ミーティング解散後、ヴィクトリアはタカシにそっと耳打ちした。
「今晩またあそこで…姫さんもご一緒に」
「え…は、はい」
(ヴィクトリアさんどうしたんだろう?ちょっと元気がないけど…)
タカシは彼女の様子が少し気になった。
真夜中の休憩室。
前夜の席に三人が顔を合わせた。
「あ―!ホンマにうっといわ!速水の奴!」
ヴィクトリアがソファで背伸びしながら嘆いた。
「速水さんて相当なやり手らしいですね。5カ国語を喋れるとか。でも何だか押しの強い感じですね」
タカシはセリフ集のプリントを見ながら言った。
「そやで。その ド S な女王様セリフの羅列見てビビったわ。うちそんなキャラちゃうねん。こう見えてもゴールデンレトリーバー並みに人懐っこいねんで」
「タカシさん。その紙を見せてくださる?」
静かに話を聞いていた和子がタカシよりプリントを受け取り目を通した。
『頭が高いわ。跪きなさい』
「う、うふ」
『愚民の分際で面白いことを言うのね』
「うふふ…」
『鏡をご覧になって? 私と対等に話せる顔?』
「うふふ…うふふふふ」
『私は寛大よ。今すぐ消えるなら許してあげる』
「あふ!アハハハ!」
「ちょ!姫さん!そんなに笑わんといて!うち、まじで悩んでんのに」
「ご、ごめんなさい…よくこんなテンプレなセリフを集められたと思って」
「感心してる場合とちゃいまっせ!ほんまに」
「あの、ヴィクトリアさん?」
「何です?」
「このセリフ、 実際に観覧者の前で御話されてみては如何でしょう?」
「ええ!何ですって!あきまへんってそんなん!みんなにドン引きされますわ」
「ええ。そうかも。でもそれを見た速水さんはどう思われるでしょう?」
「どうって…そうか!あいつ横で見てるもんな。顔から血の気が引きよるで」
「ねえ。タカシさん。明日のプログラムはどうなっているのかしら?」
「はい。確か13時から玉座の間でRHKテレビの公開インタビューがあったはずです」
「よっしゃ!作戦が見えてきたで。速水をどん底に突き落としたるわ!このプリントのセリフ覚えて全弾放出や!」
ヴィクトリアは 鼻息が荒くなる。
(さあ…うまくいけばいいけど…)
プリントのセリフを順番に口に出すヴィクトリアとそれを聞きながら大ウケする和子。
タカシはその様子を見ながらかすかな胸騒ぎが拭えなかった。
翌日、昼過ぎに玉座の間にテレビ局が入りインタビューの時間となった。
特別展示室は今日も超満員である。
玉座の横には、速水が主催者兼通訳として座り、先にこの展示の経緯や意義などをマイクに向かって誇らしげに答えていた。
そしていよいよインタビュア―はヴィクトリアにマイクを差し向けた。
「あのう。将軍は我が国の言葉にもご堪能と聞きます。礼和語でお話し頂いてもよろしいでしょうか?」
(よし!来た!いっちょかましたるか!)
ヴィクトリアはギアチェンジして若い男性インタビュアーの顔を冷たく見つめた。
「あなた!それは私に対する指図かしら?」
「え!」
きょとんとするインタビュアー。
「誰に向かって口を利いているの?身の程を知りなさい!」
「ひ…すみません!」
「頭が高いわ!跪きなさい!」
「は、はい!」
インタビュアーは慌てて跪く。
(え!跪くんかーい)
ヴィクトリアは少し慌てたが表情を殺して続行する。
「で、何が聞きたいの?一つだけ答えてあげるわ」
「え、あの…いくつか質問があるのですが…」
「あなたごときが、私に意見を?」
「ひ…あ…いえ」
「二度は言わせないで!質問は一つだけよ!」
「は、はい!申し訳ございません」
(なんか…かわいそうになってきたな。でもここは心を鬼にして)
「早く質問なさい!あなたごときに私の貴重な時間を消費させるおつもり?」
「す、すみません!ではお伺いします。こちらにこられてご興味を持たれたものは何でしょう?」
「無いわ!」
「え!」
「私が興味を持つものなどない。皆が私に興味を持つの。当たり前でしょ!」
「はうう…」
「世界が私を見るの!世界は私を中心に回っているのよ!」
「は、はい―!」
「オ―ホッホッホッホッ!オ―ホッホッホッホッ!」
(えへへ。どや!観客もみんな凍りついてるやろ)
ヴィクトリアは得意気に生首を観覧席の方に向けた。
(え!どういうことや!)
彼女は愕然とした。
観客が全て、目をハートにしてひざまずいているのである。
「媚びないお姿!素敵!」
「それでこそヴィクトリア様です!」
「嗚呼!将軍様 !ありがたきご褒美です!」
口々にヴィクトリアに対する賛美が飛び出す。
そして徐々に万歳三唱の輪がその場を覆った。
「ヴィ…ヴィクトリア様!万歳!」
「ヴィクトリア様!万歳!」
「万歳!万歳!」
(え、え、え!ちょっと…ちょっと待ってや!)
ヴィクトリアは口を震わせながら速水の方を見た。
速水は無表情だが親指を立てている。
(く・そ・は・や・み!なんやその指!むかつく!)
ヴィクトリアは歯噛みした。
次回 皇女と将軍の逆襲