自宅に届いた『惑星開発キット』で、社畜SEは異世界工場の管理者になる ~運用保守はもう終わり。現代の物資と無限の資源で、銀河規模の自動化帝国を築き上げます~ 作:パラレル・ゲーマー
第92話 天空の覇者と秒速二百五十キロの遊覧飛行
【第八部 天空の箱舟と見えざる大空編 開始】
惑星テラ・ノヴァ。
紫色の空に浮かぶ二つの巨大な月が、赤茶色の大地を神秘的な青白い光で照らし出している。その静謐な夜空を、鼓膜を劈(つんざ)くような凄まじい轟音が切り裂いた。
ゴオオオオオオオオオオオオッ!!!!
大地を震わせる爆炎と共に、前線基地(FOB)の奥深くに建設された巨大なロケットサイロから、一筋の光の矢が天に向かって放たれたのだ。
それは、今日だけで実に十二発目となる打ち上げであった。
数万トンの鋼鉄と最先端の電子部品、そして莫大な量のロケット燃料を積載した飛翔体は、テラ・ノヴァの重力を嘲笑うかのようにやすやすと振り切り、瞬く間に雲の彼方、暗黒の宇宙空間へと吸い込まれていく。
その光の尾を、基地の中央に設けられた司令室の防弾ガラス越しに見上げていた工藤創一は、満足げにコーヒーを啜った。
「よし、軌道投入成功。ペイロードの分離を確認。……ロボットアーム、ちゃんと受け取ったな。これでプラットフォームの拡張ブロック、また一つ完成だ」
彼の瞳は、MK2ナノマシンによる超高度な演算処理の影響で、微かに青白く発光している。
現在、創一の関心は「空の向こう側」――テラ・ノヴァの衛星軌道上に建設中の『宇宙プラットフォーム』へと大きく傾いていた。宇宙空間でしか得られない新たな素材、そして『宇宙テクノロジーカード(白パック)』の量産体制を確立するため、彼は地上からガンガンと資材を打ち上げ続けているのだ。
宇宙開拓は順調そのものであった。
だが、だからといって地上をおざなりにできるわけではない。
宇宙での活動を支えるためには、地上の工場がこれまで以上のペースで資源を採掘し、部品を生産し続けなければならない。鉄、銅、石炭、原油、レアメタル、そしてウラン。要求される資源の量は、もはや初期の数百倍に膨れ上がっていた。
「……というわけで、久しぶりに作戦会議です!」
司令室の円卓。
創一は、タブレット端末を片手に、満面の笑みで宣言した。
円卓を囲むのは、防衛隊の権田隊長、そして、はるばる東京の首相官邸地下からゲートをくぐってやってきた内閣官房参事官、日下部である。
日下部は、地球側で日々繰り広げられる米中露との血みどろの情報戦と外交的暗闘に胃をすり減らしており、その顔には深い疲労の隈が刻まれていた。テラ・ノヴァの無菌室のような司令室の空気は、彼にとって唯一の休息の場となるはずだった。
「……作戦会議、ですか」
日下部は、嫌な予感に胃のあたりを押さえながら尋ねた。
この男が「作戦会議」という名目で嬉々として語り出す時、それは決まって地球の常識を根底から粉砕するような、とんでもないオーバーテクノロジーの発表の場となるからだ。
「ええ。宇宙開発は軌道に乗ってきたんですけどね、それに伴って地上の資源消費が激しくなりすぎまして。近場の鉱脈はもう掘り尽くしそうなんです。だから、もっと遠くの、何千キロも離れた未開拓の大陸まで資源を掘りに行きたいんですよ」
創一は、スクリーンにテラ・ノヴァの広域スキャンマップを映し出した。
基地の周辺はすでに緑色の安全地帯として確保されているが、その外側には、真っ赤に染まったバイターの超巨大な巣や、険しい山脈、広大な海が広がっている。
「鉄道を引くのも一つの手なんですけど、海を越えたり山を越えたりするのは流石に面倒くさくて。線路の防衛ラインを何千キロも維持するのも、権田隊長たちの負担になりますしね」
「その通りだ」
権田が深く頷いた。
「現在の防衛ラインだけでも、監視レーダーがあるとはいえ、隊員たちの疲労は蓄積している。これ以上、点と点を結ぶ長い線(ロジスティクス)を人が守るのは不可能に近い」
「ですよね! だから俺、考えたんですよ」
創一は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、タブレットの画面をスワイプした。
「線路を引くのが面倒なら、工場ごと飛んでいけばいいじゃないかって。
……というわけで、空飛ぶ工場を建造しようと思うんですよね!!!!」
「……はい?」
日下部と権田の声が、見事にハモった。
「空飛ぶ工場、ですか?」
「そうです! すでに図面は引いてあります。これを見てください!」
創一がエンターキーを叩くと、司令室の巨大スクリーンに、詳細な3DのCGモデルが投影された。
それは、飛行機やヘリコプターといった既存の航空機の概念とは、全く無縁の代物だった。
巨大な岩盤をそのままひっくり返したような、あるいはSF映画に登場する異星人の母船のような、圧倒的な質量を感じさせる漆黒の巨大構造物。
上部には無数の煙突、レーザータレット、ソーラーパネル、そして居住区画と思われるビル群が立ち並び、下部には反重力発生装置らしきリング状の機関と、大地から直接資源を吸い上げるための巨大なアームとドリルが格納されている。
「名付けて、『超弩級・空中都市・ヤタガラス』です!!」
創一は、まるで新作のプラモデルを自慢する少年のように胸を張った。
「全幅およそ八百メートル。そして全長は……三千メートル、つまり3キロです!」
「……3キロ!?」
日下部が、思わず椅子から立ち上がりかけた。
権田もまた、目を見開いてスクリーンを凝視している。
「3キロメートルだと……? アメリカの最新鋭の原子力空母ジェラルド・R・フォード級でも全長330メートル程度だぞ。その十倍近い巨体が、空を飛ぶと言うのか!?」
「マジですか……」
日下部は、あまりのスケールの大きさに眩暈を覚えた。
全長3キロ。それはもはや乗り物ではない。一つの「街」であり、文字通りの「都市」だ。山手線がすっぽりと収まってしまうほどのサイズである。
「マジですよ! というか、それくらいデカくないと、俺の要求する生産ラインが全部積み込めないんです」
創一は、平然と解説を続けた。
「このヤタガラスの内部には、採掘機から精錬炉、化学プラント、そして各種の自動組立機に至るまで、あらゆる物を生産できる完全な工場が内包されています。
基本的には、空からターゲットとなる未開拓の巨大鉱脈を見つけたら、その真上に陣取ってホバリングします。そして下部のトラクタービームと掘削アームを展開して、地中の資源をダイソン並みの吸引力で根こそぎ吸い取るんです。
吸い取った資源は、船内の工場で即座にインゴットや電子基板に加工され、完成品として保管される。そしてその鉱脈が枯渇したら、また次の鉱脈へと空を飛んで移動する……という、究極の移動式生産拠点(モバイル・ファクトリー)スタイルですね!」
「……なるほど。線路を引く手間も、輸送のコストも完全にゼロになるというわけか。合理的ではあるが……」
権田が腕を組み、唸るように言った。
「しかし工藤さん。これだけの巨大な質量を空中に浮かせ、さらに内部で大規模な工場を稼働させるとなれば、必要なエネルギーは天文学的な数字になるはずだ。どうやって飛ぶんだ?」
「あ、そこは大丈夫です。専用のエンジンを積んであるので」
創一はスクリーンの断面図を切り替え、船体深部に鎮座する巨大な機関部を指し示した。
「先日の研究で解禁された『疑似反物質リアクター(Antimatter Reactor)』と、宇宙プラットフォーム用の『超大型プラズマスラスター』を応用した、完全独自設計の疑似反重力エンジンです。
ウランのコバレックス濃縮プロセスからさらに派生させて、エネルギー変換効率を極限まで高めてあります。……まあ、墜落したらテラ・ノヴァの地形が変わるくらいの大爆発を起こしますけど、ナノマシンの安全装置(フェイルセーフ)が何重にもかかってるんで、絶対に落ちませんよ!」
「絶対に落ちない、と言われてもな……」
日下部は額の汗を拭った。
反物質リアクター。ついにこの男は、SF小説の中でしか存在しなかった究極のエネルギー源にまで手を出してしまったのか。
「それで、工藤さん。これほどの巨大な空中都市を建造するとなると……一体、どれくらいの時間がかかるんですか? 数年? 十数年ですか?」
日下部が恐る恐る尋ねる。
これだけの規模の建造物、地球の建築技術とゼネコンを総動員したところで、数十年はかかる大事業だ。
「一応、工期は3ヶ月ですね」
「……3ヶ月?」
「はい。まあ、本当はもっと早くできるんですけど、要求される特殊合金の精錬とか、反重力エンジンのコアパーツの組み立てに時間がかかっちゃって。
俺の持ってる建設ロボット数万機を24時間フル稼働させても、3ヶ月はみっちりかかります。ちょっと長くて退屈ですけど、まあ宇宙のプラットフォーム作りと並行してやれば、あっという間ですよ」
たったの3ヶ月。
日下部は、自分の常識が音を立てて崩れ落ちるのを感じた。
全長3キロの空飛ぶ都市が、季節が一つ変わる間に完成してしまうのだ。工藤創一の持つ「生産力」は、もはや国家の枠組みを超越し、神々の領域に足を踏み入れている。
「ちなみに、このヤタガラス、内部の居住区画もめちゃくちゃ充実させてあります」
創一は、自慢げに居住ブロックの図面を表示した。
「完全な循環型生命維持システムを搭載しているので、空気も水も食料も、外部からの補給なしで永久に自給自足できます。広大な人工農園や、温泉施設、娯楽ルームまで完備してますよ。
一応、最大収容可能人数は、約5万人から10万人を想定して設計しました!」
「ご、5万人!? 10万人!?」
権田が思わず声を荒げた。
「そんなに誰が乗るんだ! 現在、このテラ・ノヴァに駐留している防衛隊員と技術者を全員集めても、千人にも満たないんだぞ!」
「いやー、まあ、大は小を兼ねるって言うじゃないですか。それに、これだけ広ければ、隊員の皆さんも一人当たり超高級ホテルのスイートルーム並みの個室を持てますし、快適に過ごせるでしょ?
工場部分は俺とイヴとロボットだけで完全自動で回せるんで、人間のクルーは実質ゼロでも飛べるんですけどね。……ロマンですよ、ロマン!」
ガラガラの巨大都市。
十万人が暮らせる箱舟に、たった数百人しか乗らずに空を漂う。そのシュールな光景を想像し、日下部は重い溜め息をついた。
「……分かりました。テラ・ノヴァでの資源採掘の効率化のために、その『空中都市』が必要だというのなら、建造を止める権利は私にはありません。どうぞ、お好きに作ってください」
日下部が、半ば諦めの境地で許可を出そうとした、その時だった。
「ああ、ありがとうございます!
いやー、よかった。これで日本防衛にも使えますよ!」
「…………え?」
日下部の動きが、ピタリと止まった。
今、この男はなんと言った。
「日本防衛、ですか?」
「はい!」
創一は、これ以上ないほどに晴れやかな笑顔で頷いた。
「俺の右手に埋め込まれてる『ゲートキューブ』、あるじゃないですか。あれのシステムをヤタガラスのメインコンピューターと連動させる設計にしてあるんです。
つまり、船体全体を包み込むような巨大な位相空間フィールドを展開して、テラ・ノヴァから地球へと、直接『位相空間ジャンプ(ワープ)』する機能付きなんですよ!」
シン……。
司令室の空気が、完全に凍りついた。
「……地球に、持ち込める、と?」
「ええ! 新木場のゲートをわざわざ通らなくても、上空の指定した座標にポンとワープできます。
だから、もし日本が他国から攻められたり、ミサイルを撃たれたりするようなピンチになったら、俺がこのヤタガラスごと地球の空にジャンプして、いざとなったらこれで戦えます!
数千門のレーザータレットが一斉掃射すれば、敵の艦隊なんて一瞬で蒸発しますよ!」
創一は、正義のヒーローにでもなったかのように、熱っぽく語った。
彼にとっては、お世話になっている日本政府への最大の恩返しのつもりなのだ。
だが、それを聞いた日下部の顔面からは、一瞬にして血の気が引き、土気色に変わっていた。
「い、いや……」
日下部は、震える手を前に突き出し、全力で首を横に振った。
「いや止めて下さいよ!! 絶対に、絶対に持ち込まないでください!!!」
日下部の絶叫が、司令室に響き渡った。
普段は沈着冷静な官僚が、これほどまでに取り乱すのは珍しい。権田隊長も、日下部のあまりの剣幕に驚いている。
「えー? なんでですか?」
創一は、本気で不思議そうに首を傾げた。
「せっかくの超兵器なのに。日本の抑止力として最強じゃないですか」
「抑止力どころの騒ぎではありません!!」
日下部は、机に両手をついて身を乗り出した。
「いいですか、工藤さん! 全長3キロですよ!? 3キロメートルの巨大な黒い要塞が、突然東京の上空に現れてみてください!
パニック映画の始まりです! インデペンデンス・デイですよ!
日本国民は恐怖で発狂し、日経平均株価はストップ安、世界中の軍隊が『宇宙人が攻めてきた!』と勘違いして、日本に向けて核ミサイルのボタンを押しかねません!
……それに、そんなものを地球で使ったら、我々が必死に隠してきた『テラ・ノヴァの秘密』が一瞬で全世界にバレるじゃないですか!!!」
日下部の悲痛な叫びは、全くの正論であった。
これまで日本政府は、「ナノマシン」や「レーダー網」といった技術を、あくまで「日本の優れた研究機関が開発した」というカバーストーリーで誤魔化してきた。
だが、全長3キロの空中都市が突然ワープしてくれば、どんな言い訳も通用しなくなる。地球の科学力を完全に逸脱したエイリアンのテクノロジーを日本が独占していることが、全世界に露見してしまうのだ。
それは、世界中を敵に回すことを意味していた。
「ああ、バレる心配なら無用ですよ」
だが創一は、日下部の必死の抗議を、あっさりと笑顔で受け流した。
「いえ、ステルス機能も完璧に付いてるんで。目視でも、レーダーでも、一切感知不能です」
「……は?」
「光学迷彩(アクティブ・カモフラージュ)を展開して背景の空と完全に同化しますし、電波吸収材と重力制御による音響キャンセラーも搭載しています。
さらに、強力なジャミング機能付きなんですよね!
だから、新宿の真上に全長3キロの船が浮いていても、下を歩いてる人たちは全く気づきません。青空が見えるだけです」
創一は、得意げに胸を張った。
「だから、地球に持ち込んでもバレませんよ! 見えないんだから!」
「見えないから良いという問題ではありません!!」
日下部は、頭を抱えて座り込んだ。
この男の「技術的な解決策」は、常に政治的・社会的な不安を全く考慮していない。見えなければ、上空に3キロの反物質リアクターを積んだ爆弾が浮いていても良いのか。万が一、墜落でもしたらどう責任を取るというのだ。
「……そもそも、工藤さん」
日下部は、荒い呼吸を整えながら、どうにか論点をすり替えようと試みた。
「地球で、何と戦うつもりですか?
現在、日本の周辺の安全保障環境は、我々の外交的努力によって極めて安定しています。アメリカとは強固な同盟を結び、中国は我々の顔色を窺い、ロシアはおとなしくしています。
……宇宙人でも攻めてこない限り、そんな全長3キロの空中要塞なんて、地球では絶対に不要でしょ……」
日下部の言葉は、半分は真実であり、半分は虚勢だった。
世界が安定しているのは、日本が「薬」と「眼」という首輪で大国を縛り付けているからに過ぎない。いつそれが破綻するか分からない薄氷の平和だ。
だが、だからといって、この「最終兵器」を地球に持ち込むリスクはあまりにも大きすぎた。
「うーん……それはそうなんですが……」
創一は、少しだけ残念そうに唇を尖らせた。
だが、すぐにまた目を輝かせて、とんでもないことを言い出した。
「でも、エンジンも凄く良いの積んでるんですよ!
最大出力で飛ばせば、大気圏内でも250km/s(秒速250キロメートル)出ます!」
「……に、にひゃくごじゅう……!?」
権田隊長が、素っ頓狂な声を上げた。
日下部も、自分の耳を疑った。
「秒速、250キロ……?
時速じゃなくて、秒速ですか?」
「はい! 宇宙プラットフォーム用の推進器を積んでますからね。
秒速250キロってことは……地球の赤道一周が約4万キロだから、えーと、だいたい3分弱?
地球の裏側のブラジルまで、1分半で行けちゃいます!」
創一は、ケラケラと笑いながら恐ろしい計算を披露した。
「大気圏内でそんな速度を出したら、空気の断熱圧縮でプラズマ化して、船体が燃え尽きるか、衝撃波で地上の都市が壊滅するだろ!」
権田が軍人としての常識で叫ぶが、創一は首を横に振った。
「大丈夫ですって。反重力フィールドと偏向シールドで船体の周囲を覆うので、空気抵抗は完全にゼロになります。ソニックブームも起きません。
だから、地上に一切の被害を出さずに、マッハ700以上の速度で地球のどこへでも一瞬で移動できるんです!」
「マッハ……700……」
日下部は、もはや声も出なかった。
アメリカの大陸間弾道ミサイル(ICBM)ですら、マッハ20程度だ。
全長3キロの都市が、見えない状態で、ミサイルの数十倍の速度で空を飛び回る。
防空網など全く意味をなさない。迎撃も不可能。
その気になれば、世界中のあらゆる国の首都の上空に1分以内に到達し、一瞬で国を滅ぼすことができる「神の鉾」だ。
「……どうです? これがあれば、いざという時の避難用にも使えますし。最高じゃないですか?」
創一は、どこまでも無邪気に提案した。
彼にとっては、これは単なる「速くてデカいキャンピングカー」のような感覚なのだ。
日下部は、深く、深く息を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出した。
彼の中で、官僚としての諦観と、究極の妥協案が形作られていく。
この男の「ものづくりへの情熱」を止めることはできない。ならば、せめて被害を最小限に食い止めるルールを設けるしかない。
「……分かりました、工藤さん」
日下部は、死んだ魚のような目で創一を見つめた。
「建造許可は出します。テラ・ノヴァの空で、好きなようにその『ヤタガラス』とやらを飛ばしてください。資源の採掘効率が上がるのは、日本にとっても有益ですから」
「おおっ!」
「……ですが!」
日下部は、机をバンと叩いて念を押した。
「日本政府としては、『そんなものは存在しない』という立場を貫きます。一切、知らないことにしますからね!
だから……もし、万が一、地球に持ち込むようなことがあっても、絶対に、絶対にステルスは解除しないでください!
誰の目にも触れず、音も立てず、完全に気配を消してください。……いいですね!?」
それは、事実上の「地球への持ち込み(こっそりなら)許可」でもあった。
日下部もまた、心のどこかで「もし本当に日本が存亡の危機に陥った時は、この男のラピュタに頼るしかない」と計算してしまっていたのだ。
「やったー!! 許可出た!!」
創一は、子供のように両手を上げて歓喜した。
「ありがとうございます、日下部さん!
いやー、完成したら、絶対に地球側で遊覧飛行しようと思ってたんですよ!
ステルスかけたまま、ハワイの上空でホバリングして、甲板でバーベキューとか最高じゃないですか!
……あ、そうだ。東京タワーの真上に浮かべて、みんなで夜景見ながら宴会とかもいいですね!」
「……勝手にしてください。ただし、絶対にバレないように……」
日下部は、両手で顔を覆い、そのまま机に突っ伏した。
胃薬の束が、彼のポケットの中でカサカサと虚しい音を立てていた。
こうして、テラ・ノヴァの空に、人類の常識を凌駕する超弩級の空中都市が産声を上げることが決定した。
全長3キロ。秒速250キロ。完全ステルス。
一人の工場長が、ただ「面倒くさいから」という理由と「ロマン」だけで作り上げる天空の箱舟。
それはやがて、地球の大国たちが繰り広げる血みどろの権力闘争の頭上を、文字通り「高みの見物」として優雅に飛び越えていくことになるのだった。
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