かわいいホームズの親友ちゃんは、相棒の座を奪われて焦心苦慮   作:くぁwせdrftgyふじこlp

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忘却のプリキュア
とある島の伝説


【ジャックSide】

 

劇場の奥にある楽屋は、舞台の華やかさとは正反対の静かな空間だ。

壁際には衣装棚や小道具が並び、役者たちが休憩するための椅子や机が整然と置かれている。

 

普段なら誰もが好き勝手に過ごしている場所だが、今日は違った。

 

私が呼び出したことで、怪盗団ファントムの幹部たちが全員集まっている。

 

……いや、一人だけ違う。

 

るるか――キュアアルカナ・シャドウだけはここにはいない。

 

私は手に持った一枚の紙へ視線を落とし、小さく息を吐いた。

 

「……というわけで、ウソノワール様から伝言を頂きました」

 

私がそう切り出すと、さっそくアゲセーヌが面倒くさそうに息を吐いた。

 

「ウソノワール様、けっこう機嫌悪かったし、あんまり良い伝言じゃないっしょ?」

 

「その通り」

 

「それで、わざわざここに呼び出して何の用事なんだい?」

 

ニジーの横ではゴウエモンが周囲を見渡し、不思議そうな顔をする。

 

「待ってくれ。キュアアルカナ・シャドウがいないぞ?」

 

私は紙を軽く振って見せた。

 

「伝言に『アルカナ・シャドウは除く』って書いてあるから」

 

「アルカナ・シャドウを除く?」

 

まあアルカナ・シャドウが省かれる理由はなんとなく理解できる。元は私たちと対立していた名探偵プリキュアだ。ウソノワール様も警戒してるんだろう。

 

「よくわからんが、アルカナ・シャドウは関係ないってことだな」

 

ゴウエモンは深く考えずに納得したようだった。

 

ウソノワール様が何を思ったかにしても命令は命令、私たちはそれに従うだけだ。

 

「とにかく伝言を読むよ」

 

楽屋の空気が静まり返る。

誰もが私の言葉を待っていた。

私はゆっくりと読み上げる。

 

「――『マコトジュエルを奪うことができないお前たちに告げる。約束の時間までにハンニンダーに頼らず、自分の身を守れる程度の実力をつけておけ』」

 

読み終えると、紙を静かに折り畳んだ。

 

「……以上」

 

数秒の沈黙。

最初に口を開いたのはアゲセーヌ。

 

「つまり、アタシたちがプリキュアと戦えるようにしてってこと?」

 

「そういうこと」

 

簡潔に答える。

しかし、その横でニジーは余裕たっぷりに鼻で笑った。

 

「そのくらいは余裕さ。妖精が人間に負けるなどありえない」

 

……本当に懲りないなこの人。

あんな目に遭ったというのにまだ自惚れる余裕があるなんて。

容赦なく現実を突きつけてあげよう。

 

「ただの女子高生と小学生にぶっ飛ばされたあなたが言っても説得力ないよ」

 

「う……ぐ……」

 

ニジーの表情が一瞬で固まる。

プリキュアだけならまだしも、変身すらしていない人間相手にまで痛い目を見ている。

 

しかも最近は腰までやってしまった。

事実を言っただけなのに、本人にはかなり効いたらしい。

 

「ま、努力は怠らずってことだ!そうすれば、オレみたいなたくましい身体が手に入るぞ!」

 

「ゴウエモンと一緒にしないでくれ……」

 

力こぶを作りながら得意げに胸を張るゴウエモン。

体質の違いもあるから仕方ないとはいえ、人間を相手に反撃されることは避けないと。

 

「そういうことだから、今日から予言の日まで毎日私があなたたちにプリキュアとの戦い方を叩き込むから、そのつもりで」

 

その言葉を聞いた瞬間、アゲセーヌが露骨に嫌そうな顔をした。

 

「えーダルすぎ〜」

 

まあ予想通りの反応。

だから私は、わざと煽るように挑発する。

 

「プリキュアにボコボコにされて情けない姿をウソノワール様に見せてもいいの?ニジーみたいに」

 

「……やる」

 

即答

ウソノワール様の評価を落とすことだけは避けたいらしい。

 

なんだかんだ言ってウソノワール様への忠誠心は本物だからうまくやってくれると思うけど。

 

「さっきからボクの心をへし折りに来るのやめてもらっていいかい?」

 

「事実だから仕方ないよ」

 

私がさらりと返すと、ニジーは完全に言葉を失った。

 

最後にゴウエモンが力強く拳を握り締める。

 

「しっかりと力をつけて、オレたちもここまで戦えるということを教えてやろうぜ!」

 

その声は楽屋いっぱいに響いた。

 

ウソノワール様は焦っている。

約束の日は確実に近づいている。

今のままでは、ハンニンダーに頼らなければプリキュアともまともに戦えない。

 

だからこその命令。

私自身は戦い方を知っている。

ならば今度は、それを教える側になるだけだ。

 

予言の日まで残された時間はそんなに長くない。

怪盗団ファントムは今日から、新たな訓練の日々へと足を踏み入れることになった。

 

 

_______________

 

 

 

【あんなSide】

 

穏やかな波の音が船体を撫でるように響いていた。

頬を撫でる潮風は少し湿っていて、けれど不快ではなく、むしろ気持ちを落ち着かせてくれるような心地よさがある。

 

私とみくるはフェリーに乗り、まことみらい市から少し離れたとある島に向かっていた。

甲板に立つみくるが、遠くに霞んで見えてきた陸地を指差して声を上げる。

 

「見えてきた!」

 

私もその方向に目をやると、青い海の向こうにぽつんと浮かぶ島影が、少しずつ輪郭をはっきりとさせていくのが見えた。

 

「あれが慈英島……」

 

「ポチ!」

 

慈英島、沖合いに佇む小さな島だが、多くの人が住んでいる豊かな島でもあるらしい。

 

私たちがなぜこんな場所にいるのかと言えば、観光のためではない。

探偵への依頼が届いていたからだ。

 

「島を揺るがすほどの大事件だって手紙に書いてたよね?」

 

みくるが少し不安げな顔でそう言った。

修学旅行から帰宅して早々に手紙が届いたと、ジェット先輩が慌てた様子で報告してくれたのを思い出す。

 

その内容がただ事ではなさそうだったから、私たちは次の休みの日にすぐさまフェリーに乗って島へと向かうことにしたのだった。

 

 

――

 

 

探偵さん どうかお助けください。

これはまさに不吉なことが 起こる前兆……。

このままでは島がなくなって しまうかもしれません!

探偵さん、この島の未来は あなたたち二人の手にかかっているのです!

 

 

――

 

 

島がなくなるなんて、天変地異でも起こるレベルの大事件だ。

もしそれが本当なら大変なことだけれど、まずは話を聞かないことには調査を開始することもできない。

 

みのるはジェット先輩の作業の手伝いに入っているため、今日この島を訪れているのは私とみくるの二人だけ。

 

「お待ちしておりましたぞ!」

 

フェリーが港に到着し、船着き場に降り立った私たちを、大きな声で出迎える人物がいた。

サングラスをかけた恰幅のいい男性だ。

 

「あなたは?」

 

「手紙をお送りした、村長の伴田です。わざわざ来て頂き、ありがとうございます」

 

そう言うなり、伴田さんは私たちの腕を両手で掴んで、ぶんぶんと激しく振り始めた。

 

感謝の気持ちが伝わってくるのは嬉しいけれど、あまりの勢いに腕がじんわりと痛くなってくる。

 

それでも、こんなに待ちわびてくれていたのだと思うと、悪い気はしなかった。

 

出迎えてくれたのは、この島の村長を務める伴田金蔵さん。

島の景色をゆっくり見て回りたい気持ちはあったけれど、それを抑えてまずは依頼の内容について聞いてみることにする。

 

「それで、依頼のことなんですけど…」

 

「島がなくなってしまうかもって、一体何があったんですか?」

 

島がなくなる――火山の噴火とか津波だとか、そういう大規模な自然災害が相手だとしたら、探偵の私たちにできることはあまりに少ない。

 

そんな不安が頭をよぎったけれど、村長さんの口から語られた内容は、予想とは違うものだった。

 

「……実は……この島に、妖精が現れたのです」

 

「「よ、妖精!!?」」

 

妖精って……あの妖精のことだろうか。

私たちのお供妖精であるポチタンや、ジェット先輩のような存在が、この島にも現れたということなのだろうか。

 

でも、妖精が現れたことと島が消えてしまうことに、一体どんな関係があるというのだろう。

 

疑問は尽きなかったけれど、立ち話で済ませられるような話ではなさそうだ。私たちは村長さんの自宅へと案内され、詳しい話を聞くことになった。

 

 

_______________

 

 

 

「島に伝わる妖精さんの唄?」

 

「これがそうです」

 

村長さんが視線を向けた先、壁には唄の書かれた大きな額縁が飾られていた。

この歌の内容が、今回の依頼と大きく関わっているらしい。

 

 

――

 

 

いたずらずきのようせいさん

きがたおされた

らくがきされた

まんじゅうきえたら

とけいのはりがうごきだす

とうとうしまもきえちゃった

 

 

――

 

 

――ボーン…ボーン……

 

「「いやぁぁ!!?」」

 

「ポチ!!?」

 

唄を読み終えると同時に、振り子時計の大きな音が部屋中に響く。

いきなり鳴るのは心臓に悪いからやめてほしい……。

声を上げてしまった自分たちが恥ずかしくなる。

 

「これは、饅頭島に伝わる古い唄です」

 

「まんじゅう?」

 

聞いたこともない名前だ。

 

「島ではまんじゅう作りが盛んだったそうで、その名残でしょうか、この慈英島でもまんじゅう作りが細々と続いております」

 

「そうなんですね」

 

饅頭島――名前の通り、まんじゅう作りが盛んだった島だったらしい。

この唄に登場するいたずら好きの妖精が、その饅頭島を消滅させてしまったのだという。

 

「言い伝えによれば100年前、妖精が現れたそうです。妖精のいたずらに島の人たちは困っていたそうで」

 

その妖精とは一体何者なのだろう。

私たちがよく知っている妖精なのか、それとも全く別の存在なのか。

 

「しかしそのいたずらはほんの序章。時計の針が動きだす、島滅亡へのカウントダウンは、既に始まっていたのです」

 

「「滅亡……!」」

 

部屋の中に独特の緊張感が走るのがわかった。

言い伝えだから信じるか信じないかは人それぞれだと思う。

 

けれど村長さんのただならぬ様子を見ていると、本当にこの島が消えてしまうんじゃないかとこちらまで不安な気持ちになってくる。

 

「妖精は饅頭島を消し、去っていった……そして今!!この島に妖精が現れ、言い伝えと同じ出来事が起こっているのです!!このままでは!饅頭島のようにこの島も消えてしまうぅぅぅ!」

 

「「……………」」

 

何はともあれ、こんなに怖がっている村長さんを見ていると、なんとかして解決してあげたいという気持ちが大きくなっていく。

 

とりあえず、島を消滅させようとしている妖精の正体を探るために、引き続き村長さんがどんないたずらに遭っているのか確認することにした。

 

まず案内されたのは、薪を割るための斧や切り株、丸太が置かれている場所だった。

 

「うーん……」

 

今はきちんと木材が並べられているけれど、村長さんが見せてくれた写真の中では、あちこちに丸太が散乱していた。

 

「3日前の朝、薪割りをしようと来てみたら、丸太がばらまかれておりまして」

 

「それが妖精の仕業だと…」

 

どんな妖精なのかはまだわからないけれど、いたずら好きだというなら、こういうことをやっていても不思議ではない。

 

「動物がやったという可能性は?」

 

「いいえ妖精です!!!その証拠に!!」

 

動物がやったのではないかというみくるの言葉を、村長さんは全力で否定。

そして、かけていたサングラスを勢いよく外す。

 

すると――

 

「「え!?」」

 

「今朝起きたらこんなことに!!」

 

村長さんのまぶたには、なんとも奇妙な落書きがされていた。

もしこれが油性ペンだったら地獄だな……と思ったけれど、さすがにその言葉は口には出さないでおいた。

 

「妖精による落書きです!絶対に唄の通りです!」

 

「唄の通り?」

 

「そうか、丸太がばらまかれていたのも、顔に落書きされたのも、唄に書かれていることだ」

 

みくるが唄の内容を振り返るように呟き、私もさっき目にしたばかりの唄の文句を思い出してみる。

 

確かに、丸太が散らかった写真とまぶたの落書き、そのどちらもが唄に描かれていた出来事とぴったり一致していた。

 

「『きがたおされた、らくがきされた』の部分だね。その後は確かおまんじゅうが消えて…島も消える?」

 

「うーん、でも妖精の仕業だと決まったわけじゃ…」

 

問題はここからだ。

まず妖精の仕業なのか人間の仕業なのか、それすらもわからない状態では、犯人にたどり着くことはできない。

 

とにかく調査を開始しようとしたその時、背後から幼い女の子の声が聞こえてきた。

 

「妖精さんがやったんだよ!」

 

「秋!小春!」

 

振り返るとそこには幼稚園くらいの女の子と、小学校低学年くらいの女の子が立っていた。

 

姉妹なのだろうか、小さい方の女の子が隣にいる少し年上の女の子にぎゅっとしがみついている。

 

「孫娘です!この子らの親が出張中で、私が面倒を。いや~!二人のかわいさときたら島一!日本一!いや、世界一ですぞ~!!」

 

うん……孫のことがものすごく大好きなのは十分すぎるほど伝わってきた。

 

村長さんに撫でられている孫娘は、小さい子が伴田小春ちゃん、大きい子が伴田秋ちゃんというらしい。

二人ともかわいらしい名前だなと思う。

 

「お姉ちゃん!妖精さん本当にいたんだー!」

 

「だ、だから言ったでしょ。絶対いるって!」

 

「すごーい!」

 

二人の反応は、村長さんとはまるで正反対だ。

 

妖精がいることを、むしろ喜んでいるみたいだ。

実際のところ、妖精は今も私のすぐそばにいるのだけれど、秘密にしなければいけないからそれを教えてあげることはできない。

 

元気な二人の様子を見ていると、秋ちゃんの腕についている小さなかわいらしい腕時計がふと目に入った。

 

「それ、はなまるかわいいね」

 

「パパとママからのプレゼントなの!」

 

秋ちゃんは嬉しそうにその腕を掲げてみせる。

ピンク色の腕時計が太陽の光に照らされてきらきらと輝いて見えたけれど、私はある違和感を感じた。

 

「「………?」」

 

その腕時計は針が動いていない。

どうして動いていないのだろうと不思議に思い、聞いてみようとしたその矢先、私が口を開くよりも先に食い込み気味に村長さんが話を続けてきた。

 

「もしこのあと、妖精にまんじゅうを取られてしまえば島は一巻の終わり!ですがご安心を!店にはまんじゅうの製造を止めてもらってます!」

 

「島ぐるみで対策してるんだ…」

 

それくらい、この島では有名な話なのだろうか。

 

「なのでお二人は、一刻も早く妖精を捕まえてくだされ!!頼みましたぞ!!」

 

「「は、はあ………」」

 

曖昧な返事をしてしまう。

 

ずっと勢いがスゴすぎるこの村長さんに少し圧倒されてしまっていた。

とりあえず、妖精について詳しそうなジェット先輩にもこの島のことを聞いてみようと私は心に決めた。

 

 

_______________

 

 

 

【みのるSide】

 

ジェット先輩に頼まれた仕事は、研究室いっぱいに積み上げられた研究記録の整理だった。

 

棚から棚へと並ぶ分厚いファイル。

机の上には年代ごとに分けられた資料が山積みになっていて、紙独特の匂いが部屋中に漂っている。

 

私は一枚一枚タイトルを確認しながら、年代順にファイルへ挟んでいった。

 

「これが終わったら次はこっち……」

 

地味だけど大切な仕事だ。

ジェット先輩は発明だけでなく研究記録も几帳面につけるタイプだから、一枚でも順番を間違えると後で探すのが大変になるらしい。

 

そんな静かな時間を過ごしていると、机の上に置いていたプリキットボイスメモが震えた。

 

「もしもし?」

 

近くにあったので私が通信を繋ぐと、向こうからみくるの声が聞こえてきた。

 

『みのる!今ちょっと聞きたいことがあるんだけど!』

 

どうやら二人は依頼の調査中らしい。

私は手を止め、話を聞くことにした。

 

二人の話をまとめると、依頼先の慈英島には昔から「妖精が島を消した」という言い伝えが残っていること。

 

その妖精にまつわる唄が伝わっていること。

そして現在、その島では誰かによる奇妙ないたずらが相次いでいるという。

 

でも、その妖精が本当に存在するのか、人間なのかは誰にも分からない。

 

なので同じ妖精のジェット先輩なら何か知っているかもしれないと思って連絡してきたらしい。

私はボイスメモをジェット先輩へ渡した。

 

「はぁ?妖精が島を消した?そんな妖精いるわけないだろ?」

 

「そうとも限らないんじゃない?ジャックみたいな危険な妖精がいるかもしれないし」

 

ジャックという存在がある以上、「妖精だからそんなことはできない」とも言い切れない。

すると通信機の向こうから、あんなが冷静な声で答えた。

 

『でもジャックだとしても、わざわざいたずらなんてしないと思うんだ』

 

それは確かにそうだ。

ジャックは目的があって行動する。

意味もなく島中で悪戯を繰り返すような性格ではない。

 

「確かにそうだ」

 

『饅頭島の唄ではそう言われてたけど、やっぱりそんなわけないか……』

 

「ま、探偵なら地道に調査するんだな」

 

それだけ言うと、ジェット先輩はあっさり通信を切ってしまった。

 

部屋に再び静けさが戻る。

私はまた書類整理を始めようとして――

 

「……ん?」

 

ジェット先輩が急に何かを思い出したような声を漏らした。

 

「饅頭島?」

 

「ジェット先輩、どうかしたの?」

 

「なあ、みのる。饅頭島ってどの辺りにあるか分かるか?」

 

突然の質問に少し考える。

学校で見た地理資料や地域史の資料を思い返した。

 

「饅頭島……私の記憶なら、今みくるたちがいる場所と同じところにあったって学校の資料に書いてあったけど……でも、今は慈英島って名前の島だし……もしかして、『名前が変わった』のかな?」

 

その瞬間、ジェット先輩の目が大きく見開かれる。

 

「……だとすると……まさか……!」

 

「???」

 

何が分かったのか、私には理解できない。

けれどジェット先輩の様子だけは普通じゃなかった。

 

ジェット先輩は勢いよく立ち上がり、出口の方へ向かっていく。

 

「みのる、すぐに出発するぞ」

 

「え?」

 

突然すぎて思考が追いつかない。

 

「出発ってどこに?」

 

「慈英島に決まってるだろ」

 

「え!?いきなり!?」

 

書類はまだ半分は残っているし、さっきまでそんな話は一切なかった。

けれどジェット先輩は焦っている。

 

「ボクの説明不足だったみたいだ……。あの二人は何も知らない状態で調査に向かってしまったから、すぐに迎えに行かないと」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

慌ててジェット先輩を呼び止める。

 

「何の話をしてるの?」

 

ジェット先輩はようやく動きを止めた。

そして聞こえたのは衝撃の内容だった。

 

「今回の依頼の件……恐らく原因はボクだ」

 

「………………はぁ!!?」

 

思わず素っ頓狂な声が出てしまう。

 

ジェット先輩が原因?

頭の中に疑問符が何十個も浮かぶ。

 

けれどジェット先輩は詳しい説明をする暇もないというように研究室を飛び出した。

 

「とにかく急ぐぞ!説明は後でする!」

 

「ま、待ってよ〜!!」

 

私は慌てて机の上を片付け、ジェット先輩の背中を追いかけた。

 

 

_______________

 

 

 

【あんなSide】

 

「ジェット先輩もああ言ってたし、妖精じゃなくて人の仕業なんじゃないかな?」

 

私はこれまでの出来事を整理しながら口を開いた。

 

島を消せるほどの力があったとしたら、わざわざいたずらなんて手間をかけることはないはずだ。

だとすれば、今までのいたずらは人間がやった可能性の方が高いように思える。

 

「それに犯人が唄の通りに事件を起こしているなら、唄の秘密を解き明かすことが、事件解決への近道になると思う」

 

「思う!思う!」

 

ポチタンも賛成してくれているみたい。

やっぱり、唄に隠された秘密を探るのが一番の近道なのだろう。

 

「でも100年前の唄だし、当時のことを知ってる人なんていないよね…」

 

みくるの懸念はごもっとも。

この島にさすがに100歳を超えている住民がいるとは思えない。

 

どうやって昔の情報を調べたらいいのだろう……そう考え込んでいたとき、みくるの背後にあった一つの看板が目に入った。

 

「ん…?………んんん??」

 

近づいてよく見てみると、この島の名所である仙人亀の池について詳しく説明が書かれていた。

 

「仙人亀の池!?『この池には、100年以上生きているとされる亀が住んでおり』…」

 

「「これだ!!」」

 

100年以上生きているのは、何も人間である必要はない。今の私たちには、動物とも会話ができるようになる絶好のプリキットがあるのだから。

 

「あ、きっとあの亀さんだね」

 

「よし!」

 

看板のさらに奥へと進むと、小さな池が広がっていて、その真ん中にある岩の上に一匹の亀の姿があった。

きっとこの亀が、長い間この島をずっと見守ってきたのだろう。

 

「オープン!プリキットグミ!」

 

私は数多くあるプリキットの中から一つのアクセサリーを取り出す。

小さなアクセサリーはすぐに、手のひらサイズの大きさへと変わった。

 

「はい!」

 

「ありがとう」

 

みくると半分に分けて、それぞれの口に放り込む。

 

このグミもジェット先輩の発明品だけれど、食べただけで動物の言葉がわかるようになるなんて、見た目はどこにでもある普通のグミなのに本当にどんな作りをしているんだろうと不思議に思ってしまう。

 

「う~んおいしい!」

 

「おいちい!」

 

食べていないはずのポチタンまで嬉しそうにしている。

 

言葉では言い表せない不思議な味わいが、口の中いっぱいに広がっていく。

効果は3分しかないから、のんびりしている暇はない。

私たちは早速、亀に向かって事情を話し始めた。

 

「100年前?」

 

「言い伝えだと、妖精が饅頭島を丸ごと消したって言われてて…」

 

「何か心当たりはありませんか?」

 

言い伝えの内容というのは、本当に起こったことなのかどうかわからないことも多い。

 

確実な証言がなければ事件の解決には繋がらないはずだ。

 

「消したも何も、昔からずっと島はこのまま。な~んにも変わってないぞ」

 

「え、でも…」

 

変わっていない?

島はこのままってどういうことなんだろう。

言い伝えられている内容とは違うということなのだろうか。

 

「変わったといえば、100年前にこの島の名前が慈英島になったことくらいだな」

 

「「?」」

 

この島の名前が変わっている……答えに近づいていきそうな予感はするけれど、まだ確信が持てない。

 

頭の中でその情報がうまく繋がらないまま、もどかしさだけが募っていく。

 

「もう行くよ。ご飯の時間だからな」

 

「ありがとうございました」

 

亀は池の中をゆっくりと泳いでどこかへ行ってしまった。

 

これ以上何かを聞き出すわけにもいかない。

あとは自分たちの頭で考えていくしかなさそうだ。

 

「変わったのは島の名前か…」

 

「……!もしかして、島を消したってそのことを言ってるんじゃ?」

 

みくるが何かに思い当たったような顔をした時、遠くから村長さんが息を切らしながら走ってくる姿が見えた。

その様子から見てかなり慌てているようだ。

 

「探偵さ~ん!!」

 

「どうしたんですか?」

 

私は走ってくる村長さんに駆け寄りながら尋ねる。

 

「やられてしまいました…!」

 

きっとまた、新しいいたずらが起きてしまったのだろう。私たちは村長さんの後について、家の横にある蔵まで一緒に走った。

 

 

_______________

 

 

 

「中に置いてあったおまんじゅうの詰め合わせが消えた?」

 

村長さんが言うには、蔵の中にあったおまんじゅうがいつの間にかなくなっていたらしい。

 

唄の通りだとすれば、この後に島が消えてしまうという話になるけれど……。

 

「でも、おまんじゅうは作ってないって…?」

 

「かわいい孫たちのおやつにと、ひっそり隠しておいたのです…」

 

「「ええっ!?」」

 

「ここなら妖精に取られないと思っていたのにぃぃぃ!!」

 

まあ、孫のために島の名物であるまんじゅうを食べさせてあげたいという気持ちはよくわかる。

ただ、今回はタイミングが悪かったとしか言いようがない。

 

「そのおまんじゅうはいつ蔵の中に?」

 

「今朝方です」

 

今日の朝、蔵の中に保管したということだ。

みくるはさっそくプリキットブックを開いて、メモを取り始める。

 

「鍵はしまっていましたか?」

 

「はい、鍵は肌身離さず保管してました」

 

村長さんのポケットには、蔵の扉を開けるための鍵がしっかりと入っていた。

つまり、犯人が鍵を盗んで蔵に入ったという線は考えにくい。

 

「おまんじゅうを入れてからずっと鍵がかかっていた……つまり密室?密室トリック!!名探偵が一度はぶつかる難事件だよ~~!!私一度は解いてみたかったんだー!!」

 

「みくる落ち着いて…」

 

「ポチ…」

 

探偵のことになるとつい興奮してテンションが上がってしまう悪い癖が顔を出している。

そんな中、私は蔵の横に回ってみると、子供一人がなんとか入れそうな大きさの小窓を見つけた。

 

「うーん、完全な密室ではないみたい」

 

「えぇ……そんな……」

 

なんでそこでしょんぼりしているんだろう。

 

「そうか!ここから妖精が忍び込んだんですね!」

 

「どうですかね…」

 

村長さんもいつもの調子を全く崩さない。

 

小窓の大きさは小さな子供なら入れそうだけれど、私たちのような中学生が通り抜けるにはかなり厳しいサイズだった。

 

「でもこの大きさじゃ私たちも通れないよね?」

 

「何か道具を使って外からまんじゅうを取り出したのかな?」

 

釣竿とか長い棒とか、そういった道具を使う可能性も考えられなくはない。

 

けれど、そんなにうまくいくものだろうか。

時間もかなりかかりそうな気がする。

 

「もう終わりだぁぁ!!!妖精に島を消されてしまうぅぅ!!」

 

村長さんはすっかり絶望した様子で叫んでいる。

 

でも、そんなふうに落ち込んでいる村長さんを放っておくわけにはいかない。

今度は蔵の中をしっかり調べてみないと、犯人の正体はいつまで経ってもわからないままだ。

 

「絶対に手がかりが残っているはず」

 

蔵の扉を村長さんに開けてもらい、私たちはそっと中へと足を踏み入れた。

 

「プリキットミラールーペ!カバーを外して…」

 

「「ルーペモード、オン!」」

 

肉眼で見る限りでは、特に荒らされたような痕跡は見当たらない。

けれど、目には見えない部分をミラールーペは決して見逃さないはず。

 

「「これは……」」

 

通気口の近くにあるテーブルには、まんじゅうの箱が置かれていたことを示す跡が残っていた。

 

そして、その近くから小窓へと向かって小さな足跡がずっと繋がっている。

そしてもう一つ、重要な手がかりが見つかった。

 

「はなまる発見!ってあれ?」

 

「うぅ……やっぱり、そうだよね…」

 

足跡の大きさから推測すれば、犯人はもう大体わかってしまう。

犯人は妖精じゃない……多分、あの子だ。

 

「でも、なんでこんなことを…」

 

そこがどうしても不思議だった。

どうして唄の流れそのままに、いたずらを仕掛けていったのだろう。

 

これはきっと、本人から直接話を聞いてみる必要がありそう。

 

「小春、ほら!妖精だよ!妖精がまた来たんだよ!」

 

「わぁぁ!もうすぐ妖精さんが直してくれるんだよね!」

 

蔵の外から秋ちゃんと小春ちゃんの声が聞こえてくる。

妖精が来たということに、妹の小春ちゃんはすっかり喜んで秋ちゃんにぎゅっと抱きついていた。

 

「うん…きっとそうだよ……」

 

だけど秋ちゃんの表情は小春ちゃんとはまるで正反対だ。

申し訳ないような、何か悪いことをして無理に隠しているような、そんな複雑な表情。

 

その様子を見て、私たちは確信を持ってしまった。

 

「「見えた!これが答えだ!」」

 

私とみくるの声が重なる。

とりあえず、花火の正体はわかった。

でも今回ばかりは、素直に事件解決を喜べるような状態ではなかった。

 

「……けど」

 

「本当に良いのかな……」

 

真実を告げる。

でもそれは、二人の純粋な気持ちを踏みにじってしまうことになるかもしれない。

 

島に妖精がいると信じている小春ちゃん。

いたずらをしたのが誰なのかを話すのは、正直なところとても気が引けた。

 

「それでも、真実を明かさなきゃ」

 

「ええ、名探偵として!」

 

だけどずっと隠しておくわけにもいかない。

 

名探偵はどんな時であっても、真実を貫き通すことが何より重要だから。

 

厳しいことになるかもしれないけれど、ちゃんと話さなければいけないと、私は自分にそう言い聞かせた。

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