かわいいホームズの親友ちゃんは、相棒の座を奪われて焦心苦慮 作:くぁwせdrftgyふじこlp
【みのるSide】
――鼻をつく、知らない匂い。
土でも、木でも、お母さんの料理でもない。
ツンとした、薬みたいな匂いが鼻の奥に残っている。
私はゆっくりと目を開ける。
ぼんやりと映る景色は、見たことのない真っ白な天井だった。
……どこ?
何度か瞬きを繰り返す。
体の下はふかふかした白い布団。
横を見ると白いカーテンが揺れ、その向こうからは何かの機械が一定のリズムで音を鳴らしていた。
ピッ……ピッ……ピッ……
その音だけが、不気味なくらい静かな部屋に響いている。
知らない部屋。
知らない天井。
知らない匂い。
小さな胸が不安でいっぱいになり、私は布団をぎゅっと握りしめた。
「……ここ、どこ……?」
声はかすれていて、自分でも驚くほど弱々しかった。
すると部屋の扉が静かに開く。
入ってきたのは、白衣を着た男の人と、優しそうな笑顔を浮かべた女の人だった。
男の人は眼鏡をかけていて、女の人は白い帽子を被っている。
二人とも初めて見る人。
でもその表情だけはとても穏やかだった。
「目が覚めたんだね」
男の人が優しく笑う。
女の人も安心したように胸を撫で下ろし、私のそばまで歩いてきた。
「気分はどうかな?痛いところはない?」
柔らかい声、怖くはない。
でも、知らない人ばかりという状況が、幼い私には理解できなかった。
私は辺りを見回した。
……誰もいない。
あれ……お母さんは?
お父さんは?
いつもなら、どちらかが近くにいてくれるはずなのに。
胸の奥が締めつけられる。
私は恐る恐る口を開いた。
「……私のお父さんとお母さんは?」
その瞬間だった。
二人の表情がぴたりと止まり、笑顔が消えた。
代わりに浮かんだのは、悲しそうな顔だった。
男の人が何かを話し始める。
「……みのるちゃん、お父さんとお母さんは――」
……?
聞こえない。
声は聞こえている。
でも言葉にならない。
『✕✕✕……』
突然、耳の奥で砂嵐のような音が鳴り始める。
『――――……』
『…………―――』
『…………』
男の人の口は動いている。
女の人も涙をこらえるような顔で何かを話している。
だけど、その言葉だけが世界から切り取られたみたいに何も聞き取れなかった。
「え……?」
私は何度も首を傾げる。
「聞こえない………」
『✕✕✕✕✕……』
音だけがどんどん大きくなる。
まるで誰かが、その言葉だけは絶対に聞かせないようにしているみたいだった。
胸の奥に説明できない不安だけが広がっていく。
その時、部屋の外が少し騒がしくなった。
扉が開き、今度は制服を着た大人たちが何人も入ってきた。
肩には見たことのある紋章。
お巡りさんだった。
一人だけじゃない。
二人、三人……。
みんな私を見る目がとても優しい。
壊れ物を扱うように、慎重に近づいてくる。
一人のお巡りさんが私の目線までしゃがみ込んだ。
「みのるちゃん」
穏やかな声。
「…………」
何かを話している。
一生懸命優しく、怖がらせないように。
でも……
『―――――……』
まただ。
また声が聞き取れない。
言葉だけがノイズに飲み込まれていく。
『――――』
『……』
『…………―――』
私は必死に耳を澄ませる。
なのに何一つ意味が分からない。
「どうして……?何て言ってるの……?」
誰も答えない。
いや、答えている。
みんな確かに話している。
それなのに、その言葉だけが夢の中の霧に溶けてしまう。
みんな優しいのに、どうしてそんなにつらそうな顔をしているんだろう。
誰も怒っていない。
誰も私を責めていない。
それなのに、この部屋だけが悲しみに包まれているようだった。
少し離れた場所では、白衣を着たお医者さんがお巡りさんたちと何かを話していた。
私は耳を澄ませる。
今度はさっきまでとは違って、ところどころ言葉が聞こえた。
「……外傷だけでなく、精神的なショックによる記憶喪失の可能性が……」
「……現時点では無理に思い出させない方が……」
「まだ幼い。負担を考えると……」
……きおくそうしつ?
聞いたことのない難しい言葉だった。
(何の話をしてるんだろう。誰か病気なの?)
自分には関係のない話を聞いているような、不思議な感覚だった。
だけどお医者さんも、お巡りさんも、みんな時々こちらを見ている。
やっぱり……私のことなの?
でも、何も思い出せないなんてことあるのかな。
私はちゃんと自分の名前を知っている。
お父さんも、お母さんも知っている。
なのに、どうしてみんなそんな話をしているんだろう。
頭の中は疑問でいっぱいだった。
「みのるちゃん、もう一回だけ言うね」
またお巡りさんに話しかけられ、私は無意識に頷く。
「君のお父さんとお母さんは――」
その瞬間、世界がぐにゃりと歪んだ。
白い病室が、水面に映った景色のように揺れ始める。
お巡りさんの姿も。
お医者さんも。
看護師さんも。
すべてが遠ざかっていく。
「え……?待っ――」
言葉は最後まで出なかった。
視界が真っ白な光に包まれる。
何も見えない。
何も聞こえない。
「っ……!」
勢いよく目を開けた。
そこに広がっていたのは、白い病室ではない。
ホテルの天井だ。
規則正しく並んだ照明。
カーテンの隙間から差し込む朝の淡い光。
どこかで聞こえるエアコンの小さな音。
ここは……修学旅行で泊まっているホテルの部屋。
私は布団の中で荒い息を繰り返しながら、自分の胸を押さえた。
心臓が激しく鼓動している。
夢……だったの?
そう思った瞬間、夢の内容は砂が指の間からこぼれ落ちるように少しずつ曖昧になっていく。
けれど、一つだけ消えないものがあった。
「君のお父さんとお母さんは――」
その言葉だけが、最後まで続かなかった。
誰かが真実を口にしようとした瞬間に夢そのものが終わってしまったように。
私は天井を見つめたまま、小さく息を吐く。
胸の奥には、理由も分からない不安だけが静かに残り続けていた。
_______________
【みくるSide】
障子の隙間から、淡い朝の光が静かに部屋へ流れ込んでくる。
まだ太陽は昇りきっていない。
それでも空は少しずつ夜の色を手放し始め、今日も気持ちのいい青空になりそうな予感がしていた。
修学旅行二日目の朝。
旅行と聞くと好きなだけ寝ていられるような気もするけれど、実際はそうじゃない。
朝食の時間も決まっているし、その後の予定もぎっしり詰まっている。
だから自然と生活リズムも規則正しくなる。
お風呂から上がって、「少しだけ休憩しよう」とあんなと二人で横になったのが失敗だった。
歯だけはちゃんと磨いたものの、「少しだけ」のつもりが完全に眠ってしまったのだ。
まだ消灯時間までは余裕があったはずなのに、その時間を丸ごと寝てしまった。
(なんだか、もったいないことしたなぁ……)
みんなで夜にもう少しお喋りしたり、今日の予定を話したりできたかもしれない。
そう思うと少しだけ残念だけれど、その分しっかり眠れたのも事実だ。
枕元に置いてあった時計を見ると、起床時間より30分ほど早い。
(目が覚めちゃった)
二度寝しようかとも思ったけれど、不思議なくらい眠気は残っていない。
体も軽い。
昨日一日歩き回った疲れが、睡眠できれいに取れたような気がした。
私は布団からゆっくりと起き上がる。
まだ室内は薄暗く、静寂が部屋全体を包み込んでいた。
耳を澄ませば、規則正しい寝息が三つ。
あんなも、ゆみも、りえも、まだ夢の中だ。
誰一人起こさないように、私は足音を忍ばせながら立ち上がる。
荷物を倒さないように気をつけて歩き、静かに部屋を出る前にトイレを済ませた。
顔を洗えば、ひんやりとした水が一気に眠気を洗い流してくれる。
「よし」
部屋の扉をそっと開ける。
廊下へ出ても、旅館の中はまだ静かだった。
夜中なら先生たちが定期的に見回りをしていて部屋の外へ出ることはできない。
でも今は早朝。
もう起きている生徒がいてもおかしくない時間だし、むしろ早起きしたくらいで注意されることはないだろう。
朝特有の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込む。
どこかひんやりとしていて、それでいて気持ちいい。
(せっかくだし、朝のホテルを少し歩いてみようかな)
まだ誰も起きていない静かな時間。
修学旅行だからこそ味わえる、この特別な朝を少しだけ楽しみたくなった私は、音を立てないようにゆっくりと廊下を歩き始めた。
静まり返った廊下をゆっくり歩いていると、急に視界が開ける。
そこはホテルの一角に設けられた休憩スペースだった。
大きな窓が壁一面に並び、その向こうには朝日に照らされ始めた名古屋の街並みが広がっている。
高層ビルのガラスが黄金色に輝き、道路には少しずつ車が増え始めていた。
まだ一日が本格的に動き出す前の、静かで穏やかな時間。
普段なら宿泊客がお茶を飲んだり景色を眺めたりしている場所なのだろう。
けれど今は人影がほとんどない。
……一人を除いて。
「みのる……」
名前を口にすると、その人影がゆっくりとこちらを振り返った。
「みくる?」
窓際の手すりに軽く寄りかかるみのる。
朝日に照らされた横顔はいつもと変わらないはずなのに、なぜか少しだけ寂しそうに見えた。
その姿を見た瞬間、昨日のことが頭をよぎる。
班が違うこと。
自由行動でも一人になる時間が多かったこと。
私たちと会えたときは笑っていたけれど、本当はずっと孤独を感じていたんじゃないだろうか。
そんな考えが胸を締めつける。
私はみのるの隣まで歩いていき、同じように窓の外を眺めた。
「どうしたの、そんな顔して」
「……ちょっと考え事をしててね」
「考え事?」
みのるは窓の向こうを見つめたまま、小さな声で呟いた。
「私の家族って、どこにいるんだろう……」
「………………」
(話が重いっ……!!)
予想していた何倍も重い話だった。
みのるは私たちとは違う。
ずっと一人で生きてきた。
誰にも甘えられず、誰にも頼れず、それでも前を向いてここまで歩いてきた。
だから抱えている孤独も、私なんかには想像もできないくらい大きい。
何か励ませる言葉を探す。
でも、見つからない。
軽い慰めなんて言えるはずがなかった。
「……見つかるといいね」
ようやく口から出たのは、それだけだった。
「……うん」
みのるは静かに頷く。
その返事があまりにも小さくて、胸が苦しくなった。
私は、あんなのことを思い出す。
未来から来て、大好きな家族と離れて暮らしているあんな。
その寂しさを近くで見てきたからこそ、家族と離れることがどれほどつらいかは少しだけわかる。
私も今は家族と離れて生活している。
そのため、時々無性に家へ帰りたくなる夜もある。
だけど、それでも私たちは「帰る場所」がある。
会いたいと思えば、また会える。
家族が自分を愛してくれていると知っている。
でもみのるは違う。
家族に見捨てられた。
そう信じたまま今日まで生きてきた。
別れを告げられたわけでも事情を聞いたわけでもない。
ただ、一人になってしまった。
その重さは、私には計り知れない。
それなのに、みのるは一度だって家族を憎むようなことを言わなかった。
普通なら、「もう会いたくない」「許せない」と思ってしまっても不思議じゃない。
しかしみのるは恨むどころか、「理由を聞きたい」と言っていた。
どうして離ればなれになったのか。
ただ、それを知りたいと願っている。
(本当に……優しい子だな)
そんな優しさがあるからこそ、自分を責めてしまうのかもしれない。
そんな優しさがあるからこそ、一人で全部抱え込んでしまうのかもしれない。
私はみのるの方へ向き直る。
「みのる……もし助けがほしかったら、いつでも言っていいからね」
探偵だから。
事件だから。
そんな理由じゃない。
「探偵は関係なく、親友として私はみのるの力になりたい」
今すぐ家族を見つけられるわけじゃない。
勇気を出せと言うこともできない。
みのる自身もまだ家族を探す覚悟はできていないはず。
だから今の私にできることは一つだけ。
必要なときに、隣にいること。
一人じゃないと伝え続けること。
それだけだ。
みのるは少しだけ目を細め、穏やかに笑う。
「……ありがとう」
その一言は朝の静けさにそっと溶けていった。
窓の外では、太陽がさらに高く昇り始めている。
新しい一日が始まる。
みのるがいつか心から笑って、本当の意味で「ただいま」と言える場所を見つけられる日が来るように――。
本当はもっといろいろな気持ちを抱えているはずなのに、それを全部心の奥へしまい込んでしまう。
そんなところが、みのるらしい。
(修学旅行くらい、何も考えずに楽しんでほしいな……)
そう思う。
もちろん、家族のことを忘れろなんて言えない。
忘れられるようなものじゃないことくらい分かっている。
だからこそ、今は無理に励ましたり、「元気出して」と軽々しく言ったりするつもりはなかった。
今のみのるには、そういう言葉よりも、ただ一緒にいる時間のほうが大切な気がした。
私は気持ちを切り替えるように窓の外へ目を向ける。
今日は午前中が国宝・犬山城の見学。
そのあとは風情ある城下町で自由散策。
午後からは名古屋港水族館。
昨日に負けないくらい盛りだくさんの一日だ。
そこで一つ思い出した。
(あっ……そうだ)
水族館は昨日の動物園と同じように班ごとの行動。
でも、犬山城の城下町を歩く自由時間だけは違う。
あの時間は班の縛りがなく、クラスの誰とでも一緒に回っていいことになっていた。
つまり――
みのるを誘える!
「ねえ。話が変わるんだけど、今日の犬山城の自由時間、私たちと一緒に行かない?」
「え……?」
突然の提案だったからか、みのるは少し驚いたように目を丸くした。
「ずっと一人だと、楽しめることも楽しめないでしょ?一緒なら、一人でいる時よりも楽しいと思うし……」
私の言葉に、みのるは何も返さない。
無理に誘うつもりはない。
だから私は少しつけ加えた。
「無理にとは言わないけど……もし良かったらどうかなって」
また少しの沈黙。
みのるは小さく息をつき、口元を緩めた。
「……うん、いいよ」
その笑顔は優しかった。
だけど、長い前髪が目元を隠していて、その奥にある表情までは見えない。
笑っているはずなのに。
どこかで涙を堪えているようにも見えてしまう。
「あっ!こんなところにいた!」
話を続けようとしたら元気いっぱいの声が休憩所に響いてきた。
「……あんな!」
振り向くと、制服姿のあんながこちらへ駆け寄ってきていた。
さっきまで寝ていたとは思えないくらい元気だ。
「どこ行ってたの!もう起床時間過ぎて朝食の時間だよ!」
「えっ!?」
慌てて周囲を見ると、さっきまで誰もいなかった廊下にはちらほら生徒たちの姿が見え始めていた。
制服姿でレストランへ向かって歩いている子たちもいる。
朝の静けさに夢中になっていて、時間の流れに全然気づいていなかった。
「ほんとだ……!」
いつの間にか起床時間はとっくに過ぎていた。
「みのるも急いだ方がいいよ。まだ着替えてないのを先生に見つかったらマズいからね」
私たちはまだ寝間着のままだ。
先生に見つかれば間違いなく「急ぎなさい」と注意されるだろう。
「う、うん。わかった」
みのるもようやく現実に引き戻されたように部屋へと向かう。
さっきまで流れていた少し重たい空気は、あんなのおかげでどこかへ吹き飛んでしまった。
私はそんな空気の変化に少しだけ救われながら廊下を駆け出した。
今日はまだ始まったばかりだ。
今日こそは、みのるに心から「楽しかった」と思ってもらえる一日にしたい。
そんな小さな願いを胸に抱きながら。
_______________
ホテルの朝は、昨夜とはまた違った賑わいに包まれていた。
レストランへ足を踏み入れた瞬間、焼きたてのパンの香りや、卵料理の優しい匂い、コーヒーの香ばしさが一斉に鼻をくすぐる。
窓から差し込む朝日が料理を照らし、どれもこれも美味しそうに見えてしまう。
今日も朝食はバイキング形式。
好きなものを好きなだけ食べられるという、朝食でも贅沢な時間だった。
……とはいえ、今日はこのあと犬山城を歩き回る予定だ。
朝から食べ過ぎて動けなくなるのは避けたい。
卵焼き、ウインナー、サラダ、ご飯、お味噌汁という、ごく普通の朝食を選んで席へと向かう。
他の三人も同じように食べ過ぎない程度の量を持ってきている。
考えていることはみんな一緒みたいだ。
「「「「いただきます」」」」
四人で手を合わせ、朝食を食べ始めた。
しばらくは他愛もない話をしながら食事を進めていたけれど、私の頭の中には、昨日からずっと引っ掛かっていることがあった。
……みのる
本人は笑っていたし、表面上では大丈夫に見える。
でも、それが本心じゃないことくらい親友の私にはわかる。
修学旅行は楽しい思い出になるはずなのに、一人で過ごす時間ばかりじゃ寂しい。
だから私は箸を置き、三人へ切り出した。
「ねえ、犬山城の散策で……みのるも入れてほしいんだけど」
「え? みのるも?」
「うん……寂しそうだから」
その一言だけで十分伝わっていた。
ゆみはすぐに笑顔になり、椅子から立ち上がる。
「もちろんだよ! 寂しそうなら私たちが元気づけてあげないと!」
「せっかくの修学旅行を寂しいまま終わるのはもったいないもんね。」
やっぱりゆみはこういう人だ。
誰かが困っていたら真っ先に手を差し伸べる。
全員を明るくしたい気持ちでたくさんの生徒を引っ張る、その優しさがゆみだ。
二泊三日なんてあっという間。
短い期間も一つでも多く笑っていてほしい。
「やっぱりみのる……隣のクラスに友達がいないのかな……確か小学生の頃はいじめられたんだよね。今していい話じゃないけど」
りえの話に過去のみのるのことを思い出す。
誰よりも近くで見てきたからこそ、私はその傷の深さを知っている。
「トラウマだから、知らない人と接するのは難しいんだよ。ゆみやりえみたいにグイグイ来るような裏表がないタイプじゃないと…」
「私たちってそんな性格だっけ?」
「自覚ないんだ……」
確かに二人は自分では普通だと思っているんだろう。
でも、みのるみたいに自分から輪に入れない子にとっては、その一歩を縮めてくれる存在なんだ。
「みのる本人は普通に接してるけど、やっぱりずっと我慢してる。だから少しの時間でも笑顔になれるようにしたい」
私たちは特別なことをしたいわけじゃない。
無理に励ましたいわけでもない。
みのるは、そんなことを望む子じゃない。
「いつも通りで大丈夫だからね」
きっと、それが一番安心できる。
「むしろみのるは、みんなといつも通り過ごせることを望んでる」
余計に気を遣われるより、自然に笑って、一緒に歩いて、一緒に話して。
そんな何気ない時間こそ、みのるにとって一番嬉しい時間なんだから。
「わかった。いつも通りだね」
きっと大丈夫。
この三人なら、みのるを特別扱いなんてしない。
普段と変わらない笑顔で迎えてくれる。
その「いつも通り」が、みのるにとって何より特別な思い出になる気がした。