首なし皇女は笑えない   作:haku728

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第45話 皇女の策略⑦

(なかなかに凄い眺めだな…)

 

面接席に並ぶ3人の麗人をタカシは感慨深けに眺めている。

 

 

潤んだ大きな目を見開きピンクの唇をキュッと閉じた可憐女子高生。

 

落ち着いた表情で微笑みを絶やさないパーフェクトメイド。

 

額に青筋を浮かべながらも無理やり笑顔を作る巨乳の迫力女王様。

 

 

(今度こそ大丈夫よ!)

 

ミニ和子はタカシの肩に腰掛け、ブーツをぶらぶら揺らしながら余裕の表情。

 

 

「全員揃ったようじゃの…」

 

平九郎が三人をジロリと見渡した後『ウオッホン!』と咳払いした。

 

「それでは名誉顧問。採用合否の発表をお願いします」

 

「うむ!」

 

田端に即されて平九郎は立ち上がった。

 

「本日は皆ご苦労であった。まず講評じゃが…瑠璃子とやら!」

 

「は、はい!」

 

「お主は儚げに見えてなかなかに芯が強い。兵法にも多少の覚えがある。昨今見かけることの少なくなった《礼和なでしこ》と見ゆる。少々のことではへこたれなさそうじゃ」

 

「ありがとうございます!」

 

 

「次に戦闘女中…西寺!」

 

「はい」

 

「お主は諸事全般抜かりはなさそうじゃが、戦場(いくさば)でも役に立ちそうじゃ!まさに《勇色兼備》のおなごじゃの!」

 

「誠に恐れ入ります…」

 

 

「そしてチチザベスとやら…」

 

(エリザベスです!顧問…)

 

呼吸障害を起こしそうになるタカシ。

 

「わしは最初異人であるお主をみくびっておった。しかしそれは大きな間違いであった。お主が放った食の献立はわしの想像はるかに超えておった。お主の礼和愛と殿下に対する崇敬をわしは信じてみようと思う」

 

「アッリガトゴザイマ―ス」

 

 

平九郎は沈黙して今一度三人の顔を見渡した。

 

(さあ!いよいよですわね)

 

長ラン姿のミニ和子が平九郎の前に立ち、自分の首を右手に持って前に突き出し、美女たちに熱い目線を送った。

 

「さて…それらを踏まえて合否の結果じゃが…」

 

タカシと田端はごくりと唾を飲み込んだ。

 

「皆の者…明日からここに来る準備は良いかの…全員合格……」

 

瑠璃子の目が大きく開く。

光子は白い襟に手を当てる。

チチザベスはぐっと拳を握る。

 

そう平九郎が言いかけた瞬間、入口付近で鋭い制止の声が響いた。

 

「平九郎、お待ちなさい!」

 

全員の目が一斉に観覧室の入口に注がれた。

 

 

そこには白銀の如く輝く皇室用のドレスを纏ったまばゆいばかりの貴婦人が、眉間にしわを寄せて、しかし美しく、でもやっぱり美しく面接のメンバーを睨んでいた。

 

「うお!皇太子殿下!」

 

平九郎は飛び上がって直立し秒で敬礼。

 

(春仁!なぜここに!?)

 

ミニ和子は自分の首を床に落としたが立ちすくんで拾う事すらできない。

 

 

スカートを白いシルクの手袋のしなやかな指先でつまんで、まるで天井の雲の上を流れるかのようにするすると進み平九郎と応募席の間に立ち、床まで届くしなやかな黒髪をサッと払う皇太子春仁(はるひと)。

 

 

(皇太子!?絶世の美女!?いやいや天上人!?そもそも人間!?)

 

情報が整理できない女装の三人。

 

その春仁の人智を超えた美貌に呼吸すらままならない状態になった。

 

 

(春仁様…結局…まだ女装以外させてもらえないのですね)

 

ため息をつくタカシ。

 

 

「急に記念館の面接を行うと聞き、何か胸騒ぎを覚えて来てみたら…平九郎!一体これはどういうことなのです!」

 

春仁の声は怒りに震えていた。

 

「こ、皇太子殿下…何をそのように…お怒りなのですか?」

 

困惑顔の平九郎に春仁はさらに畳み掛ける。

 

「今回の応募者は皆、見た目を着飾った女性の方ばかりではありませんか!」

 

「いいえ。決してそのようなことは…この平九郎…しかと人選を見極めたつもりでございますが…」

 

「ならばそなたに聞きます。有事の際、叔母上様は一体どのような者を頼みとされたか言ってみなさい!」

 

「う、うぐ…そ…それは…」

 

「早く申しなさい!」

 

「普段は身なりに構わず、容姿も爽やかならず、弁舌も鈍重にて甚だむさ苦しいが、一朝ことあれば命を投げ出して戦うような…そんな礼和男児でござった…」

 

(そ…それは戦時中の話!今は違うじゃない!平九郎!何をおどおどしてるの!)

 

ミニ和子は平九郎の口ひげを引っ張りまくる。

 

「そうでしょう!もし叔母上様がこの場に生きておいでなら一体何とおっしゃられるでしょう!さぞかしお嘆きになられるのではありませんか!『ここは ミス礼和のコンテスト会場ですか?』と」

 

(春仁…わたくしはあなたに『さぞかしお嘆きになって』います)

 

直立する平九郎の目に涙が浮かんだ。

 

「うう…不肖平九郎…過ちを犯すところでした」

 

「そうでしょう。叔母上様には不細工でも愛国心に満ち溢れた礼和男児が必要なのです。このわたくしのような!」

 

これを聞いた全員が顎が外れそうになった。

 

(あ!そうか!皇室教育の歪みが…)

 

ミニ和子は顔をしかめた。

 

(皇子女は必ず『貴方様は容姿に恵まれておりません。だから内面を磨きなさい』って教えられる。私も死ぬまでは自分のことをブスだと思ってた。『あれ…もしかして…私って…美人!』って気づいたのは 展示されてからだもの。春仁…自分のことを不細工だと思っている…)

 

 

田端は震えながら春仁に恐る恐る訪ねた。

 

「あの…皇太子様…それでは…今回の合否は?」

 

「もちろん!全員不合格でございますわ!」

 

そう言うと春仁は、しなやかなシルクのグローブが光る手の甲を薔薇の様な唇に当て「オ―ホッホッホッホッ!」と高笑いした。

 

 

「え…」

 

 

「う…」

 

 

「は…」

 

 

そこにいるメンバー全員が生きる屍と化した。

 

 

そしてタカシの方に振り向きにっこり笑う春仁。

 

「タカシ様」

 

「は、はい…」

 

「わたくし…あの時タカシ様にご指導いただき、礼和男児に生まれ変わることができました。篤く御礼を申し上げます」

 

上品にスカートをつまみ、片足を後ろに下げて頭を少し傾ける最上級の貴婦人の礼を取る春仁。

 

「はひ…はい…」

 

戸惑うタカシが背中に何かただならぬ気配を感じて振り向いた。

 

(あぐ!こ、皇女様!)

 

タカシは確かに見た。

 

玉座に一見無表情に座っているように見える和子の周りに凄まじい怨念が黒く渦巻いているのを。

 

 

 

 

「和子様!お願いです!どうかお静まり下さい!」

 

「そこをどいて!タカシさん!今から皇城に押しかけるの!」

 

皆が解散した後の観覧室。

 

玉座の間の出口に両手を広げて必死に通せんぼするタカシ。

 

和子はそんなタカシのほっぺたに、両手で持った自分の生首の額をグリグリ押し付けていた。

 

「やめてください!皇城に行って一体何をなされるおつもりですか?」

 

「決まってるでしょう。あの女男にわたくしの生首を投げつけてやるの!だからそこをどきなさい!」

 

「あう!駄目…駄目です…全てがむちゃくちゃになります!」

 

 

 

 

夜の観覧室に2人の声が響き続けた。

 

 

記念館エントランスホールの皇女像の前には三つの女性用のウィッグが並べられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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