かわいいホームズの親友ちゃんは、相棒の座を奪われて焦心苦慮   作:くぁwせdrftgyふじこlp

26 / 45
決めつけちゃダメ!

【みのるSide】

 

「あと10分を切ってる!!」

 

「このままじゃ予定時間に間に合わないよ!」

 

体育館の舞台袖には、既に衣装に着替えた演劇部のみんなが緊張した面持ちで待機している。

 

それなのに、ドレスを着るはずの主役——りえだけが、今もなお制服姿のままそこに立っていた。

 

あんなとみくるが怪盗団ファントムを見つけたとして、仮にファントムがドレスをハンニンダーにして戦闘する時間まで計算に入れれば、どう頑張っても開演時刻には間に合わない。

 

頭の中で弾き出した答えは、あまりにも無慈悲だった。

 

「もう生徒は全員、座って待機してるよ!」

 

袖からそっと体育館の様子を覗いていたゆみが、焦りを滲ませた顔で振り返る。

 

準備は全て整っている。

あとはドレスを持ってきてくれるあんなとみくるを待つだけ。

 

頭ではわかっていても、胸の奥でじわりと焦りが広がっていく。

 

(でも、時間には間に合わない……)

 

せっかくテレビの取材まで来ている大舞台だ。

万全の状態でやり遂げたいだろう。

 

みんなそう思っているはずだ。

なのに、私たちにできることはこれ以上何も残っていない。

 

どうすれば——

 

「みんな!遅れちゃってごめんね!」

 

「「!?」」

 

突然、息を切らせた人影が舞台袖に飛び込んできた。

 

「しるくさん!?」

 

演劇部のみんなが、目を丸くする。

 

あんなたちと一緒に行ったはずのしるくさんが、なぜかここにいた。

 

「しるくさん、あんなたちは……」

 

「探偵は二人に任せたよ!私は私にできることを思い出して、ここに戻って来たんだ!」

 

「しるくさん……」

 

自分にできること。

その言葉が、胸のどこかに引っかかった。

 

もしかして、さっき私が言ったあの言葉を——覚えていてくれたのだろうか。

 

しるくさんが何を考えてここに戻ってきたのかはわからない。

 

でも確かに、暗かった視界に光が差し込んだ気がした。

 

「よし、少し時間を稼ぐよ。二人も協力してくれる?」

 

「は……はい?」

 

「え、私も?」

 

ステージへ向かいかけたしるくさんが、何かを思いついたように足を止め、私とゆみのもとへ引き返してきた。

 

二人も、って——なんか、嫌な予感しかしない。

 

「ありがとう!じゃあマイク持って!」

 

「「………?」」

 

言われるがまま、私とゆみはマイクを握る。

気づいたときにはもう、手の中にある。

 

「それじゃあ行くよ~!!」

 

「え、嘘!?」

 

「ちょっと待って心の準備が!?」

 

このままステージに立たされる流れだ!!

無理無理無理!人前で話すなんて絶対に無理!

 

そう叫ぼうとした瞬間、しるくさんの手が私の腕をがっしりと掴んだ。

 

逃げられない。

引きずられるように、私とゆみはしるくさんと一緒に——眩しい光の中へと飛び出した。

 

「新入生のみなさ~ん?家入しるく、ステージ入りま~す!」

 

「「「「「うおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」

 

(す、すごい歓声……)

 

肌が震えるほどの歓声が、体育館中から一気に押し寄せてくる。

 

相変わらずの人気っぷりだ。

こんなにも有名な人だったなんて——知らなかった自分がおかしいのだろうか、と今さら思う。

 

「演劇部のみんなはまだ準備中ということで、しばらくは私とこの二人が司会進行でお送りしま~す!」

 

強引に連行されたのだから、自己紹介なんて考えているわけがない。

 

大勢の視線が、一斉にこちらへ向く。

 

体がガチガチに固まって、指先一本動かせない。

 

ステージのライトが、ただただ眩しかった。

 

「は、花崎みのるです!本日はお日柄もよく!!」

 

「よ、依田ゆみです!生憎の雨……じゃない!良い天気ですよね!!」

 

「二人とも固くなりすぎ!」

 

体育館中に爆笑が巻き起こった。

 

なぜかはわからない。

でも、スベって最悪の空気になることだけは、なんとか回避できたらしい。

 

いや——もしかしたら、しるくさん効果で面白く見えているだけかもしれないけど。

 

「今の二人のように、緊張してしまうことってよくあるよね。私も本当は、撮影がある度に何度も緊張しちゃうんだ」

 

会場のあちこちから、驚きの声が漏れる。

 

テレビの表舞台しか知らない生徒がほとんどだろうから、現役の人からこういう話を聞ける機会は、きっと貴重なんだろうな、と思った。

 

「二人も緊張することってあるよね?」

 

「は、はい。私は陸上部で高跳びをやってますけど——毎回自分の順番が来た時に、あの注目される感覚って、やっぱり慣れないですね」

 

「私は……先生に怒られる時、かな?職員室という魔界に足を踏み入れる勇気は、なかなか湧かないものだよ」

 

生徒たちから納得の笑いが上がる。

 

しれっと流してたけど、ゆみって陸上競技部だったんだ。

 

確かに、高跳びのようなフィールド競技は、複数の選手が一斉に走り出すトラック競技とは違う。

 

一人ずつ順番に競技をこなすから、注目が一点に集中する。

そのプレッシャーは、想像するだけでも相当なものだろう。

 

「いろんな人が、いろんな状況で緊張する。緊張するのは、当たり前のことだよ。そんなときには——今から私が教える『しるく体操』をやると、緊張がほぐれるよ!」

 

二人の話をじっくり聞いていたしるくさんが、一呼吸置いてマイクを握り直した。

 

「良かったらみんな立って~!」

 

しるくさんに促されて、生徒たちが一斉に立ち上がる。

 

「今からこの二人がお手本を見せてくれるから、ちゃんと見ててね!」

 

………はい?

 

私たちが、お手本?

 

「無茶振りが過ぎません!?私、一回しか見てないけど!?」

 

「私は見たことないし初耳なんだけど!?」

 

また体育館に笑いが広がった。

グダグダもいいところだ。

 

それでも——なんだかんだ、しるくさんのアシストのおかげでどうにか時間を稼げている。

 

私にできることを。

 

あの言葉が、今ここで良い方向に動いている。

それが、素直に嬉しかった。

 

私とゆみ、そしてしるくさん。

まだ深い関係でもない三人なのに、気持ちはどこかひとつになっていた。

 

しるくさんと一緒にいると、自分でも気づいていなかった可能性が、ほんの少しずつ見えてくるような気がする。

 

自分には無理だと、決めつけちゃダメ——。

 

そういうことだったんですね……しるくさん。

 

 

_______________

 

 

 

【みくるSide】

 

「ついた、開けるよ!!」

 

「うん!」

 

放送室の前に飛び込んで、勢いよく扉を引いた。

 

「「……!!?」」

 

中には、さっきまで普通に会話していたディレクターさんが床に倒れていた。

 

立て続けに起こる想定外の事態に頭が追いつかないまま、それでも体は先に動いている。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「う………ぅぅ……」

 

肩にそっと触れると、ディレクターさんは微かに反応した。

 

呼吸は乱れていない。

ただ、静かに眠っているようだった。

 

「気絶してるだけみたい……」

 

「良かった……」

 

胸を撫で下ろして、視線を窓の方へ向ける。

 

「ここも窓が開いてる……」

 

「本当だ……」

 

窓ガラスの一部が割られていた。

 

外から手を差し入れて、鍵を開けた痕跡——部室で見たものと、ほとんど同じだった。

 

ようやく全容が繋がってきた。

 

ファントムが放送室に外から忍び込み、関係者三人を別の場所へ誘導する。

 

そうして無人になった隙を突いて、もう一人のファントムが外から部室に入り込み、ドレスを盗む——。

 

そこで、りえの言葉が頭の中に蘇った。

 

『その間通ったのは小藤さんともう一人の生徒だけ』

 

小藤さんの他にも、もう一人。

その生徒をファントムの変装だと仮定すれば、話は全て繋がる。

 

ドレスを盗んでいるファントムと廊下ですれ違いながら、関係者を誘導したファントムが部室の前を通り過ぎる。

 

そして体育館へ向かった関係者の一人——ディレクターさんを気絶させ、外を迂回して放送室まで運んだ。

 

体育館の扉は機材搬入のために開いていたはずだから、そこからもう一人のファントムが変装して紛れ込み、残りの関係者たちと何事もなかったように合流した。

 

「この人は本物のディレクターさん。ということは——怪盗団ファントムはディレクターさんに変装してる!早く捕まえよう!」

 

「待って。ドレスの隠し場所がわからないと、ファントムだけを問い詰めても空振りになる」

 

「そっか……」

 

決定的な証拠を押さえなければ意味がない。

 

たとえ怪盗団ファントムに詰め寄ったとしても、隠し場所を教えてくれなければ——ドレスは見つからないまま、幕が下りてしまう。

 

「あれだけボリュームのあるドレス……隠しようがない……」

 

あの大きさのドレスを隠せる場所には限りがある。

 

一体どこに——。

 

『決めつけちゃダメ!』

 

………。

 

「あっ!!隠し場所ならある!!」

 

「……ピンときた!!」

 

私に続いて、あんなも閃いたようだった。

 

私たちはずっと——「ドレスをどこかに隠している」と決めつけていた。

でも、ディレクターさんの服装を思い返した瞬間、はっとした。

 

ディレクターさんのズボンは、裾が広いタイプだ。

 

中に何かを着込んでいても、外から気づきにくい。

 

それに——ディレクターさんは男性だから、「男性がドレスを着るはずがない」と、無意識のうちに決めつけていたのかもしれない。

 

もしもディレクターさんに変装したファントムが、ドレスを自分で着て、その上から上着を羽織り、ズボンを履いていたとしたら——。

 

試してみる価値はある。

 

「ごめんなさい。また後で助けに行くから、もう少し待ってて……」

 

ディレクターさんに小さく告げて、私とあんなは静かに頷き合い、関係者三人がいる方へと向かった。

 

「オープン!プリキットボイスメモ!」

 

あんながプリキットボイスメモを取り出す。

 

向かう先は、関係者の三人。

 

そろそろ劇の開始時刻だから、移動を始めているタイミングのはずだ。

 

「ドレス、どこ行っちゃったんでしょうね……?」

 

マネージャーさんの声が聞こえてくる方へ足を向けると、ちょうど三人が並んで歩いているところだった。

 

あんながボイスメモのスイッチを静かに入れる。

 

このボイスメモには、通常の通話機能とは別に、もう一つの機能が備わっている。

 

「いくよ!」

 

「うん!」

 

あんながボイスメモに向かって話し始める間、私は三人の仕草を、一分の隙もなく見つめた。

 

「お知らせします。ドレスが無事見つかりました」

 

周囲に、理事長の声が響いた。

 

正確には、あんなの声がボイスメモのマイクを通して理事長の声に変換され、再生される仕組みだ。

 

わかりやすく言えば、あの有名な某探偵アニメに出てくる蝶ネクタイ型の変声機とほぼ同じようなもの。

 

「見つかったんだ!」

 

「良かった!」

 

「でもどこにあったんだ?」

 

三人が笑顔になる。

でも——その瞬間を、私たちは見逃さなかった。

 

「「……あ」」

 

ディレクターさんが、ズボンの裾の中をちらりと確認した。

 

そして一瞬だけ——ズボンの中から、青い布が僅かに覗いたのを。

 

決定的な証拠を押さえた。

 

「「見えた!!これが、答えだ!!」」

 

もう一人の怪盗団ファントムが誰なのかは、まだわからない。

でも今は、ドレスを隠しているファントムを最優先に取り返す。

 

絶対に、逃がさない!

 

 

_______________

 

 

 

【ジャックSide】

 

窓から流れ込む空気が意外なほど冷たい。

 

けれど、その冷たさはむしろ都合がいい。

頭が冴える。

 

状況を正確に切り分けるには、余計な感情など邪魔でしかない。

 

「すぐに撤退するよ、アゲセーヌ」

 

自分でも驚くくらい声は平坦だった。

焦りも苛立ちもなく、ただ淡々と。

 

「何で?」

 

背後から軽い調子の声。

相変わらずだな、と心の中で呟く。

 

「さっきの放送の時、裾を確認したでしょ?」

 

あの一瞬。

ほんの癖みたいな、小さな動作。

 

でも——そういうほんの一瞬を見逃さないのが、あいつらだ。

 

「えっ……もしかして……やっちゃった?」

 

ようやく、少しだけ声に緊張が混じる。

 

「その放送はブラフだよ。名探偵プリキュアがプリキットボイスメモを使って、理事長の声に変換してた。その確認する仕草を、思い切り見られてたよ」

 

言葉にしながら確信が深まっていく。

 

あの違和感——音のわずかな揺らぎ。

 

人間の声に似せてはいるが、完璧じゃない。

 

だからこそ確認する仕草を誘い出し、アゲセーヌは完全に罠に嵌められた。

 

「嘘!?」

 

「だから言ったのに……」

 

私はため息をついた。

呆れというより、単純な事実の確認だ。

 

油断大敵とは、まさにこういうことを言う。

 

「わかった……撤退する」

 

判断は早い。

それは評価できる。

 

「玄関まで向かってる暇はないから、窓から飛び降りるよ!」

 

「オッケー!」

 

躊躇はなかった。

私たちは同時に窓を開け、そのまま外へ身を投げる。

 

一瞬の浮遊感。

重力に引かれ、身体が落ちていく。

 

風が耳元で唸る。

けれど恐怖はない。

 

さっきも何度も外と中を往復している——慣れたものだ。

 

——着地。

 

膝を軽く曲げて衝撃を逃がす。

 

アゲセーヌも問題なく着地したのを、横目で確認した。

 

「名探偵プリキュアに追いつかれる前に最短距離で——」

 

言いかけたところで、言葉が遮られた。

 

「どこ行くんですか?」

 

名探偵プリキュアのキュアアンサー——明智あんなの声が、背後から聞こえてきた。

 

すぐに撤退しようとしたのに、もう追いつかれている。

 

一応言っておくが、私たちはまだ変装を解いていない。

 

つまり、変装した状態の私たちを犯人と特定したということ。

 

「ああ……ちょっとね……」

 

アゲセーヌがディレクターのふりをして後ろを振り向く。

 

同時に私も振り返ると——キュアミスティック、小林みくるの姿もそこにあった。

 

「やっぱり、二人だったんですね」

 

「演劇部のドレス、返してください」

 

二人の声は真剣で、その瞳は完全に私たちを捉えていた。

 

もはや言い訳は通用しない。

 

ニジーやゴウエモンがなかなかマコトジュエルを持ち帰れない理由が——なんとなく、わかった気がした。

 

「何のことか……?」

 

「とぼけても無駄ですよ。私たち、見たんです」

 

(もう無理だよ、アゲセーヌ)

 

これ以上の誤魔化しは通用しない。

私はアゲセーヌに視線を向け、ゆっくりと首を振った。

 

アゲセーヌの表情が、悔しそうに歪む。

 

「ドレスが見つかったって放送を聞いた時、あなたが咄嗟にズボンの裾をめくっていたのを!」

 

その瞬間をバッチリ見られていた。

些細な違和感を見逃さないという私の予想は、悪い形で的中した。

 

「ほら、見えてますよ。ドレス」

 

「えっ、しまっ……!?」

 

「はぁ……」

 

あんなの指摘に反射的にズボンを押さえるアゲセーヌ。

 

けれど逆効果だった。

 

裾が広がって、中に履いているドレスの端が丸見えになる。

あーあ……言わんこっちゃない。

 

「ドレスは服の下に着ない」

 

「ドレスを着るのは女の子」

 

「そんな思い込みを疑ってみたら、答えが見えたんだ」

 

なるほど……そういう発想から来ていたか。

 

推理に関しては、本当に隙がない。

 

でも——相手はただの中学生。

所詮は、か弱い女の子だ。

 

「しるくさんが教えてくれたんだ!」

 

「「決めつけちゃダメって!!」」

 

二人の声が、綺麗に重なった。

 

勝った気になっているみたいだけど——自分たちが置かれている状況にすら気づいていないなんて。

 

「そっちこそ、怪盗団ファントムにいつまでも勝てるって——決めつけちゃダメだよ」

 

「「……っ!」」

 

その言葉、そっくりそのまま返してあげる。

 

「アゲセーヌ、行くよ」

 

「マジチョベリバ~!!」

 

アゲセーヌはメイクを素早く済ませてから変装を解く——毎回やるんだろうか、これ。

 

呆れながらも私も同時に服を脱いで、元の姿に戻った。

 

「見破られるなんて、マジムカつくんだけど!」

 

「アゲセーヌ!!」

 

「やれやれ……しょうがないね。こんな形で初対面なんて」

 

もう少し良い場面で姿を見せた方が、様になったのに。

バレてしまったものは、仕方ないか。

 

「あなたは!誰なの!?」

 

「私は怪盗団ファントムのジャック。怪盗団の斬り込み役だよ!」

 

とりあえず自己紹介だけしておく。

 

これで名探偵プリキュアに私の存在が認知されてしまうけれど——逆に存在感を見せた方が、牽制になるかもしれない。

 

「ジャック……!!」

 

「まだ他にも怪盗団ファントムがいたなんて……」

 

早速混乱している二人。

いきなり戦うのも無粋だし——少し答え合わせでもしておこうか。

 

「マコトジュエルを取り返す前に——私とアゲセーヌがどうやって盗んだか、説明してみせてよ」

 

ここまでたどり着けた二人なんだから、経緯の説明くらい余裕でしょ?

 

「良いよ……」

 

しばらくの沈黙の後、あんなが静かに口を開いた。

 

「まず、生徒に変装しているあなたが、放送室に外から進入して関係者の三人が移動するように誘導し、その無人の時間を狙ってもう一人のファントム……ディレクターさんに化けているあなたが外から部室に進入してドレスを盗んだ」

 

「だけど、部室を出入りした人は一人もいない。それは部室の近くにいた二人の生徒が証言してる。そして証言によると、その間通ったのは小藤さんともう一人の生徒だけというのがわかった」

 

「部室の前を通った小藤さんの他にも生徒が一人いる。その生徒をファントムだとすると、部室内でドレスを盗んでいるファントムとすれ違って、関係者を体育館へ誘導したファントムが部室を通りすぎる」

 

「そして体育館に向かった関係者の一人、ディレクターさんを気絶させ、また外から迂回して放送室まで運ぶ。体育館の扉は機材の搬入のために開いているから、そこからもう一人のファントムが変装して進入し、関係者たちと何事もなかったかのように合流した」

 

「「これが私たちが推理した、ドレス盗難事件の全容です!!」」

 

交代しながら話を繋ぎ、最後は二人の声が綺麗に重なった。

 

全部、合っている。

 

流石は名探偵というべきか——まさかここまで推理できるとは思わなかった。

 

「すごい、全部正解だよ。流石名探偵プリキュア……推理はどうやら本物のようだね」

 

「もう十分でしょ!ドレスを返して!」

 

返して返してって、せっかちな二人だね……。

 

劇の時間が迫っているから?

 

そんなに急いでいても、人生は楽しくないよ。

もっとのんびりいかないと。

 

「間違えずに推理できた二人に敬意を表して、少し遊んであげる」

 

私の言葉に応えるように、アゲセーヌがハンニンダーを呼び出した。

 

「ウソよ覆え!チョベリグにしちゃって~!ハンニンダー!」

 

ハイビスカスが演劇部のドレスに宿り、マコトジュエルが黒く染まっていく。

 

「ハ~ンニ~ンダ~~!」

 

無駄に美声を上げながら、ドレスの見た目をしたハンニンダーが姿を現した。

 

「みくる!」

 

「うん!」

 

「「行くよ!!」」

 

ようやく変身のお披露目か——待ちくたびれたよ。

 

「「オープン!ジュエルキュアウォッチ!」」

 

二人の身体が、眩い光に包まれる。

 

体感ではほんの一瞬。

だけどその一瞬の間に、二人は華麗に舞いながら衣装を身に纏っているのだろう。

 

「どんな謎でも、はなまる解決!名探偵『キュアアンサー』!」

 

「重ねた推理で、笑顔にジャンプ!名探偵『キュアミスティック』!」

 

「「名探偵プリキュア!」」

 

変身が完了し、二人は再び私たちと対峙した。

 

言葉を交わす間もなく、二人はハンニンダーへと真っ直ぐに突っ込んでいく。

 

名探偵プリキュア——さあ、君たちの答えとやらを魅せてごらん。

 

「演劇部のためにも!!」

 

「しるくさんのためにも!!」

 

「「大事なドレス、返してもらうよ!!」」

 

私がハンニンダーの前に立ち塞がった瞬間、二人の拳が真っ直ぐに迫ってきた。

 

何の工夫もない、直線的な攻撃。

 

避けるまでもない。

 

「させないよ」

 

「なっ!?」

 

「受け止めた!?」

 

両の拳を、片手で軽く受け止める。

 

ハンニンダーにとっては脅威になるパンチでも——私にとっては、ペットがじゃれついてくる程度のものだ。

 

「……ハンニンダー!今よ!!」

 

「ハン……ニン……ダー!!!」

 

「「きゃあああっ!!?」」

 

その隙を、アゲセーヌが見逃さなかった。

 

指示を受けたハンニンダーが高速回転を始める。

 

コマのように鋭く回転しながら遠心力を最大限に乗せ、プリキュアの二人へと体当たりを仕掛けた。

 

「はあああ!!」

 

キュアアンサーがハンニンダーに向かってパンチを叩き込む。

 

「うっ!あぁ!?」

 

「たあああああ!!」

 

弾かれた。

続けてキュアミスティックが蹴りを入れるが——

 

「あぁっ!?」

 

あっさりと弾き飛ばされる。

 

ハンニンダーにすら太刀打ちできないようでは、私を退けることなど到底できない。

 

「ほらほら、どうしたの?そんなものじゃないでしょ?」

 

「っ!!馬鹿にしないで!!」

 

二人の鋭い視線が、まっすぐ私を捉える。

 

そう——その燃えるような感情が、私を心の底から楽しませる!!

 

「はぁぁっ!」

 

先に仕掛けてきたのはアンサー。

 

右のストレートが顔面へと迫る。

 

だが——遅すぎる。

 

一歩も動かず、首を軽く傾けただけで、拳は空を切った。

 

「ふっ!!」

 

真横からミスティックの蹴りが鋭く迫る。

 

それも、身体をわずかに仰け反らせるだけで難なく躱した。

 

「ハンニンダー!!」

 

「うわっ!!」

 

黙って見ていられなくなったハンニンダーが隙を突いて不意打ちを仕掛けてきた。

 

ハンニンダーがミスティックへと向かっていく間、アンサーが私へと標的を切り替えた。

 

左右からのパンチ、蹴り、再びパンチ。

ミスティックもハンニンダーを退けると、すぐに連撃へと加わってくる。

 

それでも私は、身体を傾け、ステップを踏み、後退しながら一発も被弾することなく、静かに元の体勢へと戻った。

 

「全部避けられてる……」

 

「大丈夫……私たちなら勝てる!」

 

「フッ……」

 

ここまで完璧に避けられても、なお前を向ける。

 

気持ちだけで強くなれるなら、世の中そんなに苦労はしないのにね。

 

さて——そろそろ、こちらから動こうか。

 

「来ないの?ならこっちから行くよ!!」

 

「ハン……ニン……ダー!!!」

 

踏み込んだ地面が、粉々に砕け散る。

 

その爆発的な踏み込みと同時に、私とハンニンダーはミスティックへと突っ込んだ。

 

「ミスティックリフレクション!!」

 

ミスティックが宝石のバリアを展開する。

 

私の拳とハンニンダーの体当たりが激突した瞬間——衝撃波が周囲へと炸裂し、校舎の窓ガラスが一斉に粉砕された。

 

バリア越しに伝わる衝撃は、ミスティック自身の身体をも揺さぶっているようだった。

 

「うぅっ!?っ……今だ!!」

 

「アンサーアタック!!!」

 

「!」

 

ミスティックへの意識が一瞬でも薄れた、その隙。

 

背後からアンサーの強烈な一撃が迫る。

だが——それを見逃すほど、私は甘くない。

 

振り向きざま、左手で真正面から受け止めた。

 

「やるね!ニジーたちを退けただけのことはある。衝撃が身体中に伝わってくるよ!」

 

「くっ……!!」

 

アンサーとミスティックの連携は確かに完璧だ。

 

だが——互いのアイコンタクトを交わす刹那、次の攻撃へと移るまでのわずかな間。

たった数秒の隙が、致命的な攻撃のチャンスを生み出すには十分すぎる。

 

「ハンニンダー!!」

 

「が、ァ……!」

 

ハンニンダーの一撃が直撃する。

すかさず私も追撃を叩き込んだ。

 

「これはどう!!?」

 

「きゃあああああ!!!」

 

「アンサー!?」

 

「ほら、隙だらけ」

 

吹き飛んだアンサーへと視線が流れた——その瞬きほどの一瞬。

 

私はすでにミスティックの背後へと移動し、耳元で静かに囁いた。

 

「っ!」

 

「君たち、弱いね。準備運動にもならない」

 

反撃する暇すら与えず、首を掴んでそのまま地面へと叩きつける。

 

「がっ……はっ…!?」

 

「ミスティック!!」

 

格の違いを、余すことなく刻みつけてやる。

怪盗団ファントムを敵に回すということが、どういうことなのかをね!!

 

「ハンニンダーはアンサーをやっちゃって!」

 

「ハンニンダ~~!!」

 

アゲセーヌの指示を受け、ハンニンダーが高速回転しながら吹き飛んだアンサーの方へと迫っていく。

 

その間にも、私はミスティックの首を掴む力をじわりと強めた。

 

「名探偵プリキュアって、私が思った以上に大したことない存在みたいだね。これでどうやって世界を救うつもり?どう人を助けるつもり?まずは自分の力の無さから見つめ直した方が良いんじゃないかな?」

 

「あ……が……」

 

ミスティックの首がさらに締めつけられ、その目に涙が滲んでいく。

 

苦しいよね——でも、殺しはしない。

 

絶望をもっと深く刻み込んで、二度と手出しができないように、徹底的に痛めつけてやる。

 

「はあああぁぁぁぁっ!!!」

 

「ちっ……」

 

吹き飛ばされたはずのアンサーが、一気に距離を詰めて腕を振るってきた。

 

防御の隙を狙った一撃——だが当然、決定打になどなるわけがない。

腕で受け流し、後退する。

 

(ハンニンダーは?)

 

アンサーと交戦していたはずのハンニンダーへと視線を向けた。

すると片足が地面深くに埋まり、身動きが取れなくなっているハンニンダーの姿が視界に入った。

 

「ハンニンダー!?早く動いて!」

 

「ハン……ニン……」

 

アゲセーヌの焦った声に応えようとするも、深く埋まりすぎているのか、ハンニンダーは抜け出せずにもがいている。

 

「回り続けるコマにも、止まっている所が一ヶ所ある!」

 

「……頭上を狙ったの!」

 

どれだけ高速回転する物体でも、軸の部分だけはほぼ静止している。

 

アンサーはその一点を正確に突いていた。

 

戦闘中でも思考が止まらないタイプ——意外だね。

 

「ミスティック!!大丈夫!?」

 

「だ……大丈夫……」

 

アンサーの腕を取り、ゆっくりと立ち上がるミスティック。

 

だが——二人ともすでに相当のダメージを負っている。

たった数発食らっただけであの状態では、話にならない。

 

「何で……何でファントムは!!人のものを盗んだりして、みんなの笑顔を奪うなんて酷いことができるの!?」

 

下らない正義だ。

 

「酷い?一体何が酷いっていうの?元を辿れば、先に手を出してきたのはあなたたち名探偵プリキュアでしょ?私たちはウソノワール様のために、世界を嘘に塗り替えるための準備をしているだけ。何を勝手に被害者面してるの?」

 

「世界を嘘に塗り替えることが、みんなの笑顔を奪うからだよ!!」

 

私の煽るような言葉にも、すぐに反論が返ってくる。

 

あの虹ケ浜の一件を経て、二人の精神まで飛躍的に鍛えられたとでも言うの……?

 

「恐ろしい世界のために、想いがこもった大切なものを盗むなんて、そんなの絶対に許せない!!」

 

許せないとかダメだとか——その程度の実力しか持ち合わせていないくせに、綺麗ごとを並べることだけは一人前だ。

 

「はぁ、めんどくさ」

 

プリキュアというのは、いつだってそういうことしか言わない。

 

だからこそ、相容れないからこその怪盗団ファントムだ。

 

「弱いくせに、デカい声で吠えないでよ」

 

低く静かな声が、周囲の空気をじわりと冷やしていく。

 

二人の表情が——ほんの僅かだが、恐怖に染まったのがわかった。

 

精神攻撃よりも、こっちの方が有効かもしれないね。

 

「で、まだ戦うの?今度は何を見せてくれるのかなぁ~?」

 

わざと挑発して冷静さを奪おうとした。

 

だが、返ってきた言葉は予想外のものだった。

 

「なら、こっちに来なよ。強いんでしょう?」

 

「ほら、早くしてよ。劇が始まっちゃうんだから」

 

さっきとはまるで違う、落ち着いた声。

 

これは明らかに誘っている。

 

罠だとわかっていても——どんな作戦を仕掛けてきたとしても、私に一撃を入れることすら不可能だよ。

 

「終わりだよ!!名探偵プリキュア!!」

 

せめてしばらく戦えないよう、足の骨ぐらいは折っておこう——そう勝利を確信した、その瞬間だった。

 

「かかったね……」

 

「な……!ぐぅっ!!?」

 

突然、全身が強く締めつけられた。

 

視線を下げると——淡く発光するロープのような物体が、私の身体中にびっしりと巻きついている。

 

これは、まさか——

 

「プリキットライト!?」

 

「正解だよ」

 

アンサーの手に、確かにプリキットライトが握られていた。

 

一体いつの間に——。

 

いや、思い当たる節がある。

さっきアンサーを吹き飛ばした時だ。

 

ミスティックに意識を向けていたその隙に、アンサーはこっそりとハンニンダーと戦いながらトラップを仕掛けていたんだ!!

 

「勝ったと思って油断したでしょ……?決めつけちゃダメだよ!」

 

「っ……!!?」

 

この二人——私が思った以上に……!!

 

拘束が強い。

力を込めても、なかなか脱出できない!!

 

「ちょっと何やってんのジャック!?」

 

アゲセーヌの声が遠くで響く。

 

あはは……私も人のことは言えないな。

完全にプリキュアの罠にかかってしまった。

 

「あと、私たちは最初からあなたを倒そうとは考えていない」

 

「はぁ?」

 

ミスティックの言葉に、思わず裏返った声が出る。

 

最初から私を狙っていなかった?

一体何を——。

 

いや、そういえばそうだ……。

 

「私たちの目的は、最初からマコトジュエル……。つまりハンニンダーだよ!!」

 

「ハンニンダー!?」

 

この二人は——この二人は、どこまで私を楽しませてくれるんだ!!

 

さんざん弱いと決めつけていた私が、まるで道化じゃないか!

 

完全に、舐めていた!

 

「ハンニンダー……あなたも狙われてないからって決めつけちゃダメ……だよ!!」

 

「ハンニンダー!反撃して!!」

 

「ハ……ハンニン!?」

 

アゲセーヌの指示に、ハンニンダーが慌てて攻撃動作へと移ろうとする。

だが、遅すぎた。

 

ハンニンダーはまだ地面から抜け出せないまま。

 

その間にも、プリキュアの二人はすでに浄化技の射程圏内へと踏み込んでいた。

 

「「オープン!プリキットミラールーペ!!」」

 

あの大袈裟な伝説の道具とやらを取り出して、ハンニンダーの処刑の儀式が始まった。

 

「「ポチタン!」」

 

「ポチー!」

 

どこからともなく、妖精が現れる。

 

あんな赤ちゃんみたいな妖精に一体何ができるというんだろうか。

 

ウソノワール様曰く、時空の妖精らしいが、本来の力を完全に取り戻したとしたら一体どうなるんだろうか?

 

「「マコトジュエル!」」

 

ポチタンから投げ渡されたマコトジュエルを受け取ったプリキュアが、ミラールーペに装着する。

鏡の蓋が、静かに開いた。

 

「見て!」

 

「感じて!」

 

「「謎を解く!」」

 

マコトジュエルが嵌め込まれた部分の上部、結晶がゆっくりと回転し始める。

 

二人の手に、力が漲っていった。

 

「「これが、私たちの答え(アンサー)だ!!」」

 

高らかな声とともに、浄化技が発動。

 

「「プリキュア!フライング・スペクトル!!」」

 

白く輝く鳥が猛烈な勢いでハンニンダーを貫き、眩い閃光が空へと立ち上る。

 

「「キュアット解決!」」

 

「ハン……ニン……ダー………」

 

浄化技を直撃したハンニンダーは、そのまま天へと召されていった。

いや、正確には生き物ではないから、消滅しただけだ。

 

「ポチポチ!キュアキュア!」

 

マコトジュエルは結局プリキュアの手に渡り、ポチタンとかいう妖精のエネルギー源へと変わってしまった。

 

ドレスもプリキュアの手に渡る。

もっとも、私はドレス自体には何の興味もないから、どうでもいいのだが。

 

というか、私はずっと縛られたままなんだけど——いつまでこの茶番を眺めていなければならないのだろうか?

 

あれほど攻め立てておきながら、あっけなく形勢を逆転されて終わった。

その事実が、じわりと重く心の中に沈んでいく。

 

プリキュアを舐めた弊害が、この結果だ。

 

——名探偵プリキュア。

考えを改めよう。

 

この二人は、強い。

そして、これからも強くなる。

 

「あーあ。ま、家入しるくもまあまあイケてるけど、アタシの方がアゲアゲだし!」

 

アゲセーヌは一言だけ残して、姿を消してしまった。

どんな捨て台詞だよ……。

 

すると、荒らされた周囲が全て元通りになっていく。

 

縛りつけていたプリキットライトの効力が消えたのか、私の身体も静かに解放された。

 

地面に両手と膝をつく。

初戦にも関わらず、二人の前に無様な姿を晒してしまった。

 

「ジャック……もうこんなことはやめて……」

 

ミスティックが静かに話しかけてきた。

 

少し悲しそうな声。

だが——そんなものは、私の心には何も響かない。

 

「……一つ忠告しておくよ。怪盗団ファントムを敵に回した報いは、必ず返ってくる。それだけは覚えておいて」

「待って!!」

 

マコトジュエルが取り返された以上、もうここにいる理由はない。

 

忠告だけを言い残して、私はその場を迷わず離れていった。

 

 

_______________

 

 

 

【みのるSide】

 

「舞踏会、行けなかったね……。王子様にも、会えなかった」

 

1999年にタイムスリップしたシンデレラは、出会った中学生の少女と助け合いながら、元の時代へと帰ることができた。

 

しかし、舞踏会には間に合わなかった。

 

王子様と会う機会を、シンデレラは失ってしまったのだ。

 

「でも、私はあなたと会えたわ。毎日がキラキラしていた!まるで、舞踏会みたいに!」

 

「……シンデレラ!」

 

それでもシンデレラは落ち込まなかった。

 

瞳を輝かせ、真っ直ぐに少女と向き合う。

 

少女との出会いから、シンデレラの心はもうすでに救われていたのだ。

 

「一緒に踊りましょう!」

 

「うん!」

 

手を取り合って踊る二人は、まるで天使の舞のように。

 

いつまでもいつまでも、幸せな時間を共に歩んでいった。

 

 

_______________

 

 

 

『私も、シンデレラと同じ気持ちです!みんなと会えて良かった!!』

 

テレビ越しに、しるくさんが涙をこらえながら笑っていた。

 

その周りでは演劇部のみんなも涙を流していて、画面のこちら側では、みくるが感極まって号泣している。

 

「うぅぅぅぅ……私゙も゙じる゙ぐざん゙ど会゙え゙で良゙がっ゙だ……」

 

「私も……!」

 

「なんて心に響く物語なの……!」

 

最初は『シンデレラと中学生』なんて、わけのわからないタイトルだと思っていた。

 

でも、想像をはるかに超えた完成度に、気づけばテレビに食いついていた。

 

新入生歓迎会で一度見たはずなのに、何回でも見る価値があると思えるほど、私はその脚本に魅入られていた。

 

私たちがステージにいる間に、舞台袖に全力疾走してきたあんなとみくるの様子は今でもはっきり覚えている。

 

気絶させられていたらしい本物のディレクターさんも無事に目を覚まし、劇が始まる頃には既に現場に復帰していた。

 

「グスッ……」

 

「「「え?」」」

 

後ろから鼻をすする音が聞こえた。

 

振り返ると——ジェット先輩が机に顔を隠して、小さく震えている。

 

「ジェット先輩?」

 

「……泣いてる?」

 

「泣いてるわけないだろ!!?」

 

必死に否定するジェット先輩。

 

でも顔は真っ赤で、目元には涙が滲んでいるのがしっかりわかる。

 

「ふふ~ん……?ジェット先輩の意外な部分、見つけちゃった♡」

 

「ポチ~!」

 

「うるさあぁぁぁい!!」

 

私とポチタンのわざとらしい煽りに全力で絶叫するジェット先輩。

 

その光景が、なんとも愉快だった。

 

「しるくさん……また会いたいなあ……!」

 

たった一日だけの短い時間。

 

それでもかなりバタバタしていて、濃密な一日だった。

 

まさか私がステージに立って、しるくさんの隣で司会をするなんて誰が想像できただろうか。

 

あの一日だけで、しるくさんの人気も人柄も、ほとんど理解できた気がする。

 

だからこそ、断言できる。

あれほどの売れっ子なら、もう会うことはないだろう、と。

 

「いや無理だろ!あんな有名人と簡単に会えるわけ——」

 

——ガチャ

 

ジェット先輩が否定した、まさにその瞬間。

 

部屋の扉がゆっくりと開かれた。

カツン……コツン……と乾いた靴音を響かせながら、その人物が姿を現す。

 

「あ……」

 

「うぇ……」

 

「は……」

 

白い帽子、水色のロングヘア。

間違いなく、あの人だ。

 

「決めつけちゃ、ダメだよ?」

 

帽子を取って、サングラスを外す。

 

その佇まいは、どう見ても家入しるくさん本人だった。

 

さっきまでテレビの中にいた人が、今、目の前に立っている。

普通ではありえない、夢みたいな光景。

 

「う……嘘!?」

 

「しるくさん!?」

 

「どうして!?」

 

「えええ!!?」

 

全員が、それぞれ驚きの声を上げた。

 

「これを見てね……」

 

「あの時の!」

 

しるくさんの手には、あんなとみくるが渡した二枚の名刺が握られていた。

 

この名刺を頼りに、わざわざ事務所まで来てくれたのか。

 

「りえちゃんから、プリティホリックのフレグランスがオススメって聞いたから来ちゃった!」

 

確かにりえも、あの香水が一番好きだって喜んでたな……。

 

匂いが強くなくて控えめなところも、個人的にポイントが高い一品だと思う。

 

「見せてもらえるかな?」

 

「も、もちろんだ!あぁぁ……!?」

 

しるくさんの微笑みに顔を真っ赤にして、つまずきながらも作業机へと戻っていくジェット先輩。

 

ジェット先輩って、しるくさんみたいな人がタイプなのかな?

 

「他にも、いろんなコスメがあるから見てってくれ!!」

 

慌てちゃって……かわいいところもあるんだね……。

 

「しるくさん!」

 

「ん?」

 

「「ふふふ……!」」

 

ジェット先輩の様子を見てまた微笑んだしるくさんに、あんなとみくるが甘えてくる子供みたいにそっと近づいた。

 

「「いらっしゃ~い!!」」

 

二人がしるくさんの来訪を大歓迎する。

 

ちょうどジェット先輩も別の商品を抱えて戻ってきて、事務所はまたたく間に賑やかな空気に包まれた。

 

窓の外には、相変わらず澄んだ青空が広がっている。

 

この平和な日常が、これからもずっと続いていくような気がした。

 

そんな保証なんてどこにもないのに。

今までそんなことを思ったことも一度もなかったのに——。

 

私に居場所ができたことで、自分の心も、少しずつ穏やかになっていくのを感じていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。