアイドル業界と同じぐらいタレントの色恋に厳しい。

 十六夜ナギのブランディングもその例に漏れない。

 

「さすがにやめとくよ」

 

 そう断りを入れると、深月は目力を強くした。強くしたというか、その目が昏く据わった。たまに垣間見える深月の怖いところだ。

 

「すべてを捧げてでも恩返しすると言ったでしょう?」

「その言葉まだ有効だったのか……」

「当然です。まだまだ全然、私の気は収まっていませんから。だから宗助さんは余計なことを考えず、私にお世話されてください」

 

 うーむ。相変わらず押しが強い。こうなると断るのは難しいな。

 まあ、お互い変な気を起こすつもりはないだろうし、単に飯を作ってもらうぐらいならギリギリセーフか。

 逡巡したのち、俺は観念するように苦笑した。

 

「じゃあ、お言葉に甘えてもいいか?」

「はい! 任せてください! そうと決まれば、早速今夜から開始ですね。一緒に帰ってもいいですか? お買い物とかもしたいですし」

 

 気が早い。だが、いきなり深月を家に入れられる状態かと言われれば、答えは間違いなくNOだ。

 

「待ってくれ。丸1ヶ月も家に帰ってないんだ」

「知ってますよ。それがどうかしました?」

「部屋の中が汚れてるだろ。掃除する時間は欲しいかも」

「掃除なら私も手伝いますよ? ふたりでやった方が早いです」

「それはそうなんだが。ちょっとな」

 

 独身男の部屋だ。変な物は置いていないと思うが、生活感丸出しの惨状を見られるのは単純に恥ずかしい。

 俺の微妙な反応を見て、深月は「あっ」と口元を押さえた。

 

「そっ、そうですよね。男性のひとり暮らしですもんね、見られたくないものとか色々ありますよね……。私ったら、ズカズカ上がり込もうとしてごめんなさい。配慮不足でした」

 

 申し訳無さそうに顔を赤くしている。なにを想像したのかは聞かないことにするが、まあ、引いてくれたなら好都合だ。

 

「では、一度解散してまた夕方に合流する流れでどうでしょう? お買い物には私が行ってくるので、住所はメッセージで送っていただければ」

「わかった。それまでに人に見せられるレベルには綺麗にしとくよ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

『死に戻り』しまくって助けたヒロインが、記憶を引き継いでいたので全員病んだ(作者:水葉わいん/わいん。)(オリジナル現代/恋愛)

ヒロイン全員が社長令嬢のギャルゲー。▼俺は、そのゲームの死亡エンドの寸前に転生した。▼だから、何度も死に戻りしながら、ヒロインを助けたら――結果、俺が壊れた。▼俺は、過度なストレスで、死に戻りしていた時の記憶を失った。▼逆にヒロインたちは、死に戻りしている時の記憶を全部引き継いでおり、俺が壊れていく様子をリアルタイムで見ており――▼結果、全員が死ぬほど病んだ…


総合評価:220/評価:-.--/連載:31話/更新日時:2026年03月06日(金) 20:15 小説情報

RPGのストーリー開始前に殺されるモブに転生した俺、死亡フラグを回避してラスボス助けたら女主人公が現れてなぜか修羅場になった。(作者:白波 鷹)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

――死亡フラグのあるモブに転生した。なぜか男主人公の姿で。▼王国に孤児院の子供達を殺された少女ミュライトがラスボスのRPG『プリテスタファンタジー』。▼物語後半でミュライトと主人公は互いに孤児院出身であることが分かり、彼女を倒した主人公がその死を悲しむ絶望的なエンディングからいわゆる「鬱ゲー」と呼ばれているゲームでもある。▼そして、そんなゲームの物語開始前に…


総合評価:744/評価:6.94/連載:46話/更新日時:2026年02月20日(金) 12:26 小説情報

学園で有名な『氷』の美人姉妹を助けたくらいで、俺の平凡な生活は変わらない……と、思っていた。(作者:沙悟寺 綾太郎)(オリジナル現代/恋愛)

 田舎から進学のために、都会へとやってきた少年 真壁 喜一。平凡、普通という言葉を愛する彼は、入学式の帰り道、ひょんなことからナンパされていた姉妹を助ける。しかし、その姉妹は、学園で有名な『氷』の姉妹だった。▼ 


総合評価:692/評価:7.54/連載:30話/更新日時:2026年02月17日(火) 16:08 小説情報

貞操逆転世界ならコミュ症でもクール系病弱美少年でいけるらしい 〜あっ!隠してやってた裏垢のエロ自撮りがバレたぁ!?〜(作者:しゃふ)(オリジナル現代/恋愛)

男女比1:20の世界で、気になっている無口な男の子の裏垢エロ自撮りを見つけちゃって情緒をぶっ壊される女の子たちの話。▼なお主人公くんはクール系を演じてるだけのただのコミュ症承認欲求モンスターである。▼ カクヨムにも投稿してます。


総合評価:1688/評価:8.14/連載:12話/更新日時:2026年02月22日(日) 00:04 小説情報

よくある好感度逆転もの...?(作者:寿司食べたい)(原作:ブルーアーカイブ)

▼先生はあるドリンクを飲んでしまう。それは、好感度を逆転する薬だった。生徒に嫌われ、傷つく中、薬が効かなかった主人公は、いつも通り接してくれる。そんな主人公に依存してしまう。▼そんなある日、あの日飲んだ薬が好感度逆転薬と知ってしまい、主人公の優しさとは...?と勘繰ってしまい、曇りながらも主人公にもっと依存してしまう…。▼そういう二重の曇らせを私は読みたい!…


総合評価:1498/評価:8/連載:6話/更新日時:2026年02月01日(日) 02:04 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>