かわいいホームズの親友ちゃんは、相棒の座を奪われて焦心苦慮 作:くぁwせdrftgyふじこlp
【みくるSide】
「わざわざすみませんね」
理事長の声はいかにも威厳のある落ち着いた響きだった。けれどその奥にはどこか柔らかな優しさが含まれていて、不思議と私の緊張を和らげてくれるような気がした。
どうして私が今、理事長室にいるのかというと――。
さっきまで私は、友達のりえとゆみと並んで廊下を歩いていた。いつも通りの何気ない帰り道、そんなときだった。
「みくるさん」
後ろから呼び止めたのは、生徒会長の金田りえさんだった。
振り返ると、りえさんは真面目な表情でこう言ったのだ。
『理事長がお呼びです。理事長室へ来てください』
その瞬間、心臓がドクンと跳ねた。
(えっ……私、何かやらかした!?)
最近の出来事を頭の中で必死に思い返したけれど、これといった心当たりはない。それでも理事長に呼び出されるなんて、どう考えてもただ事じゃない。
冷や汗をかきながら理事長室へ向かったのだけれど――。
いざ話を聞いてみると、想像していたものとはまったく違っていた。
「聞きましたよ、寮を出て探偵事務所を開いたと。夢に一歩近づきましたね」
理事長は穏やかな笑みを浮かべながら言った。
どうやら、私の夢――名探偵になること――はすでに理事長の耳に入っていたらしい。そして、寮を出てキュアット探偵事務所を開いたことも。
それを評価してくれていることが、素直に嬉しかった。
「はい、おかげさまで!」
思わず胸を張って答える。
すると理事長は小さくうなずき、続けて言った。
「そこでと言ってはなんですが……みくるさんにお願いがあります」
その瞬間、理事長の表情がわずかに引き締まった。先ほどまでの柔らかな雰囲気から少しだけ真剣な顔つきへと変わる。
「え?」
私は思わず首をかしげた。
「事件を解決してほしいんです」
理事長からの言葉に、私は少し驚いた。
理事長が……私に依頼?
探偵事務所を開いたばかりの私にこんな大役が回ってくるなんて思ってもいなかった。でも、せっかくの依頼だ。顔には出さないようにして、私は真剣に耳を傾ける。
そして理事長は、静かに続けた。
「……幽霊騒ぎを」
「……え」
今、理事長は確かにそう言った。
幽霊。
ゆうれい。
……幽霊?
(待って……幽霊って……あの幽霊……?)
頭の中で言葉がぐるぐる回る。
嫌な予感が、ものすごい速さで膨らんでいく。
……………。
「ゆ……ゆ、ゆゆゆうううれええええい!!!?」
理事長室に、私の絶叫が響き渡った。
完全に外まで聞こえてしまったかもしれない。
さっきまで必死に保っていた平静は、きれいさっぱり吹き飛んでいた。
私は――幽霊が大嫌いなのだ。
探偵事務所を立ち上げたからには、これから色々な事件を解決していくつもりだ。どんな依頼だって引き受けるつもりでいる。
……でも。
心霊現象だけは、本当に無理。
私は怖いものが大の苦手だからだ。
それなのに「依頼は全部受けたい」という自分の信念もある。
その結果――
幽霊が大嫌いな探偵志望という他人から見たらよくわからない板挟み状態になっている自分が、なんだか地味に情けなく感じてしまうのだった。
_______________
【あんなSide】
みのるは、いつも通りの顔をしていた。
静かで、冷静で――どこか少しだけ皮肉っぽい目つき。
ついさっきまで自分の胸の内をあんなに語っていた人間とは思えないほど、その表情は整っている。感情の波なんて最初からなかったかのように、平然としていた。
「緊張してる?」
私がそう聞くと、みのるは肩をすくめるようにして答える。
「人探しの依頼でしょ? 大丈夫だよ」
平坦な声だった。
よどみのない返答。迷いも、隙もない。
――でも。
私は、ほんのわずかな違和感を感じていた。
(まただ)
さっきもそうだった。
慣れてるだけ
気にしてない
奪われてない
どれも理屈としては通っている。筋も通っている。だけど――どこか、“正しすぎる”。
私は嘘が嫌いだ。
だからなのかもしれない。相手の嘘にも、自然と敏感になってしまう。
それは、誰かを騙すための嘘だけじゃない。
自分を守るための嘘も。
みのるは、きっとずっと自分に言い聞かせているのだ。
私は平気。
私は大丈夫。
私は嫉妬なんてしても問題ない。
これは私の問題だから。
そうやって、感情を理屈で包んで、外に漏れないようにしている。
でも本当は――。
理屈で整理しきれないほど、傷ついているはずなのに。
(似てる、なんて言ったけど)
ここまで器用じゃない。
私はすぐ顔に出る。すぐに揺れる。泣きそうにもなる。
けれど、みのるは泣かない。
……いや。
泣けないのかもしれない。
「みのる」
ふいに名前を呼ぶ。
「何?」
返ってきた声は、やっぱりいつもの調子だった。
私は少しだけ迷って、それから聞く。
「本当に、無理してない?」
その瞬間、みのるの目がほんの一瞬だけ細められた。
刹那。
ほんの一瞬だけ。
まるで心の奥を覗かれたみたいな、そんな表情。
――けれど、それもすぐに消える。
「してないよ」
迷いのない声。
完璧な返事。
……だからこそ。
(やっぱり)
私は確信した。
みのるはずっと、自分に嘘をついている。
弱くないと言い聞かせる嘘。
寂しくないと言い張る嘘。
平気だと繰り返す嘘。
それは、誰かを傷つけるための嘘じゃない。
むしろ逆だ。
誰も傷つけないための嘘。
だから責められない。
でも――嘘は嘘だ。
「……そっか」
言いたいことはある。
でも、それ以上は踏み込まない。
今は、まだ。
だけど私は心の中で、小さく決めていた。
(いつか、その嘘)
剥がしてあげたい。
無理やりじゃなくて。
みのるが、自分の口で
「苦しい」
「助けて」
そう言えるようになるまで。
嘘が嫌いな私が、許せない嘘。
――みのるが、自分につく嘘だけは。
見上げると、空を覆う雲がゆっくりと流れていた。
その隣で、みのるは静かに微笑んでいる。
やっぱり、完璧な顔で。
……でも、あまり考えすぎもよくない。
今は依頼の最中だ。
私は気持ちを切り替え、学校の受付で受け取った「GUEST」と書かれた吊り下げ名札を首にかけた。
そして、みのると並んで――
高等部の校舎へと足を踏み入れる。
_______________
「同じ敷地に中学と高校があるんだ……」
思わず周囲を見回しながら、私はつぶやいた。
広い校庭、整然と並ぶ校舎、遠くに見える別の建物。どこまでが学校なのか分からなくなるほど、敷地は広かった。
その隣で、みのるが落ち着いた声で説明してくれる。
「ここは中高一貫校だからね。中等部を卒業しても、そのまま同じ学校の高等部に移動するだけで済むんだよ」
「へぇ……」
改めて周囲を見渡す。
確かに、普通の学校よりもずっと広い気がする。しかもこの敷地の中には寮まで併設されている。
(そういえば……)
今まで、みくるはこの学校の寮で暮らしていたんだっけ。
知らない場所ばかりだけど、わからないことはみのるがすぐに教えてくれる。だから不思議と心強かった。
ふと、視線の先に気になるものが映る。
校舎の前に建てられた、二羽の燕の銅像。並んで立つその姿はどこか意味ありげだった。
「気になる?」
私の視線に気づいたのか、みのるが少しだけ口元を緩める。
「気になる!」
私は思わず身を乗り出して答えた。
するとみのるは、分かりやすく説明してくれる。
「この燕の像は学校のシンボルなんだよ。燕は『幸せを運ぶ』縁起の良い象徴として伝えられていてね。家に巣を作ると『繁栄』『商売繁盛』『無病息災』が訪れるっていう伝承があるんだ」
「そうなんだ!」
思わず感心して声が弾む。
みのるは燕の銅像を見上げながら続けた。
「この銅像もね、『生徒と先生が互いに支えあって幸せを呼ぶ』っていう想いが込められてる。だから生徒と先生で、それぞれ一羽ずつ表しているんだ」
「そんな素敵な想いが込められてるなんて……」
思わずその銅像を見つめる。
生徒と先生が、互いに支える――。
(なんだか……)
まるで、私とみくるみたいだ。
キュアアンサーとキュアミスティック。
二人で名探偵プリキュア。
だから、これからもずっと――互いに支え合っていけたらいい。
そんなことを考えていると、みのるがふっと現実に引き戻すように言った。
「学校を案内する……と言いたいところだけど、そろそろ調査を始めないとね」
「あ、そうだね!」
私はぱっと顔を上げる。
「早く真理子さんを安心させてあげないと!」
そう言ったものの、周囲に違和感を覚えた。
……さっきから、やけに静かだ。
ゆっくりと辺りを見回すと――。
大勢の高校生たちの視線が、一斉にこちらに向けられている。
ひそひそと何か話しているのも分かる。声は聞こえないけれど、明らかに私たちが話題の中心になっていた。
「……なんか、浮いてるかも」
思わず小さくつぶやく。
みのるも苦笑いを浮かべた。
「大分……目立つね」
それもそのはずだった。
みのるはマゼンタ色の中等部の制服。周囲の生徒たちは青色の高等部の制服。色がまったく違う。
しかも――
私に至っては、制服ですらない私服姿だ。
これでは目立たない方が無理だろう。
(これじゃ捜査どころじゃない……)
どうするべきか悩んでいると、あることを思いついた。
「あ、そうだ!!こっち来て!」
私はみのるの手を引いた。
「え!?ちょっ……ちょっと!?」
みのるの驚く声も構わず、私は人通りの少ない場所へと向かう。
校舎の裏側。
ここなら人目も少ない。
「よし、ここなら大丈夫!」
私は満足げにうなずいた。
目立つなら――こちらが変装すればいい。
こんなときこそ、探偵道具の出番だ。
「オープン!プリキットグロス!」
アクセサリーの形をした探偵道具を取り出し、本来のサイズに戻す。
小さなケースの蓋を開き、中に入っているものを取り出した。
それを見て、みのるが首をかしげる。
「それってリップグロス?何の効果があるの?」
「見ててね!」
私はチップにグロスをつけ、そっと唇に塗った。
次の瞬間――
身体がふわりと光に包まれる。
光が消えると、私の服装はすっかり変わっていた。
私服だったはずの姿は、まことみらい学園の高等部の制服へと変わっている。
髪型も、プリキュアに変身したときと同じような雰囲気になっていた。
そして――
「……あれ?」
視線の高さが、少し変わった気がする。
どうやら、身長もほんの少しだけ伸びているみたいだった。
「どう?女子高生明智あんなは!」
私はくるりとその場で一回転してみせた。新しく変わった制服のスカートがふわりと揺れる。
すると、すぐ横から元気な声が返ってきた。
「ポチぃ!」
ポチタンは満面の笑顔でこちらを見上げている。どうやら気に入ってくれたみたいだ。
……けれど。
「……グロス塗っただけなのにどうなってるの?? 科学的に見てもありえない現象だし、ジェット先輩は一体どうやってそんな道具を開発しているのか知りたい……」
隣でぶつぶつと早口で呟いている人物がいた。
みのるだ。
目を輝かせながらグロスをじっと観察し、完全に研究モードに入ってしまっている。
「あ…あの……戻ってきて、みのる……」
私は恐る恐る声をかける。
「……あ」
ようやく我に返ったみのるが顔を上げた。
完全にリップグロスの性能に思考を持っていかれていたらしい。
私はくすっと笑ってから、グロスをもう一度手に取る。
「みのるにも塗ってあげるね!」
「え、いや……それ間接キ――待って!!」
みのるが何か言いかけたけれど、私はその前にチップをそっと彼女の唇へ近づけた。
ひと塗り。
その瞬間――
みのるの身体がふわりと光に包まれる。
光が消えたあと、そこに立っていたのは――
高等部の制服を身にまとった、少しだけ大人びたみのるの姿だった。
私と同じ、青い高等部の制服。
さっきまでの中等部のマゼンタ色とはまったく違う、落ち着いた雰囲気だ。
「す、すごい……」
みのるは自分の手や制服をまじまじと見つめている。
「私が変装を……。その道具って、プリキュア以外の人にも使えるんだ……」
「これで私たち、お揃いの高校生だね!」
私は嬉しくなって笑う。
みのるは鏡がなくても気になるのか、前を見たり後ろを見たりと制服の様子を確かめている。その仕草がどこか無邪気で、少しかわいく感じた。
出会ってからまだそこまで長い時間が経っているわけじゃない。
それでも、こうしてみのるの意外な一面を見ることができたのは、なんだか嬉しかった。
すると、みのるがこちらを見て言った。
「あんなの高校生の姿。美少女って感じがしてすごくかわいいよ」
「え……かわいい……?////」
突然そんなことを言われるなんて思っていなかった。
一気に顔が熱くなるのが分かる。
嬉しいけど……やっぱりちょっと恥ずかしい。
「みのるもすごく似合っててかわいいよ!」
私も負けじと褒め返す。
すると、みのるはぱっと明るい表情になった。
「ありがとう!」
その反応があまりにも素直で、思わず笑ってしまいそうになる。
「ポチ!!」
ポチタンも二人の姿を見て、目を輝かせていた。どうやらすっかり見惚れているらしい。
これで見た目で怪しまれることはない。
……まあ、怪しいことをするわけじゃないけれど。
捜査のためだ。多少の変装は必要だろう。
私は気合を入れて拳を握った。
「よし、調査開始!」
「ポ~チ~!」
ポチタンも元気よく声を上げる。
今回の依頼は――
ロンドンにいる妹、恵子さん。
その人が、決まった時間に電話に出なかった。
ただ、それだけのこと。
けれど――
その小さな違和感が、今回の依頼の始まりになっている。
「うーん……」
私は腕を組んで考え込む。
何かがおかしい。
でも、その“何か”がまだ掴めない。
そんなときだった。
「じゃあ最初はさ」
みのるが静かに口を開いた。
私は顔を上げる。
「ロンドンにいる妹の恵子さんが、どうして電話に出なかったのか考えてみようか」
その言葉に、私は一瞬きょとんとする。
「確かに……」
言われてみれば、そこが一番最初の違和感だ。
事件の出発点。
「その原因を考えた方が良いかも……」
私は真理子さんの言葉を思い返す。
「……もしかして」
ふと、そんな言葉が口からこぼれた。
嫌な予感、というよりは――ただの純粋な疑問だった。
「みのるはもうわかるの!?」
思わず叫んで聞いてしまう。
だって、みのるの表情があまりにも落ち着いているからだ。どこか余裕があるような、静かな顔。
その雰囲気が少しだけ――みくるが推理を組み立てているときと似ていた。
するとみのるは、ほんの少し困ったように視線を逸らす。
「い、一応ね」
「えっ!?」
今……一応って言った!?
私はまだスタート地点でぐるぐるしているのに!?
みのるは慌てた様子で言葉を続けた。
「でも、いきなり答えを言ったらあんなが……」
そこまで言いかけて、ふっと口を閉じる。
でも私は、その言葉よりも別のことに驚いていた。
「すごい!」
思わず声が出る。
「もう原因がわかるなんて!!」
心からそう思った。
だって、この情報量で。この短時間で。しかも、みのるはさっきまで私の嫉妬の相談に乗ってくれていたのに。
頭の中では、もうそこまで整理できているなんて。
私の言葉を聞いて、みのるが一瞬固まる。
「え……」
「すごいよ、みのる!」
私は素直に続けた。
「みくると同じレベルじゃない!?いや、もしかしてそれ以上かも……!」
探偵はこの世界にもたくさんいる。
でも、目の前にいるこの子の思考速度は、その人たちと比べてもまったく遜色ない気がした。
……なのに。
みのるは、なぜか少しだけ居心地が悪そうな顔をする。
「……いや、そんな大したことじゃ」
「大したことだよ!」
私は即答した。
だって、本当にすごいのだから。
そして、そのときふと思い出す。
さっき、みのるが言いかけた言葉。
――いきなり答えを言ったらあんなが……
そこで、はっとする。
「……もしかして、私が考えるの待ってくれてる?」
みのるの視線が、ほんの一瞬だけ揺れた。
……図星だ。
私は思わず笑ってしまう。
「ずるいなぁ」
でも、その言葉に嫌な意味はない。
むしろ――すごく嬉しかった。
「ありがとう、みのる」
私はプリキットブックを取り出してぎゅっと握る。
「じゃあヒントをお願い!ちゃんと自分で辿り着くから」
みのるは少しだけ安心したように、小さく頷いた。
そして静かに口を開く。
「ニュースでさ、リポーターが中継で外国の様子を伝えてる場面、見たことあるでしょ?」
私は少し考えてから頷く。
「うん、あるよ!」
朝のテレビの光景が頭に浮かぶ。
「朝のニュースで見たことあるけど、リアルタイムで遠い場所のことを伝えるなんてすごいよね!」
世界のどこかの街並み。
外国の人たち。
全部、その瞬間の映像だ。
未来から来た私でも、あれは素直にすごいと思う。
「じゃあさ」
みのるが静かに続けた。
「その朝のリポーターが中継してた場所の空って、どうなってた?」
「え?」
思わず首を傾げる。
空?
どうして空の話になるんだろう。
でも、言われてみて私はさっき思い出したニュースの映像を頭の中で再生してみる。
朝の番組。
明るいスタジオ。
笑顔のキャスター。
そして――外国の街。
「……あ」
思い出した瞬間、言葉が止まる。
「暗かった!」
思わず声が出た。
「こっちは朝なのに、どうして夜なんだろうって思ってて……!」
確かに変だった。
日本では朝なのに、画面の向こうは真っ暗な夜。
街灯がついていて、人も夜の雰囲気の中を歩いていた。
でもそのときは、ただ「不思議だな」と思っただけだった。
すると、みのるが静かに言う。
「そのこと、もしかしたら学校で習ったことあるかもしれないよ?」
学校
授業
地理
地球
自転――
頭の中で、ばらばらだった言葉が一気に繋がる。
「……あ!」
私は思わず跳び跳ねるくらいの勢いで叫んだ。
「時差だ!!」
地球は丸い。
そして回っている。
場所によって時間が違う。
だから――
日本が朝でも、ロンドンは夜の可能性がある!
みのるが軽く手を叩いた。
「大正解!」
嬉しそうな声。
でもどこか優しい響きだった。
私は思わず笑ってしまう。
「なるほど……!」
プリキットブックに書いた“ロンドン”という文字を見る。
さっきよりも、その意味がはっきり見えてくる。
「次のヒントもお願い、みのる!」
そう言うと、みのるは小さく息を吐いて――少し困ったように笑った。
私はプリキットブックに「時差」と大きく書き込む。
さっきまで霧の中にあった推理が、少しずつ形になっていくのがわかった。
向かいに立つみのるは、相変わらず落ち着いた表情だ。
それから、まるで授業みたいに説明を続ける。
「時差は、経度15度ごとに1時間の差が生じる」
「15度で1時間……」
私はメモを取りながら復唱する。
「本初子午線があるロンドンは、0度」
私はすぐにメモに書き込む。
――0°。
「そして日本は東経135度」
「135……」
そこまで聞いた瞬間、私はハッとした。
「あ、じゃあ」
これは――計算だ。
みのるが軽く首を傾げる。
「日本は何時間の時差になる?」
完全に、先生が問題を出すときの顔だった。
私はプリキットブックの端に計算を書き始める。
「15度で1時間だから……135を15で割ればいいんだよね……?」
指で数字を追いながら考える。
「えっと……」
少しだけ考えて、答えが浮かぶ。
「9時間!」
みのるはすぐに頷いた。
「正解!日本の方がロンドンより9時間時間が早いんだ」
たったそれだけの言葉なのに、なぜかすごく嬉しくなる。
「正確には、今はサマータイムだから8時間だけど」
みのるがさらっと補足する。
「そこまで深く考える必要はないよ。それだけわかれば十分」
「本当にすごいよ!」
思ったことが、そのまま口から飛び出していた。
「わかりやすいし、学校の先生みたい!」
本気でそう思った。
ただ知識を並べるだけじゃない。順番に、丁寧に、考え方ごと教えてくれる。だから自分で答えに辿り着ける。
みのるは一瞬、ぽかんとした顔をした。
それから少しだけ視線を逸らす。
「……先生は言いすぎ」
「そんなことないよ!」
私は即答した。
未来の学校にも優秀な先生はいた。でも、こんなふうに――“考えることが楽しくなる教え方”をする人は、あまりいなかった気がする。
私は改めて思う。
(やっぱりみのるはすごい)
頭の回転も速い。
説明も上手い。
なのに本人はまったく自覚していないみたいだった。むしろどこか遠慮しているようにさえ見える。
「もしみのるが学校の先生だったら、絶対人気出ると思う」
そう言うと、みのるは小さくため息をついた。
「教室は……ちょっと無理かな」
その言葉は、軽い冗談のようにも聞こえた。
でも――どこか本音が混じっている気もした。
私はそれ以上深く聞かず、手に持っていたプリキットブックを閉じる。
「でも!今は私の先生だね」
そう言うと、みのるは少し困ったように笑った。
「……推理が進むなら、なんでもいいよ」
私はもう一度、頭の中で考えを整理する。
日本とロンドンの時差は約9時間。
サマータイムなら8時間。
つまり――
「それなら……朝に真理子さんが連絡しても、恵子さんが電話に出なかったのは、ロンドンは夜で恵子さんが寝てたからだよね」
みのるは静かに頷いた。
「そうなるね」
ここまでは筋が通る。
でも――
私はふと、あることに気づく。
――ここにいる恵子さんは?
背中に、ぞくっとした感覚が走った。
「……じゃあ、ここにいる恵子さんは……誰?」
みのるは腕を組み、小さく息を吐いた。
「そう」
落ち着いた声だった。
「問題がそこなんだ。薄々、誰なのか予想はつくけど、実際に見つけて話を聞かないといけない」
私は一瞬、固まった。
「……え?」
今、さらっとすごいこと言ったよね?
「正体まで誰かわかるの!?」
思わず声が大きくなる。
だって――
私は今やっと“おかしい”ところに気づいたばかりなのに。
みのるは少し困ったような表情。
「確証はないけど、恐らく……ね」
その言い方は控えめだけど。
たぶん、かなり自信がある。
私は改めて思う。
(やっぱりこの人、すごい)
推理のスピードが違いすぎる。
でも――
それを自慢する様子はまったくない。
むしろ、ちゃんと私が考える時間を作ってくれている。
そんなところが、なんだかすごく――
優しい人だと思った。
「でもまずは、恵子さんを探そうか」
みのるのその一言で、私は現実へと引き戻される。
「あ、そうだね!」
推理だけで終わるわけじゃない。
実際に確かめなければ、真実には辿り着けない。
私たちは校舎の廊下を歩き出す。
「でも、本当にもう正体の候補はわかってるんでしょ?」
歩きながら、私はちらりとみのるを横目で見る。
みのるは少しだけ笑った。
「候補じゃないよ」
一瞬、間があって。
「“ほぼ確定”」
「えぇ!?」
思わず足が止まり、声が出てしまう。
そんな私に、みのるは振り返って言った。
「だから」
静かな声。
「最後のピースを取りに行こう」
「……うん!」
その言葉に、胸が少し高鳴る。
推理はほとんど完成している。
残るのは――真実を確かめることだけ。
私は慌てて、先を歩き始めたみのるの後を追った。
すると、そのとき。
前方から、一人の生徒が歩いてくるのが見えた。
私はとっさに声をかける。
「あの!」
「ん?」
その生徒が足を止め、こちらを見る。
私はみのるを追い越して、その子の前に立った。
「この子を探してるんですけど」
真理子さんから借りた写真を見せる。
すると、その生徒はあっさりと言った。
「あ、恵子?私同じクラスだよ」
「えっ!?」
思わず声が出る。
その後ろで、みのるが嬉しそうに呟いた。
「早速、有力な情報を持ってそうな人発見!」
人探しのつもりだったのに、いきなり同じクラスの生徒に出会うなんて。
恵子さんのことをよく知っている可能性が高い。
みのるの推理もあるし、これはかなり順調かもしれない。
――そのときだった。
ポピポピポピポピ………ポピポピポピ……
「なんか鳴ってるよ!」
みのるが驚いたように言う。
「えっ?」
私は慌ててポケットを確認した。
「あ!プリキットボイスメモだ!」
小さな装置から着信音が鳴り響いている。
このボイスメモを持っているのは、私と――みくるだけ。
つまり。
(みくるからの連絡!?)
どうしようかと慌てていると目の前の生徒が首を傾げた。
「携帯?バレたら取り上げられちゃうよ?」
「え、あああ!ち、違うんです!えっと……!」
私は慌てて言葉を探す。
ここは学校の敷地内。
私の通っていた学校でも当然、ゲーム機やスマホの持ち込みは禁止だった。
もし見つかれば、没収。
しかも一週間くらい返してもらえない。
さらに家にも連絡が行く――そんな光景を、私は何度か見たことがある。
そして何より。
(私たち、本当の生徒じゃない……!)
今は変装しているだけ。
この学校の先生に見つかったら、完全にアウトだ。
だから――
今ここで通話するのは、ものすごくマズい状況だった。
「貸して! 私が切っておく!」
背後から、みのるの落ち着いた声が聞こえた。
私は手に持っていたプリキットボイスメモをひょいと取り上げられる。
みのるはそれを受け取ると、私の背後に隠れるような位置にすっと回り込み、素早く通話を切った。
鳴り響いていた着信音が、ぴたりと止まる。
私はほっと胸をなで下ろした。
(助かった……!)
「話の途中ですみません!恵子さんなんですけど……」
何事もなかったかのように、私は再び目の前の生徒に向き直る。
みのるが咄嗟に動いてくれたおかげで、変な騒ぎにはならずに済んだ。
その生徒は少し考えるようにしてから答えた。
「昨日の夜、ロンドンからメール来たよ」
「メールか……昨日!?」
私は思わず聞き返した。
――昨日の夜。
その言葉を聞いた瞬間、頭の中で何かが強く引っかかった。
真理子さんは言っていた。
この辺りで恵子さんを見た、と。
でも今、目の前のクラスメイトは言った。
「昨日の夜、ロンドンからメールが来た」と。
(……それって)
おかしい。
明らかにおかしい。
ロンドンからメールが送られてきたのが昨日の夜。
それなのに、恵子さんは日本にいる?
ありえない。
そのとき、隣でみのるが静かに言った。
「ここにいる恵子さんは確実に偽物だってわかったね」
「……そうだね!」
私は力強く頷いた。
これで確信した。
ここにいる恵子さんは、本物じゃない。
いくら急いでいたとしても、ロンドンから日本までは飛行機でもかなりの時間がかかる。
昨日の夜にロンドンにいた人が、今ここにいるなんて――不可能だ。
つまり。
誰かが恵子さんに化けている。
その可能性が、一番高い。
私はみのると顔を合わせる。
「変装できる人物といえば……」
みのるが言いかけた瞬間、私は叫んだ。
「怪盗団ファントム!!」
ついに辿り着いた答え。
犯人は――怪盗団ファントムの誰か。
恵子さんに変装して、この学校に潜り込んでいる。
でも。
(何を盗もうとしてるんだろう……?)
そこまでは、まだわからない。
すると、目の前の生徒が怪訝そうな顔をした。
「何……ファントムって……?」
「あ、えっと……いや、なんでもないよ……あははは!」
私は慌てて誤魔化す。
「ありがとう!それじゃあ、ごきげんよう~!!」
「……あ、はい……ごきげんよう……」
勢いよく手を振る。
後ろからみのるの声が飛んできた。
「ちょっと待ってあんな~!!」
みのるは一瞬だけ固まってから、小さく会釈をして追いかけてきた。
私はみくるの元へ向かって全力で走り出す。
_______________
【みくるSide】
「……どうして?」
私は手に持ったプリキットボイスメモを見つめた。
理事長から依頼を受けたことを、すぐにあんなへ連絡しようと思ったのに――通話は途中で切られてしまった。
画面は静まり返り、さっきまで鳴っていた通信の気配もない。
「とりあえず、1人で調査しよう!」
私は小さく拳を握った。
あんなをずっと待って、依頼人である理事長を待たせるわけにはいかない。
時には素早い判断も大切。
そう自分に言い聞かせて、私はあんな抜きで調査を進めることを決めた。
「警備員さん、幽霊を見たって理事長から聞きました。詳しく聞かせてください!」
校庭を見回りしていた警備員の男性に駆け寄り、私は声をかける。
「ああ……」
私はプリキットブックを取り出し、探偵である証を見せる。
理事長の話によると、実際に幽霊を見たと言ったのはこの警備員さんらしい。
事情を説明すると、警備員さんはゆっくりと話し始めた。
「高等部の中庭でね……怪しい人影を見たんで行ってみると……」
警備員さんの話はこうだった。
ある日の夜。
いつもの日課である学校の見回りをしていたときのこと。
燕の銅像の近くで、生徒のような人影を見つけたらしい。
もし生徒ではなく侵入者だったら大変だと思い、近づいてみると――
「フッ……って消えたんだ……」
「うう……うぅぅ……!」
なんて……なんて怖い話なの!
これ以上は聞きたくない……!
いや、でも……聞かないと……!
「それも見たのは一度や二度じゃない!」
「ううぅぅ……!」
私は思わず耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込んでいた。
「…………話聞かせてって言ったのに聞いてないじゃない」
警備員さんが呆れた声で言う。
だって怖いんだから仕方ないんだもん!
「幽霊いや!! お化けきらい!!」
思わず叫んでしまった。
この依頼……本当に解決できるのかな。
諦めるつもりはないけど、ちょっと時間がかかっちゃうかも……。
_______________
「結局、何もわからなかった……」
警備員さんの話を聞いても、幽霊の正体まではわからなかった。
周囲の生徒にも声をかけてみたけれど、手がかりらしいものは見つからない。
「なんか……嫌な天気……」
私は空を見上げた。
空の雲行きはどんどん怪しくなっている。
これはもう、雨が降る直前の雲だ。
早く依頼を解決しないとびしょ濡れで帰ることになっちゃう。
ぼんやりと空を見上げていた、そのときだった。
―――ガサガサ……
「ん……?」
物音がして振り返る。
背後にあった茂みが、ガサガサと音を立てながら激しく揺れていた。
「ひいぃぃぃ!!? だ、誰かいるの!?」
私は慌てて鞄を盾のように抱え、後ろへ下がる。
まさか……。
理事長が言っていた幽霊が出たんじゃ……。
いやいや、まだ明るいし。
幽霊なんて出るはずない。
そう思おうとしても、茂みの揺れはさらに激しくなる。
「な……なんなの……」
幽霊じゃなくて……もっと危険な不審者だったりして!?
そう考えると、胸の不安がどんどん大きくなっていく。
そして――
それは突然、姿を現した。
「いやああああああああああ!!!」
「「うわああああああああああ!!!」」
私は目をぎゅっと閉じて、うずくまった。
見ちゃダメだ!
見たら呪われる……!
勝手にそう思い込んで、必死に目を閉じていると――
「みくる! 私たちだよ!」
「……?」
聞こえてきたのは、おぞましい声ではなく。
聞き慣れた、かわいらしい声だった。
恐る恐る顔を上げて振り向く。
そこにいたのは――
「あんな! みのる!」
「……驚かせちゃったかな?」
少し困ったように笑うあんなと、
息を切らせて立っているみのる。
茂みから現れたのは、幽霊でも不審者でもなく――
私の仲間たちだった。
_______________
【みのるSide】
「1人で依頼を引き受けた!? 何で相談してくれないの?」
みくるの声が、少し強く響いた。
あんなが真理子さんの依頼を引き受けたことを話した瞬間、みくるは驚いたように声を上げる。
でも、その驚きは喜びとは違う。
どこか――怒っているような雰囲気だった。
「みくる学校だし……なんか、悪いかなって……」
あんなは少し視線を逸らしながら答える。
その言い方はどこか不機嫌で、まるで拗ねている子供みたいだった。
私は二人の様子を横で見ながら、静かに口を開く。
「それよりみくる、怪盗団……」
さっき掴んだ重要な情報を伝えようとした。
けれど――
「わかってるでしょ!」
みくるが私の言葉を遮った。
強い声だった。
「私には学校も探偵も、どっちも大切だって! 1人で調査してうまくいかなかったら?」
その視線は、まっすぐあんなへ向けられている。
「依頼人に迷惑がかかるでしょ!!」
その言葉は正しい。
正しすぎるくらいに。
でも――
私は、あんなの指先がぎゅっと握られるのを見逃さなかった。
さっきまで推理をしていたときの、自信に満ちた顔じゃない。
小さく、震えている。
「……」
あんなの唇がわずかに動く。
泣きそうだ。
私は思わず一歩前に出ようとした。
でも、その前に。
あんなが顔を上げる。
「みのるに手伝ってもらったんだから良いでしょ!」
その声は、遠くまで響くほど大きかった。
みくるが一瞬、言葉を失う。
それでも、あんなは止まらない。
「みのるは既に答えを見つけたんだから!!」
「え?」
あんなの顔には、怒りと悔しさが入り混じっている。
みくるは驚きと戸惑いの表情。
周囲の空気がぴんと張り詰めて、息苦しいほどの緊張が広がった。
みくるは私から視線を外さない。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「みのるは……答えがわかってた?」
その声に責める響きはなかった。
ただ、確かめるような声だった。
私は答えようと口を開く。
でも、その前に――
「そうだよ!」
あんなが勢いよく前に出た。
「みのるはすごく頭が良くて、私が答えにたどり着くまでに教えてくれながら、ちゃんと待ってくれる気づかいもできる!!」
真っ直ぐな声だった。
嘘をつけないあんならしい、迷いのない言葉。
「だから迷惑なんてかけないよ!」
その言葉が、空気を強く震わせた。
みくるは静かに私を見る。
その視線を受け、私は思わず目を逸らしてしまった。
(……気まずい)
あんなはまだ言葉を続ける。
「それにみくるだって!! 1人で依頼引き受けたでしょ!?」
「え?」
みくるが固まる。
みくるの話では、理事長から幽霊騒ぎの依頼を頼まれたらしい。
詳しいことはまだ聞いていないけれど、様子を見る限り――
どうやら、調査はまだ進展していないみたいだった。
「……ボイスメモで連絡したけど出ないから……」
「調査中だったから!」
みくるの言葉にすぐにあんなが言い返す。
会話がぴたりと止まった。
二人の言葉の隙間に、重たい沈黙が落ちる。
(……あー)
私は心の中で小さくため息をついた。
このまま黙っているのはさすがに良くない。
誤解が大きくなる前に、言うべきことは言わないと。
「ごめん」
二人が同時にこちらを見る。
「そのボイスメモの通話を切ったのは私なの」
一瞬、空気が止まった。
「……え?」
みくるの目が丸くなる。
私は少しだけ視線を下げながら続けた。
「推理の途中で、あんなの集中を切らしたくなかったから。あと……見つかったら没収されるって理由もあったけど」
言葉を選びながら続ける。
「あんなが頑張ってるところだったから」
「え……」
みくるは何も言わず、ただ私を見ている。
確かに、生徒の忠告の影響も大きかった。
でも実際に通話を切ったのは――私だ。
「だから、その……みくるもあんなも悪いわけじゃない。全部、私の判断」
そう言い切り、
「学校で通話がバレて没収でもされたら、それこそ調査が失敗して真理子さんが悲しむよ!」
あんなが強い口調で言った。
普段よりずっとはっきりした声。
横で様子を見ていたポチタンは、一触即発の空気にオドオドしている。
みくるは少し眉をひそめた。
「……真理子さんって?」
その疑問に、あんなはすぐ答えた。
「依頼人。妹の恵子さんを探してて」
私は小さく頷きながら、話を続けようとする。
「とにかく言い争いは後にして! その恵子さんが――」
言いかけたときだった。
みくるの視線が、私たちの後ろへ向いた。
……いや、正確には。
私たちの“後ろ”。
さっきまで話を聞いていたはずのみくるの表情が、突然変わる。
驚きと、焦りが混ざった顔。
「……みくる?」
あんなが不思議そうに呼ぶ。
でも、みくるは答えない。
数秒だけ、外をじっと見つめていた。
そして――
「ごめん、行かないと!」
突然そう言うと、みくるは勢いよく走り出した。
「え!? ちょ、みくる!!」
あんなが慌てて叫ぶ。
けれど、みくるは振り返らない。
そのまま校舎の外へ飛び出していった。
残されたのは、静まり返った渡り廊下。
あんなが呆然と立っている。
「……話の途中なのに……」
ぽつりと呟いた。
「恵子さんが怪盗団ファントムだってことを早く伝えないといけないのに……」
今が、依頼の情報を共有できるチャンスだったのに。
こういうときに限って、タイミングが合わない。
とにかく、みくるの後を追うべきか――
そう思った、その瞬間。
「ポ、ポチいぃぃぃ!!」
「ポチタン!?」
ポチタンが突然大きな声を上げた。
「まずい……怪盗団ファントムが動いたみたい!」
その言葉に、空気が一気に緊張する。
つまり――
マコトジュエルに危機が迫っているということだ。
私はあんなを見る。
あんなも、同じことを考えていた。
私たちは顔を見合わせ、強く頷いた。