自宅に届いた『惑星開発キット』で、社畜SEは異世界工場の管理者になる ~運用保守はもう終わり。現代の物資と無限の資源で、銀河規模の自動化帝国を築き上げます~ 作:パラレル・ゲーマー
南鳥島沖、水深6000メートルの深海の上に浮かぶ、巨大な人工の島。
海道重工の粋を集めて建造されたとされる、世界初の商業用深海レアアース連続揚泥・精錬プラント船『かいどう』。
全長300メートルを超えるその威容は、夜の太平洋において不夜城のように煌々とライトを放ち、周囲には海上保安庁の巡視船が二十四時間体制で警戒に当たっている。
だが、その威容の裏側は、徹底した「虚構(フェイク)」で構築されていた。
プラント内部で轟音を立てている遠心分離機や精錬炉は、すべて空回りのダミーである。海底から泥を吸い上げているとされる巨大なパイプも、ただ海水を循環させているに過ぎない。
この船の真の役割は、極東の島国から遠く離れた異次元の惑星『テラ・ノヴァ』で、工藤創一という一人の男が掘り出し、精錬した純度99.99%のレアメタルインゴットを、「深海から引き揚げた国産資源」として偽装し、世界市場へ流通させるための「洗浄装置(ロンダリング・マシン)」に他ならなかった。
船の最下層、本来であれば泥の貯蔵庫であるはずの巨大なカーゴスペースには、新木場の秘密ゲートから夜闇に紛れてピストン輸送されてきた、莫大な量のインゴットが整然と積み上げられていた。
一つ数億円は下らない青白く輝くレアメタルの山。
もしこの場所を第三者に占拠され、内部の様子――特に「採掘したはずの泥がどこにもなく、代わりに完成品のインゴットが最初から積まれている」という矛盾――を世界に発信されれば、日本が国家を挙げてついている大嘘が完全に露見してしまう。
その「絶対防衛線」とも言える海上の要塞に、見えない脅威が迫っていた。
◇
深夜2時。
新月の闇に紛れ、荒波を切り裂いて『かいどう』へと急速に接近する複数の影があった。
レーダー反射断面積(RCS)を極限まで抑えた、漆黒のステルス・ゾディアックボート(複合艇)。
乗っているのは、黒のウェットスーツと最新鋭の暗視ゴーグルに身を包んだ三十名以上の武装集団だ。
「目標まで残り300。海上保安庁の巡視船は、偽装した漁船団のスクランブル(陽動)に釣られて北へ向かっている。……予定通りだ」
ボートの先端で、リーダーらしき男が無線で低く囁いた。
彼らの表向きの素性は、過激な環境保護を標榜する国際的なエコ・テロリスト集団『ブルー・オーシャン』のメンバーである。
「日本の無謀な深海開発が、太平洋の生態系を回復不能なまでに破壊している。直ちに操業を停止せよ」
それが彼らの掲げる大義名分だ。
だが、その裏側には、日本のレアメタル独占を快く思わない「某大国」の情報機関が糸を引き、資金と最新装備を供与しているという事実があった。
環境保護は単なる建前に過ぎない。
彼らの真の目的は、『かいどう』をシージャック(武装占拠)し、その内部にカメラを入れ、日本の「深海採掘」が環境を破壊している証拠(あるいは、何らかの技術的矛盾)を世界に暴露すること。それにより、国際世論を味方につけ、日本の資源覇権を叩き潰すことだ。
「よし、取り付くぞ。……抵抗する乗組員は容赦なく撃て。我々は母なる海を守る聖戦士だ」
リーダーの合図と共に、ゾディアックボートからワイヤー付きのマグネットフックが射出され、『かいどう』の分厚い鋼鉄の船壁に音もなく吸着した。
黒い影たちは、電動アセンダー(昇降機)を使って、ゴキブリのように船体へと這い上がっていく。
だが、彼らは知らなかった。
自分たちの完璧なはずの隠密行動が、東京の地下深くに存在する「神の眼」によって、出港した瞬間から完全に可視化されていたことを。
◇
東京都千代田区、首相官邸地下5階『特別情報分析室』。
「……ネズミが船に取り付きました」
壁面を覆う巨大スクリーンの前で、内閣官房参事官の日下部が、コーヒーカップを片手に淡々と報告した。
スクリーンには、テラ・ノヴァの『位相空間レーダー』と中継ビーコンを通じて得られた、南鳥島沖のリアルタイム透視映像が映し出されている。
『かいどう』の船体を這い上がる三十名の武装集団。彼らの心拍数、携行している武器の残弾数、そして作戦を指示する通信内容まで、全てがデジタルデータとして丸裸にされていた。
「陽動に引っかかったふりをしてくれた海保の諸君には感謝ですね。おかげで、彼らはすっかり油断してくれています」
日下部の隣で、副島総理が腕を組んだまま、冷ややかな視線をモニターに向けている。
「環境テロリストの皮を被った工作員か。……どこの国の差し金だ? やはり中国か?」
「いえ。通信の暗号化方式と、使用しているステルスボートの出処から推測するに、ロシアのSVR(対外情報庁)が裏で糸を引いている可能性が高いかと」
内閣情報官が即答した。
「アメリカの『大掃除』で国内のスパイ網を潰され、ヨーロッパでも動きを封じられた彼らが、起死回生を狙って『海』から揺さぶりをかけてきたのでしょう。表向きは環境保護団体を名乗らせることで、ロシア政府の関与を否定するつもりです」
「なるほど。北の熊も、まだ悪あがきを続けるか」
総理は鼻で笑った。
「彼らは『かいどう』の内部を見て、我々の深海採掘が嘘であることを暴くつもりだな?」
「はい。船倉の『泥がない』という矛盾を世界に配信されれば、我々のカバーストーリーは崩壊します。……絶対に、彼らを船の内部へ、特に最下層のインゴット保管庫へは立ち入らせてはなりません」
日下部が、胃薬の袋をいじりながら言った。
「防衛大臣、そして警察庁長官。……準備は?」
「万端だ」
防衛大臣が、獰猛な笑みを浮かべて応じた。
「この日のために、極秘裏に編成した特殊部隊を『かいどう』の船内に潜ませてある。……海上保安庁の特殊警備隊(SST)から選抜された精鋭たちだ」
「SSTですか。しかし、相手は自動小銃とプラスチック爆薬で武装した三十名以上のプロです。いくらSSTとはいえ、船内での銃撃戦となれば、乗組員に被害が出るリスクや、設備が破壊されるリスクが……」
外務大臣が懸念を示すと、防衛大臣は「ふふふ」と不気味な笑い声を漏らした。
「心配無用だ。彼らには『最高の防具』と『最高の薬』を支給してある」
「……まさか」
「そのまさかだ。……作戦開始!」
防衛大臣の号令が、暗号化回線を通じて南鳥島沖の『かいどう』へと飛んだ。
◇
『かいどう』甲板上。
環境テロリスト(ロシアの工作員)たちは、音もなく甲板への侵入を果たし、フォーメーションを組みながら船橋(ブリッジ)と機関室の制圧へと向かおうとしていた。
「静かすぎるな。当直の船員すら見当たらない」
リーダーが怪訝そうに呟いたその時。
ズシンッ。
前方の暗闇から、重々しい足音が響いた。
それは人間の足音ではない。もっと重く、硬質な金属が甲板を叩く音。
「……誰だ!?」
テロリストたちが一斉に銃口を向ける。
暗闇の中から、ゆっくりと姿を現したのは、三体の『鋼鉄の巨人』だった。
鈍い銀色に輝く、分厚い複合装甲。頭部を完全に覆うフルフェイス・ヘルメット。
——『26式多目的装甲戦闘服』。
東富士演習場で世界を震撼させた、あの「歩く戦車」が、なぜか民間の採掘船の甲板に立っていたのだ。
「な、なんだあれは……!?」
「パワードスーツ!? 自衛隊の新型か! なぜこんな所に!」
テロリストたちの間に、動揺が走る。
彼らもまた、事前のブリーフィングで26式の情報(ニュース映像)は見ていたが、まさかこんな絶海の孤島に配備されているとは夢にも思わなかったのだ。
「慌てるな! 撃て! 関節部を狙え!」
リーダーの怒号と共に、三十丁の自動小銃が一斉に火を噴いた。
ダダダダダダダッ!!
5.56mm弾が雨あられと三体の巨人に降り注ぐ。
だが。
カキン! キン! カカカカッ!
火花が散るだけで、26式は微動だにしなかった。
テラ・ノヴァの工場で、工藤創一が『鋼鉄板50枚』を圧縮して叩き上げたナノマシン装甲は、小銃弾など豆鉄砲としか認識しない。
「効かない……!?」
「化物め! RPGを撃て!」
後方のテロリストが対戦車ロケットを構えようとした、その瞬間。
ブオンッ!
三体の26式が、100kgの質量を信じられないほどの初速で加速させ、一気に距離を詰めてきた。
それは「突撃」というよりは「蹂躙」だった。
「ひっ……!」
先頭にいたテロリストが、銀色の巨人の腕に掴み上げられ、そのまま甲板に叩きつけられた。
ゴシャッ!
骨が折れる嫌な音。
26式の中にいるSST隊員たちは、実弾兵器を持っていなかった。船の設備を破壊しないため、そして「テロリストを無力化するだけ」という指示を受けていたため、彼らの武器は己の『鋼鉄の拳』のみだ。
だが、それで十分だった。
ドォォン! バキィッ!
時速40kmの体当たり。
腕の一振り。
それだけで、完全武装のテロリストたちが、まるでボーリングのピンのように次々と宙を舞い、気絶していく。
「バカな……! こんなデタラメなパワー……!」
リーダーは絶望的な状況に歯噛みしながら、懐から一発の手榴弾を取り出し、ピンを抜いた。
そして、自らの腹部に抱え込むようにして、迫り来る26式に向かって特攻を仕掛けた。
「相打ちだ!!」
ドガァァァァァァン!!!
至近距離での爆発。
炎と爆風がリーダーと、26式の一体を飲み込んだ。
「……やったか!?」
生き残った数名のテロリストが息を呑んで見つめる。
だが、黒煙の中から現れた26式は、装甲が黒く煤け、微かにひび割れているだけで、全く機能に支障をきたしていなかった。
それどころか、装甲の表面が波打ち、ナノマシンによる自己修復機能が瞬時にクラックを塞いでいく。
そして、最も恐るべき光景はその足元にあった。
自爆特攻を仕掛けたリーダーの男は、上半身をひどく損傷し、血の海の中で虫の息となっていた。
普通なら、即死してもおかしくない重傷だ。
だが、26式が、倒れているリーダーの首筋に、何やら『灰色のインジェクター』を無造作に突き立てたのだ。
プシュッ。
その瞬間、瀕死だったリーダーの体が激しく痙攣し、損傷した肉体が、まるでビデオの巻き戻しのように、すさまじい勢いで修復されていく。
破れた内臓が繋がり、肉が盛り上がり、血が止まる。
わずか1分後。
自爆したはずのリーダーは、五体満足な状態で、しかし激しい苦痛の記憶と、目の前で起きた理不尽な現象に対する恐怖で完全に発狂し、白目を剥いて気絶していた。
「……な、なんだ、あれは……?」
「死なない……? 殺しても、治される……!?」
残されたテロリストたちの心は、ここで完全に折れた。
銃弾を弾き返す無敵の装甲。
戦車並みのパワー。
そして何より、致命傷を負っても即座に治癒されるという、死すら許されない恐怖。
彼らは武器を放り出し、甲板にひれ伏して命乞いを始めた。
「……制圧完了(クリア)。負傷者なし。敵の死者、ゼロ」
26式の外部スピーカーから、淡々とした報告が響く。
ハリウッドのアクション映画でも、ここまで一方的な展開にはならないだろう。
戦術も、戦略も、環境テロリストとしての覚悟も、すべてが「絶対的な物理力」と「神の薬」の前に無に帰した瞬間だった。
◇
東京・首相官邸地下。
「……作戦終了。見事なものです」
日下部が、スクリーンに映し出された甲板の様子を見つめながら、小さく拍手をした。
捕縛された三十名の工作員たちは、船の独房へと放り込まれていく。
彼らは生きたまま捕らえられ、そして日本政府にとっての「強力な外交カード」となるのだ。
「ふはははは! 見たか、あのロシアのネズミどもの絶望した顔を!」
防衛大臣が、腹を抱えて笑い声を上げた。
「自爆しても治されて、生きたまま捕まる!
テロリストにとって、これほど屈辱的で恐ろしいことはあるまい!
『バンドエイドMK3』……アメリカ軍が絶賛する理由がよく分かった。
これは敵を殺すための薬ではない。敵の『心を折る』ための最悪の兵器だ!」
「ええ。死の恐怖を奪うことは、時に死そのものよりも残酷な拷問となりますからね」
日下部も、薄く冷酷な笑みを浮かべた。
死刑囚でテストしたMK3。その効果を、今回は敵の工作員に「身をもって」体験させたのだ。
彼らはロシアに送還された後、祖国でこう語るだろう。
「日本には、弾丸を弾く鎧と、死を無効化する魔法の薬がある。絶対に勝てない」と。
その口コミこそが、ロシア指導部に「日本には絶対に手を出してはならない」というトラウマを植え付ける最強の抑止力となる。
「さて、この件の『表沙汰』の処理ですが」
日下部はタブレットを操作し、事前に用意していたプレスリリースの文面を表示した。
「明日の朝一番で、内閣官房から公式発表を行います。
『南鳥島沖にて操業中の深海採掘船かいどうに対し、過激な環境保護団体を名乗る武装グループがシージャックを試みたが、海上保安庁の特殊部隊によって一人の死傷者も出さずに完全制圧された』……と」
「うむ。26式やMK3のことは伏せるのだな」
総理が確認する。
「はい。あくまで『海保の精鋭が、卓越した練度で迅速に鎮圧した』という美談にします。
もちろん、世間は『あの数のテロリストを、無傷で、しかもこんな短時間で制圧できるわけがない』と疑うでしょうが……。
そこで、あえて少しだけ『情報』をリークします」
日下部の目が、悪戯っぽく光った。
「『実は、一部の部隊には最新鋭の国産装備が極秘配備されていたらしい』という噂を、ネットのミリタリー界隈や週刊誌に流すのです」
「……なるほど。26式の存在を、匂わせるわけか」
「ええ。
世間は『やっぱり日本の特殊部隊(SST)は、あのガンダムみたいなパワードスーツを着て戦っていたんだ!』『日本の技術力スゲー!』と熱狂するでしょう。
そして、背後で糸を引いていたロシア(やその他の敵対国)の陰謀論も、『レアメタル利権を狙った卑劣なテロだ』と激しく非難される。
我々は、深海採掘がダミーであるという最大の秘密を隠し通したまま、見事な『正義のヒーロー』としての地位を確立できるわけです」
「見事だ。完璧な情報操作(スピン)だな」
総理が深く頷き、満足げな笑みを浮かべた。
日本はまた一つ、危機を乗り越え、さらに国威を向上させることに成功したのだ。
だが。
日下部の胃の痛みが、ここで消えることはなかった。
(……地球側のお掃除は、これで一段落。
ロシアのちょっかいも防いだし、アメリカも中国も、今は手のひらの上だ。
……だが)
日下部は、スクリーンの端に小さく表示されている、テラ・ノヴァの映像に目をやった。
そこには、巨大なロケットサイロがそびえ立っている。
地球の政治的駆け引きなど、まるでどうでもいいと言わんばかりに、その「工場」は次の次元へと飛翔する準備を淡々と進めていた。
(工藤さんが宇宙で『何か』を見つけたら……。
今のこの絶妙なバランスなんて、また一瞬で吹き飛ぶんだろうな)
日下部は、空になった胃薬の袋をゴミ箱に放り投げた。
平和は、あくまでかりそめのものでしかない。
神の火を手に入れ、不老不死の薬をばら撒き、世界を監視する日本。
その暴走特急の行き着く先が、輝かしい未来なのか、それとも底なしの破滅なのか。
答えは、はるか星の海へと旅立った、あの一発のロケットだけが知っているのだった。
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