自宅に届いた『惑星開発キット』で、社畜SEは異世界工場の管理者になる ~運用保守はもう終わり。現代の物資と無限の資源で、銀河規模の自動化帝国を築き上げます~   作:パラレル・ゲーマー

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第25話 中間素材の樹海と鉄路への憧憬

 惑星テラ・ノヴァ。

 日本側の製油所が「完璧すぎる原油」にどよめいていた頃、供給元である工藤創一は、前線基地(FOB)の司令室で頭を抱えていた。

 彼の目の前には、空中に投影された巨大なホログラム——技術ツリーと、生産レシピの系統樹(フローチャート)が浮かんでいる。

 

 それは以前よりも遥かに複雑化し、まるで電子回路の迷路のように広がっていた。

 

「……えーっと、待ってくれイヴ。

 整理しよう。俺が次に目指すのは『化学テクノロジーカード(Chemical Tech Card)』——通称『青パック』の量産だ。

 これはいいな?」

 

『肯定します、マスター。

 高度な石油化学、および上位の軍事技術を解禁するためには、このカードが必須です』

 

「ああ、分かってる。

 問題は、その作り方だ」

 

 創一は、青く輝くカードのアイコンをタップした。

 そこから伸びる「必要素材」の線が、さらに下位の素材へと枝分かれしていく。

 

【目標:化学テクノロジーカード】

 

 多気筒エンジン(Multi-Cylinder Engine) x 1

 発展基板(Advanced Circuit) x 5

 ガラス(Glass) x 5

 空のテクノロジーカード(Blank Tech Card) x 5

 硫酸(Sulfuric Acid) x 50

 

「まずここで、お腹いっぱいになりそうなんだが……」

 

 創一は唸った。

 これまでの「赤パック」までは、鉄板と銅板、歯車といった基礎的な素材を組み合わせれば何とかなった。

 だが、ここからは次元が違う。

 「エンジン」に「基板」に「ガラス」に「硫酸」。

 物理加工と化学反応が入り混じっている。

 

「で、この中の『発展基板(赤基板)』を作るためには?」

 

 創一は、さらにツリーを掘り下げる。

 

【中間素材:発展基板】

 

 銅線(Copper Cable) x 4

 電子部品(Electronic Components) x 2

 電子基板(Electronic Circuit) x 4

 

「ここまでは予想通りだ。

 だが、この『電子部品』ってのが曲者だ。

 緑基板(電子基板)とは別物なのか?」

 

『はい。より集積度の高い半導体チップの集合体です。

 これの製作には、以下の素材が必要です』

 

【中間素材:電子部品】

 

 プラスチック棒(Plastic Bar) x 4

 ケイ素(Silicon) x 2

 ガラス(Glass) x 2

 

「出たよ、新素材ラッシュ……」

 

 創一は天井を仰いだ。

 プラスチックは、先日苦労して設置した化学プラントで作れる。

 レシピは『石炭 1 + 石油ガス 20』でプラスチック棒が2本。

 これはいい。臭いけどラインは組んだ。

 

 問題は『ケイ素』と『ガラス』だ。

 

「ケイ素……シリコンか。半導体の材料だな。

 これを作るには?」

 

『ケイ素の精製には石英(Quartz)が必要です。

 比率は石英 18 から、ケイ素 9 が生成されます』

 

「で、その石英はどこで掘るんだ?」

 

『鉱脈はありません。

 基地周辺の土壌に含まれる「砂(Sand)」を洗浄し、分離することで得られます。

 具体的には、浄水所(Filtration Plant)にて、砂 10 と 水 10 を処理し、石英 6 を抽出します』

 

「……砂遊びかよ」

 

 創一はガックリと肩を落とした。

 工程が多すぎる。

 砂を集めて、水で洗って、石英を取り出し、それを炉で焼いてケイ素にする。

 それをさらにガラスやプラスチックと組み合わせて電子部品にし、さらに銅線や緑基板と合わせて発展基板にし、最後にエンジンや硫酸と混ぜて、ようやく青パックが完成する。

 

 マトリョーシカもいいところだ。

 

「しかも、その『浄水所』を作るためにも、また変な素材が要るんだろ?」

 

『はい。

 浄水所の建設には、事前の『ケイ素処理(Silicon Processing)』研究の完了と、以下の資材が必要です』

 

【建設:浄水所】

 

 鋼鉄梁材(Steel Beam) x 10

 自動化コア(Automation Core) x 3

 多気筒エンジン(Multi-Cylinder Engine) x 4

 ガラス(Glass) x 10

 

「……はあ」

 

 深いため息が出た。

 一つ一つ進めるしかないのは分かっているが、道のりが果てしない。

 

「これ、日本政府に頼んで、シリコンウェハーとかガラス板とか完成品を送ってもらった方が早くないか?」

 

 ふと、そんな甘い考えが頭をよぎる。

 日本には高度な素材産業がある。

 わざわざ異星の砂を洗わなくても、信越化学あたりから最高級のシリコンを取り寄せれば済む話だ。

 

『計算上、それは推奨されません』

 

 イヴが即座に否定した。

 

『第一に輸送コストの問題です。

 工場が必要とする素材量はトン単位です。

 いちいち地球から運んでいては、輸送用ゲートのエネルギーコストと時間が割に合いません。

 第二にナノマシンによるクラフト効率です。

 この工場の設備は、現地で生成された素材データの「紐付け」に最適化されています。

 地球産の素材を混入させると、規格調整(キャリブレーション)に余計な手間がかかります』

 

「要するに、『自分で作った方が安上がりだし早い』ってことか」

 

『左様です。

 それにマスター。

 ……工場長として、素材からすべて自分の手で作り上げることに、喜びを感じているのではありませんか?』

 

「……痛いところを突くな」

 

 創一は苦笑した。

 その通りだ。

 面倒だと言いつつ、この複雑なパズルを解き明かし、ラインが綺麗に流れた瞬間の快感。

 それは何物にも代えがたい。

 日本から素材をもらって組み立てるだけでは、ただの「下請け工場」だ。

 ここは俺の工場だ。俺がルールだ。

 

「分かったよ。やるよ。

 砂を集めて、シリコンを作る。

 地道な作業だが、千里の道も一歩からだ」

 

 決意を固めた創一は、早速作業に取り掛かった。

 まずは海岸エリアへ向かい、砂の採掘ラインを構築する。

 電動掘削機を砂浜に並べ、ベルトコンベアで内陸へと運ぶ。

 

 次に『浄水所』の設置だ。

 鋼鉄梁材やガラス(これは石を焼いて作った)をかき集め、巨大なプラントを建設する。

 

 ズドォォン!

 

 現れたのは、円筒形のタンクと配管が複雑に絡み合った、浄水場のような施設だ。

 ポンプで海水を汲み上げ、砂と混ぜ合わせる。

 

 ゴボボボボ……ジャラーッ!

 

 泥水の中からキラキラと光る結晶——石英が分離されていく。

 それを今度は専用の炉へ運び、高温で精製する。

 

 カシュゥゥゥン……

 

 出てきたのは鈍い銀色の板。ケイ素だ。

 半導体の心臓部。

 

「よし! 第一段階クリア!

 次はこれをプラスチックと合わせて、電子部品に……」

 

 創一は基地の中を走り回った。

 コンベアを引き、組立機を設置し、インサータの向きを調整する。

 だが作業を進めるにつれて、物理的な問題に直面した。

 

「……狭い」

 

 彼は立ち止まり、周囲を見渡した。

 FOB(前線基地)の壁の中は、すでに機械とコンベアで埋め尽くされている。

 初期に作った「鉄板ライン」と「銅板ライン」が中央を陣取っており、その隙間に無理やり「化学プラント」や「浄水所」を押し込んだため、動線がめちゃくちゃだ。

 いわゆる「スパゲッティ工場」状態である。

 

「あっちを通そうとすると、こっちが詰まるし、パイプを引こうとするとコンベアが邪魔だ。

 ……限界だな。

 そろそろ改築(リフォーム)して、工場を広げないとダメだ」

 

 創一はマップを開いた。

 幸い、先日の大規模遠征と油田攻略により、近隣のバイターの巣はあらかた殲滅してある。

 基地の壁を数百メートル外側に拡張しても、防衛上のリスクは低い。

 

「よし、第二次拡張計画だ。

 壁を撤去して、敷地を倍にする。

 メインバス(幹線輸送路)を通して、素材の流れを整理するぞ」

 

 大規模な工事になる。

 だが、それをやらなければ、複雑化する「青パック」のラインは収まりきらない。

 

 その時。

 イヴが新しい提案を投げかけてきた。

 

『マスター。

 工場の拡張に合わせて、物流システムの刷新を提案します』

 

「刷新?

 コンベアをもっと速い奴にするのか?」

 

『いいえ。

 基地の敷地が広がるにつれ、コンベアによる輸送には限界が生じます。

 特に遠く離れた油田エリアからの原油輸送、および将来的な鉱山開発を見据えると、より高速で大量輸送が可能な手段が必要です』

 

 イヴの画面に、新しい技術ツリーのアイコンが表示される。

 それは蒸気を吐き出しながら走る、黒い鉄の塊の絵だった。

 

『鉄道(Railway)の導入を推奨します』

 

「――鉄道!」

 

 創一の目が輝いた。

 男の子なら――いや、技術屋なら、誰もが憧れるロマンの塊。

 

『鉄道技術を研究し、レールを敷設することで、遠隔地から資源を無人で、かつ高速に自動輸送することが可能になります。

 パイプラインによる原油輸送は、長距離になると圧力低下や途中での破損リスクが高まりますが、貨物列車によるタンク輸送なら、その問題を解決できます』

 

「なるほど……!

 パイプを延々と引くより、列車で運んだ方が確実か!」

 

 創一は想像した。

 荒野をひた走る貨物列車。

 満載した原油タンクや鉄鉱石を積み、煙を上げて基地へと帰ってくる姿。

 駅(ステーション)で自動的に荷下ろしされ、工場のラインへと流れていく資源たち。

 

「……いいな。すごくいい。

 便利だし、何よりカッコイイ」

 

 工場の主役は機械だが、工場の花形はいつだって鉄道だ。

 巨大な質量がレールの上を滑走する姿は、支配領域の拡大を象徴する。

 

「石油を利用する関係で、油田の近くにも拠点が欲しかったところだしな。

 そこまで線路を引いて、資源回収列車を走らせる。

 ……夢が広がるじゃないか」

 

 創一は拳を握った。

 中間素材の複雑さに頭を痛めていたが、新しい目標ができたことでモチベーションが復活した。

 

「じゃあ次は鉄道か。

 イヴ、研究キューに入れてくれ。

 青パックのライン構築と並行して、鉄道網の設計も始めるぞ!」

 

『了解しました、マスター。

 研究:『鉄道(Railway)』および『自動化鉄道輸送(Automated Rail Transportation)』を予約します。

 必要素材のリストアップを開始……』

 

「ああ、頼む。

 ……へへっ。列車か。

 日本から新幹線でも持ってこようかと思ったけど、やっぱり自分で作った機関車を走らせたいよな」

 

 創一はニヤリと笑った。

 手狭になった基地の壁を見上げる。

 この壁を取り払い、線路を地平線の彼方まで伸ばす。

 それはこのテラ・ノヴァが単なる「駐留地」から、真の「産業国家」へと変貌するための第一歩だった。

 

 中間素材の樹海を抜けた先には、鋼鉄のレールが輝く未来が待っている。

 工場長は再びスパナを握りしめ、複雑怪奇なスパゲッティラインへと立ち向かっていった。

 すべては、あの汽笛を鳴らすために。

 




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