自宅に届いた『惑星開発キット』で、社畜SEは異世界工場の管理者になる ~運用保守はもう終わり。現代の物資と無限の資源で、銀河規模の自動化帝国を築き上げます~ 作:パラレル・ゲーマー
「……いた……っ!」
黄色いタンポポのような花が咲く草むらの真ん中で、小学生の少女は両手で小さな口元を押さえたまま、目の前の生き物を見つめていた。
緑の草の間からひょっこりと飛び出した、雪のように真っ白な二つの長いお耳。
宝石のように黒く澄んだまん丸な瞳が、瞬きをしながらじっと少女のことを見上げている。
小さな桜色の鼻が、ひく、ひく、と可愛らしく動いた。
風が吹くと、白い綿毛のような長い耳がぴくりと揺れ、それからその子は、不思議そうに自分の頭をコテンと横へ傾げた。
「きゅう?」
鈴を転がしたような、小さくて愛らしい鳴き声。
その一声を聞いた瞬間、少女の胸の奥がギュッと音を立てて締めつけられた。
「……か、かわいい……っ!」
当選通知をもらってから今日まで、家のタブレットであの合同PVを何十回、何百回と繰り返し見てきた。机の前のカレンダーに毎日バツ印をつけて、ずっとこの日を待っていた。
けれど、画面の向こうの動画で見るのと、今こうして自分と同じ空気の中で息をして、自分に向かって首を傾げてくれるのとでは、可愛さの桁がまったく違っていた。
今すぐ駆け寄って、ぎゅっと抱きしめたい。
けれど少女は、そこでグッと足を止めた。学校で飼育委員のお姉さんから「小さい動物に急に大きな声を出したり、上から手を伸ばしたりしたらびっくりして逃げちゃうよ」と教わったのを思い出したのだ。
少女は白い幻獣を驚かせないように、ゆっくり、ゆっくりと膝を曲げて、芝生の上にしゃがみ込んだ。
相手と同じ目線の高さになり、小さな声で優しく話しかける。
「……こんにちは。わたし、あなたに会いに来たんだよ」
そして、何も持っていない自分の右手を、手のひらを下にしてそっと前へ差し出した。
白い幻獣は、すぐには飛びついてこなかった。草むらの陰で小さな身体を少しだけ引いて、丸い瞳で少女の差し出した手と顔を交互に見比べている。
少女は動かずに、にっこり笑って待った。
「……大丈夫だよ。こわくないよ」
すると、幻獣の長い耳がぴょこんと立ち上がった。
草むらの中から、小さな白い前足が一歩、前へ踏み出される。
トコ。
大きなふわふわの尻尾を揺らしながら、もう一歩。
トコトコ。
少女は思わず息を止めた。
たった数十センチの距離。けれど、何週間も夢見ていた距離が、今、一歩ずつ縮まっていく。
やがて少女のすぐ目の前までやって来た白い幻獣は、小さな首をぐっと伸ばし、少女の人差し指の先へ自分の鼻先を近づけた。
ひくひくと匂いを嗅ぐかすかな息遣いが、指の肌に直接かかる。
そして――ちょん。
「……っ!」
少女の肩が、ぴくっと小さく跳ねた。
触れた。テレビの画面でも、ガラス越しでもない。自分の指先に、ほんの少しだけひんやりとして、しっとり湿った小さな鼻の感触が確かに伝わってきたのだ。
「……ふふっ、お鼻、ちょっとつめたい!」
少女がくすぐったそうに笑うと、幻獣は安心したように「きゅっ!」と短く鳴いた。
そして次の瞬間、その子は目を細め、少女が開いた手のひらに、自分の真っ白な頬を自分からすりっ、と押し当ててきたのである。
ふわっ。
手のひら全体を包み込んだ、羽毛よりも柔らかくて、お日様みたいに温かい感触。
少女の目がまん丸に見開かれ、次の瞬間、花畑の真ん中に歓喜の声が弾けた。
「……ふわっ……! ふわふわだあああああ!!」
◇
「すごい、すごいよ……! ほんとにふわふわだ……!」
少女は夢中で、自分の手のひらに頬をすり寄せてくる小さな頭を、指先でそっと撫でた。
なで、なで、と優しく指を滑らせるたびに、白い絹糸のような毛並みがさらさらと指の間を通り抜けていく。
すると幻獣は、喉の奥で「きゅうぅ~」と甘えるような声を出しながら、うっとりと目を閉じて少女の手に体重を預けてきた。
ただのプログラムされた人形ではない。自分が優しく撫でれば、相手がこんなにも気持ちよさそうに喜んでくれる。その事実が、少女の胸をたまらなく温かいもので満たしていく。
しばらく頭を撫でていると、幻獣はふと目を開け、少女のしゃがんだ膝の上へ、小さな白い前足をちょこんと乗せた。
「……あれ?」
幻獣は膝に前足を乗せたまま、まん丸な瞳でじっと少女の顔を見上げてくる。
そして「きゅっ」と鳴いて、もう一度、前足で少女の膝をトントンと軽く叩いた。
少女はドキドキしながら、恐る恐る尋ねた。
「……あのね、もしかして……だっこ、してもいいの?」
言葉の意味が分かったみたいに、幻獣の大きな尻尾がぶんぶんと左右に揺れた。
そして少女が両手を広げるよりも早く、小さな白い身体がぴょこんっ! と軽く跳ねて、少女の膝の上へと自分から飛び乗ってきたのだ。
「わっ!?」
少女は慌てて、その小さな身体を両腕でぎゅっと受け止めた。
そのまま、胸の前でそっと抱き上げる。
「…………っ」
抱き上げた瞬間、少女はあまりの感動に言葉を失った。
腕の中にあったのは、これまで触ったどんなぬいぐるみとも違う、圧倒的な「いのち」の感触だった。
指先が第一関節までふかふかと沈み込んでしまうほど、密度が高くて柔らかい極上の毛並み。
その奥にある、びっくりするほどポカポカとした温かな体温。
見た目は小さな綿毛の塊のようなのに、腕の中には、赤ちゃんや子犬を抱いた時のような「確かな重み」がずしりと伝わってくる。
それだけではない。
少女の胸元にぴったりとくっついた小さな身体から、トクトク、トクトク、という速くて小さな心臓の鼓動と、規則正しく膨らんでは縮む呼吸の動きが、服の上からでもはっきりと感じられたのだ。
長い耳が少女の顎の下に触れて、くすぐったく揺れる。大きな尻尾がぱたぱたと動くたび、少女の手首をふわふわの毛が撫でていく。
「……ほんとに、あったかい……」
少女は腕の中の小さな生き物を見下ろし、宝物を抱くように優しく腕に力を込めた。
「すごい……お胸がトクトクいってる。ほんとに生きてるみたい……!」
少女はそのまま芝生の上にぺたんと座り込み、膝の上で丸くなる白い幻獣のあちこちを夢中で撫で回した。
驚くことに、触る場所によって毛並みの手触りが全部違っていた。
頭のてっぺんは、さらさらとした短い毛。
背中から首の周りは、指が埋まるほどふかふかの長い毛。
そして、少しだけ仰向けになったお腹のあたりは、マシュマロみたいにぷにぷにとしていて、一番柔らかくて温かい。
「わあ……おしっぽは、大きなわたあめみたい……!」
少女が大きな白い尻尾の付け根を両手でわしゃわしゃと触ると、幻獣は「きゅっ!?」と驚いたような声を上げて、くすぐったそうに身体をくねらせた。
「あっ、ごめんね! おしっぽはくすぐったかった?」
少女が慌てて手を離すと、幻獣は怒るどころか、くるりと向きを変えて、少女の止まった手のひらの下へ自分の頭をぐいぐいと押し込んできた。
「……あははっ! 『もっと頭をなでて』って言ってるの?」
「きゅうっ!」
なでなでと頭を撫でてやると、幻獣は再び目を細めて幸せそうに喉を鳴らす。
七天堂のクリエイターたちが、アンノウン機関の五感再現技術を使って極限までこだわり抜いた「生き物と心を通わせる手応え」が、そこには詰まっていた。
少女はもう、白い幻獣を抱っこしたまま、一歩も動けなくなっていた。
「……かわいい……」
幻獣がぱちりと瞬きをする。
「……かわいい……!」
幻獣が小さくあくびをして、ピンク色の舌がちらりと見える。
「……かわいいいいい……っ!!」
気がつけば、島に降り立ってから最初の五分間、少女は最初の草むらの前から一メートルも移動していなかった。
それでも、少女の心はすでに百パーセント満たされていた。まだ島の景色もろくに見ていないというのに、彼女はこの《まぼろし生きもの島》を、自分の人生で一番大好きな場所だと確信していた。
すると、たっぷりと撫でてもらって満足したのか、白い幻獣が少女の腕の中からぴょんと芝生の上へ降り立った。
「あっ……」
名残惜しそうに手を伸ばす少女の前で、幻獣はトコトコと数歩だけ丘の上へ向かって歩き、そこでくるりと振り返った。
「きゅっ!」
長い耳を揺らし、まるで「こっちへおいでよ!」と誘うように、もう一度鳴く。
どうやら、せっかく島へ遊びに来た新しいお友達を、どこか素敵な場所へ案内してくれるつもりらしかった。
◇
「ま、待って! 今行くよ!」
少女は慌てて芝生から立ち上がり、白いスニーカーで草を蹴って後を追いかけた。
不思議なことに、白い幻獣は少女を置いてけぼりにしたりしない。数メートル先をトコトコと走っては、立ち止まって後ろを振り返り、少女が追いついてくると嬉しそうに「きゅっ」と鳴いてまた歩き出すのだ。
「ふふっ、わたしが迷子にならないように、ちゃんと待っててくれてるんだね。ありがとう!」
白い幻獣と一緒に小さな丘の斜面を登り切った瞬間、少女の目の前に、息を呑むほど鮮やかな景色が一気に広がった。
丘の向こう側は、見渡す限り色とりどりの花が咲き乱れる、広大な花の谷になっていた。
赤やピンク、水色や黄色の花々が潮風に揺れ、その向こうには太陽の光を反射してキラキラと輝くコバルトブルーの海と、白い砂浜が見える。
そしてその花畑の中や空には――何十匹もの、見たこともない不思議な生き物たちがのんびりと暮らしていたのだ。
「わあああああ……!! すごい、かわいい子がいっぱいいる!!」
花畑のあちこちで、頭に小さなお花の冠を乗せた丸っこい生き物たちが、お尻を振りながら花の蜜を集めて歩いている。
小川のほとりでは、透き通った水色のしっぽを持つ生き物が水しぶきを上げて遊んでいた。
その時、頭上から「ピィッ!」という澄んだ笛のような鳴き声が降ってきた。
見上げると、宝石みたいにキラキラと輝くエメラルドグリーンの鱗を持った、猫くらいの大きさの「小さな竜(ドラゴン)」が、透き通る羽をぱたぱたと羽ばたかせながら、少女の頭上をくるりと旋回していた。
「……わあ! ちっちゃいドラゴンだ!」
小さな竜は少女のすぐ目の前まで降りてくると、空中でホバリングしながら、好奇心いっぱいの目で少女の顔を覗き込んだ。
少女が「こんにちは!」と笑いかけると、小さな竜は嬉しそうに空中で一回転し、大きく羽ばたいた。
ふわっ、と心地よい風が吹き、周囲の花畑から色とりどりの花びらが舞い上がって、少女の頭の上へとシャワーのように降り注いだ。
「きゃあっ!」
一枚のピンク色の花びらが、少女の鼻の頭にちょこんと乗る。
足元にいた白い幻獣が、それを見て不思議そうに背伸びをした。
「あはははっ! ドラゴンさんにお花つけられちゃった!」
少女が声を上げて笑うと、小さな竜も満足そうに鳴いて、また青い空へと舞い上がっていく。
この世界には、「次はあそこへ行きなさい」と命令する矢印もなければ、「何分以内にモンスターを何匹倒しなさい」というクエスト画面も存在しない。
白い幻獣と一緒に花畑を歩き、気になったお花の匂いを嗅ぎ、すれ違う生き物たちに手を振って挨拶をする。ただそれだけのことが、どんな大冒険よりも楽しくて、少女の歩みを軽やかに弾ませていた。
◇
花畑の真ん中を抜けて、海が見える高台の大きな木の下までやって来た時だった。
案内役だった白い幻獣が、その大木の根元に向かって「きゅうっ!」と元気よく駆けていった。
「……ん? あそこに誰かいるの?」
少女が目を凝らすと、大木の涼しい木陰に、なにか「とっても大きな白い塊」がのんびりと寝そべっているのが見えた。
近づくにつれて、その姿がはっきりと分かってくる。
それは、先ほどの小さな幻獣とは比べものにならない、大型のソファーか小舟くらいはありそうな、大きな四足歩行の幻獣だった。
全身がクリーム色がかった長いふわふわの毛で覆われており、丸みを帯びた優しい顔立ちと、垂れた大きな耳を持っている。角や牙のような怖い部分は一つもなく、見ているだけで安心するような穏やかな雰囲気の生き物だ。
その姿を見た瞬間、少女の目がパッと輝いた。
「……あっ!! あの子、テレビの映像で見た、お背中に乗せてくれる大きい子だ!!」
応募する時、お父さんとお母さんに「白いふわふわの子を抱っこして、お背中にも乗るの!」と話していた、もう一つの大切な夢。
最初の小さな白い幻獣が、大きな幻獣の鼻先に駆け寄って「きゅっ、きゅっ」と何かを伝えるように鳴くと、大きな幻獣はゆっくりとまぶたを開け、少女の方を見て優しく目を細めた。
そして、のっそりと立ち上がる。
近くで見ると、小学生の少女の背丈よりもずっと大きい。少しだけドキッとして足を止めた少女の前で、大きな幻獣は「怖くないよ」とでも言うように、前足と後ろ足をゆっくりと折り曲げて、地面にぺたんと伏せる姿勢をとってくれた。
ちょうど、小さな子供でも横から簡単に背中へよじ登れるくらいの高さになっている。
さらに大きな幻獣は、長い首を後ろへ回して、自分のふかふかの背中を鼻先で「ここへどうぞ」と示すように揺らした。
「……えっ、わたし、お背中に乗ってもいいの?」
大きな幻獣が「ふぅん」と穏やかに鼻を鳴らして頷く。
FD-1の安全基準で作られたこの島では、鞍や手綱がなくても絶対に振り落とされないよう、見えない安全補助が優しく体を支えてくれる仕様になっている。
少女は胸を躍らせながら、大きな幻獣の横腹へ歩み寄り、両手でその長い毛を掴んで、よいしょ、と背中へまたがった。
「……わあっ!!」
乗った瞬間、少女の体が十センチほど、ふかふかの毛の中へと沈み込んだ。
まるで、お日様に干したばかりの羽毛布団を何枚も重ねたベッドの上に座っているみたいな、信じられないほどの柔らかさと温かさだ。それでいて、毛の奥にはしっかりと自分を支えてくれる大きな生き物のたくましい背中の感触がある。
「すごい……! お背中、雲の上みたいにふっかふかだよ……!」
少女が首元の長い毛に両手を添えると、大きな幻獣がゆっくり、ゆっくりと四本の足で立ち上がった。
ぐんっ、と少女の目線が一気に高くなる。大人のお父さんに肩車をしてもらった時よりも、さらに高い景色だ。
「わあああああ! 高い、たかーい!!」
そして大きな幻獣は、背中の少女を揺らさないように、ゆったりとした足取りで花畑の丘を歩き始めた。
トコトコと隣を並走してついてくる最初の小さな白い幻獣。
規則正しい、ゆりかごのような優しい揺れが少女の身体に伝わってくる。
眼下には、風に波打つ七色の花の絨毯。
すぐ横を、先ほどの小さなエメラルド色の竜たちが何匹も並んで飛んでいく。
向こうの海からは潮風が吹き抜け、少女の髪と、大きな幻獣の長い毛並みを一緒にさらさらと揺らしていった。
少女は背中の上で大きく息を吸い込み、幸せいっぱいに声を上げた。
「すごーい!! わたし、ほんとに魔法の生き物のお背中に乗って、お散歩してるよーーっ!!」
小さな白い幻獣が、下から「きゅっ! きゅっ!」と楽しそうに跳ねながら応える。
「あははっ、あんまり走ったら疲れちゃうよ! ほら、お背中から海がぜんぶ見えるよ!」
少女は大きな幻獣の首筋を優しく撫でながら、青い海と花畑をぐるりと巡る夢のような散歩を、心の底から堪能した。
「……ありがとうね、大きい子さん。わたしを乗せてくれて、ほんとにありがとう」
少女が首元に頬を寄せると、大きな幻獣は嬉しそうに、ゴロゴロと低く優しい喉の音を響かせたのだった。
◇
数分間の素敵なお散歩を終えて、大きな幻獣が再び元の木陰へと戻ってきた。
ふわりと地面に伏せてくれた背中から降りた少女は、大きな幻獣の鼻先を両手でたくさん撫でてお礼を言った。
「ありがとう、すっごく楽しかった!」
すると足元で、ずっと一緒についてきてくれた最初の小さな白い幻獣が、「きゅうっ!」と少女の靴をつついた。
「あはは、ずっと一緒に走ってくれたもんね。おいで!」
少女が両手を伸ばすと、白い幻獣は待っていましたとばかりに腕の中へと飛び込んできた。
少女はその子を抱っこしたまま、大木の根元の、涼しい木陰の芝生へとぺたんと腰を下ろした。
少しだけ歩き回った心地よい疲れと、腕の中のポカポカした温もり。
「……はあぁ。たのしかったあ……」
木漏れ日が揺れる下で、白い幻獣の頭を撫でながら、少女は幸せなため息をついた。
もう、白い子を抱っこする夢も、大きな子の背中に乗る夢も、全部叶ってしまった。あとは時間が来るまで、この子とゆっくりお話ししていよう。
――そう思っていた、その時だった。
「きゅっ!」
すぐ右隣の草むらから、別の小さな鳴き声がした。
少女が「ん?」と顔を向けると、そこには、腕の中の子とそっくりな「二匹目の白い幻獣」が、ちょこんと座ってこちらを見上げていたのだ。
「……あれ? お友達?」
二匹目の子は、トコトコと歩いてくると、少女の空いている方の膝の上に前足を乗せ、まん丸な瞳でじっと見上げてきた。
「……もしかして、あなたもだっこしてほしいの?」
「きゅうっ!」
少女が笑顔で二匹目も膝の上へ抱き上げる。
「わあ、この子もふわっふわだ……!」
すると、最初から腕の中にいた一匹目の子が、「わたしの方が先だよ!」とでも抗議するように「きゅううっ!」と鳴いて、少女の胸元へ頭をぐいぐい擦りつけてきた。
「あっ、ごめんごめん! ちゃんと両方いっしょになでなでするからね!」
右腕に一匹。左腕に一匹。
両腕が白い綿毛でいっぱいになり、少女は「えへへ、ふわふわが二倍になっちゃった!」と声を上げて笑った。
だが、事件はそれで終わらなかった。
少女の楽しそうな笑い声と、二匹が気持ちよさそうに鳴く声に引き寄せられたのか――周囲の花畑の草むらが、あちこちでカサカサッ、カサカサッ、と一斉に揺れ始めたのである。
「……えっ?」
草の隙間から、白い長い耳がぴょこぴょこと飛び出してくる。
三匹目。四匹目。五匹目。さらに、頭に花冠を乗せた丸っこい生き物たちまで。
何匹もの小さな幻獣たちが、木陰に座っている少女の周りへと、トコトコと一斉に集まってきたのだ。
「わ、わわっ!? な、なに!?」
一匹が、少女の伸ばしたスニーカーのつま先の上に、ぴょこんと乗った。
もう一匹が、横から少女の太ももの上へとよじ登ってくる。
さらに二匹が少女の左右の脇腹にぴったりとくっついて座り、別の一匹は少女の背中にぽすんと寄りかかった。
あっという間に、少女は三百六十度、見渡す限りの「白いふわふわの毛玉」たちに完全に包囲されてしまったのだ。
「……わああああああ!! なにこれ、ふわふわがいっぱいだああああ!!」
右を向けば、白い頬がすりすりと擦り寄ってくる。
左を向けば、小さな冷たい鼻が手の甲をちょんちょんとつついてくる。
長い耳が首筋をくすぐり、何本もの大きな尻尾が少女の腕や足をぱたぱたと撫で回し、あちこちから「きゅう~」「きゅっ」という幸せそうな鳴き声が合唱のように響いてくる。
あっちの頭を撫でれば、こっちの子が「わたしも!」と手を押し上げてくる。
少女はもう、くすぐったさと可愛さのあまり、芝生の上でケラケラと笑いが止まらなくなった。
そして、ひとしきり少女に撫でてもらって満足すると。
まず、腕の中にいた最初の一匹目が、ふあぁ、と小さなあくびをして、少女の膝の真ん中でくるりと丸くなって目を閉じた。
「……あれ?」
すう、すう、と小さな寝息が聞こえ始める。
するとそれが伝染したかのように、左腕の二匹目も、足の上に乗っていた子も、脇腹にくっついていた子たちも、少女の温かい身体にぴたりと寄り添ったまま、次から次へとうとうとと船を漕ぎ始め、やがて全員が気持ちよさそうに眠ってしまったのである。
「………………」
木陰に、穏やかな風と、小さな寝息の合唱だけが響く。
少女は両手を浮かせたまま、自分の膝や足の上で真っ白な毛玉となって熟睡している幻獣たちを見下ろした。
「……ど、どうしよう。みんな、わたしの上で寝ちゃった……」
少女は試しに、しびれないように右足をほんの少しだけ、一センチほど動かそうとした。
すると、足の上に乗っていた白い毛玉が「むにゃ……きゅう……」と寝言を言って、落ちないように少女の足首を小さな前足でぎゅっと抱きしめたのだ。
「……あっ!」
少女は全身をピタリと硬直させた。
今度は左腕を少しだけ動かそうとすると、膝の上の最初の子が長い耳をぴくぴくと揺らし、気持ちよさそうに少女のお腹へ顔を埋めてくる。
「……だ、だめだ。動いたら、みんなを起こしちゃう……!」
もちろん、これはゲームのシステムによる拘束などではない。少女がその気になればいつでも立ち上がれるし、FD-1の安全環境なので足が本当に痛くなることもない。
ただ単に、「自分の上で安心して眠っているふわふわの生き物たちが可愛すぎて、人間の良心としてどうしても動くことができない」という、古今東西の愛玩動物飼い主たちが現実で陥るのと同じ、幸福極まりない罠にハマっただけだった。
両腕にモフモフ。膝の上にモフモフ。足元にも背中にもモフモフ。
少女は一歩も動けないまま、その柔らかく温かい重みに包まれて、とろけるような満面の笑みを浮かべた。
「……えへへ。わたし、ふわふわの子たちのおふとんになっちゃった……!」
世界で一番幸せな「身動き不能状態」だった。
少女はただ静かに指先だけを動かして、眠る毛玉たちの柔らかい背中をそっと撫で続けた。このまま何時間でも、お日様が沈むまでずっとこうしていたいと思った。
――けれど。
現実世界の時計の針は、そんな少女の幸せな時間を待ってはくれなかった。
ポロン、と、眠っている幻獣たちを起こさないような、とても優しい鈴の音が空中に響いた。
そして少女の視界の隅に、淡い緑色の文字で、丁寧な案内が浮かび上がった。
《まもなく、お時間となります(終了まで、残り3分です)》
少女は、その文字をぱちくりと見つめた。
「…………え?」
頭の中で、意味がすぐには繋がらなかった。
だって、ついさっきこの島に来たばかりのはずだ。白い子を見つけて、抱っこして、大きい子のお背中に乗って、みんなで木陰に座っただけなのに。
「……ええええええっ!? うそ、もう二十分たっちゃったの!?」
思わず声を上げそうになり、少女は慌てて自分の口を押さえた。
楽しすぎて、幸せすぎて、二十分という時間がまるで魔法で消えてしまったかのように一瞬で過ぎ去っていたのだ。
◇
《終了まで、残り2分です》
無情にもカウントダウンが進んでいく。
少女は少しだけ困ったように眉を下げ、自分の膝の上ですやすやと眠っている白い幻獣たちを見下ろした。
「……ねえ、みんな。起きて……起きなきゃ、わたし、おうちに帰る時間なんだって」
少女が優しい声で呼びかけながら、一匹ずつの背中をトントンと撫でる。
すると、幻獣たちは「きゅう……?」と眠そうに目をこすりながら、次々と顔を上げた。長い耳を揺らし、どうして少女が寂しそうな顔をしているのか分からないといった様子で、首を傾げている。
少女がゆっくりと立ち上がると、周囲の幻獣たちも芝生の上に並んで少女を見上げた。
少女は、その中の一匹――島に着いた時、一番最初に草むらから出てきて、鼻先で指に触れてくれたあの子と向き合い、もう一度その場にしゃがみ込んだ。
そっと両手を伸ばすと、その子は迷わず少女の腕の中へと飛び込んできた。
「……ねえ、白い子さん」
「きゅ?」
少女は、腕の中の温かくて柔らかい身体を、自分の頬にぎゅっとすり寄せた。
お日様の匂いと、ふわふわの毛の感触。
「今日ね、あなたに会えて、すっごく、すっごく楽しかったよ。お鼻でちょんってしてくれたのも、抱っこさせてくれたのも、大きい子のお背中に案内してくれたのも、ぜんぶ嬉しかった」
「きゅうっ」
「わたしね、カレンダーに毎日バツをつけて、今日ずっとあなたに会いたくて待ってたんだよ。遊んでくれて、ほんとにありがとう」
《終了まで、残り1分です》
少女の声に、ほんの少しだけ涙混じりの鼻声が混じる。
泣いて駄々をこねたりはしない。お父さんとお母さんと「一回だけ、二十分だけの特別な体験だよ」と約束して入ったのだ。それはちゃんと分かっている。
それでも、こんなに仲良くなれた温かいお友達と、たった二十分でお別れしなければならないのは、やっぱり寂しかった。
「……ねえ。わたし、まだ帰りたくないけど、もう行かなきゃいけないの。……でも、またいつか、この島に遊びに来てもいい?」
少女が潤んだ瞳で尋ねると、腕の中の白い幻獣は、じっと少女の目を見つめ返した。
そして、小さな首を伸ばすと――最初に出会った時と同じように、少女の頬へ、小さな冷たい鼻先を「ちょん」と優しくくっつけたのだ。
「きゅうっ!!」
元気いっぱいの、明るい鳴き声だった。
まるで『うん! ここでずっと待ってるからね!』と約束してくれたかのように。
少女はハッと目を見張り、それから、こぼれそうだった涙を引っ込めて、今日一番の満面の笑みを咲かせた。
「……うん!! 約束だよ! また絶対に、あなたに会いに来るからね!!」
最後の三十秒。
少女は白い幻獣を芝生に下ろす代わりに、その温もりと重みを自分の両手に永遠に覚えておこうとするみたいに、胸の前で優しく抱きしめて目を閉じた。
「みんな、ありがとう! ばいばい、またねーーっ!」
《体験時間終了です。安全ログアウト処理を開始します》
少女の視界が、柔らかくあたたかな純白の光へと溶けていく。
遠ざかっていく花畑の風の中で、最後まで少女を見送る『きゅうっ!』『きゅうっ!』という可愛い鳴き声たちが、いつまでも優しく響いていた。
◇
プシュー、という静かな音とともに、幕張メッセ・七天堂ブースのポッドのキャノピーがゆっくりと開いた。
「――お帰りなさい! 上手に島から戻ってこられたね、気分は悪くないかな?」
待機していた七天堂の女性スタッフが、優しい笑顔で上から覗き込んで声をかけた。
ポッドの中で目を開けた少女は、天井の白い照明を見つめ、まだ半分だけ夢の中にいるようにパチパチと瞬きをした。
「…………」
少女は無言のまま、胸の上に置いていた自分の両手を、ゆっくりと顔の前へ持ち上げた。
さっきまで、そこには雪みたいに真っ白で、ポカポカと温かくて、トクトクと心臓が鳴っているふわふわの子がいたはずだった。
小さな手のひらを開いてみる。そして、もう一度ぎゅっと握ってみる。
そこにはもう、空気しかなくて、自分の手の感触しかなかった。
「……あれ?」
少女が不思議そうに自分の両手を見つめているのを見て、スタッフのお姉さんが心配そうに身を乗り出した。
「どうしたの? どこかおててが痺れたりしたかな?」
少女は首を横に振り、自分の手のひらをお姉さんに見せながら言った。
「……あのね、違うの。ついさっきまで、このおてての中に、ほんとに白いふわふわの子がいたんだよ」
スタッフのお姉さんは、その言葉の意味を悟って、ふっと目尻を下げて温かく微笑んだ。
「そっかあ。島の中で、あの子とたくさん仲良く抱っこして遊んできたんだね」
その言葉で、少女の顔にパッと現実の笑顔が戻った。
少女はポッドの中で上半身を起こすと、目をキラキラと輝かせてお姉さんに言った。
「うん!! あのねお姉さん、あの子ね、すっごく、すっごく、ふわっふわで、あったかかったの!!」
「ふふっ、よかったねえ! さあ、外でお父さんたちが待ってるから、いっぱいお話ししてあげてね」
簡単なバイタルチェックを終え、異常なしのサインが出ると、少女はポッドから元気よく飛び降りて、家族が待つ待機エリアの出口へと駆けていった。
◇
試遊ゾーンのガラス扉が開き、少女が姿を現した瞬間、待機エリアでソワソワしながら待っていた父親、母親、そして高校生の兄の三人が一斉に駆け寄ってきた。
「おお、出てきたぞ! お帰り!」
父親が手を振り、母親が「どうだった? 怖くなかった? 楽しかった?」と優しく肩に触れる。
そして誰よりも前のめりになっていた高校生の兄が、妹の両肩を掴まんばかりの勢いで詰め寄った。
「おい! どうだった!? あの白い毛玉は本当にいたのか!?」
三人の質問攻めに、少女は一瞬だけ胸を張ると、まず最初に兄の方へ真っ直ぐに向き直った。
ポッドに入る前、「お兄ちゃんに一番に全部教えてあげるね」と約束していたからだ。
「お兄ちゃん!!」
「お、おう! なんだ!」
少女は自分の小さな両手を、これでもかというくらい大きく広げて叫んだ。
「あのね!! 白い子がね、ほんとに草むらにいてね、ものすっっっごく、ふわっふわだったの!!」
「うおおおおお!! やっぱりふわふわだったのかあああ!!」
高校生の兄が、まるで自分が抱っこしてきたかのように拳を握りしめて咆哮する。
そこからはもう、兄による必死のインタビューと、妹による身振り手振りの大報告会が始まった。
「ちょっと待て、最初から順番に詳しく教えてくれ! まず一番最初に触ったのはどこだ!?」
「お鼻だよ!」
「鼻からいったのか!?」
「うん! わたしがしゃがんでおててを出したらね、トコトコって歩いてきて、お鼻で指にちょんってしてくれたの! 小さくて、ちょっとだけ冷たかった!」
「くっ、自分で歩いてきて鼻ツンだと……!? それで!?」
「それからね、自分からわたしのおててにお顔をすりすりーってしてくれてね、お膝をトントンってして『だっこして』って乗ってきたの! 抱っこしたらね、ぬいぐるみなんかと全然ちがうんだよ! お日様みたいにポカポカあったかくて、ずっしり重くて、お胸がトクトクって動いてたの!」
「……っ、体温と心音まで再現されてるのか……! 七天堂のやつら、なんてものを作りやがるんだ……!」
兄が唸りながら頭を抱え、両親がその横でクスクスと笑いながら頷いている。
「それでね、お父さん、お母さん! その白い子に案内してもらって歩いていったらね、お花がいっぱい咲いてる谷があって、テレビで見た『大きいふわふわの子』がいたの!」
「おお! あの背中に乗れるやつか! 乗せてもらえたのか?」
「うん!! 大きい子が自分でしゃがんでくれてね、お背中に乗ったら、おふとんみたいにふっかふかだった! そのままお山の上をお散歩してくれて、青い海も、空を飛んでるちっちゃいドラゴンも見えたんだよ!」
「ドラゴン!? おい待て、あの島には小型ドラゴンまで飛んでるのか!?」
「うん、ピカピカ光る緑色のドラゴンさんが、風でお花をいっぱい飛ばしてくれたよ!」
「くっそおおおおお!! なんだその夢の島は、俺もめちゃくちゃ行きたかったあああ!!」
兄が悔しさと羨ましさでジタバタと悶絶する中、少女はさらに目を輝かせて、後半に起きた「最大の事件」を語り始めた。
「それでね、お散歩が終わって木の下に座ってたらね、草むらから白いふわふわの子が、もう一匹出てきたの!」
「おっ、二匹になったのか」
「ううん、二匹じゃないの! わたしが抱っこして笑ってたらね、あっちからもこっちからも、ふわふわの子がいーっぱい集まってきて!」
母親が目を丸くして尋ねる。
「あらまあ、そんなに? 全部で何匹くらいいたの?」
少女は小さな指を一本ずつ折って「いち、にい、さん……」と数えようとしたが、すぐに両手では足りなくなって、ぱっと手を広げて笑った。
「えっとね……とにかく、たくさん!!」
「ははは、数え切れないくらいたくさんか!」
「うん! それでね、わたしの腕の中とか、お膝の上とか、靴の上とか、背中の後ろにみんなでくっついて、全員そのまますやすやーって寝ちゃったの!」
「…………は?」
兄の動きが、ピタリと止まった。
「だからね、わたしが動いたらみんなが起きちゃうから、ずっと動けなくなっちゃって、わたし、ふわふわの子たちのおふとんになっちゃったの! でもね、すっごくあったかくて幸せだったよ!」
少女がえへへと笑って報告を終えた瞬間、高校生の兄は両手で顔面を覆い、待機エリアの天井を仰いで魂の絶叫を上げた。
「――うわああああああああ!! なんだその天国みたいな状態はあああああ!! モフモフの毛玉に三百六十度囲まれて寝落ちされて動けなくなるだと!? なんでそれが俺じゃなくてお前なんだよおおおお!!」
兄のあんまりな絶叫に、父親も母親も、そして周囲を歩いていた他の来場者たちまでが思わず吹き出した。
父親は笑いながら、娘の頭を優しく撫でた。
「……いやあ、実はお父さんは最初、巨大ロボットの《アルタイル》にしか興味がなかったんだけどな。お前の今の話を聞いてたら、なんだかお父さんまでその白い子を一回抱っこしてみたくなってきちゃったぞ」
「あら、あなたも? 私もよ」
母親も微笑んで頷いた。
「私は農園で野菜を育てたかったけれど、そんなに可愛い子たちがたくさん懐いてくれるなら、その島でのんびり過ごすのも最高でしょうね」
「だろ!? 話を聞けば聞くほど、男だろうが大人だろうが全員モフモフしたくなるんだよ!」
兄が力説すると、少女はパッと顔を輝かせて三人の顔を見上げた。
「じゃあさ! 今度おうちでもこのゲームができるようになったら、お父さんとお母さんとお兄ちゃんと、四人みんなで一緒にあの島へ遊びに行こうよ!」
「ああ、そうだな。いつか正式に遊べる日が来たら、家族みんなでその白い子たちに会いに行こう!」
父親が力強く頷いた。
母親が、少女の少しだけ赤くなった頬を見て、優しく尋ねた。
「……それで、お別れの時は、ちゃんと泣かずにバイバイできた?」
少女は「うん!」と頷き、それから、さっきまで幻獣を抱いていた自分の両手をそっと胸の前に重ねて、少しだけ照れたように笑った。
「最初はね、ちょっとだけ寂しかったけど、『また遊びに来てもいい?』って聞いたら、あの子がわたしのお顔にお鼻でちょんってして、『きゅうっ!』って返事してくれたの。だからね、わたし、また絶対に会いに行くって約束してきたんだよ」
「そう。……いいお友達ができたわね」
「うん! わたしの一番のお友達だよ!」
◇
四人は手を繋ぎ、次の展示ホールを見て回るために賑やかな通路へと歩き出した。
歩きながらも、少女のおしゃべりは一向に止まる気配がない。
「あとね、お兄ちゃん! あの子のね、頭のてっぺんはさらさらしてるんだけど、お腹のところはマシュマロみたいにぷにぷになんだよ!」
「おう、マシュマロか、なるほど!」
「それでね、大きなおしっぽをさわったら、『きゅっ』てくすぐったそうに動くの!」
「くっ、しっぽにまで反応があるのか!」
「あとね、水色のしっぽの子が小川にいてね――」
「おいちょっと待て、まだ新しい生き物の話が出てくるのか!? お前、たった二十分間でどれだけ濃い体験をしてきたんだよ!!」
兄のツッコミと少女の笑い声が、ゲームショウの華やかな喧噪の中へと溶けていく。
宇宙を駆ける船も、恒星を折り畳む超技術も、この小さな少女には必要なかった。
アンノウン機関が提供したフルダイブというキャンバスに、七天堂のクリエイターたちが優しい筆致で描き出した、柔らかくて温かい一つの「いのち」の感触。
たった二十分間。
少女は世界を救う勇者になったわけでも、巨大な怪物を倒したわけでもない。ただ花畑の島で、白いふわふわの生き物を抱きしめて、その背中に乗って風を感じただけだった。
けれど、父親と兄の手を引っ張りながらキラキラと輝く瞳で思い出を語り続ける彼女の笑顔を見れば、それがどれほど掛け替えのない、本物の宝物のような二十分間であったかは誰の目にも明らかだった。
そして少女の小さな胸の中では、もう「次の約束」が温かく息づいていた。
いつかきっと、もう一度あの花の咲く丘へ。今度は家族みんなと一緒に、あの白いふわふわのお友達を抱きしめに行く日のことを。
ここまで読んでいただきありがとうございます! もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部より【お気に入り登録】や【評価】、感想などをいただけると執筆の励みになります。 作者のモチベーション上昇に直結しますので、是非ともよろしくお願いします!
YouTubeチャンネルを開設しました!
自作小説の朗読動画を投稿しています。
再生リストから第1話から通して聞けるので、作業用・睡眠用にもどうぞ!
よかったら、下のリンクから聴いてみてください!
YouTubeチャンネル「パラレル・ゲーマー」はこちら