宇宙へ   作:不凍港

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会議

銀河系中心部に存在する超大質量ブラックホール(危機)から、はるか外縁へと離れた位置に、とある恒星系が存在する。名は【没恒星系】。ガス惑星が三つ、岩石惑星が四つあり、軌道配置や質量比も特別な点はなく、天文学的には「ありふれた恒星系」に分類される、ごく標準的な星系だ。だが──恒星の至近宙域には、異様な光景が広がっていた。恒星そのものを覆い隠すかのような規模を持つ、無数の巨大構造物群。銀河に存在する殆どの文明を超える様な幾何学的形で、非常に滑らかそして、それらは互いに干渉することなく宙に留まり、恒星風や重力の影響を”一切”受けている様子もない。自然現象では説明できず、明確な設計意図が感じられる配置……この構造物群を建造したとされる勢力は、銀河内に存在する複数の国家(若い文明)から長く畏怖の対象とされてきた存在である。いずれも彼ら(若い文明)を「下等種族による国」と区別し、自分達とは別格の存在として扱っている。その起源は定かではないが、数百万年前にはすでに活動していたとする記録や伝承が点在しており、現在の銀河文明史の枠組みでは正確な年代を確定できていない。彼らは【没落した帝国】。かつての影響力は失われた一方で、その技術水準や遺産の全容は他とは一線を隠す。そして奇妙なことに、銀河にある没落帝国の内6ヶ国の使者が巨大構造物群のひとつ───【銀河情勢会議場】と呼ばれる施設に集結した。

 

──────────────────────────

 

「ここで再び集まることになるとは……何万年ぶりだろうな」

静かな声が、広大な会議場に響いた。発言したのは、人類に近い外見を持つ生命体だった。発光する装飾も威圧的な武装もない。だが、その存在そのものが周囲の空間を押し広げているかのような、神々しい雰囲気をまとっている。

会議場には、彼を含めて六名の知性体が集まっていた。

姿形はそれぞれ異なるが、共通点が一つだけある。いずれも、かつて銀河に覇を唱え、そして没落した帝国において、最上位に近い立場にあった者たちだ。

「私も、できることなら君たちの顔など見たくはなかったがね」

そう告げたのは、理知的な印象を与える別の生命体だった。感情の起伏を極力排した声で、彼は続ける。

「だが……“あれ”が、数百年から数千年以内に覚醒することが分かった」

その言葉が放たれた瞬間、会議場の空気が目に見えて重くなる。誰もが、その“あれ”が何を指すのかを理解していた。

「ブァルリア排他国や、DF-XX避難所にも、この情報は伝えるつもりだった」

理知的な生命体は小さく首を振る。

「だが、結局ここには来なかった。まあ……君たちは、あいつらに比べれば、まだ話が通じる」

彼は一人ひとりの代表と視線を交わす。その動作は、ため息に近いものだった。最初に反応したのは、ディザボース主星国の代表だった。狂信的とも言われる受容思想を持つ没落帝国の生命体である。

「今回の“目覚め”……───銀河全域で宇宙進出文明が同時期に誕生する流れの中で起きるとはな……」

低く唸るように言葉を落とす。

「彼らには、いずれ手を差し伸ばす必要があるだろう。選択肢はそれしかない」

次に声を上げたのは、黄金の装飾をまとった、植物に似た姿の種族だった。

「あのザークランが誇った艦隊ですら、まるで歯が立たなかった存在……」

震えるような声で呟き、構造体に覆われた肢体に力を込める。

「……ああ、神よ」

その瞬間、周囲の物体がふわりと宙に浮かび、不自然な静寂が生まれた。空間そのものが歪んだかのような光景だった。

「私の前で、その忌々しい力を使うのはやめてくれないか」

苛立ちを隠さず、知的な代表が吐き捨てる。

「見ているだけで、喉が詰まりそうになる」

「それを言うなら、あなたもその忌々しい機械の身体をどうにかすべきでしょう」

植物種族が即座に言い返す。

「あれは神への冒涜です」

一触即発の空気が広がった、その瞬間だった。

『ここで争うのは、やめてください』

直接の音ではない。声は、六名すべての意識の内側に同時に響いた。集合意識による干渉だった。

『ここでの争いは、何の解決、解決、解決にもなりません』

その一言で、会議場は再び沈黙を取り戻す。

「……我々の全艦隊を結集させたとして、“彼ら”に対抗できるのか?」

そう問いかけたのは、軍服に身を包んだワニに似た爬虫類種族だった。かつて銀河の四分の一を支配していた、ドグロゾーレ皇争国の使者である。理知的な生命体は、即座に首を横に振った。

「不可能だ」

淡々と、しかし断定的に言い切る。

「少なくとも、星系級兵器が複数は必要になるだろう。銀河に残る我々、すべての戦力を合わせても、現状では勝ち目はない」

その言葉の後、誰も口を開かなかった。広大な会議場に、長い沈黙だけが流れる。

「では、始めよう」

「今回の“危機”に、我々はどう向き合うべきか……数万年ぶりにはなるが、腰を据えてお互い”仲良く”話し合おうではないか」

呼びかけに応じるように、各代表が順に意思を示す。

ディザボース主星国(狂信的な受容主義)。異議はありません」

柔らかい口調だが、その言葉に迷いはない。

リディナグス=アリコース大巡礼圏(狂信的な精神主義)も同様だ。精神の導きに従い、会議の開催を支持する」

ドグロゾーレ皇争国(狂信的な軍国主義)、異議なしだ」

軍服姿の爬虫類が低く唸るように言う。

「この事態を前に、動かぬ理由はない。進めよう」

連携意識体バディスグ・ハイブ(集合意識)。問題、ありません』

直接の声ではない。思考に触れるような感覚とともに、集合意識3カ国の総意が伝わる。

ナーグリアス星帝国(狂信的な権威主義)としても、反対はない」

最後に発言したのは、威厳ある装束を身にまとった代表だった。

「皇帝陛下より、すでに許可は下りている。続行せよ」

全員の同意を確認し、席に立つ生命体が一歩前へ出る。

「それでは私、ネクロディア保管国(狂信的な物質主義)が、本日をもって六ヶ国会議の開催を宣言する」

一拍、間を置いてから、彼は言葉を続けた。

「……だが、気になる点が一つある」

会議場の空気が、はっきりと変わった。先ほどまでの静けさが、張り詰めた緊張へと置き換わる。

「招かれていない存在がいるな」

その瞬間、全員が同じ方向を”意識”した。

「見ているだろう」

ドグロゾーレ皇争国の使者が、低く告げる。その言葉に、他の代表たちも反応を示したが、誰一人として動揺は見せなかった。

 

「”上位存在”か。はぁ……やれやれ」

ネクロディア保管国の代表が”しゃべり”かける。

「所詮……我々の銀河は彼らによって”構築”される舞台ということか。全く」

一幕置き、会話が続く

「ここまでの会話は……私たちの”末路”はどのような”物語”になるのだろうか。」

「”今回”見ている上位存在はソル星系に誕生した種族か。私達を見ているのだろう。」

「だが我々もこの場での会話は”君達”には聞かれたくないのでね。すまないがここで切らせて貰うよ」

 

意識が遠ざかり暗転する。

 

──────────────────────────

2209年07月■■日

国際地球連合、地球。統合政府中枢に設けられた事務総長執務室は、いつもと変わらぬ静けさに包まれていた。その静寂を破るように、扉が勢いよく開く。

「───事務総長ッ!緊急事態です!」

駆け込んできたのは、国際地球連合科学局に所属する主任研究官の1人だった。息を切らし、手にした端末を強く握りしめている。

「何事だ。まさか、調査中の星系で異常でも見つかったのかね。それとも……異星人でも発見したとでも言うのか」

冗談めかした口調で問い返しながらも、事務総長の視線は研究官の表情から離れなかった。その顔色が、明らかに通常ではないことに気づいていたからだ。

「そ、その“異星人”に関する件です……!」

研究官は一度、言葉を飲み込み、続ける。

「我々が把握していなかった星間国家から、正式な通信が届きました。国家名は……ネクロディア保管国という……」

その名を聞いた瞬間、事務総長の表情が凍りつく。

「……星間国家、だと?」

人類以外の文明。それも、国家として組織化され、外交行動を行う存在。理論上は否定されていなかった。だが、“確認された”ことは一度もなかったはずだ。

「通信は、偶発的なものではありません。明確な”意図”を持った、我々宛てのメッセージです」

研究官は端末を操作し、解析データを投影する。

「さらに問題なのは……彼らの技術水準です。解析結果によれば、少なく見積もっても、我々より数百年以上は進んでいます。エネルギー制御、物質変換、情報伝達……どれを取っても、現在の人類科学では再現・検証……どれも不可能です……」

次々と表示される数値と概念に、事務総長は思わず額に手を当てた。

「……相手は、敵なのか?それとも、交渉の余地がある存在なのか?」

絞り出すような声で問いかける。

「そ、それが───」

 

「下等な生命体国家に告ぐ。我々の領域に近づくな。これを破るのならば、我が強大な艦隊がお前達を焼き尽くす」

「と……」

事務総長は頭を抱え、汗を流す。

「彼らの星系への侵入は絶対によせ。そして今後、彼らを不機嫌にさせないよう余計なことをさせるな」

「りょ、了解しました。」

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