首なし皇女は笑えない   作:haku728

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 ※この章にはシリアスな描写(死・政治的緊張など)が含まれます。
 苦手な方は、第2話から読んでも物語の理解に支障はありません。


第1話 皇女和子

 

 

 

 

(一)

 

 正和20年 東方の島国 礼和国は敗戦した。 

 

 西方の軍事大国アメリアナとの「大洋戦争」。

 

 礼和国は繰り返し軍事的恫喝に会い、止むなく開戦に踏み切った。

 

 当初、アメリアナの将軍ゴードンは「3日で片がつく」と豪語していたが、2000年を誇る海皇家を奉じ、国民の団結力が強い礼和国の頑強な抵抗により戦争は3年を費やした。

 

 しかし強大な軍事力の前についに力尽き、無条件降伏のやむなしに至った。

 

 敗戦後、アメリアナの進駐軍による支配が開始。

 

 ライゼンバーグ総司令官が礼和の地に降り立った。

 

 1、礼和の言語と文字の破棄

 2 、礼和の歴史文章の焼却

 3、礼和の神道、宗教施設 全ての解体

 4、礼和の稲作の中止と小麦への転作

 5、海皇制の廃止

 

 アメリアナは苦戦させられた礼和国を憎み、その国体抹殺の為の五箇条の方策を用意していた。

 

 

 

 

(二)

 

 帝都には巨大な進駐軍総司令部のビルが皇城を威圧するかの様にそびえ立った。

 

 そんなある日 ライゼンバーグのもとに 海皇家第二皇女、和子(カズコ)による面談の申し入れがあった。

 

(皇族から面談だと?)

 

ライゼンバーグは不審に思った。

 

(どうせ命乞いだろう…)

 

ふんと笑って彼は側近に伝えた。

 

「来いと伝えろ!」

 

 

 

 翌日総司令部でライゼンバーグは貴賓室で和子を迎えた。

 

 

 海皇家  第二皇女和子 年齢は18歳

 

 黒のシルクの生地に桜の花を模した刺繍が施された長い裾 、金の刺繍の入った詰襟の軍服を着用していた。

 

足には金色の桜の紋章が入った黒のロングブーツを着用。

 

非常に格式のある最上級の礼装である。

 

 漆黒に艶めいた、腰まである長い髪が優雅に揺れる。

 

 

 杖をつきながら付き従っていたのは、老臣である加藤義国(ヨシクニ)1人。

 

燕尾服姿で、白いヤギ髭を蓄えている老人であった。

 

皺深い表情の奥に宿る瞳からは一切の感情が読み取れなかった。

 

 

 ライゼンバーグは2人を立たせたまま ソファーで足を組み パイプをくぐらせながら「本日は何の用事で参られたのかね」と質問した。

 

 和子は静かに涼やかな目で「総司令閣下にお願いしたき儀がございます」と言って加藤に目配せした。

 

 加藤は一通の和紙を丁寧に折りたたんだ 書面を両手でライゼンバーグに差し出した。

 

「これは何かね?」

 

「閣下には、五箇条の方策の中止をお願い申し上げます。これはその嘆願書です」

 

 ライゼンバーグは、煙を吐きながら「それは読めませんな」と言って白い歯を見せた。

 

「もちろん 只でとは申しません。それを御拝読いただく為に、私の命をささげ奉ります」と和子は静かに答えた。

 

 

「命を捧げるだと!」

 

ライゼンバーグは右手を額に当てて 「あっはっはっはっ!」と笑った。

 

 

 その時であった!!

 

 和子は 加藤義国に静かに目配せをした。

 

 沈痛な面持ちで 義国は杖の端を持ち素早く引くと刀身が現れた。

 

仕込み杖であった。

 

「御免!」

 

 義国は神速の太刀さばきで和子に刀を振り下ろした。

 

 カッという音とともに和子の首は床に落ちた。

 

 

 ライゼンバーグとその場に同席していた 側近 3人は唖然となり声も出ず立ちすくんだ。

 

 義国は丁寧に和子の首を持ち上げ、呆然としたライゼンバーグの目の前のテーブル上に置いた。

 

 ハッとした側近が義国を取り押さえようと飛びかかったが その前に義国は刀で喉を貫いていた。

 

 

 

 

(皇女の命がけの嘆願!!)

 

 この事件は礼和国やアメリアナのみならず世界中に大きな衝撃を与えた。

 

 しかし最もショックを受けたのは、彼女の命掛けの行動を目の辺りにしたライゼンバーグ本人であった。

 

(支配者である皇族が国の為に本当に命を捨てるだと!!)

 

 そして彼は 彼女が用意した嘆願書に目を通した。

 

 そこには彼女の礼和国と国民に対する思いと、自分の命と引換えに国に対して便宜を計らってもらう様、切なる願いがしたためられていた。

 

 ライゼンバーグは感動で身震いが止まらなかった。

 

 

 

 その日より彼の礼和国に対する施策方針が180度転換した。

 

 五箇条の方針を全て捨て去り、礼和の戦後の食料や物資の援助を積極的に推進し 礼和の国体維持に努めた。

 

 和子の行動が結果的に礼和国を滅亡から救う形となった。

 

 後にライゼンバーグはその事により本国の方針に従わなかったとして失脚することとなった。

 

 

 

 

(三)

 

 ライゼンバーグは 事件後、和子と義国の遺体を丁重に皇家に送り届けた。

 

 皇家はもとより 日本中が悲嘆に明け暮れた。

 

 彼女は一通の遺書を用意していた。

 

 

―まず今回の行動を事前に相談無しで決行する事の謝罪

 

―義国は強く反対したが自分の願いで無理を言って介錯をお願いした事

 

―首はライゼンバーグ 閣下に捧げるものなので死後も決して胴体につなげないようにという願い

 

―兄である次期海皇に対する思い

 

―最後に父母への謝罪

 

以上がしたためられていた。

 

 

 

 

 彼女は国葬されることに決定した。

 

 

 

 しかし彼女が荼毘に付されることを容認できない男がいた。

 

 

 斑目 慎之助。 

 

帝国陸軍魔導士。

 

 

 礼和国には特殊な力を持った特異体質の人間が存在した。

 

精神の力を変換して、大きな物理力の行使 、物の再生、人間の治療など神秘的な術を行使できた。

 

 彼らは魔導士と呼ばれ帝国軍に所属し、その力でアメリアナ軍を大きく苦しめた。

 

 アメリアナが礼和国を恐れたのは、1つにはこの科学では理解できない神秘的な魔導の力もあったからである。 

 

 慎之助の力は治癒や回復に優れ、後方支援に当り多くの将兵の命を救った。

 

 しかしほとんどの魔導士は攻撃要員として前線に投入されて命を散らし、慎之助は魔導を駆使出来る最後の一人となっていた。

 

(何故俺だけが生き残った!)

 

 激しい葛藤に苛まされる。

 

 

 

 そんな中、皇女の事件が発生した。

 

 

(嘘だ!嘘だ!嘘だ―!)

 

 彼は半ば発狂した様に叫んだ。

 

 

 

 戦線に立つ兵士に対し、皇女は鼓舞の為、度々謁見を行った。

 

 ある謁見の場で最前列にいた慎之助に彼女は自ら歩み寄り「誠に頼もしい。宜しく頼む」と直に声掛けした。

 

 その時、慎之助は魂が消し飛ぶ程の感動を覚えた。

 

 いつ迄も忘れる事が出来なかった。

 

 

 ――皇国の美しい姫!

 

 ――嗚呼、和子様!

 

 慎之助は絶叫すると意識を失い昏倒した。

 

 

 

 数刻後、彼が目を覚ました時、その眼(まなこ)は激しく血走り、どす黒い光を放っていた。

 

(皇女は永遠だ!決して朽ち果てさせない!)

 

 

 自分の命と引き換えに不死を付与する禁断の魔導法《龍命替術》の使用を決意した。

 

 

 

 

(四)

 

 大喪の礼の前日。

 

 雲一つない星空には巨大な満月が皇城を赤く照らしていた。

 

 

 慎之助は夜陰に忍んで城内に忍びこんだ。

 

 魔導の力で全ての扉の錠が次々と無力化されていく。

 

 

 そして皇女が安置されている部屋に忍びこんだ。

 

 皇女は遺言に従い、首と胴体が離された状態で美しい桜の花柄のシルクの布の上に安置されていた。

 

 彼女は安らかな寝顔であった。

 

 

(皇女様…)

 

 慎之助は唇をかみしめ、目に涙が溢れた。

 

そして両手を合わし気息を整えた。

 

 

 その時であった!

 

 部屋の外から騒がしい声が聞こえた。

 

「侵入者がいるぞ!」

「殿下の部屋だ!」

 

 

 慎之助は焦った。

 

(急がねば!)

 

「龍命替術!!」

 

部屋が金色の眩い光に覆われた。

 

 

「何だ!あの光は!急げ!」

 

 数人の臣下が部屋に突入した。

 

 

 

 そして彼らが目にした物は…

 

 

 

 一人の倒れた男性の横に立つ

 

 自分の頭を脇に抱えた皇女の姿であった。

 

 

 

「殿下!!」「和子様!」臣下がかけ寄り声を掛けた。

 

 

肉体は蘇っていた。

 

しかし和子は臣下の呼び掛けに全く反応しなかった。

 

 

 ――彼女は心が失われていた――

 

 

 




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