かわいいホームズの親友ちゃんは、相棒の座を奪われて焦心苦慮 作:くぁwせdrftgyふじこlp
【みのるSide】
夕方になり、パティスリーチュチュは予定通り無事に閉店した。
昼間は甘い香りとお客さんの声で賑わっていた店も、今はすっかり静まり返っている。
店内の明かりこそ残っているものの、入口には閉店を知らせる札が掛けられ、新しいお客さんが入ってくることもない。
そんな店の前に、私たちは揃って立っていた。
キュアット探偵事務所総出。
その理由はもちろん、間もなく訪れる予告の時刻に備えるためだ。
「もうすぐ夕方の6時」
時刻を確認する声に、自然と緊張が高まる。
太陽もだいぶ傾き、昼間とは違う橙色の光が街を包み始めている。
そして、今回ここへ現れると予想されている人物は――。
「くれあさんから聞いたファントムの特徴…間違いなくるるかさん!」
あんなが確信を込めて言った。
私たちがキュアット探偵事務所で調査を続けていた時にくれあさんから電話がかかってきた。
何か事件でも起きたのかと思ったら、その予想は的中だった。
怪盗団ファントムを名乗る少女が店に現れ、予告状を渡してきた。
狙いは、この店にある一枚の写真。
みくるは電話越しにくれあさんから少女の特徴を詳しく聞き取り、その場で紙にスケッチしていった。
そして完成した絵を持ってパティスリーチュチュへ向かい、くれあさん本人に確認してもらう。
「確かにこの人です」
「手強い相手です。どんな手を使ってくるか…」
描かれているのは森亜るるかさん。
みくるのスケッチは相変わらず独特というか……まあ、その……画力についてはあまり触れない方がいいのかもしれない。
でも特徴そのものはきちんと捉えられている。
くれあさんが本人だと断言した以上、間違いない。
前回に続いて今回もるるかさん。
正直、かなり厄介な相手だ。
単純に強いというだけじゃない。
怪盗として人を欺く技術も持っているし、こちらの予想しない方法で目的を達成しようとしてくる。
だから何をしてくるのかわからない。
「また誰かに変装して来るかも」
「この時間帯は店に来る人もほとんどいないから、別の方法で来る可能性も…」
何回も同じ手を使うとは限らない。
むしろ私たちが変装を警戒していることくらい、向こうも予想しているはずだ。
だったら裏口から侵入する?
屋根から?
それとも私たちの注意を別の場所へ向け、その隙に写真だけを奪う?
考え始めればいくらでも可能性が浮かんでくる。
「どう来ようと写真は盗ませない。そうだろ?」
「うん!」
あんな力強い返事が響く。
そう、どんな方法で来たとしても、写真を渡すわけにはいかない。
――だけど。
私はずっと、別のことが気になっていた。
どうしてなんだろう。
るるかさんが担当する時だけ、何かがおかしい。
予告状
怪盗が獲物を盗む前に、自分からいつ、何を盗むのかを宣言する行為。
怪盗らしいと言えば怪盗らしい。
予告状を送りつけ、厳重な警戒をかいくぐって華麗に獲物を盗み出す。
それが怪盗の美学だと言われれば、それまでなのかもしれない。
でも――本当にそれだけ?
わざわざ自分から警戒させる必要なんてない。
予告状なんて出さなければ、私たちはここへ来なかったかもしれない。
そもそも今日の状況は、るるかさんにとって絶好の機会だったはずだ。
パティスリーチュチュの店長さんは、今日は出張で不在。
そのため、くれあさんが一人で店を回していたと聞いている。
しかも予告状を渡した時にはプリキュアもいなかった。
写真を盗むだけなら、その時に奪えばよかった。
くれあさんしかいない。
プリキュアもいない。
邪魔をする人間なんてほとんどいない。
それなのに、るるかさんは写真を奪わなかった。
代わりに予告状を渡し、わざわざ時間を指定した。
しかも指定されたのは午後6時。
パティスリーチュチュが閉店した後だ。
お客さんがいなくなる時間。
一般の人たちが巻き込まれる可能性が低くなる時間帯。
……偶然?
いや、本当にそうなのかな?
無関係な人を巻き込まないように、わざとこの時間を選んだ?
だとしたら、どうして?
るるかさんは怪盗団ファントムの一員だ。
私たちからすれば敵。
マコトジュエルを奪おうとしている相手。
それなのに――何かが噛み合わない。
これも怪盗の美学というものなのだろうか。
……違う気がする。
うまく言葉にはできないけれど、胸の奥に小さな棘のような違和感が残り続けていた。
予告状を出した理由。
閉店後を指定した理由。
くれあさんしかいなかったのに、その場で写真を奪わなかった理由。
全部に何か意味があるような――。
そんな気がしてならない。
「探偵さんにお願いしたの?」
突然、道路の方から声が聞こえた。
聞き覚えのある声。
考え込んでいた私は、反射的に顔を上げる。
その場にいた全員の視線が、一斉に声のした方向へ向かった。
そこには、マシュタンを腕に抱いたるるかさんが立っていた。
「正面から!?」
強襲してくるわけでもない。
物陰から奇襲するわけでもない。
変装して私たちを欺くわけでもない。
こっそり店へ侵入して、気づかれないうちに写真を奪うわけでもない。
るるかさんはマシュタンを抱えたまま、ただ堂々と道路の方から歩いてきた。
まるで普通に店を訪ねてきた人みたいに。
あまりにもあっさりしている。
怪盗がこれから獲物を盗みに来たとはとても思えないほどに。
予告状まで出した相手が、私たちが待ち構えていることを承知の上で真正面から姿を現した。
その行動が理解できず、私はただ困惑する。
「それがあなたの望みでしょう?だって、写真を奪う隙はいくらでもあったはず。でもあなたは、わざわざ予告状を渡してきた。私がキュアット探偵事務所に依頼を出すように」
「「!」」
それは、ついさっきまで私が抱いていた疑問とほとんど同じだ。
るるかさんには写真を奪う機会があった。
店長さんが不在で、くれあさんが一人で店を回していた時間なら、私たちに邪魔されることなく写真を狙えたはずだ。
なのに、そうしなかった。
わざわざ予告状を渡して時間まで指定して、くれあさんが私たちに助けを求める猶予まで作った。
まるで――キュアット探偵事務所に依頼してほしかったみたいに。
「面白い推理ね」
るるかさんはそれ以上、肯定も否定もしなかった。
………どうして?
るるかさんは何を考えてこんな奇妙な行動を取っているのだろう。
ただ写真を盗むだけなら、こんな回りくどいことをする必要はない。
怪盗として予告状を出すことにこだわっているだけなら説明できなくもないけれど、どうにもそれだけではない気がする。
もしかして――るるかさんと、くれあさんの間に何かあった?
二人は以前から知り合いだったとか。
あるいは、もっと別の――。
そこまで考えたところで、私は頭の中に浮かびかけた一つの可能性を慌てて押し留めた。
………まさか。
いや、断定するのはまだ早い。
今ある情報だけで決めつけるのはよくない。
違和感は違和感として覚えておいて、もっと確かな手掛かりを集めるべきだ。
そんな私の思考を断ち切るように、あんなが一歩前へ出る。
「写真は渡さない!」
「ええ!」
みくるも続く。
二人の表情からはそれまでの困惑が消えていく。
相手が何を考えているのかはわからない。
それでも怪盗団ファントムが写真を狙って現れた以上、名探偵プリキュアの出番だ。
二人はいつでも動けるよう臨戦態勢に入る。
私も気持ちを切り替えようとした――その時だ。
「安心しろい!」
突然、二人の背後からさらに聞き覚えのある声が響いた。
「「!?」」
妙に威勢がよくて、ものすごくわかりやすい男の声の持ち主は……。
嫌な予感とともに振り返る。
そこには、パティスリーチュチュの店内から堂々と出てくる一人の男がいた。
その手には――写真。
「このゴウエモンが……あ、頂いた!」
「えええええ!?」
「るるかさんは囮だったの!?」
完全にやられた。
これはもう、探偵側の油断としか言いようがない。
私たちは予告状を出したるるかさんにばかり意識を向けていた。
いつ現れるのか。
どんな方法で来るのか。
変装するのか。
正面から来たことにまで驚かされ、その行動の意味ばかり考えていた。
そのせいで――もう一つの重要な要素を完全に忘れていた。
「その手があったか!?」
「そうだ……るるかさんが担当してる日は決まってゴウエモンもいるんだった…」
思い出した時には遅かった。
るるかさんがいるなら、ゴウエモンもいる。
この二人は毎回、高確率で一緒に行動していることが多い。
るるかさんだけが単独で現れると決めつける理由なんて、最初からどこにもなかった。
正面から堂々と姿を現したるるかさんに全員の注意が向いている間に、ゴウエモンが店内へ侵入して写真を奪う。
単純なのに、見事に引っかかってしまった。
先に思い出していれば……店の前だけじゃなく、中にも誰かを残しておけば防げたかもしれないのに。
「頼まれたわけじゃねえ。後輩想いな先輩の優しさよ!」
ゴウエモンはそう言い残すと、写真を持ったまま逃走を始める。
「「待て!!」」
あんなとジェット先輩がほぼ同時に駆け出した。
逃げるゴウエモンに追いかける二人。
あっという間に店の前が慌ただしくなる。
「くれあさんはここに!!」
「………」
みくるはそれだけを言い残し、あんなとジェット先輩の後を追っていく。
そしてるるかさんも、逃げていくゴウエモンとそれを追う三人の方へ歩き始めた。
慌てる様子もなく、ただ静かに三人についていく。
……行っちゃった。
ほんの少し前までキュアット探偵事務所総出で警戒していたはずなのに、一瞬で人がいなくなってしまった。
静かになった店の前。
そこに残されたのは――。
突然の展開についていけず呆然としているくれあさんと、同じようにその場に立ち尽くしている私だけだった。
私はみんなを追いかけようとして――ふと、隣にいるくれあさんを見た。
そういえば、ちゃんと謝れていなかった。
「くれあさん、この前はごめんなさい。いきなり泣き出したりして」
あの時のことを思い出すと、今でも少し恥ずかしい。
自分でも感情を抑えられなくなって、突然涙を流してしまった。
くれあさんを困らせるつもりなんてなかったのに。
けれど、くれあさんは責めることなく、穏やかな表情を向けてくれた。
「いえ、気にしないで。あなたの話を側で聞いていたけど、きっとつらいでしょうから」
その優しい言葉が胸に染み込んでくる。
つらい。
確かに、そうなのかもしれない。
「………そう、ですね。私は両親がいない…それどころか、今じゃ家族の記憶すら曖昧なんです」
自分の口から言葉にすると、その事実が改めて重く感じられた。
両親がいない。
どんな顔だったのか。
どんな声だったのか。
一緒にどんな時間を過ごしていたのか。
自分にとって大切だったはずの家族なのに、その記憶さえはっきりしない。
「曖昧って……記憶がないの?」
くれあさんが驚いたように私を見る。
私はすぐに答えることができなかった。
完全に何もないわけじゃない。
だからこそ、余計にわからなくなる。
「時々変な夢を見るようになるんです。今の私に存在しない記憶が。今調べてる記憶を失った人のことも、助けてあげたいと思いまして…。でも私は、二人みたいに強くないから…」
最近見るようになった変な夢。
知らないはずなのに、どこか懐かしく感じる光景。
今の私には存在しないはずの記憶。
それが何を意味しているのか、まだ私自身にもわからない。
だから記憶を失った人のことも放っておけなかった。
その人が何を忘れているのか。
何を失ったまま生きているのか。
少しだけ、自分と重なって見えるから。
助けたい。
できることなら、失ったものを取り戻してあげたい。
でも――みくるやあんなのように、私は強くない。
プリキュアとして戦えるわけでもない。
危険な敵を相手に真正面から立ち向かえる力もない。
結局、私は誰かに守られてばかりなのかもしれない。
「……………」
くれあさんは黙っていた。
私もそれ以上何を言えばいいかわからず、沈黙が流れる。
「助けてあげたいと思えるのは、弱くない証拠よ。あなたの記憶も戻ると良いわね」
弱くない証拠。
その言葉が、胸の奥に静かに残った。
力があることだけが強さじゃない。
誰かを助けたいと思うことも、強さなのだろうか。
今の私にはまだよくわからない。
それでも、くれあさんがそう言ってくれたことは素直に嬉しかった。
「……そうですね。今はみんなのところに急ぎましょう」
いつまでもここにいる場合じゃない。
ゴウエモンは写真を持って逃げているし、みんなはその後を追っている。
私が走り出そうとすると、くれあさんはその場に残ったままだった。
「え?」
その反応だけで、なんとなくわかった。
私は足を止め、くれあさんを見る。
「気になるんですよね、森亜るるかさんのことが」
「………ええ」
やっぱり。
予告状を渡してきた時から、くれあさんはるるかさんの行動に疑問を抱いていた。
写真を奪う機会があったのに奪わなかった。
わざわざ予告状を渡した。
キュアット探偵事務所へ依頼する時間まで与えた。
そして、さっきも真正面から姿を現した。
るるかさんが何を考えているのか。
どうしてそんな行動を取るのか。
くれあさんは、それを知りたいんだ。
だったら――
「行きましょう。るるかさんと話すなら今のうちです。きっと伝わるはずですよ、あなたの心できらめく本心が」
「!!」
私にどこまでできるのかわからない。
くれあさんとるるかさんの間に何があるのかもわからない。
それでも、誰かのことが気になるのなら。
その人に伝えたい何かがあるのなら。
今は、その気持ちを届けるために動けばいい。
きっとそれも――誰かを助けるために私ができることだから。
_______________
【あんなSide】
写真を奪ったゴウエモンを追いかけて、私たちは全力で街を駆けていた。
だけど、相手は妖精。
それに対して、今の私たちはプリキュアに変身していない普通の人間だ。
身体能力の差は歴然としていた。
こちらも必死に走っているのに、ゴウエモンの背中はどんどん小さくなっていく。
「もうあんな遠くに!」
このまま普通に走って追いかけても追いつけない。
どうすれば――。
私たちの目の前にあるのは、先まで真っ直ぐ続いている長い下り坂。
……この坂、何かに利用できないかな?
高いところから低いところへ一気に下れば、走るよりも速く移動できるはず。
でも自転車も何もない。
どうしようかと考えていた時、隣を走っていたみくるが何かを思いついたようにプリキットライトを取り出した。
「オープン!プリキットライト!」
「これって!」
みくるがプリキットライトを走らせる。
光の軌跡によって描かれていくのは、細長い独特な形をした乗り物。
テレビで冬のオリンピックを見ていると出てくる、あの乗り物だ。
すぐにみくるの狙いを理解する。
「そうか!これならすぐに追いつける!」
坂道にこれなら、走るよりずっと速い!
「みんな乗って!飛ばすよ~!」
私たちは急いでみくるが作り出した乗り物へ飛び乗った。
最初はゆっくりだった。
重力に引かれるように坂を下り始め、少しずつ速度が上がっていく。
だけどすぐにその速度は私の想像を超えた。
速い!
風が顔に叩きつけられ、周囲の景色が一気に後ろへ流れていく。
さっきまでどれだけ走っても縮まらなかったゴウエモンとの距離が、ものすごい勢いで縮まっていった。
これなら追いつける!
「これが怪盗の手際よ!」
「待ちなさぁぁぁい!!」
坂道に私たちの声が響き渡る。
ただ、改めて自分たちが乗っている物を見ると、普通のソリとは形が違うのがわかる。
「ソリか?」
「違う!」
みくると私は声を揃えた。
「「ボブスレー!!」」
「ポチスレー!」
……ポチタン、それはちょっと違うかも…。
みくるがプリキットライトで描いたのは、冬のオリンピック競技にもある「ボブスレー」で使われる専用のソリだった。
競技用に作られたものだから、普通のソリよりも安定した状態で速度を出すことができる。
その効果は抜群。
ゴウエモンとの差は完全に埋まり――。
そしてそのまま追い越した。
「「「うわぁぁぁぁぁ!?」」」
……追いついたのはいい。
問題は、その後だった。
速すぎる!
ゴウエモンをあっという間に追い越しても、ボブスレーは止まらない。
それどころか下り坂で勢いを増したまま、さらに先へと突き進んでいく。
そこでようやく、とんでもない問題に気づいた。
このソリ、ブレーキがない!
「どうしようどうしようどうしようどうしよう!!?」
止まれない!
もしこのまま道路に飛び出して、車でも来たら――。
考えただけで血の気が引いた。
どうにか止めなきゃいけないのに、どうすればいいのかわからない。
完全にパニックになった私たちの横で、ポチタンが動いた。
「ポチチチチ!ポチ!」
ポチタンの身体が一気に膨らんでいく。
大きく膨らんだ柔らかな身体がクッションとなり、暴走していたボブスレーを受け止めてくれた。
勢いが吸収され――ようやく停止する。
助かった……。
「「ありがとう…ポチタン…」」
「ポチ!」
ポチタンがいなかったら、本当にどうなっていたかわからないし、大怪我をしていたかもしれない。
これからプリキュアとして戦う前に、ボブスレーで負傷なんてことにならなくて本当によかった。
安心したのも束の間。
追いかけてきたゴウエモンが姿を現した。
「追いついた褒美だ!相手をしてやる」
もう逃げるつもりはないらしい。
ゴウエモンは盗み出した写真を手にすると、そこに宿っているマコトジュエルへ桜吹雪を浴びせていく。
綺麗な桜とは正反対の不気味な力。
マコトジュエルが嘘の力によって染められていく。
「ウソよ覆え!来やがれ、ハンニンダー!」
「ハン、ニン、ダー!!」
マコトジュエルを中心に嘘の力が膨れ上がり、その姿を変えていく。
現れたのは、コックのような姿をしたハンニンダー。
私たちの行く手を塞ぐように、大きな身体で立ちはだかった。
「やつらを調理してやれ!新人、加勢を頼む!」
ゴウエモンの横にはいつの間にかるるかさんが立っていた。
さっきまで後ろにいたはずなのに、もう追いついていたらしい。
るるかさんは胸元へ手を伸ばし、そこにかかっているティアアルカナロッドのペンダントを握っている。
……戦うつもりだ。
目の前にはハンニンダー。
そして、その隣にはるるかさん。
写真を取り戻すには、ハンニンダーを倒さなければならない。
でも今回もるるかさんを同時に相手にすることになる。
簡単な戦いじゃない。
それでも――。
「いくよ!」
「うん!」
迷う理由なんてなかった。
相手がどれだけ強くても。
何人いようとも。
困っている人がいるなら、絶対に助ける。
そして、大切なものを守る。
それが――名探偵プリキュアだから!
二人を前に、私とみくるは迷うことなく変身アイテムへ手を伸ばした。
「「オープン!ジュエルキュアウォッチ!」」
私たちの声が重なる。
それとほとんど同時だった。
「オープン、ティアアルカナロッド」
るるかさんも胸元のペンダントを握り、変身を開始する。
ジュエルキュアウォッチから溢れ出した光が私たちの身体を包み込み、普段の服装からプリキュアの衣装へと変わっていく。
力が身体中を巡り、さっきまでとは比べものにならないほど感覚が研ぎ澄まされる。
そして――名探偵プリキュアへの変身が完了した。
「どんな謎でも、はなまる解決!名探偵『キュアアンサー』!」
「重ねた推理で、笑顔にジャンプ!名探偵『キュアミスティック』!」
「「名探偵プリキュア!!」」
私とミスティックが名乗りを上げる。
それに続いて、るるかさんを包んでいた光も消えていった。
「神秘と秘密で包み込む、キュアアルカナ・シャドウ」
これで両者の変身が完了。
住宅街のど真ん中。
本来なら、こんな場所でプリキュアとファントムが戦うなんて絶対に避けなければならない。
だけど、ファントムが使っている結界のような特殊な空間のおかげで、一般の人たちにはこの戦いは見えない。
それに、戦いで建物が壊れたとしても被害はなかったことになる。
その点については心配しなくていい。
それでも、何が起きるかわからない。
万が一のことを考えて、周囲にも気を配りながら戦わないと。
「ハン~ニン~ダー!」
その手に持っているのは、大きな絞り袋。
まるでお菓子作りでも始めるような見た目だけど、もちろん中に入っているものを素直に食べさせてくれるわけじゃない。
「「写真を返して!」」
私とミスティックは同時に駆け出した。
直後、ハンニンダーが絞り袋をこちらへ向ける。
勢いよく発射された大量のクリームが飛んできた。
身体を横へ逸らして避ける。
そのまま足を止めず、ハンニンダーとの距離を縮めていく。
でも敵は一体だけじゃない。
正面からアルカナ・シャドウがこちらへ狙いを定めた。
「アルカナスターレイン」
無数のレーザーが一斉に放たれる。
だけど――このくらいなら想定内!
何度も戦ってきたからこそ、アルカナ・シャドウの攻撃にはある程度の傾向がある。
距離が離れている時は、高い頻度で遠距離の技を使ってくる。
そしてミスティックも、それをわかっている。
私が何か言う必要すらなかった。
ミスティックが無言でバリアを展開する。
レーザーが次々とバリアへ衝突するものの、こちらまでは届かない。
全部防いだ!
なら――今度は私の番!
「はぁぁぁ!!」
アルカナ・シャドウが技を放った直後の隙を狙い、一気に前へ飛び出す。
距離を詰め、そのまま攻撃を仕掛ける。
だけどアルカナ・シャドウは素早くアルカナロッドを構え、私の攻撃を受け止めた。
簡単には通してくれない。
「ハンハ~ン!」
「「!」」
横から聞こえた声に、私とアルカナ・シャドウが同時に反応する。
ハンニンダーの絞り袋から大量のクリームが噴き出した。
狙いが雑というより範囲が広い!
私だけじゃない。
アルカナ・シャドウまで巻き込まれそうな勢いで、辺り一面がクリームに塗りたくられていく。
私は慌てて飛び退いた。
アルカナ・シャドウも同じように攻撃範囲から離れる。
なんとか直撃は避けられた。
でも――やっぱり一筋縄ではいかない。
アルカナ・シャドウだけを警戒していればハンニンダーに狙われる。
ハンニンダーに集中すれば、アルカナ・シャドウの攻撃が飛んでくる。
二体を同時に相手にしなければならないのは厄介だ。
「ちょっと!味方を狙ってどうするのよ!?」
「オレのせいじゃねぇ…!」
少し離れた場所からマシュタンの怒った声が飛んでくる。
……あっちはあっちで何か揉めてるみたい。
でも今は気にしている余裕なんてない。
私はハンニンダーとアルカナ・シャドウの両方を視界に入れ、次の攻撃を警戒する。
その間、戦場の向こう側に一瞬だけ二人の人影が見えた。
「お!いい根性してるじゃねえか!」
誰か来たの?
目を凝らす。
そしてその姿がはっきり見えた瞬間、私は目を疑った。
あれは――みのると……くれあさん!?
どうして!?
どうしてくれあさんがこの空間にいるの!?
一般人なら入れないはずなのに――。
いや、今はそんなこと気にしちゃ……でも気になる!
みのるだけじゃなく、くれあさんまでいる。
どうやって入ってきたの?
そんな疑問で頭がいっぱいになりそうになった。
「ゴウエモン、あとはお願い」
「おう任せとけ!ハンニンダー!」
混乱している間になぜかアルカナ・シャドウが戦いから離れた。
ゴウエモンの声に反応して、ハンニンダーが大きく身体を動かす。
「ハンニン……ダーァァァァ!!」
まずい!
アルカナ・シャドウが向かっている先は二人のところ!
みのるとくれあさんが危ない!
すぐに追いかけようと足を踏み出す。
だけど、その進路を塞ぐようにハンニンダーが立ちはだかった。
今すぐ二人のところへ行かないといけないのに!
ハンニンダーはこれまで使っていたクリーム入りの絞り袋だけじゃなく、泡立て器まで取り出した。
両方を構えるその姿から、さっき以上に激しい攻撃を仕掛けてくるのが伝わってくる。
アルカナ・シャドウを追いたい。
みのるたちを守りたい。
でも、このハンニンダーを放っておくわけにもいかない。
今は目の前の相手をなんとかするしかない!
_______________
【みのるSide】
「あそこで戦ってる!」
少し先から聞こえてくる激しい音。
ようやくみんなに追いついた私は、その方向を指さした。
ファントムが作り出した特殊な空間の中で、プリキュアたちとハンニンダーが戦っている。
遠目からでも、クリームのようなものが辺り一面に飛び散っているのが見えた。
どうやらもう戦闘が始まっているらしい。
「はぁ…はぁ…」
隣では、ここまで一緒に走ってきたくれあさんが息を切らしている。
無理もない。
ゴウエモンたちを追いかけて、かなりの距離を走ってきたんだから。
それは私も同じだからかなりしんどい。
くれあさんは呼吸を整えながら周囲を見回し、目の前で繰り広げられている光景に困惑した表情を浮かべた。
「あれはなんなの…?」
「えっと…説明すると長くなりそう…というかくれあさん、どうして結界の中に入れたんですか!?」
説明しようとして――それどころじゃないことに気づいた。
なんで?
どうして、くれあさんがここにいるの?
私たちは普通に走ってきただけだった。
途中で何か特別なことをしたわけでもない。
なのに、くれあさんは私と一緒に当たり前のようにこの空間へ入ってきている。
「どういうこと?」
くれあさん自身は、何がおかしいのかわかっていないようだった。
私は周囲へ視線を向ける。
注意して見れば、普段の街とは少し違う。
「周りの景色が少しだけ歪んで見えますよね。怪盗団ファントムが人目のつきやすい場所や建造物が密集した場所など、必要に応じてフィールドという結界を周囲に展開するんです。そうするとこの中が通常の世界とは異なる空間になり、一般人には認識されず、破壊された箇所も結界が閉じることで跡形もなく綺麗になる。言わば『証拠を残さない』ことに特化した技術です」
戦いの最中に建物が壊れたり、道路が破壊されたりしても、結界が閉じれば元通りになる。
外にいる人たちからすれば、この中で何が起きているのか認識できない。
ファントムが人目の多い場所でも活動できる理由の一つだ。
でも、初めて聞いたくれあさんからすれば、簡単に信じられるような話じゃない。
「そんな非現実的なことが…」
その反応も当然だと思う。
私だって、プリキュアや妖精たちと関わることがなかったら、こんな話を聞かされても信じられなかったかもしれない。
だけど問題は、そこじゃない。
「そしてこの空間は一般人は入れない。つまりくれあさんは本来入れないはずなんです」
そう、そこがおかしい。
くれあさんはプリキュアじゃない。
怪盗団ファントムの一員でもない。
私が知る限りでは、どこにでもいる普通の人間のはず。
だったら、結界の中へ入れるはずがない。
ところが、くれあさんは少し考え込んだ後、私の方を見た。
「……じゃあ、あなたは??」
「……………あっ」
言われた瞬間、頭の中が真っ白になった。
……あれ?
待って。
そういえば。
「………そうだ、私もどうしてずっと中に入れてるんだろう…?」
今まで当たり前すぎて、深く考えたことがなかった。
私だってプリキュアじゃない。
もちろんファントムでもない。
それなのに、これまで何度もこの結界の中に入っている。
最初からずっとみくるやあんなたちと一緒にいるから、いつの間にかそれが普通のことになっていた。
でも――普通じゃない。
一般人が入れないのなら。
私だって入れないはずじゃないか。
どうして今まで疑問に思わなかったんだろう。
「私とあなたに、何か共通点でもあるのかしら?」
「いえ、見た感じではどこが似ているのかは…」
何か共通点がある?
でも、すぐに思いつくようなものは何もない。
年齢も違うし生活している環境も違う。
出会ったのだって最近だ。
それなのに、二人とも本来入れないはずの空間へ入ることができる。
偶然?
それとも――何か、私たち自身も知らない理由がある?
考えようとしたその時。
「どうしてここに?」
「「!」」
突然、背後から声がして心臓が跳ねる。
振り返った先にいたのは――アルカナ・シャドウ。
いつの間にこっちまで来ていたの?
私は反射的にくれあさんの前へ出た。
「くれあさん、下がってください」
考えるより先に身体が動いていた。
くれあさんを守らないと。
だけど、すぐに現実が頭をよぎる。
相手はプリキュア。
超人的な身体能力と、強力な技を扱う存在だ。
対して私は、何の力も持っていないただの人間。
プリキュアと対峙したところで一般人の私では数秒と持たない。
勝てるわけがない。
それでも――くれあさんを巻き込むわけにはいかない。
私が守らないと。
でも、どうやって?
逃げる?
時間を稼ぐ?
アルカナ・シャドウを説得する?
いくつもの考えが頭の中でぶつかり合い、答えが出ない。
そんな葛藤に意識を奪われていた、ほんのわずかな間だった。
……え?
気づいた時には。
くれあさんが、私より前に出ていた。
くれあさんは、アルカナ・シャドウを真っ直ぐに見つめている。
逃げる様子はない。
目の前にいるのが人間とは比べものにならない力を持つプリキュアだと知っても、くれあさんはその場から離れようとはしなかった。
そして、その姿をじっと見つめた末に――。
「……あなた、もしかして…るるかさん?」
「!!………っ」
アルカナ・シャドウの身体が揺れた。
私はその反応を見逃さなかった。
(………初めて見る反応)
これまで何度かアルカナ・シャドウとは顔を合わせている。
敵として立ちはだかる時も、彼女はいつも冷静だった。
こちらが何を言っても簡単には感情を表に出さず、自分の目的を果たすために淡々と行動する。
でも今は違う。
くれあさんに名前を呼ばれた瞬間、明らかに動揺した。
何かを必死に堪えているような――。
少し、泣きそうな。
そんな表情に見えた。
くれあさんに正体を見抜かれたから?
それとも、名前を呼ばれたこと自体に何か意味がある?
アルカナ・シャドウはすぐに表情を戻そうとするように、くれあさんへ問いかけた。
「答えて。どうしてここに?」
「みのるちゃんが教えてくれたの。写真はここにあるって」
確かに私が伝えた。
ゴウエモンが写真を奪い、みんながそれを追いかけている。
だから写真を取り戻すなら、ここへ来るしかない。
――ドンッ!!
向こうから大きな爆発音が響いた。
思わずそちらへ視線を向ける。
アンサーとミスティックが、今もハンニンダーと戦っている。
くれあさんも気になったらしく、戦闘の方へ顔を向けようとした。
けれど、その視線を遮るようにアルカナ・シャドウがロッドをくれあさんの横に向ける。
見るな、と言っているみたいに。
敵ならくれあさんが戦いを見ようが関係ないはずなのに。
むしろここへ来たこと自体を責めてもおかしくない。
なのに、アルカナ・シャドウの行動はどこか違って見える。
「あなた、本当にこんなところに写真があると思っているの?」
「……ええ」
くれあさんは迷いながらも、はっきりと答えた。
アルカナ・シャドウはそんな彼女を見つめる。
「なぜ」
短い問い。
どうして写真がここにあると信じられるのか。
確かな証拠でもあるのか。
そんな意味が込められているように聞こえた。
くれあさんは少し間を置いてから、自分の胸の内にある答えを口にした。
「私の心に浮かんだ直感。私のきらめきに従ったの」
きらめき……。
その言葉でアルカナ・シャドウの表情がまた揺れる。
「きらめき……それが、正しい判断とは限らない」
静かな声。
否定しているはずなのに、強く突き放しているようには聞こえない。
自分自身にも言い聞かせているような――そんな気がした。
でも、くれあさんは退かなかった。
アルカナ・シャドウを真っ直ぐに見つめる。
「それでも私は、私のキラメキを信じる!」
「……………」
迷いのない声が響いた。
アルカナ・シャドウは何も答えない。
その沈黙が何を意味しているのか、私にはまだわからなかった。
_______________
【みくるSide】
「ハンハンハ~ン!」
ハンニンダーが大きな絞り袋をこちらへ向け、再び大量のクリームを放ってきた。
次から次へと飛んでくるクリームを、私とアンサーは左右に分かれて回避する。
最初こそ厄介な攻撃だった。
広範囲にクリームを撒き散らしてくるから、少しでも判断を間違えれば動きを封じられかねない。
でも――何度も見ていればわかってくる。
攻撃の種類そのものは多くない。
絞り袋からクリームを飛ばす。
泡立て器を使う。
手数が少ないからこそ、だんだん次の動きを予測できるようになってきた。
だったら、いつまでも避け続ける必要はない。
大量のクリームが再びこちらへ迫ってくる。
全部まとめて――消す!
私は正面へ手をかざした。
「ミスティックリフレクション!」
光が広がり、巨大なバリアが出現する。
だけど、今回はただ防御するだけじゃない。
展開したバリアをそのまま掴む。
そして勢いよく振り抜いた。
バリアがブーメランのように回転しながら飛んでいく。
周囲へ撒き散らされていたクリームを次々と巻き込み、全て消滅させていった。
これで邪魔なクリームはない!
隣のアンサーと目が合っただけで、次に何をするのかわかった。
私たちは同時に地面を蹴った。
一気に上空へ跳び上がり、並んだままハンニンダーを見下ろす。
そのまま拳を握り締め――。
「「はあああぁぁぁぁっ!!」」
二人同時に急降下する。
勢いを乗せた拳を、ハンニンダーへ思い切り叩きつけた。
「ハァァァァァァン!!?」
私とアンサーのパンチが直撃する。
大きな身体が衝撃で潰され、ハンニンダーは苦しそうな声を上げた。
「やった!」
「ポチ!」
ジェット先輩とポチタンの声が聞こえる。
今なら写真を取り返せる。
これ以上、戦いを長引かせる必要はない!
私は迷うことなくプリキットミラールーペを取り出した。
「オープン!プリキットミラールーペ!」
ポチタンから受け取ったマコトジュエルを、プリキットミラールーペへ装着する。
瞬間、眩い光が溢れ出した。
光が真っ直ぐに伸びて剣身を形作り、私の手の中で美しいレイピアが完成する。
その切っ先を、弱ったハンニンダーへ向けた。
「プリキュア!ミスティックストライク!」
身体を低くして構える。
狙うのは――ハンニンダーただ一体。
一気に距離を詰め、その勢いのまま跳び上がる。
「はああああああぁぁ!!」
大きく踏み込み、上空から一気に振り抜き、光のレイピアがハンニンダーを一閃する。
眩い光がその巨体を包み込んだ。
嘘の力が消えていく。
「キュアット解決!」
「ハン……ニン……ダァァァァァァ……!!」
断末魔とともに、ハンニンダーの姿が光の中へ溶けるように消えていった。
そして、その場に残されたのは二つ。
奪われた写真。
そして、そこに宿っていたマコトジュエル。
よかった……!
取り返せた!
マコトジュエルの方はポチタンに任せれば大丈夫。
あとは写真をくれあさんに返すだけ。
これで事件は――
「ふーん、今回も倒しちゃったんだ」
突然聞こえた声に、身体が強張った。
この声……!
私とアンサーは同時に振り返る。
「「ジャック!?」」
そこにいたのは、ジャックだった。
いつからいたの!?
全然気づかなかった……!
「おい嘘だろ……」
ジェット先輩も驚きを隠せていない。
それに対して、ゴウエモンはそこまで驚いた様子もなくジャックへ声をかけた。
「なんだジャックも来てたのか。オレたちに加勢してもよかったんだぞ?」
「前のは直接プリキュアの実力を測りたかっただけ。今は戦うつもりはないよ」
……実力を測る?
その言葉に、嫌な予感がした。
前に戦った時のことを思い出す。
ジャックはただ私たちを倒そうとしていたわけじゃなかった。
戦いながら何かを確かめていた。
私たちがどう動くのか。
どう攻撃するのか。
どんな技を使うのか。
まるで実験みたいに。
「……何を企んでるの?」
警戒しながら問いかける。
すると、アンサーも私と同じことを考えていたようだった。
「この前も『自らを実験台に』みたいなことを言ってたよね?……調べてるんでしょ?私たちの戦い方を」
ジャックの目的。
それは、私たちを観察すること。
今回も戦いに加わらず、どこかからずっと見ていたとしたら――。
私たちがハンニンダーをどう攻略したのか。
どんな状況で技を使ったのか。
全部見られていたことになる。
ジャックは困ったような表情を浮かべた。
「ほんと、勘のいい探偵さんの相手は疲れるよ。ま、その通りなんだけど」
やっぱり……!
認めた。
ジャックは私たちの戦い方を調べている。
でも、何のために?
弱点を見つけるため?
それとも、もっと別の目的が……。
「ジャック、そろそろ撤退しないと怒られるぞ」
「わかったよ。じゃ、そういうことで!バイバ~イ!」
ゴウエモンに促されて軽い調子で手を振り、ジャックは撤退しようとする。
「くっ!」
止めたい。
聞きたいことはまだある。
でも――今は追いかけることができない。
私は悔しさを押し殺しながら、去っていくジャックを睨みつけることしかできなかった。
_______________
【みのるSide】
遠くから聞こえていた激しい戦闘音は、いつの間にか止んでいた。
さっきまでクリームが飛び交い、何度も大きな衝撃音が響いていた戦いも、もう終わったらしい。
アルカナ・シャドウが向こうへ視線を向ける。
「写真、取り戻したみたい。もう狙われることはない」
私もその視線を追った。
写真は既にみくるとあんなの手に渡っている。
よかった。
ゴウエモンに奪われてしまった時はどうなることかと思ったけれど、無事に取り返すことができたんだ。
これでもう、くれあさんの大切な写真が奪われる心配はない。
それを確認したアルカナ・シャドウは、もうここに用事はないと言わんばかりに踵を返した。
何も言わない。
くれあさんにも、私にも。
そのまま静かに帰ろうとする。
けれど――
「……………待って!」
くれあさんが呼び止め、アルカナ・シャドウの足が止まる。
くれあさんは、その背中を真っ直ぐに見つめていた。
聞きたいことがある。
そんな気持ちが、表情からも伝わってくる。
「どうして怪盗団にいるの?」
確かに、それは気になる。
るるかさんは、どうして怪盗団ファントムにいるんだろう。
予告状を出して、わざわざ私たちを呼び寄せるような行動を取った。
くれあさんを戦いから遠ざけるように、視界まで塞いだ。
本当にただ写真を奪いたいだけだったのなら、今日の行動には不可解なところが多すぎる。
少しの沈黙の後、アルカナ・シャドウはこう答えた。
「私のきらめきに従った。そんなところかな。さようなら」
さっき、くれあさんが口にした言葉と同じだった。
それ以上のことを話すつもりはないらしい。
アルカナ・シャドウは再び歩き出そうとする。
その背中に、くれあさんが声を届けた。
「アイス、いつでもお店に食べに来てください。待っているわ、るるかさん!」
アルカナ・シャドウの足が止まった。
一瞬だけ。
でも振り返ることはない。
やがてアルカナ・シャドウは何も言わないまま歩き出し、そのまま私たちの前から去っていった。
私はその姿が見えなくなるまで見送ってから、隣にいるくれあさんへ視線を向けた。
なんだか急に居心地が悪くなってくる。
二人の間には、私にはわからない何かがあるような気がした。
「………なんかすみません。邪魔でしたよね、私…」
「ううん、気にしないで。あなたこそ、恐いはずなのに、私を守ろうとしてくれたんでしょ?」
「あ、はい……でも、あはは……手が震えちゃってますね……。何もできないのに変に強がっちゃって…」
言われて初めて、自分の手を見る。
……震えてる。
小さく、でもはっきりと。
アルカナ・シャドウが現れた時、私は迷わずくれあさんの前へ出た。
守らなきゃと思った。
でも、相手はプリキュア。
もし本当に攻撃されていたら、私はどうなっていただろう。
きっと何もできないし大怪我するだけ。
それでも格好をつけるみたいに前へ出て――結局、今になって身体が恐怖を思い出している。
情けないな……。
そう思っていると、不意に手に温もりを感じた。
くれあさんが、震えている私の手をそっと握ってくれていた。
「落ち着いて。あなたにはあなたにしかできないことがきっとあるはずだから、あなたの記憶のことも、今探している人物のことも、きっと何か役に立てる日が来るから」
優しい声。
私は握られた自分の手を見る。
私にしかできないこと。
今の私には、プリキュアみたいな力はない。
みくるやあんなのように、強い敵と戦うこともできない。
それでも――何もできないと決まったわけじゃない。
自分の失った記憶のこと。
今、私たちが探している記憶を失った人のこと。
わからないことばかりだけど、考えることも調べることも行動することもできる。
「自分でも考えて行動はしてるつもりですが……。でもありがとうございます」
まだ自信があるわけじゃない。
それでも、くれあさんの言葉は嬉しかった。
少なくとも、何もできないと最初から諦めたくはない。
「もし行き詰まったらいつでもパティスリーチュチュに来て。話くらいは聞いてあげられるかもしれないから」
私はくれあさんを見つめた。
戦う力がなくても。
すぐに答えを見つけられなくても。
こうして話を聞いてくれる人がいる。
震えていた手に残る温かさを感じながら、私はその言葉を静かに胸へ刻んだ。
_______________
無事に取り戻した写真は、ようやく本来の持ち主であるくれあさんのもとへ戻った。
プリキュアのおかげで傷つくことも失われることもなく守り抜くことができた。
「ありがとう!さすが探偵さんね!」
写真を受け取ったくれあさんが、嬉しそうに二人へお礼を伝える。
「いや~」
「それほどでも~」
……二人とも、わかりやすいなあ。
褒められたことが嬉しいのだろう。
満更でもなさそうな二人を見ていると、さっきまでプリキュアとしてハンニンダーと激しい戦いを繰り広げていたとは思えない。
そんな二人を見ていたくれあさんが、不意に別の方向へ視線を移した。
そこに飾られていたのは、百合の花。
白い花びらを眺めながら、くれあさんがぽつりと呟く。
「純粋………」
「?」
わからない表情をする二人にくれあさんは百合の花を見つめたまま、その意味を話す。
「百合の花言葉よ。急に思い出して。純粋だからこそ、誤った方向へ突き進んでしまうのかもしれない」
「………」
純粋だからこそ、誤った方向へ突き進む。
その言葉が、妙に心に残った。
純粋という言葉は、本来なら良い意味に聞こえる。
真っ直ぐで、濁りがなくて。
自分の気持ちを信じて進んでいける。
でも真っ直ぐだからこそ、自分が信じた道から外れられなくなることもあるのかもしれない。
くれあさんは、誰のことを考えているんだろう。
なんとなく、その答えはわかる気がした。
「あの人、あなたたち二人のきらめきを信じているのね」
「私たちの…」
「きらめき?」
あんなとみくるが、不思議そうに繰り返す。
……きっと、るるかさんのことだ。
今日のるるかさんの行動を思い返す。
写真を奪う機会はいくらでもあったが、その場で奪わなかった。
予告状を渡して、くれあさんがキュアット探偵事務所へ依頼できるようにした。
そして私たちが待ち構えていることを知っていながら、正面から姿を現した。
ただ写真を奪うことだけが目的なら、あまりにも不自然な行動ばかりだった。
最初から、みくるとあんなが来ることを望んでいたような。
二人なら何とかしてくれる。
二人なら守ってくれる。
そんなことを信じていたみたいに。
だけど、それならどうして怪盗団ファントムにいるんだろう。
どうして私たちと敵対してまでマコトジュエルを集めているんだろう。
くれあさんを見た時に浮かべた、あの表情も。
くれあさんの視界を塞いだ、あの行動も。
そして、去り際に語った自分のきらめきという言葉も。
知れば知るほど、わからないことが増えていく。
るるかさんの本心には、一体何が沈んでいるんだろう。
その答えがわかるのは――まだまだ先なのかもしれない。
_______________
キュアット探偵事務所に戻った私たちは、ガーデンのある庭に集まり、今日起きた事件について改めて振り返っていた。
写真は無事にくれあさんのもとへ戻った。
怪盗団ファントムとの戦いも終わった。
だけど、今日の出来事によって新しく浮かび上がったこともある。
「くれあさんがエクレール候補ね…」
「ファントムの考えを読んでいたもん!」
「すごい推理だった!」
くれあさんのことがかなり気になっているみたいだ。
確かに、今日のくれあさんはすごかった。
るるかさんが写真を奪う機会を自ら捨て、わざわざ予告状を渡したことから、その行動の裏にある意図を読み取っていた。
それにくれあさんは、普通なら入れないはずのファントムの結界にも入ることができた。
もちろん、それだけでキュアエクレールだと断定することはできない。
でも、無関係だと言い切るには気になることが多すぎる。
「まあ、ありえない話じゃないな」
ジェット先輩も候補の一人として考えることには納得しているようだった。
「しるくさん、エリザさんにくれあさん…」
これまでに浮かび上がった人たちの名前を、みくるが一人ずつ口にする。
まだ答えはわからない。
この中にキュアエクレールがいるのか。
それとも、まだ私たちが出会っていない別の誰かなのか。
「ポチ~!」
すると少し離れたところからポチタンの声が聞こえてきた。
何かを見つけたらしい。
みんなで声のした方へ向かってみると――。
「わぁ~!」
「綺麗!」
そこには、一面に百合の花が咲いていた。
思わず目を奪われる。
普通の百合とは少し違う。
何より特徴的なのは、その花弁。
最初から描かれていたかのようなハートの模様が浮かんでいる。
「この百合、ボクが来る前から植えてあったけど、ようやく咲いたんだな」
私たちが初めてこの事務所に来る前からずっとここに植えられていたものらしい。
「クンクン……ポチ~」
ポチタンが鼻を近づけ、花の香りを嗅ぐ。
甘いような懐かしいような、不思議な香りが周囲を漂っている。
「うん…いい香り……」
「ほんと……。この香り、初めて部屋に入った時と同じ香り。前にあの部屋を使っていた探偵、キュアエクレールはこの香りが好きだったんじゃない?」
キュアエクレールが使っていた部屋にも、この花と同じ香りが残っていた。
もし本当にエクレールがこの香りを好んでいたのなら、何かの手掛かりになるかもしれない。
「香りは記憶を運ぶ……」
あんながぽつりと呟き、みくるも一つの可能性を思いついたようだった。
「この香りを嗅げば」
「キュアエクレールの記憶が戻るかも!」
「ええ!」
香りを新たな手がかりにするには、この花を毎回持っていく必要があるが、さすがに手間がかかるので不便。
そして二人は同時にジェット先輩を見る。
「ということで…」
「ジェット先輩~?」
「何かいい方法をば……」
期待に満ちた二人の視線を受けても、ジェット先輩は動じなかった。
むしろ自信満々に胸を張る。
「任せろ!」
「「さっすがー!!」」
こういう時のジェット先輩はとても頼もしい。
三人のやり取りを聞きながら、私はもう一度咲いたばかりの百合へ目を向けた。
綺麗な花。
ハートの模様が浮かんだ、特徴的な花弁。
私はこんな百合を見たことがない。
少なくとも、自分の記憶の中にはない。
本で読んだ覚えもない。
誰かから名前を教えてもらった覚えだってない。
知らない。
私は、この花を知らない。
――知らないはずなのに。
頭の中に、一つの名前が浮かんだ。
考えたわけじゃない。
思い出そうとしたわけでもない。
ただ、その花を見ていたら、ずっと昔から知っていた言葉みたいに、自然と口からこぼれた。
「………トップオブリリー」
「ん、何か言った?」
あんながこちらを振り返る。
「……………」
……何、今の。
トップオブリリー
どうして私は、その名前を知っているの?
まただ。
また不思議なことが起きている。
最近見る、今の私には存在しないはずの記憶の夢。
一般人なら入れないはずのファントムの結界に、最初から当たり前のように入ることができる私。
そして今度は――見たことも、聞いたこともないはずの花の名前を知っていた。
偶然?
どこかで聞いたことを忘れていただけ?
そう考えようとしても、胸の奥に残る違和感は消えてくれない。
私は一体、どこでこの花を知ったんだろう。
そもそも本当に――私はこの花を見たことがないの?
「みのる、どうしたの?さっきからずっと難しい顔してるけど……」
みくるの声で我に返った。
心配そうに私の顔を覗き込んでいる。
私は考えていたことを隠すように、いつもの調子で答えた。
「何でもないよ。考えごとをしてただけ」
そう言いながらも、私の視線はもう一度、百合へ向かっていた。
――トップオブリリー
どうして知っているのか。
その答えだけは、どれだけ考えても出てこなかった。
そして、キュアエクレールのことについて私も今日わかったことを振り返ってみる。
候補になっている人は他にもいるし、決定的な証拠が見つかったわけでもない。
だから今の段階で一人に絞るのは早すぎる。
それでも――今のところ一番怪しいのはくれあさんだ。
今日のるるかさんの行動を思い返せば思い返すほど、その可能性が頭から離れなくなる。
特にくれあさんに名前を呼ばれた時にアルカナ・シャドウが見せた表情。
驚いた反応は前に見たが、あんなるるかさんの反応を私は今までで一度も見たことがない。
何かを堪えているような。
今にも泣き出してしまいそうな。
あれがただ正体を見破られたことへの動揺だったとは、どうしても思えない。
――この百合も、さっきくれあさんが私の震える手を握ってくれた時に僅かだったけれど、同じ香りがした。
この百合と同じ香り。
みくるはキュアエクレールが使っていた部屋にもこの香りが残っていたと言った。
だったら――。
まさか、くれあさんが……?
……いやいや、まだ確定したわけじゃない。
偶然、同じ香りがしただけかもしれない。
この花の香りが好きな人なんて、他にもいるかもしれない。
一つ一つなら、そうやって偶然として片づけることもできる。
でも、今回の出来事では、ほとんど確信に近いことが起こりすぎている。
結界に入れたことも。
るるかさんの反応も。
この花の香りも。
全部が同じ答えを指し示しているような気がしてならなかった。
キュアエクレールの正体。
私たちがずっと探している人。
その答えは、思っていたよりずっと近くにいるのかもしれない。
でも――私には、もう一つわからないことがある。
むしろ今の私にとっては、そっちの方がずっと大きな謎なのかもしれない。
(………そして、私は誰なのか)
自分自身のこと。
私は、小学校に入学した頃より前の記憶がない。
気づいた時には孤児として生活していた。
両親はいない。
私は「親に捨てられた」。
ずっと、そういうことになっている。
私自身も、それを疑うことなく受け入れてきた。
だけど――本当に?
本当に私は、親に捨てられたの?
そう考えるようになったのは、最近になってからだ。
変な夢を見るようになった。
今の私には存在しない記憶。
知らない場所。
知らない出来事。
それなのに、なぜか自分自身の記憶のように感じる。
それだけじゃない。
私はただの人間のはずなのに、一般人なら入れないファントムの結界へ当たり前のように入ることができる。
今までずっと、それを不思議にすら思わなかった。
そして今、見たことも聞いたこともないはずの百合を見て、私はその名前を知っていた。
思い出そうとしても何も出てこないのに、知識だけが突然浮かび上がってくる。
それは普段の学校生活でずっと不思議に思っていること。
……おかしい、どう考えてもおかしな部分が多すぎる。
失った記憶の中に、一体何があるんだろう。
私は本当に、今まで自分が思っていたような人間なのだろうか。
答えの見えない疑問ばかりが、頭の中で増えていく。
それでも時間は止まってくれない。
ファントムとの戦いはこれからもっと激しくなっていくだろう。
ジャックという強敵もいる。
そして、もしキュアエクレールが本当に見つかり、みくるたちの仲間に加われば、プリキュアの戦力もさらに上がる。
ファントムとプリキュア。
キュアエクレールとるるかさん。
――失った記憶を抱えている私。
いくつもの謎と過去が絡み合いながら、戦いは続いていく。
この先に何が待っているのか。
まだ、何もわからない。
この終わらない因縁を解決する時は来るのだろうか…。
_______________
【るるかSide】
「アルカナ・シャドウ。マコトジュエルを逃すとは……」
低い声が静まり返った劇場に響き渡り、私は舞台の中央に立たされていた。
頭上から降り注ぐスポットライトが、まるで逃げ道を塞ぐように私だけを照らしている。
その外側には薄暗い闇が広がり、正面には玉座に座るウソノワールの姿があった。
たった一言。
それだけなのに、空気が重い。
息苦しさすら覚えるほどの圧力が、舞台の上まで届いてくる。
――いつでもお前を奈落へ落とせるぞ。
直接そう言われたわけではない。
それでも、ウソノワールの低い声からは、そんな言葉が聞こえてくるような不気味な圧を感じた。
「……………」
私は何も言わなかった。
謝罪はしない。
頭を下げるつもりもない。
確かに、今回もマコトジュエルを手に入れることはできなかった。
だけど、私にはマコトジュエルを集めること以外にもやらなければならないことがある。
それをウソノワールに説明するつもりはない。
理解してもらおうとも思わない。
そんな私の思考まで読んでいるかのように、ウソノワールが何かを取り出した。
一つの結晶。
「「!!?」」
私とマシュタンの息を呑む気配が重なる。
ウソノワールが持っているのはマコトジュエル。
でも、普通のマコトジュエルじゃない。
青く輝く結晶。
その光を、私は知っている。
――キュアエクレールのマコトジュエル。
どうして。
どうして今、それを……。
「これが必要なのだろう?ならばマコトジュエルを手に入れろ!」
胸の奥を直接掴まれたような感覚がした。
……全部、見透かされている。
私が何のためにここにいるのか。
何を求めて怪盗団ファントムに身を置いているのか。
そして、この結晶をどれほど取り戻したいと思っているのか。
全部わかった上で、私の目の前に見せつけている。
脅しだ。
私が逆らえないように。
私が勝手な行動を取れないように。
ウソノワールはエクレールのマコトジュエルそのものを使って、私を縛ろうとしている。
私が怪盗団ファントムにいる理由。
それは――キュアエクレールのマコトジュエルを取り返すため。
もちろん、目的はそれだけじゃない。
それでも今、一番優先しなければならないのはエクレールのマコトジュエルの奪還。
あれをウソノワールの手から取り戻さなければならない。
でも、どうやって?
正面から奪う?
そんなことができるなら、とっくにやっている。
隙を狙う?
そもそもウソノワールがどこに保管しているのかさえわからない。
どうすればエクレールのマコトジュエルを、ウソノワールの手から遠ざけられる?
考え続けてきた。
でも答えは出ない。
そうしているうちに時間だけが過ぎていった。
気づけば――予言まであと半月もない。
時間がない。
「約束の日は近い。ライライサー」
「「ライライサー!」」
二階からゴウエモンとジャックの号令が聞こえた。
私は何も言わない。
言いたくない。
その言葉を口にすること自体が、ウソノワールへの服従を認めるようで嫌だった。
けれど、正面から向けられる圧力が、沈黙を許してくれない。
――まだ私に逆らうつもりか?
そう問いかけられているような気がした。
視線の先には青く輝くマコトジュエルがある。
取り返さなければならない。
そのためには――。
今は従うしかない。
他に方法がない。
私は拳を強く握った。
爪が食い込むほど力を込め、それでも込み上げる感情を必死に押し殺す。
「…………っ………ライライサー」
ようやく絞り出した声は、自分のものとは思えないほど重かった。
屈辱だった。
私がこんな言葉を言わなければならないなんて。
怪盗団ファントムとして行動するために、何度も自分へ言い聞かせてきた。
昔の思い出はいらない。
過去に囚われる必要なんてない。
エクレールとの思い出も無理矢理心の奥へ封じ込めて、今やるべきことだけを見ればいい。
心を鬼にしてでも、ファントムとしてやるべきことをやる。
そう決めたはずなのに。
どうしても消えてくれないものがあった。
私の心の奥底に残り続けているもの。
怪盗になる前の私。
――探偵としての自我。
それが、ずっと邪魔をしている。
誰かの大切なものを奪うたびに。
名探偵プリキュアと戦うたびに。
自分の選んだ道が、本当に正しいのかと問いかけてくる。
それでも、エクレールのマコトジュエルを取り戻すには進むしかない。
そしてもうすぐ訪れる――約束の日。
その時、私は何を選ぶ?
ファントムとして進むのか。
それとも――
答えは、まだ見つからない。
約束の日……私はどうするのが正解なんだろう……。
〖運命の七の月。1999年7月19日まで、あと14日〗