首なし皇女は笑えない   作:haku728

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第23話 皇女の映画化 (夢と魔法の世界編④)

タカシは平九郎の反応が気になり耳を澄ました。

 

『ディスティ二―め、四聖獣に目をつけるとはなかなか勉強しているではないか!がははは!』

 

ご機嫌な声が聞こえる。

 

(…これ、絶対自分がモチーフなことに気付いてないやつだ。後で知ったらお怒りになるだろうな…)

 

タカシは溜め息をついた。

 

 

シーンは城内に戻り、パイ・フ―と一緒に廊下を歩くカズコが義国に見つかり、大目玉を食らう。

 

『もう!皇女様!大切なお父君の御誕生日の式典にどちらにいらしてたの!皆様お待ちかねよ!』

 

人差し指をブンブン振って怒る義国。

 

『うふふ。ごめんなさい、義国。ちょっと気になる場所が有ったの』

 

『全く困ったものね…あれ?』

 

義国はカズコの後ろから顔を出している パイ・フ―を見つけた。

 

『あら!何ですの!その小汚い猫は!』

 

それを聞いてフ―は顔を真っ赤にして怒る。

 

『何だと!俺は猫じゃな…むぐぐ!』

 

カズコが慌ててフ―を抱き、口を手で塞ぐ。

 

『ごめんなさい義国。これはかわいそうな捨て猫なの。飼ってはダメかしら』

 

上目遣いでおねだりするカズコに対し、義国は手のひらを両目に当てて嘆いた。

 

『またそんなものを……もうあたしは知りません…早く着替えて式典会場にいらしてください』

 

『分かったわ義国。ありがとう!』

 

式典会場にに急ぐ皇女と一匹。

 

フ―は ぶつぶつ怒りながらカズコの後ろについている。

 

『誰が捨て猫だ!俺は守り神の白虎様だぞ!』

 

『だって仕方ないじゃない。あなたが守り神だなんて言うと話がややこしくなるもの。しばらくは猫でいてね』

 

『ハア―。ちくしょう!分かったよ。』

 

 

 

 

晩餐会会場の迎賓室にシーンが移る。

 

高い天井は御殿仕様で金地に描かれた花鳥の天井画が、格子状の梁にはめ込まれている。

 

広大な会場には床一面に真っ赤な絨毯が敷かれ、白いクロスを掛けたテーブルの上には豪華な料理と酒類が並び、大勢の来賓客が歓談している。

 

その中にアメリアナ外交特使と親衛隊の青年将校ライゼンバーグの姿が有った。

 

『あんまりキョロキョロするな、ライゼンバ―グ!』

 

『あ…いえ…すみません。何もかも珍しいもので…』

 

ライゼンバ―グは頭を掻く。

 

その時に義国が入場し、上座の袖で恭しく挨拶したあとカズコの入場を高らかに謳った。

 

『皇女様の御入場です!』

 

全員の注目の中、桜の花柄に覆われた豪華なドレスを着て、ドレッドヘアーを美しく結上げたカズコが厳かに入場した。

 

来賓は大きな拍手で迎えた。

 

大きく膨らんだ宮廷スカ―トの中にパイ・フ―が隠れている。

 

『おい!カズコ!もっと早く歩けねえのか!』

 

『しッ!パイ・フ―、静かにして!』

 

フ―をたしなめながら皇帝夫婦の横の席についた。

 

『なんて綺麗なんだ!』

 

ライゼンバ―グは思わず皇女に手を振った。

 

カズコはそれに気付いたが、口を尖らせてぷいっとそっぽを向いた。

 

振り上げた手をゆっくり下ろして泣きそうな顔になるライゼンバーグ。

 

『おい!無礼な真似はよせ!』と特使に小声で注意されるも、耳に入っていない様子。

 

 

一方、美味しい匂いに我慢出来ず、スカ―トの中から手を伸ばして、次々と卓上のご馳走に手を伸ばすパイ・フ―。

 

皇女の料理の減り方が異常に早いのに気付いた義国が、魚の丸焼きに手を伸ばすフ―と目が合う。

 

『まぁ―!このどら猫!よくも皇女ちゃまのご馳走を!』

 

捕まえようと両手を前に伸ばして突進してくる義国に驚いてパイ・フ―は慌ててスカ―トから飛び出した。

 

頭から突っ込んだ義国は卓ごとひっくり返る。

 

『へへ!捕まえてみな!このオ◯マ野郎!』

 

逃げ回るパイ・フ―。

 

『キィ―!許さないんだから!待ちなさい!』

 

頭に魚の骨を乗せたまま、やっきになって追いかける義国。

 

晩餐会場はてんやわんやの大騒ぎ。

 

皇帝は呆気にとられて様子を眺めていたが、どん!と机を叩いて怒って叫んだ。

 

『いい加減にしないか!今夜はもう中止だ!中止!』

 

両手を広げて肩をすくめるダイアナ。

 

『やってくれたわね…パイ・フ―…』

 

片手で目を覆うカズコ。

 

 

その夜、満天の星空が広がっている。

 

桜の木に囲まれた離宮の一室にてパイ・フ―が渋い顔のカズコの前でバツが悪そうにしている。

 

『いやあ…その…なんだ…あまりにも料理がうまかったんだ…特にあの魚は絶品!…分かった、分かったよ…そんな顔するな…まあ宴会を無茶苦茶にしたのは謝るよ』

 

『ハァ…。まあ仕方がないわ。いい匂いがしてたものね。でもこれからはあんまり目立たないでよ。義国もうるさいから』

 

『分かったよ…』

 

 

 

その時入口の扉がごそごそ音がする。外に誰かがいる気配がした。

 

『こんな時間に誰かしら?城の者なら必ずノックしてから声掛けするし…しまったわ!扉に鍵をかけてない!』

 

『皇女!そいつはやばいぜ!武器を持て!入ってきたらとっちめようぜ』

 

そう言うとフ―は腕の毛皮を衣服のようにめくり、貧弱な両手を出してボクシングのように構えた。

 

カズコも壁に掛けてあったフライパンを手に取り 扉の端に身構えた。

 

その瞬間、扉がばん!と開き、一人の男が勢い余って頭から突っ込み床に崩れ落ちた。

 

『あ、貴方は!』

 

男の顔を見て驚くカズコ。

 

『イタタ…や、やあ!いい夜だね…』

 

頭をさすりつつ、白い歯を見せて作り笑いをしながら挨拶するライゼンバーグ。

 

『さすが…お城の立派なドアは違うね!開け方がよくわからなくて…』

 

『あなた、アメリアナの軍人さんね!こんな夜中に一体何の御用?』

 

『いやあ…星がとっても輝いてる。こんな綺麗な夜にどうしても君と会いたくなったんだ』

 

『まあ!呆れたわ…城の者に見つかったら大変よ』

 

『皇女!こいつを叩き出そうぜ!』

 

パイ・フ―は眉間にシワを寄せて親指でライゼンバーグを指さす。

 

『待ってくれ!長居をするつもりはない。ただちょっと皇女様と喋りたかっただけなんだ』

 

『パイ・フ―。少しだけこの方のお話を聞いてみましょう』

 

腕を胸で組んで口を尖らす不満そうなパイ・フ―。

 

『あなたはアメリアナから来たのよね。お母様の故郷なの。一体どんなところなの?』

 

『何だい?ママからふるさとの話は聞いていないのかい』

 

『お母様は《私はレイワ国の妃です。過去の事は振り返りません。》と言って何も教えてくれないの』

 

カズコは少し寂しそう。

 

『そうか…じゃあ アメリアナの事について語ろうかな。』

 

『うん!教えて!』

 

目を輝かすカズコ。

 

 

軽快なビッグバンドジャズの旋律が流れ出し

ライゼンバ―グは高らかに歌い出した。

 

 

――ア・メ・リア―ナ♪

 

――ア・メ・リア―ナ♪

 

――とてつもなく広い国♪

 

――どこまでも続く地平線♪

 

――でもでっかい夢が埋まっているんだ♪

 

――光り輝く大都会♪

 

――天を貫く 摩天楼♪

 

――どこにもチャンスが眠っているのさ♪

 

――ア・メ・リア―ナ♪

 

――ア・メ・リア―ナ♪

 

――そこは自由の国♪

 

――最初から王や皇帝はいない♪

 

――夢見るものが一番になれるのさ♪

 

 

大きく見開いた和子の瞳にライゼンバーグの姿が映る

 

床を不機嫌そうに小指でトントンつつくパイ・フ―

 

 

――俺は成功をおさめたいんだ!この国で♪

 

――今は破れたシャツだけど♪

 

――いつかはタキシードを着てみせる♪

 

――ア・メ・リア―ナ♪

 

――ア・メ・リア―ナ♪

 

――さあ 1枚の切符を持って♪

 

――チャンスの国に乗り出そう♪

 

――必ず成り上がってみせる♪

 

――ここは自由の国 アメリアナ♪

 

――ア・メ・リア―ナ♪

 

――ア・メ・リア―ナ♪

 

――ア・メ・リア―ナ♪

 

歌い終わった ライゼンバーグは片手を胸に当て、もう片方の手を高く差し上げてドヤ顔で片目ウインク。

 

『素敵!私も行ってみたい!』

 

興奮状態のカズコ。

 

『僕もだ。君に見せてあげたいんだ !アメリアナを』

 

二人は一瞬指先が触れてから、ゆっくりと手を取り合って熱く見つめ合う。

 

それを苦々しく眺めるパイ・フ―。

 

その時、激しく扉を叩く音が響いた。

 

『皇女ちゃま!そこに誰かいるの?開けなさい!』

 

『義国だわ!』

 

慌てる2人。

 

『ここから逃げて!』

 

カズコは窓を開ける。

 

窓に足をかけながらライゼンバーグは振り返って言った。

 

『カズコ!僕は必ず戻ってくる!』

 

『待って!名前を教えて!』

 

『ライゼンバーグだ!』

 

カズコは両手を胸に当てて頬を赤くして頷いた。

 

『うん。ライゼンバ―グ。私待ってる!』

 

義国が扉を開けて突入した時には、誰もいない窓のカーテンが風にたなびいていた。

 

 

 

 

 

翌朝、玉座で昨晩の騒ぎを思い出して頭を抱える

皇帝の前に、いつの間にか一人の男が立っていた。

 

年の頃は18歳を超えないであろうその男は、シルクの黒地に薔薇の細い刺繍がびっしり入った長衣に身を包まれていた。

 

その衣装の前面は血の様な赤いボタンで隙間なく留められ、高い詰襟が立ち上がっている。

 

顔は青白く、唇は紫色で腰まであるサラサラの銀髪が妖しく朝日に反射している。

 

皇帝が頭を起こすと、斑目慎之助は赤と金のオッドアイを光らせてニッコリ笑みを浮かべた。

 

『おお…慎之助か!』

 

『おはようございます。陛下の新しい御歳を祝福するような素晴らしい朝ですよ』

 

『素晴らしいも何も…昨晩はひどかったぞ…それよりこんな朝から何の用だ』

 

『ハァイ。陛下にお願いが御座います。アメリアナ大統領の訪礼を促す書簡に皇帝印を頂きたいのです。特使に渡します』

 

『何?アメリアナ大統領だと?何故だ』

 

『大国の一番偉い方にも礼和国の素晴らしさを知って頂きたいんです。陛下が新しい御年を迎えられたこのタイミングが良かろうと存じます。』

 

『むむ!しかし大統領誘致などと…そんなに簡単では…う!』

 

慎之助は右手を胸にかざした。

中指の蛇の刻印が入った銀色の指輪が怪しく光っている。

 

皇帝の右手の中指にも同じ指輪がはめられていた。

 

皇帝の目は 瞳孔が開き生気が失われていた。

 

『ウゥ。ソウカ…インカンガ…イルノカ…』

 

『ハァイ!』

 

慎之助が書簡を差し出すと皇帝はフラフラとした手つきで言われるがままに印鑑を押した。

 

その時であった。ダイアナが入室し皇帝に挨拶をした。

 

皇帝は、はっと正気に戻った。

 

『おはようございます。お妃様。今朝もご機嫌麗しゅう』

慎之助はダイアナに恭しく挨拶をした。

 

ダイアナは険しい顔で慎之助を睨んだ。

 

『斑目…そなたはそのような書簡を用いて一体何を企んでいる』

 

慎之助は細目で笑顔を見せた。

 

『やだなあ。僕は皇家を幸せにして差し上げる事しか考えていませんよ。』

 

『貴様!』

 

『まあ待て。妃よ。慎之助は我が病も見事に直した。余はこやつのことを良く信用しておる』

 

『ぎょ…御意に…』

 

ダイアナをがっくり肩を落とした。

 

 

 

 

 

海風が吹き渡り、海鳥が飛び交う帝都の港。

 

アメリアナの特使とライゼンバーグが帰国船に乗り込む前に、慎之助に声を掛けられた。

 

特使は『皇帝陛下からの親書で御座います』と黒の漆塗りの箱を渡された。

 

『それとこれは特使様に特別な贈り物でございます』

 

慎之助はシルクの布に包まれた蛇の刻印が入った銀色の指輪を差し出した。

 

特使はその指輪に目を奪われた。

 

『なんて美しい指輪なんだ!』

 

ライゼンバ―グは怪訝な面持ちで特使に

注意を促した。

 

『そのような物!貰ってはなりません!』

 

しかし、特使は何故か苛立って叫んだ。

 

『うるさい!これは私の指輪だ…そうだ…

私の物だ…』

 

そう言うと指輪を右手の中指にはめた。

 

そしてうっとりとした目でその指輪を眺めた。

 

ライゼンバーグは険しい目で慎之助を睨んだ。

 

『良い旅路を』

 

慎之助はにっこり笑った。

 

 

港の空には 灰色の雲が広がり、遠くで雷の音がかすかに響いていた。

 

 

 

次回 アメリアナの大統領が来礼する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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