首なし皇女は笑えない   作:haku728

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第18話 皇女の映画化(ハリウッド編④)

和子は傍聴席に振り向き、ライゼンバ―グの顔を見た。

 

身動きできない彼の必死の形相に対し、優しい目でわずかに顎を引き、静かに頭を下げて礼を示す。

 

そして裁判長の方に顔を戻すと大きく眼を見開き、両手で握った小刀を一気に右下腹部に深々と突き刺した。

 

裁判官は全員顔から血の気が引き、眼は凍りついて閉じられなかった。

 

 

『くっ!』

彼女は苦悶の表情で左脇腹まで刃を引いたところで引き抜き、鞘に納めて丁寧に膝の前に置いた。

 

そしてワイシャツ、ベスト、軍服のボタンを丁寧に留め、詰襟のホックもきちんと閉じた。

 

衣服を整えた後、ポケットから小菊の花を取り出し口にくわえた。

 

その瞬間、背後にいた加藤義国が仕込み杖から刀を抜き出し『御免!』と叫んで和子の首に振り落とした。

 

カッ!という音と共に和子の首が落ちた。

 

首は切断面を下にして膝上に乗り、顔は裁判官席に向いている。

 

目は閉じ、安らかな表情であった。

 

その瞬間全員の金縛りが解けた。

 

慎之助は座ったまま口から血を流して事切れていた。

 

法廷内に暫く沈黙が走った。

 

緊縛は解けているのに誰も言葉を発することができない。

 

静寂の中、傍聴席の方から大きな叫び声が響いた。

 

『畜生!なんてこった!俺は彼女を救えなかった!ううう!』

 

ライゼンバーグは何度も傍聴席の手摺を握りこぶしで打ち据える。

 

ウェーブは暫くわななきながら皇女の姿を見つめていた。

 

しかし、きっと顔を引き締め直すと決意を秘めた表情でガベルを叩いた。

 

『それでは本件に関する判決を申し渡します』

 

法廷の全員が息を飲んで裁判長に注目した。

 

『今回の戦争責任において皇女和子を有罪とし、死刑を宣告いたします。しかしながら彼女は自決を実行済みのため、処刑手続きについては不問と致します』

 

ライゼンバーグはハッとしてウェーブの顔を見た。

 

『そして海皇久仁以下 A級戦犯28名につきましては皇女和子の陳述を尊重し、全員無罪と致します』

 

『ウェーブ!』

 

満面の笑顔でライゼンバ―グは右手の拳を突き上げた。

 

その直後法廷内は大歓声と拍手に包まれた。

 

 

 

 

黒画面となり、ライゼンバーグの声によるナレーションが流れ始めた。

 

『アメリアナは確かに戦争に勝った。だが俺達はたった一人の女性に敬礼することになった。本当の勝利とは一体何なんだろう?俺にはその答えは難しすぎる。ただひとつ言えるのは礼和国はその後復興してアメリアナと肩を並べ、 同盟関係にもなったってこと。ところで《koujo》は死んだのかって?いいや、 生きているさ。』

 

ナレーションが終わると、大勢の観覧者で賑わう 現在の記念館の様子に切り替わり、玉座に鎮座する和子の様子が大映しになった。

 

(ええ!又このパターン!恥ずかしいから許して―!)

 

皇女赤面。

 

 

この後黒画面に切り替わり、ロックバンド AC / BC によるこの映画のテーマ曲『Dancing Cherry Blossom Night』と共に英語のエンドロールが流れ出した。

 

エンディングの文字が出る前にバラバラと退出し始めた観客。

 

映画の内容にショックで気絶した平九郎はタカシに背負われて観覧室から運び出されていった。

 

(終わった……)

 

和子は張りつめていた糸が、ぷつりと切れたように、全身から力が抜け落ちた。

 

 

 

 

 

ハリウッド版《koujo》はその後各国で様々な波紋を揺り起こした。

 

礼和国内の反応も散々だったが、アメリアナ本国で

もその評価が大炎上した。

 

 

① 一般観客(最大多数)

 

「《黒沢版和子》で感動した涙を返してくれ!」

「プリンセスがチャンバラ!あり得ない!」

「《ライゼンバ―グ》に題名を変えろ!」

「シンノスケがまるで妖怪だ!」

「上半身裸のヘイクロウは見たくなかった!」

「プリンセス和子は礼和人に演じて欲しかった」

 

反応:ほぼ失意と落胆

 

② 進歩派・リベラル層

 

「女性に対する深刻な人権侵害を美化」

「人体損傷を賛美する醜悪な映画」

「女性も男性と同等に戦う事に一定の評価」

 

反応:辛口と理解が混同

 

③ 保守派・軍事層

 

「沖島の女性、子供部隊の話は捏造だ!」

「ゴードン将軍がバカに描かれすぎてる!」

「ライゼンバーグなんて実戦に出てないだろ!」

「ピンヒールで戦えるか!」

 

反応:怒り心頭

 

④ 学術・評論・メディア

 

「史実を完全に無視したファンタジー」

「ライゼンバーグの五箇条の方策には一切触れられていない」

「法廷で実際に《ハラキリ》したら礼和国は間違い無く滅亡していた」

 

反応:矛盾点の指摘の渦

 

⑤ その他の反応

 

「ハリウッドはもう映画を作るのは止めた方がいい」

「こいつを見た後では礼和人のフレンドと顔を合わせられない」

「俺はアメリアナ人はもうちょっと賢いと思っていた」

「《ハラキリ》のシーンについては礼和人出演者から 『絶対におかしい』と止められていたにもかかわらず、 サーカスが『分かっているが、どうしてもやりたい』と言って強行したらしい。結果があの様だ!」

 

反応:罵詈雑言の嵐

 

そして 大多数の アメリアナ人の反応は下記の言葉に集約される。

 

「ジョージ・サーカスは《ハラキリ》 しろ!」

 

 

 

 

 

映画の余波が落ち着いてきた頃、夜の観覧室で和子とタカシは《koujo》について振り返っていた。

 

「今から考えてもすごい映画でしたね。いろんな意味で」

 

「ええ。裸の平九郎やロン毛の慎之助が出てきた時は、私の腹筋はもうダメかと思いました…絶対に顔は歪んでいたと思います」

 

「はい……でも幸い観客は全員画面に吸い寄せられていましたからね。名誉顧問は半分気を失っておられましたし」

 

「ところで、映画の私がまた小菊を銜えたでしょう。一体何なんでしょう…あれは…」

 

「…はい。それについてはエンドロールを見ていたのですが、《Special Thanks Zenjiro Todoroki》の文字がありました。」

 

「又あの方!全くどこにでも出没なさるのね…」

 

「今後皇女様が映像化される時、定番の演出になるかもしれませんね」

 

「もうタカシさんったら!」

 

「でも映画の評判は散々だったようです。アメリアナも懲りてもう作らないでしょう」

 

「そうかもね」

 

2人は明るく笑い合った。

 

 

しかしアメリアナは懲りてなかったのである。

 

夢と魔法を作り上げるあの会社が不気味な動きを見せていた。

 

《黒人の皇女とジェンダー女性の加藤義国がおりなす夢と希望のファンタジー!》

 

この話はまたしばらく先で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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