自宅に届いた『惑星開発キット』で、社畜SEは異世界工場の管理者になる ~運用保守はもう終わり。現代の物資と無限の資源で、銀河規模の自動化帝国を築き上げます~   作:パラレル・ゲーマー

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【ネットの反応】マイアミのビーチと「リアル亀仙人」の降臨

【フェーズ1】 マイアミのビーチと「リアル亀仙人」の降臨

 

【TikTok/突如として爆発的なバズを見せた一本の動画】

 

@Miami_Vibes_2026

(動画テキスト:『マイアミビーチに謎のリアル亀仙人が降臨した件www 誰だよこれCGだろwww #MiamiBeach #MasterRoshi #WTF』)

 

(動画内容)

抜けるような青空と、フロリダ・マイアミの透き通るような海。

高級なカバナ(プライベートテント)が立ち並ぶVIP専用エリアから、一人の男が軽快な足取りで砂浜へと歩み出てくる。

 

だが、その男の姿はあまりにも異様だった。

首から上は、見事なまでに「典型的な東洋人の老人」である。

頭髪は雪のように真っ白で、額や目尻には長い歳月を刻み込んだ深いシワが幾重にも走っている。年齢はどう若く見積もっても八十代後半。普通なら杖をついて歩くのがやっとの、枯れ木のようなお爺ちゃんだ。

 

しかし——。

首から下は、完全に別の生き物だった。

彼が身につけているのは、派手なハイビスカス柄のサーフパンツ一丁のみ。

そこに剥き出しにされた肉体は、ステロイドを極限まで打ち込んだ現役のボディビルダーでさえ青ざめるほどの、バキバキに隆起した大胸筋と、彫刻のように割れたシックスパック、そして丸太のように太い大腿四頭筋で構成されていた。

老人の顔と、ギリシャ彫刻のような超絶マッスルボディ。

脳の処理能力が追いつかないほどの、恐ろしいまでの「違和感」。

 

さらに、彼の両脇には、水着姿の金髪スーパーモデルが二人、楽しげに腕を絡ませている。

老人はモデルたちの腰を抱き寄せながら、歯を見せてニカッと笑い、そのまま軽快なステップ——というより、ほとんど飛び跳ねるような挙動で波打ち際へ向かう。

 

場面が切り替わる。

老人がサーフボードに乗り、沖合から来る巨大な波に乗っている映像だ。

彼は波の頂点に達した瞬間、重力を完全に無視したかのような大ジャンプ(エアリアル)を披露する。空中でボードを掴みながらクルリと三六〇度回転し、完璧なバランスで着水。周囲の若きプロサーファーたちが、口をポカンと開けてその光景を呆然と見つめている。

 

再び場面が切り替わる。

ビーチのカバナに戻った老人が、テーブルの上のフルーツの盛り合わせから、硬い殻に包まれた「マカダミアナッツ」を手に取る。

彼はそれを、親指と人差し指の『指先二本』だけで軽く挟み込む。

パキィッ!

乾いた破砕音と共に、万力でも使わなければ割れないような硬い殻が、まるで卵の殻のように粉々に砕け散った。

老人は中のナッツを取り出し、横にいるモデルの口にドヤ顔で放り込む。モデルが黄色い歓声を上げ、老人の白い頬にキスをする——。

 

動画はそこで終わっている。

 

User_Comments:

・えっ、なにこれ。脳がバグるんだけどwww

・誰だよこのリアル亀仙人www かめはめ波撃てそうww

・いや絶対CG(ディープフェイク)でしょ。顔と体の境界線の合成が上手すぎる。

・ハリウッドのVFXクリエイターがポートフォリオ用に作ったフェイク動画だな。

・おじいちゃんの顔のデータを、プロのボディビルダーの体に合成したんだろ? 最近のAI生成技術、マジで怖いわー。

・サーフィンのジャンプ、あんな高さ人間に出せるわけない。ワイヤーアクションかCG確定。

・でもナッツ指二本で割る時の、筋肉の収縮の物理演算とか完璧すぎないか? もしCGなら作った奴は天才だろ。

・モデルのお姉さんたち、笑いこらえきれてなくて草。

・とりあえず保存した。元気出ない時に見るわwww

 

この動画は、そのあまりのインパクトとバカバカしさから、アップロードされてからわずか四十八時間で再生回数五〇〇〇万回を突破。

瞬く間に「マイアミの亀仙人(Master Roshi of Miami)」というミームとして、X(Twitter)やInstagramなど、世界中のあらゆるSNSへと飛び火していった。

 

【フェーズ2】 特定班の戦慄と、論破される陰謀論

 

大衆が「よく出来たオモシロ合成動画」としてこの映像を消費し、無数のコラ画像を作って笑い転げている中。

ネットの深層に生息する「彼ら」だけは、この動画を全く別の冷徹な視点から解析していた。

 

【X(Twitter)/OSINT(公開情報調査)界隈の戦慄】

 

@OSINT_Hawk_Eyes

あの「マイアミの亀仙人」動画。みんなAI生成だのVFXだの言ってるけど、フレーム単位で解析した結果を共有する。

結論から言う。あれは【合成でもCGでもない】。現実の映像だ。

 

@Tech_Debunker_99

>>@OSINT_Hawk_Eyes

嘘だろ? あの首から下の筋肉、どう見ても顔の年齢と合ってないぞ。

光の反射とか、影の落ち方で不自然な点はないのか?

 

@OSINT_Hawk_Eyes

>>@Tech_Debunker_99

それがないんだよ。

太陽光のレイ・トレーシング、汗の滴が筋肉の谷間を流れ落ちる表面張力の物理挙動、そしてモデルの女性の腕が彼の皮膚に触れた時の『肉の沈み込み』。

現在の最新鋭の生成AI(Soraなど)でも、これほど完璧に物理法則を再現することは不可能だ。メタデータも解析したが、一切の改変プロセスを経ていないオリジナル・ファイルだ。

信じられないだろうが、あの『おじいちゃんの顔をした筋肉ダルマ』は、現実にマイアミに存在している。

 

@Face_Match_Bot(顔認証AIツール開発者)

さらにヤバい報告がある。

動画の老人の顔を、ディープラーニングの顔認証データベース(数億人の政治家・有名人のデータ)にかけ、骨格、瞳孔間の距離、耳介の形状をマッチングさせた。

……みんな、驚くなよ。

合致率99.2%で、一人の人物が弾き出された。

 

@News_Junkie_US

誰だよ? ハリウッドの特殊メイクをした俳優か何かか?

 

@Face_Match_Bot

いや。

先月、「重度の心不全と多臓器不全」を理由に、一切の政治的役職から完全引退した、中国共産党のトップ・【趙(チャオ)最長老(89歳)】だ。

 

@DC_Insider_Gossip

!!!!!?!?!?!?

はあ!? 中国のトップ!? あの車椅子で酸素マスクつけてた死にかけのジジイが!?

マイアミのビーチで水着でサーフィンしてんの!?

頭おかしくなりそうだわ。

 

【Reddit / r/worldnews & r/conspiracy】

Thread: The "Miami Master Roshi" is allegedly former CCP top leader Zhao. What is going on?(「マイアミの亀仙人」は元中国共産党トップの趙氏らしい。一体何が起きている?)

 

u/Geopolitics_Nerd

OSINT界隈の解析見たか? あの動画の老人、中国の趙氏だぞ。

彼が引退したのは「明日死んでもおかしくない」ほどの重病だったからだ。それが数週間で、あんなボディビルダーみたいな体になるわけがない。

考えられる可能性は……政治的暗殺から逃げるために、自分の顔に似せた「影武者」をマイアミに放って、ダミーの生活を送らせているとか?

 

u/Truth_Eagle_Q(Qアノン系陰謀論者)

お前ら、まだ分からないのか!!!

点と点が繋がったぞ!!

アメリカで大統領選挙を揺るがした『DARPAの極秘治験薬(細胞再生ナノ・ペプチド)』!!

あの薬は、マクミランだけじゃなくて、中国のトップにも横流しされていたんだ!!

ディープステートは国境を越えて、エリート同士で『若返りの魔法の薬』を分け合ってるんだよ!! 趙はあの薬を使って、病気を治して不老不死の体を手に入れたんだ!!

 

u/Skeptical_Owl

>>u/Truth_Eagle_Q

出たよ陰謀論者。

もし本当にそんな「不老不死の魔法の薬」があるなら、なんであの爺さん、一番大事な『顔のシワ』と『白髪』だけそのままなんだよwww

首から下だけムキムキに若返って、顔は90歳のままとか、魔法の薬にしては仕様がポンコツすぎだろww

 

u/Normal_Dude_Reply

>>u/Truth_Eagle_Q

ほんとそれ。

エリートが何十億ドルも払って使う極秘の若返り薬が、「顔のシワは取れません(キリッ)」ってどんなクソ商品だよww

普通、美容目的で顔から若返るだろ。

どう考えても、ステロイドと成長ホルモンを致死量ギリギリまで打ち込んだ、頭のおかしい成金おじいちゃんだよ。

 

u/Truth_Eagle_Q

違うんだ!! 薬の成分が不安定だから、細胞の初期化が完璧じゃないだけで……!!

 

u/Meme_Lord_USA

はいはい。お薬の時間ですよー。

[画像:亀仙人の顔にQアノンのロゴを合成したコラ画像]

 

「魔法の薬」という核心を突く陰謀論者(Qアノン)の叫びは、またしても「薬の仕様のあまりの間抜けさ(顔だけ老人のまま)」という絶妙なリアリティの欠如によって、一般層の冷ややかなツッコミによって完全論破され、ただの笑い話として沈静化してしまった。

世界を支配するエリートの陰謀論としては、あまりにもビジュアルが「アホすぎた」のだ。

 

【フェーズ3】 日米の管理者たちの呆れ顔(現実の裏側)

 

東京・首相官邸地下5階『特別情報分析室』。

 

「ボリッ。……ガリッ……ゴクン」

 

 防音材に囲まれた静寂な密室で、日下部参事官がタブレットを見つめながら、水も飲まずに直接胃薬の錠剤を噛み砕く音が空しく響いていた。

 彼の目の前のスクリーンには、世界中で5000万回再生を突破し、今や「Master Roshi(亀仙人)Tシャツ」といった非公式グッズまで販売され始めている、趙最長老のマイアミ豪遊動画がリピート再生されている。

 

「……言いましたよね? 私、確かに彼らに言いましたよね?」

 

 日下部は、虚ろな目で隣に立つ副島総理を見上げた。

 

「『薬を使ったら、全ての役職を退いて表舞台から完全に姿を消してください。静かに余生を過ごしてください』って。……これは、日本からの絶対条件だったはずです」

 

「うん、言ったね。君ははっきりと言った」

 

 総理が苦笑いしながら頷く。

 

「だからといって! 『政治から引退して、世界的なインフルエンサーになってTikTokでバズれ!』とは言ってないんですよ!!

 なんですかあの軽快なステップは! なんですかあのエアリアルは!

 目立ちすぎでしょうが! なんでマイアミのど真ん中で、水着一丁で超人アピールしてるんですかあのクソジジイは!!」

 

 日下部が、普段の冷静さを完全に失ってデスクをバンバンと叩いた。

 無理もない。極秘の医療用ナノマシンの存在が、使用者の承認欲求と頭のおかしいテンションのせいで、世界中のさらし者にされているのだ。

 

「まあまあ、落ち着き給え日下部くん」

 

 副島総理が、日下部に温かいお茶を差し出しながら宥めた。

 

「結果的には、悪くない状況じゃないか。ネットの反応を見ている限り、誰もこれを『日本の極秘技術だ』とか『本物の不老不死の薬だ』とは信じていない。

 むしろ、彼の顔が老人のままであることが、逆に『フェイク動画感』や『ステロイドによる異常な肉体改造』というカバーストーリーとして完璧に機能している。『顔がそのままなら魔法の薬じゃないだろ』という大衆の常識が、陰謀論を見事に論破してくれているじゃないか。

 彼自身の強烈なキャラクターが、最高の隠れ蓑になっているよ」

 

「……それは、そうですが……。ですが、心臓に悪すぎます。いつボロを出すか分かったものではありません」

 

 日下部が胃のあたりを押さえながら呻いた、その時。

 

 ピロリロリン、と暗号化通信の着信音が鳴った。

 ワシントンD.C.のホワイトハウス地下、セキュア・ルームからの緊急ホットラインである。

 

 日下部が通信を繋ぐと、モニターにアメリカの「影の政府」の顔役であるノア・マクドウェルと、CIA長官エレノア・バーンズの姿が映し出された。

 

『ハハハハハハ!! 見ましたよ、日下部参事官! あの動画!!』

 

 通信が繋がるなり、ノアは腹を抱えて呵々大笑していた。

 彼の青白い瞳には、心底楽しそうな光が宿っている。

 

『最高ですね、中国の最長老! 最高に下品で、最高のエンターテインメントだ!

 彼は我々から与えられた永遠の命というギフトを、最も正しい使い方でエンジョイしている。陰気な権力にしがみついて他人の足を引っ張るより、マイアミのビーチで美女をはべらせてサーフィンをする方が、よほど健全な人間の姿ですよ。私も見習いたいとすら思いましたよ!』

 

「……笑い事ではありませんよ、マクドウェル氏」

 

 日下部が疲労困憊の声で返した。

 

「彼がああして目立つことで、アメリカ国内の『特権医療スキャンダル(メドベッド騒動)』の火種が再び燃え上がる可能性があったのです。まあ、なんとか大衆の笑い話として沈静化しつつありますが……」

 

『ええ。情報統制の観点から言えば、最悪のバグです』

 

 エレノアが、ノアの笑いを遮るように氷のような表情で割って入った。

 

『現在、CIAのサイバー部門からアメリカ国内の主要なSNSプラットフォーマー(Meta、X、TikTokの米国法人)に対して極秘裏に圧力をかけ、彼のアカウントや関連動画のアルゴリズムに強力な「シャドウバン(表示制限)」をかけています。ユーザーのタイムラインに意図的に上がりにくくし、これ以上の拡散を抑え込んでいます。……ですが、完全な削除はかえって不自然さを生むため、限界があります』

 

 エレノアは、鋭い視線を日下部に向けた。

 

『日下部参事官。……一つ、日本政府の研究機関に要望があります』

 

「要望、ですか?」

 

『はい。あの中国の老人を見ていて、我々も痛感したのですが……。

 日本の提供するあの「薬」は、肉体と内臓を若返らせることはできても、顔のシワや白髪といった「外見」を修正することができない仕様ですね。

 これは、我々権力者が使用する上で、非常に不便であり、今回のような「不自然な合成動画感」を生む原因となります』

 

 エレノアは、極めて真面目なトーンで続けた。

 

『日本政府の優秀な研究機関に伝えて、あの「薬」をアップデート(改良)できないのですか?

 肉体だけでなく、顔のシワも取れて、髪も黒く生え揃うようにする……つまり、外見も完全に若返るように仕様を変更してもらいたいのです』

 

「っ……!!」

 

 その要求を聞いた瞬間、日下部の背中に、嫌な汗が滝のように流れ落ちた。

 (……工藤さんに、そんな細かいカスタマイズの注文をするだと!?)

 日下部の脳内で、緊急警報のサイレンが鳴り響く。

 

 あのテラ・ノヴァにいる無邪気な工場長に、「顔のシワも取れるようにしてくれ」などとリクエストすればどうなるか。

 『あ、シワ取るついでに、細胞に発光機能つけときました! 暗闇で光りますよ!』とか。

 『顔の筋肉を調整するついでに、目からレーザーが出るように改造しときました! 防身用です!』とか。

 絶対に、絶対に、余計な「トンデモ機能」を親切心で追加してくるに決まっている。あの男の「ものづくり」に対する情熱とベクトルの狂い方を、日下部は誰よりも理解していた。

 そんなものを受け取ってしまえば、それこそ「カバーストーリー」など一瞬で吹き飛んでしまう。

 

「そ、それは……」

 

 日下部は、内心の恐慌を必死に押し隠し、顔を引きつらせながら、エレノアに対して声を張り上げた。

 

「そ、そんな都合のいいアップデート機能なんてありませんよ!!」

 

『……ないのですか? 日本の技術力をもってしても?』

 

「ないです! 絶対に不可能です!!」

 

 日下部は、半ばキレ気味に、早口でまくし立てた。

 

「いいですか、エレノア長官! あのナノマシンは、現在の仕様の時点で、人体の免疫システムと細胞の初期化プログラムがギリギリのバランスで成り立っている、まさに奇跡の産物なんです!

 それを、『美容目的』で顔のシワを取るだの髪を黒くするだの、そんな下らないカスタマイズを施そうとすれば、プログラムの均衡が崩れて、使用者がスライムのようにドロドロに溶けて死ぬかもしれませんよ!?

 これ以上の改良は、物理的にも医学的にも100%不可能です! 今の仕様で我慢してください!!」

 

 日下部の、文字通り命がけの「強弁」。

 アメリカ側には、テラ・ノヴァの存在も、工藤創一という個人の存在も絶対に知られてはならない。「日本の極秘研究機関」という嘘を守り通し、かつ、工藤の暴走を防ぐためには、ここで突っぱねるしかなかった。

 

『……スライムのように溶ける、ですか。それは困りますね』

 

 エレノアは、日下部の剣幕に少しだけ圧倒されたように眉をひそめた。

 

『分かりました。技術的な限界があるのであれば、致し方ありません。外見の若返りについては、我々で優秀な美容整形外科医でも手配して対応することにしましょう』

 

「ええ、ぜひそうしてください。……あの爺さんにも、そう伝えておいてください。これ以上目立つなら、次のメンテナンスの供給は止めると」

 

 日下部は荒い息を吐きながら、どうにかその場を凌ぎ切った。

 ノアがクスクスと笑いながら通信を切断すると、日下部は完全に精根尽き果て、円卓に突っ伏した。

 

「……寿命が縮みました」

 

「ご苦労だったね、日下部くん」

 

 副島総理が、哀れな官僚の肩を優しく叩いた。

 日米の「陰の支配者」たちは、世界を裏から操るという壮大なゲームの裏側で、自由すぎる一人の老人と、予測不能な異世界の工場長という二つの「バグ」に挟まれ、日々胃壁を削りながら苦闘を続けているのだった。

 

 

 

【フェーズ4】 消費されるミームと、殺意を抱く北京

 

 中華人民共和国、北京。

 紫禁城の西に広がる、14億人の運命を握る政治の中枢・中南海。

 その地下深くに存在する国家安全部(MSS)の極秘指令室『深淵の間』では、この日、重く、そして極めて不健全な空気が漂っていた。

 

 円卓を囲むのは、国務院総理の李(リー)、国家安全部長の張(チャン)、そして人民解放軍のトップである劉(リュウ)将軍。彼らは皆、目の前に巨大なスクリーンに映し出された映像を、親の仇でも見るかのような血走った目で見つめていた。

 

 スクリーンに映っているのは、現在世界中のSNSを席巻している「マイアミの亀仙人」こと、趙(チャオ)最長老のTikTok動画である。

 軽快なEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)のBGMに乗せて、水着姿の金髪モデルたちに囲まれながら、バキバキのマッスルボディでサーフィンをこなし、ビーチで優雅にナッツを割る、かつての最高権力者の姿。

 

「……張部長」

 

 李総理が、地鳴りのような低い声で唸った。

 

「貴様は、私にこの『くだらない道化の映像』を見せるためだけに、わざわざこの緊急会議を招集したのか? 我々は今、日本から次の薬を引き出すための台湾問題の調整で、一秒の猶予もないのだぞ」

 

「申し訳ありません、総理」

 

 張部長は、冷や汗を拭いながらタブレットを操作した。

 

「ですが、この動画は単なる道化の遊びではありません。我が国の情報分析局が、この動画の中に『あるもの』を発見したのです」

 

「あるもの、だと?」

 

「はい。……総理、この動画の27秒付近、彼がビーチでマカダミアナッツを指で割る直前のシーンに注目してください」

 

 張部長が動画を巻き戻し、スロー再生にする。

 趙長老が、カメラに向かってニカッと笑いかけ、ナッツを親指と人差し指でつまむ。その際、彼の中指と薬指、そして小指が、不自然なリズムでピクピクと動いているのが見えた。さらに、彼の瞬きのタイミングも、スローで見ると明らかに一定の規則性を持っている。

 

「これは……」

 

 劉将軍が身を乗り出した。

 軍人である彼には、その不自然な動きの意味がすぐに理解できた。

 

「旧式の暗号(サイン)か?」

 

「その通りです」

 

 張部長が頷いた。

 

「指の動きは、かつて建国初期の時代に、党の地下工作員たちが連絡用に使っていた非常に古いハンドサイン。そして瞬きの回数は、ロシアの非公然工作員が使用するモールス信号の変種です。

 彼は、この世界中で5000万回再生されているバズ動画の中に、我々中国のインテリジェンス機関、ひいては指導部(我々)だけが気づくように、極めて巧妙な『隠しメッセージ』を仕込んでいたのです」

 

「……何だと?」

 

 李総理の顔が、怒りでどす黒く変色した。

 わざわざそんな面倒なことをしてまで、あの老いぼれが自分たちに伝えたかったメッセージとは何なのか。

 

「解析班に解読させた結果が、こちらです」

 

 張部長がエンターキーを叩くと、スクリーンの映像の横に、解読されたメッセージのテキストが表示された。

 

『やあ、薄暗い部屋で血圧を上げながらこの動画を解析している哀れな後輩諸君。

 元気にしているかね?

 今日のマイアミの太陽は最高だ。モデルたちが食べさせてくれるキャビアとシャンパンの味は、権力の味よりも遥かに甘美で素晴らしい。

 お前たちも、いつ死ぬか分からない恐怖に怯えながら、せいぜい私の遺産(国)を上手く運営してくれたまえ。

 ああ、そうだ。日本政府にはしっかりと尻尾を振って媚びを売るんだぞ。間違っても粗相をして、私へのメンテナンスが止まるような事態だけは避けてくれよ。

 それでは、私はこれから今夜のパーティーの準備がある。アデュー』

 

「…………」

 

 深淵の間に、氷河期のような沈黙が落ちた。

 それは、究極の煽りであった。

 世界最高の権力者たちに向かって、「お前たちは私のために国を運営する働き蜂であり、死の恐怖に怯える哀れな短命種だ」と、全世界が視聴するSNSを通じて公然と宣言してきたのだ。

 しかも、日本政府の機嫌を損ねるなという、上から目線の命令つきで。

 

 プルプルと、李総理の肩が震え始めた。

 彼の手は硬く握りしめられ、爪が手のひらに食い込んで血が滲んでいる。

 

「あの……」

 

 李総理の口から、呪詛のような声が漏れた。

 

「あの、クソジジイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!」

 

 ダンッ!!!

 

 李総理は、立ち上がりざまに両手で円卓を激しく叩きつけた。

 だが、彼の肉体は趙長老のようにナノマシンで強化されているわけではない。ただの老人の力だ。円卓は軋みすらせず、逆に総理の手のひらの方が痛みに赤く腫れ上がった。

 それがさらに、彼の惨めさと屈辱を増幅させた。

 

「許さん! 絶対に許さんぞ!!

 自分だけが神の肉体を手に入れ、我々をコケにするなど! あいつは自分がどこからその力を得たのか忘れたのか! 我々が尖閣を売り払い、血を流して手に入れた薬を、横から掠め取っただけのくせに!!」

 

 李総理の絶叫が、地下室に空しく響き渡る。

 嫉妬。羨望。そして、自分だけが老いて死んでいくことに対する、狂おしいほどの恐怖。

 それらの感情が、一国の指導者の理性を完全に焼き切っていた。

 

「総理、落ち着いてください! 血圧が……!」

 

 張部長が慌てて総理を支えようとするが、李総理はそれを力任せに振り払った。

 

「張! 劉将軍!

 もう待てん! これ以上、あの老いぼれの道化芝居を見せられて、指を咥えて待っているなど不可能だ!」

 

 李総理は、血走った目で二人を睨みつけた。

 

「台湾だ!! 台湾の独立容認プロセスを、計画よりも半年……いや、一年早めろ!

 国内の強硬派の不満? 反乱? そんなものは武警と軍を使って徹底的に弾圧しろ! 少しでも反対する者は、長老だろうが将軍だろうが全て粛清だ!

 日本に連絡を取れ! 『我々は誠意を見せた。明日、台湾の自治を事実上認める声明を出す。だから明後日には、我々の分の医療用キットを北京に届けろ』と!!」

 

「そ、総理! それでは国が持ちません! 準備不足で暴動が起きます!」

 

「国が持たなくても、私が持てばそれでいいのだ!!」

 

 李総理は、完全に獣と化した目で吠えた。

 もはやそこに、中国の未来を憂う政治家の姿はない。あるのは、不老不死というドラッグの幻影に囚われ、禁断症状に苦しむ哀れな中毒患者(ジャンキー)の姿だけだった。

 

「急げ! 今すぐに日本の日下部に連絡しろ!

 あのクソジジイの余裕の顔を、二度と見たくない!! 私を……私を若返らせろ!!」

 

 狂気。

 極東の島国が放った「神の薬」は、大国の中枢をここまで無惨に、そして滑稽に破壊し尽くしていた。

 趙長老の、承認欲求を満たすためのほんの軽い「煽り」が、中国という国家の歴史を数十年単位で早回しにし、そして崩壊へのカウントダウンを加速させたのだ。

 

【エピローグ:消費されるミームと、平和な(?)タイムライン】

 

 北京の地下で国家が自壊の機に瀕していることなど、表の世界の人間は知る由もなかった。

 世界のSNSのタイムラインは、今日もまた、新しく提供される無限のエンターテインメントに忙しく消費を続けている。

 

【X(Twitter)/現在のトレンド】

1位:#マイアミの亀仙人

2位:猫の可愛い動画

3位:大統領の就任式ドレス

4位:#亀仙人ダンスチャレンジ

5位:新作ゲームのリーク情報

 

@Meme_Lover_GenZ

おいwww 亀仙人おじいちゃんの新作ダンス動画キタコレwww

今度はクラブのVIPルームで、DJの横でブレイクダンス踊ってるぞwww

マジでこのおじいちゃんの体力どうなってんのwww

 

@Tired_Office_Worker

上司に理不尽に怒られてクソ萎えてたけど、亀仙人がギャルはべらせてシャンパンラッパ飲みしてる動画見たら、なんかどうでもよくなってきたわ。

俺も老後はあんな風にファンキーに生きたい。

元気出た。明日も仕事頑張ろ。

 

@Fitness_Bro_Alpha

あの筋肉は本物だ。ステロイドだろうが何だろうが、あの年齢であのバルクを維持してるのは純粋に尊敬する。

亀仙人のワークアウト(筋トレ)ルーティンが知りたいわ。

 

@Conspiracy_Debunker

「あれは中国のトップが不老不死の薬を使った姿だ!」って喚いてた陰謀論者たち、すっかり息しなくなったな。

そりゃそうだ。不老不死の魔法の薬を使っておいて、毎日TikTokでダンス動画上げてる暇な権力者がいるわけないだろwww

ただの似てる金持ちの爺さんだってことでFA(ファイナルアンサー)だよ。

 

@Pop_Culture_News

【悲報】有名アパレルブランドが「マイアミの亀仙人」の無断デザインTシャツを販売開始するも、即日完売。

「これは今年のハロウィンのコスプレの定番になる」との声多数。

 

 世界を揺るがすオーバーテクノロジー。

 国家の覇権をひっくり返し、権力者たちを殺し合わせるほどの「不老不死のオーパーツ」の存在は。

 承認欲求に狂った一人の老人の、あまりにも自由すぎる振る舞いと、大衆の「笑い」という強固なフィルターによって、ただの『消費されるネットミーム』へと完璧に偽装されてしまった。

 

 誰も真実に気づかない。

 誰も、自分たちの住む世界が、すでに未知のテクノロジーによって完全に支配され、歪められていることに気づかない。

 

 今日もまた、人々はスマホの画面をスクロールし、面白おかしい動画に「いいね」を押し、そして満員電車に乗って日常へと回帰していく。

 日下部参事官の胃痛と、大国たちの狂気だけを、見えない暗闇の底に置き去りにして。

 

 極東の島国は、今日も静かに世界のルールを書き換え続けている。

 そしてその源流たる異星の「工場」では、地球の騒ぎなど全く気にする様子もない一人の男が、宇宙に向けて新たなロケットの打ち上げボタンを、無邪気に押し続けていた。

 

 

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