かわいいホームズの親友ちゃんは、相棒の座を奪われて焦心苦慮 作:くぁwせdrftgyふじこlp
【みくるSide】
「妖精よ!どうか島を消すことだけは…!」
村長さんが空に向かって必死に祈るように叫んでいる。
「いいえ、妖精の仕業ではありません」
「え?」
つらいことを言ってしまうことになるかもしれないけれど、私はそっと口を開いた。
「あなたがやったんだよね…?秋ちゃん」
「!!」
秋ちゃんの身体がびくりと強張り、表情が歪む。
その反応を見た時点で、彼女が犯人であることはもう間違いないと思えた。
「丸太を倒したのも、村長さんの顔にいたずら書きをしたのも、おまんじゅうを取ったのも、全部秋ちゃんが…」
「待ってくだされ!蔵の中のまんじゅうを取ることはさすがに!」
村長さんが反論したくなる気持ちも私にはよくわかる。
けれど、秋ちゃんにしかできないことがちゃんとあるんだ。
「できるんです。大人には無理でも、秋ちゃんくらい小さければあの小窓を通ることができます」
「さっき蔵の中で見つけました。小さい子どもの足跡、手形を」
プリキットミラールーペで見つけた痕跡は、秋ちゃんの足跡だけではなかった。
小窓の周囲にも小さな手形がしっかりと残っていたのだ。
これはつまり、そこから出入りしたということに他ならない。
「ごめんなさい……」
秋ちゃんは、うつむいたまま自分がやったことを認めた。
唄の通りのいたずら、そしてその流れの最後に書かれていた文章のことを考えると、決して悪意があってやったことではないような気がしていた。
「小春ちゃん、その時計壊れてるよね?」
「さっき見せてくれた時、針が動いてなかったから」
小春ちゃんが身につけている、針の止まった腕時計。
この腕時計こそが、秋ちゃんがいたずらをするきっかけになったのだと思う。
「この前落として壊れちゃった…おじいちゃんにも直せないって…」
壊れてしまった腕時計を直したい一心で、秋ちゃんは唄の流れに沿っていたずらを行っていたのだ。
「今回のいたずら、秋ちゃんは小春ちゃんのためにやったんだよね?」
「時計が壊れて悲しむ小春ちゃんを、元気づけたかったんじゃない?」
しばらく黙り込んでいた秋ちゃんだったけれど、やがて静かに理由を話し始めた。
「………唄で、『まんじゅうきえたらとけいのはりがうごきだす』って。だから……妖精さんがやってきて時計を直してくれるよって言ったの」
やっぱりそういう理由だったんだ。
腕時計が壊れて落ち込む小春ちゃんに、少しでも希望を与えて笑顔にしてあげたい。
そんな妹のことを想っての行動だった。
「唄の通りにいたずらすれば、小春も妖精さんのこと信じてくれるかなって」
「でも、秋ちゃんもわかっていたと思う。このまま続けても妖精さんは…」
本当に妖精が来たのだと信じて喜んでいる小春ちゃんを見つめる秋ちゃんの表情はとてもつらそうだった。
妹を騙しているという罪悪感に押し潰されそうになる、その気持ちは決して生易しいものではないはず。
「ごめんね小春……私嘘ついちゃった。妖精さんは本当にいるんだって……」
「お姉ちゃん…」
涙ながらに謝る秋ちゃんの姿を見て、私の胸もぎゅっと締めつけられる。
でも妖精がいるのは本当のことなんだよ。
秋ちゃんは小春ちゃんに嘘をついてしまっているかもしれないけれど、妖精がいることそのものは、決して間違っていない。
「……ううん」
「それは嘘じゃないよ」
「ポチ!」
「「え?」」
秋ちゃんと小春ちゃんが揃って声を上げる。
あんなにぶら下がっているポチタンは正真正銘の妖精だ。
そして、私たちの周りには他にもいろんな妖精がいる。
「まさかキミたちがいたとはね!」
ちょうどそのタイミングで声をかけてきたのも妖精……え?
「「ニジー!?」」
見上げると、蔵の屋根の上にニジーが立っていた。
こんなところにまで現れるなんて、本当に神出鬼没で油断も隙もない。
ということは、この近くにマコトジュエルがあるという証拠でもある。
一番可能性が高いのは、小春ちゃんがつけている腕時計。
「「!?」」
予想した通り、ニジーは二人の目の前に飛び降りると、腕時計を奪い取った。
「あの時計にマコトジュエルが!」
「返して!………ってなんか濡れてる?」
よく見るとニジーの首には大きな海藻が巻きついていて、全身がびしょ濡れになっている。
まさか泳いできたんだろうか。
そんなわけないよね、と思いながらもその姿に少し戸惑ってしまう。
「水も滴る良い怪盗…ってね。マコトジュエルは頂いていくよ!」
「「あぁぁ…!」」
ニジーはそのまま逃走を始めた。
このままでは、大切な腕時計を奪われてしまう。
「絶対取り戻すから!」
「ここで待ってて!」
私たちは不安そうな顔をしている秋ちゃんと小春ちゃんを落ち着かせてから、ニジーの後を追いかけた。
何も考えずに、自分たちの目的のためだけに大切な腕時計を奪うなんて許せる行為じゃない。
「待ちなさ~い!!」
海に飛び込んだらどうしようかと少し心配したけれど、開けた場所に出ると、ニジーは海藻を投げ捨てて私たちと対峙した。
「時計か……」
ニジーは一言呟くと、腕時計に眠っているマコトジュエルをハンニンダーへと改造する。
「ウソよ覆え!出でよ、ハンニンダー!」
ニジーが投げた薔薇がマコトジュエルに突き刺さり、時計の形をしたハンニンダーが誕生した。
「ハン~ニンダ~!」
「サン、見たまえ!ロク、無敵の!キュウ、キミたちを倒すハンニンダー!」
するとハンニンダーは、ニジーの声に合わせて、私とあんながプリキュアに変身する際の掛け声とポーズをそっくり真似し始めた。
「ちょっとそれ私たちの!!」
「もう!本物見せてあげる!」
「ポチ!」
全然似てないしかっこ悪い!
私たちの方がずっとかっこいい名探偵だってことを見せつけてあげるんだから覚悟しなさい!
「「オープン!ジュエルキュアウォッチ!」」
ペンダント型のジュエルキュアウォッチが眩しく輝き、私たちの姿はプリキュアの姿へと変わっていく。
身体には名探偵プリキュアの衣装が吸い付くように纏われていった。
「どんな謎でも、はなまる解決!名探偵『キュアアンサー』!」
「重ねた推理で、笑顔にジャンプ!名探偵『キュアミスティック』!」
「「名探偵プリキュア!!」」
変身が完了すると同時に、私たちは目の前のハンニンダーへと立ち向かった。
「ハンニ~~ン!ダッ!ダッ!」
突進しながら殴りかかってくるハンニンダーの攻撃を躱し、アンサーは再びキュアウォッチを構えて攻撃態勢を取る。
「アンサーアタック!」
「ハ………ン!!」
放たれた一撃はしっかりと直撃したものの、決定打にはなっていないようだった。
追撃を仕掛けようとした瞬間、ハンニンダーの雰囲気が変わったのを感じた。
「ハンニンダ~~………」
「な…」
「あれは!?」
ハンニンダーの声が聞こえるほどに、視界がぐにゃりと大きく歪んでいく。
これはもしかして催眠……!?
物理攻撃だけかと思っていたのに、完全に油断していた。
「ダ~~……」
「目が………」
ダメだ、催眠にかかって身体が全く動かない。
プリキュアになって身体能力が上がったとしても、催眠術に対する耐性まではないらしい。
「今だ!!」
「ダッ!」
「うっ!?」
「あっ!?」
しまった。
混乱している隙を狙って、ハンニンダーがベルトを飛ばし、私とアンサーの身体が拘束された。
このままでは形勢逆転されてしまう。
「諦めたまえ。言っただろう?キミたちを倒す無敵のハンニンダーだと」
でも、それは何もしなかったらの話だ。
小春ちゃんと秋ちゃんの、大切な思い出の腕時計をこんな形で終わらせるわけにはいかない。
「諦めない!」
「あの時計は、小春ちゃんが両親からもらった大切なもの!」
「だからこそ秋ちゃんは、小春ちゃんのために頑張った!時計には妹を想う、優しい気持ちがいっぱい込められている!!」
それをめちゃくちゃにする怪盗団ファントムなんかに、私たちが負けるわけにはいかない。
マコトジュエルは渡さない。
大切な腕時計も、必ず取り戻してみせる!
「「はあああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」」
――バリーン!!
ありったけの力を振り絞り、拘束具を無理矢理引きちぎった。
「絶対に取り戻す!!」
「ハンニンダ~~…!」
ハンニンダーはまた私たちに催眠をかけようと迫ってくる。
でも、もう同じ手には乗らない。
できる限りハンニンダーに接近しながら、ギリギリのところで催眠を躱しつつ、頭上を飛び越えて背後を取った。
「ハンニンダ~~!」
「うわっ!」
だけどハンニンダーも私たちの動きを執拗に追尾しながら常に催眠をかけようと隙を狙ってくる。
なかなか攻撃を仕掛けられるチャンスが訪れてくれない。
「ハンハン!」
「……海藻、そうだ!」
「?」
どうしようかと考えていたらアンサーが近くに落ちていた大きな海藻を拾う。
これはさっき、ニジーが投げ捨てたものだ。
何をするつもりなんだろう?
「いっくよー!!」
「ハンニン……」
アンサーは海藻を勢いよく振り回しながらハンニンダーへと向かっていく。
もしかして、この海藻を使って拘束しようとしているんじゃ……。
「えいっ!」
「ダ、ダダダダ!?ハンニンダ!?」
「何!?」
ハンニンダーが攻撃を仕掛けようとする瞬間を見計らって、アンサーは思い切り海藻を伸ばし、ハンニンダーの身体をぐるぐる巻きにしてしまった。
アンサーの機転で戦況が一気にひっくり返った。
「はぁぁぁ!!」
「ダッ!!?」
動けなくなったハンニンダーは無防備そのもの。
私はすかさずハンニンダーを蹴り飛ばして、アンサーへとバトンを繋いだ。
「よし!」
弱ったところに、あとはアンサーの浄化技で決着をつけるだけだ。
「オープン!プリキットミラールーペ!」
私はポチタンから浄化用のマコトジュエルを受け取ると、そのままミラールーペへと装着。
「キュアアンサーが解決!」
中央の宝石を三回回して力を溜めていくと、ミラールーペから剣身がすっと伸びていき、探偵の道具が立派な剣へとその姿を変えた。
「プリキュア!アンサーはなまるソード!」
向かうはハンニンダーただ一人だけ。
「はあああぁぁぁぁぁ!!」
大きく踏み込んで、気合いのこもった一閃を放つ。
豪快にハンニンダーを斬りつけると、目映い閃光が辺り一面を包み込んでいった。
「キュアット解決!」
「ハン……ニン……ダ~~!」
ハンニンダーは光に包まれながら消滅し、取り戻したマコトジュエルはポチタンがしっかりと回収してくれた。
これで今度こそ事件は解決したはずだ。
「ブラボー!だが秒針は確実に動いているよ。ボクたちファントムが勝利するその時に向かってね!」
ニジーはそう言い残すと、海へとダイブしてどこかへ消えていってしまった。
悔しがるどころか、余裕たっぷりのその表情に、私はどこか引っかかるものを感じずにはいられなかった。
「「?????」」
どうしてあそこまで強気でいられるのか、その理由はわからない。
でも、今は考えるよりも先に秋ちゃんたちのところに戻らないといけない。
きっと今頃、二人とも心配しているはずだから。
_______________
「はい」
取り返した腕時計を小春ちゃんに返すと、その顔にはまた笑顔が戻ってきた。
「小春……」
「ありがとう、お姉ちゃん」
罪悪感でいっぱいだった秋ちゃんを、小春ちゃんは優しく抱きしめた。
やったことは決して良いとは言えないけれど、妹を元気づけるために精一杯頑張ったお姉ちゃんのことが、きっと大好きなんだろうな。
「!……おじいちゃん、いたずらしてごめんなさい……」
「な…な……な……」
まぶたに落書きをされた村長さんは、体を震わせながら怒りを我慢しているのかと思ったけれど、どうやらそうではなかったらしい。
「なんという健気な姉妹愛だあああぁぁぁぁ!!かわいい孫たちの笑顔のため、今回のいたずらは全て水に流すぞ!」
「「えへへ!」」
孫のかわいさには敵わなかったようで、村長さんは二人を抱き寄せて相変わらずの溺愛っぷりを見せていた。
かわいい孫を厳しく叱りつけることは、結局できなかったみたい。
依頼が終わり、私たちも帰ろうとしたら事務所にいるはずの二人の声が聞こえてきた。
「お、いたいた!」
「ここが慈英島……自然豊かな場所なんだね」
振り返ると、そこを歩いてきたのはジェット先輩とみのるだった。
さっきまで通話で話していたはずの二人が、どうしてこんなところにいるんだろう。
「ジェット先輩とみのる!?」
「どうして!?」
「せっかくだし来てみようと思ったんだ!ボクが作った自慢の船であっという間だったよ」
「せっかくというか、行かないとあんなとみくるを誤解させたままだったし大分急いでたけどね。でも乗り心地は悪くなかったよ」
フェリーではなく、ジェット先輩の発明道具でここまで来たのだとすればこの速さにも納得がいく。
みのるの発言からすると、ただ島に来たかっただけというわけでもなさそうだった。
「うまいな~!あの頃と全然変わってない」
「ジェット先輩、また甘いものを食べすぎると身体に毒だよ?」
一体どこで買ってきたのか、ジェット先輩はおまんじゅうの入った袋を手にしていて、みのると二人でそのまんじゅうを食べていた。
なんだかとてもおいしそうだ。
「お前だって食べてるじゃないか?」
「私はこれ1個だけだよ」
「「………」」
そして、ジェット先輩の「あの頃と全然変わってない」という言葉が気になった。
確かジェット先輩は200年以上生きている妖精のはずだから、もしかしてこの島と何か関わりがあったのだろうか。
「ん?その時計…」
するとジェット先輩が小春ちゃんの腕時計に気がついた。
_______________
家に戻るとジェット先輩は早速腕時計の修理を始めた。
どこから取り出したのか、いろんな道具を使いながら腕時計を直していき、ものの数分で腕時計はすっかり直ってしまった。
「はい」
「わあ!直った!」
止まっていた思い出の腕時計が再び時を刻み始めたことに、秋ちゃんたちは大喜びしている。
腕時計というのは精密な構造をしていて、素人が簡単にいじれるようなものじゃないはずなのに、ジェット先輩はどんなものでも軽々と直してしまうから本当にすごい。
「信じられん!」
「ま、ボクは天才だからな!」
改めて、ジェット先輩ってすごいんだなと実感させられる出来事だった。
そして、事件を解決してくれたお礼にと、村長さんからたくさんのおまんじゅうをいただいた。
せっかくなので私たちも一つ手に取って食べてみることにした。
「おいしい!」
まんじゅう作りが盛んな島だけあって、一口食べただけでも甘い香りとあんこのほのかな甘さが口の中いっぱいに広がっていく。
他のまんじゅうと比べても、いろいろと工夫がされているのがよくわかった。
「『まんじゅうきえたらとけいのはりがうごきだす、とうとうしまもきえちゃった』亀さんが言ってた通り、島が消えたっていうのは慈英島に名前が変わったってだけなのかも」
「だとしたら、どうして名前が変わったんだろう?」
島が消えたというのは、島そのものが消滅したわけではなく、名前が変わったというだけだったのかもしれない。
唄の内容が誤解されやすい文章だったのだから、村長さんのように不安になってしまうのも無理はない。
でも、島の名前が変わるほどの出来事なんて一体何があったんだろう。
「なんで慈英島に?」
「島の名前をゆっくり発言してごらん」
みのるに言われた通り、ゆっくりと島の名前を口の中で呟いてみる。
「うーん、じえいとう…」
じぇぃとう……読み方を少しずつ変えていくうちに、なんとなくよく聞いたことのあるフレーズが頭の中に浮かび上がってきた。
「「ジェット!?まさか!!」」
「やっと気づいたか」
なんと、慈英島という名前はジェット先輩の名前がもとになっていたのだ。
名前の真実が判明した瞬間、頭の中のモヤモヤが一気に晴れたような気がした。
それと同時にどうして名前が変わることになったのか、その経緯がますます気になってしまう。
_______________
太陽は水平線の向こうへと沈み始め、私たちはジェット先輩が停めている船へと歩いていった。
その道すがら、ジェット先輩の話を聞いているうちに、唄の謎がパズルのピースのように少しずつ当てはまっていくのを感じていた。
「100年前にこの島に来ていたのがジェット先輩だったなんて」
「ボクがまだ120歳くらいだった時の話だ」
今から100年も前というと、当時は昭和どころか大正すらも遡った明治32年、治外法権が撤廃された年でもある。
ジェット先輩はそれよりもさらに100年以上も前に生まれているのだから、もはや想像もつかないほどの長い時間を生きてきたのだ。
「冒険心に溢れていたボクは、発明の旅に出たんだよ。でも途中で嵐に巻き込まれて、たどり着いたのがこの島だった。それで船を修理するまでの間、島の人たちにはお世話になったんだ」
「唄にある『きがたおされた』っていうのは船の材料のためにやったことだったのか」
嵐に遭ってこの島に流れ着いたジェット先輩を、島の人々は暖かく迎え入れただけでなく、船を修理するための木を伐採することまで許可してくれたらしい。
なんて優しい人たちなんだろうと、思わず感心してしまう。
「島の人たちのおかげで、無事に帰ることができたんだね」
「ちゃんとお礼はしたぞ!この時計台、100年前に動かなくなっていたのを、ボクが直したんだ」
ジェット先輩の視線の先には立派な時計台が建っていて、今もなおゆっくりと時を刻み続けている。
この時計台も直していたなんて、本当にすごい。
ということは、唄の内容はつまり……。
「『とけいのはりがうごきだす』ってそういうことね!」
「二人が聞いた唄の内容は全部ジェット先輩がやったことなんだよ」
あの唄はジェット先輩がこの島でやったことを、そのまま文章にしただけだったのだ。
なんという偶然なんだろう……驚くしかない。
でも、あと一つだけ、まだ判明していないことが残っている。
「それじゃあ落書きは?」
「確か……ここだ。ミラールーペで見てみろ!」
唄にあった落書きを意味する要素は何なのだろう……そう思っていると、ジェット先輩はすぐに理解したらしく、時計台を囲む塀の上を指差した。
「あ!」
「船の設計図。当時の人には落書きに見えたんだな!」
100年も経っているせいで肉眼ではほとんど見えないけれど、ミラールーペ越しに覗いてみると、そこには船の設計図が描かれていた。
これで、ようやく全てのピースが揃った。
「でも島の名前をボクから取っていたなんて知らなかったよー。時計台を直したボクによっぽど感謝していたみたいだな」
「島の名前を変えるくらいだからそれだけ大切な時計だったんだよ」
島の名前を変えるほどのことだったということは、それだけこの時計台が島のシンボルのような存在だったのだろう。
腕時計と同じように、ずっと直せずにいたものを直してもらえたのだから、それだけ深く感謝していたと思う。
ジェット先輩とみのるが乗ってきた船は、小型のボートのような見た目をしていた。
本当にこんな小さな船でここまで移動してきたなんて……。
でもジェット先輩の発明品なのだから、きっと安全なはずだ……多分。
「探偵のお姉ちゃ~~ん!」
「また来てね!」
帰ろうとしていたところに秋ちゃんと小春ちゃんが走ってきて見送ってくれた。
慈英島、出会った人は少なかったけれど、この場所の雰囲気にはなんだか心が落ち着くような不思議な魅力があった。
今度は探偵の依頼としてではなく、観光としてまた訪れてみたいな。
「「うん!」」
「じゃあな!……うわっ!?」
二人に手を振って帰ろうとした瞬間、ジェット先輩の真上をカモメが勢いよく飛んでいった。
その拍子に驚いたジェット先輩は、変身が解けてしまった。
「「「「あ………」」」」
「「……………」」
妖精としての姿を晒してしまい、秋ちゃんと小春ちゃんはその場で固まったまま動かなくなってしまった。
この沈黙……一体どうすればいいんだろうと、私も内心焦ってしまう。
「よ、よーし出発だ~!」
「もう手遅れだよ」
誤魔化しようがないと悟ったのか、ジェット先輩は何事もなかったかのように舵を握った。
横からみのるのツッコミが入っても、それを気にしないふりを貫いている。
「「しー」」
「ひみちゅ!」
でも二人にとっては妖精の存在をずっと夢見ていたのだから、これは思いがけない嬉しいサプライズになったのかもしれない。
ポーチになりきっているポチタンも、そんな二人に向けてにっこりと笑顔を見せた。
「本当にいたんだ!」
船が出発すると、後ろからは楽しそうな声が聞こえてきた。
妖精という存在はまだ公にはできないけれど、いつか人間と妖精が互いに寄り添って暮らしていけるような世界になったらいいな、と思うのだった。
_______________
【ジャックSide】
「ジャック。少しいいか」
その声に呼び止められたのは、記録をまとめ終えてそろそろ自分の部屋へ戻ろうとしていた時だった。
聞き間違えるはずもない。
低く、重く、ただ名前を呼ばれただけなのに自然と背筋が伸びる声。
振り返れば薄暗い劇場の奥――いつもの椅子に腰掛けたウソノワール様がこちらを見ていた。
「はい。何でしょうか、ウソノワール様」
私は進行方向を変え、そのままウソノワール様の前まで歩いていく。
ニジーたちはそれぞれ別の場所にいるらしく、普段なら聞こえてくるアゲセーヌの騒がしい声も、ゴウエモンの大声も聞こえなかった。
わざわざ私だけを呼び止めたということは、何か個人的な任務だろうか。
「お前にはしばらく、プリキュアの調査を頼みたい」
「プリキュアの調査……ですか?」
予想していなかったわけではない。
むしろ、私に任せる仕事としては妥当な部類だと思う。
私はこれまでにも何度か、あの二人――キュアミスティックとキュアアンサーと直接戦っている。
あの二人がどんな能力を持っているのか。
どんな技を使うのか。
どういう状況で強さを発揮し、反対にどういう状況では動きが鈍るのか。
ある程度ならすでに把握しているつもりだった。
でも今になって「調査」を命じる理由が分からない。
「承知しました。しかし、どうして突然?」
命令そのものに異論はない。
ただ理由が知りたかった。
「あの人間二人だけの力で、私の計画を狂わされるわけにはいかん」
「…………」
ウソノワール様にとって、プリキュアはあくまで計画を邪魔する障害。
マコトジュエルを集める度に現れ、奪ったものを取り返していく。
一度や二度なら偶然で片づけられる。
けれど、それが何度も続けば話は変わる。
今はまだ計画そのものをひっくり返されるほどではない。
だけど――放置していい存在でもなくなってきた。
「負けるとは思えんが、念には念をだ」
静かな声だった。
そこに焦りはない。
恐怖もない。
あの二人を脅威として恐れているわけではなく、単純に不確定要素を可能な限り排除しようとしている。
いかにもウソノワール様らしい考え方だ。
「プリキュアとの戦い方を三人にも伝授してやれ」
「三人……ニジー、アゲセーヌ、ゴウエモンに?」
「ああ」
なるほど、ようやく今回の命令の意図が見えてきた。
単純に私がプリキュアを調査するだけではない。
そこで得た情報を、他の三人にも共有する。
つまり――怪盗団ファントム全体の対プリキュアの戦闘能力を底上げしろ、ということか。
キュアミスティック
キュアアンサー
あの二人は成長を続けている。
普通に考えればいずれはかなり強い部類に入ると思う。
身体能力は人間だった頃とは比べものにならないほど向上するし、それぞれ固有の能力も持っている。
ミスティックの防御技――ミスティックリフレクション。
あれは正面からの攻撃に対してかなり厄介。
攻撃を防ぐだけではなく、相手の攻撃そのものを利用して反撃へ転じることもある。
正面から力任せに攻撃し続ければ、むしろこちらが不利になる可能性すらある。
遠距離攻撃を持つ私なら真っ先に警戒すべき技だ。
今はゴリ押しで破壊することはできるけど、気をつけておこう。
そしてキュアアンサー。
ミスティックほど目立った防御能力はないけれど、周囲をよく見ている。
ミラールーペを使った状況判断もそうだけど、あいつは戦いながら相手の行動を分析している節がある。
一度見せた攻撃を何度も繰り返せば、いずれ対処される。
それだけじゃない。
あの二人の最大の特徴は――。
「二人の連携も日に日に洗練されてますね」
「分かっているようだな」
「ええ。個々の能力だけを警戒していても、あの二人を無力化することは難しいですから」
どちらか一人だけならそれほど複雑ではない。
けれど二人揃った瞬間、話が変わる。
片方が攻撃されれば、もう片方が助ける。
一人が隙を作り、もう一人がそこを突く。
追い詰めたと思った瞬間、互いを庇うことで流れを変える。
まるで最初からそう動くことが決められているように。
いや――違う。
決められていないからこそ厄介なのだ。
状況に応じて、相手が何をしようとしているのかを瞬時に察して動いている。
完全に動きを封じたつもりでも、二人のどちらかに自由を残していれば何かを仕掛けてくる可能性がある。
それを知らず、真正面から一人ずつ倒そうとすれば――。
(ニジーたちなら普通にやりそうだからなぁ……)
ニジーは自分の力を過信しやすい。
アゲセーヌは勢いに任せて戦うところがある。
ゴウエモンは三人の中では慎重だけど、真正面からの力比べを好む。
それぞれ実力はある。
それでも、プリキュアとの相性を考えれば改善すべき部分は多い。
「……分かりました。だったら一度、私が二人の戦闘を改めて観察します」
「そうしろ」
「技の発動条件、射程、威力、癖。それから戦闘中の思考や連携……調べられる範囲で調べておきます」
単純な強さだけを測っても意味がない。
大切なのは、相手がどう戦うのかを知ること。
どんな状況で何を選択するのか。
どちらを先に狙えば、もう片方がどう動くのか。
守ることを優先するのか。
それとも敵を倒すことを優先するのか。
戦いには、その人間の本性が出る。
優しい人間ほど他人を庇う。
慎重な人間ほど確実な方法を選ぶ。
感情的な人間ほど、冷静さを失った時に行動が単純になる。
あの二人はとても分かりやすい。
困っている人間がいれば助けようとする。
誰かが危険なら、自分たちの身を危険に晒してでも守ろうとするだろう。
その性格が強さになっている一方で、場合によっては弱点にもなる。
「調べ終わったら、三人に対策を教えます。必要なら模擬戦でもしましょうか?」
「好きにしろ。方法はお前に任せる」
「……了解しました」
私は軽く頭を下げる。
これで話は終わり。
そう思って踵を返しかけたけれど足を止めた。
少しだけ気になったことがあったからだ。
「ウソノワール様」
「何だ」
「ずいぶん警戒するんですね。プリキュアのこと」
私がそう言うと、劇場に短い沈黙が落ちた。
ウソノワール様は答えない。
別に責めているわけではない。
純粋に疑問だっただけ。
今のプリキュアとウソノワール様。
私の知る限り、その力にはまだ大きな差がある。
以前戦った時だってそうだった。
二人がどれだけ力を合わせようと、ウソノワール様には届かない。
なら、ここまで慎重になる必要があるのだろうか。
しばらくして、ウソノワール様が口を開いた。
「……人間というものは、時として予想を超える」
「…………」
「弱者だからと侮り、放置した結果、それが後に大きな障害となることもある。小さな可能性であろうと、芽のうちに摘んでおくに越したことはない。私も前まではプリキュアのことを気にかけていなかったのだがな」
その言葉を聞きながら、私はあの二人の顔を思い浮かべていた。
何度負けても諦めない執念。
倒しても立ち上がる。
追い詰めても誰かを守ろうとする。
どう考えても勝ち目がない状況ですら、こちらを睨み返してくる。
そういう意味では――確かに面倒な相手だ。
「……なるほど。では、徹底的に調べておきます」
「頼んだぞ、ジャック」
「はい」
プリキュアの調査。
それだけなら、それほど難しい任務じゃない。
正面から戦って倒す必要すらない。
遠くから観察するだけでもいい。
場合によっては直接戦いを仕掛け、反応を見るのも悪くないだろう。
どんな状況を作れば、二人はどう動くのか。
どんな攻撃を嫌がるのか。
どんな瞬間に隙が生まれるのか。
それを一つずつ確認していけばいい。
(プリキュアとの戦い方、か……)
教えるからには私自身がちゃんと理解していないといけない。
今までの戦いは、どちらかといえば遊びに近かった。
でも、今回は違う。
ウソノワール様から正式に命令された。
だったら――少しくらい、本気で分析してみよう。
あの二人が何を武器に戦い、何を弱点として抱えているのか。
全部調べてみるのも面白そうだ。
そして、その情報をニジーたちに叩き込む。
三人が今までと同じように力任せに戦って負け続けるのではなく、プリキュアの戦い方を理解した上で追い詰めるようになったら――。
あの二人は、一体どんな顔をするのだろう。
「……ふふっ」
誰にも聞こえないくらい小さく笑いながら、私は劇場を後にした。
どうやらしばらくは――退屈せずに済みそうだった。
あなたたちが強くなるというのなら、私たちはさらに強くなれる。