かわいいホームズの親友ちゃんは、相棒の座を奪われて焦心苦慮   作:くぁwせdrftgyふじこlp

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叛逆

【ジャックSide】

 

劇場全体を漂う重苦しい沈黙。

 

この場所には絶対的な支配者として君臨するウソノワール様の威厳が満ちていた。

けれど今、その威圧感は見る影もない。

 

私たち怪盗団ファントムがあれほど追い求めていた勝利。

それが目前で崩れ去ったのだから、当然といえば当然なのかもしれない。

敗北という現実が、劇場全体に悲壮な空気を漂わせていた。

 

「プ……プリキュアめ!見てるがいい……私にはまだ未来自由の書がある……!」

 

その声には、怒りと屈辱が滲んでいた。

 

まだ終わったわけじゃない。

私たちには未来自由の書がある。

あの書物に記された未来さえ実現できれば、今回の敗北だって取り返せるはずだ。

 

「ええ、そうですとも!ウソノワール様が開発なされた異次元を展開するフィールドに、ハンニンダーもあります!」

 

ニジーの言う通り、私たちにはまだ戦うための手段が残されている。

 

異次元を展開するフィールドも、ハンニンダーも、ウソノワール様が生み出したものだ。

その力がある限り、怪盗団ファントムが完全に敗北したとは言えない。

 

何より、私はまだ納得していない。

あのプリキュアたちにここまで好き勝手にされて終わるなんて。

そんな結末、認められるはずがない。

 

「私が必ずウソノワール様の仇を討ちます。こんな仕打ち、許されるはずがありません!」

 

「大王になるっしょ!」

 

そう、ウソノワール様は大王になる。

未来自由の書に記された未来がある限り、その結末は変わらないはずだ。

 

少なくとも、この場にいる誰もがそう信じていた。

 

――その時だった。

 

「無理」

 

「「「「「!?」」」」」

 

突然、劇場に響く冷たい声。

あまりにも唐突で、あまりにも場違いな一言だった。

 

私たちは一斉に声のした方向へ視線を向ける。

 

そこは、劇場の最も奥まった場所。

これまでウソノワール様が座り続けていた、あの玉座。

今は誰も座っていないはずの場所。

 

しかし、暗闇に沈んでいた玉座へ三つのスポットライトが同時に降り注いだ。

光が玉座の中央を照らし出し、そこに座る一人の人物の姿を浮かび上がらせる。

 

……何をしているの、あの女。

 

「な!?アルカナ・シャドウ!?」

 

そこにいたのは、森亜るるか。

怪盗団ファントムの一員として活動しながら、私たちを裏切り、プリキュア側についた女。

 

キュアアルカナ・シャドウとマシュタンだ。

しかもよりによってウソノワール様の玉座に腰を下ろしている。

 

自分こそがこの劇場の支配者であるかのように。

その堂々とした態度に、私の中で何かが音を立てて軋んだ。

 

「あなた、誰の許可を得て玉座に座ってるの?」

 

問いかけながら、私は彼女を睨みつける。

けれど、るるかは私の言葉など聞こえていないかのように、ウソノワール様だけを見ていた。

 

その表情に動揺はない。

裏切り者として再びこの場所へ足を踏み入れたというのに、恐怖も後ろめたさも感じられなかった。

 

むしろ何もかも見透かしているような、妙な落ち着きさえ漂わせている。

 

「ウソノワール。あなたは、大きな間違いを3つしている」

 

「何……?」

 

……三つの間違い?

 

彼女はウソノワール様の問いにすぐには答えず、玉座に座ったまま静かに言葉を続けた。

 

「一つ目の間違い」

 

彼女を照らしていた三つのスポットライトのうち、一つが消えた。

光が一つ失われ、玉座の周囲に影が広がる。

 

これから何かの判決でも下すかのような演出だった。

 

「キュアエクレールのマコトジュエルを使ったこと。あの力は、あなたでは扱いきれない」

 

「………」

 

……確かにキュアエクレールのマコトジュエルを取り込んだ結果、ウソノワール様は暴走した。

あの力が尋常ではないことくらい、私だって理解している。

 

けれど、それを今さら指摘して何になるというのだろう。

まさかそれだけのためにわざわざ戻ってきたわけじゃないでしょうね。

 

「二つ目の間違い」

 

再びスポットライトが一つ消えた。

残された光は、あと一つ。

 

薄暗くなった劇場の中で、彼女の姿だけが不気味なほど鮮明に浮かび上がっている。

 

そして次に告げられた言葉は、あまりにも予想外のものだった。

 

「未来自由の書を読み違えたこと。あなたは大王じゃない」

 

「残念ね!あなたじゃないの」

 

未来自由の書を、読み違えた?

ウソノワール様が大王ではない?

 

そんなはずがない。

私たちはこれまで、あの書物に記された未来を実現するために行動してきた。

 

その未来そのものが間違っているとでも言いたいのだろうか。

 

……何なのこの二人。

その態度がどうしようもなく気に入らない。

 

「何を言い出すかと思えば!!」

 

「てかあんた!!プリキュアに味方しながらよく戻って来たし!!」

 

突然現れて、ウソノワール様の玉座を勝手に占領し、挙げ句の果てには未来自由の書の解釈まで否定する。

 

あまりにも無礼で、あまりにも傲慢だ。

私たちを裏切り、敵に味方した人間がどうしてこんなにも平然としていられるのだろう。

 

あの玉座に座ったまま私たちを見下ろしている。

 

……いい加減にしてほしい。

私の中で、苛立ちが明確な殺意へと変わっていく。

 

今ここで彼女を排除することなんて、私にとっては選択肢の一つにすぎない。

 

それなのに、どうしてそこまで余裕でいられるの?

 

「これ以上私たちに舐めた態度を取るのなら、今ここで殺してあげてもいいんだけど?」

 

「私はあの子たちを利用しただけ。キュアエクレールのマコトジュエルを手に入れるために」

 

……利用しただけ、ね。

彼女がプリキュアたちに協力した理由がキュアエクレールのマコトジュエルにあることくらい、私たちも知っている。

 

そもそも、あの女が怪盗団ファントムに加わったのだって、ウソノワール様が所有する特別なマコトジュエルが目的だったはずだ。

 

だから理解できない。

目的のものを手に入れたのなら、どうしてわざわざここへ戻ってきたのだろう。

 

「手に入れたのなら、ここにいる理由はないだろ?」

 

「………」

 

ニジーの問いに、るるかは答えなかった。

その沈黙が引っかかる。

 

「キュアエクレールのマコトジュエルという弱みを握られたキミは、今までウソノワール様の命令に従っていた。それが戻った今、ここにいる理由はない。そうだろ?ベイビー」

 

ウソノワール様がキュアエクレールのマコトジュエルを所有していたからこそ、るるかは私たちに従っていた。

 

それを取り戻した今、彼女を縛りつけるものは何もない。

プリキュアたちに味方した裏切り者が、今さら私たちの仲間に戻れるはずもない。

 

だったら、この場所にいる意味なんてないはず。

そう考えていた私の耳に、今度はマシュタンの声が届いた。

 

「あなたが言ったこと、半分正解だけど半分間違い。ね、るるか?」

 

……半分間違い?

何が間違っているというのだろう。

 

ニジーの説明におかしなところなんてなかったはずだ。

しかし、るるかはマシュタンの言葉に静かに頷いた。

 

「うん。それが三つ目の間違い」

 

――パチン

 

彼女を照らしていた最後のスポットライトが消えた。

三つあった光は、これで全て失われた。

 

玉座は完全な暗闇に包まれ、そこに座っていたるるかの姿も見えなくなる。

 

一つ目は、キュアエクレールのマコトジュエルを使ったこと。

 

二つ目は、未来自由の書を読み違えたこと。

 

そして、三つ目は?

 

「確かにウソノワール。あなたに近づいたのは、エクレールのマコトジュエルを手に入れるため」

 

「………」

 

ウソノワール様は何も答えない。

 

「でも、彼女を元に戻そうとしたんじゃない」

 

「「「「……?」」」」

 

……は?

キュアエクレールを元に戻すためではない?

 

それなら、どうして彼女はあれほどマコトジュエルに執着していたのだろう。

 

失われた記憶を取り戻すため。

かつての相棒を、もう一度自分の隣に立たせるため。

そう考えるのが自然だったはずだ。

 

なのに、彼女はそれを否定した。

 

「手に入れて……『砕こうとしていた』」

 

「なん………だと!?」

 

なるほど………私には彼女の言葉の意味が理解できた。

 

キュアエクレールのマコトジュエル。

それは、彼女がプリキュアとしての力を取り戻すために必要なもの。

 

そして、失われた記憶にも深く関わっているもの。

つまり、それを破壊してしまえば……。

 

「エクレールの記憶を戻すわけじゃなく、永久に失わせることがあなたの本当の目的だったわけだね」

 

彼女は最初から、キュアエクレールの復活なんて望んでいない。

 

むしろその逆。

かつての相棒がプリキュアだったことも、共に戦った記憶も、何もかも取り戻させないために行動していた。

だからマコトジュエルを手に入れようとしていたんだ。

 

……随分と歪んだ愛情だね。

 

そんなことを考えていたら、暗闇に包まれていた玉座から、突如として光が溢れ出す。

 

「……!」

 

光は瞬く間に広がり、劇場の闇を押し退けていく。

そして、その中心に浮かび上がったのは、一人の少女の姿。

 

先ほどまで玉座に腰を下ろしていた森亜るるか。

しかし、今そこに立っているのは、怪盗団ファントムにいた頃のキュアアルカナ・シャドウ。

 

その手にはティアアルカナロッドが握られていた。

彼女は玉座の前に堂々と立ち、迷うことなくそのロッドの先端を私たちへ向ける。

 

「………!」

 

「くっ………」

 

……へえ、私たちに叛逆だなんて、いい度胸してるじゃん。

自分が今、誰に刃を向けているのかわかっているのだろうか。

 

彼女のその瞳には、決意と呼ぶにはあまりにも冷たい何かが宿っている。

 

「いい?名探偵プリキュアを、キュアエクレールを倒すの。そうしないと私たちに………」

 

彼女の言葉に私はわずかな違和感を覚えた。

 

名探偵プリキュアを倒す。

キュアエクレールを倒す。

それ自体は、私たち怪盗団ファントムが行っていることと変わらない。

 

けれど、彼女が口にしたその言葉は、これまで私たちが掲げてきた目的とはどこか違って聞こえた。

 

……冷たい。

その瞳は凍りついているかのようだ。

 

かつて名探偵プリキュアと敵対していた頃の彼女には、まだ何かを守ろうとする意思があった。

どれほど冷静に振る舞っていても、その行動の根底には、キュアエクレールという存在があったはずだ。

 

けれど、今は違う。

目の前に立っている少女からは、そんな雰囲気すら感じられない。

 

ただ、目的を達成するためなら何もかも切り捨てる。

そんな冷酷さだけが宿っている。

 

そして、彼女は告げた。

 

「未来はない」

 

相棒を取り戻すために戦っていた少女は、今やその相棒を倒すことさえ口にしている。

記憶を取り戻してほしくないから、マコトジュエルを砕こうとした。

 

………でも、それはなぜ?

 

あれほど大切にしていた人物を、自らの手で排除しようとするなんて。

守りたいものがあるから戦うのではなく、守りたいものを失わないために、その存在自体を否定する。

 

そこまでして、あなたは一体何を守ろうとしているの?

 

……本当に地に堕ちたね、キュアアルカナ・シャドウ。

 

 

_______________

 

 

 

その夜。

 

静まり返った劇場には、夕方の騒々しさなど微塵も残っていない。

 

激しい口論が繰り広げられたというのに、今は物音一つしない。

薄暗い空間に漂う冷たい空気が肌にまとわりつく。

 

私は一人、劇場の奥へと足を進めていた。

向かう先は、ウソノワール様のいる場所。

 

……どうしても、確かめておきたいことがあった。

 

以前から抱いていた疑問。

それが今日の出来事によって、ますます大きくなってしまったのだ。

 

特に花崎みのる。

あの少女の存在が、どうしても頭から離れない。

 

普通の人間であるはずなのに、普通では考えられない行動を何度も見せてきた。

 

それに、私自身の失われた記憶も。

考えれば考えるほど、何かが繋がっているような気がしてならなかった。

 

やがて、目的の場所へと辿り着く。

薄闇の向こうに、その姿があった。

 

「ウソノワール様………」

 

「ジャックか」

 

こちらを振り向くことなく、ウソノワール様は私の存在に気づいた。

その落ち着いた声を聞いて、私は一瞬言葉を詰まらせる。

 

本当に聞いてしまっていいのだろうか。

もし、私が知ろうとしていることが、決して触れてはいけない真実だったとしたら。

 

……いや、ここまで来て引き返すわけにはいかない。

私は意を決して口を開いた。

 

「……ウソノワール様は、どこまでご存知なんですか?」

 

「……………」

 

返事はなかった。

けれど、その沈黙だけで十分だった。

 

ウソノワール様は私が何を尋ねようとしているのか、ある程度察しているのだろう。

 

「私たちの本当の目的や、どうして私が記憶を思い出せないのかも、知っているんですよね?花崎みのるの正体も」

 

私たちの本当の目的。

失われた私自身の記憶。

花崎みのるの正体。

 

どれも、今の私には答えを出せない疑問ばかりだ。

それなのに、不思議と無関係だとは思えない。

 

見えない糸で全てが繋がっているような感覚。

その糸の先に何があるのか、私はどうしても知りたかった。

 

「ああ、知っている」

 

あまりにあっさりとした肯定。

予想していなかったわけじゃない。

 

けれど実際に本人の口から認められると、胸の奥に別の感情が湧き上がってくる。

 

知っているのなら、どうして今まで何も教えてくれなかったのだろう。

私はその疑問を抑えながら、まずは今日の出来事について尋ねることにした。

 

「みのるのあの行動。さすがに普通の人間だとは思えません。フィールドに入れますし、あの子はプリキュアが使う道具を使ったんですよ?」

 

思い返すだけでも異常だった。

 

一般人が立ち入ることのできないはずのフィールド。

それなのに、あの少女は当たり前のようにその中へ入れる。

 

しかもそれだけじゃない。

プリキュアが使用する道具を、自らの意思で扱ってみせたのだ。

普通の人間にそんなことができるはずがない。

 

花崎みのる

一見すれば、どこにでもいる普通の中学生。

 

けれど、彼女の内側には、私たちが知らない何かが眠っている。

そう考えなければ辻褄が合わない。

 

「それも想定内だ。あいつは自覚をしていないが、それくらいのことはもうできるだろう」

 

……想定内?

あの行動すら、ウソノワール様にとっては予想の範囲内だったというの?

 

しかも今の言い方。

それくらいのことは、もうできる………花崎みのるが本来持っている能力を知っているかのような口ぶりだった。

 

……一体、あの子は何者なの?

 

普通の人間ではない。

それだけはもう確信している。

 

けれど、その正体に近づこうとするほど、疑問は増えていくばかりだった。

 

「どうして教えてくださらないんですか?」

 

責めるつもりはなかった。

ただ、知りたかっただけだ。

 

私は怪盗団ファントムの一員として、これまでウソノワール様の命令に従ってきた。

それなのに、自分たちが何のために行動しているのか、その根本に関わる真実すら知らされていない。

 

何より、自分自身の過去さえ思い出せない。

その事実が、どうしようもなくもどかしい。

 

「計画に支障が起きてしまうと思ったからだ。お前が気になっている真実は、話し出したらキリがない。お前に記憶がないのも、過去に起きたとある出来事の後遺症だ」

 

やっぱり、私たちが知らないところで何かが進められている。

それも、私たちの過去や花崎みのるの正体に関わるほど、大きな計画が。

 

けれど、それ以上に気になった言葉があった。

 

後遺症

私の記憶が失われているのは、単なる偶然でも、誰かに意図的に消されたからでもなく、過去に起きた何らかの出来事が原因だというのだろうか。

 

思い出そうとしても、何も浮かんでこない。

 

自分が何者だったのか。

どこで生まれ、何をして、誰と過ごしていたのか。

その全てが、深い霧の向こうに隠されている。

 

「後遺症?」

 

過去に何があったというのだろう。

 

記憶を失うほどの出来事。

それが、私だけに起きたことなのか。

それとも、私たち全員に関係することなのか。

 

聞きたいことは山ほどあった。

けれど、ウソノワール様はそれ以上の説明をするつもりがないようだった。

 

「今話せるのはこのくらいだな。あとはお前の記憶が戻った時に全て話すつもりでいる」

 

つまり、今はまだ知るべき時ではないということなのだろう。

 

納得できたわけじゃない。

それどころか疑問はさらに増えてしまった。

 

でも一つだけわかったことがある。

私の失われた記憶には、確かに意味がある。

 

そして、その記憶が戻った時、ウソノワール様は全てを話してくれる。

……なら、今はそれを信じるしかない。

 

「………約束ですからね」

 

それだけ告げて、私は口を閉ざした。

 

ウソノワール様が何を考えているのか、今の私にはわからない。

 

花崎みのるの正体も、私たちの本当の目的も、過去に起きた出来事も。

全ては依然として謎に包まれたままだ。

 

けれど、いつか必ず思い出す。

失われた記憶の向こうに、どんな真実が隠されているのだとしても。

 

私はそれを、自分自身の目で確かめたい。

 

 

_______________

 

 

 

夜の繁華街は相変わらず騒がしい。

 

仕事帰りの大人たちに、学校帰りの学生。

買い物袋を提げた人々が行き交い、通り沿いに並ぶ店からは賑やかな音楽や呼び込みの声が聞こえてくる。

 

そんな人混みの中を、私は一人で歩いていた。

周囲の賑わいとは対照的に、私の気分は最悪だった。

 

考えなければならないことが多すぎる。

 

「はぁ………ここまで面倒なことになるなんて」

 

深いため息が漏れた。

 

これまでだって、計画通りに物事が進まないことは何度もあった。

プリキュアたちに邪魔をされたことも、一度や二度じゃない。

 

けれど、今回はさすがに事情が違う。

 

キュアエクレールの復活。

それだけでも十分厄介だというのに、怪盗団ファントムの内部までおかしなことになってしまった。

 

「プリキュアの大幅な戦力アップもダルいけど、わからないことが多すぎるんだよ。アルカナ・シャドウに劇場を乗っ取られるし、もうめちゃくちゃ」

 

誰に聞かせるでもなく、私は不満を口にした。

 

あの女が玉座に座っていた光景を思い出すだけで、今でも苛立ちが込み上げてくる。

 

森亜るるか

私たちを裏切ってプリキュア側についたと思えば、今度はそのプリキュアたちを倒すと言い出した。

 

ウソノワール様の玉座を堂々と占領して。

……本当に何がしたいんだか。

 

それにウソノワール様との会話も引っかかっていたが、どれも答えを知ることはできなかった。

 

ウソノワール様は全てを知っているようだったけれど、今はまだ話せないという。

 

……まったく、何も知らされないまま動くのって思っていた以上に気分が悪い。

 

私はうんざりしながら、月明かりに照らされた歩道を進んだ。

周囲では楽しそうに笑い合う人々が、私の横を次々と通り過ぎていく。

 

そんな光景を眺めていると、余計に自分だけが面倒事を抱え込んでいるような気分になった。

 

……少しくらい静かに考え事をさせてほしいんだけど。

そう思いながら、人通りの多い交差点へ差しかかった時。

 

「おやおや、誰かと思ったら、ファントムの斬り込み役じゃないか。そんなに困った顔をして、どうしたんだい?」

 

「……っ!?」

 

聞き覚えのある声に、私の足がぴたりと止まった。

周囲の喧騒に紛れて聞こえてきた、絶妙に芝居がかった口調。

 

……まさか。

 

そこにいた人物を目にした途端、先ほどまで頭の中を埋め尽くしていた疑問が一瞬で吹き飛んだ。

 

どうして、こんなところに。

 

絶え間なく行き交う人々の中で、私は目の前の人物から視線を逸らせずにいた。

 

ただでさえわからないことだらけだというのに。

……今度はあなたまで現れるなんてね。

 

「………なんであなたがここにいるの?」

 

 

 

――デッチ・アゲイン

 

 

 

「久しぶりだね。ジャック」




これでアニメ本編の約半分が終わり、次回から第二部へ突入します。第二部では本格的にみのるの掘り下げやその他のオリジナルストーリーを挟むことが増える予定ですので、これからも私の作品を楽しんでいただけたら嬉しいです。
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