かわいいホームズの親友ちゃんは、相棒の座を奪われて焦心苦慮 作:くぁwせdrftgyふじこlp
【ジャックSide】
もう誰にも止められない。
ウソノワール様の暴走によって、戦っていたプリキュアたちは完膚なきまでに叩きのめされた。
あれほど必死に立ち向かっていた三人の名探偵も、今では変身を維持する力すら残されていない。
地面にぐったりと横たわる彼女たちには、もう立ち上がる気力も体力も残っていないようだった。
それに対して、ウソノワール様は今もなお暴れ続けている。
周囲の建物が次々と破壊されていき、放たれる攻撃には何の規則性もなく、ただ目の前に存在するものを無差別に消し飛ばしていた。
そこには、私たちの知るウソノワール様の姿などなかった。
「完全に正気を失っておられる……。このままでは、世界が壊れてしまう!」
このまま暴走が続けばまことみらい市どころか、世界そのものが破壊されかねない。
私たちが今まで積み重ねてきたものも、目指してきたものも、何もかもが失われてしまう。
「まだ何も成し遂げられていないのに……」
私たち怪盗団ファントムには、果たさなければならない目的がある。
そのために今まで何度もプリキュアと戦ってきた。
何度失敗しようとも、諦めずにマコトジュエルを集め続けてきた。
なのに、その全てがこんな形で終わってしまうというのか。
「フィールドを展開するんだ!」
「って言っても!!」
「オレたちだけでできるのか!?」
通常のフィールドを展開したところで、今のウソノワール様の攻撃を防げるとは到底思えなかった。
あの圧倒的な破壊力の前では、並大抵の結界など一瞬で粉砕されてしまうだろう。
だけど、ニジーは諦めていない。
「フッ、四人の力があれば行けるさ、ベイビー!」
こんな状況でもいつもの調子を崩さない。
きっと彼なりに私たちを奮い立たせようとしているのだろう。
四人の力を一つにする。
確かに、それなら可能性はあるかもしれない。
普通の結界では意味がない。
ウソノワール様の攻撃を受けても簡単には破られない、強固なフィールドを展開する必要がある。
私たち四人の力を全て集結させれば……。
「………しょうがないね」
ニジー、アゲセーヌ、ゴウエモン。そして私。
四人がそれぞれの花を掲げる。
薔薇、ハイビスカス、桜、黒百合。
異なる四つの花が天に挑むかのように高々と掲げられた。
それぞれの花から力が溢れ出し、周囲の空気が激しく震え始め、強いエネルギーが集まっていくのを感じた。
私たちの力を一つに。
この世界を、これ以上破壊させないために。
「フィールドよ!!」
「「「「覆え!!」」」」
四人の声が重なった瞬間、それぞれの花弁が一斉に舞い上がった。
色も形も異なる花弁が空高く舞い上がり、やがて一点へと集結していく。
そしてそこから巨大な光の膜が広がり始めた。
ゆっくりと空を覆い尽くすように広がった膜は、まことみらい市の外周へ向かって降りていく。
その規模は、通常のフィールドとは比較にならない。
街全体を包み込むほどの巨大な結界。
まことみらい市そのものを隔離する、四人の力を結集させた特別なフィールド。
これでウソノワール様の暴走による被害が通常の世界へ広がることはひとまず防げるはずだ。
もちろんいつまでも持ちこたえられるわけではない。
今のウソノワール様が本気で攻撃を繰り返せば、この結界でさえ破壊されてしまうかもしれない。
それでも何もしないよりはずっといい。
しばらくの時間は稼げるはずだから。
ここまで来るために、どれほどの時間を費やしてきたことか。
どれほどの苦労を重ねてきたことか。
それなのに全てを置き去りにして、一人だけ先へ進んでしまうなんて。
……ウソノワール様、あなただけ先に行ってしまうなんて、なしですからね。
_______________
【みのるSide】
周囲が暗くなった。
つい先ほどまで見えていた空が、何かに覆い隠されるように光を失っていく。
……これは、怪盗団ファントムのフィールド?
でも今まで見てきたものとは規模が違う。
空を覆い尽くすほどの巨大な膜が、まことみらい市全体を包み込んでいるようだった。
それに結界が完全に閉じられたということは……。
……やっぱりさっきまで近くにいたはずのれいの姿が、どこにも見当たらない。
結界の外へ弾き出されたのだろう。
そして、私とくれあさんは……。
今回も結界の内側に残されている。
どうして私は、いつもこうして当たり前のようにフィールドの中へ入れてしまうのだろう。
そんな疑問が絶えないけれど、今はそれどころじゃない。
私の目の前には、もっと深刻な光景が広がっていた。
くれあさんが、泣いていた。
粉々に砕け散った香水の容器を前に、膝をつき、肩を震わせながら泣き崩れていた。
地面には割れたガラスの破片が散乱し、中身の香水が水溜まりのように広がっている。
もう元には戻らない。
その事実を突きつけられたくれあさんは、ただ涙を流し続けていた。
彼女の嗚咽だけが、静まり返った空間に流れる。
こんなにも目の前で苦しんでいる人がいるのに。
こんなにも悲しんでいる人がいるのに。
私はただ見ていることしかできない。
「ごめんね……」
「ポチ……」
「名探偵を……プリキュアを見つけることができなかった……」
……助手って、何なんだろう。
探偵を支えること?
困っている人を助けること?
誰かのために、自分にできることを探し続けること?
そんなこと、頭ではわかっている。
わかっているはずなのに、こんなにくれあさんが泣いているのに、私は声をかけることすらできないの……?
くれあさんの涙が頬を伝い、顎の先からこぼれ落ちる。
ぽたり
その一滴が、地面に広がった香水の水溜まりへと落ちた。
小さな波紋が広がる。
ただ、その瞬間がくれあさんの中で何かが変わるきっかけになった。
それまで肩を震わせていた彼女が、ぴたりと動きを止めた。
「………プリキュア?」
「!?」
何かを思い出そうとしているような、そんな雰囲気があった。
「……!!」
「ポチ!?」
くれあさんは地面に広がる香水をじっと見つめていた。
その香りの中に何か大切なものを見つけたかのように。
「………この香り」
その言葉と同時に私の頭の中に突然、見覚えのない光景が流れ込んでくる。
目の前の景色とは違う。
私が今まで見たことも、経験したこともないはずの光景。
そこには、今よりもずっと無邪気な笑顔を浮かべたくれあさんと、彼女の隣に立つるるかさんの姿があった。
その表情には、今の彼女が浮かべていた悲しみなど、微塵も感じられなかった。
二人の間には……美しく咲き誇る、一面の百合。
『わぁぁ、素敵な香り!』
『妖精と人間が生み出した、特別な百合。トップオブリリー』
トップオブリリー。
妖精と人間が生み出した花……。
その花の名前をなぜ私が知っているのか、それは今もわからない。
「私………」
くれあさんの瞳は、もっと遠くの何か大切な記憶を見ているようだった。
……まさか、記憶が戻った……?
くれあさんが失っていた、キュアエクレールとしての記憶。
それが、この割れた香水と涙をきっかけに蘇ったというの……?
だとしたら、今の光景は……。
私の頭にも流れ込んできた、あの記憶は一体何だったのだろう。
どうして私まで、くれあさんとるるかさんの過去を見たの……?
疑問が次々と浮かんでくる。
けれど、それを考える暇もなかった。
「やっと、思い出したでシュ!」
「!」
突然聞き慣れない声が聞こえ、声のした方向へ視線を向ける。
「くれあさんのシュシュが光って……声が?」
「ポチ?」
くれあさんの髪を束ねていたシュシュ。
その小さな髪飾りが、淡い光を放っていた。
しかもシュシュがひとりでに動き始めたのだ。
くれあさんの髪からするりと離れ、ふわふわと宙へ浮かび上がっていく。
ただの髪飾りだと思っていたものが、光を放ちながら浮いている。
そして、その光が一段と強くなり、シュシュの形がみるみる変わり始めた。
小さな体が現れ、手足が伸び、ふわりと大きな尻尾が広がっていく。
光が収まる頃には、そこにいたのは髪飾りではなかった。
「戻って来るって、信じてたでシュ。くれあ!」
……妖精だ。
水色を基調とした、狸に近いような姿。
ぱっちりとした瞳は鮮やかな緑色で、額にはポチタンたちと同じ、ハート形のピンク色の石が埋め込まれている。
両頬にもハート形のチークが施され、ふっくらとした大きな尻尾が特徴的だった。
背中にはかわいらしいリボンまでついている。
大きさはポチタンやマシュタンよりも一回り小さいくらいだろうか。
間違いない。
きっとこの子が、キュアエクレールのお供妖精。
そう確信した瞬間、くれあさんは目の前に浮かぶ小さな妖精へ両手を伸ばす。
「シュシュタン!!」
くれあさんはシュシュタンと呼ばれる妖精を、思い切り抱きしめた。
「シュシュタンは、ずっとくれあの側にいたでシュ!」
シュシュタン
それが、この妖精の名前。
くれあさんが髪につけていたシュシュは、ただの髪飾りじゃなかった。
記憶を失ったくれあさんの側で、ずっと彼女を見守り続けていた妖精だったんだ。
ずっと離れずにいた二人が、ようやく本当の意味で再会できた。
「この日のために、ずっと預かってたでシュ!」
シュシュタンは一つの道具を取り出した。
一見すると、香水の容器のように見える。
けれど普通の香水瓶とは違い、全体に華やかな装飾が施され、細部に至るまで特別な意匠が凝らされている。
ただ香水を入れるための容器とは思えない。
……変身アイテム。
きっと、これがくれあさんをキュアエクレールへと変身させるための道具なんだ。
「くれあ、みんなを助けるでシュ!嘘を、止めるでシュ!」
シュシュタンの力強い言葉を受けたくれあさんは、もう俯いていなかった。
頬にはまだ涙の跡が残っている。
それでも、彼女の瞳には確かな意志が宿っていた。
さっきまで泣き崩れていた人とは思えないほど、まっすぐで力強い眼差し。
くれあさんははっきりと頷いた。
「……うん!」
その返事にはもう迷いなど感じられない。
……帰ってきたんだ。
失われた記憶を取り戻し、大切な妖精と再会した彼女が。
かつてるるかさんと肩を並べて戦っていたという、先代の名探偵プリキュアが。
キュアエクレールが、今ここに帰ってきたんだ。
これでみくるたちを助けられるかもしれない。
ウソノワールの暴走だって、止められるかもしれない。
だけど……私は素直に喜ぶことができなかった。
胸の奥にずっと引っかかっているものがあったから。
くれあさんがキュアエクレールだったこと。
彼女が記憶を失っていたこと。
そして、その記憶を取り戻すことをるるかさんが望んでいなかったこと。
私はその全てを知っていた。
知っていたのに、今まで何も言わなかった。
……いや、言えなかったんだ。
目の前で嬉しそうにシュシュタンを抱きしめているくれあさんを見ていると、ますます胸が苦しくなってくる。
私が黙っていたせいで、彼女は何も知らないまま今日まで過ごしてきた。
もしもっと早く伝えていたら。
もし私があの時、勇気を出していたら。
そんな後悔ばかりが、頭の中を駆け巡っていた。
「……………」
「みのるちゃん?」
優しい声が聞こえた。
……言わなきゃ。
今度こそ、ちゃんと伝えなきゃ。
これ以上、黙っているわけにはいかない。
「……ごめんなさい。私ずっと………隠してた」
ようやく絞り出した声は小さかった。
言葉にしようとすると、胸の奥に押し込めていた罪悪感が溢れ出してくるようだった。
「ずっとくれあさんがキュアエクレールだってことは、わかってたのに……何も言えなくて………」
ずっと隠していたことを、ようやく口にした。
だけどそれだけで気持ちが軽くなることなんてなかった。
くれあさんがどんな反応をするのか怖くて仕方がなかった。
どうして教えてくれなかったのか。
どうして黙っていたのか。
そう責められたとしても、私は何も言い返せない。
「……………」
くれあさんは何も言わなかった。
その沈黙が、私には何よりも重く感じられた。
「私……実はるるかさんと話をしたんだ。くれあさんがエクレールだってことを聞いたら、すごく動揺してた」
「るるかが…?」
彼女にとって、るるかさんはかつて一緒に戦っていた大切な存在。
それなのに、るるかさんは……。
「その時に言われたの。もう関わるなって。くれあさんの記憶を戻そうとしないでって……」
るるかさんの表情。
その声に込められていた強い感情。
彼女は本気だった。
私にこれ以上関わってほしくないと、心の底から思っているようだった。
だから私は迷ってしまった。
記憶を取り戻すことが、本当にくれあさんの幸せにつながるのだろうか。
知らないままでいた方が、彼女は平穏に暮らせるのではないだろうか。
そんなことばかり考えていた。
「どうして……?どうしてるるかは記憶を戻してほしくなかったの?」
その声には戸惑いが滲んでいる。
私だってるるかさんの本当の気持ちを知っているわけじゃない。
だけど、彼女の言葉や態度を思い返せば、何となく理由はわかる。
「きっと、あなたを危険な目に遭わせたくないからだと思う」
「……!」
るるかさんは、くれあさんにもう一度プリキュアとして戦ってほしくなかったのだろう。
記憶を取り戻せば、彼女は再び危険な戦いに身を投じることになる。
怪盗団ファントムとの戦い。
マコトジュエルを巡る争い。
そして今起こっているような、命に関わる危険。
そんな世界に、大切な人を戻したくなかったのかもしれない。
だから、るるかさんは私に関わるなと言った。
くれあさんの記憶を戻さないでほしいと願った。
……だけど私が黙っていてよかった理由にはならない。
くれあさん自身がどうしたいのか。
記憶を取り戻したいのか、それとも今の生活を続けたいのか。
本当は彼女自身が決めるべきことだった。
なのに私は、勝手に悩んで、勝手に迷って、結局何もできなかった。
探偵の助手を名乗っておきながら。
困っている人の力になりたいと思っておきながら。
私は、何一つ答えを出せなかった。
「だから、くれあさんの記憶を戻すべきか関わらないべきか……ずっとどうすればいいのかわからなくてずっと黙ってて……。本当にごめんなさい!」
もう顔を上げることなんてできない。
……怖かった。
自分の判断が間違っているかもしれないことが。
くれあさんの人生を変えてしまうかもしれないことが。
るるかさんの願いを踏みにじってしまうかもしれないことが。
だから私は何もしないことを選んだ。
何もしなければ、自分のせいで何かが変わることはない。
そんな卑怯な考えに、どこかで逃げていたのかもしれない。
みくるなら、どうしただろう。
あんななら、どうしただろう。
二人ならきっと、こんな時でも自分なりの答えを見つけようとしたはずだ。
なのに私は……
その時、ふわりと優しい香りがした。
突然、肩に温かな感触が伝わってきた。
顔を上げる間もなく、私の体がそっと引き寄せられる。
気がつけば、私はくれあさんの腕の中にいた。
……どうして?
くれあさんは何も言わず、私を優しく抱きしめていた。
私が離れようとしない限り、ずっと包み込んでくれそうな温かな抱擁だった。
怒られると思っていた。
責められると思っていた。
なのに、どうして……。
「……みのるちゃん。そんなに自分を責めないで」
「……でも、私……」
「うん。みのるちゃんがずっと悩んでいたこと、ちゃんと伝わったわ。私のことも、るるかのことも……どちらも大切にしようとしてくれたのよね」
……違う、そんな立派なものじゃない。
私はただ、決められなかっただけ。
どちらかを選ぶ勇気がなかっただけなのに。
「……私、何もできなかったんです。くれあさんが何も知らずに過ごしている間も、ずっと……」
「……確かに、もっと早く知りたかったって気持ちはあるわ」
……やっぱりそうだよね。
くれあさんにとっては、自分自身の大切な記憶だったのだから。
「でもね、みのるちゃん。私は今、こうして思い出すことができた。シュシュタンとも再会できたわ」
くれあさんは少しだけ腕の力を緩め、私の顔を覗き込む。
その瞳には、穏やかな光が宿っていた。
「だから、もう謝らなくていいのよ」
「……っ」
……どうして、そんなに優しくできるの?
私は、あなたに大切なことを隠していたのに。
ずっと黙っていたのに。
それなのに、どうしてそんな顔で笑えるの……?
「それにね……るるかがどうして記憶を戻してほしくなかったのか、少しだけわかった気がするの。きっと、私のことを心配してくれていたのね。昔から、そういうところがある子だったから……」
その声には、るるかさんへの深い愛情が込められているように感じられた。
二人は唯一無二の相棒だった。
そして、親友でもあった。
きっと私なんかには想像もできないほどたくさんの時間を一緒に過ごしてきたのだろう。
だからくれあさんにはわかるのかもしれない。
るるかさんが何を思い、何を恐れていたのか。
「でも……私の記憶は、私自身のものだから。楽しかったことも、悲しかったことも、全部ひっくるめて私なの。だから、思い出せてよかったって思ってる」
くれあさんはそう言って、微笑んだ。
「もちろん、これから危険なことが待っているかもしれない。でも、それでも私は……大切な人たちを助けたい」
……ああそうか。
この人は、もう自分の答えを見つけているんだ。
私がずっと悩んでいたこと。
記憶を取り戻すべきなのか、それとも関わらないべきなのか。
その答えをくれあさん自身が出してくれた。
私はただ、それを見守ることしかできなかったけれど……。
「みのるちゃん。私のことを考えてくれてありがとう」
「……!」
……ありがとう?
私が?
何もできなかった私に、ありがとうって……?
「……そんな、私……お礼を言われるようなことなんて……」
「ううん。みのるちゃんがずっと悩んでくれていたこと、私は嬉しいわ」
くれあさんはそう言って再び私をそっと抱き寄せた。
胸の奥に張りつめていたものが、少しずつほどけていくような気がした。
……本当に、ずるい人だ。
私はずっと、自分が何もできなかったことを責め続けていた。
肝心な時にほとんど何もできない自分だけど……。
今だけは少しだけ、自分を許してもいいのだろうか。
くれあさんの優しさに、甘えてもいいのだろうか。
「……ありがとう、ございます……」
ようやくそれだけを口にした。
くれあさんはただ優しく私の背中を撫でてくれた。
その温もりが、今の私には何よりもありがたかった。
空を覆う巨大な結界の向こうでは、今も恐ろしい戦いが続いている。
みくるも、あんなも、るるかさんも。
みんな危険な状況にいる。
だからいつまでもこうしているわけにはいかない。
そして私は、ようやく理解した。
誰かを助けるということは、必ずしも正しい答えを見つけることだけじゃない。
迷って、悩んで、それでも相手のことを考え続ける。
たとえ何もできなかったとしても、その気持ちまで無意味になるわけじゃないのかもしれない。
……くれあさん。
あなたが取り戻した大切な記憶。
そして、あなた自身が選んだ答え。
今度こそ、私はそれを支えたい。
プリキュアのように戦う力がなくても。
どれほど無力な助手だったとしても。
今度こそ、あなたの力になりたい。
くれあさんが記憶を取り戻し、シュシュタンとも再会できたことは、間違いなく大きな前進。
だけど、これで全てが解決したわけじゃない。
みくるたちがどうなっているのかわからない。
そして何より、くれあさんはまだプリキュアに変身できない状態にある。
シュシュタンが持っていた変身アイテムだけでは、足りないものがあるからだ。
……マコトジュエル。
ウソノワールが持っているキュアエクレールのマコトジュエル。
あれを取り戻さない限り、くれあさんが再びプリキュアとして戦うことはできない。
問題はどうやって取り返すか。
まともに戦って勝てる相手じゃないことくらい私にもわかる。
私は一度深く息を吸い込み、目の前にいる三人へ視線を向けた。
「……みんな、聞いてほしい」
「ポチ?」
「ウソノワールはきっと、くれあさんのマコトジュエルを取り込んでる。それを取り返さない限り、くれあさんはプリキュアに変身できない」
ウソノワールがキュアエクレールのマコトジュエルを持っていたことはるるかさんの発言から確認している。
そして、今の暴走。
あの異常な力の源が何なのか、正確なところまではわからない。
だけど、マコトジュエルを取り込んでいる可能性は十分にある。
「まずは私のマコトジュエルを取り返すのが先ね……」
問題はここからだ。
マコトジュエルを取り返すためには、どうしてもウソノワールに接近しなければならない。
あれほどの力を持つ相手に、真正面から挑むなんて自殺行為に等しい。
必要なのは力じゃない。
相手の意表を突くこと。
そして、ほんの一瞬でも隙を作ること。
「くれあさんとシュシュタンは、そのまま戦場の近くまで向かってほしい。その間に私がウソノワールを引きつけて、マコトジュエルを吐き出させる」
「え!?」
……まあ、当然の反応だろう。
今の私はプリキュアでもなければ、特別な武器を持っているわけでもないただの中学二年生。
そんな私が、あのウソノワールを相手に囮になろうとしているのだから。
「さすがに無茶よ!!もしものことがあったら……」
危険なのは百も承知だ。
まともに攻撃を受ければ無事では済まない。
下手をすれば、命を落とす可能性だってある。
……怖くないわけじゃない。
怖いに決まっている。
だけど、今はその恐怖に立ち止まっている場合じゃない。
くれあさんがプリキュアに変身できれば、状況を変えられるかもしれない。
そのために私ができることがあるのなら、やるしかない。
そう考えていた時だった。
「……今はこの子に任せるべきでシュ」
「シュシュタン?」
意外なところから声が上がった。
てっきりシュシュタンも反対すると思っていたからだ。
だけど、彼女は真剣な眼差しで私を見ていた。
「ウソノワールは確かに危険な相手でシュ。でも今のこの子なら、きっと成功するかもしれないでシュ!」
どうしてそこまで私を信じてくれるのだろう。
私はまだ、何も成し遂げていない。
探偵の助手としても未熟で、みくるたちのように戦う力もない。
それなのに、シュシュタンは私の作戦に可能性を見いだしてくれた。
くれあさんは私とシュシュタンを交互に見つめ、何かを迷っているようだった。
やがて、小さく息を吐く。
「…わかったわ。今はみのるちゃんの作戦に任せましょう」
「ありがとう……」
くれあさんが、私の作戦を信じてくれた。
あれほど危険だと心配していたのに、それでも私に任せると決めてくれたのだ。
だったら、絶対に無駄にはできない。
「ポチタン」
「ポチポチ?」
私が名前を呼ぶと、ポチタンは小さな体をこちらへ向けた。
ここからが、作戦の本番だ。
ウソノワールに接近するには地上からでは難しい。
周囲の建物は破壊され、どこから攻撃が飛んでくるかもわからない。
真正面から近づけば、こちらの存在に気づかれる可能性が高い。
だったら……狙うべきは上空。
相手の意識が地上に向いている隙に、頭上から接近する。
そうすれば、ほんの一瞬でも奇襲を仕掛けられるかもしれない。
「私を先にウソノワールの元に向かわせてほしい。上空から奇襲すれば、好機はあるはず」
「ポチ!」
ポチタンは力強く頷いた。
その返事を聞いて、私は少し安心した。
だけど、まだ確認しておかなければならないことがある。
以前ポチタンが使ったあの大技。
もし今も使えるのなら、今回の作戦において大きな助けになるはずだ。
ただし無理をさせるわけにはいかない。
ポチタンだって、決して無限の力を持っているわけじゃないのだから。
「あの時に使った技……今でもできそう?もちろん無理にとは言わないよ」
「ポチ!ポチタン、できる!」
その小さな体からは想像できないほど力強い返事。
……本当に頼もしいお供妖精だ。
ポチタンはいつもみくるたちを支えてきた。
そんなポチタンが、今度は私の力になってくれる。
だったら、私もその信頼に応えなければならない。
「……ありがとうポチタン」
私は改めてくれあさんへ向き直った。
くれあさんは、もう反対しなかった。
「くれあさん」
「ええ、任せたわ」
短い言葉でも、そこには確かな信頼が込められていた。
……任せた。
その一言が、今の私には何よりも心強かった。
「健闘を祈るでシュ!」
私は二人に頷き返し、戦場の方角へ歩き始める。
……正直に言えば勝算なんてほとんどない。
マコトジュエルをどうやって吐き出させるのか。
奇襲が成功したとして、その後どうやって離脱するのか。
考えなければならないことは、まだ山ほどある。
それでも、今の私には一つだけ確信していることがあった。
何もしなければ、何も変わらない。
みくるも、あんなも、るるかさんも。
そして、くれあさんも。
みんなを助けるためには、誰かが行動しなければならない。
だったら今度は私の番だ。
今まで何度もみくるたちに助けられてきた。
危険な場面では、いつも誰かが立ち向かってくれた。
いつまでも守られているだけじゃ嫌だ。
私だって、みんなの力になりたい。
今まで培ってきた経験を使えば、きっと何かできるはずだ。
……行こう、みんなが待っている場所へ。
必ずマコトジュエルを取り返す。
「行くよ!ポチタン、準備はいい!?」
「ポ~~~チ~~~!!」
……大丈夫、一人じゃない。
ポチタンがいる。
私の作戦を信じてくれた、くれあさんとシュシュタンがいる。
そして何よりも。
私には助けたい仲間たちがいる。
力で勝てないのなら、頭を使えばいい。
それが、探偵の助手である私にできる戦い方なのだから。
私はポチタンとともに、決死の奇襲へと踏み出した。
_______________
【みくるSide】
……勝てない。
悔しいけれど、そう認めざるを得なかった。
目の前で暴れ続けるウソノワールは、私たちの想像を遥かに超える力を持っていた。
どれだけ攻撃を仕掛けても、どれだけ立ち向かっても、その圧倒的な力の前では何もかもが通用しない。
プリキュアへの変身は解除され、私たちは元の姿に戻っていた。
体中が痛い。
少し動かすだけで激痛が走り、呼吸をすることさえ苦しく感じられる。
制服や肌には無数の擦り傷や打撲の痕が残っていた。
さっきまで握りしめていたプリキットライトも、いつの間にか手元からなくなっている。
どこかに落としてしまったのだろう。
探そうにも今の私には周囲を確認できる余裕すらなかった。
……よく、ここまで戦えたな。
傷だらけになった自分の体を見下ろしながらそんなことを思った。
正直もう限界。
立ち上がる力なんてほとんど残っていない。
指先は震え、膝は笑い、視界も少し霞んでいる。
それでも……それでもこのまま終わるわけにはいかなかった。
だって、私たちがここで諦めたら……この世界は、どうなってしまうの?
あの力がこのまま解き放たれ続ければ、まことみらい市だけじゃ済まない。
世界そのものが壊されてしまう。
そんなこと、絶対にさせられない。
……傷だらけになろうとも。
……挫けそうになろうとも。
名探偵は、絶対に……。
私は震える手を伸ばした。
その先には同じように地面へ倒れ込んでいるあんながいる。
あんなも私と同じくらい傷だらけだった。
それでも、私が差し出した手に気づくとゆっくりと顔を上げた。
言葉なんて必要ない。
私たちが今何を考えているのか。
それくらい、もうわかっていたから。
あんなの手が、私の手をしっかりと握り返す。
互いの手に力を込め、引っ張り合うようにして体を起こした。
膝から崩れ落ちそうになるも、あんなが私の手を離さなかった。
だから私も、絶対に離さなかった。
少しずつ、少しずつ。
私たちは互いの体を支え合いながら、ようやく立ち上がった。
「め……名探偵は………」
私たちは、名探偵なんだから。
どんなに難しい事件でも。
どんなに恐ろしい相手でも。
最後の最後まで、真実を追い求める。
それが、私たちの信じる名探偵の姿。
「………諦めない!!」
絶対に諦めない。
ここで私たちが負けたら、世界が終わってしまう。
みんなの笑顔も、平和な日常も、大切な思い出も。
何もかもが失われてしまう。
そんな未来、絶対に認めたくない。
だから、戦わなきゃ。
今の私たちにほとんど力が残されていなかったとしても。
きっと……。
きっと、どこかに勝機があるはずだから。
「やめろ……もういい!もう………いいから……!!」
ごめんね。
これ以上、私たちが傷つくところなんて見たくないんだよね。
もう十分頑張ったから、これ以上無理をしないでほしいんだよね。
その気持ちは痛いほど伝わってくる。
でも、ここでやめるわけにはいかないんだ。
どれだけ苦しくても……もう一度、立ち向かわなきゃ。
「ヴオ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙!!!」
鼓膜が破れそうなほどの咆哮。
巨大な影が、私たちの頭上を覆っていた。
ウソノワールの足。
その巨大な足が、私たちを踏み潰そうと迫っていたのだ。
逃げなきゃ……!!
頭ではわかっている。
だけど、体が動かない。
足に力が入らず、思うように一歩を踏み出せない。
だったら、せめて変身を……!
私は必死に腕を動かそうとした。
けれど、指先が震えるばかりで腕が上がらない。
お願い、動いてよ……!!
今動かなかったら……私たち、本当に……。
巨大な足がどんどん迫ってくる。
もう避けられない。
そんな絶望的な現実が、容赦なく私の心を押し潰していく。
やっぱり……もう、限界なのかな。
ここまで頑張ってきたけれど。
何度も立ち上がってきたけれど。
今度こそ、本当に……。
……みんなごめん。
こんなに弱い私たちで……。
「させない!!」
(……え?)
突然、声が聞こえた。
聞き間違えるはずのない、少女の声。
……今の声、知ってる。
私は、この声を知っている。
探偵になる前から、ずっと聞いてきた声。
学校でも、キュアット探偵事務所でも、何度となく耳にしてきた声。
毎日のように聞いているはずなのにどうしてだろう。
今は、ひどく懐かしく感じられた。
ずっと会いたかった人が帰ってきたような。
そんな不思議な安心感が、胸の奥から込み上げてくる。
「…!?」
「今の声って……」
だけどどこにも姿が見えない。
……違う。
声がしたのは、周囲じゃない。
もっと高いところ。
……上だ!!
「うおぉぉぉぉ!!!」
「………!!」
……え……ええっ!?
そこにいたのは信じられない光景だった。
上空から、ものすごい勢いで降下してくる一人の少女。
その腕には、小さな妖精がしっかりと抱えられている。
……みのる。
ポチタンを抱えたみのるが、ウソノワールに向かって一直線に突っ込んできていた。
あまりの衝撃に声すら出せなかった。
怖がっている様子がない。
ただ、目の前の敵を捉えている。
その真剣な眼差しに、私は息を呑んだ。
……こんなみのる、初めて見た。
相手がどれほど恐ろしい存在なのか、みのるだってわかっているはずなのに。
それでも彼女は怯むことなく突っ込んでいく。
「みのる!?」
「……みのるだ。ポチタンとみのるだよ!」
あんなの声には驚きと喜びが入り混じっていた。
だけど、驚いていたのは私たちだけじゃなかった。
「!?」
ウソノワールが突然の乱入者に反応する。
さっきまで私たちを踏み潰そうとしていた巨大な体が、動きを止めた。
混乱している。
まさかこんなところからプリキュア以外の人から攻撃を仕掛けられるなんて、想像もしていなかったのだろう。
でも、みのるはその反応すら予想していたようだった。
空中で体勢を整えると、抱えていたポチタンを両手でしっかりと掴む。
そして、その体をウソノワールの方へ向けた。
……何をするつもり?
「ポチタン!!今だ!!」
「ポチィィィィィ!!」
ポチタンの体から、強烈な光が放たれた。
視界が一瞬で真っ白に染まる。
至近距離から放たれた凄まじい閃光が、ウソノワールの顔面へと直撃した。
「グオォォ!?」
ウソノワールが苦しげな声を上げる。
巨大な体がわずかに仰け反った。
……効いてる!?
あのウソノワールに、ポチタンの光が通用している!?
私たちがどれだけ攻撃してもほとんど怯まなかった相手なのに、ポチタンの光によって確かに動きが止まっている。
でも、みのるの攻撃はそれだけじゃなかった。
「これで……どうだあああぁぁぁ!!」
「ポチイイィィィ!!ポチ!!!」
ポチタンが再び声を張り上げ、周囲の空気が激しく震える。
光に続いて、今度は強烈な衝撃波が発生した。
目には見えないほどの圧力が、一気にウソノワールへと叩きつけられる。
激しい轟音。
空気が弾け飛ぶような衝撃。
あの巨大なウソノワールが、さらに大きく怯んだ。
……すごい。
自分より遥かに小さな妖精から放たれた、予想外の反撃。
それが、あの圧倒的な力を持つウソノワールの動きを止めたのだ。
ただ、この光景……どこかで見たことがある。
ポチタンの放つ光。
続けざまに発生する衝撃波。
そしてポチタンを抱えながら敵へ突っ込んでいくみのるの姿。
あの時だ。
ツバメの像がハンニンダーにされてしまった時。
私たちがハンニンダーを相手に絶体絶命の状況へ追い込まれていた際、みのるとポチタンが間に入ったのだ。
あの時もみのるはポチタンを抱え、敵へ向かっていった。
そして今と同じように……強烈な光と衝撃波を、ハンニンダーへと叩きつけた。
あの攻撃によってハンニンダーはダウンした。
私たちはみのるとポチタンに助けられたんだ。
……でも、あの時は決して良いことばかりじゃなかった。
力を使いすぎたポチタンまで倒れてしまったから。
小さな体に大きな負担がかかっていたのだろう。
私は慌ててポチタンの様子を確認した。
またあの時みたいに倒れちゃうんじゃ……。
だけど私の心配とは裏腹に、ポチタンは倒れていなかった。
あれほどの技を放ったにもかかわらず、意識を失う様子もない。
それどころか、まだまだ元気そうだった。
……あの頃とは、違うんだ。
同じ技を使っても、今のポチタンは倒れない。
あれから何度も一緒に事件を解決し、マコトジュエルを回収してきた。
何度も危険な目に遭って、そのたびにみんなで力を合わせて乗り越えてきた。
私たちが少しずつ成長してきたように、ポチタンだってずっと成長していたんだ。
小さな体の中に、あの頃よりもずっと大きな力を蓄えていたんだ。
みのるが来てくれた。
ポチタンが助けに来てくれた。
私たちが諦めかけたその瞬間に、あの二人が希望を繋いでくれたんだ。
……ありがとう、みのる、ポチタン。
「グオオォォォ……!!」
だけど、安心するにはまだ早かった。
「はぁ……はぁ……」
みのるの荒い呼吸が聞こえた。
上空からの奇襲に続いて、ポチタンと連携した全力の攻撃。
みのる自身にも相当な負担がかかっているはずだ。
肩が小さく上下している。
それでも、みのるはウソノワールから視線を逸らしていなかった。
「みのる?」
「大丈夫、このくらい」
ポチタンが心配そうに顔を覗き込むも、みのるは短く答えた。
……本当に大丈夫なの?
私にはとてもそうは見えなかった。
だけど、みのるの表情には不思議なほど落ち着きがあった。
あんな恐ろしい相手を目の前にしているのに、次に何をするべきなのか、すでにわかっているような……。
「ヴオ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙!!!」
ウソノワールが再び動き出した。
巨大な体を震わせ、凄まじい怒りを込めた咆哮を上げる。
そして、みのるへ向けて容赦なく攻撃を繰り出した。
……まずい!!
みのるは無防備だ。
あんな攻撃をまともに受けたら、ひとたまりもない!!
「危ないっ!!」
咄嗟に手を伸ばそうとしたけれど、ここからじゃ届かない。
それでもみのるは逃げなかった。
「……………」
その表情には、焦りも恐怖も感じられない。
……私はそこで、あることに気づいた。
みのるの右手。
さっきからずっと、何かを強く握りしめている。
あれは……まさか。
「プリキットライト!!」
「!?」
「さっき落とした私のプリキットライト……!?」
間違いない。
あれは、私が戦いの途中で落としてしまったプリキットライトだ。
いつの間に拾っていたの!?
それに、どうして今それを……?
疑問が浮かんだその直後、みのるがプリキットライトを大きく振るった。
みのるが描いた軌跡に沿って、眩い光の壁が形成されていく。
まるでバリアだ。
そしてウソノワールの攻撃が、その光の壁へ激突した。
凄まじい衝撃音が響くも、みのるにはウソノワールの攻撃が届いていない。
みのるがウソノワールの攻撃を受け止めた!?
次々と信じられない光景が続いた。
あれほどの破壊力を持つ攻撃を、プリキットライトで作ったバリアが防いでいる。
激しい衝撃を受けながらも、その形を保ち続けていた。
だけど、みのるも無事では済まない。
光の壁を支えるように両腕へ力を込め、必死に踏ん張っている。
……みのる!!
「あああああぁぁぁぁっ!!」
みのるが叫び、光の壁が一気に押し返された。
「ウオオォォ!!?」
みのるの作り出したバリアが、凄まじい勢いで前方へ押し出されていく。
そしてウソノワールの顔面へ、真正面から激突した。
――バリィィィン!!!
耳をつんざくような破砕音。
光の壁が砕け散り、無数の光の破片が空中へ飛び散った。
その衝撃で、ウソノワールの巨大な頭が大きく仰け反る。
「すごい……すごいよみのる!!」
横にいるあんなは興奮したように声を上げた。
その気持ちは私も同じだった。
だけど、驚きと同時にどうしても理解できないことがある。
何かがおかしい。
プリキットライトは、プリキュアの力を補助するための道具のはず。
確かに、プリキュア以外の人が絶対に使えないと決まっているわけじゃないのかもしれない。
でも、いきなりあんな攻撃を防げるほどのバリアを作れるものなの?
相手はあのウソノワール。
私たちが全力で戦っても歯が立たなかった相手だ。
その攻撃を防ぐだけじゃなく、押し返してしまうなんて……。
そんなこと、普通に考えたらあり得ない。
「一体どうなってるの?どうしてみのるが急にあんな力を?」
……本当にどうなっているんだろう。
みのるは私たちと同じ中学二年生の女の子だ。
成績は良いけど、戦うための力を持っているわけじゃない。
少なくとも、私はそう思っていた。
それなのに……今のみのるは、まるでプリキットライトの使い方を最初から知っていたかのようだった。
初めて使ったはずなのに、迷いなくバリアを作り出している。
しかもその強度はミスティックリフレクションに劣らないほどだった。
……みのる……あなたは一体……?
私がその疑問について考えるよりも早く、みのるは次の行動に移っていた。
「ポチタン!もう一度行けそう!?」
「ポチィィッ!!!」
ポチタンが力強く返事をする。
そして、再びウソノワールへ向けて力を放った。
衝撃がウソノワールの体へ再度叩きつけられる。
「グオオッ!!?」
その瞬間、何かが巨大な体から弾き出される。
光ってる……。
空中を舞う、小さな結晶。
「あ!?」
「マコトジュエルが……取れた」
ウソノワールの体から、マコトジュエルが離れたのだ。
みのるとポチタンの連携によって、あの巨大な体から弾き出された。
まさか、最初からこれが狙いだったの!?
みのるはただ闇雲に突っ込んできたわけじゃなかった。
ポチタンの光で相手の視界を奪い、衝撃波で怯ませる。
反撃にはプリキットライトのバリアで対処し、再びポチタンの攻撃を仕掛ける。
その全てが、マコトジュエルを取り返すための行動だったんだ。
こんな状況でそこまで考えていたなんて。
みのるは空中でマコトジュエルを確保すると、すぐに別の方向へ顔を向けた。
「くれあさん!!これをっ!!」
……くれあさん?
どうしてここでくれあさんの名前が……?
そう思った直後、みのるがマコトジュエルを勢いよく投げた。
結晶は光を反射しながら、遠くへ向かって飛んでいく。
「!?」
マコトジュエルを投げたみのるは、地面へと落下し始める。
このままじゃ地面に……!!
「ポチタン!お願い!!」
「ポ~チ!!」
ポチタンが返事をした瞬間、小さな体がみるみる大きくなる。
ポチタンの体が大きな風船のように膨らんだ。
そして地面へ先回りするように降下し、落下してきたみのるの体を膨らんだポチタンが受け止めた。
柔らかい体が大きく沈み込み、落下の衝撃を吸収する。
……よかった!!
みのるは無事だ。
ポチタンがクッションになってくれたおかげで、地面へ激突せずに済んだのだ。
本当に心臓に悪い……。
でも、これでようやく……。
マコトジュエルはまだ宙を漂っていた。
光を放ちながら、ゆっくりと弧を描くように飛んでいく。
その先には……誰かがいた。
その人物は静かに手を伸ばした。
そして……結晶をしっかりと受け止めた。
「………ありがとう、みのるちゃん。もう大丈夫」
今の声……。
「………!!………まさか……!?」
少し離れた場所からは、るるかさんの驚愕した声が聞こえる。
その表情は、今まで見たことがないほど大きく変わっていた。
信じられないものを目の当たりにしたかのように。
……るるかさんはどうしてそんなに驚いているの?
気にはなるけど、今は結晶を受け取った人物へ目を向けた。
そして、ようやくその姿をはっきりと確認した。
「あ………あれは」
穏やかな表情。
優しそうな瞳。
……くれあさん?
間違いない。
あれは、帆羽くれあさんだ。
その手には、先ほどみのるが投げたマコトジュエルが握られている。
そして、その隣には……。
見たことのない小さな妖精がいた。
頭の中で、いくつもの疑問が渦巻く。
まさか、そんなことって……。
「あいつ!?」
「マシュ………」
周囲の妖精もファントムの幹部も、どこか信じられないものを見るように呟いていた。
以前から探し続けていた、伝説のプリキュア。
その正体が……ようやく判明した。
「くれあさん!?」
「くれあさんが……キュアエクレール!?」
何度も手がかりを追いかけてきた。
青い蝶の正体を探り、るるかさんの行動を調べ、失われた記憶の謎に迫ろうとしてきた。
でもまさか、あの優しいくれあさんが。
いつも穏やかに微笑んでいたあの人が。
プリキュアだったなんて……。
その表情には、さっきまでの私たちにはなかった確かな落ち着きがあった。
失われていた何かを取り戻し、今ここに立っているのだと。
今のくれあさんには、絶対的な自信を感じられる。
「………お待たせ」
初めて彼女がキュアエクレールだとわかったはずなのに。
まるでずっと待ち望んでいた人が帰ってきたような気がした。
……帰ってきたんだ。
私たちが探し続けていた、伝説のプリキュア。
この絶望的な状況を変えられるかもしれない存在が。
みのるが命懸けで繋いでくれた希望。
ポチタンが全力で取り返してくれたマコトジュエル。
その全てが今、くれあさんの手に託された。
まだ希望は残っていたんだ。
先代の名探偵プリキュア、キュアエクレール。
その帰還を私たちは今、目の当たりにした。