【トリッカル二次小説】夜空を舞う黒曜石   作:赤銀

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ティグってこんな感じだよね…たぶん。自信なくなってきた。


たとえ変われなくても

洞窟に戻ると、ぼくは飾りをすべて外した。

 

やはり無意味だったんだと思う。表面を飾ったところで中身は変わらない。ぼくは黒曜石、醜くて価値のない———

 

「ギデオン先輩!」

 

オパールが息を切らせて洞窟に飛び込んできた。

 

「ギデオン先輩! ごめんなさい、私のせいで嫌な思いをさせちゃって…」

 

その声は今にも泣き出しそうだった。

 

「…君のせいじゃないよ」

 

なんとか心を落ち着けて、静かに言った。

 

「もともと、ぼくが外に出るべきじゃなかったんだと思う。君は悪くないよ」

 

「でも! うっ、うええええん…!」

 

オパールの瞳から、涙がこぼれた。

 

「私、ギデオン先輩を楽しませたかったのに…、またダメだった…。前のパーティーの時みたいに…」

 

「オパール…」

 

「私、何をやってもダメなのかな…うえええん…!」

 

その姿を見て、ぼくは思わず声をかけていた。

 

「そんなことないよ。君はとっても優しいと思う。一生懸命だった」

 

「でも…」

 

そうだ。オパールは悪くなかった。ぼくが高望みをしてしまっただけ…。

 

「ただ…、ぼくが弱かっただけなんだと思う」

 

でもこのままだと、気遣ってくれたオパールに申し訳が立たない。

 

ぼくは少し考えてから言った。

 

「…もし、本当にぼくを外に出したいなら」

 

「はい…?」

 

オパールは涙を拭いてぼくを見上げた。

 

「もし本当にぼくを外に出したいなら…夜に、してくれないかな」

 

「夜…ですか?」

 

「ぼくは…夜空が好きなんだ…。星を見るのが。だから…もし外に出るなら、昼じゃなくて、夜がいいと思う。暗い時間に…」

 

オパールの瞳が少し輝いた気がした。

 

「…わかりました!」

 

オパールは完全に涙をぬぐって、笑顔を見せた。

 

「じゃあ、今度は夜に! もっと素敵な飾りを作ってきますから! えへ〜」

 

「…ありがとう」

 

ぼくは小さく微笑んだ。

 

その時だった。

 

「おい、そこにいるか?」

 

洞窟の外から、声が聞こえた。

 

ぼくとオパールは顔を見合わせた。この声は———

 

「ティグ…?」

 

「ああ、いたいた。入っていいか?」

 

返事をする間もなく、ティグとルポが洞窟に入ってきた。

 

「何しに来たんですか!?ギデオン先輩にこれ以上何かするなら、許しませんよ!」

 

オパールが吠える。僕は思わず後ずさった。まさか、もっと嫌なことを言いに来たんだろうか?

 

「おい、待てよ。逃げんなって」

 

ティグが両手を上げた。

 

「おれたち、謝りに来たんだ」

 

「…え?」

 

「さっきのこと、悪かった」

 

ティグがぶっきらぼうに言った。ルポは肩をすくめている。

 

ぼくは呆然とした。あの二人が謝っている?

 

「おれ、あんまり頭よくねぇから、言っていいこととダメなこと、よくわかんねぇんだ」

 

ティグは頭を掻きながら言った。

 

「でも、さっきのは言い過ぎたって、ルポが教えてくれたからさ」

 

「隊長は本当に無知なのだ」

 

ルポはため息をついた。

 

「でも、悪気はなかったのだ。ただ、本当に思ったことが出ただけで、隊長にはフィルターってものがないのだ」

 

「フィルター?….ああ、あれだろ?なんか粉を通すやつ。前に教主がなんかに使ってるのを見たぜ」

 

2人のやり取りをみて、僕は少しだけ力が抜けた。

 

「二人とも…、僕は慣れてるから。いいよ」

 

「慣れてる?それってどういう意味だ?」

 

ティグが首を傾げた。

 

「よく言われるから、もう気にしないってことだよ」

 

僕が説明するとティグの顔が曇った。

 

「…それってイライラしねぇのか?」

 

「え?」

 

「だって、嫌なこと言われ続けてたってことだろ?おれだったら、めっちゃ腹立つぞ」

 

ティグが拳を握りしめた。

 

「誰だよ、お前にそんなこと言ってたやつ。俺が文句をいってやろうか?」

 

その言葉に、僕は思わず目を見開いた。

 

「ティグ…」

 

「隊長、それ自分も含まれてるのだ」

 

ルポがあきれたように言った。

 

「え?あ、そっか。おれも言っちまってたんだったな」

 

ティグが頭をかいた。

 

「じゃあ、おれが文句を言いに行くわけにはいかねぇな。でも腹が立つのは本当だぞ?」

 

ティグがまっすぐに僕を見た。

 

「お前、本当は腹立ってたんじゃないのか?怒っていいんだぞ」

 

「え…でも…」

 

「おれ、ばあちゃんによく怒られるんだけどさ、『怒るべき時に怒らないのは、自分を大事にしてないことだ』って言われたんだ」

 

ティグの目が真剣だった。

 

「お前、自分のこと、大事にしてねぇだろ」

 

その言葉が胸に刺さった。

 

僕はなにも言えなくなった。

 

オパールが横から口を出した。

 

「ギデオン先輩…」

 

「隊長、たまにはいいこと言うのだ」

 

ルポが感心したように言った。

 

「だろ?…おれ、毎日叩かれてるせいでちゃんと覚えてるんだぜ?」

 

「そこは威張ることじゃないのだ…」

 

二人のやり取りを見ているうちに、僕の胸にあった何かがゆっくりと溶けていくような気持になった。

 

「…ぼく、怒っていいの?」

 

小さくつぶやくと、ティグがにやりと笑った。

 

「当たり前だろ。お前、嫌なこと言われたんだから」

 

「でも、僕は弱いから…怒る資格なんて…」

 

「資格?そんなもんいらねぇよ」

 

ティグはあっけらかんと言った。

 

「お前が嫌だって思ったら、それがすべてだ。強いとか弱いとか関係ねぇ」

 

「本当に…?」

 

「ああ、だから、怒れよ。おれに」

 

ティグが胸を張った。

 

「おれ、お前に嫌なことを言った。だから、お前はおれに怒っていい」

 

僕は戸惑った。怒るってどうすればいいんだろう…。

 

「…怒るって、どうやって…?」

 

「え?殴るとか…?」

 

「隊長、暴力を勧めるんじゃないのだ」

 

ルポが頭を押さえた。

 

「でも、ばあちゃんはいっつも俺を殴ってくるぜ?」

 

「言葉で怒るのだ。『嫌だった』とか『傷ついた』とか、そういうのでいいのだ」

 

「嫌だった…?」

 

僕は小さくつぶやいた。

 

「そう、それでいいのだ」

 

ルポが優しく言った。

 

「それを言えるだけで、十分なのだ」

 

ぼくは深呼吸をした。そして、言葉を絞り出した。

 

「…嫌だった。ティグに、あんなこと言われて」

 

「おう」

 

「ぼくは…ぼくなりに、頑張ってたのに。オパールが作ってくれた飾りを着て、外に出る勇気を出してたのに」

 

「うん」

 

「それを…笑われて…すごく、悲しかった」

 

声が震えていた。涙が出そうだった。

 

「ぼくは…ダーヤみたいになりたかったわけじゃない。ただ、少しだけ、外に出られるようになりたかっただけなのに…」

 

「うん」

 

「それなのに…『似合ってない』とか『宝石に見えない』とか言われて…やっぱりぼくは、外に出ちゃいけないんだって…思った」

 

最後の方は、ほとんど泣き声になっていた。

 

オパールがぼくの手を握った。

 

「先輩…」

 

ティグは黙って聞いていた。そして、ぐっと唇をかんだ。

 

「…悪かった」

 

その声は、さっきよりも重かった。

 

「おれ、お前がどれだけ頑張ってたか、全然わかってなかった」

 

「ティグ…」

 

「この小さいやつがおれに怒ってた理由も、やっとわかった。お前、すげぇ勇気出してたんだな」

 

ティグが顔を上げた。その目は、真剣だった。

 

「おれ、お前のその勇気、踏みにじっちまったんだな」

 

ぼくは涙を拭いた。

 

「…うん。許すよ」

 

「マジで?」

 

「うん。だって、ティグは謝ってくれたから」

 

「お前…優しいな」

 

ティグが照れくさそうに頭を掻いた。

 

「あ、そういえば…お前の名前、なんていうんだ?」

 

「え?」

 

「だって、『お前』とか『黒いやつ』とか呼ぶの、失礼だろ? ルポに言われたんだ」

 

「隊長、最初から名前を聞くべきなのだ」

 

ルポが呆れている。

 

「悪ぃ、おれ、名前覚えるの苦手でさ。顔で覚えるタイプなんだ」

 

ティグが照れくさそうに頭を掻いた。

 

「ぼくは…ギデオン」

 

「ギデオン? ギ…ギデ…」

 

ティグが何度か口の中で繰り返している。

 

「ギデオン、な。覚えた」

 

「さすが隊長なのだ」

 

口でそう言いつつも、ルポが疑わしそうに見る。

 

「覚えたって。ギデオンだろ? 黒曜石の」

 

「よくできたのだ」

 

「おれをガキ扱いすんな」

 

「じゃあ、ガキみたいなことをしないでほしいのだ」

 

ティグがオパールに視線を向けた。

 

「で、このちっこいやつは?」

 

「私はオパールです! ギデオン先輩の後輩なんですから!」

 

オパールが胸を張って言った。

 

「オパール? オ…オパ…」

 

「オパールです!」

 

「おお、覚えた。オパールな」

 

ティグが頷いた。

 

「お前、結構強いんだな」

 

ティグが少し興味深そうにオパールを見た。

 

「あの時、おれに飛びかかってきただろ?組み合ったときにかなりの力を感じたぜ」

 

「え…?」

 

オパールは首をかしげる。ティグが腕を組んだ。

 

「力はあるな。まだガキだからおれよりは弱いけど、将来強くなるかもな…」

 

「隊長、上から目線なのだ」

 

ルポがあきれたように言った。

 

「え、事実だろ?俺のほうが強いし」

 

「私、そんなに強くないですよ?まだ生まれたばかりなので、ギデオン先輩の方が...」

 

オパールは照れくさそうに言った。

 

「生まれたばかり…?マジで?」

 

ティグが驚いたように目を見開いた。

 

「じゃあ、お前、もっと強くなるじゃん。すげぇな」

 

「隊長、そこに食いつくのだな」

 

ルポが苦笑した。

 

「だって、生まれたばかりであんだけ気迫あったら、将来やべぇだろ」

 

ティグがにやりと笑った。

 

「ギデオン、お前もこいつみたいに強くなれよ。そしたら、おれと勝負できるしな」

 

「勝負…?」

 

「ああ。おれ、強い奴と戦うの好きなんだ。お前ともいつかやってみたいぜ」

 

ティグの目が輝いた。

 

僕は静かにうなずいた。戦うのは好きじゃないけど、ティグのそのまっすぐな瞳を見ていると断る気にはなれなかった。

 

「お前、いいやつ持ったな、ギデオン」

 

「…うん。ぼくもそう思う」

 

ぼくはオパールの頭を傷つけないようにそっと撫でた。オパールが嬉しそうに笑った。

 

「えへ〜」

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