自宅に届いた『惑星開発キット』で、社畜SEは異世界工場の管理者になる ~運用保守はもう終わり。現代の物資と無限の資源で、銀河規模の自動化帝国を築き上げます~   作:パラレル・ゲーマー

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第218話 アメリカ政府、ゴミ山を鉱山として見る

 アメリカ合衆国、ワシントンD.C.。

 ホワイトハウスの地下深くに位置する大統領危機管理センター(PEOC)に隣接した、極秘の安全保障会議室。

 この窓のないコンクリートの箱は、外部のあらゆる電磁波、音声、物理的振動を完全に遮断し、盗聴の可能性を極限までゼロに近づけるよう設計されている。

 室内を満たしているのは、最新鋭の空調設備が発する微かな駆動音と、凍てつくような冷徹な空気だけだ。

 

 円卓の上座に座る第48代大統領キャサリン・ヘイズは、手元のコーヒーカップを置き、重く、深いため息を吐いた。

 彼女の目の前には、タイタン・グループの総帥であるノア・マクドウェルと、CIA長官のエレノア・バーンズが並んで座っている。さらに、エネルギー省長官、環境保護庁(EPA)長官、国防総省の代表、商務省代表、財務省代表、国家安全保障担当補佐官といった、アメリカの国家運営を担う重鎮たちが顔を揃えていた。

 

 通常の国家安全保障会議ではない。軍事的な危機やテロの兆候に対応するための集まりでもない。

 これは、極東の同盟国からもたらされた『アンノウン案件』を処理するための、特別な顔ぶれによる極秘会議であった。

 

「……今度は、何かしら」

 ヘイズ大統領は、疲れ切った声で口火を切った。

「火星? 月面基地? 新しい医療技術? フルダイブの追加規制? ……それともまた、現実の定義を根底から壊すような、何か新しい爆弾?」

 

 ノアは、まるで最高級のワインをテイスティングする前のような、優雅で楽しげな笑みを浮かべた。

「ご安心ください、大統領。今回は、表向きには『リサイクル技術』の提案です」

 

「表向きには、ね」

 ヘイズ大統領は、その言葉の裏に隠された意味を警戒して眉をひそめた。

 

 エレノアが、氷のように冷たく、一切の感情を交えない声で補足する。

「日本が“表向きには”と言う時点で、だいたい世界の前提が一つ壊れます。油断は禁物です」

 

「同感よ。それで、そのリサイクル技術とやらは、どんな代物なの?」

 

 ノアが手元の端末を操作し、円卓の中央にホログラムの資料を展開した。

 それは、日本政府の深部実務ライン――日下部内閣官房参事官から、ノアとエレノア宛てに限定共有された極秘メールの添付ファイルだった。

 

 件名:『日米戦略資源再生共同実証計画に関する限定共有』

 

「装置の内部名称は『リクレーマー』。元素分離・高効率資源再生装置、とのことです」

 ノアが概要を読み上げる。

「危険物、生体物、放射性物質は通常処理不可。含まれている元素のみを抽出可能。事前の粉砕や分類といった前処理が必須。……廃棄物、スクラップ、電子ゴミ、廃バッテリー、工業スラグ、そして『深海泥』などから、有用な元素を極めて高純度で回収できるそうです」

 

 ヘイズ大統領は、そのリストの中の一つの単語に目を留め、しばらく沈黙した。

 

「……なるほど。これは、日本の『海底レアメタル事業』の答えね」

 

「恐らくは」

 エレノアが静かに同意する。

「我々情報機関も、日本が『南鳥島沖の深海から無尽蔵にレアメタルを採掘している』という公式発表には、長年強い疑念を抱いていました。海流のデータや採掘船の動向と、出力される資源の量がどうしても噛み合わなかったからです。……彼らが供給してきた資源の一部には、当初からこの系統の技術が絡んでいたと見るべきでしょう」

 

「都市鉱山やゴミを、アンノウンの技術で元素レベルに分解してレアメタルに錬成していた……。それなら、莫大な供給量にも説明がつきますね」

 国家安全保障担当補佐官が、長年の謎が解けたように頷いた。

 

「日本側は、今回初めて我々に、この装置の『貸与・共同運用』の打診をしてきました」

 ノアが、ホログラムのページを切り替える。

 

「条件は?」

 ヘイズ大統領の問いに対し、ノアは日本側から提示された極めて強気な要求リストを表示した。

 

『所有権は日本側が保持』

『装置の分解・解析は一切禁止』

『無断での移設禁止』

『投入する廃棄物の事前登録制』

『オラクル義体による常時監査の受け入れ』

『中核部(コア)への物理的・電子的アクセス禁止』

『中国・ロシア系企業の接触禁止』

『出力された資源の用途報告義務』

『軍事スクラップ処理時は、米側責任者の立会いを必須とする』

 

 国防総省の代表が、そのリストを見て露骨に顔をしかめた。

「……ずいぶんと厳しい条件ですね。我々アメリカの領土に置く装置でありながら、実質的な管理権限は完全に日本側に握られている。これでは、我々は米国内の施設でありながら、主権的な運用権限をほとんど持てないことになります」

 

「当然です。逆の立場なら、我々も絶対に売りません」

 エレノアが、国防総省代表の不満を冷徹に一刀両断にした。

「中核技術をブラックボックス化したまま、同盟国に『運用権』だけを渡して恩を売る。日本の外交手法としては極めて合理的かつ定石通りです」

 

 ヘイズ大統領は、腕を組みながら円卓の面々を見回した。

「……それで、これほど屈辱的とも言える条件を飲んでまで、我々がこれを借りる価値はあるの?」

 

 ノアは、ニヤリと笑みを深めて即答した。

「絶大です」

 

 ◇

 

「まずは、我々の足元の『現実』を見ていただきましょう」

 

 ノアの操作で、スクリーンにアメリカ国内の廃棄物に関する膨大な統計データが表示された。

 

「EPA(環境保護庁)の既存統計によれば、アメリカ合衆国は二〇一八年の単年において、約二億九千二百四十万トンの都市ごみを発生させています。そのうち、リサイクルされずに埋立処分された量は、約一億四千六百十万トン」

 ノアは、淡々と数字を読み上げていく。

「埋立ごみの最大構成要素は食品で約二四パーセントですが、プラスチックも約一八パーセントを占めており、量にして約二千七百万トンが、ただ地中に埋められています」

 

 ヘイズ大統領は、その天文学的な数字を見て、低い声で言った。

「……アメリカは毎年、それだけの量の資源を、ただ地面に埋めて捨てているということね」

 

「はい、大統領。そして、それは現在進行形で我々の首を絞めています」

 EPA長官が、重苦しい表情で発言を引き継いだ。

「既存の埋立地(ランドフィル)は、すでに限界を迎えつつあります。メタンガスの大量発生による温室効果。地下水への浸出水汚染。PFAS(有機フッ素化合物)の拡散。悪臭による地域住民との対立。そして何より、新たな埋立地を確保するための用地不足。……もし、このリクレーマーという装置が、埋められる前のゴミを根本から『無害な資源』へと変換できるのであれば、アメリカの環境行政の地図は、文字通り一夜にして大きく書き換わります」

 

「環境問題の解決だけではありません」

 エネルギー省長官が、前のめりになって口を開いた。

「問題は、我々が埋めているゴミの中に、次世代の覇権を握る『戦略金属』が大量に眠っているということです。スマートフォン、PC、老朽化した太陽光パネル、風力発電のタービンブレード、送電設備、そして急増しているEV(電気自動車)の使用済みリチウムイオンバッテリー。

 これらに含まれるリチウム、コバルト、ニッケル、レアアースは、現在我々が日本の深海レアメタルと日本の影響で安いとはいえ中国のサプライチェーンに依存せざるを得ない弱点となっています。もし、リクレーマーでこれを国内で高純度回収できるならば……」

 

「中国から買う必要がなくなる。国内で回収し、循環させる巨大なエコシステムが完成する」

 商務省代表が、目を輝かせて言葉を継いだ。

「これは、大統領が掲げる『強力なアメリカ製造業の回帰』政策と、完璧に噛み合います。海外の不透明な鉱山開発に頼るのではなく、国内の電子廃棄物をそのまま資源の供給源にできるのですから」

 

 財務省代表も、電卓を叩くような鋭い視線で計算結果を口にする。

「税制や補助金を投入して無理やりリサイクル産業を育成するよりも、遥かに強烈なカンフル剤になります。国内に眠る廃棄物が、そのまま国家の『資源担保』へと変貌するのです。経済効果は計り知れません」

 

 各省庁のトップたちが、目の前に提示された『魔法の機械』がもたらすであろう自らの管轄分野への絶大な恩恵を想像し、熱に浮かされたように語り始めた。

 

 ヘイズ大統領は、彼らの興奮を冷めた目で見つめながら、小さく苦笑した。

「……日本は、本当に良いタイミングで、我々が喉から手が出るほど欲しい情報を共有してくれるから助かるわ。でも、彼らに見返りを用意しなければならない、アメリカ政府のことも考えてほしいわね」

 

 タダより高いものはない。日本がこれほどの戦略技術を無条件で差し出してくるはずがない。必ず、アメリカから何かを引き出すための「交渉のカード」として切ってきているのだ。

 

「日本政府が、それこそ覇権国としての振る舞いを本格的に始めたとすれば、我々としては最大の警戒を要します」

 エレノアが、情報機関のトップとして冷酷な警鐘を鳴らす。

「医療、核融合、宇宙居住技術、フルダイブクラウド、監視システム(グラス・アイ)、そして今回の資源再生技術。……日本は今、人類社会のインフラの中核をすべて自国のブラックボックスとして握り、それを各国に『条件付き』で配分し始めています。この構造だけを見れば、彼らはすでに武力を用いない、絶対的な覇権国そのものです」

 

「意図的に、世界を支配しようとしているのかしら?」

 ヘイズ大統領が問う。

 

「今の調子だと、どうでしょうね」

 エレノアは、少しだけ皮肉めいた表情を作った。

「彼らの行動履歴を分析する限り、そこまでの冷酷で一貫した『世界支配の意図』があるようには見えません。むしろ、毎回自分たちで制御不能な技術の火種(アンノウン)を抱え込んでしまい、それが暴発する前に、慌てて同盟国に『首輪』をつけて共有し、火消しと管理の負担を押し付けている……という図式が実態に近いと思われます」

 

「今回も、技術を売り込んで利益を得るというより、暴走する前に同盟国である我々を巻き込んで、共同で管理する体制を整えようという動きですね」

 ノアが、日本の苦しい内情を推測して笑う。

 

「それが、余計に厄介なのよ」

 ヘイズは、深く溜め息をついた。

「明確な悪意や野心を持って覇権を狙う国なら、叩き潰すか封じ込める手段はいくらでもある。でも、悪意がなく、ただ『生き残るため、暴走を防ぐために技術を管理しているだけ』の覇権国は、正面から非難しづらい。結果的に、我々は彼らの用意したルールに乗らざるを得なくなる」

 

 ◇

 

「日本側の意図はともかくとして、この技術をアメリカでどう使うか、具体的なプランを提示して」

 ヘイズ大統領は、議論を実務的なフェーズへと進めた。

「ゴミ埋立地が鉱山化するというロマンは分かったわ。それ以外の、具体的な使い道を」

 

 ノアが、円卓のホログラムを切り替え、アメリカ国内でのリクレーマー活用案をカテゴリごとに分類した。

 

【活用案一:新規搬入ごみの事前選別】

「いきなり巨大なゴミ山を掘り返すのではなく、まずは日々搬入されてくる廃棄物を、埋め立てる前に選別し、リクレーマーで処理する案です。金属混合ごみ、小型電子機器、廃家電、配線材、建設廃材などが対象となります」

 

「それが最も安全で、政治的リスクが低いアプローチです」

 EPA長官が即座に支持する。

「既存の埋立地を掘削すれば、有毒ガスや病原体が飛散するリスクがあります。まずは『これから埋めるはずだった資源』の流入を止めることから始めるべきです」

 

「つまり、ゴミ山を掘る前に、これ以上ゴミ山を増やさないための関所を作る、ということね」

 ヘイズが頷く。

 

【活用案二:電子廃棄物・都市鉱山回収】

「廃スマートフォン、PC、サーバー、通信機器などの電子ゴミです」

 商務省代表が熱を込める。

「アメリカは世界最大の消費大国であり、使い捨てた電子機器の中に、金、銀、銅、そしてレアメタルを無数に眠らせています。これを高純度で回収できれば、半導体サプライチェーンの国内回帰に直結します」

 

「日本が都市鉱山と言うなら、我々アメリカの都市鉱山は、その数十倍の規模と純度を誇りますからね」

 ノアが、アメリカの消費社会の負の遺産を逆手に取って笑う。

 

【活用案三:EVバッテリー・蓄電池リサイクル】

「IRA(インフレ抑制法)以降、国内のEVおよび蓄電池産業の育成は我々の生命線です」

 エネルギー省長官が力説する。

「リチウム、コバルト、ニッケル。これらを日本の深海レアメタルや中国やアフリカの鉱山から買うのではなく、国内の使用済みバッテリーから100%リサイクルして再利用できる循環サイクルを構築する。これが実現すれば、中国の資源依存から完全に脱却できます」

 

「中国への牽制としては、これ以上ない強力なカードになるわね」

 ヘイズ大統領も、その戦略的価値を高く評価した。

 

【活用案四:退役軍需スクラップの処理】

 ここで、これまで腕を組んで黙っていた国防総省の代表が、身を乗り出した。

 

「退役した軍用機、艦船の解体部材、旧世代のレーダー装置、ミサイル部品、装甲車両の残骸、軍用通信機器。……我々軍が抱える『軍需スクラップ』は、最高機密の塊です。外部の民間リサイクル業者や、他国に流すことは絶対にできません」

 国防総省代表の目が、リクレーマーの機能説明書に釘付けになっていた。

「しかし、この装置が米国内の我々の管理施設に置かれ、日本側の監査下で安全に処理できるというのであれば。機密を保ったまま、軍需専用のチタン、アルミ、ニッケル合金などを資源として再回収できます。国防予算の大幅な削減と、特殊素材の再利用に革命が起きます」

 

 だが、エレノアが冷たい視線を国防総省代表に向けた。

 

「長官。日本の装置で処理するということは、投入された我が国の軍需物資の『材質』『合金の配合比率』『レアメタルの使用量』といった機密情報が、日本のオラクルやシステムを通じて、日本側に完全に把握される可能性があるということです。そのリスクを理解していますか?」

 

「そこが問題です。しかし、背に腹は代えられない部分もある」

 国防総省代表が、悔しそうに唸る。

 

「だからこそ、軍需スクラップの処理は第二段階以降に回すべきです」

 ノアが、冷静にストップをかけた。

「まずは民生の一般的な廃棄物で装置の挙動と日本側の監査体制を見極め、情報漏洩のリスクを評価してから、軍需に手をつけるべきです。最初から機密を放り込むのは愚策です」

 

「分かったわ。軍需スクラップは第二段階以降。第一段階はあくまで民生資源に限定する」

 ヘイズ大統領が裁定を下した。

 

【活用案五:災害がれき処理】

「カリフォルニアの山火事、南部を襲うハリケーン、中西部の竜巻や洪水。気候変動により、我が国が抱える災害がれきの量は年々増加しています」

 EPA長官が、深刻な顔で説明する。

「災害がれきは、建材、家電、車両の残骸、有害物質が複雑に混ざり合っており、通常の分別が極めて困難です。もしリクレーマーの前処理と危険物排除機能がこれに対応できるなら、被災地の復旧速度は劇的に変わります」

 

「被災地の瓦礫が、そのまま復興のための建築資材に変わるわけね」

 ヘイズ大統領が、そのビジョンの美しさに感心したように言う。

 

「ただし、生体物、アスベストなどの有害建材、未知の化学物質の混入リスクがあるため、投入前の厳格な検査プロトコルは必須となります」

 エレノアが、実務上の注意点を補足する。

 

【活用案六:閉鎖済み巨大埋立地の再資源化】

 ノアが、最後の項目を提示した瞬間。

 会議室の空気が、一段と重く、そして異様な熱気を帯びた。

 

「そして、これが我々の最大の切り札であり、最大の夢です」

 ノアは、ホログラムにアメリカ国内に存在する『巨大な緑の丘』の写真をいくつか表示させた。

「過去数十年にわたり、我々が蓋をして見ないふりをしてきた、閉鎖済みの巨大埋立地。これらを掘り返し、すべて資源に変換する計画です」

 

「夢があるわね」

 ヘイズ大統領が、その途方もないスケールに圧倒されながら呟いた。

 

「悪夢でもあります」

 エレノアが即座に冷水を浴びせた。

「これらの巨大埋立地は、単なるゴミの山ではありません。地域の政治的対立、過去の環境汚染の記憶、そして何より、掘り返した瞬間に噴出するであろう有毒ガスや病原体のリスクを抱えた、眠れる爆弾です。安易に手を出すべきではありません」

 

 ◇

 

「では、第一段階として、このリクレーマーをアメリカの『どこに置くか』。実名候補地の検討に入ります」

 ノアが、アメリカ全土の地図をスクリーンに展開した。

 

【候補A:Apex Regional Landfill】

「第一候補は、ネバダ州ラスベガス近郊にある『エイペックス地域埋立地(Apex Regional Landfill)』です」

 ノアが、砂漠地帯に広がる広大な施設のデータを表示する。

「アメリカ最大級の現役埋立地であり、約2200エーカーの規模を誇ります。日量約9000トン、最大で1万5000トンを受け入れ可能とされ、地下にはすでに約5000万トン規模の廃棄物が眠っていると推定されます」

 

「砂漠地帯であり、広大な土地が確保できる。周辺への影響を管理しやすいですね」

 エネルギー省長官が評価する。

 

「水環境へのリスクも、雨の多い東部の湿潤地域よりははるかに管理しやすい。ただし、砂漠特有の地下水脈への影響は無視できませんが」

 EPA長官が、環境面からの条件をつける。

 

「中国やロシアの産業スパイからの接触を排除しやすい、という防諜上の利点も極めて高いです」

 エレノアが、情報機関の視点で強く推す。

 

「いいわね。エイペックスを第一候補とするわ」

 ヘイズ大統領が頷いた。

 

【候補B:Sunshine Canyon Landfill】

「第二候補は、カリフォルニア州ロサンゼルス近郊の『サンシャイン・キャニオン埋立地』です。山火事のがれき処理の拠点としても重要な役割を担っています」

 

「そこは、周辺住民からの苦情が絶えない地域です」

 EPA長官が顔をしかめる。

「臭気問題、交通渋滞、そして『環境正義(環境差別の是正)』の観点から、常に政治的な火種になっている場所です」

 

「逆に言えば、あそこでリクレーマーを稼働させて問題を劇的に解決できれば、政権への強烈なアピール(政治的効果)になりますよ」

 ヘイズ大統領が、政治家としての嗅覚でメリットを見出す。

 

「しかし、メディアの拠点(ロサンゼルス)に近すぎます。日本から借りた極秘装置を運用するには、情報統制のリスクが高すぎます」

 エレノアが反対する。

 

「第二段階の候補ね。まずは砂漠でテストしてからよ」

 ヘイズが保留とする。

 

【候補C:Seneca Meadows Landfill】

「第三候補は、ニューヨーク州最大級の『セネカ・メドウズ埋立地』です。東海岸の廃棄物流通の戦略的拠点です」

 ノアが提示する。

 

「地元の反対運動が極めて強い場所です。閉鎖を求める声も大きい」

 EPA長官が警告する。

 

「ニューヨーク圏のゴミ問題は、常に厄介な政治案件ね」

 ヘイズが頭を抱える。

 

「あそこを最初に選べば、州の政治家や環境団体がヒステリーを起こして燃え上がります。技術的な実証よりも、政治的な消火活動にリソースを奪われます」

 エレノアが却下を促す。

 

「これも第三候補。実証成功後の、東海岸への展開拠点として温存しておくわ」

 

【候補D・E:Fresh Kills / Puente Hills】

 ノアが、最後に二つの巨大な『閉鎖済み埋立地』のデータを出した。

「ニューヨーク市スタテン島の『フレッシュ・キルズ』。約一億五千万トン。

 カリフォルニア州ロサンゼルス郡の『プエンテ・ヒルズ』。約一億三千万トン。

 ……これらは現在、公園化などが進められていますが、資源量だけを見れば、アメリカ国内に眠る最大の鉱山です」

 

「触らないで」

 ヘイズ大統領が、即座に、そして強い嫌悪感を持って言った。

 

「触らないでください。絶対に」

 エレノアも、普段の冷静さをわずかに崩して強く同調した。

 

「環境リスクだけではありません」

 EPA長官が青ざめた顔で説明する。

「特にフレッシュ・キルズは、9・11テロ事件の瓦礫と遺骸の一部が運び込まれたという、極めて重い歴史的・人道的な記憶を抱える場所です。あそこを『資源目当てで掘り返す』などと発表すれば、アメリカ中の世論が爆発し、政権は一日で吹き飛びます」

 

「国防総省としても、あそこに手をつけることには強く反対します。国民の感情を逆撫ですべきではありません」

 軍の代表も、珍しく倫理的な観点から反対に回った。

 

「将来構想のリストの、さらに一番下の欄外にだけ入れておきます」

 ノアは、少しだけ残念そうにデータを引っ込めた。

 

 ◇

 

「さて、第一候補地はエイペックスに決まりましたが」

 ノアが、実務上の最大のハードルを口にする。

「日本の提示した条件を思い出してください。『所有権は日本』『分解・移設禁止』『オラクル監査』。……これを、民間の廃棄物処理業者が運営する埋立地の敷地内に、そのまま置くわけにはいきません」

 

「当然よ。民間の敷地内で、日本のオラクルが我が物顔で歩き回って監査するなど、管理が複雑すぎてトラブルしか起きないわ」

 ヘイズ大統領が同意する。

 

「つまり、エイペックス埋立地『そのもの』の中ではなく、その隣接地に、連邦政府が直轄で管理する『資源再生実証施設』を新設すべきです」

 エレノアが、明確な境界線を引くことを提案する。

 

「日本の装置を置くための、アメリカ政府直轄の『箱』を作るわけね」

 ヘイズが、その意図を理解して頷く。

 

「ネバダ州であれば、我々軍の施設管理ノウハウや警備部隊を直接投入することが可能です」

 国防総省代表が、防衛の観点から協力を申し出る。

 

「EPAとしても、施設の環境評価(アセスメント)は必須です。いくら安全だと言われても、手続きを無視することはできません」

 EPA長官が、法治国家の建前を主張する。

 

「必要な手続きはすべてやりなさい」

 ヘイズ大統領は、力強く命じた。

「ただし、特例措置を使ってでも最速で通すこと。……遅すぎるのは認めないわよ」

 

 ◇

 

「場所と使い道は決まったわ」

 ヘイズ大統領は、コーヒーカップを置き、円卓の面々を真っ直ぐに見据えた。

「問題は、我々が日本に対して『何を返すか』よ」

 

 タダより高いものはない。日本がこれほどの戦略技術を貸与してくれるのだから、当然それに見合うだけの「対価」を示さなければ、同盟国としてのバランスが崩れる。

 

「日本は、技術のブラックボックスを共有してくれるから本当に助かるわ。でも、彼らに見返りを用意しなければならない、私たちアメリカ政府のことも少しは考えてほしいわね」

 ヘイズが、半分本気の愚痴をこぼす。

 

「見返りの候補は、すでにいくつか整理しています」

 ノアが、アメリカが切れる外交カードのリストを提示した。

 

【一、米国廃棄物データの全面共有】

「全米の埋立地の地質データ、軍需スクラップの成分比率、電子廃棄物の回収ルート、EVバッテリーの流通量、メタン排出量、浸出水データ。これらをすべて、日本側へ研究データとして共有します」

 

「日本側は、間違いなく実証データを欲しがるでしょうね」

 エレノアが分析する。

「彼らの国土は狭く、廃棄物の種類も限られています。彼らにとって、我々アメリカの巨大なゴミ山は、リクレーマーの性能を極限までテストするための『世界最高の実験場』になるはずです」

 

【二、レアメタルの共同備蓄構想】

「出力された資源の一部を、アメリカ単独で抱え込むのではなく、日米共同の戦略備蓄としてプールする協定を結びます」

 エネルギー省長官が提案する。

「リチウム、コバルト、ニッケル、レアアースを日米で共同管理し、市場への放出権限を共有する。……これは、中国の資源外交に対する、最強の牽制(カウンター)になります」

 

【三、月面・火星計画での米側負担の増額】

「現在進行中の宇宙インフラ開発において、NASAおよびSpaceX側が負担する輸送コストや運用人員の枠を、さらに引き受けます」

 ノアが、宇宙開発のカードを切る。

「日本に“資源再生装置を貸してもらう”代わりに、我々は宇宙の荷物持ちを少し多めに引き受ける、という取引です」

 

【四、アンノウン技術警護協定の強化】

「米国内に設置するリクレーマーを、中国やロシアの産業スパイから守るため、日米の情報機関が共同で防諜・警備体制を構築する協定です」

 エレノアが、CIA長官としての責任を担保に差し出す。

「日本側を安心させるためにも、これは必須の条件です」

 

【五、中国向け情報戦での協力】

「リクレーマーの存在自体は徹底的に秘匿しつつも、出力された資源を用いて、中国のレアメタル市場の価格コントロールを無力化するための情報戦(ブラフ)を日米で共同展開します」

 

「悪くないわね」

 ヘイズ大統領は、提示されたカードの束を見て満足げに頷いた。

「これなら、日本側も『アメリカは有益な実験場であり、良きパートナーだ』と納得して装置を貸してくれるはずよ」

 

 ◇

 

 会議が終盤に差し掛かった頃、エレノアが一つ、極めて冷たく、そして重い警告を発した。

 

「大統領。……一つ、長期的な視点での警戒事項があります」

 

「何かしら。日本について?」

 ヘイズが、エレノアの只ならぬ空気を察して問う。

 

「はい」

 エレノアの視線が、円卓の全員を射抜いた。

「医療技術、核融合炉、宇宙居住インフラ、フルダイブクラウド、監視システム(グラス・アイ)、そして今回の資源再生技術。

 ……日本は今、人類が次の百年を生き延びるために必要な『すべての中核』を握りつつあります」

 

 国防総省の代表が、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「彼らがもし、意図的にそれを武器として振る舞い始めれば……世界秩序は、完全に日本を中心としたものへと移行しますね」

 

「軍事力で他国を侵略するのではなく、インフラと技術の『依存関係』によって世界を首輪で繋ぐ、新しい形の覇権です」

 エレノアが、その支配構造の完成形を恐るべき正確さで言語化した。

 

 ノアが、少しだけ弁護するように口を挟む。

「ただ、現状の日本政府の動きを見る限り、そこまで冷酷で戦略的な意図があるようには見えませんよ。むしろ彼らは、あのアンノウンから突発的に渡される爆弾(超技術)に振り回され、それが世界を壊さないように、必死に火消しをして回っているだけです」

 

「意図があるかどうかは問題ではないのよ」

 ヘイズ大統領が、冷徹な為政者の顔で断言した。

「結果として、構造がそう(覇権国に)なってしまうことが問題なの。力が一極に集中すれば、世界は必ず不安定になるわ」

 

「では、我々はどうすべきでしょうか。日本を危険視し、距離を置きますか?」

 国家安全保障担当補佐官が問う。

 

「いいえ」

 ヘイズは即座に否定し、力強く宣言した。

「我々がすべきことは、日本を止めることではないわ。

 日本が重圧に耐えかねて孤立し、世界を敵に回して『開き直って本当の覇権国(独裁者)』になってしまうのを防ぐことよ」

 

「同盟国として、彼らの火消し作業に、我々も泥を被って付き合い続ける、ということですね」

 ノアが、アメリカの取るべき道を要約する。

 

「ええ。彼らが抱え込んだ爆弾の処理を、少しだけ肩代わりしてあげるの」

 ヘイズは、深く、疲れたような溜め息をついた。

「胃は痛いし、屈辱的な条件を飲まされることもあるけれど。……世界が燃えるよりは、それが一番安全な道よ」

 

 ◇

 

「結論を出すわ」

 ヘイズ大統領が、会議の最終判断を下した。

 

「リクレーマーは、借ります」

 

 円卓の全員が、深く頷いた。

 

「条件の整理。

 第一候補地はネバダ州のエイペックス近郊に新設する、連邦管理実証施設。

 最初は、新規搬入分のゴミと、選別済みの電子廃棄物・EVバッテリーに限定する。

 既存の埋立地の掘削、および軍需スクラップの処理は、安全が確認された後の第二段階以降とする。

 サンシャイン・キャニオンやセネカ・メドウズは将来の展開候補。フレッシュ・キルズやプエンテ・ヒルズといった閉鎖済み巨大埋立地は、完全な将来構想として当面は触れない。

 日本側の所有権、オラクルによる監査、コアへのアクセス制限等の条件はすべて尊重し、受け入れる。

 その見返りとして、米国廃棄物データの共有、戦略金属の共同備蓄、宇宙計画での米国負担の増額を提示し、中国・ロシアへの情報流出防止を最優先事項とする」

 

 ヘイズは、一気にそこまで言い切り、ノアの方を見た。

 

「日本に返答を。……条件交渉に入る、と伝えてちょうだい」

 

「承知しました」

 ノアが、手元の端末を開く。

「文面は、どうしますか?」

 

 ヘイズは、日下部から送られてきたメールの、あの一文を思い出した。

 

『一台、使ってみませんか』

 

 ヘイズは、少しだけ意地悪く、苦笑しながら言った。

 

「では、こう返して。

『ぜひお借りしたい。……ただし、使う前に、そちらから強力な胃薬をもう一箱送ってください』、とね」

 

 ノアが、真顔になって手を止めた。

 

「大統領。それは、公式な外交文書にはできません」

 

「分かってるわよ。ただの冗談よ」

 ヘイズが呆れたように言う。

 

「非公式の裏メモとして添えるなら、日下部参事官にはその意図が伝わるかもしれませんが……」

 エレノアが、真面目な顔で検討し始める。

 

「やめなさい。あの四角四面な日本の官僚のことだから、冗談を真に受けて、本当にアンノウン製の『未知の特効胃薬』とかを外交特嚢(ディプロマティック・ポーチ)で送ってくるかもしれないわ。これ以上、正体不明のオーパーツをホワイトハウスに持ち込まないで」

 

 大統領のその至極真っ当な懸念に、ノアもエレノアも「確かにやりかねない」と深く同意し、胃薬の要求は却下された。

 

「最後は真面目に締めるわよ。正式な文案を」

 ヘイズが促す。

 

 ノアが、素早く作成した外交文書の草案を読み上げた。

 

「『米国政府は、日米戦略資源再生共同実証計画について、原則として前向きに協議に入る用意がある。第一候補地としてネバダ州内の連邦管理区域を想定し、投入物は民生系選別廃棄物および使用済み蓄電池から開始する。所有権、監査、中核部アクセス制限については日本側条件を尊重し、完全な合意を目指す』。……これでいかがでしょう」

 

「完璧よ。送ってちょうだい」

 ヘイズが承認する。

 

「送信します」

 エレノアの操作で、アメリカの決断が暗号化され、太平洋を越えて日本の地下へと送られた。

 

 ◇

 

 こうして、アメリカ合衆国は、一台の奇妙な機械を借りることを決めた。

 

 それは、世界を焦土にする戦闘機でも、火星へ向かう宇宙船でも、地上の太陽たる核融合炉でも、人々の認識を支配するフルダイブ装置でもなかった。

 

 ただ、泥とゴミを種類ごとに分けるだけの、地味な機械だった。

 

 だが、アメリカ政府は、その瞬間から、自国の国土に広がる無数の「埋立地(ランドフィル)」を見上げる目を変えた。

 それは、臭気を放ち、環境を汚染するただの厄介な負債ではなくなった。

 

 ネバダの砂漠に眠る、五千万トンの廃棄物。

 ロサンゼルスの山火事がれきと、膨大な都市ごみ。

 ニューヨーク州を巡る、終わりのない廃棄物の流れ。

 そして、すでに閉鎖され、大地の下に封じられた、一億五千万トンと一億三千万トンという、想像を絶する規模の巨大なゴミ山。

 

 それらは、もはや単なる過去の消費社会の失敗の痕跡ではない。

 管理さえできれば、中国に頭を下げることなく自国で賄える、アメリカ国内に眠る「最強の戦略資源鉱床」へと変貌したのだ。

 

 ヘイズ大統領は、送信完了の表示を見届けると、重厚な革張りの椅子に深く、疲れたように沈み込んだ。

 

「……日本は本当に、こちらの胃の容量のことを考えてくれないわね」

 

 ノア・マクドウェルは、いつものように感情の読めないシニカルな笑みを浮かべ、優雅に答えた。

 

「ですが、大統領。今回は、かなり良いものを借りられますよ」

 

 エレノア・バーンズCIA長官が、氷のような声で静かに付け加える。

 

「ええ。……我々の手に余るほど、あまりにも良すぎるものを」

 

 その日、アメリカ政府は、足元に広がる巨大なゴミ山を、初めて「宝の山」として見つめ直した。

 未掘削の国内鉱山。その扉を開ける鍵は、日本のアンノウン機関という、深く見えない暗闇の底から差し出されたのである。




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