かわいいホームズの親友ちゃんは、相棒の座を奪われて焦心苦慮   作:くぁwせdrftgyふじこlp

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プリティホリックでプリティスマイル!

【みのるSide】

 

「ハンニン……ダー!!」

 

変身が完了した刹那、轟音とともに閃光が走った。

 

ハンニンダーが放ったビームが、アンサーとミスティックへと容赦なく降り注ぐ。

 

二人は咄嗟に飛び退いた。

紙一重だった。

 

ビームが着弾した地面は大きく抉れ、土煙が舞い上がる。

 

あの一撃をまともに喰らっていたら——想像するだけで背筋が凍った。

 

「はあああああぁぁっ!!!」

 

ミスティックが裂帛の気合とともにハンニンダーへと踏み込む。

 

しかし、ハンニンダーの照準はすでにミスティックの動きを捉えていた。

 

機械的に、冷酷に、狙いを定める。

 

「ハンニン……ダー!!」

 

「っ!?……うっ!!」

 

ビームがミスティックを直撃した。

 

両腕でガードしていなければ、それだけで決着がついていたかもしれない。

 

それでも、衝撃の全てを殺しきることはできなかった。

 

ミスティックの表情が、苦痛に歪む。

 

「ミスティック!!」

 

アンサーの声が張り裂けそうだった。

 

仲間の苦しむ姿を横目に、アンサーはすぐさまハンニンダーの死角へと回り込もうとする。

 

だが——

 

「ハン、ニン……ダー!!」

 

「わっ!?」

 

背後からも、照準は外れていなかった。

 

ハンニンダーは前も後ろも関係ない。

アンサーの動きを見切ったように、寸分の狂いもなくビームを撃ち込む。

 

速すぎた。

避ける間など、どこにもない。

 

「アンサー!!ミスティック!!」

 

隣でジェット先輩の声が上がる。

その声に滲む焦りが、私の心をさらに締め付けた。

 

——厄介だ。

 

遠距離から一方的に攻撃し、近づく隙を与えない。

 

攻撃の速度は速く、防御すら追いつかない。

 

どこへ逃げても、どこから攻めても、照準はついてくる。

 

「前後左右、どこから近づいてもロックオンされる。キミたちに勝ち目はないよ」

 

ニジーの声は、戦場に似つかわしくないほど静かで、それがかえって不気味だった。

 

「ハンニンダー!!!」

 

直後、ハンニンダーの周囲に複数の照準が展開した。

一つ、二つ、三つ——数えることすら追いつかない。

 

一斉射撃。

 

「「!!」」

 

閃光が溢れる。

私は思わず目を細めた。

 

ビームの雨が二人に降り注ぐ。

アンサーもミスティックも、避けることに必死だ。

 

しかし、それは終わらない。

 

何度も、何度も、波状攻撃が繰り返される。

まるで、消耗させることを楽しんでいるかのように。

 

エネルギー切れという概念が、こいつには存在しないのだろうか。

 

ミスティックの髪がビームに触れ、数本が宙を舞った。

アンサーの顔面のギリギリをビームが掠める。

 

どちらも、あと数センチずれていれば——。

 

発射間隔は短く、大きく動くことすら許されない。

二人はじりじりと、追い詰められていった。

 

「たかが古いゴーグル一つに大袈裟だな」

 

ニジーの言葉が、静かに空気を切り裂く。

 

「世の中には物が溢れてる。代わりのゴーグルを買えば良いだろ?」

 

「くっ……!!」

 

隣でジェット先輩の表情が歪むのが見えた。

静かで、深い怒りだ。

 

——たかが古いゴーグル。

 

ニジーは何も知らないんだ。

 

ジェット先輩があのゴーグルをどんな想いで持ち続けているのか。

どれだけの時間と記憶が、あの小さなレンズの中に詰まっているのか。

 

知らないから、そんな言葉が平気で吐けるんだ。

 

「代わりなんてない!!」

 

アンサーの声が、戦場に響き渡る。

 

「「……!」」

 

その言葉に、全員の動きが止まった気がした。

 

「それはただのゴーグルじゃない!ジェット先輩にとって、世界に一つしかない大切なものだよ!!」

 

「みんなの笑顔を生み出す、宝物なんだから!!」

 

ミスティックの声が真っすぐに、言葉を紡ぐ。

 

「アンサー………ミスティック………」

 

ジェット先輩が、二人の名前を静かに呟いた。

 

その声には、もう怒りだけではない何かが混じっていた。

 

私は思う……どんなに高級な物でも、どんなに簡単に手に入る物でも、想いが込められたものだけは、世界中のどこを探しても二つと見つからない。

 

なぜなら、あのゴーグルにはジェット先輩自身の想いと——シニアンのジェット先輩への想いが、どちらも刻み込まれているからだ。

 

それは、値段では測れない。

代わりでは埋められない。

 

世界に、たった一つだけのものだから。

 

「笑顔を生み出す宝物……フッ、ますます返せないね!」

 

二人の言葉すら、ニジーは薄ら笑いの一言で切り捨てた。

 

私は唇を噛んだ。

想いを込めた言葉が、まるで空気のように受け流される。

 

ニジーという存在には、そもそも「想い」というものが届かないのだろうか。

それとも、届かないふりをしているだけなのか。

 

沈黙が落ちる。

 

そよ風が私たちの服の裾を、静かに揺らしていく。

 

張り詰めた空気の中で、私はアンサーの視線がどこへ向かっているのかに気がついた。

 

ハンニンダーの背中で、大きく靡くマント。

その動きを、アンサーはじっと追っていた。

 

——何かを、考えている。

 

「そうだ!!ミスティック!」

 

アンサーが声を上げた。

弾けるような確信に満ちた声。

 

すぐさまミスティックへと近寄り、口元に手を添えて、こそこそと耳打ちを始める。

 

この状況で、即興で作戦を組み立てられるのがアンサーの強みだ。

 

私はその様子を、固唾を呑んで見守った。

 

「ゴニョゴニョ………どうかな?」

 

「うん!」

 

ミスティックの頷きは力強かった。

 

二人の目が合い、言葉はなくとも確かな意思が通じ合っている。

 

「いっくよおおおおおぉぉぉ!!!」

 

次の瞬間、アンサーが地面を思い切り蹴った。

 

爆発的な踏み込みとともに、その身体が空へと舞い上がる。

 

恐ろしいほどの脚力だった。

 

みるみるうちに上昇していき、遥か上空へ——見上げなければ見えないほどの高さまで飛んでいく。

 

(アンサー……それだと、ハンニンダーからは格好の的だよ!)

 

私の心が悲鳴を上げた。

 

上空では地上のように自由には動けない。

つまり逃げ場がない。

 

ハンニンダーの照準がゆっくりと、しかし確実にアンサーへと向けられていく。

 

「ハンニン……ダー!ダー!ダー!!」

 

三連撃。

立て続けに放たれたビームが、上空のアンサーに向かって一直線に迫る。

 

直撃する、と思った。

そう思い込んでいた。

 

しかし。

 

「よっ……ふっ……ほっ!」

 

(……避けてる)

 

息が止まった。

 

自由が利かないはずの上空で、アンサーは三発全てを躱していた。

 

体を捻り、角度を変え、重力に逆らいながら一発も喰らわなかった。

それはもはや、以前のアンサーとは別次元の動きだ。

 

名探偵プリキュアとして戦い続けた日々が、確かにアンサーを成長させている。

 

「ハン!!」

 

ただ、接近しすぎた。

 

ハンニンダーの両腕がアンサーを捉え、がっしりと掴み上げる。

 

拘束された。

今度こそ逃げ場はない。

 

「ハンニン………」

 

真正面から、照準が合わせられる。

 

絶体絶命——そのはずだった。

 

なのに、アンサーの表情は全く変わっていない。

 

焦りも、恐怖も、動揺の欠片すらない。

それどころか、その口元には笑みすら浮かんでいた。

 

「ジ、エンド」

 

「……そっちがね!」

 

ニジーはまだ、作戦に気づいていない。

 

ハンニンダーの真横を、影が通過した。

 

ミスティックだった。

切り込むような速度でハンニンダーの死角を抜け、その背後へと回り込む。

 

そして——マントを両手でしっかりと掴み、思い切りたくし上げた。

 

「やあああああ!!!」

 

ミスティックはマントを持ったまま、ハンニンダーの真上を舞う。

正面まで回ったところで、手を放す。

 

マントがハンニンダーに覆い被さった。

完全に、視界が遮られる。

 

「ハンニンダダダ!?……ハンニン……!?」

 

ハンニンダーはパニックに。

照準を失い、アンサーを放し、マントを剥がそうともがくハンニンダーはただの無防備な的になっていた。

 

——これがアンサーの作戦だ。

あのマントを利用してハンニンダーの視界を封じる。

 

そして、その隙は充分だった。

 

「アンサーアタック!!やああぁぁ!!」

 

解放されたアンサーの一撃が、容赦なくハンニンダーへと叩き込まれる。

 

「ニン!!?」

 

直撃。

ハンニンダーの巨体が、大きく吹き飛んだ。

 

私は思わず息を吐いた。

胸の奥で、何かが緩んでいく感覚があった。

 

不利な状況からの、大逆転。

 

プリキュアの戦いはいつだって、こちらの心臓を絞り上げてくる。

 

ハラハラして、怖くて、目を逸らしたくなる瞬間がある。

 

それでも——きっと大丈夫だという、根拠のない確信が、私の中にはいつもあった。

 

「まさか……!そんな方法が……!」

 

ニジーが言葉を失っていた。

あれほど余裕を崩さなかったニジーが、呆気にとられている。

 

「今だ!!」

 

「ぶちかませ~!!」

 

ジェット先輩と私の声が重なった。

 

「「うん!!」」

 

アンサーとミスティックが応える。

 

その声に迷いはなかった。

二人はほぼ同時にプリキットミラールーペを取り出す。

 

ハンニンダーの終わりが、すぐそこまで来ていた。

 

「「オープン!プリキットミラールーペ!」」

 

探偵道具として謎を解き明かしてきたプリキットが、今度は全く別の輝きを放ち始める。

 

浄化の力として、その真価を発揮しようとしていた。

 

「「ポチタン!」」

 

「ポチ~!」

 

ポチタンが弾むような声で応え、二人にマコトジュエルを渡す。

 

アンサーとミスティックがそれぞれミラールーペに装着する動作は、まるで呼吸を合わせているかのように美しく揃っていた。

 

「見て!」

 

「感じて!」

 

「「謎を解く!」」

 

「「これが、私たちの答え(アンサー)だ!!」」

 

白き翼は、名探偵へと舞い降りる。

 

「「プリキュア!フライング・スペクトル!!」」

 

純白の鳥が、閃光の中を一直線に駆け抜けた。

ハンニンダーの胴体を、鮮やかに貫く。

 

「「キュアット解決!」」

 

光の柱がハンニンダーを包み込んむ。

眩しくて、目を細める。

 

それでも、私は目を逸らさなかった。

 

「ハン……ニン……ダー……」

 

微かな声が、光の中に溶けていった。

 

マコトジュエルがプリキュアの手へと渡り、ポチタンが吸収。

これで浄化は完了した。

 

「華麗にやられてしまった……」

 

ニジーは無駄にカッコつけたポーズを一つ決めて、煙幕とともに姿を消した。

 

最後まで、あの調子だったと同時に、草むらに何かが落ちる小さな音がした。

 

ゴーグルだった。

 

盗まれていたゴーグルが、草の上にそっと横たわっている。

 

 

_______________

 

 

 

「お前たち……本当に……」

 

言葉が続かないのはジェット先輩らしかった。

 

素直に感謝を口にすることが、きっとこの人には難しい。

 

それでも、言葉を探そうとしている姿だけで、全てが伝わってきた。

 

「お礼なんて……ね!」

 

「うん!私たち、仲間でしょ!」

 

あんなとみくるが、さらりと笑い飛ばす。

押しつけがましくなく、でも確かな温かさを持って。

 

その言葉を受けて、ジェット先輩の表情が柔らかくほどけた。

 

「気持ちはちゃんと二人に伝わってるよ」

 

私も口を開いていた。

自然と言葉が出ていた。

 

みんな、少しずつ変わってきた。

 

頑固で、なかなか心を開かなかったジェット先輩も。

 

嫉妬や黒い感情に囚われていた、かつての私も。

 

この二人がいたからここまで来られた。

 

名探偵プリキュアはきっと、これからも多くの人の笑顔を守り続ける。

 

道のりはまだ長い。

でも、それが現実になる日は必ず来ると思えた。

 

「フラワーショップ花森です!!遅れてすみません!!車が急に動かなくなってしまって!!」

 

道路の方から声がした。

慌てて車を降りてくる人物——本物の花森さんだ。

 

「ニジーの仕業だな……」

 

ジェット先輩が静かに呟く。

 

フラワーショップの場所まで特定して、車に細工まで仕掛けていたとは。

あんな飄々とした性格のくせに、意外と抜かりがない。

 

それでいて、周囲の反応が読めずに凡ミスをかましてしまうという、妙に人間らしい一面もある。

 

——いや、ニジーは妖精だった。

 

「全然大丈夫でーす!」

 

「お花、運ぶの手伝います!」

 

ニジーに散々引っ掻き回されていたにも関わらず、あんなとみくるは花森さんへ屈託のない笑顔を向けた。

 

嫌な顔一つしない。

文句一つ言わない。

本当に、どこまでも優しさの塊みたいな二人だ。

 

私たちは荷物運びと掃除の作業を再開した。

 

日常が、穏やかに戻ってくる。

準備は着実に、前へ進んでいった。

 

 

_______________

 

 

 

[Pretty Holic]

 

真新しい看板が、キュアット探偵事務所の看板の上と二階の壁に並んで輝いていた。

 

店内に足を踏み入れた瞬間、別世界に迷い込んだような感覚があった。

 

プリキットをモチーフにしたコスメ商品が棚一面を彩り、色とりどりのパッケージが目に飛び込んでくる。

 

かわいらしいのにどこか大人の落ち着きも漂っていて、探偵事務所だった頃の面影を残しながら全く違う空間へと生まれ変わっていた。

 

「プリティアップフレグランスだ。手や体につけてみな」

 

ジェット先輩が数ある商品の中からさらりと一本を取り出して差し出した。

 

香水だった。

 

私たちは蓋を外し、おそるおそる手の甲に噴射してみる。

 

「「うわぁぁぁぁ~いいにおい~」」

 

「爽やか~」

 

あんなとみくると声が重なった。

 

香水特有の重たくて強烈な香りがほとんどしない。

控えめなのに、言葉では言い表せない品のある香りが、ふわりと広がる。

 

香水が苦手な人でも、これなら好きになれるかもしれない。

 

「だろ!」

 

得意げなジェット先輩を見て、私は改めて驚いた。

 

探偵の知識だけじゃない。

 

化粧品の知識まで持っているなんて。

この人は、一体どこまで引き出しがあるのだろう。

 

しかもジェット先輩は、探偵事務所の業務再開と同時に、すでに役所から店舗営業の許可まで取り付けていたらしい。

 

いつの間に。

どのタイミングで。

 

驚きが追いつかなかった。

 

「お店、ここかな?」

 

「プリティホリック?」

 

窓の外から、聞き覚えのある声がした。

あんなが窓を開けて顔を出す。

 

「夢中になれるかわいいものがいっぱい!って意味だよ!」

 

「りえ!ゆみ!いらっしゃい!」

 

「ゆっくりしていってね」

 

りえとゆみが、記念すべきお客様第一号と第二号になった。

 

そしてそれを皮切りに、店内はみるみるうちに人で溢れていった。

 

あれほど短期間で開店したはずなのに、どこからともなく人が集まってくる。

異常とも呼べる賑わいっぷりだった。

 

「………」

 

カウンターの向こうで、ジェット先輩がぼんやりとその光景を眺めていた。

 

呆然としているようにも、感慨に浸っているようにも見える。

少しだけ、意地悪がしたくなった。

 

「お金、いっぱい稼げるね!」

 

「な!?それはもういいだろ!!」

 

赤くなったジェット先輩の顔を見て、小さく笑う。

狙い通りだった。

 

店内ではあんなとみくるがりえたちと楽しそうに話している。

 

笑い声が響く。

商品を手に取って盛り上がっている。

 

「みんな笑顔だな……」

 

その光景を眺めながら、私はふと口を開いていた。

 

「良い発明品は、みんなも自分もプリティスマイル!……なんちゃって」

 

言ってから、少し照れた。

 

柄にもないことを言ってしまったかもしれない。

 

不安になって横を向くと——ジェット先輩が目を見開いていた。

 

やっぱりまずかっただろうか。

 

でも、ジェット先輩はふっと笑った。

小さく、静かに。

 

そして再び、店内の様子へと視線を戻した。

 

「ふっ……そうだな」

 

その横顔は、どこか遠いところを見ているようだった。

 

懐かしそうで、でも心の底から嬉しそうで。

私はなんとなく、その表情の意味がわかった気がした。

 

このゴーグルに込められた想いと、今この瞬間の光景が、ジェット先輩の中で重なっているのかもしれない。

 

「みのる~!」

 

みくるが手を振って私を呼んでいる。

みんなの輪に入りたい気持ちと、ジェット先輩の店番を手伝いたい気持ちが、ちょうど半分ずつだった。

 

どうしよう、と迷っていたら、

 

「行ってきなよ」

 

「え?」

 

「店番はボク一人で大丈夫だ。せっかくできた友達なんだろ?この時間を、大切にした方が良いぞ」

 

考えていたことを、全部見透かされていた。

 

じわりと、目の奥が熱くなる。

みくる以外に味方なんていなかった頃の自分を思い出した。

 

それがいつの間にか、こんなにも多くの仲間や友達に囲まれている。

この時間は、無駄にしちゃいけない。

 

「……ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

短い言葉を交わして、私はみくるたちの輪へと向かった。

 

背中越しに、賑やかな声と笑い声が聞こえてくる。

振り返らなくても分かる。

 

ジェット先輩はきっと、カウンターの向こうで静かに目を細めながら、この景色を見ているはずだ。

 

事務所は今日も、人々の笑顔で溢れていた。

 

 

_______________

 

 

 

【るるかSide】

 

「ありがとうございました」

 

白衣を着た少年に代金を渡して、私は店を出た。

 

キュアット探偵事務所があそこまで進化していたとは思っていなかった。

 

コスメショップを併設するなんて、発想がどこか突拍子もないのに、出来上がったものは本物だった。

 

少し驚いている自分がいた。

 

探偵事務所の姿が建物の陰に隠れて見えなくなったタイミングで、私は変装を解く。

 

「……かわいい」

 

思わず声が漏れた。

 

手元に視線を落として、改めてそのクオリティを確かめる。

 

想像していたよりずっと良い。

見惚れた、という言葉が正直なところだった。

 

「悪くないわね。なかなか良いセンスじゃない」

 

マシュタンまで認めた。

それだけで、この買い物の価値は十分だったかもしれない。

 

「呑気に買い物なんかして、少しは緊張感を持った方が良いんじゃない?」

 

「っ!?」

 

心臓が跳ねた。

聞くたびに身構えてしまう声が、目の前に。

 

「……キュアアルカナ・シャドウ」

 

晴れ渡っていた気持ちに、一瞬で土砂降りの雨が降り込んできた、そんな感じがした。

 

前に立っていたのはジャックだった。

 

微かに微笑んでいる。

その笑みが、かえって気味悪かった。

 

怒っているよりも、感情が読めない笑顔の方が、ずっと怖い。

 

「何の用?私、これから帰るんだけど。そっちこそ任務は大丈夫?」

 

動揺を悟られないよう、すぐに言葉を返した。

 

ジャックもウソノワールからマコトジュエルを奪うよう命じられているはずだった。

牽制のつもりだ。

 

「生憎だけど、失敗しちゃった」

 

「失敗?」

 

想定外の言葉だった。

 

「名探偵プリキュアの頭が意外と冴えててね。別々に行動してたはずなのに気づかれて邪魔されちゃった」

 

「………」

 

嘘だ。

直感的にそう思った。

 

根拠はなかった。

でも、ジャックの佇まいが、その言葉と噛み合っていなかった。

 

この子は恐らくそんな失敗をするタイプじゃない。

強い——それだけは、はっきりとわかった。

 

「どうしたの?疑ってるの?なら、実際に私がマコトジュエルを奪ったところが見えたの?」

 

「いいえ」

 

正直に答えた。

私は今回、名探偵プリキュアの戦いを直接見ていない。

 

だから、本当に分断して戦っていたのかどうかも、確かめようがなかった。

 

「まあ疑われるのは当然か。『いつか裏切るのがバレるかもしれない』から警戒しないといけないからね~」

 

「!!?」

 

言葉を失う。

頭の中が、一瞬真っ白になった。

 

裏切る。

その言葉を、ジャックはあまりにも自然に、まるで世間話のように口にした。

 

私の内側を、まるごと覗き込んでいるような言い方だった。

 

——筒抜けだ。

 

いや、もしかしたら監視されていたのかもしれない。

 

あの虹ケ浜でのことまで。

 

そう考えた方が良い。

そう考えなければいけない。

 

「行動には気をつけた方が良いよ。もし勝手な行動をしたら、うっかり殺しちゃうかもしれないから」

 

「……………」

 

明確な脅迫だった。

飾り気がない分、余計に重い。

 

つまりジャックは、私を——あるいは名探偵プリキュアをも——圧倒できる実力があると、そう言っているのだ。

 

言葉の裏に根拠がある。

それが一番怖かった。

 

「私が言いたいのはそれだけ。じゃあまた劇場でね!」

 

ジャックはそれだけ言って、去っていった。

 

残された空間に、そよ風が吹いた。

さっきまで心地よかったはずの風が、今は少し冷たく感じる。

 

「なによアイツ!るるかにこんな酷いこと言って!」

 

マシュタンが怒っていた。

その声は確かに聞こえていた。

 

でも、耳の奥で反響するだけで、意味として入ってこなかった。

 

頭の中では、すでに思考が走り始めている。

 

ジャックがいる今、どう動くべきか。

 

何を悟られて、何を悟られていないのか。

どこまで監視されているのか。

どこから先が、本当の危険になるのか。

 

答えのない問いが、次々と積み上がっていく。

 

さっきまでのあの店の温かさが、もうずっと遠くに感じた。

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