かわいいホームズの親友ちゃんは、相棒の座を奪われて焦心苦慮 作:くぁwせdrftgyふじこlp
【みのるSide】
暗く閉ざされていたフィールドの中には、いつの間にか外の世界と変わらない青空が広がっていた。
先ほどまで辺りを覆っていた不気味な闇はすっかり消え去り、頭上からは眩しい太陽の光が降り注いでいる。
そして、その青空の中心に立つくれあさんの前には、一つの輝くマコトジュエルが浮かんでいた。
それはまるで、長い間離れ離れになっていた本来の持ち主との再会を喜んでいるかのようだ。
やがてマコトジュエルはゆっくりとくれあさんの胸元へ近づき、そのまま吸い込まれるように彼女の心の中へと沈んでいく。
「全部………思い出した」
くれあさんの視線の先にいたのはるるかさん。
だけど、るるかさんは彼女に背を向けたまま、頑なに顔を合わせようとしない。
怒っているのだろうか。
それとも、悔やんでいるのだろうか。
背中しか見えない私には、彼女が今どんな表情を浮かべているのかわからなかった。
「るるか……」
くれあさんが静かにその名前を呼ぶ。
……私は、るるかさんの頼みを破った。
くれあさんの記憶を取り戻させないでほしい。
そう言われていたにもかかわらず、私は彼女の制止を振り切ってマコトジュエルを取り返したのだから。
きっと、恨まれているかもしれない。
るるかさんにとってくれあさんという存在は、ただの親友という言葉だけでは片づけられないほど大切な人なのだと思う。
だから彼女は記憶が戻ることをあれほど恐れていたのだろう。
……それでも私は、こうするしかなかった。
「ポ~チ~!」
「ポチタン!よくやったな!さすがお供妖精だ!」
「ポチ!」
今回のポチタンの活躍は本当に大きかったと思う。
届けようとしていた香水は途中で割れてしまったものの、それが結果的にくれあさんの記憶を呼び戻すきっかけとなった。
それだけじゃない。
マコトジュエルを取り返すことができたのも、ポチタンの協力があったからこそだ。
もしポチタンがいなかったら、今頃どうなっていたことか。
「おーい!みのる!!」
「ジェット先輩?」
ジェット先輩がこちらへ駆け寄ってくる。
だけど、その表情は先ほどまでの喜びとは打って変わって、どこか険しいものになっていた。
「お前大丈夫なのか!?あんな無茶なことして!何かあったらどうするんだ!!」
「ご、ごめんなさい……私に何かできるかなって思ったけど、危険すぎたよね…」
……まあ、怒られるのも当然だろう。
あのウソノワールを相手に、何の力も持たない私が囮になるなんて、普通に考えれば無謀にもほどがある。
一歩間違えれば命を落としていたかもしれないのだから。
「……だけど大したもんだ。普通は恐いはずなのにあんなに勇敢にウソノワールに立ち向かってマコトジュエルを取り返せたんだから。本当にお前はすごいよ」
「………」
叱られることは覚悟していたけれど、まさか褒められるなんて思ってもいなかった。
「まあボクが言いたいのは、もう少し自分を大切にしろ。それくらいだ」
「うん。あまり無理はしないようにする」
「まださっきのことで聞きたいことはあるが、今はやめておこう」
……聞きたいこと。
多分私が土壇場でプリキットライトを使ったことだろう。
あの時、私はみくるが落としたプリキットライトを使い、ウソノワールの攻撃を防いだ。
実を言うと、私自身にも詳しいことはわからない。
ただ必死だった、それだけは確かだ。
ジェット先輩も何か思うところがあるのだろうけれど、今はそれ以上追及してこなかった。
「あら、元気そうね。シュシュタン」
「マシュタン!久しぶりでシュ」
少し離れたところでは、マシュタンとシュシュタンが久しぶりの再会を喜んでいる。
二人とも嬉しそうに言葉を交わしていて、その様子を見ているだけでもようやく一つの危機を乗り越えられたのだと実感する。
だけど、誰もが喜んでいるわけではない。
くれあさんに背を向け続けるるるかさん。
記憶を取り戻したくれあさん。
そして、まだこのフィールドに残っている怪盗団ファントムの面々。
喜びと安堵、後悔と不安。
様々な感情が入り混じるこの場所には、どこか落ち着かない空気が漂っていた。
「あいつが……キュアエクレール!?」
驚愕の声を上げたのはニジー。
つい先ほどまで何の力も持たない一般人だったくれあさんが、まさかプリキュアだったなんて普通なら想像すらできないだろう。
だけど、そんなニジーとは対照的に、ゴウエモンは落ち着いた様子で口を開く。
「オレはなんとなくわかってたぜ。あの時もフィールドに入って来た見上げた根性だったからな」
ゴウエモンにとっては何気ない一言だったのかもしれない。
だけど、その言葉を聞いたニジーの表情が一変した。
「フィールドに入って来ただと!?なぜそれを早く言わない!?」
「「え?」」
どうやらニジーがそこまで驚く理由を理解していないらしい。
そんな反応に呆れたのか、ジャックも口を開く。
「え?……じゃなくて、フィールドがどんな特徴を持っているかぐらいわかるでしょ?」
……なるほど、そういうこと。
ファントムがフィールドと呼んでいるこの結界には、一般人を自由に立ち入らせない特徴がある。
くれあさんが当たり前のようにフィールドへ入ってきたこと自体、彼らにとっては異常な出来事だ。
「この異次元フィールドに入れるのは、我ら妖精か、妖精と共にいる者。もしくは妖精に招き入れられた者のみ。おそらく彼女が入れたのは、あの妖精がいたからさ!」
妖精と共にいる者。
例えば、ポチタンと行動を共にしているみくるやあんな。そして、マシュタンと行動しているるるかさんが該当する。
また、お供妖精がいない一般人であっても、妖精に直接招き入れられればフィールドへ入ることができるらしい。
以前にウソノワールが自身の能力を見せつけた時、何の関係もないカップルを瞬間移動させ、結界の中へ連れ込んだことがある。
あれも妖精によって招き入れられた例なのだろう。
そして、今回のくれあさんにはシュシュタンがずっと見守っていた。
つまり、フィールドに入れたこと自体は説明がつく。
「しかしウソノワール様もやつがフィールドに入ったのは百も承知。何も言わないなんてつれないぜ」
「誰がプリキュアだろうと興味ないっしょ。大王になればチョベリグ。マジ、誰も敵わないから」
ウソノワールはくれあさんがフィールドへ入ったことを知っているという。
それなのに、なぜ他の幹部たちへ情報を共有しなかったのだろう。
アゲセーヌの言う通り、大王になれば誰にも負けないという絶対的な自信があったから?
それとも、単純に重要視していなかっただけ?
……今となっては確かめようもないけれど。
「でもね……今話した内容に該当しない人物が一人いない?」
「「「……………」」」
その一言で周囲の空気が変わった。
ジャックの言葉を聞いて、私も口を閉ざす。
……わかっている。
彼女が何を言おうとしているのか、私には嫌というほど理解できた。
妖精ではない。
お供妖精もいない。
そして、妖精に直接招き入れられたわけでもない。
それなのに、何の問題もなくフィールドへ入ることができる人物が、この場には一人だけ存在している。
「花崎みのる」
「「「!!?」」」
……やっぱり。
私の名前が告げられた瞬間、周囲から驚きの気配が伝わってきた。
そう、私だ。
私は、このフィールドに入るための条件を一つとして満たしていない。
それなのに、初めて結界を目にした時からまるで当たり前のように中へ入ることができていた。
以前、るるかさんにも同じことを指摘された。
あの時も答えを出せなかったし、今だって何一つわかっていない。
どうして私だけが例外なのか。
私自身に、何か特別な理由があるのだろうか。
……いや、今ここでいくら考えたところで、答えが出るとは思えない。
この疑問については、また今度じっくり考えることにしよう。
何より、今はそれどころじゃないのだから。
「ヴオ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙!!!!!」
前方には依然として巨大な姿を保ったまま暴れ続けるウソノワールがいた。
くれあさんのマコトジュエルは取り返した。
だけど、肝心のウソノワールはまだ倒れていない。
「どうして大きいままなの!?」
「ウソノワールの中にマコトジュエルは無いのに!?」
普通なら力の源だったマコトジュエルを失えば、元の姿に戻ってもおかしくないはず。
それなのに、ウソノワールは一向に小さくなる気配を見せない。
「マコトジュエルの力を誤って使ったでシュ!だから暴れん坊になったままでシュ!」
つまり、マコトジュエルを取り返したからといって、すべてが解決するわけではないということか。
それほどまでに、キュアエクレールのマコトジュエルには強大な力が秘められていたのだろう。
真実と嘘という相反する力が衝突した結果、ウソノワールは自分自身ですら制御できないほど暴走してしまった。
だとすれば、あの巨大な姿を維持していることにも納得がいく。
……本当にとんでもない力だ。
「まったく……」
くれあさんが記憶を取り戻したことで、るるかさん自身も色々と思うところがあるはずだ。
だけど、今はそんな感情に向き合っている余裕すらない。
「みんなでウソノワールを!名探偵プリキュアの力で、止めるでシュ!」
まだ戦いは終わっていない。
くれあさんのマコトジュエルを取り戻せたことは、間違いなく大きな前進。
だけど、ウソノワールが暴れ続けている以上、この世界の危機は何一つ去っていない。
あの巨大な怪物を止めなければ、本当の意味での勝利にはならないのだから。
「「うん!!」」
みくるとあんなが迷いのない声で答え、しっかりと手を繋ぎ、もう片方の手をそれぞれのジュエルキュアウォッチへとかける。
そして二人の隣では、るるかさんも静かに立ち上がっていた。
ここからが、本当の決着なのだろう。
「「オープン!ジュエルキュアウォッチ!」」
「オープン、ティアアルカナロッド」
……本当にすごい人たちだ。
あれだけ激しい戦いを繰り広げ、何度も傷つき、倒れ、それでもなお立ち上がろうとしている。
体力だってもう限界を迎えているはずなのに。
それでも三人の瞳には、戦う意志がしっかりと宿っていた。
……私も何かできることを探したい。
そう思う気持ちはあるけれど正直なところ、これ以上私が無茶をするわけにもいかないだろう。
エクレールのマコトジュエルを無傷で取り返せただけでも、十分すぎるほどの成果だ。
さっきジェット先輩にも注意されたばかりだし、今は三人を信じて、この戦いの結末を見届けることにしよう。
「どんな謎でもはなまる解決!名探偵キュアアンサー!」
「重ねた推理で笑顔にジャンプ!名探偵キュアミスティック!」
「「名探偵プリキュア!!」」
「神秘と秘密で包み込む、キュアアルカナ・シャドウ」
三人の変身が完了する。
キュアアンサー、キュアミスティック、そしてキュアアルカナ・シャドウ。
再び戦場に立った三人を前にしても、巨大なウソノワールは一歩も退く様子を見せなかった。
……いよいよ、第二回戦の幕開けだ。
ウソノワールがゆっくりと巨大な掌を持ち上げる。
その中心に禍々しいエネルギーが集まり始め、瞬く間に圧縮されて一つの球体を形成した。
そして圧縮されたエネルギー弾が凄まじい速度で放たれる。
マコトジュエルを失ってなお、その威力は健在らしい。
「ミスティックリフレクション!!」
両手を構えたミスティックの前に光の障壁が展開され、迫り来るエネルギー弾を真正面から受け止める。
直後に爆発音が響いた。
衝撃波と爆風が周囲へ広がり、思わず腕で顔を覆う。
……だけど、爆風が晴れた先に見えたのは、傷一つついていない光の障壁。
ミスティックのバリアは、ウソノワールの攻撃を完全に防ぎきっていた。
「!?」
ウソノワールが一瞬だけ動揺したように見えた。
そのわずかな隙を、アルカナ・シャドウは見逃さない。
「アルカナスターレイン」
彼女の周囲に無数の光が現れ、次々とウソノワールへ向けて降り注ぐ。
流星群のような光の雨。
無数の攻撃が巨大な身体へ集中し、立て続けに爆発を起こした。
さらにその攻撃に続くようにアンサーが地面を蹴る。
「アンサーアタック!!」
勢いよく飛び出したアンサーが、ウソノワールへ向かって一直線に突撃。
しかしその攻撃が届く寸前、ウソノワールの巨大な腕がアンサーの突撃を真正面から受け止めた。
そのまま強引に振り払われ、アンサーの身体が後方へ弾き飛ばされる。
「ヴオ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙!!!」
「全然効いてない……!!」
あれだけの攻撃を受けてもまだこれほどの余力が残っているなんて。
マコトジュエルを奪還した以上、ウソノワールは確実に弱体化しているはずだ。
それなのに三人を相手にしてもなお互角に渡り合っている。
ミスティックの防御は通用する。
アルカナ・シャドウの攻撃も命中している。
だけど、肝心のウソノワールを倒すには至っていない。
このまま同じ状況が続けば、体力の限界が近い三人が再び窮地に陥ることは目に見えていた。
……どうすればいい?
………そう緊迫した時だった。
視界の端に柔らかな光が映り込む。
振り返った先にいたのは、帆羽くれあさん。
彼女の胸元にある香水のペンダントが、光を放っていた。
その光は少しずつ、確実に強くなっている。
目の前で繰り広げられている戦いに応えるかのように。
……これは、もしかして。
「くれあああぁぁぁ!!」
「!」
シュシュタンの声に、くれあさんが顔を上げる。
「今でシュ!変身するでシュ!くれあのきらめきを、魅せるでシュ!」
「……………」
くれあさんは何も答えず、ただ静かに胸元へ視線を落とした。
そこには、眩い光を放ち続ける香水のペンダント。
彼女はそれをじっと見つめていた。
失われていた記憶。
本来の持ち主の元へ戻ったマコトジュエル。
そして、再び手にした変身の力。
そのすべてを確かめるように、くれあさんはそっとペンダントを握りしめた。
……ああ、そうか。
ようやく、その時が来たんだ。
「うん、みんなを助けてウソを止める!」
くれあさんは地面を蹴り、高く跳び上がった。
青空へ向かって舞い上がる彼女。
そして、それと同時に一羽の鳥が大きく翼を広げ、天高く羽ばたいていく。
眩しい太陽の光の中で、くれあさんの握りしめたペンダントがひときわ強く輝いた。
「それが私の、きらめき!!」
その少女は長い眠りから覚め、失われた記憶と、かつて交わした約束を取り戻す。
忘れ去られた過去。
引き裂かれた絆。
そして、幾度となく運命に翻弄されながらも、決して消えることのなかった希望の光。
もう二度と失わない。
もう二度と、大切な人を一人にはしない。
その強き想いが奇跡を呼び、絶望に覆われた世界を眩い閃光が切り裂く。
今ここに、伝説は再び動き出す。
その名はキュアエクレール。
長き時を越え、雷光の戦士が今、再び戦場へと舞い戻る。
――飛べ、光の名探偵。
「オープン!トップオブリリーフレグランス!」
その声が響いた瞬間、世界が光に包まれた。
くれあさんの身体から溢れ出した鮮やかな輝きが、青空を幻想的な色彩へと染め上げていく。
まるで星々が瞬く夜空に一羽の蝶が迷い込んだかのようだった。
幾千もの光の粒子が彼女の周囲を漂い、淡い青色の軌跡を描きながら、ゆっくりと舞い踊る。
……綺麗だ。
光の中心で、くれあさんがそっと手を伸ばす。
その先に現れたのは、かつて闇に呑み込まれていたマコトジュエル。
奪われ、失われ、それでも決して消えることのなかった真実の輝き。
彼女がその結晶を掴み、閃光が辺りを照らし出した。
そして、マコトジュエルは吸い込まれるように、彼女の持つ香水――トップオブリリーフレグランスへと重なっていく。
真実の力が、今、本来の持ち主の元へと帰ってきたのだ。
「プリキュア、ウェイクアップタイム!」
くれあさんが香水の蓋を開け、ふわりと優しい風が吹き抜けた。
……百合の香り。
清らかで、どこか懐かしささえ感じさせるその芳香が、フィールド全体へと広がっていく。
一面に咲き誇る百合の花畑に立っているような、不思議な感覚だ。
「フローラルスピン!」
くれあさんの指先が、香水の中央にある花弁の装飾へと触れる。
それをゆっくりと回転させた瞬間、周囲を漂っていた光の粒子が一斉に輝きを増した。
……力が高まっている。
私にもはっきりとわかるほど、彼女の内側から強大な何かが溢れ出していた。
そして、くれあさんは静かに一歩を踏み出す。
その足元に現れたのは、鏡のように澄み渡る幻想的な水面。
爪先が触れるたびに小さな波紋が広がり、透き通った水滴が光を反射する。
水面の上を歩いているかのような軽やかなステップ。
一歩、また一歩。
水滴の落ちる心地よい音が旋律となり、彼女の動きに合わせて優しく響いていく。
やがて、くれあさんは片足の爪先を前へ伸ばし、華麗に身体を回転させた。
すべての動きが洗練されている。
柔らかく、しなやかで、それでいて芯の通った美しさ。
月明かりの下で踊る一人の舞姫を見ているようだ。
大きく腕を振ると、香水から放たれた無数の光の雫が空中へ上がる。
それらは星屑のようにきらめきながら、くれあさんの周囲を包み込んでいく。
そして彼女は、トップオブリリーフレグランスを胸の前へと構えた。
「ブルーム!」
再び花弁の装飾が回転する。
くれあさんの髪が大きく姿を変え始めた。
それまでの青色が、透明感のある緑がかった水色へと変化していく。
長く伸びた髪は高い位置でポニーテールにまとめられ、途中から二つに分かれた毛束が、美しい螺旋を描くようにドリル状へと形を変えた。
その毛先には柔らかなカールが施され、水色から黄緑へと移り変わる鮮やかなグラデーションが浮かび上がる。
澄み切った海の青と、若葉の緑が溶け合ったかのような色彩。
さらに、四芒星の小さな飾りが髪全体へ散りばめられ、動くたびに星々のような輝きを放っていた。
……なんて幻想的なんだろう。
彼女の身体を包む光が花弁のように開き、鮮やかなターコイズ色の衣装が姿を現す。
お腹が覗くセパレートタイプの衣装。
左右で長さの異なるアシンメトリーのスカートが、風を受けて優雅に靡いている。
背中にはプリキュアを象徴する大きなリボンが結ばれ、その姿をいっそう華やかに彩っていた。
くれあさんが両手を胸の前で交差させる。
薄紫色の光が指先から広がり、柔らかなフィンガーレスグローブへと変わっていった。
蝶が羽ばたくように大きく両腕を広げ、その動きに合わせて足元にも光が集まり、可憐なパンプスが形作られた。
さらに左脚だけを覆うオーバーニーソックスが現れ、左右非対称の美しい装いが完成していく。
耳元にはオレンジ色の宝石が輝くピアス。
頭には、蝶の羽を思わせる装飾が施された青色のミニハット。
そして胸元には、鮮やかな水色のネクタイが添えられた。
一つひとつの装飾が光の中から生まれ、最初からそこにあるべきだったかのように、彼女の姿へと溶け込んでいく。
最後にくれあさんが香水の蓋をそっと閉じた。
その小さな音とともに、周囲を舞っていた光の粒子が一斉に弾ける。
光の中から現れた彼女の瞳は、明るく澄んだオレンジ色に輝いていた。
その瞳の奥には、小さなハートの形をしたハイライトが浮かんでいる。
可愛らしさと美しさ。
その二つを併せ持つ姿は、幻想の世界から舞い降りた踊り子のように。
そして、くれあさんは最後の一歩を踏み出した。
爪先が水面に触れ、大きな波紋が広がる。
片腕をしなやかに伸ばし、身体を大きく回転させる。
靡くスカート。
風に揺れる長い髪。
蝶の羽ばたきを思わせる動きとともに、彼女は堂々とその姿を披露した。
「解き放て!内なる真実の香り!名探偵キュアエクレール!」
青く澄み渡る空の下、百合の香りが優しく広がり、星屑のような輝きが彼女の周囲へ降り注ぐ。
私はただ、目の前の光景に圧倒されていた。
……これが………これが、キュアエクレール。
かつて失われた真実の光。
長い眠りの果てに、再び目覚めた一人の少女。
奪われた力を取り戻し、忘れていた記憶を取り戻し、そして今、再びこの世界へと戻ってきた。
その姿は、誰よりも美しく、誰よりも眩しかった。
彼女は今、ついに復活を果たしたのだ。
「私の答え、示しましょう」
……美しい。
思わずそんな言葉が頭に浮かんだ。
鮮やかな水色の髪を風になびかせ、堂々と立つその姿には、息を呑んでしまうほどの存在感があった。
どんな嘘も容易く払いのけてしまうような、絶対的な真実の輝き。
ずっとみくるたちが探し求めていた名探偵プリキュアが今、私たちの目の前に立っている。
だけど、私たちはまだ知らなかった。
彼女がどれほど恐ろしい力を秘めているのかを。
エクレールはゆっくりと顔を上げ、正面に立つ巨大なウソノワールを見据えた。
そして………
――ドガァッ!!
エクレールが地面を蹴った。
いや、蹴ったなんて生易しいものじゃない。
彼女が踏み込んだ場所を中心に地面が粉砕され、瓦礫が小さく跳ねた。
「!?」
……速い!!
戦闘機が至近距離を通過したかのような轟音とともに、エクレールの姿が一瞬で私たちの頭上を通り過ぎた。
視線で追うことすら難しい。
彼女が残した水色の軌跡だけが、辛うじてその動きを教えてくれる。
そして、次に姿を捉えた時には、すでにウソノワールの懐へ潜り込んでいた。
巨大な身体の鳩尾を目掛けて、エクレールが片足を鋭く突き出す。
――ズドオオオォォォォン!!
空気そのものが破裂したかと思うほどの衝撃。
直後、ウソノワールの巨体が大きく折れ曲がった。
「グ……ゥゥォォ!?」
苦痛に満ちたうめき声が響く。
あれほど巨大なウソノワールの身体が、紙切れのように後方へ吹き飛ばされた。
その勢いは一向に衰えず、背後のランドマコトタワーへと激突。
轟音、そして崩壊。
巨大なビルですら衝撃に耐えきれず、ウソノワールの巨体もろとも崩れ落ちていく。
砕け散る外壁。
折れ曲がる鉄骨。
次々と地面へ落下していく瓦礫。
ウソノワールは、その残骸を巻き込みながら地面へ叩きつけられた。
激しい振動が足元を揺らし、巻き上がった砂埃が周囲の景色を真っ白に染め上げる。
……な、何が起きたの?
いや、何が起きたのかはわかっている。
エクレールがウソノワールを蹴り飛ばした。
ただ、それだけだ。
……たった、それだけなのに。
三人がかりでも倒せなかった相手を、彼女はたった一撃で捩じ伏せてしまった。
……冗談じゃない。
いくらプリキュアだからって、こんなの規格外にもほどがある。
砂埃の向こうから、軽やかな着地音が聞こえてきた。
彼女は何事もなかったかのように地面へ降り立ち、その表情には疲れた様子など微塵もない。
……強すぎる。
その背中を見ているだけで、もはや彼女を脅かせる敵など存在しないのではないかとさえ思えてしまう。
「これが………名探偵、キュアエクレール!」
その場にいた誰もが、目の前で起きた光景に言葉を失っていた。
「やっぱり、こうなってしまうのね………」
るるかさんだけは、どこか諦めにも似た声を漏らしていた。
その言い方だと、まるでこうなることを最初から知っていたみたいだけど。
「やったぞ!」
「エクレールポチ!」
「シュシュ~!記念すべき2回目の変身でシュ!」
……え?
今、すごいことを言わなかった?
「ポチ?」
「2回目??」
今の変身が、まだたった2回目!?
あれだけの強さを見せつけておいて、まだ2回しか変身したことがないっていうの?
そんなことある?
みくるもあんなも、これまで何度も戦いを重ねて少しずつ強くなってきた。
それなのに、エクレールはたった2回目の変身で、あのウソノワールを一撃で吹き飛ばしたのだ。
……一体どうなってるんだか。
考えると熱が出そうになる。
体質の問題なのか、プリキュアに向いているとか、そういう類の問題ではなさそう。
「心配ないでシュ!だってキュアエクレールは、最強の名探偵でシュ!」
……最強の名探偵。
確かに今の一撃を見せられた後では、否定する理由なんて一つも見つからない。
だけどまだ終わらない。
崩壊したランドマコトタワーの残骸が、大きく動く。
瓦礫を押しのけながら、ウソノワールが再び立ち上がった。
その全身の毛は逆立ち、怒りを露わにしている。
まだ戦うつもりなのか。
あれほどの一撃を受けてもなお立ち上がれるなんて、ウソノワールの耐久力も相当なものだ。
けれど、先ほどまでとは決定的に違うことがある。
戦況が完全にひっくり返っている。
あれだけ絶望的だった状況が、エクレールたった一人の存在によって悉く覆されてしまった。
「ミスティック!」
「ええ!私たちも!」
アンサーとミスティックが加勢しようとしたが、アルカナ・シャドウがロッドを横に向けて制止した。
「必要ない」
「でも!」
いくらエクレールが強いとはいえ、相手はウソノワールだ。
三人も加勢した方が確実に勝利の確率は上がると思う。
……だけど
「大丈夫!私強いから!」
「「……………」」
あまりにもあっけらかんとした言い方。
強いのはわかったけど、そんなに簡単に言い切ってしまっていいのだろうか。
「私の力は、こんなもんじゃない」
しかもさっきの一撃ですらまだ全力じゃなかったらしい。
そう言うとエクレールは静かに右目を閉じる。
……何をするつもりなんだろう。
そしてウソノワールも黙ってはいなかった。
巨大な両腕を持ち上げ、掌へありったけのエネルギーを集中させ始める。
次々と生み出される光の塊。
それらは無数の光線へと変化し、一斉にエクレールへ向けて放たれた。
数が多すぎる。
空を埋め尽くすほどのレーザーが高速で迫ってくる。
あれほど大量の攻撃を同時に放たれれば、いくら素早く動けたとしても、すべてを避けきるなんて不可能だ。
……そう。
普通なら不可能なはずだ。
キュアエクレール以外なら。
「きらめきタイム!」
その声と共に、彼女が閉じていた右目を開く。
そこにあったのは、先ほどまでの明るいオレンジ色の瞳ではなかった。
宇宙の深淵を映し出したかのような、鮮やかな群青色。
その瞳の中心には星型の瞳孔が浮かび上がり、無数の星々が瞬くような神秘的な輝きを放っていた。
まさにその名の通りのきらめき。
けれど、その美しさの奥には、何か底知れない力が秘められているように感じられた。
そしてエクレールは地面を蹴り、再び上空へと舞い上がった。
それを追うように、無数のレーザーが一斉に軌道を変える。
逃げ道を塞ぐように迫る大量のレーザー。
ウソノワールの両掌から放たれた光線は、獲物を追い詰める猟犬のように、上空を舞うエクレールへと殺到していく。
一筋、二筋、十筋。
いや、そんな数では済まない。
数え切れないほどの光線が複雑な軌道を描きながら、四方八方から彼女へ襲いかかっていた。
どれだけ距離を取ろうとも、どれだけ方向を変えようとも、光線は執拗に彼女の姿を追い続ける。
だけど、エクレールは少しも動じていない。
最初の一撃が迫った瞬間、彼女は空中で身体をわずかに傾けた。
その頬を掠めるように、眩い閃光が通り過ぎる。
続けざまに左右から二本の光線が迫ると、今度は身体を捻りながら宙返り。
交差する光線のわずかな隙間を、針の穴に糸を通すような正確さですり抜けた。
エクレールの背後から十数本もの光線が殺到する。
彼女は振り返ることすらせず、空中で急激に高度を落とした。
さっきまで彼女がいた場所を光線の群れが貫く。
さらに地面すれすれまで急降下したかと思えば、今度は直角に近い軌道で上昇。
めちゃくちゃな方向転換に私は目を疑った。
どういう身体能力をしているのか??
普通ならあんな動きをしただけで身体が悲鳴を上げてもおかしくない。
なのにエクレールの動きには一切の無駄がなかった。
水色の長い髪が風を切り、背中の大きなリボンが鮮やかな軌跡を描く。
無数の流星が降り注ぐ夜空を、一羽の蝶が自由気ままに舞っているような姿。
左右から迫る光線。
真下から突き上げる光線。
頭上から降り注ぐ光線。
すべてが複雑に交差し、エクレールの逃げ道を次々と塞いでいった。
完全に包囲されている。
そう思ったがエクレールはさらに意味不明な軌道を描く。
エクレールの身体がふっと消えた。
正確には速すぎたせいで、私の目が追いつかなかっただけだ。
次に彼女の姿を捉えた時には、すでに光線の包囲網を突破し、遥か上空へと上がっていた。
その後、行き場を失った光線同士が激突する。
空中に巨大な火球が生まれ、衝撃波が青空を震わせた。
けれどエクレールは振り返らない。
爆炎を背に、さらに加速する。
彼女は上空を一直線に駆け抜けたかと思えば、突然身体を反転させ、追ってくる光線の群れへ真正面から突っ込んでいった。
……自分から攻撃に向かっていくなんて。
だけど私はさらに信じられない光景を目にすることになる。
エクレールは迫り来る光線の一本一本を、最初から軌道を知っていたかのように避け始めたのだ。
首を傾け、肩を引き、身体を捻る。
右へ半身を滑らせた直後、左足を大きく振り上げ、頭上を通過する光線を回避。
さらに身体を横倒しにして二本の光線の間をすり抜け、その勢いのまま空中で三回転。
一瞬でも判断を誤れば、間違いなく直撃する。
そんな極限の状況を、彼女は何事もないかのように突破していく。
いくら反射神経が優れていたとしても、こんなことができるはずがない。
あの光線はただ真っ直ぐ飛んでいるわけじゃない。
エクレールの動きに合わせて、絶えず軌道を変えているのだ。
それなのに彼女は一度たりとも避ける方向を間違えない。
……あの群青色の瞳。
あの瞳が、エクレールの身体能力にさらにブーストをかけているのだろうか?
そう考えている間にも、空中の攻防はさらに激しさを増していた。
エクレールが急旋回する。
その背後を追尾していた光線が、大きな弧を描きながら方向を変える。
彼女は突然速度を落とし、迫ってきた光線が目前に到達する寸前、真横へと跳ねるように移動した。
一瞬の静止。
そして爆発的な加速。
追尾しきれなかった光線が次々と交差し、彼女の背後で光を散らす。
さらにエクレールは、空中で身体を逆さまにしたまま急降下。
地面へ激突する寸前で身体を起こし、水面を滑る鳥のように低空を駆け抜けた。
その後に追ってきた無数の光線が地面へ突き刺さる。
轟音とともに土砂が噴き上がり、連続する爆発が地表を抉っていく。
地面すれすれを飛行しながら、左右へ細かく身体を揺らし、次々と迫る光線を紙一重で回避していく。
そしてまたエクレールは身体を大きく反らし、空へ向かって急上昇した。
その後を追うように、無数の光線が一斉に天高く伸びていく。
青空に幾重もの光の螺旋が描かれた。
彼女はその中心を踊るように駆け抜けていく。
一回転
二回転
さらに身体を捻り、迫り来る閃光の隙間を縫うように飛び続ける。
その動きは、もはや戦闘というよりも一つの舞踏だった。
無数の光線が織りなす、死の舞台。
その中心で、エクレールだけが自由に踊っている。
……信じられない。
あれほどの攻撃を受けながら、彼女の衣装には傷一つついていない。
髪の毛一本、掠められてすらいないのだ。
やがてエクレールは空中で大きく弧を描き、追尾してきた光線の群れを一か所へと誘導。
そして、光線が目前まで迫った瞬間。
彼女は身体を鋭く捻り、垂直に跳ね上がった。
直後、無数の光線が一点で交差する。
――ドガアアアァァァァン!!
空を揺るがすほどの大爆発。
巨大な爆炎が広がり、光が視界を覆い尽くした。
だけど、その爆炎の遥か上空には、一人の少女が悠然と浮かんでいる。
鮮やかな水色の髪を風になびかせ、群青色に輝く右目で眼下を見つめている。
これは単に速いとか、反射神経が優れているとか、そんな次元の話じゃない。
攻撃が届く場所には、最初から彼女がいない。
無数の光線がどれほど複雑な軌道を描こうとも、エクレールはそのすべてを見透かしたように回避してしまう。
……これが、最強の名探偵。
私は改めて、その言葉の意味を思い知らされていた。
「あの時の力……やっぱり……!」
……あの時の力?
アルカナ・シャドウの口から漏れた言葉に思わず反応した。
その言い方からして、るるかさんはエクレールのあの不思議な力について、何か知っているのかもしれない。
だけど、今はそれを確かめている余裕なんてなかった。
なぜなら、私の視線はすでにエクレールへと釘づけになっていたのだから。
エクレールの全身から眩い光が溢れ出す。
ターコイズ色の衣装を包み込むように、無数の光の粒子が集まっていく。
その輝きは彼女の全身を覆い尽くし、一筋の光の帯となって空へと伸び始めた。
……まだ速くなるつもりなの?
その瞬間にエクレールの身体が一気に加速。
風切り音が響き、彼女の通過した空間に光の軌跡が残される。
その後を追うように、ウソノワールの放った無数の光線が一斉に方向を変えた。
だけど、もう追いつけない。
エクレールは右へ、左へと鋭く回りながら光線の隙間を縫うように飛び続ける。
背後から迫る光線を身体を捻って躱し、正面から飛来する閃光を紙一重で避ける。
大きく宙返りすると、その勢いのまま垂直に上昇。
光線の群れが彼女の後を追って空を駆け上がるものの、エクレールはそれすら振り切るように、さらに速度を上げていった。
もう私の目ではその姿をはっきりと捉えることさえできない。
ただ青空に刻まれていく幾重もの光の軌道だけが、彼女の居場所を教えてくれていた。
エクレールは空の彼方へと飛んでいく。
天へと昇る一筋の流星。
無数の光線を置き去りにしながら、彼女の輝きはますます強くなっていった。
「……輝いてる!」
「きらめき……!」
眩しい。
太陽に負けないほどの輝きが空いっぱいに広がり、目が眩む。
それなのに、不思議と目を逸らすことができなかった。
あの光をずっと見ていたい。
そう思わせるほど、エクレールの姿は美しかった。
青空を駆け抜ける光の蝶。
その軌跡は、夜空に流れる天の川を昼間の世界へ連れてきたかのようだった。
「ポチポチ……!」
「まるで……閃光だ!!」
……閃光
これほど彼女を表すのにふさわしい言葉はないだろう。
眩く、鮮烈で、そして何よりも速い。
その姿は美しく舞う蝶のようでありながら、ひとたび攻撃へ転じれば、どんな敵であろうと容赦なく貫く鋭さを秘めている。
「蝶のように舞い……蜂のように刺す……」
そんな言葉が口から漏れた。
……すると遥か上空で輝いていたエクレールの動きが、ぴたりと変わった。
先ほどまで天へ向かって飛んでいた彼女が、今度は地上へと身体を向けたのだ。
その先には巨大なウソノワールがいる。
エクレールは空中で身体を反転させ、一直線に急降下を始めた。
全身を包む光が、さらに強く輝く。
風を切り裂き、空気を押しのけ、重力さえ味方につけるように、その速度はみるみる増していった。
速いなんてものじゃない。
まるで空から巨大な流星が落ちてくるようだ。
彼女の背後には長い光の尾が伸び、空気との摩擦で生まれたかのような輝きが周囲へ広がっていく。
ウソノワールもその接近に気づいたのだろう。
だけどもう遅い。
エクレールは降下しながら身体を大きく捻り、片足を鋭く突き出した。
その爪先に、全身を包んでいた光が収束していく。
……来る!!
私は反射的に身構えた。
――ズドオオオオォォォォン!!!
再び凄まじい衝撃がフィールド全体を震わせた。
エクレールの蹴りが、ウソノワールの巨体へと叩き込まれる。
上空からの急降下によって生み出された勢いが、そのまま一撃へと変わる。
衝突した瞬間、空気が爆発したかのような衝撃波が四方八方へ広がり、地面に幾重もの亀裂が走った。
その威力は、先ほどの蹴りを遥かに上回っていた。
ウソノワールの巨体が大きくのけ反り、後方へ吹き飛ばされる。
「グオオッ!!?」
巨大な身体が地面を削りながら後退し、巻き上がった土砂が周囲へ飛び散る。
……なんて威力。
あれほど恐ろしかったウソノワールが、今ではエクレールの攻撃を受け止めることさえできていない。
ただ一方的に圧倒されている。
……だけどその時、私は妙な感覚を覚えた。
(……?)
ほんの一瞬だった。
ウソノワールへ蹴りを叩き込んだ瞬間、エクレールの右目が視界に映ったのだ。
宇宙のような群青色。
その中心に浮かぶ、星型の瞳孔。
先ほどまでは、ただ美しいとしか思わなかった瞳。
けれど、その一瞬だけ。
……何だろう。
背筋を冷たいものが撫でたような、不思議な感覚があった。
あの瞳の奥に、何か得体の知れないものが潜んでいるような。
そんな、ほんのわずかな不気味さ。
……いや、気のせいだろう。
あれだけ凄まじい戦いを目の当たりにしているのだから、私も少し神経が過敏になっているのかもしれない。
「か、かっこいい!!」
「はなまる素敵!」
彼女は空中で軽やかに身体を回転させると、ふわりと地面へ降り立った。
先ほどまでの空中戦が嘘だったかのような、静かな着地。
水色の長い髪が遅れて揺れ、背中の大きなリボンが柔らかく風に吹かれる。
……静かだ。
あれほど激しく響いていた爆音も、空気を切り裂く風切り音も、今は聞こえない。
青空の下、静かに佇むキュアエクレール。
その姿を前にして、私たちはただ息を呑むことしかできない。
やがて、戦場には一時の静寂が訪れた。