かわいいホームズの親友ちゃんは、相棒の座を奪われて焦心苦慮   作:くぁwせdrftgyふじこlp

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新たな怪盗団ファントム!?アゲセーヌ参上!

「一体何の騒ぎ?」

 

「What’s happened?」

 

店内にいた全員が一階のフロアに集められた。

 

さっきまで私たちを案内してくれていた女性店員――前田ちほさん。

亀の置物を戻そうとしていた若い男性店員――仲手川卓也さん。

買い物に来ていた女性客――賀来さえこさん。

そして観光でまことみらい市を訪れているという外国人――トム・ミラーさん。

 

「お店にいるのはこれで全員です」

 

ちほさんが不安そうに言う。

 

「犯人は別の誰かで、こっそり入って取って出ていったとかは?」

 

あんなが腕を組みながら周囲を見回した。

 

確かに、ここにいる4人だけとは限らない。

 

「でも、ドアを開けると鳴るベルは鳴っていません」

 

卓也さんが首を振った。

 

入り口のドアにはベルがついている。

開ければ必ず音が鳴る仕組みだ。

 

つまり、誰かが出入りすれば気づくはず。

 

「他に出入口はありませんか?」

 

「家具を出し入れする搬入口があります」

 

裏手の搬入口。

 

そこからなら、気づかれずに出入りできる可能性はある。

 

「犯人はそこから入って、置物を持って出ていったのかな?」

 

あんなが推理を口にする。

 

でも、みくるは首を横に振った。

 

「かもしれないけど、決めつけるには早いよ。ここにまだ犯人がいる可能性も考えないと」

 

「でも、みんな置物は持ってなさそうだけど」

 

確かに、誰の手にも亀はない。

 

けれど――

 

ここにいる人が犯人でないと断定できない限り、外を探すわけにはいかない。

 

考えられる可能性は……。

 

「あらかじめ、わかりにくい場所に置いておいて……後からこっそり……」

 

無意識に口から言葉がこぼれる。

 

「……そうだよ! 結婚式のティアラのときと同じかも!」

 

みくるがはっと顔を上げた。

 

「あっ! どこかに隠してるとか!」

 

あんなも目を輝かせる。

 

最初の事件。

控室のブーケにティアラを隠し、あとで回収するという手口。

 

今回も似たような方法かもしれない。

 

「うわぁ……隠す場所多すぎ……」

 

しかし、ここは結婚式場の控室とは違う。

 

棚、引き出し、家具、装飾品、箱――

インテリアショップは“隠し場所”の宝庫だ。

 

手当たり次第に探すのは、あまりに非効率。

 

「うーん……あの置物ってガラスだったよね?」

 

「うん。隠すなら、割れる心配がない場所……」

 

ガラス細工は当然、衝撃には弱い。

雑に置けばすぐ傷がつく。

 

つまり――

 

“安全な場所”。

 

「うん……」

 

二人が考え込む。

 

この空間にある、ガラスを傷つけずに隠せる場所。

 

柔らかいもの。

衝撃を吸収できるもの。

 

「あ!」

 

あんなの目がぱっと輝いた。

 

「ピンっと来た!」

 

「ええ!?」

 

二人は同時に、部屋の隅へ駆け出す。

 

そこには、大きな籠。

中には大量のクッションが詰め込まれている。

 

確かに――

 

ここなら、壊れやすい物を入れても傷はつきにくい。

 

二人は夢中でクッションの山をかき分ける。

ふわふわのクマ、ウサギ、猫、様々な形をしたクッション…

 

その奥から――

 

「「あった!!」」

 

緑色の光が、ぬいぐるみの隙間からきらりと覗いた。

 

「はい!」

 

みくるがそっと持ち上げる。

 

ガラスの亀。

 

間違いなく店のシンボル。

 

傷はついておらず、無事だ。

 

「よかった……!」

 

ちほさんが胸に手を当てる。

 

卓也さんも、さえこさんも、トムさんも、ほっとした表情を浮かべた。

店内に、安堵の空気が広がる。

 

「ありがとうございます!」

 

ちほさんが深々と頭を下げる。

卓也さんはあんなの手から亀の置物を受け取り、慎重に状態を確認していた。

 

光にかざし、角度を変え、細かく見つめる。

 

「いち、に……6枚揃ってる! どこも壊れてない!」

 

安堵の声。

 

――6枚?

 

私は小さく眉をひそめた。

 

“枚”?

 

亀の置物に対して、どうしてそんな数え方を……?

 

みくるとあんなも同じ違和感を覚えたのか、そっと顔を見合わせている。

 

「棚に戻しておきます」

 

「ありがとう。お願い」

 

卓也さんは亀を抱えて元の棚へ向かった。

 

きらり、とガラスが光る。

 

ひとまず、置物は無事に帰還。

 

けれど――

 

「……これで事件解決?」

 

「まだでしょ。置物を狙った犯人が……ファントムが、この中にいるはず!」

 

そう。

 

もし置物が店の外へ持ち出されていないのなら、犯人はまだここにいる可能性が高い。

むしろ、今この瞬間も私たちのすぐ近くに。

 

事件は、これからが本番だ。

二人は再びプリキットブックを取り出す。

 

「みくる、聞き込み調査!」

 

「ええ!」

 

まずは情報収集。

 

みくるは、観光客の外国人――トム・ミラーさんに歩み寄った。

 

「ズバリ……犯行時、あなたはどこにいましたか?」

 

トムさんは少し困った顔をして、

 

「Oh, I can’t speak Japanese…」

 

と肩をすくめる。

 

……私は日本語を話せません、という意味だ。

 

「英語だ、どうしよう……!?」

 

「おぉ……!!」

 

あんなは焦るが、みくるはなぜか目を輝かせている。

 

「ポチ……」

 

ポチタンが不安そうに小さく鳴いた。

 

「いや、『おぉ……!!』じゃないから……」

 

私もツッコミが口から出る。

 

さっきまであんなに自信満々だったのに、いきなりグダグダだ。

みくるに至っては聞き込みを忘れて英語そのものに感動している。

 

ポチタンの表情がすべてを物語っていた。

 

そのとき。

 

「そんなときには、この天才の発明品――『プリキットグミ』がある!」

 

ジェットが胸を張る。

 

あんなの腰にぶら下がっている六種類のアクセサリーの中から、ハート形の小さなケースを取り外した。

 

「オープン! プリキットグミ!」

 

ケースが光を放ち、手のひらサイズに変化する。

 

中には、鍵の形をしたグミ。

 

ピンクと青で彩られた、やたらと可愛らしいデザインだ。

 

「はなまるかわいい~!」

 

「食べてみろ」

 

ジェットの合図で、二人はぱくっと口に放り込んだ。

 

「「おいしい~!」」

 

即答。

 

相当美味しいらしい。

 

「みのる、お前は食べないのか?」

 

ジェットが振り返る。

 

「私はいいよ……」

 

味は正直、気になる。

でも、私は探偵ではない。

 

名探偵プリキュアじゃない立場上、あまり軽々しく“探偵用の秘密道具”に頼るのはどうなのかと思ってしまう。私はあくまで一般人だ。

 

「おいしいだけじゃないぞ! 食べるとどんな言葉も理解して話せるようになる!」

 

ジェットが誇らしげに胸を張る。

 

……え?

 

それって、ほとんどあの有名な青い猫型ロボットの秘密道具と同じじゃ――

 

「それなんてドラ○もんのほんやくコンニャ――むぐっ!?」

 

「やめろ。それ以上はいけない」

 

言い終わる前にジェットに口を塞がれた。

 

なぜ止める。

いや、まあ…色々大人の事情があるのかもしれないけど。

 

「すごーい!」

 

「すごいって何が?」

 

「言葉がわかる!」

 

二人はトムさんの英語をすらすらと理解しているらしい。

私の耳には、相変わらず英語しか聞こえない。

 

ということは――効果は本物。

 

どういう原理で、食べ物に自動翻訳機能なんて付けられるのか。

もう考えるだけ無駄な気がしてきた。

 

妖精の発明品。

きっと何でもありなんだろう。

 

「ちなみに、効果は3分間だ」

 

ジェットが付け加える。

 

「じゃあ急いで聞かないと!」

 

制限時間付き。

二人は慌てて聞き取りを再開する。

 

「お店のどこで何をしてましたか?」

 

「彼とスカーフを探してたよ」

 

トムさんはにこやかに答える。

どうやら卓也さんと一緒に商品を見ていたらしい。

 

すぐに対象は卓也さんへ。

 

「彼と一緒にいましたか?」

 

「はい。トムさんはお母さんへのプレゼントにスカーフをお探しで」

 

「素敵なスカーフを選んでくれたよ」

 

トムさんが嬉しそうに言う。

 

「はい! あの置物に似た柄を選びました! お母様が庭で植物を育てるのが趣味とお聞きしたので! お好きな柄かな、と!」

 

「置物の柄に似たスカーフ……っと」

 

あんなとみくるが、プリキットブックにメモを取る。

 

さらさら、とペンの音。

 

でも――

 

「置物の柄?」

 

「植物?」

 

話が、どこか噛み合っていない。

 

置物のモチーフは亀。

 

植物とは無縁のはず。

 

なのに卓也さんは、植物を連想している。

 

……さっきの言葉も引っかかる。

 

『6枚揃ってる!』

 

枚?

 

亀の手足と頭、尻尾を数えていた?

 

それとも――

 

花弁と勘違いしている?

 

確かに、ぱっと見は丸い甲羅が花のように見えなくもない。

 

でも、店のシンボルを花と間違えるなんてこと、ある?

毎日見ているはずなのに?

 

胸の奥で、小さな警報が鳴る。

 

怪しい……。

 

けれど今は推理よりも情報。

 

二人は次に、女性客――さえこさんへ向かった。

 

「あなたはどこに?」

 

「私は店に入ってから、ずっとこの子をなでなでしてました」

 

そう言って微笑む。

 

その隣。

 

カウンターの上で、のんびりくつろぐ一匹の猫。

 

ふわふわの毛並み。

気持ちよさそうに目を細めている。

 

この店の飼い猫だろうか。

 

……そういえば。

 

私たちが入ってきたときからこの女性はずっと同じ場所にいた気がする。

 

「猫か……これじゃ証人にならない……」

 

さすがに猫は無理がある。

 

そう思ったときだった。

 

「されてたよ」

 

「「え!?」」

 

「ずーっとなでなで」

 

――ええっ!?

 

「猫の言葉もわかるの!?」

 

私はただの「にゃあ」としか聞こえない。

 

けれど、みくるとあんなにははっきり意味が通じているらしい。

人間だけでなく、動物まで翻訳対象。

 

とんでもない性能だ。

 

「天才だろ!」

 

ジェットが胸を張る。

 

「天才すぎて逆に怖い……」

 

本当に。

 

ジェットさん、もうノーベル賞どころじゃない。

 

こんな発明が世に出たら、歴史が変わる。

いや、むしろ混乱する。

 

「この人も犯人じゃない……。あと残るのは、ちほさんか卓也さん」

 

「ちほさんが!? まさか……」

 

猫の証言により、さえこさんは白。

 

観光客のトム・ミラーさんも母への贈り物を探していただけで、盗む理由は見当たらない。

 

残るは、店員二人。

 

空気が少しだけ張り詰める。

 

「あの……母が待ってるから、もう行かないと……」

 

トムさんがスカーフを手に出口へ向かう。

 

「あ、卓也くん。プレゼント用のシール貼り忘れてる」

 

ちほさんが呼び止めた。

 

「え、ああ……すみません」

 

「シールをサービスしてます。この中からお好きな物をお選びください」

 

差し出されたのは、六種類のシール。

 

すべて――ひまわり柄。

 

「この6枚の中から選ぶの? 悩むなぁ……うーん……スカーフの色と合わせようかな……」

 

6枚。

 

その数字に、胸の奥がざわつく。

 

私は、自然と亀の置物へ視線を向けた。

 

「あれ? あの亀の置物、また逆さまに置いてある」

 

「え?」

 

さっき二階へ上がる前にも見た光景。

 

亀が、裏返しに置かれている。

ひっくり返った亀の腹は橙色。

 

手足や頭部、尻尾の色と合わさって――

 

一見すると、花びらのように見える。

 

まるで、ひまわり。

 

しかも、その横にはゴッホの《ひまわり》の絵が入った額縁。

 

視覚的な刷り込み。

 

「この裏返した亀の置物、ひまわりみたい……」

 

そう口からこぼれた。

 

――待って。

 

じゃあ。

 

「スカーフ……」

 

あんなが呟く。

 

「6枚……ひまわり……」

 

みくるの目が大きく見開かれる。

 

「「あ!!」」

 

私の何気ない一言が、最後のピースだったらしい。

 

二人の視線が、鋭く一点へ向く。

 

「「見えた! これが、答えだ!」」

 

「犯人は……」

 

「うん!」

 

「「あの人だ!!」」

 

張り詰めた空気の中、確信が走る。

バラバラだった違和感が、一本の線で繋がった。

 

事件の真相は、もうすぐそこまで来ている。

 

「犯人がわかりました!」

 

店内にみくるの凛とした声が響く。

 

「置物を盗んだ犯人は……」

 

二人の視線が、ゆっくりとある人物へ向けられる。

 

――まあ、考えるまでもない。

 

ここまで露骨に怪しい言動を重ねていたのは、一人しかいないのだから。

 

「「あなたです!!」」

 

ビシッ、と突きつけられた人差し指。

 

その先にいたのは――

 

「ぼ、僕が? そんなわけないでしょ……」

 

男性店員、仲手川卓也さん。

 

引きつった笑みを浮かべ、必死に否定する。

だが、あんなとみくるは一歩も引かない。

 

「いいえ、あなたしか考えられない!」

 

「今回の事件の謎を解く鍵は、スカーフです」

 

「スカーフ?」

 

確かに卓也さんは言っていた。

 

“あの置物に似た柄”のスカーフを選んだ、と。

 

その言葉こそが、決定的なヒントだった。

 

「あなたは置物を盗んで、搬入口から出ようとした」

 

「店員であるあなたなら、誰も怪しまない」

 

「でも出ようとしたとき、トムさんにスカーフを探してほしいと声をかけられて……」

 

「慌てたあなたは、置物をクッションの中に隠した」

 

「そこなら、置物は割れなくて済むから」

 

状況が鮮明に浮かぶ。

 

二階に上がる直前、トムさんが来店。

 

その偶然が、卓也さんの計画を狂わせた。

 

もしあのとき、私がもっと近くで様子を見ていたら――

犯行の瞬間を目撃できたかもしれない。

 

少しだけ、悔しさが込み上げる。

 

「そんな、言いがかりですよ!」

 

「卓也くんがまさか……」

 

ちほさんも動揺を隠せない。

 

それでも、卓也さんは認めない。

 

ならば――証拠。

 

あんなが静かに切り札を切る。

 

「トムさん」

 

「はい」

 

「卓也さんは、あの置物みたいな柄のスカーフを、お母さんへのプレゼントに選んだって言いましたよね?」

 

「はい……」

 

「見せてもらえませんか?」

 

「はい、これだよ」

 

差し出されたスカーフ。

 

広げられた布地に描かれていたのは――

 

鮮やかな、ひまわり。

 

亀ではない。

どう見ても、花。

 

「ええ、あの置物とそっくりでしょ?」

 

「え?」

 

卓也さんは、何の疑いもなく笑顔で言う。

 

けれど。

 

致命的な勘違いをしている。

 

何度でも言おう。

 

置物のモチーフは――亀。

 

花じゃない。

 

「そう、卓也さんは花の形をした置物だと思ってたの」

 

「亀の置物なのにね!」

 

「か、亀……?」

 

卓也さんの顔色が、さっと変わる。

 

ようやく、自分の思い込みに気づいたらしい。

 

裏返された亀。

 

橙色の腹。

 

六枚の“花びら”に見える手足と頭と尻尾。

 

そして、横に飾られたひまわりの絵。

 

視覚のトリック。

 

だが――

 

店員なら、間違えるはずがない。

二人の鋭い視線が、卓也さんを射抜く。

 

「クッションの中から見つかったとき……」

 

みくるが静かに口を開く。

 

脳裏に、あの瞬間がよみがえる。

 

『6枚揃ってる! どこも壊れてない!』

 

あの不自然な一言。

 

「おかしいと思った。亀の頭と足、尻尾を“6枚”とは言わない」

 

「花だと勘違いしてたから6枚って言ったの! 花びらを数えるみたいに!」

 

「くっ……!」

 

卓也さん――いや、“卓也さんの偽物”が歯噛みする。

 

あの不自然な言動。

 

置物を戻すたびに、なぜか裏返していた理由。

 

すべてが繋がる。

 

店員が、店の象徴ともいえる亀の置物を知らないはずがない。

 

なのに彼は花だと思い込んでいた。

 

それはつまり――

 

最初から、店員ではなかったということ。

 

「そしてさっき、みのるが言っていた」

 

あんなが私を見る。

 

『この裏返した亀の置物、ひまわりみたい……』

 

「この言葉で確信した。卓也さんが亀じゃなく、ずっとひまわりだと思い込んでいたことに……」

 

最後のピースがはまった。

 

店内の空気が、ぴんと張りつめる。

 

偽物は、悔しそうに唇を噛みしめている。

 

「店員の卓也さんが、そんな間違いをするはずがない!」

 

「「あなたは卓也さんじゃない!!」」

 

宣告。

 

その瞬間、静寂が店を包み込んだ。

 

観念したように、偽物は目を閉じる。

 

――やっぱり、ニジーが変装していたのか?

 

そう思った…しかし。

 

「マジチョベリバ~!」

 

「……は?」

 

いきなり取り出された、メイクブラシ。

 

目の前で、素早く化粧を施し始める。

 

警戒する間もなく顔立ちが変わり、雰囲気が一変した。

 

変装が解ける。

 

そこに立っていたのは――

 

「そう! アタシは怪盗団ファントムの『アゲセーヌ』!」

 

ギャルのような派手な衣装に身を包んだ女性。

 

ニジーではない。

 

新たな怪盗団ファントムのメンバー。

 

アゲセーヌ。

 

軽い自己紹介を済ませると、彼女はくるりと方向転換。

 

一直線に、亀の置物へ――

 

(まずい!)

 

そう思ったときには、もう遅い。

 

「頂いていくから~!」

 

ひょいっと置物を抱え、そのまま店の外へ飛び出した。

 

「待って!」

 

みくるとあんなが即座に追いかける。

 

私とジェットも慌てて外へ出るが――

 

姿が、見えない。

 

「「ああ!!」」

 

二人の叫び声につられて見上げる。

 

向かい側の建物の屋根。

 

そこにアゲセーヌは立っていた。

 

そして――

 

ぴょん、と軽やかに跳び上がる。

 

次の屋根へ。

 

さらにその先へ。

 

建物を伝い、俊敏な動きで跳び跳ねながら逃走していく。

 

「速っ!? もうあんなところに!」

 

「すぐに追いかけるよ!!」

 

――そうだ。

 

ジェットが言っていた。

 

怪盗団ファントムも妖精だと。

 

人間離れした身体能力。

ニジーが私を抱えたまま、あの速度で走れた理由。

 

全部、繋がる。

そもそも人間じゃない。

 

だからこそあの動き。

 

……でも。

 

だからといって、諦める理由にはならない。

 

「行こう!」

 

私たちは全速力で駆け出す。

 

屋根の上を跳ぶアゲセーヌの背中を追って。

 

絶対に――

 

取り返す。

 

 

_______________

 

 

 

【るるかSide】

 

ストロベリーアイスをひと口。

舌の上でゆっくり溶けていく、やさしい甘さ。

ふわりと広がるいちごの香り。

 

……悪くない。

 

私はアイスを片手に、街へ出ていた。

 

目的はひとつ。

 

アゲセーヌと――名探偵プリキュアの様子を見ること。

 

そして…

 

『アゲセーヌに、名探偵プリキュアを倒して華麗に盗めと伝えてくれ』

 

途中でウソノワール様からの伝言を伝えるように頼まれた。

 

……やっぱり、そう来るよね。

 

アゲセーヌの身体能力なら、マコトジュエルが宿った品をそのまま劇場まで持ち帰ることもできるかもしれない。

 

でも――

 

そう簡単にいかないのが名探偵プリキュア。

 

それは、私自身が一番わかっている。

 

放っておけば必ず追い詰めてくる。

後回しにすればするほど、面倒になる。

 

だからウソノワール様は、任務の最中でも構わず始末を命じた。

 

……正しい判断。

 

劇場を出てから、時間的にもそろそろアゲセーヌが戻ってくる頃。

そう思っていたら――

 

「アンタたち何で来たし!」

 

ちょうど目の前にアゲセーヌが走り込んできた。

 

不機嫌そうな顔。

 

マシュタンが淡々と伝言を伝える。

 

「ウソノワール様からの伝言。やつらを倒して華麗に盗め」

 

私は小さく肩をすくめた。

 

「……だって。よろしく」

 

「なにそれ!」

 

文句を言われても、私はただの伝達係。

言うだけ言ってくるりと背を向ける。

 

邪魔をするつもりはない。

 

けれど――

 

戦いは見学させてもらう。

 

私は引き返すふりをして、すぐ隣の屋根へと軽やかに移動した。

 

「「あ、いた!!」」

 

下から声が上がる。

 

名探偵プリキュア、到着。

 

「ちっ……面倒だけど、ウソノワール様のためなら相手してやるっしょ!」

 

アゲセーヌは舌打ちしながらも、懐からガラスのような輝きを放つ物を取り出した。

 

「ウソよ覆え! チョベリグにしちゃって、ハンニンダー!」

 

黄色いハイビスカスがひらりと舞い、亀の姿をしたガラス細工の横へ添えられる。

 

内部に宿っていたマコトジュエルが、じわりと黒く染まっていった。

 

光が、闇へと変わる。

 

「ハンニンダー!」

 

現れたのは――

 

ひまわりのような姿をしたハンニンダー。

 

……あれ?

 

元は亀のはず。

 

どうしてひまわり?

 

まあ、いいか。

 

造形のセンスは作り手次第。

深く考えることじゃない。

 

ハンニンダーが完全に姿を現した直後。

アゲセーヌとそれを中心に、透明な膜が広がる。

 

空気が震え、光が歪む。

 

半球状の結界が、周囲を包み込み――

やがて完全に閉ざされた。

 

隔離空間。

 

「あ!?」

 

「どうなってるんだ!」

 

「透明な何かが閉じていく……」

 

混乱する少女たち。

視界を覆う透明な膜は、ゆっくりと、しかし確実に閉じていく。

 

外界との境界が、完全に断たれる。

 

アゲセーヌは余裕たっぷりに笑った。

 

「ふふっ、ファントムの新技術。アンタたち以外いない密室! これで事件は迷宮入りっしょ!」

 

ハンニンダー自体も最近生み出された存在。

 

けれど、それとは別の新技術。

 

見た目はただの透明な壁。

しかし実際は、境界線に沿って“認識”を切り分ける装置。

 

外側から見れば、そこには何もない。

ただの空間。

 

中の様子は完全に遮断される。

そして内側からも、外へは出られない。

 

人目を気にせず、戦える。

 

完璧な――密室。

 

そのとき。

 

(……あの2人!)

 

「「オープン! ジュエルキュアウォッチ!」」

 

首から下げたペンダントを握り、詠唱。

 

瞬間、2人の姿がまばゆい光に包まれ――

 

視界から消えた。

 

そして、光が弾ける。

 

「どんな謎でも、はなまる解決! 名探偵『キュアアンサー』!」

 

「重ねた推理で、笑顔にジャンプ! 名探偵『キュアミスティック』!」

 

「「名探偵プリキュア!」」

 

現れたのは、さっきまでの少女たちとは別人のような姿。

 

鮮やかな衣装。

強い眼差し。

 

その名を、私は忘れたことがない。

 

(名探偵プリキュア……)

 

長い間姿を見せなかった存在。

 

それが、今ここに。

 

しかも――二人。

 

私たち怪盗団ファントムにとって、かつて脅威だった存在。

 

マシュタンも興味深そうに目を細める。

 

「驚きね。まさか名探偵プリキュアが新たに誕生するなんて……」

 

「うん……」

 

(この戦い……見届けさせてもらう)

 

敵を知ることは、何より重要。

 

おそらく近いうちに私自身が戦うことになる。

それは避けられない。

 

私は屋根の縁に腰を下ろし、アイスをひと口。

静かに観察する。

 

「ハン、ニン……ダー!!」

 

先制はハンニンダー。

 

巨大な葉を横薙ぎに振るい、風圧が走る。

 

だが、プリキュアの二人は高く跳び上がり、軽やかに回避。

変身によって引き出された、超人的な身体能力。

 

「花じゃなくて亀だってば!!」

 

ミスティックが叫ぶ。

 

「今そんなこと言ってる場合じゃないでしょ……」

 

冷静にツッコミを入れる少女。

 

その姿に、私は視線を向ける。

 

あれが――花崎みのる。

 

例の少女。

 

変身していない。

アイテムも持っていない。

確かに、ただの一般人に見える。

 

その隣。

 

白衣を着た少年。

 

雰囲気が、どこか人間離れしている。

 

……もしかして。

 

妖精?

 

戦いの中心と、周囲。

それぞれの役割が少しずつ見えてくる。

 

「はあああああっ!!」

 

鋭い気合いとともに、アンサーが空中で身体をひねる。

 

回転の勢いを乗せた蹴りがハンニンダーの胴を直撃。

 

「ハンっ!? ……ダー……!」

 

大きくのけ反ったその隙を逃さない。

上から落ちてきたミスティックが両足で思い切り踏みつける。

 

衝撃。

 

バランスを崩したハンニンダーは、轟音を立てて地面へ倒れ込んだ。

 

……なるほど。

 

単独の力だけじゃない。

連携も取れている。

 

「……あの子たち、面白いわね」

 

マシュタンの口元が緩んだ。

 

「何やってんのハンニンダー!? チョベリバー!」

 

「チョベリバ?」

 

アンサーがきょとんとする。

 

……今どき、その言葉を多用する人も珍しい。

 

時代の流れを感じる光景。

でもあの年頃で意味を知らないのは少し意外かも。

 

「最悪って意味だ。ちょっと前に流行った言い方」

 

白衣の少年が冷静に解説する。

 

「いわゆる『ギャル語』だよ。ちょっと前に流行ったけど」

 

隣のみのるも補足。

 

なるほど、知識はあるらしい。

ピークを過ぎてもなおギャル語を貫くアゲセーヌも、ある意味一貫しているけど。

 

遠回しに時代遅れ扱いされたと感じたのか、アゲセーヌはさらにヒートアップ。

 

「アゲ的には今もブームだし! いっちゃって、ハンニンダー!」

 

「ハンニンダー!!」

 

ツタでできた腕がしなり、地面へ叩きつけられる。

 

だが、空振り。

 

アンサーとミスティックは壁を駆け上がりながら距離を詰め、反撃の機会をうかがう。

 

動きは軽く、無駄がない。

 

「「はああああ!!」」

 

二人が同時に跳躍。

 

拳を突き出し、上空から攻撃態勢へ。

 

……でも。

 

空中は自由が利かない。

 

大きく軌道を変えることはできない。

 

ハンニンダーからすれば、狙い撃ちしやすい。

 

「ハンニン、ダー!!!」

 

正面から放たれる大量のエネルギー弾。

閃光が一直線に走る。

 

「きゃあ!?」

 

「アンサー! ミスティック!!」

 

みのるの叫び。

 

その直後。

 

「ダー!」

 

ハンニンダーの腕がさらに伸びる。

 

ツタが絡みつき、二人の足を拘束。

ぐるり、と締め上げられ――

 

そのまま宙吊り。

完全に動きを封じられた。

 

下では白衣の少年とみのるが青ざめている。

 

「まずい……!」

 

「ポチ……」

 

このまま振り回されれば、いくらプリキュアでも無事では済まない。

 

……ここで一気に畳みかければ、少なくともダメージは入る。

 

勝機は、ある。

 

「ハンニンダー!!」

 

「イェーイ!! アゲの活躍見てるー? ウソノワール様~!!」

 

……ああ、もう。

 

完全に油断。

拘束に成功した途端、勝利を確信してアピールタイム。

 

ちなみにウソノワール様はここにはいない。

けれど、劇場からこの一部始終を見ているのは確か。

 

傍から見れば、誰もいない空間に向かって手を振る危ない人。

 

チャンスを無駄にするなんてもったいない。

 

「これってもうアゲの勝ちじゃね? マコトジュエル盗られて悔しい感じ?」

 

宙吊りにされたプリキュアを見上げながら、アゲセーヌは勝ち誇ったように笑う。

完全に優位に立ったつもりらしい。

 

でも――

 

その軽口は、逆効果。

プリキュアの火に油を注ぐことになってしまう。

 

「マコトジュエルも大事だけど……」

 

アンサーの瞳が強く揺れる。

 

脳裏に蘇っているのだろう。

 

『この店のシンボルなんです』

 

「マコトジュエルだけじゃない!!」

 

「あなたには、ものに込められた思いが見えてない!!」

 

「はぁぁ??」

 

アゲセーヌが顔をしかめる。

 

マコトジュエルが宿る物には必ず強い想いがある。

 

願い。

 

祈り。

 

積み重ねた時間。

 

それを“嘘”で塗り替えるのが私たち。

だからプリキュアは、黙っていられない。

 

『亀みたいに歩みは遅くても、一歩ずつ前に進んで行こうって!』

 

「ちほさんの大切なものは必ず取り返す!!」

 

「私たちも歩みを止めない!」

 

二人は身体を起こし、絡みつくツタを両手で掴む。

 

そして力を込める。

 

「「うううう……あああっ!!」」

 

――バチンッ!!

 

「うえ!?」

 

分厚いツタが、強引に引きちぎられた。

 

やっぱりプリキュアの力は常識外れ。

変身すれば、普通の人間とは比べものにならない怪力を誇る。

 

拘束もほぼ無意味。

 

アゲセーヌが信じられないという顔をしている。

 

……対策が甘い。

今後はしっかり考えた方がいい。

 

「ハン……ニン……」

 

よろめくハンニンダー。

 

そこへ、二人は変身時に使ったアイテムを手に取る。

 

理解した。

 

――浄化技だ。

 

「「これが私たちの……アンサーだあああああ!!」」

 

衝撃波が広がる。

 

光をまとった二人が、一直線に突撃。

高速の閃光がハンニンダーの胴体を貫いた。

 

「「キュアット解決!」」

 

光の柱が天へ伸びる。

 

「ハン……ニン……ダー……」

 

断末魔の声。

 

やがて闇は消え、光の中から本来の輝きを取り戻したマコトジュエルが現れる。

 

奪われた宝は、名探偵プリキュアの手へ。

 

――任務失敗。

 

「ぬうう……チョームカつく!!」

 

アゲセーヌは悔しそうに歯ぎしりし、ハイビスカスの花弁に包まれて姿を消した。

 

劇場へ帰還。

 

結界も解け、静けさが戻る。

 

「ふーん、プリキュアね」

 

私は立ち上がり、残っていたアイスのコーンをぽいっと口に放り込む。

 

ぱきり、と軽い音。

 

新たに誕生した名探偵プリキュア。

 

連携、突破力、浄化技。

ある程度の戦い方は把握できた。

 

少なくとも、ハンニンダーを制圧するだけの力はある。

怪盗団ファントムにとっては、十分な脅威。

 

……でも。

 

勢いは、いつか落ちる。

どんな存在も、最初の輝きが永遠に続くわけじゃない。

その現実を、あのプリキュアたちが実感する日も――

 

きっと、そう遠くない。

 

 

_______________

 

 

 

【みのるSide】

 

亀の置物は無事に元の棚へ戻った。

今度はちゃんと、表向きで。

 

宝石のような輝きが店内の光を受けてきらめき、静かに空間を彩っている。

 

さっきまでの騒動が嘘みたいだ。

 

「ありがとうございます、探偵さん!」

 

ちほさんが深く頭を下げる。

 

そのとき、店の扉がからん、と音を立てて開いた。

 

「ただいま戻りました……」

 

「え!?」

 

現れたのは――仲手川卓也さん。

 

一瞬、店内に緊張が走る。

さっきまでアゲセーヌが化けていた姿。

 

思わず身構える。

 

「本物の卓也さんだと思います」

 

みくるの落ち着いた一言で、場の空気が少し和らぐ。

 

「買ってこいって頼まれたハイビスカス、どこにも売ってなくて……」

 

「私頼んでないけど……?」

 

ちほさんが首を傾げる。

 

「きっとアゲセーヌとかいうあいつが、ちほさんに化けて頼んだんだな」

 

ジェットが腕を組んで言う。

 

「迷惑な人だよ本当に……」

 

卓也さんは完全に巻き込まれただけらしい。

 

完璧な変装。

よほど致命的なミスをしない限り、見抜くのは難しい。

ちほさんに化けて買い出しを頼み、

 

その後、自分が卓也さんに化ける。

 

怪盗団ファントム。

思っていた以上に厄介な相手だ。

 

 

_______________

 

 

 

「「できたー!! 私たちの探偵事務所!!」」

 

数時間後。

 

大掃除を終えた事務所に、みくるとあんなの歓声が響いた。

 

買ってきたクッション。

小さな観葉植物。

壁にかけた時計や写真立て。

 

キュアット探偵事務所は再び活気を取り戻していた。

 

床も棚もぴかぴか。

埃ひとつない。

 

やり切った、という達成感がある。

 

「「わぁぁ……」」

 

「ポチ~!」

 

みくるたちがうっとりと部屋を見渡す。

 

――ジェットを除いて。

 

「お……お金が……」

 

「……ドンマイ……」

 

案の定、ジェットの財布は空っぽ。

 

ほぼ全額立て替え。

 

レジで会計したときの、あの絶望的な顔。

流石に少し申し訳なくなる。

 

みくるとあんなは外へ出て、できあがった看板を見上げていた。

 

私とジェットは窓からその様子を眺める。

 

「いい感じにできたね!」

 

「ええ!」

 

二人の声が、中まで聞こえてくる。

 

楽しそうだ。

本当に。

 

みくるとあんな。

名探偵プリキュア。

今では、完全に“相棒”。

 

並んで立つ姿が自然すぎる。

 

みくるが笑っているのを見ると、私も嬉しい。

 

でも――

 

ほんの少しだけ。

どこか遠くに行ってしまったような気がする。

 

窓越しに見るその背中が、

前よりも、少しだけ遠く感じた。

 

「初めての依頼はどんな事件かな?」

 

みくるが、わくわくした様子で言う。

 

新しく整えたキュアット探偵事務所。

まだ依頼は一度もない。

 

でも、それが逆に始まりの予感を強くしていた。

 

「……私決めてるの、初めての依頼人」

 

みくるが少しだけ真面目な顔になる。

 

「……わ、私!?」

 

視線の先にいたのは、あんな。

戸惑いがそのまま声に出ていた。

 

「ええ、あんな。あなたを元の時代に帰すって」

 

静かに、でも迷いなく。

その言葉に、あのときの記憶がよみがえる。

 

――『うん、でも私決めちゃったんだ。みーんなを助けるって!! ウソで覆われた世界なんて嫌だから。私、みくると一緒に名探偵プリキュアとしてがんばる! 戻るのはその後!』

 

本当は、寂しくないはずがない。

家族も友達もいない時代。

 

ホームシックに押し潰されてもおかしくないのに。

それでもあんなは、人を救うことを選んだ。

 

怪盗団ファントムから、ウソに塗り替えられた世界を守ることを。

その優しさに、みくるは心を撃ち抜かれたのだろう。

 

「私に依頼してよ、あんな!」

 

「みくる……」

 

あんなの瞳が揺れる。

 

――それが、みくるの選んだ最初の依頼人。

 

プリキュア同士。

 

仕方ない、そう思う。

 

思うけど。

ほんの少しだけ。

 

どうして私じゃないんだろう、って。

 

小さな嫉妬が胸の奥に芽を出す。

 

「……私を元の時代に帰して!」

 

「うん。その依頼、引き受けた!」

 

ぱっと、二人の顔に笑顔が広がる。

 

「あなたの事件を解決するためにも、立派な名探偵にならないと!」

 

「そうだね! 一緒に協力して立派な名探偵になろう!」

 

「ポチ!」

 

笑い声が重なる。

 

二人の間に見えない絆が、さらに強く結ばれた気がした。

 

性格が似ているのかもしれない。

 

まっすぐで、優しくて、少し無茶で。

推理も、戦いも、あれだけ息がぴったりなのだから。

 

「……似た者同士、良いコンビじゃんか」

 

棒つきキャンディーをくわえたジェットが、にやりと笑う。

 

私は何も言わない。

 

今のところ、特にやることもない。

 

部屋に戻ろうと踵を返した、そのとき。

 

「お前……みくるの親友だよな? 相棒の座を譲っても大丈夫なのか?」

 

足が止まる。

 

ジェットなりに、気にしてくれているのだろうか。

 

気にならないわけじゃない。

胸の奥が、少しだけざわつく。

 

でも――

 

「大丈夫だよ。元々私はみくるの助手という立場で一緒にいたから、あんなとみくるの相性が良かった。それだけのことだよ」

 

できるだけ自然に、そう言った。

 

嘘じゃない。

……多分。

 

私はそのまま廊下へ出る。

 

「やれやれ……忙しくなりそうだ……」

 

ジェットの独り言を背に、扉を閉めた。

 

廊下は少し薄暗い。

太陽の光が届かない場所。

静かな空気の中、ひとりで歩き出す。

 

足音だけが、やけに響いていた。




※後のアニメの展開によって加筆、修正する可能性あり
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