かわいいホームズの親友ちゃんは、相棒の座を奪われて焦心苦慮   作:くぁwせdrftgyふじこlp

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真相への第一歩

【みのるSide】

 

犯人は、宇都美さん本人だった。

 

今回は容疑者が一人しかいなかったから答えにたどり着きやすかったとはいえ、普通の人間なら盗まれた側が犯人だなんて、夢にも思わないだろう。

 

「ポチ!?……ポチ…!」

 

みくるの言葉が静寂を切り裂いた瞬間、ジェット先輩とポチタンが同時に衝撃の声を上げ、ポチタンは慌てて口を押さえた。

 

「ちょっと、何言ってるんだ!?」

 

「あなたは、強引にバッグを押し込んでた。道具のしまい方がわからないんじゃないんですか?」

 

「な!」

 

みくるの指摘が、偽物の宇都美さんを真っ直ぐに貫く。

 

カメラが入っているであろうバッグを、本物の宇都美さんがそんな雑な扱い方をするはずがない。

 

プロのカメラマンなら、なおさらのこと。

 

「それに、私たちがこの事件現場に早く着いたのは、謎を解く鍵。あなたは、カメラを盗んで逃げようとした。ちょうどその時、私たちが来たから盗まれた人のフリ、つまり宇都美さんに変装して誤魔化したんだ!」

 

「カメラは、そのバッグの中にある!」

 

私たちが予想以上に近くにいたことは、向こうにとっての完全な誤算だったのだろう。

 

だからこそ、その場しのぎで変装するしかなかった。

 

被害者のふりをして難をやり過ごすつもりだったのだろうけど、二人の推理力の前ではそれも通じなかった。

 

「はぁ……チョベリバ~……」

 

観念したのか、偽物の宇都美さんは深い溜め息をついた。

 

その口から漏れたのは、聞き覚えのあるギャル語。

ということは、今回の相手は――

 

「チョー早く来るからマジ最悪ー」

 

「「アゲセーヌ!!」」

 

アゲセーヌだ。

 

美術館以来の登場だったが、今度はどんなハンニンダーを見せてくれるのだろう。

 

そんなことを純粋に楽しみにしている自分に気づいて、私は少し恐ろしくなった。

 

「確かにカメラあるし、アンタたちが負ける姿を撮影してあげるっしょ!」

 

カバンから取り出されたのは、年季の入った一台のカメラ。

これが実際に盗もうとしたカメラだろう。

 

「ウソよ覆え!チョベリグにしちゃって~!ハンニンダー!」

 

アゲセーヌがそっと息を吹くと、飛ばされたハイビスカスがカメラの横にふわりと添えられた。

 

そしてそこに宿っていたマコトジュエルが黒く染まり、カメラを素体にしたハンニンダーが姿を現した。

 

「ハ~ン、ハンニンダ!」

 

……はい、チーズみたいに言うな。

 

最近のハンニンダーの声はいろいろと癖がありすぎる。

もう勝てないからって、半分遊んでるんじゃないだろうか。

 

「みくる!」

 

「うん!」

 

あんなとみくるは、ジュエルキュアウォッチを手に、名探偵プリキュアへと変身を開始。

 

「「オープン!ジュエルキュアウォッチ!」」

 

眩い光が二人を包んだかと思うと、鮮やかな衣装がその身にまとわれていく。

 

その姿は、可愛さと強さを同時に備えていて、見る者全てを惹きつけるような勢いだ。

 

「どんな謎でも、はなまる解決!名探偵『キュアアンサー』!」

 

「重ねた推理で、笑顔にジャンプ!名探偵『キュアミスティック』!」

 

「「名探偵プリキュア!!」」

 

名乗りが終わると同時に、光が四方へ弾けた。

 

その瞬間が、戦闘開始の合図だ。

 

「行くよ!ハンニンダー!はい、チーズ!」

 

「「うっ!?」」

 

アゲセーヌの指示が飛び、ハンニンダーの上部に備わったライトから、激しいフラッシュが焚かれた。

 

「フラッシュか!?」

 

「眩しっ……!」

 

「ポチ~……」

 

まるで閃光弾を至近距離で受けたような強烈な光。

 

今回のハンニンダーは目眩ましに特化したタイプなのか。

 

直視したら失明しかねない勢いで、こちらまで巻き込まれたら一瞬で視界が奪われる。

気を抜けない。

 

「ハ~ンニ~ンダ!!」

 

「「ぐっ!!」」

 

大きな隙が生まれたその瞬間を逃さず、ハンニンダーの体当たりがプリキュアの二人へ直撃した。

 

視界を奪って状況をわからなくさせるのは、かなり厄介な戦法だ。

 

「アンタたちが負ける写真、あとで焼き増ししてあげるっしょ!」

 

「フラッシュが来るぞ!!」

 

ジェット先輩がすかさずゴーグルを装着し、ポチタンの目も手で覆ってフラッシュに備える。

 

私にできることといえば、とにかく目を閉じることだけだった。

 

しかし、二人はすでにこのハンニンダーへの対策を組み立てている。

 

「ミスティックリフレクション!」

 

ミスティックの張ったバリアが、ハンニンダーのフラッシュをそのまま反射し、光はハンニンダー本体へと跳ね返っていった。

 

「ハン!?ハッ……ハッ!?」

 

自分で自分のフラッシュを浴びて目が眩んだハンニンダーに大きな隙が生まれた。

 

ミスティックリフレクション――名前の通り、ただ攻撃を防ぐだけでなく、状況に応じて相手の攻撃を跳ね返すカウンターとしての役割も持っている。

 

一見シンプルな防御技のようで、意外なほど万能だ。

 

「アンサーアタック!!」

 

そこへすかさずアンサーが追撃をかけた。

渾身の一撃がクリーンヒットし、ハンニンダーの巨体が激しく吹き飛ばされる。

 

「ハアァァァァ……!!?」

 

「ハンニンダー!?」

 

そのまま遥か彼方までぶっ飛ばされ、アゲセーヌが慌てて後を追っていく。

 

どれほど厄介な能力を持っていようと、プリキュアの前では一瞬で破られた。

 

あとは浄化技さえぶつければ、ハンニンダーを倒せる。

そう確信した時だった。

 

向こうからこちらへと歩いてくる人影が目に入る。

 

「るるかさん!?」

 

アンサーの声に、その場にいた全員の視線がるるかさんへと集まった。

 

さっき一言だけ言い残して去っていったはずなのに、どうして今になって戻ってきたのだろう。

 

「……と、アルカナ・シャドウ?」

 

「どう、似合ってるでしょ?」

 

るるかさんの横に立っていたのは、アルカナ・シャドウ……ではなく、その衣装を身にまとったマシュタンだ。

 

その衣装がジェット先輩の手によるものかどうかはわからないが、ポチタンの衣装と大差ない完成度であることは間違いない。

 

「湖で、何か見つけたの?」

 

しかし、るるかさんの表情は真剣そのもの。

 

湖で見つけたのはあの紙切れのようなものだが、るるかさんのその反応を見るに、恐らくあの中には誰かに知られたくない真実が込められているのだろうと察した。

 

「「……………」」

 

二人は黙ったまま、何も言わない。

 

けれど、そんなことでるるかさんの目を誤魔化せるはずもなかった。

 

「答えなくても、顔に書いてある」

 

そう言うなり、るるかさんはおもむろにティアアルカナロッドを構え、変身を開始した。

 

「オープン、ティアアルカナロッド」

 

光がその身にまとわりつき、漆黒の天使が静かに舞い降りる。

 

その存在感は、もはやアンサーとミスティックの二人すら霞んでしまうほどの圧倒的な気迫を帯びていた。

 

「神秘と秘密で包み込む、『キュアアルカナ・シャドウ』」

 

光が弾けると同時に、アルカナ・シャドウの鋭い視線が名探偵プリキュアの二人へと向けられる。

 

「何を見つけたの?」

 

「!!」

 

凄まじい速さだった。

 

瞬きをする間もなく、アルカナ・シャドウはアンサーの背後へと移動している。

 

よほど拾った紙切れの情報を探られたくないのか、いつも以上に攻めに回っていた。

 

背後からの回し蹴りを、アンサーは跳び退いて紙一重で回避する。

 

走り出したアンサーとアルカナ・シャドウに並走する形で、ミスティックも並んだ。

 

「わからない……でも!あなたのことがきっとわかる!何か!」

 

ミスティックがアルカナ・シャドウへと距離を詰め、攻撃を仕掛ける。

アンサーもそれに続いた。

 

「やあぁぁっ!!」

 

「はぁっ!!」

 

しかし、同じプリキュア相手に真正面から殴りかかるだけでは通用しない。

 

それぞれの方向から迫る二人の拳が、片手で軽々と防がれた。

 

「アルカナ・シャドウ頑張れ!」

 

マシュタンが声を張り上げてアルカナ・シャドウを応援している。

 

それに負けじとポチタンも便乗し、ミスティックの衣装をまとったまま声援を送った。

 

「ポチ~!ミスティック、がんばれ!」

 

……………。

 

……キュアアンサーは??

 

(ほら、ジェット先輩!今は流れに合わせて「アンサー、頑張れ!」って応援しないと!)

 

(はぁぁ!?お前がやれよ!?)

 

ごめんアンサー。

心の中ではちゃんと応援しているから、応援の押し付け合いで争っている情けない私たちのことを、どうか許してください。

 

「ぐぅっ!?」

 

アルカナ・シャドウの蹴りをまともに食らい、アンサーが大きく後退させられた。

 

アルカナ・シャドウは間髪入れず、アルカナロッドの先端をミスティックへと向け、圧縮した光弾を一気に放つ。

 

「ミスティックリフレクション!」

 

ミスティックもすぐにバリアを展開して迎え撃つが、光弾は爆ぜることも、勢いが衰えることもなく、じわじわとバリアごと押し返してくる。

 

「うう……」

 

体術だけでなく、遠距離攻撃まで強力となると、ジャックと似たような厄介さだ。

 

一筋縄ではいかないことは、見ているだけで十分すぎるほどわかる。

 

「ミスティック!」

 

「アルカナ・シャドウ!」

 

ポチタンとマシュタンの応援もヒートアップしていく中、ミスティックが必死に押し返すと、アルカナ・シャドウはさらに威力を底上げしてきた。

 

「っ!!」

 

埒が明かないと判断したのか、アルカナ・シャドウはそのまま光弾を炸裂させた。

 

周囲を爆風が巻き込み、ミスティックのバリアがあっさりと砕け散る。

 

「きゃああっ!?」

 

初めて見た光景。

 

あれだけ何度もあらゆる攻撃を防いできた、あの強固なバリアが破られる瞬間を。

 

衝撃とともにミスティックの体が大きく吹き飛んでいく。

 

「アルカナスターレイン」

 

続いて、背後から接近するアンサーに向けて大量のレーザーが放たれた。

 

しかしアンサーはそのレーザーの軌道をわずかな時間で見切り、隙間を縫うように躱しながら一気に距離を詰める。

 

そして至近距離まで肉薄してアルカナロッドを掴み、追撃を強引に封じた。

 

「力になりたいの!!」

 

「……!」

 

アンサーがアルカナ・シャドウに真っ直ぐ声をかける。

 

他のファントムの幹部とは違う。

根っから悪人とは思えない雰囲気がある。

 

だからこそアンサーはアルカナ・シャドウの本音が聞きたいのだろう。

 

探偵だったるるかさんが、怪盗団側へと寝返ってしまった理由を知りたいのだ。

 

「写真のるるかさん、笑ってた!!」

 

「……………」

 

「何があったのかわからないけど、力になりたい!それが探偵でしょ!!」

 

探偵とは互いに助け合って人々を救う存在だと、アンサーは信じている。

 

しかし、アルカナ・シャドウの答えはその真逆だった。

 

「いいえ、探偵は依頼があって動くもの。私、依頼してないけど」

 

依頼されて初めて事件を捜査する。

 

助け合いも積極的な声かけも必要ない、ただ決められた仕事を全うするだけの存在だと、そう言いたいのだろう。

 

アンサーがアルカナ・シャドウを助けたいと思う気持ちも、アルカナ・シャドウの目から見れば、勝手に自分の過去を掘り起こし、勝手に助けようとしてくる不快な存在に映っているのかもしれない。

 

二人の間にある溝は、思っていたよりもずっと深かった。

 

「わっ!?」

 

「「アンサー!?」」

 

アルカナ・シャドウがアルカナロッドを鋭く振り抜き、アンサーを弾き飛ばした。

 

アンサーの説得は、まるで通用しなかった。

 

「私はウソノワールの嘘で覆われたわけでもない。自分の意志でファントムにいる!全て、私が決めたこと!」

 

ウソノワールにつけ込まれたわけでも、洗脳されたわけでもなく、自らの意志でファントムに入ったという。

 

そこが一番の謎なのに、何もわからないのがもどかしかった。

 

それを受け入れたウソノワールも、一体どういうつもりでその判断を下したのだろう。

 

「あなたと同じ、『自分の一歩は、自分で決める』!!」

 

「………!!」

 

アンサーの表情が、みるみる歪んでいくのがわかった。

 

「力になりたい」と純粋に手を差し伸べたはずなのに、アルカナ・シャドウはアンサー自身が使っていた言葉を逆手に取り、ファントムにいる自分の選択を正当化する形で叩き返してきたのだ。

 

あの言葉は励ましと信頼のつもりで贈ったものだったのに、相手にとっては「干渉しないで」という拒絶の武器として返ってきた。

 

なんとも皮肉な話だと思った。

 

「ハーン!ハンニンダ~!」

 

よりによってこんなタイミングで、ハンニンダーが戻ってきた。

 

このままでは挟撃される形になってしまい、面倒なことになる。

 

「っ……!アルカナ・シャドウも大事だけど、マコトジュエルを取り返さないと!」

 

「うん!」

 

二人は優先順位をハンニンダーへと切り替え、マコトジュエルを取り返すことに専念した。

 

「ハン!!」

 

振り下ろされた拳を紙一重で躱し、アンサーとミスティックが左右から同時にパンチを叩き込む。

 

「「はぁっ!」」

 

「ハン!?」

 

左右から受けた衝撃でハンニンダーの両側が大きく凹み、まるで頬を思い切り掴まれたような、何とも間の抜けた状態になった。

 

「ハンニンダー!アゲてくし!」

 

「ハン……ニン……」

 

今の一撃でよほどのダメージを負ったのか、アゲセーヌの命令にも弱々しい声しか返せなくなっていた。

 

なんとなく気の毒な気もしたが、放っておくわけにもいかない。

 

せめてこれ以上苦しまないように浄化されることを心の中で祈った。

 

「「オープン!プリキットミラールーペ!」」

 

今回は二人そろってのいつもの浄化技だ。

ポチタンからマコトジュエルを受け取り、ミラールーペの宝石を回して一気に力を解き放つ。

 

「「プリキュア!フライング・スペクトル!」」

 

純白の鳥が宙を舞い、ハンニンダーの巨体を豪快に貫いた。

 

「「キュアット解決!」」

 

閃光がハンニンダーを包み込み、浄化が完了。

 

「ハーン……ハン、ニン、ダー………」

 

浄化され、消滅したハンニンダーからマコトジュエルが復活し、ポチタンがそれを吸収する。

 

素体にされていた宇都美さんのカメラも無事に元通りになったことで、今回の騒動はひとまずこれで解決した。

 

「アゲが使ってたイケてるカメラなら勝てたのにぃぃぃ!チョベリバー!」

 

捨て台詞を残して、アゲセーヌは逃げ去っていった。

 

アゲセーヌが使っているカメラなら勝てる、というのは一体どういう理屈なのだろう。

 

最後まで謎を残していくあたり、ある意味見事だと思った。

 

「もういい……」

 

「「え?」」

 

様子を見ていたアルカナ・シャドウは、アゲセーヌが撤退したのと同時に戦闘を切り上げ、静かにマシュタンを呼んだ。

 

「マシュタン、アイス食べて帰ろう」

 

「え?」

 

あまりにも唐突な撤退宣言に、マシュタンが困惑している。

 

しかしアルカナ・シャドウはそのまま踵を返し、迷いなく歩き出した。

 

「待って!」

 

アンサーが呼び止めると、アルカナ・シャドウはふと立ち止まり、そっと振り返った。

 

「元名探偵から、かわいい後輩たちへアドバイス」

 

「「………」」

 

元名探偵……もう自分は探偵ではないと、そう思っているのだろうか。

 

そしてアドバイスと言うには、その言葉にはかなりの重みが込められているような気がした。

 

「探偵では、解決できない事件もあるの」

 

「ちょっとおおお~!」

 

一言だけ残して、アルカナ・シャドウは去っていった。

 

慌てて後を追うマシュタンを目で追いながら、私たちは何も言えないまま、ただ呆然とその場に立ち尽くしていた。

 

探偵でも解決できない事件。

 

それはるるかさんが今置かれている状況を暗示しているのだろうか。

 

その言葉の意味が、じわじわと胸の奥に沈んでいった。

 

 

_______________

 

 

 

「え!?カメラが!?」

 

「ああ、盗られるところだったんだぞ……」

 

しばらくバッグの近くで待っていると、本物の宇都美さんが別のカメラを手に戻ってきた。

 

私たちは順を追って事の経緯を説明した。

 

「いや~珍しい蝶が飛んできたから、バッグを置いたままもう一台のカメラを持って追いかけて行っちゃって……」

 

「なるほど!そういうことか!」

 

珍しい蝶……ついこの前も事務所に青くて綺麗な蝶が迷い込んできたことがあったけど、この湖にもそういった珍しい種類がいるのだろうか。

 

それにしても、危機管理がなさすぎではないだろうか。

日本は治安がいいからまだしも、外国なら一瞬目を離しただけで盗まれているところだ。

 

「風景を撮るのが趣味なんですか?」

 

「風景というか、蝶の写真を撮るのが趣味なんだけど、この辺、蝶がたくさんいてね。ついつい夢中になっちゃって……」

 

この湖が蝶の生息地だったとは。

湖の存在自体は知っていたけど、蝶が多いというのは今日初めて知った。

 

そもそもあまり足を運ぶ場所ではなかったから、知らなかっただけかもしれないけど。

 

「君たちは何してたの?」

 

「ええ、ちょっと探し物を」

 

「カメラのお礼に、探すのを手伝うよ」

 

正確には探し物ではなく、調査の途中で偶然見つけた紙切れのことだ。

 

ただ、カメラマンの宇都美さんなら何か知っているかもしれない。

 

「あ、見つけたんです。ただ……まあ、何なのか……よくわからないんですけど」

 

あんながポケットから、さっき拾った紙切れを取り出して宇都美さんに差し出した。

 

「ん……写真?」

 

「「「写真!?」」」

 

宇都美さんはあっさりと紙切れの正体を言い当て、あんなたちが揃って衝撃の声を上げた。

 

これが写真……言われてみれば、確かに何か似ている気もするが。

 

「うん、最近出たカメラでね。撮った写真をその場でプリントアウトできるんだ」

 

プリントアウトの機能がついたカメラ。

最新型だったから、私たちには写真だとわからなかったのだ。

 

「これが……?」

 

「写真なの……?」

 

「ああ、色褪せちゃってるけど」

 

写真だということはわかった。

しかし肝心の内容は、依然として何も見えない。

 

この一枚の写真には、一体どんな真実が隠されているのだろう。

 

るるかさんがファントムに堕ちた理由の謎に、ほんの少しだけ近づけた気がした。

 

 

__________

 

 

 

事務所に戻り、あんなとみくるは写真の調査を再開した。

 

「どんなに色褪せてても、きっとミラールーペなら見えるはずだ!」

 

肉眼ではどうにもわからない。

 

だけどプリキットミラールーペは、そんなわからないことすらお構いなしに手がかりを写し出してくれる。

 

前にも思ったかもしれないけど、やっぱりこれは一番警察官に持たせるべき道具なんじゃないだろうか。

 

「「んんん……?」」

 

ルーペ越しに写真を食い入るように凝視する二人。

すると何かが浮かび上がってきたのか、揃って声を上げた。

 

「「あ!?」」

 

「なんだ!何が見えた!?」

 

「核心に触れるようなものは映ってる?」

 

この写真には、アルカナ・シャドウが見てきた結末の一部が刻まれているはずだ。

 

一体何が浮かび上がったのだろうと、私も思わず身を乗り出す。

 

「うん……青い蝶々」

 

「それだけ?」

 

「うん」

 

青い蝶、それだけしか情報がなかった。

 

しかしミラールーペが映し出したということは、重要な手がかりであることは間違いないだろう。

 

青い蝶が示す要素とは何なのか。

 

「あの辺蝶々がたくさんいるって言ってたし、手がかりじゃないのかな?」

 

「うーん……」

 

あんなはもう一度ミラールーペを構え、他に手がかりがないか丹念に探し始めた。

 

「どうだ?」

 

しかし、あんなのミラールーペを持つ手が写真から外れ、なぜかジェット先輩の顔へとじわじわ近づいていった。

 

「あああっ!?口元にアイスの証拠が!?」

 

アイス?

 

よく見ると、ジェット先輩の口元にわずかにアイスの食べかすがついていた。

 

この妖精、いつの間に食べたんだ。

というか本当にお菓子が好きなんだな……甘いものを食べないと頭が回らないというのは、嘘なんじゃないかと疑ってしまう。

 

「くっ……仕方ないだろ!アルカナ・シャドウが食べるって言ってたから食べたくなっちゃって……」

 

「「むうううぅぅ!!」」

 

それを聞いた二人は、ぷっくりとほっぺを膨らませてふくれっ面になった。

 

そのほっぺをつついてみたいという衝動が湧き上がってきたが、今は我慢だ。

 

「私たちが調べてる間に!!」

 

「ずるい!!」

 

「ずるいずるい!」

 

二人に続いてポチタンまでが言葉を繰り返す。

 

確かに、二人が真剣に調査をしている最中に一人だけこっそりアイスを食べるなんて。

 

「罰として、残りのアイスは私たちが全部食べようか」

 

「「さんせ~い!!」」

 

私の提案に二人が声を揃えて賛成し、勢いよく冷蔵庫の方へ駆けていった。

 

ずっと調査をして無理をするのも体に毒だ。

たまには休息も必要だろう。

 

「そんなぁぁ~!」

 

ジェット先輩の嘆きが事務所に響き渡る中、冷蔵庫に残っていたアイスは後で私たちがおいしくいただきました。

 

 

_______________

 

 

 

【るるかSide】

 

劇場のエントランスには、いつも静寂がまとわりついている。

でも、それが逆に落ち着く。

 

「手紙はもういいわけ?本当にあの子たち放っておいて良かったの?」

 

マシュタンが手紙のことを心配してくれているのはわかっていた。

けれど、これ以上追及したところで意味はないでしょう。

 

結局手紙の内容は読まれてしまい、私の名前や一部の情報がプリキュアの二人に把握されてしまった。

 

でも、それくらいなら特に支障はない。

 

「ええ、マシュタンの占いの通り、新たな秘密を見つけたとして、今の名探偵さんたちの力じゃあの謎は解けない」

 

そう、あれは半年前のことだった。

 

怪盗団ファントムはついにマコトジュエルの場所を突き止め、私は悪用されるのを阻止するために一人で戦った。

 

しかし、ウソノワールの圧倒的な力の前では、数分と持たなかった。

 

『ウソノワール様がマコトジュエルを取った!チョベリグ記念っしょ!!』

 

近くにいたアゲセーヌがカメラを構えてシャッターを切ったその瞬間、側から高速で蝶のような何かが飛び出し、直撃したマコトジュエルは粉々に砕け散った。

 

その瞬間に撮られたアゲセーヌの写真がその場でプリントされ、橋の隅に落ち、そしてあんなたちプリキュアがそれを拾った。

 

「仮にあの謎が解けるとしても、多分……ずっと先の話。放っておきましょう」

 

この謎が解決する日が来た頃には、ウソノワールの力はさらに強大になっているはずだ。

 

そうならないのが一番だけれど、この運命を変えられるほど、世の中は甘くない。

 

静寂の中で、私はただそう思うだけだった。

 

 

_______________

 

 

 

【みのるSide】

 

夕暮れの風が、事務所の窓を細く震わせている。

 

日没前特有の静けさの中に、遠くの通行人の生活音だけが微かに混じる。

 

空は茜色から群青へと移り変わり始め、世界の輪郭が少しずつ曖昧になっていく時間だった。

 

私は呼び出された場所へ向かいながら、小さく首を傾げていた。

 

「どうしたのジェット先輩?話があるって…」

 

私が声をかけると、ジェット先輩はいつものように気だるげな表情のまま、白衣のポケットへ手を突っ込んだ。

 

「ああ、実はな…」

 

取り出されたのは、小さな銀色のケースで手のひらに収まる程度のサイズ。

金属製のそれは夕陽を反射して鈍く光っている。

 

カチ、と静かな音を立てて蓋が開き、中に入っていたのは透明な小瓶だった。

 

瓶の内部には淡い虹色の液体が揺れている。

まるで液体そのものが光を抱えているみたいに。

 

「何それ?」

 

尋ねた私に、ジェット先輩は淡々と答えた。

 

「手紙と一緒に届いたんだ。ロンドンのキュアット探偵事務所が開発した、プリキュアに特化した治療薬。その試作品だ」

 

「プリキュア?治療薬?」

 

頭の中で単語同士がうまく繋がらない。

 

プリキュア

治療薬

試作品

 

どれも単独なら理解できるのに、一列に並ぶだけで急に現実味が消える。

 

私が困惑した顔をしていたのだろう。

ジェット先輩は小さく苦笑した。

 

「悪い、一気に話しすぎたな」

 

そう言って、小瓶を夕陽へ透かす。

虹色の液体が、まるで生き物みたいにゆっくり揺れた。

 

「要するに、万が一のことがあってプリキュアが大怪我を負っても、この治療薬を使えばどんな怪我も治るんだ」

 

一瞬、言葉の意味が理解できなかった。

 

「……どんな怪我も?」

 

「ああ。骨折だろうが致命傷だろうが、理論上は全部修復できるらしい」

 

さらりと言うけれど、それは医療の常識を根底から覆す話だ。

 

私は思わず小瓶を凝視した。

こんな小さな瓶に、そんな馬鹿げた力が詰まっているというのか。

 

「そんなすごい薬、どうやって造ったの?」

 

ジェット先輩は少しだけ真顔になった。

 

「人々に宿るマコトジュエルの力を、長い時間をかけて抽出したんだ。これくらいの量で大体100年分ってとこかな」

 

「これだけの量で100年!?」

 

声が裏返る。

小瓶の中身はせいぜい一口程度しかない。

 

インク瓶を倒した時の染みの方がよほど多いくらいだ。

 

なのに、それが百年。

百年分の“人の想い”が、この中に圧縮されている。

 

そう考えた瞬間、私は妙な息苦しさを覚えた。

 

この液体は綺麗だ。

けれど、綺麗すぎる。

 

人の願いだとか祈りだとか、そういう目に見えないものを無理やり結晶化したような、不自然な神秘性があった。

 

「その分効果は確実だって実験結果が出ているらしい。まだ試作品の段階だから本当かはわからないけどな」

 

ジェット先輩が苦笑するけれど、その声色には僅かな警戒が混じっていた。

たぶん先輩自身も、この薬を完全には信用していないのだろう。

 

“どんな怪我も治る”

 

そんなもの、あまりにも都合が良すぎる。

 

「でも、なんでそんな治療薬を……?」

 

問いかけながら、私は小瓶から視線を離せなかった。

 

プリキュアが命を落としかける戦い。

それを前提に作られた薬。

 

そんなものが必要になるほど、昔から戦いは過酷だったということなのだろうか。

 

夕陽が完全に沈みかけ、世界が薄闇に染まり始める。

私は静かに息を飲み込んだ。

 

「プリキュアって……100年前からいたの?」

 

ジェット先輩は、夕暮れに染まる空を一度だけ見上げてから、小瓶をケースへ戻した。

 

金属の蓋が閉じる音が響く。

 

「いや、そんな昔にプリキュアはいなかった。だが『ノワール』という妖精が造るようにお願いしたらしいんだ」

 

「ノワール……」

 

その名前を聞いた瞬間、胸の奥で何かが小さく揺れた。

 

懐かしい――というには不思議な感覚だった。

実際に会ったことがあるわけでもないのに。

 

「ノワール……久しぶりに聞いた名前だね。確か未来視を持つ時空の妖精……」

 

「ああ」

 

ジェット先輩は静かに頷く。

 

「未来視ということだから、現代になってプリキュアという存在が生まれる未来を見たんだろう…」

 

未来を見る。

 

言葉にしてしまえば簡単だ。

 

けれど実際には、人智を超えた領域の力。

 

一秒先を見るだけでも十分異常なのに、“時代”を超えて未来を見通すなど、もはや神の所業に近い。

 

「凄まじい能力だよね…常に一手どころか数千手先まで見れるんだから。本当にどこに消えたんだろうね」

 

チェスや将棋で先を読む、なんて次元ではない。

 

人類の歴史や文明。

戦争、出会い、別れ。

 

その全ての分岐を見渡していたのだとしたら――ノワールという妖精は、どれほどの存在だったのだろう。

 

ただ、未来が見えるということは、避けられない悲劇も見えてしまうということだ。

 

誰かの死も、裏切りも、絶望も。

 

全部

 

ジェット先輩が低い声で話した。

 

「ファントムに倒されたと言われてる伝説の妖精……その結末を見て回避することだってできたはずだが…」

 

私は無意識に唇を噛んだ。

確かに、未来が見えるなら回避できるはずだ。

 

なのに、ノワールは消えた。

それはつまり――。

 

「……避けられなかった、のかな」

 

呟きは、自分でも驚くほど小さかった。

 

未来が見えても変えられない結末。

そんなものが存在するのだとしたら、それはあまりにも残酷だ。

 

「謎多き妖精…ノワール……」

 

夕陽が沈み切り、空の色が藍色へ変わっていく。

 

遠くの窓にはぽつぽつと明かりが灯り始めていた。

ジェット先輩は軽く首を振る。

 

「とにかく考えても仕方ない」

 

そう言うと、先輩は銀色のケースを私の方へ差し出した。

 

「この治療薬は、お前が持ってろ」

 

「……ええぇぇ!?」

 

私は反射的に一歩後ずさった。

 

「無理ですよ!こんな貴重な薬!!」

 

当たり前だ。

人類百年分のマコトジュエルから作られた、奇跡みたいな代物だ。

 

落としたらどうする。

 

盗まれたらどうする。

 

間違って踏んづけたらどうする。

 

責任が重すぎる。

 

私が全力で拒絶の姿勢を見せているにも関わらず、ジェット先輩は妙に穏やかな目をしていた。

 

「お前にしか預けられないんだ」

 

「いやいやいや、もっと適任いるでしょ!?プリキュア自身に持たせた方が…」

 

「そういう話じゃない」

 

静かな声だった。

けれど、その一言だけで私は言葉を失った。

 

ジェット先輩は続ける。

 

「いつもプリキュアの側にいて、ずっと戦いを見守ってきただろ」

 

胸の奥が、微かに熱を帯びた。

 

戦えないし変身もできない。

敵を倒す力もない。

 

それでも私は、ずっと彼女たちの背中を見てきた。

 

泣きながら立ち上がる姿も。

傷だらけで笑う姿も。

絶望の中で、それでも誰かを助けようとする姿も。

 

全部、見てきた。

 

「だからもしものことがあれば、お前が助けてあげてくれ」

 

ジェット先輩の声は、驚くほど真っ直ぐだった。

 

「プリキュアの力になりたいんだろ?」

 

その言葉が、胸の奥へ深く沈んでいく。

 

力になりたい、そんなのずっと前から決まっている。

 

何度置いていかれても。

何度無力さを思い知らされても。

 

それでも私は、彼女たちを助けたいと思ってしまう。

 

私は震える指で、そっと銀色のケースを受け取った。

 

想像以上に軽い。

なのに、抱えた瞬間、その重みだけは嫌というほど伝わってきた。

 

「ジェット先輩……」

 

喉が詰まる。

私はケースを胸元へ抱き寄せ、小さく頷いた。

 

「うん、わかった」

 

ノワールがこの薬を作るように頼んだのは、『いつかプリキュアが大怪我を負う瞬間が来る』という結末を見たってことなのかな……?

 

何にせよ、預かったからにはしっかり持っておかないと。

 

未来に何が待っているのか…。

ノワールは何を見たのだろうか…。

 

そんな不安を振り払うように、時間はいつまでも時を刻んでいく。

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