かわいいホームズの親友ちゃんは、相棒の座を奪われて焦心苦慮   作:くぁwせdrftgyふじこlp

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信じる力、諦めない心

【みのるSide】

 

目の前に広がった光景を見た瞬間、私は思わず駆け出していた。

 

「わぁ~~すご~い!!」

 

視界いっぱいに広がっているのは、数え切れないほどの百合の花。

柔らかな陽射しを浴びた白い花びらが、風に吹かれて一斉に揺れている。

 

右を見ても、左を見ても百合ばかり。

まるで真っ白な絨毯が敷き詰められているみたいだ。

こんな綺麗な場所があったなんて知らなかった。

 

「まさかこんなところに百合の花畑があったなんて。家の真後ろなのに全然気づかなかった!」

 

「そりゃあ森を挟んだ場所だからね。普通だったら恐くて近づけないよ。私もここを知ったのは最近だし」

 

確かに、ここへ来るまでには木々の生い茂った森を通らなければならなかった。

家のすぐ後ろとはいっても、普段ならわざわざ森の奥まで入ろうとは思わない。

教えてもらわなかったら、きっと私はずっとこの場所を知らないままだっただろう。

 

私は花畑の中をゆっくり歩いていく。

風が吹くたび、白い百合が私を迎えてくれるように揺れていた。

その光景を眺めているだけで、不思議と胸の奥が軽くなっていく。

 

「癒される……ずっとつらいことが続いてたけど、この花畑を見てると少しだけ落ち着くような気がする」

 

「みのる……」

 

隣から聞こえてきた声に、私は顔を向ける。

 

「どんなにつらいことがあっても、私はいつでもみのるの味方だからね」

 

「うん、ありがとう」

 

その言葉が花畑を吹き抜ける風と一緒に胸の中へ染み込んでいくようだった。

 

味方でいてくれる人がいる。

たったそれだけのことが、今の私には何よりも嬉しかった。

 

「いい天気だね……」

 

空を見上げれば、遮るもののない青空が広がっていた。

白い百合の花畑と青い空。

その間を優しい風が通り抜けていく。

 

ずっとここにいたい。

そんなことを思いながら再び花畑へ視線を戻したときだった。

 

白一色だった景色の中に、一つだけ違うものが見えた。

 

「ねえ見て!白い花の中に黒いのがあるよ!」

 

「はしゃぎすぎだよ。落ち着くどころか興奮しちゃってるし……」

 

さっきまで癒されるなんて言っていたのに、珍しいものを見つけた途端、すっかり夢中になってしまった。

 

でも仕方ないと思う。

これだけ真っ白な百合が咲いている中に、一輪だけ黒い花が混ざっているのだから。

 

「この百合だけ黒いんだよ。枯れちゃったのかな?」

 

「これは黒百合。白いイメージが強い百合の花だけど、ピンク、赤、黄色の他にも黒い色をした種類もあるんだよ」

 

枯れているわけではないらしい。

周囲を埋め尽くす白い花々とはまるで違う。

 

明るい陽射しの下で咲いているはずなのに、その花だけが影をまとっているように見えた。

 

「少し不気味だね……花言葉はなんて言うの?」

 

その声に耳を傾ける。

 

風が吹いた。

白い百合と、その中に咲く一輪の黒百合が静かに揺れる。

 

「黒百合の花言葉はね……」

 

 

 

 ――愛

 

 ――恋

 

 

 

 

 

 ――呪い

 

 

 

 ――復讐

 

 

_______________

 

 

 

「………はっ!?」

 

意識が一気に現実へ引き戻された。

目を開けた直後は、自分がどこにいるのかさえわからなかった。

頭の中にはさっきまで見ていた光景がぼんやりと残っている。

 

また変な夢を見ながら……。

私は今何を?

 

混乱する頭で、意識を失う直前の出来事を必死に思い返す。

確かジャックに気絶させられて……それからずっと眠ったままで……。

 

「!!」

 

目の前に広がっていた光景を認識した瞬間、全身に衝撃が走る。

 

戦ってる――!!

既にあんなとみくるはプリキュアへと変身していた。

 

ミスティックはアルカナ・シャドウ、そしてハンニンダーと交戦している。

激しい戦闘が繰り広げられている中、私はもう一人の姿を探した。

 

アンサーの方は……

 

「アンサー!?」

 

向こうに見えた光景に、心臓が跳ね上がる。

 

アンサーが地面に倒れていた。

立ち上がる様子もない。

 

その倒れたアンサーへ向かって、ジャックがゆっくりと近づいている。

 

「なっ、起きたのか!?」

 

「ゴウエモン!!」

 

突然すぐ近くから聞こえてきた声に振り向こうとして、ようやく自分が置かれている状況に気づいた。

 

私はゴウエモンにお姫様抱っこされていた。

 

なんでこんなことに!?

気絶していた間に何があったのかはわからない。

でも、私をこんな状態で確保していることを考えれば、ジャックが何を考えていたのかは大体予想がつく。

 

「は、離して!」

 

反射的に身体を動かし、腕の中から抜け出そうとする。

 

「おい待て!暴れるとあぶねぇぞ!」

 

「!?」

 

ゴウエモンの言葉で何気なく下を見た瞬間、身体が固まった。

 

地面が――遠い。

思っていたよりもずっと下にある。

 

ゴウエモンは事務所の屋根の上にいたのだ。

もし何も考えずに腕を振りほどいていたら、そのまま屋根から落下して地面に叩きつけられていたかもしれない。

 

そう考えた途端、さっきまでの勢いが一瞬で消えた。

 

「今下ろしてやるから待ってろ」

 

「うん……」

 

大人しくゴウエモンに任せる。

ゴウエモンは屋根から地面へ降りると、ようやく私を下ろしてくれた。

 

「ミスティック!!」

 

「みのる!!………よかった……」

 

戦いながらこちらを見たミスティックの表情が少しだけ緩んだ。

 

私が無事だった。

それがわかって安心してくれたんだ。

 

でも――今はそんな余裕なんてない!

 

「ミスティック!アンサーが危ない!!」

 

「え!?」

 

私の声にミスティックが向こうを見る。

ジャックは、気を失っているアンサーをおもちゃのように踏みつけていた。

 

「アンサー!うっ!?」

 

すぐに助けへ向かおうとするミスティック。

しかし、その進路を塞ぐようにアルカナ・シャドウが立ちはだかった。

 

「あなたの相手は私よ」

 

「どいて!!」

 

ミスティックが攻撃を仕掛ける。

拳を繰り出し、どうにかアルカナ・シャドウを突破しようとするけれど――当たらない。

 

ミスティックがどれだけ攻めても、アルカナ・シャドウは涼しい顔をしたまま対応している。

 

アンサーが危ないのに、アルカナ・シャドウを退けなければ助けに行けない。

しかも、相手は彼女だけじゃない。

 

「ハン~ニンダ~!!」

 

背後からハンニンダーがビームを発射する。

ミスティックはそれを素早く避け、その勢いのままハンニンダーの真下へ潜り込んだ。

 

そして身体を跳ね上げるように――両足を叩き込む。

 

「ハン!?」

 

巨体が蹴り上げられる。

 

「はぁぁっ!!」

 

さらにミスティックが追撃。

振り抜かれた拳が、ハンニンダーの顔面を捉えた。

 

「ハンニンダーァァァ!!?」

 

強烈な一撃を受けたハンニンダーが、そのまま大きく吹き飛ばされていく。

 

「やるじゃない」

 

それでも、アルカナ・シャドウは動じていなかった。

ハンニンダーを突破しても、まだ彼女がいる。

 

アンサーのところへ行くためには、アルカナ・シャドウを退けなければならない。

 

「アルカナスターレイン」

 

「ミスティックリフレクション!!」

 

アルカナ・シャドウの声と同時に、無数のレーザーが放たれる。

それを迎え撃つように、ミスティックがバリアを展開した。

 

レーザーとバリアが真正面から激突する。

激しい力と力のぶつかり合いに、私は息を呑んだ。

 

アルカナ・シャドウのレーザーが押し込んだかと思えば、次の瞬間にはミスティックのバリアが押し返す。

 

どちらかが圧倒しているわけではない。

押して、押し返して、その繰り返し。

 

「道を開けて!!」

 

「!!」

 

ミスティックの叫びが響いた瞬間、ずっと均衡を保っていた二つの力に僅かな変化が生まれる。

 

ミスティックのバリアが――押し始めた。

ほんの少しずつではあるけれど、アルカナ・シャドウのレーザーを押し返している。

 

「はああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

「っ……」

 

ミスティックがさらに力を込める。

そしてついに、アルカナ・シャドウのレーザーを全て防ぎ切った。

 

勢いを失わなかったバリアは、そのままアルカナ・シャドウへ向かって押し出される。

 

アルカナ・シャドウは直撃する寸前で避けた。

それでも、その表情は今までとは違っていた。

 

いつものような落ち着いた感じがない。

僅かではあっても、確かに余裕が消えていた。

 

「あのプリキュア、なかなかやるじゃねえか」

 

「……ミスティック…」

 

隣にいるゴウエモンの言葉を聞きながら、私はミスティックを見つめる。

アルカナ・シャドウを突破したミスティックは、そのまま走り出した。

 

目指しているのはもちろん――ジャックとアンサーのいる場所。

不思議なことに、アルカナ・シャドウは追いかけなかった。

 

突破されたというのに、ミスティックを再び妨害しようともせず、走り去っていくその背中を黙って見ている。

 

「みのる……?」

 

すると、不意にすぐ隣から聞き慣れた声がした。

視線を落とすと、いつの間に来たのかポチタンが私の隣にいる。

 

「ポチタン?私のこと心配してくれたの?」

 

「ポチ!」

 

「ありがとう。私は大丈夫だから」

 

私はそっと手を伸ばして、ポチタンの頭を撫でる。

柔らかな感触が手のひらに伝わってきた。

 

私が本当に無事だとわかったからなのか、ポチタンも安心した様子を見せる。

そして私たちは、再びプリキュアたちの戦いへ目を向けた。

 

「ジャック!!!」

 

「今度はミスティックが相手?アルカナ・シャドウとハンニンダーを退けたなんて成長したね」

 

ジャックはそんなミスティックを前にしても、いつもの調子を崩していない。

 

でも、ミスティックは怒っている。

 

「みのるだけじゃなく、アンサーまでこんな目に!!絶対許さない!!絶対に!!」

 

その声から伝わってくる怒りに胸が締めつけられる。

私を気絶させたこと。

 

そして今度は、アンサーまで傷つけたこと。

その全てを許せないと言わんばかりに、ミスティックはジャックを睨みつけている。

 

「私が言うのもあれだけど落ち着きなよ。そんな状態で私に勝てるわけ……」

 

ジャックがそこまで言った――その途中。

ミスティックが取り出したものは、プリキットミラールーペ。

 

「オープン!!プリキットミラールーペ!!」

 

「えっ?」

 

ジャックの表情が変わった。

完全に想定外だったんだ。

 

私も目の前で起きていることを疑った。

……いきなり浄化技をジャックにぶつけるつもりなの?

 

こんな戦い方はミスティックらしくない。

いつものミスティックなら、相手の動きを見ながら戦い、確実に浄化技を当てられる状況を作るはず。

 

なのに今は、戦い始めてすぐにプリキットミラールーペを取り出した。

 

もしアンサーを傷つけられたことで焦っているのなら――これは悪手だ。

ジャックほどの相手に、そんな簡単に浄化技が通用するとは思えない。

 

でも……どうするつもりなんだろうか?

 

「ポチタン!!」

 

「ポチ~!」

 

ミスティックに呼ばれたポチタンが応える。

そしてポチタンから専用のマコトジュエルを受け取ったミスティックは、それをプリキットミラールーペにはめ込んだ。

 

「プリキュア!ミスティックストライク!」

 

ミラールーペの先端から鋭い剣身が伸びる。

さっきまで探偵道具だったものが、立派なレイピアへと姿を変えた。

 

ミスティックの浄化技。

それを――いきなりジャックにぶつけるつもりなんだ。

 

「はあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「………」

 

ミスティックが地面を蹴り、ジャックへ突っ込んでいく。

全力を込めた渾身の刺突。

 

だけど――ジャックは避けなかった。

ミスティックストライクを真正面から受け止めた。

 

武器すら使わず、片手で素手のまま。

プリキュアの浄化技ですら、ジャックには簡単には通用しない。

 

「うううぅぅぅぁぁぁぁああ!!」

 

それでもミスティックは止まらなかった。

受け止められているにもかかわらず、レイピアを前へ押し込み続ける。

 

「学習しなよ。前に私に防がれたのを忘れたの?」

 

ジャックの煽るような言葉にも、ミスティックは何も答えない。

 

ただ必死に。

ジャックを突破するために、力を込め続けている。

 

その姿を見ていたら、私も黙ってなんていられなかった。

気づいたときには、考えるより先に声が出ていた。

 

「頑張れ!!頑張れミスティック!!」

 

「あああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

まるで私の声に応えてくれたかのようだった。

ミスティックがさらに力を込める。

レイピアが少しずつ前へ進んでいく。

 

「くっ………」

 

ジャックの表情から――笑顔が消えた。

さっきまであれほど余裕そうだったのに。

 

片手だけでは抑えきれなくなったのか、もう片方の手まで使い、両手でレイピアを受け止める。

 

押し込むミスティック。

それを必死に抑えるジャック。

二人の力が、ついに拮抗し始めていた。

 

「がんばれぷいきゅあ~!がんばれミスティック~!」

 

私の近くで戦いを見守っていたポチタンも、一生懸命に声を上げる。

 

「うるさい外野が増えたところで……戦況が変わるわけないのにね!」

 

ジャックの声に、ほんの僅かな苛立ちが混ざっていた。

 

そう、私たちは戦えない。

今こうして安全な場所から戦いを見ているだけで、できることといえば声をかけるくらい。

ジャックからすれば、そんな私たちの応援なんて鬱陶しいだけなのかもしれない。

 

でも――私たちだって何も考えずに見ているわけじゃない。

何もできないからこそ、せめて声だけでも届けたい。

 

頑張ってほしい。

負けないでほしい。

そんな気持ちを、少しでもミスティックに届けたいから。

 

「戦況が変わらない?本当に無意味だと思うなら、どうしてそんなにイライラしてるの?あなたは怯えているだけ。みのるたちの声……そして私たちの心が何度痛めつけられても折れないことに焦っているんじゃない? 」

 

「!」

 

ミスティックの言葉に、ジャックが反応する。

そしてさらに流れが変わった。

 

「ミスティックの言うとおりだよ……」

 

「アンサー!?どうしてまだ動けるの!?」

 

ジャックが驚愕する。

そこには、さっきまで地面に倒れていたはずのアンサーが立っていた。

 

あれだけボロボロになってもう立ち上がることすらできないと思っていたのに。

それでもアンサーは立っている。

 

そしてミスティックの隣まで来ると、その手を伸ばした。

ミスティックが握っているレイピアを――アンサーも一緒に掴む。

 

「ミスティックが言った通りだよ。何度痛めつけられても私たちは屈しないって決めた。絶対に諦めたりなんかしないって。たとえ折れそうになってもミスティックが、ミスティックが折れそうなら私が、そしてポチタンやみのるが支えてくれる!!」

 

私の名前が聞こえた。

胸の奥が強く震えた。

 

私は戦えない。

今だって二人の戦いを見て、声を上げることしかできない。

 

それでも――アンサーは言ってくれた。

私も自分たちを支えている一人なのだと。

 

ミスティックとアンサー。

二人で同じレイピアを握り、ジャックに立ち向かうその姿を、私はただ真っ直ぐに見つめていた。

 

「……………」

 

ジャックは何も言わなかった。

さっきまでの余裕はどこへ消えたのか。ミスティックとアンサーが二人で握るレイピアを前に、ただ黙ってその力を受け止めている。

 

「一気に戦況が変わりやがった…。また強くなったのか?」

 

隣で戦いを見ていたゴウエモンが呟く。

 

二人は強くなっている。

だけど――それだけじゃない。

 

ただ強くなったというだけで、あのジャックに一撃を入れるなんて難しい。

二人がここまで成長したのは、きっと強い想いがあの二人の心に宿っているから。

 

何度倒されても諦めない。

どれだけ痛めつけられても立ち上がる。

お互いがお互いを支え、守りたいもののために戦い続ける。

 

そんな二人だからこそ、ここまでジャックを追い詰めることができたんだ。

 

「……あの二人の実力だよ。私たちはただ応援しただけ。そうだよね、ポチタン」

 

「ポチポチ!」

 

隣のポチタンも元気よく頷く。

 

「いくよ、ミスティック」

 

「ええ!」

 

二人がさらに強く地面を踏みしめた。

レイピアを握る手に力が込められ、全力でジャックを押し切ろうとする。

 

「「はあああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」」

 

「うっ!!何…!!?」

 

ジャックの身体が押される。

油断禁物とは、まさにこのことを言うのだろう。

 

最初はあれだけ慢心していたジャック。

プリキュアの浄化技すら片手で受け止め、私たちの応援さえ意味がないと言っていた。

 

なのに今は――プリキュアが優勢になっている。

 

「っ………ハンニンダー!!」

 

「ハン~~ニン……」

 

焦ったジャックがハンニンダーへ指示を出す。

でも――もう遅い。

 

「がっ……あああっ!!!」

 

ついにミスティックのレイピアが、ジャックの絶対的な壁を打ち破った。

その一撃がジャックへ叩き込まれる。

激しい衝撃とともにジャックの身体が大きく吹き飛び、地面に砂埃が舞い上がった。

 

入った。

 

あのジャックに――二人の渾身の攻撃が届いた。

 

「アンサー、今のうちにハンニンダーを!!」

 

「任せて!!」

 

「ダー!!!」

 

今度はハンニンダーがアンサーへ向けてビームを放つ。

 

一直線に迫ってくる攻撃。

それでもアンサーは怯まない。

 

「アンサーアタック!!」

 

「ハン!?」

 

アンサーが真正面から拳を繰り出す。

プリキュアとしてのパワーを圧縮した強烈なパンチがビームと激突し――そのまま正面から打ち砕いた。

 

自分の攻撃を破られたハンニンダーが慌てる。

その隙を、アンサーは逃さない。

 

「オープン!プリキットミラールーペ!」

 

ポチタンから受け取った専用のマコトジュエルを、アンサーがミラールーペへ取り付ける。

するとルーペの先端から光とともに剣身が現れた。

 

ミスティックのレイピアよりも大きい。

両手で扱うほどの巨大な剣が完成する。

 

「プリキュア!アンサーはなまるソード!」

 

剣を構えたアンサーが、一気にハンニンダーへ突撃していく。

 

「はああああああっ!!」

 

そして――豪快に振り抜いた。

巨大な剣身がハンニンダーを切りつけた瞬間、眩しい光がその巨体を包み込む。

 

「ハ~ン……ニン……ダー……」

 

力の抜けていく声とともに、ハンニンダーの身体が光の中で浄化されていった。

 

あとに残ったのは、マコトジュエル。

それをポチタンが無事に回収する。

そして奪われていたイヤリングも、アンサーの手に渡っていた。

 

取り返したんだ。

あれほど不利だったのに。

 

私はついさっき目を覚ましたばかりだったけれど、それでも状況がどれだけ絶望的だったのかはわかる。

 

アンサーは倒され、ミスティックはアルカナ・シャドウとハンニンダーに阻まれ、そのうえジャックまでいた。

 

それなのに――また逆転できた。

 

一度倒されても立ち上がって。

追い詰められても諦めなくて。

 

最後には二人でジャックの守りを突破し、ハンニンダーを浄化して、マコトジュエルもイヤリングも取り戻してしまった。

 

何度でも逆転してしまう。

そんな二人の強さに、私はただ圧倒されそうになっていた。

 

「………」

 

ゴウエモンはただ黙ったまま、私の背中をそっと押す。

 

……行ってもいいぞってこと?

なんだかよくわからないけど、どうやら解放してくれたらしい。

 

もっとも、ゴウエモンがずっと隣にいただけで拘束されていたわけでもなかったけど。

それでも背中を押されたことを合図だと受け取り、私はすぐに二人のもとへ駆け出した。

 

「アンサー!ミスティック!」

 

「みのる!!」

 

「大丈夫だった!?怪我とかしてない!?」

 

二人がすぐに私の無事を確認してくれる。

あれだけ激しい戦いをしたばかりなのに、自分たちのことより先に私の心配をしていた。

 

「気絶させられただけだから大丈夫。……本当にごめん。私のせいで迷惑を……」

 

私がジャックに捕まったせいで、二人はあんなに苦しい戦いをすることになった。

そう思うと、どうしても謝らずにはいられない。

 

「そんなの気にしなくていいよ。みのるが無事なだけで十分だから!」

 

「うん。私たちは何があってもみのるの味方だからね」

 

「………ありがとう」

 

胸の奥がじんわりと温かくなる。

何があっても味方。

その言葉が、今の私には何より嬉しかった。

 

「……ゴウエモン、どうして?」

 

「オレは人質を取るような卑怯なことはしねぇ。戦いは正々堂々とやるのが一番だからな。それに今回の勝負はもうついた」

 

「「……………」」

 

私も二人も何も言えなかった。

怪盗団ファントムの一員なのに、人質を取ることは卑怯だからやらない。

 

敵であることに変わりはないのに、ゴウエモンなりの譲れない考えがあるらしい。

 

「アルカナ・シャドウ?さっきから呆然としてるがどうしたんだ?」

 

ゴウエモンに言われて、私もアルカナ・シャドウを見る。

 

確かにさっきから様子がおかしい。

戦いが終わったというのに、どこか呆然としたまま立ち尽くしている。

 

「……別に、何も」

 

アルカナ・シャドウはそれ以上は話そうとしない。

 

「いたた……完全に甘く見てた。プリキュアの浄化技を食らうなんてもう最悪……」

 

そして砂埃の向こうから姿を現したジャックを見て、私は改めて異常さを感じた。

 

プリキュアの浄化技を受けてなんともないなんて……。

 

ミスティックとアンサーが二人がかりでようやく押し切った一撃。

それをまともに受け、あれほど激しく吹き飛ばされたというのに、ジャックにはかすり傷がついている程度だった。

 

それ以外に変化らしい変化はない。

疲れている様子すらなかった。

 

やっぱりジャックは普通のファントムとは何かが違う。

 

「見事!良い見せ物だった!」

 

「幕引きの時間のようね!」

 

「………はぁ」

 

アルカナ・シャドウが小さくため息をつき、その場からどこかへ行ってしまった。

 

「待って待って!アルカナ・シャドウ~!!」

 

マシュタンが慌ててその後を追い、ゴウエモンも一緒に撤退していく。

残ったのはジャックだけ。

 

「………ジャック」

 

「あなたたちが私たちの妨害を繰り返しても、怪盗団ファントムの計画は止まらない。それをよく覚えておくことだね。それじゃ」

 

それだけ言い残し、ジャックも撤退した。

その姿が完全に消えたことで、ようやく長かった戦いが終わる。

 

同時に結界も消えた。

それまで遮断されていた周囲の音が、一気に私たちの耳へ戻ってくる。

 

劇場の方から聞こえてきたのは、大勢の観客たちによる拍手だった。

どうやら向こうの演劇も、無事に終了したらしい。

 

「終わったね……」

 

「舞台も終わったみたい……」

 

アンサーとミスティックの声を聞きながら、私は空を見上げる。

 

太陽はもう完全に沈んでいた。

空に僅かに残された夕暮れの灯火だけが、戦いを終えた私たちの頬を静かに照らしていた。

 

 

_______________

 

 

 

「ありがとう……。本当に、よかった……」

 

取り戻したイヤリングを受け取ったしるくさんの目から涙がこぼれ落ちる。

その姿を見ているだけで、このイヤリングをどれだけ大切にしてきたのかが十分に伝わってきた。

 

ただの装飾品じゃない。

しるくさんにとって、かけがえのない思い出が詰まった大切なものなんだ。

 

「本当はすごく不安だったんだ。でも私にとって、舞台は何よりも大切なもの。それはお客さんと私の、新たな思い出になるものだから」

 

しるくさんは、そんな不安を抱えながらずっと舞台に立っていた。

 

予告状に書かれていた時刻は、舞台の開演時間と同じ。

大切なイヤリングが本当に盗まれてしまうかもしれない。そんなことを考えながら演技を続けていたと思うと、気の毒に感じる。

 

それでもしるくさんは舞台を選んだ。

お客さんとの新しい思い出を作るために。

 

「新たな……思い出……」

 

みくるのその表情はどこか真剣だった。

何かを考えているように見える。

 

「しるくさんが信じてくれたから!私たちも頑張れたんです!」

 

確かにその通りなのかもしれない。

しるくさんが私たちを信じてくれたからこそ、あんなたちも最後まで諦めることがなかった。

 

信じる力。

そして、誰かから信頼される力。

 

目には見えないものだけど、それは時にとても大きなものを生み出す。

 

「私も同じ!三人を信じて演じることができた!」

 

「しるくさん…!」

 

「三人は私にとって、大切な仲間だね!」

 

三人、か。

その言葉を聞いて、私は少しだけ複雑な気持ちになった。

 

私は二人ほど活躍していない。

それどころか、ジャックに気絶させられて、そのまま人質にされてしまった。

 

むしろかなり足を引っ張っていた気がする。

だから素直に喜んでいいのかわからない。

 

「私は二人に比べてできることは限られますが、無事に舞台が終わってよかったです」

 

「みのるさんも、ありがとね」

 

「は、はい……」

 

……気持ちだけ受け取っておこう。

ここで私が何か否定したところで、きっと「決めつけちゃダメ!」って怒られそうだからね。

 

「あーあ、舞台見たかったなぁ~」

 

せっかく招待してもらったのに、結局ファントムとの戦いで舞台を見ることはできなかった。

楽しみにしていただけに少し残念。

 

「次の公演に来て!また新たな思い出を作ろうね!」

 

「「はい!!」」

 

今回の舞台を見ることはできなかった。

でも、これで終わりじゃない。

 

しるくさんはそんな私たちを次の公演にも招待すると約束してくれた。

だったら今度こそ、次の公演ではちゃんとしるくさんの劇を見てみよう。

 

そして今度は、ファントムとの戦いではなく、みんなで舞台を楽しんだという新しい思い出を作ろう。

私たちは、そう心に決めるのであった。

 

 

_______________

 

 

 

事務所へ戻ってからも、私たちの間にはどこか重たい空気が残っていた。

 

今回の事件は無事に解決した。

しるくさんのイヤリングも取り戻せたし、舞台も最後まで終えることができた。

 

だけど、新しくわかったこともある。

そしてそれは、これからの私たちにとって無視できないものばかりだった。

 

「うーん、エクレールには記憶がない……か」

 

「ポチポチ……」

 

キュアエクレールには記憶がない。

それが本当なら、るるかさんがあれほど必死になってエクレールを探していることとも何か関係があるのかもしれない。

 

「るるかさんが予告状まで出してしるくさんのイヤリングを狙ったのって……」

 

「彼女の無くした記憶を呼び戻そうとしたとか?」

 

しるくさんにとって大切な思い出が込められたイヤリング。

そして、記憶を失っているというキュアエクレール。

 

もし、この二つに何らかの繋がりがあるのなら……。

 

「もし……もしそうだとしたら」

 

「しるくさんが……」

 

「エクレール?」

 

確かに可能性としては考えられる。

でも、今ある情報だけで決めつけることはできない。

 

「まだ一概には決めつけられないけど、るるかさんが今後どんな行動を取るのか警戒した方が良さそうだね」

 

今回のように、エクレールの記憶に関係するものを狙っているのだとしたら、るるかさんはまた何か行動を起こすかもしれない。

その時こそ、新しい手掛かりを見つけられる可能性もある。

 

「そして伝説のプリキットを使った浄化技ですら通用しなかったジャックの存在もまた面倒だな……」

 

ジェット先輩の言葉に、今度はジャックとの戦いが頭に浮かぶ。

 

ミスティックとアンサー。

二人で力を合わせ、ようやくジャックの防御を突破した。

 

間違いなく攻撃は届いた。

でも――それだけだった。

 

「私たちは強くなった。ジャックに浄化技を当てることだってできた。でも肝心の浄化技が効かないんじゃどうしようも……」

 

「それにまだ元気そうだったしね」

 

あれだけの攻撃を受けて悲鳴を上げながら派手に吹き飛んだというのに、ジャックはほとんど平然としていた。

浄化されるどころか、大きなダメージを受けたようにも見えない。

 

「まだ二人の力が足りない…?もう時間がそこまで残されてないのに……」

 

時間がない。

その事実が、何よりも重かった。

 

今の二人でもジャックを倒せないのなら、どうすればいいんだろう。

もっと強くならなければならないのか。

それとも、別の方法が必要なのか。

 

「今はジャックに勝つ方法より、キュアエクレールを探すことを優先しよう。仲間が増えれば対抗できる手数も増えるだろうし」

 

「ポチ!」

 

確かに今ここで、ジャックを倒す方法ばかり考えていても答えが出るとは限らない。

それなら、今はキュアエクレールを探す方がいい。

 

「うん。今はエクレールの調査が大事。ファントムの計画を止めるために頑張らないと!」

 

「そうね。今の二人でジャックを倒す方法を考えるより、仲間で力を合わせた方が良いからね」

 

キュアエクレールがまだ何者なのかもわからない。

本当にしるくさんなのか、それとも全く別の誰かなのか。

 

もっと調べなければ何も始まらない。

ただ、窓の外はもう暗くなっていた。

 

今日だけでもいろいろなことがありすぎた。

今から調査を始めるには遅すぎる。

 

「今日はもう遅いから、また明日から調査しようか」

 

焦っても仕方がない。

今は一度休んで、また明日から手掛かりを探していけばいい。

 

エクレールの失われた記憶。

るるかさんの目的。

そして、私たちの浄化技さえ通用しなかったジャック。

 

まだわからないことはたくさん残っている。

それでも一つずつ調べていくしかない。

 

怪盗団ファントムの計画を止めるためにも、私たちは明日から再びキュアエクレールを探すことになる。

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