首なし皇女は笑えない   作:haku728

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第14話 皇女の映画化(邦画編)

秋の夕暮れ時。

 

空は夕焼けのいわし雲で真っ赤に染まっていた。

 

 

閉館時間前に出勤したタカシは事務室に入った時に壁に貼られた大きなポスターに目が行った。

 

「皇女の生涯 奇跡の映画化!」

「感動巨編!『國燃ゆる 桜散る』春公開!」

 

宣伝文句が踊り、登場人物と思しき多数の男女が配置されシネマ的な雰囲気を醸し出していた。

 

「館長!これってもしかして皇女様が映画化されるんですか!」

 

「そうなんだ。皇室庁からポスターが届いた。掲示板にも張り出しておけとの事だ」

 

田端は帰り支度をしながら答えた。

 

「すごいですね!初めてじゃないですか!」

 

タカシは興奮して鼻を鳴らした。

 

「確かにね。小説 や戯曲などでは殿下のストーリーは色々と描かれていたがね。ただ、これからが大変なんだ」

 

「と言いますと?」

 

「映画が完成したら最初の上映会が観覧室で開催される事になったんだ。全国に先駆けてね。」

 

「ええ!」

 

「皇室庁からの 強い指示が出てるんだ。だから観覧室にスクリーンや映写機を設置しなきゃいけないし、座席の確保も必要だ。ポスターを貼ったり告知活動も必要だしね。タカシ君にも手伝ってもらうよ」

 

(まじか!)

 

タカシはげっそりした。

 

 

 

1ヶ月後、各メディアにて映画の予告発表が大々的に行われた。

 

映画『皇女救国実録:國燃ゆ 桜散る』

 

──"たとえ この身が散ろうとも"──

 

【作品概要】

監督:黒沢 朗(『7人の武士』『影夜叉』『黒髭』)

脚本:大国 英夫

音楽:久石 条

制作:東洋シネマスタジオ

公開予定:来年春 全国ロードショー

 

【ストーリー】

正和20年。

東方の島国・礼和国は、西方の軍事大国アメリアナとの大洋戦争に敗れ、無条件降伏を余儀なくされる。

 

進駐軍総司令官ライゼンバーグが掲げたのは、言語・歴史・宗教・農業・王制――礼和国の国体そのものを消し去る「五箇条の方策」。

静かに、だが確実に、国は滅びへ向かっていた。

 

そんな中、帝都に建設された進駐軍総司令部を一人の少女が訪れる。

海皇家第二皇女・和子。十八歳。

彼女が差し出したのは、五箇条中止を求める一通の嘆願書――

 

そして、その対価は「自らの命」だった。

 

 

【主要キャスト】

       

和子皇女 (浜田美波)    

和子幼少期(芦田真菜)

 

ライゼンバ―グ(ジム・ハンクス)

 

加藤義国(仲大達矢)

 

東郷平九郎(三船敏夫)

 

斑目慎之助(堺正人)

 

久仁海皇(市川正親)

 

 

【特報ナレーション】

 

――「その日、世界は震撼した!」

 

――「命を捧げた皇女。救われたのは、国か――魂か!」

 

――「この春観客は皇女の真実を目撃する!」

 

 

この映画の発表は礼和国中を興奮の渦に巻き込んだ。

 

記念館は特別上映会の抽選申込みを開始したが、500席の枠に対し100万件以上の申し込みが殺到した。

 

タカシは和子の国民的人気を改めて実感させられた。

 

一方 倒壊工務店の手によって観覧室の天井に昇降式の巨大なスクリーンが取り付けられた。玉座と反対方向の壁面に降りるようになっていて、和子から画面を正面に見据えられる様になっていた。映写機は4K/HDR、音響システムはDolby Atmosが採用された。

 

そして明日に上映会を控えた夜、座席の準備とチェックを行っていたタカシは皇女のガラスケースの前で一息ついた。

 

和子はグロッキー気味なタカシにねぎらいの声を掛けた。

 

「タカシさん、連日の御準備お疲れ様です。だけど何故この部屋で上映会なのかしら?2階の展示室にも映像コーナーがあった筈だけど…」

 

「それはですね 、名誉顧問の御意向なんですよ。皇女様と一緒に見るのだ!とテンションが爆上がりの様です」

 

「また平九郎ですか…でも実は私もドキドキしています!どの様に演じて頂けるのか本当に楽しみで。それにスクリーンが反対側だから観客の皆様は私に背を向けているのでちょっと表情が崩れても大丈夫かな」

 

「だ、駄目ですよ皇女様…油断大敵です!」

 

「分かったわ 。気を付けます 。うふふ」

 

しかしワクワクが止まらない和子であった。

 

 

翌日、上映は朝10時開演 であった。

 

抽選で選ばれた500名の特別応募観覧者に加え 皇室関係者、並びに記念館職員の座席も設けられ 、満員の熱気の中で上映が始められた。

 

 

―画面はライゼンバーグの静かな回想から始まった。

 

『私はあの日のことを忘れない。民のために命を投げ捨てた1人の皇族の女性。そう、プリンセス和子のことを』

 

そして画面は壮大な音楽と共に切り替わり、花びらが散る桜に囲まれた皇城の離宮を背景に『國燃ゆ 桜散る』のタイトルが大写しされた。

 

「ぐおォォーッ!」

 

平九郎の大きな鳴き声が響いた。

 

(もう!平九郎ったら!こんな初っ端から堪忍して…)

 

和子は腹筋を抑えつつ心の中でぼやいた。

 

そして久仁海皇に和子の教育係を命じられた平九郎が皇城の離宮を訪れ、芦田真菜演じる幼少期の和子が登場したシーンでは劇場中が歓声に包まれた。

 

(真菜ちゃん かわいい!皇室仕様のピンクのフリフリのドレスもそのまんま!)

 

和子もテンションが爆上がりした。

 

そしてストーリーが進行。

アメリアナとの開戦から激烈な戦闘シーンの連続へと移り緊迫した展開が続いた。

 

次々と運ばれてくる負傷兵を己の体力の限界を超えて魔導力で治療し続ける堺正人演じる斑目慎之助の迫真の演技が映し出された。

 

(本当にこんな感じだったのかも…慎之助…)

 

和子の涙腺がゆるゆるになっていた。

 

どうしても表情が緩みがちになるが、その度に前の座席のタカシが振り向いてチラ見してくる。

 

(タカシさん、私の表情が動くポイントがよく分かってる)

 

諦めて和子は表情を締め直す。

 

そして終戦後、ライゼンバーグが帝都空港に悠然と降り立つ場面から過酷な進駐軍支配を描いた後、和子が加藤義国に対し嘆願書の計画を打ち明けるシーンとなった。

 

このシーンでは和子を演じる浜田美波と義国を演じる 仲大達矢の素晴らしい演技が炸裂した。

 

『義国。わたくしはライゼンバ―グの元に参ります』

 

『彼奴の処に?何故に?』

 

『この嘆願書を渡すためです。五箇条の方策は絶対に止めねばなりません。あれの実行はすなわち礼和国の死です』

 

『ふむ…しかし 殿下。彼奴が果たしてそれを読みますでしょうか』

 

『読ませるのです…私の首をみやげに!』

 

―ここで メインテーマの悲しくも美しい旋律が流れ出した。

 

「ぐおォォーッ!」

また平九郎の大きな鳴き声が響いた。

 

(もう!平九郎 …いいところなのに…)

せっかくの感動シーンなのに和子は笑いを抑えるのに必死だった。

 

 

『なるほど。そして彼奴の目の前で殿下の御首をはねるのは私の役目と…』

 

『そうです。承知してもらえますか?』

 

『全く涼しい御顔で無茶を御命じなさる…ただ…殿下はいつもそうでしたな。奥の手はいつも隠しておいでだ。ただ一つ条件がございます』

 

『何でしょう?』

 

『この老骨も後を追わせて下さい。如何ですかな?』

 

『義国!…………分かりました。』

 

『ありがたき幸せ。ライゼンバーグの奴、さぞかし肝を冷やすでしょうな!ははははは!』

 

(違う違う!全然こんなんじゃない!義国に打ち明けたら号泣して土下座して『姫様、お止め下さい』と何度も叫びながら気絶しちゃったのよ。説得するのにすごい苦労したんだから)

 

呆れながらも和子はクスッとした。

(でもこの義国、格好いい!)

 

 

そして映画はついにクライマックスへ。

進駐軍の本部を訪れる和子の最後のシ―ンが始まった。

 

『Hey!プリンセス!最大限の敬意を込めて申し上げますが――ノーです』

ジム.ハンクス演じるライゼンバ―グか嘲笑しながら嘆願書を拒否した場面。

 

そこで浜田美波演じる和子がピンク色の小菊の花がついた茎を銜えた。

 

それを合図に仲大達矢が仕込み杖の刀を抜き『御免!』と叫んだ。

 

その瞬間、画面は桜が散る皇城の離宮のシ―ンに切り替わった。

 

そのまま桜が散り続けるその画面を背景にエンドロールと、映画の主題歌『たとえこの身が散ろうとも』が流れ出した。

 

そしてエンドロールと主題歌が終わった後、大勢の観覧者で賑わう記念館の様子が映され、最後に玉座に座る和子の姿が画面をいっぱいに映され、巨大な『完』の文字が表示された。

 

(え!何か撮影してたけどここで使うの!?恥ずかし―!)

 

和子赤面。

 

 

観覧室内はすすり泣きが広がり、上映終了のナレーションが流れても皆はなかなか退出しなかった。

 

平九郎は号泣して自分で歩けず皇室庁の職員に両脇を抱えられて退室した。

 

 

 

 

その夜、片付けが落ち着いた後、タカシは泣き腫らした顔で和子に映画の感想を聞いた。

 

「そうね。所々ちょっとおかしなところもあったけど、俳優さんは一生懸命演じてくれていたし、大体事実に沿って描かれていた感じでとっても良かったと思います。ただ…」

 

「ただ?」

 

「私小菊なんてくわえてない。あれは一体何なんでしょう」

 

「あっ!もしかして!」

タカシが叫んだ。

 

「ど、どうしたの?」

 

「エンドロールを見ていると『轟善治郎』の名前がありましたよ!エキストラの中に!」

 

2人は同時にハァ~と溜息をついた。

 

 

今回の映画化は概ね成功した。

しかしこの事が大変な事態を招くのであった。

 

 

 

 

次回  皇女の物語ハリウッド映画化される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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