かわいいホームズの親友ちゃんは、相棒の座を奪われて焦心苦慮   作:くぁwせdrftgyふじこlp

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女性幹部の悪巧み

【ジャックSide】

 

名探偵プリキュア。

 

かわいい顔をして、やっていることは力任せ。

なかなかぶっとんだ少女たちだと思う。

 

まあ、私も人のことを言える立場じゃないのは百も承知だけど、それにしたって「探偵」って看板を掲げておきながら、結局は拳で解決するのはどうなんだろう。

探偵って、もうちょっと頭を使うものじゃないのか。

 

でも、だからこそ面白い。

 

「早くプリキュアの絶望する表情が見たいなぁ……」

 

声に出してから、我ながらイカれた性格してると思った。

 

強い相手を前にするほどワクワクするなんて、どこぞの戦闘民族みたいな発想だ。

 

まあ、それはひとまず置いといて。

 

私が向かったのは、まことみらい学園。

 

名探偵プリキュアであるあんなとみくる、それからみのるやその友達が集まる場所。

 

様子を伺うには、これ以上ない舞台だった。

 

校舎の物陰に身を潜めて眺めていると、たくさんの生徒たちが荷物を運んだり、忙しなく行き来したりしている。体育館の方ではシャトルドアが開けてあり、そこからも機材や道具が運び込まれている。

 

どうやらイベントの準備中らしい。

活気があって、悪くない光景だった。

 

そして。

 

屋根の上に、もう一人、その様子を眺めている人物がいた。

 

「アゲセーヌじゃん!?」

 

思わず声が漏れた。

 

今回のマコトジュエル担当は、久々のアゲセーヌか。

 

しかも何だ、あの大量の買い物袋は。

どこで道草を食ってたんだか、まったく。

 

あまり手を出すつもりはなかったけれど、私も暇を持て余していたし、少し付き合ってやってもいいかな、と思いながら屋根へと近づいた。

 

そのとき、アゲセーヌが突然、芝居がかった仕草で口元に手を当てた。

 

「シルクのような口溶け……あーん♡私はこれ、『シルキーアイス』♡」

 

「何してんの?」

 

「きゃあああああっ!!?」

 

耳が痛くなるほどの悲鳴が上がった。

 

そこまで驚かなくてもいいのに。

なんかちょっとショックだった。

 

「何の真似してたの?」

 

「え?あそこにいた家入しるくが出演してるCMの真似してた……じゃなあああい!!」

 

一人で勝手に興奮しているアゲセーヌを無視して、何気なく下へ視線を落とす。

 

生徒たちに混じって、一際存在感を放つ女性が立っていた。

 

すらりとした立ち姿、どこにいても目を引く佇まい。

あの人が、家入しるくか。

 

「アンタなんでこんなところにいるの!?アタシの邪魔をしに来たの!?」

 

「落ち着いて」

 

私は肩をすくめた。

 

「人の仕事を横取りしたりはしないよ。名探偵プリキュアの様子を見に来ただけ」

 

これは本当のことだ。

 

私はそこまで性格がヤバくはない。

むしろ、普通の人間の方が性格の悪いやつがたくさんいるこの世界の方がよっぽど異常だと思っている。

 

「本当?」

 

「私はちゃんと成果を上げてるからね。マコトジュエルをまだ盗めていないアゲセーヌたちの活躍を、無下にしたりはしないよ」

 

「なんかムカつく!」

 

逆効果だったらしい。

 

過度に盗りすぎてアゲセーヌたちの出番がなくなったら困る、と気を利かせたつもりだったのに。

 

「本心で言ったのに……ん?」

 

アゲセーヌの視線が、ふと下へと向いた。

 

釣られて見ると、生徒が大事そうに運んでいる水色のドレスが目に入った。

 

丁寧に、慎重に、わざわざハンガーにかけて運ばれているそれには、見る者が思わず息を呑むような、深い想いが宿っているとわかった。

 

つまり。

 

「あのドレス、マコトジュエルが宿ってるね」

 

アゲセーヌがふふんと鼻を鳴らした。

 

「あれにするわよ。華麗に盗んで、ウソノワール様に認めてもらうんだから!」

 

「わざわざドレスも盗んじゃうの?マコトジュエルだけ盗ればいいのに」

 

呆れ半分で言う。

 

視線の先では、アゲセーヌがいかにも「さあ仕事だ」という顔で、買い物袋を脇に置いて準備を整え始めていた。

 

「アタシたちはアンタと違って全部盗まないとマコトジュエルも盗れないの!」

 

即答だった。

しかも自信満々で。

 

「証拠を残さないのが怪盗なのに?」

 

怪盗は証拠を残さない、とよく言う。

 

でも実際のところ、みんな堂々と盗んで名探偵プリキュアに速攻で止められている。

 

アゲセーヌは一瞬だけ言葉に詰まった。

それから、少し苛立ったように言い返してきた。

 

「そこまでの技術を持ってるのはアンタだけよ」

 

褒めてるつもりなんだろうけど。

 

――事実だから否定はしない。

 

物を盗まずにマコトジュエルだけを盗る。

そんなことをやるのは、私くらいしかいないから。

 

「ま、お好きにどうぞ」

 

「はぁ……行くわよ」

 

指名されたのはアゲセーヌだ。

私が口を出す立場じゃない。

 

ため息混じりの合図とともに、私たちは静かに移動を開始した。

 

 

_______________

 

 

 

ドレスが置かれた部室を、外からそっと窺う。

 

窓越しに聞こえてくる雑音だけで、室内の状況はすぐに把握できた。

 

キーボードの軽い打鍵音。

紙をめくる音。

ぽつりぽつりと交わされる小声の会話。

 

中には三人。

全員、作業に集中している。

 

――面倒くさい配置。

 

番組関係者らしき三人が、それぞれ部室の中で仕事に没頭していた。

 

「それで、今のところ人がいるから安易に動けないけど、どうやって盗み出すつもりなの?」

 

小声で尋ねる。

というより、確認に近い。

 

人がいる状態では当然盗めない。

 

強奪という手もあるにはあるが、この学校には名探偵プリキュアがいるため、リスクが高すぎる。

却下だ。

 

しかも今は生徒が大勢いる時間帯で、廊下を堂々と歩くだけでも危険が伴う。

 

「アンタが手伝ってくれるんでしょ?」

 

「いつ私が手伝うなんて言ったの……?まあ、いいけど」

 

「いいんだ」

 

口では否定しつつも、内心ではもう動く準備ができている自分がいる。

私も私だな。

 

アゲセーヌが少し意外そうにこちらを見た。

 

「今回指名されたのはアゲセーヌなんだから、少しくらいは貢献するよ」

 

主役はあくまで彼女だ。

私は影でいい。

 

「アンタにしては物わかりが良いわね」

 

「それは私が普段からバカって言いたいの?」

 

「まずはあそこにいるカメラマンとかマネージャーっぽい人が邪魔ね……」

 

「聞いてないし……」

 

会話が成立しているようでしていない。

まあ、いつものことなので特に気にしない。

 

私は再び室内へ視線を向けた。

 

三人の位置、動線、死角、出入口までの距離。

全てを静かに頭の中へ叩き込む。

 

「ジャック、放送でも何でもいいから、あの人たちを部屋から出して」

 

「誰に変装するか、もう決めたの?」

 

「あのズボンの裾が広い男の人にするわ」

 

視線を追う。

 

確かに、裾がやけに広い。

何かを隠すには都合がいい形だ。

 

……なるほど、そういう発想か。

 

「まさか……その下にドレスを履いて隠すつもりなの?」

 

「そうよ」

 

「いやぁぁ……バレるんじゃないかな?」

 

思わず本音が漏れた。

というか、普通にバレるでしょ、それ。

 

ズボンの下にアゲセーヌが履いてるような短いスカートならまだしも、足首どころか体まで覆うようなドレスを隠すのはどう考えても無理がある。

 

「大丈夫っしょ!」

 

根拠ゼロの自信、逆にすごい。

 

「とりあえず、私は外から放送室に進入して適当に呼び出すから、その間によろしく。男性もなんとかしておくよ」

 

「はいはい」

 

軽い返事だった。

 

……ほんと、適当だなあ。

ウソノワール様が手を焼くのもわかる気がする。

 

でもそれで何となく成立してしまうのが、このチームの歪さでもあった。

 

一旦アゲセーヌと別れ、外から放送室の窓ガラスを静かに破り、鍵を開けて中に入る。

 

適当に機械をいじり、マイクを手に取った。

 

「えー、只今ステージでの撮影機材トラブルのため、番組関係者の方は至急体育館までお集まりください」

 

少しだけ焦りを混ぜた声色。

これだけで、人は勝手に緊急性を感じる。

 

それが人間というものだ。

 

マイクを置き、廊下へ出る。

 

扉をくぐった瞬間、私はもう別人だった。

 

姿勢、歩幅、視線の高さ、呼吸のリズム。

ほんの数秒で、私はただのそこにいる生徒になる。

 

変装は見た目だけじゃない。

存在そのものを上書きすることだ。

 

部室の近くには生徒が二人いた。

中に入れば怪しまれる。

 

私は知らないふりをして、そのまま通り過ぎた。

 

数秒後、扉が開く。

 

「なんだ?呼び出し?」

 

「機材トラブルって言ってたな」

 

「とりあえず行きましょう」

 

ほらね。

人間は案外単純だ。

 

私は曲がり角の影から、その様子を静かに眺めた。

 

三人全員が部室を出た。

 

完璧と言いたいところだが、まだ詰めが甘い。

廊下の角を曲がりながら、私は小さくため息をついた。

 

「アゲセーヌはあの男性に変装するから、二人いたらマズいよね。ちょっと眠ってもらおう」

 

独り言のように呟きつつ、歩調を自然に合わせて三人の後ろへつく。

 

先頭から順に観察する。

 

一番後ろを歩く裾が広いズボンを履いてる男。

少しだけ疲れたように肩を落としていた。

 

注意力も、おそらく一番低い。

 

狙うなら、そこ。

 

足音を消す必要すらなかった。

人は「後ろ」に対して無防備だ。

 

一歩、距離を詰める。

もう一歩。

 

そして――トン、と。

 

首筋に、最小限の力で手刀を入れる。

 

音も衝撃も、ほとんどない。

ただ、意識だけを静かに刈り取る。

 

「……っ」

 

声にならない息を漏らして、その男はそのまま崩れ落ちた。

 

前の二人は気づかない。

当然だ、気づかせていないのだから。

 

私はそのまま自然な動作で彼を支え、自分の肩に体重を預けさせた。

まるで具合が悪くなった仲間を気遣っているように見えるはずだ。

 

――これでいい。

 

そのまま窓から外へ飛び降り、再び校舎の反対側に回って外から放送室へ滑り込む。

 

誰もいない薄暗い空間に、男を静かに寝かせた。

 

呼吸は安定している。

しばらくは起きないだろう。

 

「おやすみ」

 

軽く呟いて、扉を閉めた。

 

その瞬間、廊下の向こうから先ほどの関係者たちが歩いてくるのが見えた。

そして彼らの後ろに、同じ顔をした人物がもう一人ついてくる。

 

変装したアゲセーヌだ。

 

あの体育館から進入してしれっと紛れ込んだのだろう。あそこは生徒は多いけど大体作業に集中してるから、些細な違和感には気づかない。

 

「トラブルはないってさ……」

 

「じゃあさっきの放送はなんだったんだ?」

 

「体育館に行くまでに復旧できたのかもしれないわね」

 

さっきの男と、寸分違わぬ姿。

顔も、髪型も、体格も。

 

……だけど、中身までは真似できていない。

 

(うわ、ドレスはみ出てるじゃん……)

 

ズボンの裾が不自然に膨らんでいる。

歩くたびに、ひらりと青い布が見え隠れしていた。

 

あれは隠れているとは言わない。

主張している。

 

「出てるよ、ドレスが」

 

すれ違いざま、小声で告げる。

 

「え、ヤバ!」

 

アゲセーヌが慌てて裾を押さえた。

 

「はぁ……あと、いちいち裾を気にする動作はやめた方がいいよ。あの名探偵プリキュアならすぐに違和感に気づくからね」

 

あの連中は、視線の動きや仕草一つで嘘を嗅ぎ取る。

 

布が出ているかどうかより、隠そうとしている動きの方がよっぽど危険だ。

 

「確かに……アイツらなら気づきそうね」

 

「……あ、またはみ出てる」

 

「は?出てないじゃん」

 

「そういうところだよ」

 

私は足を止めずに続ける。

 

「そうやって、はみ出ていなくても今みたいにブラフをかけてくる場合がある。油断は禁物だよ」

 

一瞬の反応、無意識の動き。

それが証拠になる。

 

特に相手が探偵なら、なおさら。

 

「だってブカブカして歩きづらいんだもーん!」

 

子供か。

内心で呆れながらも、私は短く言い切った。

 

「手柄を上げたいでしょ?」

 

「上げたい」

 

「なら我慢して」

 

「はい……」

 

素直でよろしい。

 

私はちらりと廊下の先を見た。

時間的に――もうすぐだ。

 

「さて、そろそろ戻ってきた部員がドレスがないことに気づくはずだよ」

 

騒ぎになる。

 

ざわめき、混乱、疑念。

その中に紛れるのが一番安全だ。

 

「アゲセーヌはとにかく怪しまれないように。何事もなかったように部屋で作業を続けて」

 

「言われなくてもそうするし。ジャックは何をするの?」

 

私は少しだけ口角を上げた。

 

――決まってる。

 

「名探偵プリキュアの偵察でもするよ」

 

どんな顔で現場を見るのか。

どこに違和感を覚えるのか。

どこまで見抜けるのか。

 

それを知ることは、この先をもっと面白くする。

 

「りょーかい」

 

アゲセーヌの軽い返事を背に受けて、私は歩き出した。

 

足音は静かに、人混みの中へ溶け込むように。

 

――さあ、探偵ごっこの時間だ。

 

君たちは、この違和感に気づけるかな。

それとも気づいた時には、もう全部終わってるかもね。

 

 

_______________

 

 

 

【みのるSide】

 

「ポチぃぃぃぃぃぃ!!?」

 

機材トラブルという放送からしばらく経った後、突然ポチタンが大声を上げた。

 

「ポチタン?」

 

「この反応は……まさか」

 

ポチタンが激しく反応している。

それが意味することは一つ。

 

怪盗団ファントムが、マコトジュエルを狙い始めた。

 

そう理解した瞬間、廊下の向こうから慌ただしい足音が響いてきた。

 

「誰かあああああっ!!誰かドレス知りませんかあああああ!!?」

 

小藤さんだった。

 

生徒が大勢いる時間帯にもかかわらず、怪盗団ファントムによる窃盗事件が発生してしまった。

 

 

_______________

 

 

 

「間違いなくここにかけて置いたのに……!!」

 

「ドレスが消えたってこと!?」

 

泣きそうな声で訴える小藤さん。

 

私は演劇部やしるくさん総出で部室中を探し回った。

けれど、どこにもない。

 

あれだけ大きなドレスを、誰にも見つからないように盗み出せるものなのだろうか。

 

でも見つからないということは、そういう手口があったということだ。

 

「部室中探したけど……」

 

「どこにもないよ……」

 

「ロッカーも、清掃道具が入ってるだけ……」

 

どこも空振り。

隠せそうな場所はそう多くないはずなのに。

 

「私が目を離したから……」

 

涙を浮かべる小藤さんに、あんなとみくるが歩み寄る。

 

「小藤さんのせいじゃないよ!」

 

「絶対どこかにあるはず!」

 

怪盗団ファントムとなれば、名探偵プリキュアの出番だ。

 

二人の表情が険しく引き締まるのがわかった。

 

「演劇部の皆さんは準備があるでしょ!ドレス探しは私たちに任せて!」

 

力強くて、迷いがない。

その言葉に、周りの空気がふっと軽くなるのを感じた。

 

けれど――

 

「でも……」

 

大森さんの不安そうな声が、その軽さをそっと引き戻す。

 

「どんな事件もはなまる解決!」

 

「キュアット探偵事務所にお任せ!」

 

あんなとみくるは、いつも通りの掛け合いで笑顔を作る。本当に、頼もしい。

 

だからこそ、そこに立っているだけの自分が、ひどく小さく感じた。

 

「私にも、手伝わせて!」

 

しるくさんの声が聞こえた。

一歩前に踏み出す音。

 

憧れの存在が自ら名乗りを上げたことへの驚きが、あちこちから漏れる。

 

「え!?」

 

「しるくさんにご迷惑をかけるわけには……!」

 

りえが慌てて止めようとする。

でも、しるくさんは静かに首を振った。

 

「迷惑じゃないよ。演劇部の仲間でしょ!」

 

その言葉は、真っ直ぐで、温かくて、胸の奥に刺さった。

 

「みんなの想いがこもったドレス、絶対に見つけたいの!」

 

……そうだよね。

みんな、動いている。

 

大切なもののために、自分にできることを選んで、前に進んでいる。

 

私は――。

 

「わかりました!」

 

「一緒に探しましょう!」

 

話がまとまっていく。

 

その流れの中で、私はふと気づいた。

自分の足が、一歩も前に出ていないことに。

 

違う、出ていないんじゃない。

出せないでいる。

 

喉の奥がきゅっと締まった。

 

言葉にしなきゃ。

このまま流されるのは、嫌だった。

 

「私は……演劇部の手伝いをしても良いかな?」

 

気づいたら声が出ていた。

 

あんなとみくるが、驚いたようにこちらを見る。

 

「え……!?」

 

「なんで!?」

 

二人の視線が、一斉に私へ集まった。

その重さが、苦しい。

 

でも、ここで引いたら、きっともっと苦しくなる。

 

「ごめんね……」

 

ちゃんと、言おう。

 

「私もあんなとみくるの助手として、自分にできることをやりたいの。いてくれるだけで助かるって言ってくれたのは、感謝してる。でも……」

 

胸の奥に溜まっていたものが、少しずつ溶けていく。

 

「やっぱり見ているだけなのは、もどかしいし苦しい……」

 

静かになった空気の中で、自分の声だけがやけに鮮明に聞こえた。

 

「みのる……」

 

みくるの表情は少し悲しそうで、でも声は優しかった。

その優しさが、私の背中をそっと押してくる。

 

「もし演劇部の人たちが良いのなら、ドレス探しは二人に任せて、私はドレスが戻ってきたときに安心して発表できるように手伝いたい!お願い……」

 

言い切った瞬間、心臓が大きく跳ねた。

 

怖い。

断られたらどうしよう、って、少しだけ思っている自分がいる。

 

でも――。

 

「……もちろん、良いに決まってるじゃん!」

 

りえの声が、ぱっと空気を明るくした。

 

「私たちはみんなで支え合う仲間なんだから!」

 

「自分にできることを自分で探して行動する。それはすごく素敵なことだよ!」

 

りえとしるくさんの言葉に、周りのみんなも頷く。

 

誰一人、不満そうな顔をしていない。

その事実が、じんわりと胸に広がっていった。

 

「みんな……ありがとう!」

 

気づけば、笑っていた。

さっきまであんなに重かったものが、嘘みたいに軽くなっている。

 

「もう……仕方ないなぁ……」

 

みくるが少し呆れたように笑う。

 

「みのるがそこまで言うなら、演劇部のことお願いね! 私とみくるも、絶対にドレスを取り返してみせるから!」

 

あんなの目は強くて、その隣で頷くみくるも同じくらい頼もしかった。

 

「うん!わかった!」

 

私は力強く頷いた。

 

それぞれの場所で、それぞれができることをやる。

同じ目的に向かっているのに、役割は違う。

 

でも、それでいい。

それが、仲間なんだと思うから。

 

私はそのまま演劇部と一緒に行動し、探偵の二人は聞き込み調査を開始した。

 

あんなとみくるの背中が見えなくなっても、不思議と不安はなかった。

 

きっと大丈夫と思えるのは、ただの願いじゃない。

これまで何度も見てきたからだ――あの二人が、どんな状況でも諦めずに前へ進む姿を。

 

「……あの二人、本当に大丈夫なの?」

 

りえの声は小さくて、揺れていた。

 

無理もない。

大切なドレスがなくなって、舞台は目前で――不安にならないわけがない。

 

私は少しだけ息を吸って、言葉を選んだ。

 

「大丈夫」

 

不思議とその言葉は重みを持った。

 

「ああ見えて二人は名探偵だよ。困っている人は絶対に助ける。絶対に見捨てたりしない」

 

思い浮かぶのは、これまでの出来事の数々。

どんなに追い詰められても、二人は最後に笑っていた。

 

「たとえどれだけ絶望的な状況でも、あの二人は最後まで諦めない。真実を追い続ける強さと、人の心に寄り添う優しさを持ってるから」

 

言葉が、自然と続いていく。

まるで自分の中にある確信が、そのまま形になっていくみたいに。

 

「だから、たとえ闇の中にいても大丈夫。必ず光を見つけて、あなたのもとへ辿り着いてくれる」

 

言い終えたあと、少しだけ静寂が落ちた。

 

……あれ?自分で言っておきながら、なんだか少し気恥ずかしくなってきた。

 

「……今のみのる……まるで役者さんみたい……」

 

「……え?」

 

思わず間の抜けた声が出た。

りえはふっと視線を逸らして、小さく笑う。

 

「……ううん、なんでもない。みのるがそこまで言うなら、信じるよ。あんなとみくるを」

 

その言葉に、胸の奥が温かくなった。

 

信じる、って簡単な言葉じゃない。

だけど今、りえはちゃんとそれを選んでくれた。

 

少しは、支えになれたのかな。

 

「おーい!」

 

元気な声が空気を切り裂いた。

 

「ゆみ!?」

 

りえが振り向くと、ゆみが手を振りながら駆け寄ってくる。

 

「なんだか騒ぎになってるみたいだから、体育館の準備を大方終わらせて、演劇部の手伝いをしようって思ったんだ!」

 

息を弾ませながらも、その表情は明るかった。

誰かが困っていたら、当たり前みたいに手を差し伸べる。

 

その姿勢は、どこかあんなたちにも似ている気がした。

 

「ゆみまで……本当にありがとう!」

 

りえの声は、さっきよりもずっと軽くなっていた。

 

「礼には及ばないよ!ね、みのる!」

 

話を振られて、私は少しだけ笑った。

 

「そうだね……」

 

周りを見渡すと、みんなそれぞれに動いている。

 

焦りや不安はあるはずなのに、それでも前に進もうとしている。

 

だったら私も。

 

「演劇を成功させるために、もう少し頑張ろう!」

 

自分の声が、思ったよりもしっかりと響いた。

 

「「うん!」」

 

りえとゆみの声が重なる。

バラバラだった気持ちが、ひとつに繋がったような気がした。

 

あんなとみくるは、きっとドレスを取り戻してくれる。

 

だから私たちは、その帰る場所を守る。

舞台を、最高の形で迎えられるように。

 

――それが、今の私にできることだから。

 

 

_______________

 

 

 

【みくるSide】

 

「ドレスがなくなったことに気づいたのはいつか?」

 

「「「うんうん」」」

 

まずは、いつもの聞き込み調査から。

 

第一発見者である小藤さんに、なくなった時間帯を尋ねる。

 

「ドレスをハンガーにかけたあと、小道具を取りに外へ出たの。戻るとドレスがなくなってて……」

 

「「「ふむふむ」」」

 

その間に、ドレスが盗まれた……ということだね。

 

「ドレスから離れた時間はどれくらい?」

 

「5分くらい?」

 

5分。

ドレスを隠したり盗んだりするだけなら、十分に可能な時間だ。

 

なくなった時間帯はわかった。

次は、この事件との関係が深い生徒――つまり演劇部のメンバーたちにも聞き込みを続ける。

 

 

_______________

 

 

 

「私はずっと、ここで部長と発声練習してたよ。その間通ったのは小藤さんともう一人の生徒だけ。途中の放送で三人が呼び出されてたけど、中に入った人は誰もいなかったよ」

 

次に廊下で台本の確認をしていたりえと大森さんの話を聞いたところ、かなり有力な手がかりを見つけることができた。

 

「部室に通じる道は……」

 

「この廊下だけだね」

 

部室には小藤さんともう一人の生徒が通っただけで、それ以外に出入りした人はいない。

 

少なくとも、廊下から進入した人はいないということになる。

 

続いて部室の中を覗くと、三人の番組関係者が作業を続けていた。

 

「部室にいたのはカメラマン、ディレクター、しるくさんのマネージャーの三人だけだね……」

 

「聞いてみよう」

 

「「うん」」

 

放送が鳴って一時は不在になった部室だが、りえの「誰も中に入った人はいない」という証言で、犯人候補は三人に絞られる。

 

私たちは部室に入り、一人ずつ話を聞いた。

 

カメラマンの証言。

 

「撮った映像のチェックをしてたけど。途中放送で呼び出されたけど何もトラブルがなかったからまた作業に戻ったよ」

 

ディレクターの証言。

 

「撮影の段取りの確認をしてたよ。途中の放送で部室を出たけど、何もなかったからそのまま戻ってきた」

 

マネージャーの証言。

 

「仕事の電話をしていました。放送が流れて番組関係者の私たちは体育館に向かいましたが、何もトラブルはありませんでした」

 

発言からして、怪しい部分はなさそうね……。

 

「三人とも仕事してて、ドレスがなくなったことに気づかなかったみたい……」

 

しるくさんの言う通り、三人のうちの誰かがドレスをこっそり盗んだとしても、残りの二人が仕事に集中していたなら気づかないのもわかる。

 

でも、本当に気づかないものだろうか。

 

しるくさんの推理を否定しているわけじゃない。

 

でも、何かひっかかる。

 

三人とも共通して「放送で呼び出されたけどトラブルがなかった」という点。

 

放送で全員を呼び出すほどなのだから、それなりに大きなトラブルのはず。

 

「ねぇ、あの放送も怪しいと思わない?」

 

あんなが口を開いた。

どうやら、同じ疑問を抱いていたみたい。

 

「私もそこがひっかかったんだ。あの放送、トラブルがなかったとすれば、明らかに三人を部室から出すために行ったとしか考えられない」

 

「つまり、本当の犯人は放送した人……?」

 

「いや、ありえないよ……」

 

しるくさんの言葉に、私は反射的に反論した。

 

いや、しるくさんの言葉も間違っているわけじゃない。

 

ただ、この学校の構造と、りえの証言に矛盾が発生するからだ。

 

「この部室と放送室はほぼ真逆の位置にある。だから、5分でドレスを盗みながら放送室と部室を往復するのはほぼ不可能……それに……」

 

「りえの証言と噛み合わなくなるってことでしょ?」

 

「なるほど……確かに!」

 

私とあんなの推理に、しるくさんが驚きを隠せないでいる。

 

置いていってしまっているようで申し訳なさが残る。

 

でも、劇の時間まで僅かしかない。

のんびりはしていられない。

 

だけど実際に、ドレスはなくなっている。

これが意味するものは……。

 

「まさか……犯人は二人いる?」

 

「「………」」

 

一瞬、鳥肌が立った。

 

間違いない。

これは単独での犯行じゃない。

 

共犯者がいる。

今回の事件、怪盗団ファントムは二人で行動していた――!?

 

もしそうなら、これはかなりマズいことになる。

 

「みくる!」

 

「わかってる!急がないと、ファントムの二人が連携して余計に面倒なことになる!」

 

共犯者がいれば、マコトジュエルをもう一人の怪盗団ファントムに渡して自分は囮になることもできる。

 

戦闘で連携してきたりと、一人のときよりも圧倒的に厄介な状況が発生してしまう。

 

そしてさらに、事態は悪化した。

 

「本番開始まであと10分!!」

 

「「「!!」」」

 

大森さんとりえが慌てながら走ってきた。

 

もう時間がない。

 

ドレスを取り返さないといけないのに、このままじゃせっかく造り上げた劇が台無しになってしまう。

 

どうすればいいの……。

こんなとき、みのるだったらどうする……?

 

「私に任せて!」

 

「「!?」」

 

そのとき、しるくさんが立ち上がった。

 

「私が時間を稼ぐから、二人は犯人をお願い!」

 

「「……っ!………わかった!!」」

 

しるくさんが何をしようとしているのか、すぐに察した。

 

なら、戸惑っている時間なんてない。

一刻も早く二人のファントムを見つけて、絶対にドレスを取り返す!

 

「あんな!みくる!頼んだよー!」

 

「「うん!!」」

 

しるくさんと一緒に体育館へ走っていくりえの声を聞いて、取り返すという気持ちがさらに強くなった。

 

「しるくさんが時間稼ぎをしてくれる今のうちに、ドレスを見つけよう!!」

 

「ドレスがなくなったとき、部室にいたのは三人だけ! ファントムの一人は必ずあの中にいる!!」

 

他に手がかりはないかと、何気なくふと部室の窓へ視線を向けた。

何気ない確認のつもりだった。

 

しかし、見てしまった。

 

「……え」

 

声が漏れた。

 

「みくる、どうしたの?」

 

「窓が開いてる」

 

「えっ!?」

 

部室の窓が、ずっと開いていたのだ。

 

聞き込みに夢中になっていて、全く気づけなかった。

 

完全に、見落としていた。

 

「しかもあれ……窓の一部がくり貫かれて……」

 

「……嘘でしょ。犯人は……あの三人のうちの一人じゃ……ない……?」

 

よく見ると、鍵の近くのガラスが綺麗にくり貫かれている。

泥棒や空き巣が進入するときと同じ手口だ。

 

そうなれば、事件の全容はさらにややこしいことになる。

 

「廊下は通らずに、窓から進入してきたってこと!?それなら三人が放送の間にいない隙を狙って、ドレスを盗み出すことくらいはできる……」

 

「待って……考えを整理させて……」

 

三人以外に、部室へ進入してきた姿のわからない第三者が犯人という可能性まで出てきてしまった。

 

プリキットミラールーペで調べてみる……?

いや、足跡がわかっても、姿がわからないようじゃ……。

 

「放送室にも行ってみよう!何かわかるかも!」

 

「………ええ!!」

 

そうだ、まだ迷宮入りになったわけじゃない。

調べていない場所がまだあった。

 

私たちはそこへ直行する。

 

しるくさんがいつまで時間を稼いでいられるかわからない。

 

今は、少しの可能性に賭けるしかない!

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