自宅に届いた『惑星開発キット』で、社畜SEは異世界工場の管理者になる ~運用保守はもう終わり。現代の物資と無限の資源で、銀河規模の自動化帝国を築き上げます~   作:パラレル・ゲーマー

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第126話 席を奪われた共和国

 フランス共和国、パリ。

 華やかなシャンゼリゼ通りの喧騒から隔離された、重厚な石造りの大統領官邸――エリゼ宮。その地下深く、国家防衛・安全保障会議(CDSN)が召集される極秘のオペレーションルームは、冷たく張り詰めた空気に支配されていた。

 

 豪奢な装飾が施された地上の執務室とは打って変わり、無機質なモニターと通信機器が壁面を埋め尽くすその部屋に集められていたのは、フランスという国家の「剣」と「盾」、そして「眼」を担う少数の首脳陣である。

 大統領を中心に、外務大臣、軍事大臣、統合参謀総長、大統領府外交補佐官、そして対外治安総局(DGSE)長官。さらには経済・対EU戦略を担う上級官僚が、息を潜めるようにして円卓を囲んでいた。

 

 彼らの視線は一点、円卓の中央に置かれた一枚の書類に注がれていた。

 それは、アメリカのワシントン、そして極東の島国である日本からの、合同の『公式通知』の要約であった。

 

 大統領が、低く、押し殺したような声で命じた。

 

「……読め」

 

 大統領府外交補佐官が、重々しく書類を手に取り、無感情な声で読み上げ始めた。

 

「『日米の安全保障協力の枠組みに基づく、次世代戦傷対応ナノマシン製剤――コードネーム・フェーズグレイの試験運用に関する方針について。

 現状の国際情勢および技術管理のリスク評価に鑑み、本技術の先行配備および試験運用国として、まずは英国を指定する』」

 

 補佐官は一呼吸置き、最も重い一文を口にした。

 

「『フランス共和国については、今回の初期試験運用の対象外とし、その順番は未定とする。……ただし、今後も優先的な協議対象国として継続審査を行い、協議窓口は維持する。今後の行動と信頼形成を踏まえ、検討を続ける用意がある』……以上です」

 

 読み終えられた後、オペレーションルームには数秒の、完全な沈黙が落ちた。

 誰も口を開かない。だが、その沈黙は静寂ではない。沸点に達する直前の、マグマが膨張するような重苦しい熱の蓄積であった。

 

 そして。

 

「……くそっ。やられた!」

 

 大統領が、拳で円卓を激しく叩きつけた。

 それが合図であったかのように、同席していた閣僚と情報機関のトップたちが、一斉に感情を爆発させた。

 

「ロンドンめ……! あの雨と霧の島が、また我々よりも先に席へ通されたか!」

 

 外務大臣が、普段の洗練された外交官の仮面をかなぐり捨て、忌々しげに吐き捨てた。

 

「イギリスらしいですよ。本当に」

 

 DGSE長官が、氷のような、しかし明確な怒りを込めた声で毒を吐く。

 

「気取った執事の顔で揉み手をしながら、他人よりも半歩だけ先に扉をくぐるのだけは、昔から世界一得意ですからね、あの連中は」

 

「実に英国的だ。自分では未来を発明する能力もないくせに、入口の列に割り込む嗅覚と、アメリカの靴を舐めるタイミングだけは一流だ」

 

 軍事大臣が、鼻で笑いながら痛烈な皮肉を浴びせる。

 

「あの連中はいつもそうです」

 

 外交補佐官も、眉間に深いシワを寄せて同調した。

 

「食卓のメニューを考えたのも、料理を用意したのも他人です。だが、最初に席へ座って、さも当然のように銀器を撫で回すのは、いつだってロンドンだ」

 

 会議室は、イギリスに対する洗練された、しかし極めて濃厚な悪意と罵倒の嵐に包まれた。

「あの島国の礼儀正しさは、いつも一番嫌な形で効く」

「王室と紅茶と、保険契約のサインだけで世界を回したつもりになっている海賊の末裔どもが」

「あの連中が愛想よく微笑む時は、たいてい誰かの椅子を盗んだ後だ」

 

 露骨な下品な言葉は使わない。だが、だからこそ歴史的なライバルに対するプライドを傷つけられた屈辱が、文化人の顔をした嫌味となって次々と飛び出していく。

 

「……ふっ、ははは」

 

 大統領は、その罵倒の連鎖を聞いているうちに、怒りの頂点を通り越し、思わずといった様子で乾いた笑いを漏らした。

 腹は立つ。だが、感情を言葉にして吐き出すことで、頭に上っていた血が少しずつ引いていくのを感じていた。

 この「一度全員で存分に英国を罵倒する」というプロセスは、フランスの指導層が理性を保ち、次なる戦略を練るために絶対に必要な『儀式』であった。

 

「……ふう」

 

 大統領は、手元のグラスからミネラルウォーターを一口飲み、そして椅子に深く座り直した。

 

「さて、諸君。愚痴はここまでだ」

 

 その一言で、オペレーションルームの空気が一気に冷え込んだ。

 先ほどまでの熱を帯びた罵倒の余韻は跡形もなく消え去り、氷のような冷徹な空間が戻ってくる。フランスの真骨頂である、冷酷なまでの論理の時間が始まるのだ。

 

「分析の時間だ」

 

 大統領は、テーブルの中央に置かれた通知書を指差した。

 

「我々は、待ちぼうけを食らった。ロンドンに先を越され、扉の外に立たされた。……その点に異論はないな?」

 

 閣僚たちは無言で頷く。敗北は敗北として、飾らずに認める。それが大国のリアリズムだ。

 

「だが」

 

 大統領は、目を鋭く細めた。

 

「忌々しい英国が先に着いたその席は、果たして本当に『良い席』なのか?」

 

 その問いかけが、会議の論点を根本からずらした。

 ただ悔しがるのではない。相手が得たものの『価値』を正確に値踏みするのだ。

 

「DGSE長官。……通知には、英国側が受け入れた詳細な条件までは書かれていないな?」

 

「はい。あくまで『試験運用の先行配備』という事実のみです」

 

 長官は即答した。

 

「つまり、完全な技術の共有として自由な形で提供されたのか、それともガチガチの首輪を嵌められた状態での限定的な使用権なのか、その最終的な姿は見えません」

 

 その言葉に、軍事大臣が顎を撫でながら推測を口にした。

 

「自由な形での提供……? いや、ないですね。それは断言できます」

 

 大臣は、極めて明確な根拠を並べ立てた。

 

「第一に、アメリカがそのような真似を許すはずがない。彼らは現在、あの技術によって軍事的優位性を独占している状態です。覇権の源泉を、いくら同盟国とはいえ、自由に共有して自らの価値を下げるようなマネは絶対にしません。

 第二に、技術の供給元である日本もまた、英国へ野放図に流すほど甘くはないはずです。彼らは我々フランスと英国を天秤にかけ、外交カードとして利用しようとしている。ならば、最初から無条件で渡すはずがなく、徹底的に条件を絞り、生殺与奪の権を握ったまま渡すに決まっています」

 

「それに」

 

 外交補佐官が引き継ぐ。

 

「そもそも英国が先行したからといって、英国があの技術の『所有者』になったわけではありません。彼らはあくまで、技術の『利用者(ユーザー)』のリストの最上位に登録されたというだけに過ぎないのです」

 

 大統領は、皮肉っぽく口の端を歪めた。

 

「ロンドンが招待されたのは、確かに最上級の食卓だ。だが、食器棚の鍵まで渡されたとは思わんな」

 

 その見事な比喩に、会議室の中に薄い笑いが漏れた。

 

「では、英国が座らされた『席』の条件を推定してみましょう」

 

 DGSE長官が、これまでのアメリカと日本の動き、そして情報機関の常識をベースにして、条件のプロファイリングを始めた。

 

「おそらく、所有権の移転はなし。使う時だけアメリカ軍の監視下で手渡しされる。英国内での常備在庫の保持は認められず、成分の分析やリバースエンジニアリングは厳禁。使用ログや生体データはすべて日米へ送信され、対象となる任務も極めて限定的な特殊作戦のみ。……そして、もしテストで失敗や情報漏洩があれば、即座に供給をストップされる」

 

「……なるほど」

 

 軍事大臣が、少しだけ満足げな声を出した。

 

「だとすれば、英国が手に入れたのは『自由』ではない。

 椅子だ。……しかも、強固な首輪付きのな」

 

 再び、会議室に意地悪な笑いが広がった。

 自分たちを出し抜いたイギリスが、実は日米から首輪をつけられ、這いつくばって餌をもらっているだけだと想像するのは、フランスのプライドを大いに慰めるものだった。

 

「つまり、ロンドンは我々より先に座った。……だが、彼らを繋ぐ鎖の長さは、せいぜい数メートルといったところか」

 

 大統領が結論づけ、頷いた。

 

「……とはいえ、大統領」

 

 だが、その安堵と優越感に冷水を浴びせるように、DGSE長官が極めて冷静に事実を指摘した。

 

「席は、席です」

 

 その一言が、会議室の空気を再び現実に引き戻した。

 

「たとえ首輪付きの屈辱的な席であったとしても、英国は確実に『中』へ入りました。

 彼らはこれから、あのオーバーテクノロジーの実運用データに直接触れ、米日との共同運用のテーブルに着くのです。……我々フランスは、いまだに分厚い扉の外で、窓から中の様子を覗き込もうとしているだけの状態です。

 このアドバンテージの差は、決して無視できるものではありません」

 

 その現実は重かった。

 イギリスをどれだけ小馬鹿にしようと、彼らが「一歩先」を行っているという事実は覆らないのだ。

 

「ええ。我々は後れを取った。

 ……そこは飾らずに認めましょう」

 

 大統領は、潔く敗北の一部を認めた。

 現実を歪めて精神勝利に逃げるのは三流のすることだ。現実を現実として呑み込み、その上で次の一手を打つのがフランスのやり方である。

 

「では、我々は何を求める?」

 

 大統領の鋭い問いかけに、外務大臣が即答した。

 

「英国と『同じ待遇』では、足りません」

 

 その一言は、非常に強い決意を伴っていた。

 

「今から日米に頭を下げて『どうか我々も、英国と同じ首輪付きの条件で中に入れてください』と懇願するのは、ただの無様な後追いです。

 我々フランスの国家としての価値は、英国の模倣や下位互換になることではない。

 我々が欲しいのは、首輪を嵌められることではなく、対等な交換条件に基づく契約です。あるいは少なくとも、日米に続く『第三の正式参加者(プレイヤー)』としての格です」

 

「そうだ。フランスは、列の最後尾に並んでおこぼれを待つためにここにいるのではない」

 

 大統領が力強く頷く。

 

「我々が欲しいのは、英国が座らされたような『中古の椅子』ではない」

 

 軍事大臣が続ける。

 

「ええ。我々が手に入れるべきは、日米の二つの椅子の横に堂々と置かれる、『三脚目の椅子』です」

 

 外交補佐官の言葉に、会議室の全員が深く同意した。

 プライドが高く、傲慢とすら言えるかもしれない。だが、ヨーロッパ大陸の軍事・政治の盟主を自負するフランスにとって、それは絶対に譲れない一線であり、筋の通った要求であった。

 

「では、その『三脚目の椅子』を手に入れるための具体的な行動に移る。……調整チームを作れ」

 

 大統領が命じた。

 

「日本が、喉から手が出るほど欲しがっているものを探れ。

 我々が彼らに提示できる、最大の『交換条件(カード)』を」

 

 その命令に対し、外務大臣が少しだけ目を伏せ、小さく呟いた。

 

「ええ。……目星は、概ねついております」

 

 その言葉に、会議室の参加者たちの思考が、一瞬だけ止まった。

 誰もが同じ単語を思い浮かべている。だが、そのカードの持つ意味があまりにも巨大で、そして切るタイミングが難しすぎるため、すぐには口に出せなかった。

 一拍の重い沈黙。

 

「……国連の、常任理事国入りだな」

 

 大統領が、静かにその言葉を口にした。

 

 部屋の空気が、微かに張り詰めた。

 

「日本の、戦後外交における最大の悲願でしょう」

 

 外務大臣が低く応じる。

 

「ええ。彼らがどれほど技術的・経済的に突出していようと、国際社会の『ルールを作る側』に座れていないという事実は、彼らにとって最大のコンプレックスであり、アキレス腱です。我々フランスは、その『正統性(パスポート)』を与えることができる数少ない国の一つです」

 

 DGSE長官も現実的に頷く。

 

「日米仏による、新たな技術・安全保障の枠組みの構築。そして、その見返りとしての、日本の常任理事国入りへのフランスの『絶対的な支持』。

 ……これほど巨大で、日本が魅力に感じるカードは他にありません」

 

 見事な整理であった。

 だが、そのカードを切るための「条件」は、極めて複雑な連立方程式であった。

 

「そのカードが機能するかどうかの、可能性の計算をしよう」

 

 大統領が、冷徹な制度算術を開始した。

 

「常任理事国の拡大、あるいは新規参入には、当然ながら現在のP5(五大国)すべての賛同、あるいは少なくとも改正案を批准する『拒否権の不行使』が必要だ。

 一つずつ検討するぞ。……まず、アメリカは?」

 

「完全に日本側です。彼らはむしろ、自分たちの手足となる日本が安保理で発言権を強めることを歓迎するでしょう。問題ありません」

 

 外交補佐官が即答する。

 

「イギリスは?」

 

「今回の件で、英国は日米に強烈な恩を売られ、首輪を付けられました。逆に言えば、それゆえに彼らは日本の常任理事国入りを承認しやすくなります。少なくとも、表立って反対することは物理的に不可能です。同調するしかありません」

 

「問題は、中国だが……」

 

 大統領が眉をひそめた。歴史的に日本の安保理入りを最も強硬に反対してきた国だ。

 

 だが、外交補佐官は少し不気味な表情を浮かべて言った。

 

「それが……。最近の中国は、妙に日本を『愛して』いるのですよ」

 

 会議室に、微妙な沈黙が落ちた。

 

「あの『愛してる』と念仏のようにつぶやき続ける、不気味な中国か」

 

 軍事大臣が、苦々しく、そして心底嫌そうに笑った。

 

「我が国の洗練された愛情表現よりも多彩で、しかも粘着質だ。正直言って、かなり気味が悪い」

 

 そのフランスらしいエスプリの利いた毒舌に、何人かが小さく吹き出した。

 だが、本質は極めて冷たい現実だ。

 

「尖閣の譲渡に始まり、日中の不可侵、そして台湾問題にすら踏み込もうとしている現在の中国指導部の異常な『対日宥和姿勢(媚び)』を考えれば……。

 彼らは、日本が常任理事国入りすることに対しても、反対の拒否権を行使しない可能性が極めて高い。むしろ、『我々が日本の安保理入りを推薦してやった』というポーズを取って、日本に恩を売ろうとする確率の方が高いでしょう」

 

「なるほど。中国もクリアできる公算が高い、と」

 

 大統領が頷いた。

 アメリカ、イギリス、中国。ここまで揃えば、リーチだ。

 

「……問題は、ロシアだ」

 

 大統領の言葉に、部屋の空気が一気に重くなった。

 本当の障害が、そこにあるからだ。

 

「ええ。彼らはウクライナでの休戦と引き換えに、日本に対して『北方領土』では引きました。一部宥和の姿勢は見せています」

 

 外務大臣が、厳しい顔で現状を整理する。

 

「だが、それだけです。領土を返すのと、国連安保理における日本の地位向上を認めるのとは、全くの別問題です。

 ロシアは現在、世界から孤立し、自国の『常任理事国としての椅子』の価値にすがって生き延びようとしています。その彼らが、自らの相対的な価値を下げるような、新たな常任理事国の追加を、そう簡単に了承するとは思えません」

 

「彼らは譲歩はするが、承認は別、ということか」

 

 大統領は、深く息を吐いた。

 

「ここがジレンマだな」

 

 大統領の言葉通り、これがフランスの抱える最大のジレンマであった。

 

「『日本の常任理事国入り支持』というこの最大のカードは……できることなら、ロシアも賛成(あるいは黙認)すると『確定した瞬間』に切りたい」

 

 大統領が、カードの切り所について言語化した。

 

「もしロシアが反対すると未確定の段階で、我々が日本にこのカードを切ってしまえば、それは単に『我々は日本を支持しますよ』という空手形(リップサービス)に過ぎなくなる。

 そして我々が先走って支持を表明すれば、ロシアはそれを見て、『日本が安保理に入るには我々の同意が必要だぞ』と、足元を見て値段を吊り上げてくる。あるいは、アメリカやフランスへの外交的嫌がらせのための反対材料として使われるだけだ」

 

「つまり、このカードは『ロシアが折れる道筋が完全に見えた』という、最も価値が高まる瞬間まで握っておくべきだということですね」

 

 DGSE長官が確認する。

 

「ええ。ロシアより先に出せば、価値は確実に落ちます」

 

 外務大臣も同意した。

 

「だから、今は切りたくない。……だが、我々フランスが日本の『秘密のテーブル』に食い込むには、これ以上に効果的な切り札(ジョーカー)もない。

 ……悩ましいところです」

 

 ジレンマ。

 使いたいが、今使うと安売りになる。

 だが使わなければ、日本への距離は縮まらない。

 

 大統領は、円卓の上で組んだ指を見つめ、静かに結論を出した。

 

「結論だ。

 ……常任理事国支持のカードは、今は切らない」

 

 一拍置く。

 

「だが、常にピカピカに磨いておく」

 

 その言葉は、力強かった。

 

「日本が最も欲しがるものの一つとして、我々の懐に隠し持っておく。そして、ロシアの態度を注視しながら、そのカードの価値が最高潮に達するタイミングを計る。

 それまでは、別の『中札』を連続して切ることで、日本との距離を詰めていく」

 

「中札、ですか」

 

「そうだ。

 防衛・医療分野における限定的な二国間協議の立ち上げ。

 EUの強固な競争法や医療規制に関する、日本企業への水面下での特例措置(便宜)の提供。

 我々が強い影響力を持つアフリカや地中海圏での、日本の資源戦略に対する外交パイプの提供。

 そして、国際機関における『静かで、しかし確実な日本支持』の積み重ねだ。

 ……我々は、いきなり大札を叩きつけるような無粋な真似はしない。中札を連続して出し、フランスという国が日本にとって『極めて実務的で有益なパートナー』であることを、時間をかけて理解させるのだ」

 

 それは、非常にフランスらしい、プライドを保ちながらも実利を取りに行く、洗練されたアプローチであった。

 

「……ロンドンが、先に席へ着いた。

 結構なことだ」

 

 会議の終わり。

 大統領はゆっくりと立ち上がり、円卓の閣僚たちを見下ろした。

 

「だが諸君。忘れるな。

 『席に着く』ことと、『テーブルの上の料理を動かす』ことは、全く別の技術だ」

 

 その言葉に、閣僚たちの目に再び強い光が宿る。

 

「フランスは、まだ負けていない。

 ただ、最初の一杯の乾杯を、あの気取った隣人に取られただけだ」

 

 大統領の宣言に、参加者たちが静かに、しかし深く頷く。

 イギリスに先を越された悔しさは、当然消えてはいない。

 だが、もはや感情的な怒りだけではない。彼らは冷徹に現実を分析し、自らの価値を再定義し、次なる反撃のためのシステムを再起動させていた。

 

「調整チームを動かせ。

 東京の官僚たちが、表に出さずに本当に欲しがっているものを、我々が先に見つけ出すのだ」

 

 大統領の命令が、地下のオペレーションルームに響き渡った。

 

 席を奪われた共和国は、ただ不貞腐れて扉の外で座り込んでいるような柔な国ではない。

 彼らは別の扉の鍵を作り、堂々と正面から「三番目の特等席」を要求するための、緻密で壮大な外交戦を開始したのである。

 日本の生み出した奇跡を巡るヨーロッパの暗闘は、新たなフェーズへと静かに移行していった。




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