自宅に届いた『惑星開発キット』で、社畜SEは異世界工場の管理者になる ~運用保守はもう終わり。現代の物資と無限の資源で、銀河規模の自動化帝国を築き上げます~   作:パラレル・ゲーマー

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第三部 硝子のカーテンと黄金の賄賂編
第33話 鋼鉄の仁王とメディアの狂騒


【第三部 硝子のカーテンと黄金の賄賂 開始】

 

 静岡県御殿場市。

 霊峰富士の広大な裾野に広がる陸上自衛隊・東富士演習場。

 日本の防衛における最大の要衝であり、普段は155ミリ榴弾砲の轟音や、90式・10式戦車のキャタピラ音が大地を震わせるこの場所に、今日はこれまでとは全く質の異なる異様な熱気が渦巻いていた。

 

 早朝から降り続いていた冷たい小雨はようやく上がり、雲の切れ間から薄日が差し始めている。

 湿った黒土と硝煙の混じった独特の匂いが立ち込める中、フィールドを見下ろす位置に特設された巨大な観覧スタンドは、立錐の余地もないほどの人波で埋め尽くされていた。

 詰めかけたのは、総勢500名を超える国内外の報道陣だ。

 

 NHK、民放キー局、大手新聞社の社会部・政治部・科学部の記者はもちろんのこと、CNN、BBC、ロイター、アルジャジーラ、新華社通信といった海外の有力メディアのカメラクルーたちが、血走った目で熾烈な場所取り合戦を繰り広げている。

 さらに一段高い場所に設けられたVIP席――防弾ガラスで仕切られた特別観覧席には、アメリカ、中国、ロシア、韓国、EU諸国、インドなど世界各国の駐在武官たちが正装の制服に身を包み、鋭い視線を何もないフィールドへと注いでいた。

 彼らの手には高倍率の双眼鏡と、本国へリアルタイムで報告を送るための暗号化されたタブレット端末が握られている。

 

 彼らの目的は、ただ一つ。

 日本政府と防衛省が突如として発表した「次世代陸上装備」の公開演習を目撃することだ。

 一週間前に出された事前のプレスリリースには、『防衛産業の国内基盤強化における画期的な成果』および『人命保護を最優先とした新装備』とだけ記されており、具体的な装備の名称、スペック、形状などの詳細は一切伏せられていた。

 その徹底した秘密主義が逆に憶測を呼び、世界中の軍事関係者の関心を異常なまでに惹きつけていたのだ。

 

「……おい、聞いたか? 今日公開される装備の噂を」

「ああ。なんでも『歩兵の概念を根底から変える』とかいう触れ込みらしいな」

 

 プレス席の最前列で、軍事専門誌のベテラン記者が望遠レンズの手入れをしながら、同僚に囁く。

 

「どうせまた、アメリカのTALOS計画のお下がりの技術を使った外骨格(エクソスケルトン)だろう?

 バッテリーが30分しか持たないとか、油圧の音がうるさすぎて隠密行動ができないとか、そんなオチじゃないか?」

「いや、今回は違うらしいぞ。

 開発は、あの『海道重工』だ。それに経産省と内閣府がバックについている。

 予算の桁が違うという話だ。

 それに例の『深海レアメタル』をふんだんに使っているという噂もある」

「ふん、見せてもらおうか。資源大国になった日本の技術力の底力とやらを」

 

 会場に漂う空気は、期待半分、懐疑半分といったところだった。

 日本は素材やセンサーといった基礎技術こそ世界最高水準にあるものの、それらを統合し実戦的な兵器システムとして完成させる分野では、実戦経験豊富なアメリカや、軍拡著しい中国に後れを取っているというのが国際的な評価だ。

 特に歩兵用の強化装備は、バッテリーの小型化や制御AIなど、世界各国が開発にしのぎを削る激戦区であり、日本がいきなりトップレベルの製品を出せるとは、誰も本気では信じていなかった。

 

 だが、その冷ややかな予想は数分後、物理的な衝撃と共に粉々に粉砕されることになる。

 

 午前10時00分。

 演習場全域に、けたたましいサイレンが鳴り響き、重厚な男声のアナウンスがスピーカーから流れた。

 

『これより、防衛省技術研究本部および海道重工業共同開発

 「26式多目的装甲戦闘服(Type 26 Multi-purpose Armored Combat Suit)」の性能実証展示を行います』

 

 26式。

 今年度制定されたばかりの、真新しい装備であることを示す型番だ。

 

 フィールドの最奥。

 それまで黒い幕で厳重に覆われていた巨大な格納庫のシャッターが、重々しい油圧音を立ててゆっくりと上昇し始めた。

 演出のために焚かれたスモークが白く流れ出し、その奥からサーチライトの光を背負って「それ」が現れる。

 

 ズシン……ズシン……。

 

 地面を叩く重低音が、集音マイクを通して会場全体の空気を震わせる。

 現れたのは、三体の「鋼鉄の巨人」だった。

 

「うわっ……なんだ、あれ!?」

「でかい……いや、分厚い!」

「ロボットか!? いや、中に人が入っているのか!?」

 

 カメラのシャッター音が一斉に、豪雨のように鳴り響き、無数のフラッシュが巨人を白日の下に晒した。

 そこに立っていたのは、既存のスタイリッシュで軽量なパワードスーツの概念を根底から覆す異形の代物だった。

 従来のものが「人間をサポートするフレーム」であるなら、これは「人間が乗り込む戦車」だ。

 

 鈍い銀色に輝く、重厚極まりない複合装甲。

 肩幅は一般人の倍近くあり、胸部は分厚い装甲板が幾重にも重なり合って搭乗者の心臓を守っている。

 四肢は太く、関節部分は弱点を隠すように複雑なスライド装甲で保護されている。

 頭部は完全に密閉されたフルフェイス・ヘルメットで覆われ、T字型のバイザーセンサーが不気味な青い光を放っている。

 

 全身から漂うのは、洗練されたハイテク機器の優美さではない。

 中世の重装甲騎士と現代の重機を悪魔合体させたような、根源的な「暴力の匂い」と「圧倒的な質量感」だ。

 

 これこそが、テラ・ノヴァの工場で工藤創一の手によって産み出された『ヘビーアーマー』をベースに、海道重工が外装の迷彩塗装と通信・照準などの電子装備を追加した、日本独自の強化装甲服である。

 

『本装備は、複合装甲と内部生命維持装置を含め総重量100キログラムを超えますが、

 新開発の「高出力ナノアクチュエータ」および「人工筋肉繊維」により、着用者の身体負荷を限りなくゼロにします』

 

 アナウンスと共に、三体のアーマーが一斉に動き出した。

 その瞬間、会場から悲鳴に近いどよめきが上がった。

 

 速い。

 あまりにも速い。

 

 100キロの鉄塊を纏っているとは思えないほどの俊敏さで、彼らはフィールドを疾走した。

 ダッシュの初速で地面の土が爆ぜ、濡れた砂利が後方へと弾き飛ばされる。

 時速40キロを超えるスピードで、彼らは障害物競走のエリアへ突入した。

 

 高さ三メートルの垂直の壁。

 先頭の機体が減速することなく踏み切った。

 

 ドンッ!

 

 助走なしの垂直跳びで、巨体は軽々と壁を越えた。

 着地の衝撃音は重いが、その動作に淀みはない。

 膝のサスペンションが深く沈み込み、即座に次の一歩へとエネルギーを変換する。

 

 続いて瓦礫の山、ぬかるんだ泥沼、鉄条網。

 あらゆる悪路を、彼らは平地を走るかのような速度で踏破していく。

 

「嘘だろ!? あの巨体で、あの機動力か!」

「音がしない……。油圧シリンダーの駆動音が聞こえないぞ!」

 

 VIP席のアメリカ軍武官が、双眼鏡を握りしめたまま絶句する。

 既存のパワードスーツの最大の欠点は、駆動音の大きさだった。

 ウィーン、ガションという機械音は、隠密性を損なう致命的な欠陥だ。

 

 だが26式は、不気味なほど静かだ。

 まるで生物の筋肉そのものが、鋼鉄でできているかのような滑らかで力強い挙動。

 これは現代の機械工学の常識を遥かに超えている。

 

 そのアーマーの内部。

 中央の機体を操るパイロット――陸上自衛隊・特殊作戦群から選抜された3等陸佐の男は、HUD(ヘッドアップディスプレイ)に表示されるクリアな視界を見つめていた。

 密閉されたヘルメットの中だが、息苦しさはない。

 完璧な空調が彼の呼吸音と心拍数をモニターし、最適な環境を維持している。

 

 (……軽い。まるで、羽が生えたようだ)

 

 彼は指先を動かした。

 100キロの装甲が、皮膚の延長のように追従する。

 自分の肉体が拡張され、世界を支配できるような全能感。

 彼は訓練通りに意識を集中し、次の展示エリアへと機体を向けた。

 

 アナウンスが次の項目を告げる。

 

『続きまして、射撃管制および反動制御能力の展示です』

 

 中央の機体が背中のウェポンラックから、長大な銃を取り出した。

 12.7mm対物ライフル、バレットM82。

 本来なら伏せて二脚(バイポッド)を立てるか、車両に固定して運用する大口径砲だ。

 生身の人間へ撃てば身体が吹き飛び、装甲車両のエンジンブロックすら粉砕する威力を持つ。

 当然、立って撃つなど論外だ。

 反動で肩を脱臼するか、照準が空を向いて終わる。

 

 だが装甲服の兵士は、それをアサルトライフルのように片手で構えた。

 脇に抱え、腰だめに構えるその姿は、まるで玩具の銃を持っているかのようだ。

 

 HUDに赤いレティクル(照準)が浮かび上がる。

 リンクした火器管制システムが、風速、気温、湿度を計算し、弾道予測線を表示する。

 ロックオン。

 

 ズドンッ!! ズドンッ!! ズドンッ!!

 

 轟音と共に極太のマズルフラッシュが走り、巨大な空薬莢が宙を舞う。

 信じがたいことに彼は、「歩きながら」、さらには「走りながら」対物ライフルを連射していた。

 発砲の瞬間、肩と背中の装甲が微かにスライドし、全身のナノアクチュエータが数トンの衝撃を瞬時に吸収・分散し、足裏のスパイクを通じて地面へと逃がしているのがハイスピードカメラの映像で確認できる。

 銃口はピクリともブレず、数百メートル先の標的——廃棄された装甲車の側面装甲を次々と粉砕し、穴だらけにしていく。

 

「馬鹿な……。あんなの、歩く機関砲じゃないか……」

「歩兵火力の概念が変わるぞ……」

 

 中国の武官が青ざめた顔でメモを取る手が止まっていた。

 これだけの重火器を一般歩兵が個人携行し、かつ高機動で運用できるとなれば、市街地戦のドクトリンを根本から書き換えなければならない。

 戦車も装甲車も入れない狭い路地裏で、機関砲並みの火力が高速移動してくるのだ。

 悪夢としか言いようがない。

 

 だが真の衝撃は、ここからだった。

 防御力展示。

 会場の空気が一変し、張り詰めた緊張感が走る。

 

『最後に、本装備の最大の特徴である「生存性」をご覧いただきます。

 想定状況:敵戦車および対戦車兵器による攻撃下での強行突入』

 

 フィールドの奥から、標的役の74式戦車が現れた。

 砲塔が旋回し、その105mm砲がたった一人の歩兵に向けられる。

 会場から悲鳴が上がる。

 「おい、正気か!?」「いくらなんでも危険すぎる!」

 

 アナウンスが慌てて補足を入れる。

 

『なお、使用される砲弾は爆圧と破片効果を再現した訓練用の減装弾頭です。

 また、着弾距離および角度は安全マージンを計算した上で設定されております』

 

 だがそれでも、生身の人間に向けて撃つものではない。

 至近弾でも、衝撃波で内臓破裂は免れないはずだ。

 

 ズドォォォォォォン!!

 

 戦車の主砲が火を噴いた。

 歩兵の足元わずか数メートルの地点で爆炎が上がり、凄まじい衝撃波が土煙を巻き上げる。

 視界が遮られる。

 観客が息を呑む。

 終わったと思った。

 

 機体内部。

 アラート音が鳴り響く中、パイロットは冷静だった。

 

 《衝撃検知。装甲耐久値低下、軽微。バイタル正常》

 

 HUDの表示はオールグリーンだ。

 

「……衝撃は、誰かに背中を叩かれた程度か」

 

 彼はニヤリと笑い、アクセルを踏み込んだ。

 

 土煙を切り裂いて、銀色の影が飛び出した。

 

「無傷だ!!」

 

 傷一つない。

 塗装が少し焦げた程度だ。

 ヘビーアーマーの隊員は、爆風などそよ風と言わんばかりに突進を続けた。

 

 さらにトーチカに見立てたコンクリート製の陣地から、RPG(対戦車ロケット)を模した飛翔体が撃ち込まれる。

 

 ドォォン!

 

 直撃。

 今度こそ終わったかと思われた。

 しかし煙の中から現れた巨人は、止まるどころか加速していた。

 ナノマシンによって分子結合レベルで強化された積層装甲は、成形炸薬弾のメタルジェットすらも受け止め、熱エネルギーを拡散させていたのだ。

 

「化け物か……」

 

 誰かの呟きが、静まり返った会場に響いた。

 

 隊員はトーチカに取り付き、その分厚い鉄製の防爆扉に手をかけた。

 溶断機も爆薬も使わない。

 ただ、その指を掛け、踏ん張っただけだ。

 

 ギギギギギギッ……バキンッ!!

 

 耳障りな金属音と共に、数センチの厚みがある鋼鉄の扉が紙のようにひしゃげ、蝶番ごと引きちぎられた。

 純粋な腕力(パワー)。

 内部のサーボモーターが唸りを上げ、数トンの出力を指先に集中させた結果だ。

 

 隊員は拉げた扉をゴミのように放り捨て、トーチカ内部へと突入。

 数秒後、「制圧完了」を告げる赤い発煙筒が焚かれた。

 

 ……シーン。

 圧倒的な暴力の嵐が過ぎ去った後、会場はしばし呆然とした静寂に包まれた。

 

 そして数秒後。

 爆発的な拍手と歓声が沸き起こった。

 それは単なる演習への称賛ではない。

 目の前でSF映画が現実になったことへの興奮と、畏怖の入り混じった絶叫だった。

 

 壇上に立った防衛大臣が紅潮した顔でマイクを握る。

 その声は自信に満ち溢れていた。

 

「ご覧いただけましたでしょうか。

 これが我が国の技術の粋を集めた『26式多目的装甲戦闘服』です。

 設計・製造は全て国内企業による純国産。

 素材から電子部品に至るまで、全て日本の技術で作られています」

 

 大臣は一呼吸置き、会場を見渡した。

 ここで最も重要なメッセージを発する。

 

「本装備の調達コストについてですが、特殊なレアメタルや複合素材を多用しているため、一着あたりの単価は非常に高額となります。

 主力戦車並みのコストがかかっていると言っても過言ではありません」

 

 会場がざわつく。

「やはり高コストか」

「少数生産止まりか」

 という落胆の声が漏れる。

 

 だが大臣は不敵な笑みを浮かべて続けた。

 

「しかし!

 先日の『深海資源開発』の成功により、我々は原材料の安定的、かつ無尽蔵な供給ルートを確保しております。

 したがってコストは高くとも、生産ラインにボトルネックは存在しません。

 予算が許す限り、何百着、何千着でも量産し配備することが可能です!」

 

 その言葉の意味を理解した瞬間、各国の駐在武官たちの顔色がサッと変わった。

 「高いが作れない」ではない。

 「高くても幾らでも作れる」のだ。

 それはつまり、日本という国家がその気になれば、この無敵の歩兵で師団を編成できるという宣言に他ならない。

 資源という裏付けがあるからこその、強烈なブラフだ。

 

「今後、本装備は陸上自衛隊の特殊作戦群、水陸機動団、および警察庁のSAT等の精鋭部隊へ、順次配備を進めてまいります。

 もはや兵士を危険に晒す時代は終わりました。

 この『纏う要塞』があれば、我が国の隊員はいかなる過酷な環境下においても任務を遂行し、必ず生還することが可能です。

 これこそが、新しい日本の抑止力です!」

 

 大臣の背後で三体のアーマーが敬礼をする。

 その動作は機械的でありながら、どこか人間臭い威厳に満ちていた。

 

 フラッシュの海の中で、VIP席の海道重工会長もまた満足げに頷いていた。

 このアーマーの中身が、異星の工場でハンマーによって叩き出されたものであることは、ここにいる誰一人として知らない。

 「Made in Japan」の刻印が押された瞬間、それは日本の技術力の象徴となるのだ。

 

          ◇

 

 その日の夜。

 日本のメディアは、この話題で一色となった。

 どのチャンネルを回しても、銀色の巨人が戦車の砲撃を耐え、鉄扉を引きちぎる映像が繰り返し流されている。

 

 『News Station Z』のスタジオ。

 メインキャスターが興奮気味にVTRを振り返る。

 

「いやあ、驚きましたね。まるでハリウッド映画『アイアンマン』やゲームの世界です。

 あんなものが日本で作られていたとは。

 コメンテーターの軍事評論家、井上さん。これは、どれほど凄いことなんでしょうか?」

 

 ゲスト席に座る軍事評論家が、神妙な顔つきで解説する。

 

「これは軍事バランスを一変させる可能性があります。

 これまでの歩兵装備の進化は、あくまで『軽く、強く、情報化する』という方向性でした。

 米軍のTALOS計画などがそうですね。

 しかし26式は、逆転の発想です。

 『重くても、パワーと装甲があればいい』。

 100キロの装甲を纏った兵士が時速40キロで走り回り、対戦車兵器すら耐える。

 これに対抗するには敵も同じようなパワードスーツを開発するか、あるいは歩兵一人に対して高価な対戦車ミサイルを撃ち込むしかありません」

 

「コスト面は、どうなのでしょうか?

 非常に高価だという話でしたが」

 

「ええ。

 ですが大臣の発言が重要です。

 『資源はあるから量産できる』と断言しました。

 通常こうしたハイテク兵器は、レアアースの輸入制限などで生産数が限られるのが常です。

 しかし日本は、今、独自資源を持っています。

 『金さえ出せば、いくらでも最強の兵士を作れる』という事実は、周辺国にとって核兵器並みのプレッシャーになるでしょう」

 

 画面のテロップには『純国産の守護神』『SFが現実に』といった文字が躍る。

 ネット上では既に「仁王(Nioh)」「サムライ・アーマー」「令和のガンダム」といったあだ名がつけられ、SNSのトレンドを独占していた。

 海外の掲示板やニュースサイトでも、祭りのような騒ぎになっている。

 

 『Japan has awakened(日本が覚醒した)』

 『これがガンダムの実用化第一歩か?』

 『米軍のパワードスーツ計画がオモチャに見えるぞ』

 『資源と技術を持った日本……恐ろしいな』

 

 世界中が、日本の「技術的特異点」に注目していた。

 資源に続き、軍事技術。

 眠れる獅子と思われていた極東の島国が、突如として牙を剥き始めたのだ。

 

          ◇

 

 首相官邸地下、危機管理センター。

 地上の熱狂をよそに、ここでは冷徹な情報分析が行われていた。

 大型モニターには世界各国の公式コメントと、インテリジェンス機関の動向予測が表示されている。

 

「……反響は上々だな。予想以上だ」

 

 官房長官が、各国の反応をまとめた極秘レポートに目を通す。

 

「アメリカ国務省からは演習終了直後に、定例会見で以下のコメントが出されました。

 『同盟国である日本の防衛力強化と技術革新を歓迎する。しかし地域の安定のため、新技術の透明性と相互運用性(インターオペラビリティ)の確保を強く期待する』。

 ……典型的な外交辞令ですが、『透明性』という言葉に棘がありますね」

 

「要するに、『中身を見せろ』と言っているわけか」

 

 総理が苦笑する。

 

「中国外交部も即座に反応しました。

 『日本の一部勢力による無謀な軍拡競争を深く懸念する。歴史の教訓を忘れず、平和的発展の道を歩むべきだ』。

 ……かなり強い口調です。効いている証拠ですね」

 

「狙い通りですね」

 

 日下部駐在員が冷めたコーヒーを口に運びながら言った。

 

「今回の公開演習の目的は二つありました。

 一つは、テラ・ノヴァ由来の技術を『国産技術』として既成事実化すること。

 もう一つは、周辺諸国への『抑止力』の提示です」

 

 日下部はモニターを指差した。

 

「我々が『深海資源』や『ナノマシン』を持っていると主張しても、それが平和利用に限定されているうちは、彼らは経済的なターゲットとしてしか見ません。

 『どうせ日本だ、強硬に出れば技術を差し出すだろう』と舐めてかかります。

 ですが、こうして目に見える『武力』……それも常識外れの兵器を見せつけられれば、話は変わります」

 

「『変な真似をすれば、この鋼鉄の集団がお前たちの国へ行くぞ』という無言の圧力か」

 

 防衛大臣がニヤリと笑った。

 

「実際にこれを装備したSATや空挺団が、国境警備や重要施設防衛に就けば、工作員の浸透は不可能になります。

 カタログスペックだけの張り子の虎ではありません。

 すでに『実戦(テラ・ノヴァ)』で証明済みの本物ですから」

 

「だが、これでアメリカの警戒レベルはさらに上がったぞ」

 

 総理が釘を刺す。

 その表情は厳しい。

 

「資源、技術、そして兵器。

 ここまで揃ってくると、もはや『従順な同盟国』という枠組みでは収まりきらん。

 彼らは我々を『潜在的な競争相手(ライバル)』、あるいは『制御不能な異物』として認識し始めるだろう」

 

「ええ。

 CIAの動きも活発化しています。

 特に新木場の施設周辺では、電波傍受だけでなく、高高度からのドローン偵察や衛星軌道の変更なども確認されました。

 さらには関連企業の技術者に対する接触――ハニートラップや、金銭による買収工作の兆候も見られます。

 彼らは本気で『日本の秘密』を暴きに来ています」

 

 日下部の言葉に、全員の表情が引き締まる。

 華々しいデビューの裏で、カウントダウンは進んでいる。

 硝子のカーテンの向こう側を覗こうとする視線は、日増しに強くなっているのだ。

 

「……次の手が必要だな」

 

 総理が呟いた。

 

「アメリカが痺れを切らして、外交的な圧力をかけてくる前に。

 あるいは強硬手段に出てくる前に。

 我々の手で、彼らを『納得させる』ためのシナリオを用意しなければならん」

 

「準備は進めています」

 

 日下部が手帳を開いた。

 

「工藤氏には伝えてあります。

 『見せてもいい技術』と『見せてはいけない真実』の区分けを。

 ……いざとなれば、カーテンの一部を開けて見せる覚悟です」

 

「テラ・ノヴァのことか?」

 

「いいえ、まさか。

 異星の存在など、絶対に明かせません。

 見せるのは、あくまで『新木場』です。

 あそこにある温室とナノマシンによる製造ライン……それらを『日本の最先端研究施設』として限定公開するのです。

 『隠しているのは、これだけですよ』と、嘘の真実を見せるために」

 

 地下室の重苦しい空気の中、日本の首脳たちは来るべき外交決戦に向けて腹を括っていた。

 鋼鉄の仁王が守るのは、単なる領土ではない。

 「テラ・ノヴァ」という、国家の存亡をかけた巨大な秘密、そのものなのだ。

 

 




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