かわいいホームズの親友ちゃんは、相棒の座を奪われて焦心苦慮 作:くぁwせdrftgyふじこlp
【みのるSide】
食事を終え、温泉にも入り、髪もすっかり乾いた頃にはホテルの廊下は静かな夜の空気に包まれていた。
昨日は疲れが勝って布団に入った途端に眠ってしまった。
でも今日はまだ就寝時間まで余裕がある。
せっかくの修学旅行だ。
何か楽しいことでもしようと思ってテレビをつけてみたものの、映っているのはどれもあまり興味の湧かない番組ばかりだった。
チャンネルを何度変えても結果は同じ。
結局リモコンを置いてぼんやり画面を眺めるしかなくなる。
時計の針だけが律儀に時を刻んでいた。
……暇だ。
それ以上に、この時間が一番つらい。
昼間なら少し離れた場所でもみくるたちに会えた。
犬山城では一緒に歩いて、城下町では笑って、お昼も同じ時間を過ごせた。
でも夜は違う。
ホテルではクラスごとに部屋が分かれてしまう。
隣にはみくるも、あんなも、ゆみも、りえもいない。
いるのは、同じクラスの生徒たちだけ。
「ねえ、明日のナガスパはどこに行く?」
「やっぱり名物の『ホワイトサイクロン』でしょ!あそこは外せないよ!」
楽しそうな笑い声が部屋のあちこちから聞こえてくる。
明日の予定について盛り上がる声。
「あれも乗ろう!」
「写真いっぱい撮ろうよ!」
そんな会話が次々と飛び交う。
私は、その輪の外にいた。
誰かに追い出されたわけでも話しかけるなと言われたわけでもない。
ただ、最初からそこに私の居場所がないだけ。
この光景にも、もう慣れてしまった。
……いや、本当は慣れたくなんてなかった。
でも、それを誰かのせいにはできない。
このクラスで友達を作ろうとしなかったのは私だ。
授業をサボって、周囲との距離を自分から広げてしまったのも私。
今さら輪に入りたいなんて、都合が良すぎる。
だからこれは自業自得なんだ。
そう自分に言い聞かせても寂しさだけは消えてくれなかった。
それにもう一つ、明日には別の不安が待っている。
ナガシマスパーランド、日本でも有名な遊園地。
きっと誰もが楽しみにしている場所。
……でも私は。
(絶叫系、苦手なんですよ……)
心の中でため息をつく。
楽しみな気持ちが1ミリもないわけじゃない。
有名な遊園地に行ける機会なんてそう何度もあるものじゃない。
けれど、その楽しみ以上に、巨大なジェットコースターへ乗る恐怖の方が何倍も大きかった。
アトラクションの名前を聞くだけで胃がきゅっと縮む気がする。
しかも班行動だから「私は乗りません」と簡単には言いづらい。
みんなが乗るなら一人だけ待っているわけにもいかないだろう。
……今日の犬山城みたいに自由行動だったらみくるたちと一緒に回れたのに。
どうして自由時間が今日で、遊園地が班行動なんだろう。
そんなことを考えても予定は変わらない。
私は小さく息を吐き、ベッドへ体を預けた。
(……大丈夫)
心の中で自分に言い聞かせる。
明日さえ終われば。
明日を乗り切れば、修学旅行は終わる。
学校へ戻って、いつもの日常が帰ってくる。
普通なら修学旅行が終わることを惜しむんだろう。
でも私は違う。
早く帰りたい。
自分の部屋で一人で静かに過ごしたい。
そんなことを思ってしまう生徒なんて、きっと私くらいなんだろう。
ふと頭の中に一つの考えが浮かぶ。
(いっそのこと仮病を使って休めば……)
そこまで考えてすぐに首を横へ振った。
……駄目だ。
そんな嘘は私にはつけない。
先生にもみくるたちにも、きっとすぐ見抜かれてしまう。
怖くても不安でも、明日はちゃんと向き合うしかない。
存在感を消すようにベッドへ腰掛け、時間が過ぎるのを待っていた時。
――コンコン
静かなノックの音が部屋に響く。
一瞬だけ会話が止まり、部屋中の視線が一斉に私へ向いた。
……ああ、そういうことか。
「行ってこい」
誰も口にはしないけれど、その空気は痛いほど伝わってくる。
どうせ私は暇そうに見えているんだろう。
断る理由もない。
私は静かに立ち上がり、入口へ向かった。
ドアを少し開けながら小さく声を出す。
「はい……点呼なら大丈夫ですよ。全員いるんで、それじゃあ――」
先生だと思い込み、そのまま閉めようとしたら……。
「待って待って!私だって!」
「……みくる?」
聞き慣れた声が廊下から飛び込み、ドアの向こうで笑顔を浮かべていたのは、先生ではなくみくるだった。
「どうしてここに?」
「一人で寂しい思いをしてると思うから迎えに来たよ!」
迎えに来た。
その言葉の意味がすぐには理解できない。
「迎えに?急にどうして……」
「とにかく来て!みんな待ってるから!」
「……???」
何が何だかわからない。
でも不思議と断ろうとは思わなかった。
この部屋に残っていても、どうせ私は一人だった。
理由はわからなくても、みくるが呼ぶなら行ってみよう。
そんな気持ちが自然と湧いてくる。
私はみくるの後を追って部屋を出た。
背後でドアが静かに閉まる。
それだけで、さっきまで感じていた重苦しい空気から解放されたような気がした。
廊下にはホテル独特の落ち着いた照明が並び、足音だけが静かに響いている。
窓の外には夜の景色が広がり、昼間とは違う穏やかな時間が流れていた。
みくるは振り返りながら私の歩く速さに合わせてくれる。
その何気ない気遣いが胸を温かくしてくれる。
しばらく歩くと見覚えのある場所へたどり着く。
朝早く、私が一人で景色を眺めていた休憩所だ。
ソファや窓際の配置まで朝と何も変わっていない。
違うのは、隣にみくるがいること。
みくるは窓の外を眺めながら、小さく口を開く。
「明日も班活動だよね……」
「うん……」
今日の城下町だけは自由行動だった。
だから一緒に歩けた。
明日はまた班ごとに行動しなければならない。
「みのると一緒に回りたいと思ってたのに、学校行事だから集団行動じゃないといけないし……隣のクラスだと話す人がいなくて大変だから、つらいよね。」
その言葉には同情ではなく、本気で私のことを考えてくれている気持ちが込められていた。
「楽しい気持ちはあるんだけど……もったいないな。人間関係を気にしなければ、もっと楽しめたはずなのに。」
窓ガラスに映る自分の姿がぼんやりと浮かぶ。
修学旅行そのものは楽しい。
犬山城も城下町も水族館も。
思い返せば、心から笑えた時間だってあった。
それでも、その楽しさの隣にはいつも『一人』という現実があった。
もしクラスで普通に友達がいたなら。
もし私がもっと人付き合いの上手な人間だったなら。
そんな「もし」が頭をよぎる度に現実の重圧に潰される。
「学校のルールに縛られるのは仕方ないよ。私たちの安全を考えた上でのことだから」
その通りだ。
先生たちだって意地悪で班行動にしているわけじゃない。
大人数の修学旅行を安全に進めるには必要な決まりなのだ。
頭では理解している。
だから誰も責めることなんてできない。
「……ごめんね。本当に」
みくるたちがせっかく私を気遣ってくれているのに、結局寂しい思いをしている。
そんな申し訳なさが胸いっぱいに広がる。
私の謝罪を聞いたみくるは何も言わなかった。
ただ静かに私を見つめる。
その沈黙は冷たいものではない。
何かを決意したような、優しく、それでいて強い沈黙。
「あ!こっちこっちー!」
休憩所に着くと奥から元気な声が響いてきた。
声のした方を見るとあんなが大きく手を振っている。
その隣にはゆみとりえも座っていて、最初から私たちを待っていたかのように笑顔を向けていた。
「来たみたいだね」
「待ってたよ~!」
三人の前には丸いテーブルがあり、その上には見慣れた一つの箱が置かれていた。
……トランプ?
状況が飲み込めない。
「……あの、これは一体?」
「就寝までまだ時間があるから、こうやってみんなでゲームしたら楽しいと思ってね。せっかくだから、みのるも誘おうってことになったんだ」
私を……誘うために?
わざわざ部屋まで迎えに来てくれた理由が、ようやく繋がる。
「ほら、人数が多い方が楽しいから!」
その笑顔は「当然でしょ?」と言っているようだった。
嬉しいと同時に、そこまで気を遣わせてしまったことが申し訳なくもあった。
本当なら私は二組。
みんなは一組。
普通はこうして夜に集まることなんてできないはずなのに、それでも私を一人にしたくないと思ってくれた。
その気持ちだけで胸がいっぱいになる。
「あの……ありがとう」
「そんなの気にしなくていいよ」
「今日はいっぱい楽しもう!」
「修学旅行なんだからね!」
その何気ない一言が、さっきまで感じていた孤独を少しずつ溶かしていく。
「何のゲームやりたい?ババ抜きとか、大富豪とか、七並べとか……」
「みのるのやりたいのでいいよ!」
突然選択を委ねられ、頭が真っ白になる。
「えっと……な、なんでもいい……」
一番困る返事じゃないか。
まだ急な展開に頭が全然ついていけていない。
「なら、誰でも気軽にできるババ抜きでもやろうよ」
「お!やっぱり定番のババ抜きが一番盛り上がるね!」
全員が賛成し、あっという間にゲームが決まった。
みくるは慣れた手つきで箱を開け、一枚だけジョーカーを抜き取る。
「じゃあ私、シャッフルしとくね」
パラパラパラッ――
カードがみくるの指先で生き物のように滑り始める。
指先だけで器用にカードを操り、流れるような動きで何度も混ぜ合わせていく。
「……早っ」
「みくるってそんなに早くシャッフルできるの!?」
みくるは少し照れくさそうに笑った。
「ピアノとか裁縫とかやってたから、器用さには自信があるの」
なるほど、鍵盤を滑らかに動かす指先。
細かな針仕事をこなす集中力。
その積み重ねが、今の器用さにつながっているのだろう。
「いいなあ手先が器用な人って。私不器用だから絶対カードぶちまけちゃうよ」
「私も器用かって聞かれたら自信ないなぁ。みくるが羨ましい」
「改めて思うけど……いろいろできちゃうみくるって本当にすごいんだなぁ……」
その言葉に、私は心の中で静かに頷いた。
……本当にそう思う。
みくるは何でも簡単にこなしているように見える。
でもそれは才能だけじゃない。
ピアノも、裁縫も、人を思いやる優しさも。
全部みくる自身が努力して積み重ねてきたものだ。
見えないところで何度も失敗して、何度も練習して、それでも諦めずに続けてきたからこそ、今のみくるがいる。
きっと私たちが想像している以上に、彼女はたくさん努力してきた。
だからこそその笑顔も、その器用さも、どこか眩しく見えるのだった。
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【るるかSide】
名探偵たちが修学旅行へ出発してからというもの、私は劇場の中で代わり映えのしない時間を過ごしていた。
静まり返った通路。
色鮮やかなステンドグラスから差し込む光が床を染め、どこか幻想的な空気を漂わせている。
けれどその美しさとは裏腹に、劇場全体には奇妙なほど平穏な時間が流れていた。
本来ならまことみらい市からプリキュアがいなくなるこの数日は絶好の好機だったはずだ。
なのにそのタイミングに限ってマコトジュエルの任務が一件も入らない。
皮肉なものね。
運が悪いと言えばそれまでなのかもしれない。
だけど私の頭を占めているのは、そのことだけではなかった。
――花崎みのる。
マシュタンの占いで映し出された、あの少女の未来。
修学旅行中に訪れるという"危機"。
通常なら私には何の関係もない話だ。
敵であるプリキュアの仲間でもなければ、友人ですらない。
ただ顔を合わせたことがある程度の一般人。
だから放っておけばいい。
そう何度も自分に言い聞かせているのに、不思議なくらい頭の中から離れてくれなかった。
「……マシュタン。みのるについて――」
最後まで言い終える前に、マシュタンは得意げに胸を張った。
「フフン♪そう言うと思って、占っておいたわ!」
本当にこの妖精には敵わない。
私が口にする前から考えを読んで動いてくれる。
任務でも日常でも、私はいつも助けられてばかりだ。
そのうち、何か恩返しを考えないといけないかもしれない。
「みのるの危機は明日。修学旅行の最終日よ」
「最終日……行き先はナガシマスパーランド……」
日本を代表する巨大な遊園地。
日本最大級を誇り、安全対策だって徹底されているはず。
だからといって事故が絶対に起きないとは限らない。
ジェットコースター
巨大観覧車
落下系アトラクション
頭の中で次々と遊具が浮かんでは消えていく。
"命の危機"
その言葉と遊園地という場所が結びつくのは悪いイメージしかしない。
「どうするの、るるか?」
マシュタンが静かに尋ねるも、私はすぐには答えられなかった。
「…………考えさせて」
放っておけばいい、そうするべきだ。
私とみのるは親友でも友達でもない。
ただ少しだけ接点があった、それだけの存在。
なのに、どうしてこんなにも胸騒ぎがするのだろう。
説明できない悪寒が、心の奥底から這い上がってくる。
何か大切なことを見落としているような。
この違和感を無視したままでは、取り返しのつかない後悔をする――そんな根拠のない予感だけが現実味を帯びていた。
そして、もう一つ。
私の中で引っかかり続けている出来事がある。
花崎みのるは、私の"本来のプリキュアの名前"を見抜いた。
あれは偶然だ……そう思おうとした。
いや、そう思い込むしかなかった。
けれど今になって考えれば、あまりにも不自然だ。
ウソノワールもあの子だけは妙に気にかけている。
ただの一般人なら、そこまで気にする理由がない。
プリキュアでもない。
それなのにどこか普通ではない。
そんな違和感だけが、少しずつ私の中で形を持ち始めていた。
「お、アルカナ・シャドウ。こんな時間に外出か?」
聞き慣れた声が響く。
振り向くと、そこにはゴウエモンが腕を組んで立っていた。
彼は仲間の中でも面倒見がよく、私の様子が普段と違うことにもすぐ気付く人物だ。
私は少し考えた末、率直に尋ねることにした。
「ゴウエモンは、花崎みのるのことをどう思う?」
「プリキュアといつも一緒にいるあの子か……。特に脅威があるわけじゃねぇから何とも言えんが、ウソノワール様が気にしている一般人って点だけは引っかかるな」
マシュタンも頷いた。
「見た目は完全に一般人。でも、一般人として考えるには不可思議な部分が多すぎるのよね」
「私も最近、それを感じるようになった。今まではプリキュアばかり見ていたから後回しにしてたけど、みのる自身も……何かがおかしい」
「確かにな。プリキュアじゃねぇ。だからといって何の関係もない一般人とも言い切れねぇ。あのフィールドに普通に入れてるからな。その曖昧さが不気味なんだ」
そう、一般人は入れないはずのファントムの結界…フィールドにみのるはさも当然のように入れている。
「……だが、どうして急にあいつを気にするようになった?」
マシュタンの占い。
明日訪れる危機。
胸騒ぎ。
その全部を話したところで、きっと理解はされない。
いや、理解される必要もない。
これは私自身の問題だから。
「……考えごとをしていただけ」
「…そうか」
私はそれだけ答えた。
少し間が空いたあと、ゴウエモンは何かを思い出したように「ああ」と小さく声を漏らす。
「ま、外出するならちゃんとウソノワール様に伝えておけ……あ、今は席を外してるんだったな。」
「……ウソノワール、いないの?」
劇場の奥にある玉座。
そこには、いつもウソノワールが静かに腰掛け、私たちへ指示を出している姿がある。
それが当たり前の光景。
「定期的にいなくなるわよね。何をしているのかしら?」
「さあな、オレたちにはわからん。ウソノワール様にしか知らない用事があるんだろう」
「ウソノワールにしか知らない用事……」
未来自由の書に書かれた内容を、ウソノワールは絶対と言っていいほど忠実に実行する。
命令というより、もはや信仰。
あるいは依存。
そう表現した方が正しいのかもしれない。
マコトジュエルの回収を命じる時も、撤退を決めた時も、必ず未来自由の書が理由になっていた。
だから今回の不在も、あの本に従った結果なのだろうか。
それとも――
私が考え込んでいると、マシュタンが小さな水晶玉を取り出した。
「ちょっと占ってみるわ」
淡い光が水晶の中でゆっくりと揺らぐ。
「マシュマシュマシュマシュマシュマシュ~!!」
占いが終わり、水晶に映し出された光景を静かに読み取っていく。
「見えたわ!あたしの占いによると……世界の危機に関係しているみたい」
「世界の危機……」
「世界の危機ってことは……7月に起きるっていう、大王の予言のことか?」
「そうかもしれない……」
未来自由の書には、7月に"大王"が現れるという予言が記されている。
その内容をウソノワールは自身が大王だと捉え、誰よりも重く受け止めている。
それに向けた準備を進めていても何ら不思議ではない。
もっとも、それが具体的に何なのかまでは誰にもわからない。
私たち幹部ですら知らされない。
知っているのは、未来自由の書と、それを持つウソノワール本人だけ。
劇場の主でありながら、その行動には未だ多くの謎が残されている。
静寂が流れる。
その静けさを破るように、ゴウエモンがぽんと私の肩を軽く叩いた。
「仕方ねぇ、外出したいならオレから直接伝えておいてやる」
本来なら、自分で許可を取るべきこと。
それを代わりに引き受けてくれるというのは、彼なりの気遣いなのだろう。
「……ありがとう」
自然と口から感謝の言葉がこぼれた。
ゴウエモンは「気にするな」と短く返し、いつもの余裕な笑みを浮かべる。
その笑顔を見ながらも、私の胸の中に渦巻く不安は消えなかった。
みのるの危機。
ウソノワールの不可解な行動。
そして、7月に待ち受ける世界規模の予言。
一見すると何の繋がりもないように思える出来事が、どこか一本の糸で結ばれているような気がしてならなかった。
その糸の先にある真実を知る者は、きっと――ウソノワールだけなのだろう。