首なし皇女は笑えない   作:haku728

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第60話  皇女の手紙③

「はい。天女様のご身体に魔法ばかけたあん男でごわす。帝国陸軍特級魔導士として従軍しておりました」

 

タカシは息を飲んだ。

 

「その…どのような御方だったのですか?」

 

「記念館にお勤めなさっちょっなら、ご存じじゃなかとでごわはんか?」

 

「それが…斑目さんに関しては情報が乏しくて…」

 

「なるほど……天女様のご身体ば不死にしたあんお人は、アメリアナん顰蹙(ひんしゅく)ば買いちょりもしたでな。情報統制されたとかもしれもはん」

 

「そうなのです。記念館の資料庫にも斑目さんに関する資料はほとんどありません。だから教えて頂だきたくて」

 

「わかいもした……年の頃はおいとほとんど同じで、四十も半ばぐらいでございもしたか……ほんのこて物静かで、気性ん優しか男でございもした。とにかく人ば殺めるのが嫌いでしてな。もっぱら救護班にその身ば置いておりもした」

 

「そうですか。負傷兵の治療に当たっておられたのですね」

 

「そうでごわす。じゃっどん、あんお方の能力は凄まじかもんでございもした」

 

「それは…一体どのような?」

 

「どてっ腹に穴が開いて息絶え絶えの兵士も、慎之助どんが患部に両手をかざして不思議な光を当てると、あっという間に傷口が塞がってしまうのでごわす。それも一人や二人ではありもはん。数千人でごわす」

 

「え!数千!」

 

タカシはゴクリと唾を飲み込んだ。

 

「そうでごわす。普通ん魔導士なら、力の有る者でん数十人ば治療すっが精一杯でごわすからな。アメリアナにとっちゃ、まっこて悪夢んごたる成り行きでございもしたろうな。三日で終わるち言われちょった沖島戦が、実際には半年近うも持ちこたえたんは、ひとつには慎之助どんの存在があったからでごわす」

 

西郷の話に圧倒されて言葉が出ないタカシだったが足のしびれに耐えかねて腰を浮かしたり落としたりしだした。

 

「おお!すんもはん。おいも腰掛けるので山田どん もどうぞソファーに座ってくいやんせ」

 

「あ…痛つ…すみません…」

 

タカシは顔をしかめてヨレヨレしながら立ち上がっりソファに戻った。

 

「斑目さんのお話を聞かせていただきありがとうございました。しかし戦線は結局どうなって行ったのでしょう?」

 

西郷はその問いにしばし瞑目してから口を開いた。

 

 

「そいですな……我が軍もアメリアナ軍物量ん前に、しだいしだいに追い詰められもした。二万おった守備兵も、ついにゃ千余りになりもしてな。慎之助どんも力ば使い果たして意識不明となりもした。おいも右足に銃弾を受けて皮一枚でつながっている状況でしてな。そいでおいは三橋どんに玉砕ば進言しもうした」

 

「玉砕ですか!それでどうなったのですか?」

 

「それが…三橋どんにこっぴどく叱られもしてな。『命を粗末にするな!』と。そして総員退去を御命じなされた。ほとんどの兵を先の船に乗せて夜間に紛れて脱出させ…自身は殿(しんがり)の駆逐艦に乗り込まれた」

 

「三橋中将ご自身が!しんがりに…」

 

「おいも同乗ば懇願しもしたが、受け入れてもらえんかった。そいでこう仰せられた。『貴様は皆を導いて生還を果たせ! そして元帥(当時の帝国軍総司令は和子)に、《沖島防衛兵ハミナ良ク戦ヘリ。兵二対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲ》とお伝えせよ』と託されもした。アメリアナ軍を陽動した駆逐艦は脱出船を逃した後撃沈されもした」

 

「そんな…三橋中将は…一体?」

 

「海ん中に投げ出された三橋どんは、沖島ば救いに向かいよった戦艦永遠(とわ)と共に出撃しちょった巡洋艦岬(みさき)に助けられもした。岬は引き返しもしたが、突撃した永遠はアメリアナ軍に取り囲まれて撃沈されちょりもす」

 

「そ、そうですか…でも中将は助かったのですね!」

 

「はい。本土に帰還された三橋どんは深手を負っておられ、暫く帝国病院で治療を受けておられた様です」

 

「しかし…西郷さんも足を…その後はどうなされたのですか?」

 

「まあ、こげんもんは仕方んなかとです。そいより本土ん戻って、おいはすぐ杖ばついて皇城ん向かいもした。そして敗戦の報告ば済ませたあと、天女様に、おいへ死を賜りもすようお願い申し上げもした」

 

「ええ!何故です!」

 

「皇家よりお預りした大切な兵を沢山死なせてしまいもしたからな…しかし天女様はお許し下さらなかった。代わりに驚く事をおいに御命じなさいもした」

 

「皇女様が!何と仰られたのですか?」

 

「『守之助に子供を与える』と。このおいに完成したばかりの桜花愛児園の園長を命じられたのでごわはん」

 

「ここの園長を!」

 

「そいです。最初は天女様ん御意図ば図りかねもした。誰んおらん施設に、どげんしておいが?とな。まっこて、何故死なせてくださらんとかと、お恨み申し上げもした。じゃっどん、その後皇都が空襲に遭い、家族ば失うた大勢ん子供たちば抱ゆるこつになりもした。おいは…おいは…その時ようやく天女様んお考えがようやく理解でけもした」

 

そう言うと西郷は静かに目を閉じた。

 

そして両目から涙が溢れ出した。

 

「西郷さん…」

 

タカシのまなこからも涙が溢れでる。

 

 

「山田どん」

 

西郷はソファから降りて正座した。

 

「謹んで天女様の御依頼をお受け申す。この西郷、命に代えても三橋どんのお孫様を御守り申し上げます」

 

そう言うとタカシに向かって平伏した。

 

 

(なんという事だろう…)

 

タカシは震えが止まらなかった。

 

皇女が生きる道を示した西郷が、再び皇女の導きにより三橋の孫を救おうとしているのである。

 

 

(でも…この話をしないと…)

 

「西郷さん。実は…この手紙は…」

 

「山田どん。その先はおいには不要でごわす」

 

「え…」

 

「この手紙は間違い無く天女様によるもの。そして三橋どんのお孫様を守れとお命じなされた。おいにはそれで充分でごわはん」

 

西郷の顔は晴れやかであった。

 

 

タカシは立ち上がると深々とお辞儀をした。

 

 

「キャハハ!」

「ゆうま待て―!」

 

昼下がりの園庭からは楽しげな声が響いている。

 

 

 

 

 

次回  タカシ ゆうまの家を訪ねる

 

 

 

 

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