かわいいホームズの親友ちゃんは、相棒の座を奪われて焦心苦慮   作:くぁwせdrftgyふじこlp

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転校生は明智あんな!?

【みくるSide】

 

四月の朝日が校舎の窓を金色に染め上げる頃、まことみらい学園の敷地には淡いピンクの絨毯が広がっていた。

 

桜の花びらが、ふわりふわりと春風に運ばれながら石畳の上に舞い落ちていく。

 

風は優しく、どこか甘い香りを含んでいた。

 

出会いの季節がまた来た。

 

二年一組の教室には、朝のざわめきが満ちている。

 

「はい!ということで、今日からこのクラスで一緒に過ごすことになりました」

 

担任の先生が教卓の横で手を広げると、教室がすうっと静まり返る。

 

先生の隣に立つ女の子は、背筋をまっすぐに伸ばし、黒板を前にしていた。

 

わずかに指先を握りしめているのが遠くからでもわかった。

 

緊張している。

それでも、顔を上げた瞬間、その声は教室の隅々まではっきりと届いた。

 

「明智あんなです、よろしくお願いします!」

 

――ついに。

ついにこの日が来たのだ。

 

あんなが、私たちのクラスに来る。

 

それだけのことが、なぜこんなにも特別に感じられるのだろう。

 

今日が、その記念すべき一日目。

 

教室のあちこちから声が上がった。

 

「わからないことがあれば何でも聞いてね!」

 

りえの明るい声が先陣を切る。すると間髪入れず、後ろの席の男子が続いた。

 

「ただし、俺には勉強以外で!」

 

どっと笑い声が広がる。

教室全体が揺れるみたいに。

 

あんなの肩からふっと力が抜けていくのが見えた。

 

さっきまで強張っていた表情に少しずつ、確かに笑みが滲んでくる。

 

「それじゃ挨拶も済んだところで、明智さんの席だけど……小林さんの隣ね」

 

小林さん。

それは、私のことだ。

 

なんという偶然だろう。

 

いや、偶然と呼んでいいものか。

 

奇跡とか、縁とか、そういう言葉の方がしっくりくる気がして、私は少しだけ照れながらそっと手を振った。

 

「はい!!」

 

あんなの返事は、元気で、真っ直ぐで、嬉しそうで。

 

その笑顔が私の方を向いた瞬間、春の日差しがまた一段と明るくなったような気がした。

 

ただ、ひとつだけ心に引っかかることがある。

 

みのるは、隣のクラスだ。

 

同じ教室で三人一緒に、というわけにはいかなかったのが少し残念だ。

 

しかも最近、なぜか朝の清掃当番を引き受けているらしく、毎朝私たちよりずっと早く登校している。

 

朝清掃は本来三年生の役割のはずなのに、どういう経緯でそうなったのだろう。

 

聞いてみようかとも思うけれど、まあいいか、と気持ちは流れていった。

 

今日はあんなの最初の一日なのだから。

それだけで、十分すぎるくらい特別な朝だった。

 

 

_______________

 

 

 

【あんなSide】

 

もともと私は、2027年の学校に通っている。

 

それが1999年の――しかも別の学校に転校してくることになるなんて、数週間前の私には想像すらできなかった。

 

転校自体、生まれて一度も経験したことがない。

教卓の横に立ちながら、指先がじんわりと冷たくなるのを感じていた。

 

でも、自己紹介を終えた瞬間に教室を包んだ笑い声と拍手は、緊張していた私の肩をそっとほぐしてくれた。

 

クラスの雰囲気は、想像していたよりずっと温かかった。

 

本来の時代にも大切な友達がいる。

でもこの時代の学園では、今のところ知っている顔はみくるとみのるだけだ。

 

だからこそ、ここでもたくさんの友達ができたらいいな――そんな気持ちが胸の奥にじわじわと広がっていた。

 

席に着き、最初の授業の準備をしていると。

 

「ねえねえ!」

 

早速声をかけられた。

 

顔を上げると、鮮やかな赤い髪の女の子が前のめりになってこちらを見ていた。

 

以前傘を届けに行ったとき、みくると楽しそうに話していたあの子だ。

 

「明智さんってどこから来たの?」

 

一瞬、言葉が止まった。

 

どこから、か。

正直に言えば「2027年の未来から来たよ」になるのだけれど、それを口にした瞬間どうなるかは考えるまでもない。

 

教室が騒然となって、収拾がつかなくなる。

 

「えっと……理事長が入れてくれて……」

 

なんとか遠回しに説明しようとした、その矢先。

 

「部活とかやってた?」

 

「携帯持ってる?メル友になろう!」

 

いつの間にか周りに人が集まってきていた。

次々と声が飛んでくる。

 

「め、メル友……?」

 

メル友。

その言葉が頭の中を素通りしていく。

 

知らない。

私の時代では聞いたことのない単語だ。

 

そういえばこの前、怪盗団ファントムのアゲセーヌがギャル語で話していた時も、半分以上意味がわからなかった。

 

1999年という時代に慣れるには、もう少し時間がかかりそうだ。

 

携帯、と言われても当然持っていない。

 

代わりに持っているのはプリキットボイスメモだけれど――これはプリキュアとしての探偵道具だから、見せてもきっと何のことかわからないだろうし、そもそも見せるべきではない。

 

「「「「「私も!!」」」」」

 

「わあぁぁぁぁぁ!?」

 

気づけばさらに大勢の生徒に取り囲まれていた。

 

転校生が初日に体験するあの「一斉に話しかけられる構図」が、まさに今完成していた。

 

メル友って何て答えればいい?

 

「知らない」って言った方がいい?

でもみんな知ってるみたいだし、変に思われないかな?

 

いや、でも……そもそもメル友って――

 

「あんな!ゆっくり答えていこ!」

 

肩に温かい手が乗った。

 

みくるだった。

混乱でぐるぐるしていた頭が、その一言でふっと落ち着く。

 

本当に、救世主みたいなタイミングだった。

 

「ごめんね、この時期に転校してくるのって珍しいからつい!」

 

「あんなって呼んでもいい?」

 

「うん! もちろん!」

 

そう返すと、赤髪の子とポニーテールの子が嬉しそうに顔を見合わせた。

 

このポニーテールの子もあの時、みくると話していた子だ。

 

以前、みくると話しているのを遠くから見たとき、心のどこかで少しだけ複雑な気持ちになっていたのは確かだ。

 

でも、こうして面と向かって話してみると、二人ともとても良い子だということがすぐにわかって、胸のどこかがほぐれていった。

 

「オカルトとか信じる?7の月の噂とか?」

 

今度は近くに立っていた男子が突然そんなことを聞いてきた。

 

7の月。

7月のことだろうか?

 

それとも、何か別の意味があるのだろうか。

私は少し首を傾けながら、その言葉を頭の中で転がした。

 

「7の月……?」

 

「最近話題になっているんだよ!『一九九九年七の月、地球に大魔王がやって来る』って話!」

 

「ま、あくまで噂だけどね!」

 

「へえ~」

 

相槌を打ちながら、私は心の中でそっと呟いた。

 

ノストラダムスの大予言……だっけ。

確か、そういう名前の話だったと思う。

 

当時の人たちの間でこの予言が大きな話題になっていたと聞いたことがあった。

 

でも実際に体験するのは初めてで、なんだか不思議な感じがする。

 

夢を壊すようで申し訳ないけれど、その予言は外れる。

間違いなく。

 

だって2027年の私がここに存在しているのだから。

それ以上の証拠はないはずだ。

もちろん、口には出せないけれど。

 

「そういえばふたりって、同じ家に住んでるんだよね! どんな関係なの?」

 

今度はみくるとの関係についての質問だった。

 

私たちが同じ事務所にいることは、なぜかもうクラス中に知れ渡っているらしい。

きっとみくるが話したのだろう。

 

私とみくるは顔を見合わせた。

 

待ってました!と言わんばかりに。

 

「「ふふん!」」

 

声まで揃った。

 

「何を隠そう……」

 

「私たち実は……」

 

互いにすっと背中を合わせて、同時にプリキットブックを手に取る。

 

そして生徒たちに向かって、堂々と掲げた。

 

「「探偵やってるの!!」」

 

決まった。

我ながら完璧なタイミングだった。

 

「こちらをどうぞ」

 

おまけに名刺まで取り出して、探偵という証拠をこれでもかと見せつける。

 

宣伝は大事、販促は基本だ。

流れ作業で手際よく、全員に名刺を配り終えた。

 

「「「「「ええぇぇぇぇぇ!!?」」」」」

 

教室が一気にざわめいた。

 

「探偵!?」

 

「すごいじゃんみくる!なんで言ってくれなかったの!?」

 

みくるの友達でさえ知らなかったらしく、驚きの声が飛び交う。

 

そんな生徒たちをよそに、私たちは構わず続けた。

 

「どんな事件もはなまる解決!」

 

「キュアット探偵事務所になんでもお任せ!」

 

そして本当のことを言ったら、みんなはもっと腰を抜かすはずだ。

 

なぜなら私たちは探偵であるだけでなく、悪の組織……怪盗団ファントムと戦う――

 

「そしてそして、さらになんと私たちは……名探偵プリキュ」

 

「わあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」

 

みくるの絶叫が、私の言葉を完全に掻き消した。

 

「プリキュアだってことは秘密だよ!」

 

「そうだった!」

 

小声で言われて初めてひやりとした。

危なかった。

 

名探偵プリキュアという存在は、あまり知られてはいけないのだった。

 

なぜダメなのかは正直まだよくわかっていないけれど、とにかく口に出してはいけない。

肝に銘じておかなければ。

 

そのとき。

 

「ポチポ~チ!ポチ~!」

 

聞き慣れた、でも今聞かれたらとても困る声が、教室中に響き渡ってしまう。

 

(げっ!?)

 

「何の音?」

 

「携帯?」

 

周りが一斉にキョロキョロしている。

 

私は恐る恐る視線を落とした。

 

机の横にかけている鞄が、まるで意思を持っているかのように激しく揺れていた。

 

「ポチポチ!」

 

「「わああ!!?」」

 

私とみくるの声が揃った。

 

中にいるのはポチタンだ。

万が一のことがあったときのためにと思って連れてきたけれど、よりにもよってこのタイミングで動き出すなんて。

 

妖精の存在がクラス中に知れたら、それこそ大混乱では済まない。

 

「け……携帯だ……ま、間違えて持ってきちゃった……あはは」

 

「き……気をつけないとダメだよ~あんな……あ……あはは……」

 

我ながら、あまりにも下手な演技だった。

みくるも大概だったけれど、今は同じ穴の狢なので何も言えない。

 

私は鞄を抱えてさっと後ろを向き、携帯の電源を切るふりをしながらそっとフラップを開けた。

 

「ポチ!」

 

ぴょこっと、小さな顔が顔を出した。

 

「やっぱり……シーっ、だよ」

 

口の前に指を立てて見せると、ポチタンはかわいらしい目でこちらを見てから、少し声を抑えて同じ仕草を真似した。

 

「ポ~チ」

 

どうやらわかってもらえたらしい。

 

私は小さくため息をついた。

 

今日だけで、一体何回ひやりとすれば気が済むのだろう。1999年の学校生活は、どうやら想像以上にバタバタした日々になりそうだった。

 

 

_______________

 

 

 

【みのるSide】

 

「はぁ……」

 

溜め息が、静かに空気へ溶けた。

 

教室という空間がどうも好きになれない。

 

四方を壁に囲まれたこの箱の中にいると、じわじわと何かが削られていくような感覚がある。

 

気を紛らわそうと、鞄から文庫本を取り出した。

こういうときは活字に逃げるに限る。

 

朝清掃の罰を理事長から言い渡されてから、学校のある日は毎朝指定された場所を黙って掃除している。

 

一緒に担当する生徒が他にもいるため、一人きりというわけではないが、その生徒たちには一定の期間が過ぎれば交代という終わりがある。

 

私にはそれがない。

終わりの条件は理事長の気分次第だ。

 

有期刑と無期懲役のような……。

 

そんな言葉が頭に浮かんで、自分でも少し笑えた。

 

「隣のクラスに転校生が来たらしいよー」

 

「どんな子?見てみたい!」

 

ざわめきの中からそんな声が聞こえてきた。

 

話題は今日入校してきた転校生のことらしい。

 

それについては私は既に知っている。

 

明智あんな。

それが転校生の正体だ。

 

違う時代から来たというイレギュラーを抱えている分、手続きは相当に複雑な経路を辿るはずだった。

 

ところがあんなの場合、住民票を役場に登録してもらっただけで、あとは理事長がどうにかしてしまったらしい。

 

あまりにもご都合が良すぎる展開だったが、おかげで異例の速さで入校が決まった。

 

表向きは、ただの転校生として。

 

理事長がどれほどの権力を持っているのかは知らない。

 

ただ、その理事長に対して舐めた態度を取り続けていた私も、人のことは言えないかと思う。

 

転校という言葉が頭をよぎると、みくるのことが浮かんだ。

 

みくるも、元を辿れば転校生だった。

 

詳しいことはまだ聞いていないけれどもともと別の地域の学校に通っていたらしく、まことみらい学園に最初からいたわけではない。

 

ただ小学生の頃は、私がみくるの住んでいた地域の児童養護施設で暮らしていた関係で、同じ小学校に通っていた。

 

少し特殊な縁だと思う。

 

まさかみくるがこちらに来るとは、当時は思いもしなかったけれど。

 

ページをめくりながら、次の時間割を頭の隅で確認する。

 

数学。

もう理解している内容を、また最初からなぞるのか、という気持ちが湧いてくる。

 

かといって、それを口に出せば余計なことを言う人間だと思われる。

 

そうなったら終わりだ。

大人しく、普通の人間らしくしておくのが一番いい。

 

読書に集中しよう。

 

それにしても、暇だ。

やっぱり教室は落ち着かない。

 

そんなことを漠然と考えていたとき、廊下の方から声が聞こえてきた。

 

「え?あれがみくるの親友?」

 

「うん、みのるって言うんだ! ごく頭が良い子なんだよ!」

 

「ちょっとクールっぽいけど、こどもっぽさもあってかわいい顔してるじゃん!」

 

「クールというわけじゃないけど、たまに暴走したりするよ」

 

……好き勝手言われている。

 

目立たないようにひっそりしていたつもりが逆に目立っている。

悪い噂でも広まってしまったのだろうか。

 

声のした方へ視線を向けると、

 

(なんか四人いる……)

 

あんなとみくる。

その後ろに、赤髪の子とポニーテールの子。

 

二人はみくると特に仲が良い人物。

その二人がわざわざ隣のクラスまで足を運んで私に何の用があるというのだろう。

 

本から目を上げて、私は静かに四人を見つめた。

 

考える間もなかった。

 

四人はためらいもなく、ずかずかと教室に入ってくる。

 

周囲の生徒たちの視線が一斉にこちらへ向く。

 

やめてくれ、と思っても声に出せるはずもなく、気づいたときには完全に囲まれていた。

 

まるで私が転校生みたいに。

 

「えっと……どういうこと?」

 

じわりと何か嫌な感覚が蘇りかけた。

 

大勢に囲まれるこの構図は、あまり思い出したくない。

 

みくるとのすれ違いが続いていた頃だったら、間違いなく逃げていた。

今はかろうじて踏みとどまっている。

 

「ごめんね。私が事務所にもう一人いるってみのるのことを言ったら、見てみたいって言って」

 

「それでふたりを連れてきたの」

 

「は、はぁ」

 

私はみくるやあんなと同じ事務所にいることにはなっているけれど、名探偵プリキュアでもなんでもないただの一般人だ。

 

わざわざ見に来るような要素が自分のどこにあるのかさっぱりわからない。

 

「あ、紹介するね。私の友達の依田ゆみ、浅間りえ」

 

「ゆみだよ、よろしく!ゆみって呼んでいいからね!」

 

「私はりえ!私のこともりえで良いよ!」

 

「あ……はい」

 

まるで友達になりたそうな勢いだ。

 

私に向かって。

まさかそんな……。

 

「これで私たち友達だね!」

 

「だね!」

 

「?????」

 

待って。

 

展開が早い。

早すぎる。

 

友達ってこんなに一瞬でできるものなのか。

 

だとしたら、今まで私が費やしてきた時間と労力と消耗は一体何だったのだろう。

 

クラスによってここまで当たり外れがあるものなのか。

それとも、これが普通で私が知らなかっただけなのか。

 

「ということだから、りえとゆみのこともよろしくね、みのる!」

 

「良かったねみのる!もっとお友達が増えて!」

 

「展開が早くて追いつけないんだけど、急に??」

 

見ず知らずの相手にここまで積極的に関わってくる人間に、これまで会ったことがない。

 

みくるもこうやって友達を増やしていったのだろうか。

それとも向こうから来たのか。

 

どちらにせよ、私には真似できないことだ。

 

「え?だってみのるってみくるの親友でしょ?みくるの親友だから、私たちもみくるの親友と仲良くしたくて!」

 

「………とりあえず、よ……よろしく」

 

ゆみという子の圧に引くに引けなくなって、気づけばそう口にしていた。

 

新学期に入ってから内容が濃すぎる。

 

あんなの嫉妬、盗まれたマコトジュエル、みくるとのすれ違い、そして今度は唐突の友達追加イベントだ。

 

いや、あんなが来てからというもの、いろいろと立て続けに起きすぎている。

 

「同じクラスじゃないのが残念ね……」

 

「私とみくるは隣同士なのに……」

 

あんなとみくるが、揃って少し沈んだ表情を見せた。

 

「そこまで気にしないでいいから……」

 

席の配置は先生が決めることだ。

 

私たちにできるのは、指示された場所に座ること。

それだけのことだ。

 

ただ、ぼんやりと考えることはある。

もし私もみくるたちと同じクラスだったら、どうなっていたのだろう。

 

三年生になったら同じクラスになれる可能性もある。

 

その頃にはきっと、今よりずっと騒がしくなっているかもしれないけれど。

 

……それはそれで、悪くないかもしれない、と。

 

「ねえ、みのるも探偵事務所にいるってことは探偵なの!?」

 

りえが突然そう聞いてきた。

 

何度でも言うけれど、私は探偵ではない。

強いて言えば、という感じで口を開く。

 

「あ、えーと……助手かな?」

 

とりあえず助手と言っておけば大体のことはなんとかなる……はずだ。

 

「おお!ワトソン君タイプと来たか!楽しそうだね!」

 

「じゃあ、あんなが事件を解決するときの決め台詞とかあるの?」

 

このふたりの勢いは本当に止まらない。

 

決め台詞……プリキュアに変身したときの台詞のことだろうか。

 

「あるよ」

 

「あるんだ!まずあんなの決め台詞を教えてよ!」

 

「い、良いけど…」

 

直接隣にいる本人に聞けばいいのでは、というツッコミは飲み込んでおく。

 

あんな、つまりキュアアンサーの台詞。

確か――

 

「どんな謎でもはなまる解決!名探偵、キュアア……」

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」

 

「「「……?」」」

 

キュアアンサーと言いかけた瞬間、あんなが絶叫した。

私とゆみとりえの視線が一斉にあんなへ向く。

 

「い、いや……なんでもない」

 

あんなは顔を真っ赤にして、そっぽを向いてしまった。

 

「それじゃあみくるの決め台詞は?」

 

みくる、つまりキュアミスティックの決め台詞。

確か――

 

「重ねた推理で笑顔にジャンプ!名探偵、キュアミ……」

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」

 

「「「……??」」」

 

今度はみくるが絶叫した。

またしても三人の視線がみくるへ集まる。

 

「な、なんでもない」

 

みくるも顔を赤らめて、あんなと同じ方向にそっぽを向く。

 

そしてふたりの強い視線が、無言のまま私に突き刺さってきた。

 

言うな、と全身で訴えている。

 

(あ……確かに、ごめん)

 

プリキュアであることを周囲に知られてはいけないのだった。

 

……前にも同じことを思ったかもしれないけど、怪盗団ファントムに既に知られている時点で秘密としての意味がどこまであるのかは、少し疑問だけれど……。

今は深く考えないでおく。

 

「なんか企業秘密みたいだから言えないって」

 

「「ちょっと!!」」

 

ふたりの声が綺麗に揃った。

 

私も同じ事務所にいる以上、自然と口に制限がかかってしまう。

 

名探偵プリキュア。

ありえない力で化け物をぶっ飛ばす女の子たちのことが世間に知れたら、確かに誰だって腰を抜かすだろう。

 

「ええ~、教えてくれても良いじゃん!」

 

りえがあざとい表情でみくるに顔を近づけた、そのときだった。

 

――ピ~ンポ~ンパ~ンポ~ン。

 

「鳴っちゃった……」

 

授業開始の予鈴が、廊下に響いた。

絶妙なタイミングで会話が断ち切られて、なんとも言えない空気だけが残る。

 

「またあとで話そうね!」

 

「「はぁ……」」

 

あんなとみくるの安堵の溜め息が、ほぼ同時に漏れた。

 

転校してきて早々、疲れさせてしまったのは申し訳ないと思う。

……多少。

 

「じゃあまたね! みのる!」

 

「またあとでね~!」

 

四人が教室を出ていく。

私は軽く手を振っておいた。

 

ドアが閉まると、教室の中に静寂が戻ってきた。

まるで嵐が通り過ぎた後みたいだ。

 

(今の、本当に何だったんだろう……)

 

隣のクラスからわざわざ私のところへ来る人間なんて、今まで絶対にいなかった。

 

みくるですらあまり来たことがない。

 

それが今年度に入ってからいろいろと変化が起きている。

 

あんなが来て、友達が増えて、秘密の台詞を言いかけて絶叫されて。

 

私も、少しずつ変わり始めているということなのだろうか。

 

答えは出ないまま、私は文庫本を開き直す。

でもさっきよりも少しだけ、教室が広く感じた。

 

 

_______________

 

 

 

【るるかSide】

 

未来自由の書を静かに眺めるウソノワール。

 

指先のネイルを確かめるように見つめるアゲセーヌ。

 

そして、完全に自信を失って人が変わったように沈み込んでいるニジー。

 

細かい部分を除けば、今日の劇場もいつも通りだった。

 

「フム……違う時代から来たプリキュアか……」

 

ニジーの報告を受けてから、ウソノワールは違う時代のプリキュア――キュアアンサーのことを頭から離さないでいる様子だった。

 

ウソノワールがここまで一般人に関心を寄せるのは、花崎みのるに次いでこれが二人目。

 

どんな関係があるのかは、まだわからない。

 

自身の駒として使える素質を見込んでいるのか、それとも自分にとっての脅威になり得る存在を警戒しているのか。

 

その輪郭は、私にはまだ掴めなかった。

 

「ウソノワール様」

 

静寂を破ったのは、ゴウエモンの声。

 

舞台の上から自信に満ちた顔でウソノワールを見上げ、胸を張る。

 

「未来自由の書が示した今回のマコトジュエルの在処。そこへ向かうのは、このゴウエモンにお任せを!」

 

そしてゴウエモンの視線が、私の方へ滑ってきた。

 

「新人、お前たちにも来てもらう」

 

「はぁぁ!?なんでアタシたちが?」

 

即座に声を上げたのはマシュタンだった。

出撃の命令を受けてもいないのに勝手に同行させようとするゴウエモンが気に食わないのだろう。

 

でも、私は違った。

 

「うん、わかった」

 

「え!?……るるかが言うなら……」

 

さっきまで反論していたマシュタンがあっさりと矛を収める。

 

お供妖精だから当然と思われるかもしれないけれど、心を通わせることには意味がある。

私にとっても、それは大切にしたいことのひとつだ。

 

それに、未来から来たプリキュアのことは私自身も気になっていた。

 

キュアアンサー。

違う時代を越えてここに現れたというその存在。

 

直接確かめられるなら、それはむしろ丁度良い機会かもしれない。

 

「必ずや、マコトジュエルを手に入れてみせましょう! ライライサー!」

 

「ライライサー」

 

ゴウエモンの掛け声に、ウソノワールが静かに返す。

いつものやり取りが終わったのを確認して、私はそっと腰を上げた。

 

 

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【あんなSide】

 

「それにしてもこの学校、すっごく広いよね……」

 

最初の授業が終わり、私はみくるに校内を軽く案内してもらっていた。

 

みくるに傘を届けようとしたあの日から薄々感じていたけれど、改めて歩いてみるとその規模に圧倒される。

 

中等部に高等部、広場に校庭、体育館、それに寮まで。

 

普通の学校とは比べものにならない広さで、ただ歩き回るだけで一日が終わりそうだった。

 

「次は理科室だっけ?移動のたびに迷っちゃいそう……」

 

しかも次の授業は教室移動がある。

のんびり探検している時間はない。

 

でもどこに何があるか把握しておかないと、最悪この学校の中で遭難することになる。

転校初日にそれだけは絶対に避けたかった。

 

「えへへ、そう言うと思って!じゃーん!」

 

みくるが嬉しそうに、どこからか二枚の紙を取り出して広げて見せた。

 

そこに描かれていたのは――

 

「これって!学校の地図だ!」

 

「私も転校してきたとき迷っちゃったから、みのるに作ってもらったの!」

 

「さすがみのる!」

 

中等部の地図だった。

 

階層ごとに丁寧に分けられて、方角まで書き込まれている。

教室の名前もひとつひとつ几帳面に記されていて、みのるらしい丁寧さと気遣いが伝わってきた。

 

ただ、一か所だけ気になるところがあった。

 

「ん……?これって?」

 

地図の右下の隅に、大きく何かのイラストが描かれている。輪郭は丸くて、小さな耳のようなものがついていて……もしかして。

 

「私が描いたの!もちろんポチタン!」

 

「ポチー!?」

 

やっぱりみくるが描いたものだった。

 

言われてよく見ると、確かにポチタンに似ていなくもない。

でも初見では正直、何を描いたのかまったくわからなかった。

 

うん、個性があって良いのではないかな。

ポチタン本人はショックを受けているみたいだったけど。

 

「へえぇぇぇ~、似てるね」

 

「ポチ!!?」

 

とりあえずそう言っておくことにした。

 

 

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「えーっと……ここを渡って右に曲がると理科室……ん?」

 

地図を頼りにしながら渡り廊下へ出た瞬間、ふわりと何かが目の前を横切った。

 

桜の花びらだった。

その落ちてきた方へ視線を向けると――

 

「わああぁぁ……!おっきな桜!」

 

一際存在感を放つ、大きくて立派な桜の木が、そこに立っていた。

 

満開のピンクがそよ風にゆっくりと揺れて、花びらが渡り廊下の上をふわふわと漂っていく。

 

眺めているだけで、胸の中が柔らかくなるような気がした。

 

「学校が創立した時からあるんだって!」

 

「へぇぇ、すごいねぇ!」

 

まことみらい学園はかなり歴史のある学校らしい。

だとすれば、この桜もずっとここに立ち続けて、何十年分もの生徒たちを見守ってきたことになる。

 

いつまでも眺めていたい、そんな気持ちになった。

 

でも残念ながら、そんな時間は――

 

「って!?授業始まっちゃうよ!」

 

「そうだった!?」

 

このままでは遅刻する。

私とみくるは全速力で校舎へ向かって走り出した。

 

廊下を走るのはいけないとは思う。

でも今だけは、どうか許してほしい。

 

桜の花びらが、私たちの背中を追いかけるように舞っていた。

 

 

_______________

 

 

 

【るるかSide】

 

プリキュアのふたりが何かに慌てて、足音を立てながら校舎の方へ駆けていく。

その様子を、私は桜の木の幹にもたれながら静かに眺めていた。

 

花びらがひとひら、ゆっくりと落ちた。

 

「ほう、プリキュアがいるとは。さっさとマコトジュエルを手に入れて……」

 

「待って」

 

桜の木をハンニンダーにしようと動きかけたゴウエモンを、私は短く制した。

 

まだ早い。

それに、確認しておきたいことがあった。

 

「どうした、新人?」

 

「違う時代から来たプリキュア、気にならない?」

 

そう言いながら、マシュタンが割ったダブルソーダアイスの小さい方を受け取る。

 

冷たい甘さが指先に伝わってきた。

 

それと、あの妖精のことも。

 

ウソノワールが「時空の妖精」と口にしていた。

未来から来たプリキュアがここにいる理由は、おそらくあの妖精と無関係ではないはずだ。

 

「この前ニジーが負けたときといい、あの妖精には何か秘密がありそうね」

 

マシュタンの言葉に、ゴウエモンが腕を組んで黙り込む。

 

名探偵プリキュアのふたりが新たに見せた技、「プリキュア!フライング・スペクトル」も、あの妖精の力を借りていた。

 

「フム……ならば考えがある。プリキュアがピンチになったとき、あの妖精がどんな反応を見せるか……」

 

何かを思いついた顔で、ゴウエモンが高く跳び上がった。

桜の木の真上から、学校全体を見下ろす。

 

「確かめてやるぜ!オレのとびっきりの技でな!」

 

力を溜めた扇子を、思いきり地面へ投げつける。

 

直後、そこから結界のようなものが波紋のように広がり、学校全体をじわりと包んでいった。

 

ハンニンダーを呼んだわけではない。

ゴウエモンにこんな技があったことは、少し意外だった。

 

「さて、そろそろ行くか」

 

ゴウエモンに続いて私も桜の木から降り、移動を始めた。

 

 

_______________

 

 

 

【みのるSide】

 

「あれ……?変だな……」

 

休み時間になり、暇潰しに廊下を歩き回ってから教室の扉を開けたら、外に出ていた。

 

後ろを振り返ってもそこには普通に窓があるだけだ。

 

夢でも見ているのかと思いながら、桜の木がある方向へ視線を向ける。

 

(……!あの二人……)

 

桜の木の近くを移動しているふたりの姿が目に入った。

 

片目を覆うドミノマスクに下駄、そして見上げるような巨体。

間違いなくゴウエモンだ。

 

もう一人は前にニジーと一緒にいたあの少女で、小さな妖精らしき生き物も連れている。

 

「ああ!!私のこと拉致しようとした人!!」

 

うっかり声が出た。

慌てて口を押さえたが、遅かった。

 

ゴウエモンと少女の視線が、一斉にこちらへ向く。

 

「……!お前もこの学校に通っていたのか。ただ拉致とはあまり響きが良くないな……ウソノワール様の部下にしようと思っただけなんだが」

 

「どっちも一緒でしょ!!」

 

それを拉致と言うんだよ。

 

よりにもよってこんなタイミングでゴウエモンが現れるなんて。

一応警戒の姿勢を取ったが、ゴウエモンは私を捕まえようとする素振りを見せなかった。

 

「だが、ニジーのこともあるからな。勝手な行動をすればウソノワール様に怒られちまう」

 

ゴウエモンでもニジーの件で学んだということか。

おかげで強引に連れ去られる最悪の展開は回避できた。

 

「ニジーは……無事なの?」

 

あれだけ怯えていたニジーのことがふと頭に浮かんだ。

 

どうなったかはわからないけれど、聞かずにはいられなかった。

 

「ん?ニジーは無事だ」

 

「そう……」

 

胸の中で小さく息をつく。

 

粛清されていないとわかっただけで十分だ。

 

私が教えた情報が漏れてしまった可能性はある。

でも、あの程度なら大丈夫だと思いたい。

 

「お前……ニジーの心配をしているのか?敵同士だぞ?」

 

「つらそうにしてるニジーが放っておけなかった。それだけのことだよ」

 

ゴウエモンが不思議そうにするのはわかる。

 

敵同士なのは間違いない。

違うのは、私がプリキュアのような力を持たないただの一般人だというだけのことだ。

 

それなのにニジーのことが心配になったという矛盾は、自分でも理屈では説明できない。

放っておけなかったから、としか言いようがなかった。

 

「お前面白いやつだな!気に入った!特別に今回は、お前を特等席へ招待してやろう!」

 

「はい?」

 

また訳のわからない展開になってきた。

 

特等席って何だろう。

ライブにでも行くような話だけど、私は一応学校があるし。

 

「そういえばお前……」

 

「な、何?」

 

ゴウエモンが何かを感じ取ったように、私の顔をじっと見つめた。

 

それからゆっくりと口を開く。

今度は何を言い出すのか。

 

「昔……オレと一緒にいなかったか?」

 

「………」

 

ものすごい既視感があった。

 

前も全く同じ台詞を聞いた気がする。

 

そう、あれは晴れた日の虹ケ浜で、ニジーと顔を合わせたあのとき――

 

目と目が逢う瞬間…

 

「好きだと気づいた?」

 

「好意ではない、そのままの意味だ」

 

そのままの意味、と言われても一緒にいたという記憶が自分にはまったくないのだから答えようがない。

 

それにしても、ニジーとほぼ同じ台詞を別の人間から言われるのは、正直かなり怖い。

 

「ニジーも同じこと言ってたんだけど!?どういうこと? 私ってそんなに怪盗団ファントムに好かれやすい顔してるの??」

 

「いや……なんとなくお前の顔を見ていると違和感を感じるんだ。会うのはまだ二回目のはずなんだがな……」

 

これもニジーのときと同じだ。

 

本当に会ったことがないはずなのに、なぜニジーもゴウエモンも揃って同じことを言うのか。

 

何か共通した理由があるはずだけれど、今の私にはその糸口すら見えない。

 

「まあ、考えても仕方がないか……」

 

「それで、また懲りずにマコトジュエルを奪いに来たの?」

 

それよりも問題はそちらだ。

 

ニジーがあれだけの全力を出して負けたのだから、やったところで同じだと気づいてもよさそうなものだけれど。

 

「まあな。だが、その前にプリキュア二人の頑張りを特等席から見せてやる。ついてこい!」

 

「はぁ……」

 

また面倒なことに巻き込まれてしまった。

 

これはもう私の運命みたいなものなのかもしれない。

 

普通に学校に来て、普通に本を読んで、それだけのつもりなのに、なぜか毎回こうなる。

 

あんなとみくると完全に別行動していてこれなのだから、もう潔く認めるしかないのかもしれない。

 

というか、さっきからずっと隣で黙って立っている、妖精を連れたあの少女は一体誰?




※プロローグにて追加の描写を加筆しました。
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