ピコラのシジュンニーも好き
「それで」
ティグが改めて言った。
「お前、何が好きなんだ?」
「え?」
「だって、おれたち、お前のこと全然知らねぇじゃん。仲良くなるなら、知らなきゃダメだろ?」
「隊長、珍しくまともなことばかり言ってるのだ」
「だろ? おれ、ベニーにそう教わったんだ」
ティグが得意げに言った。
「ぼくは…夜が好き」
「夜?」
「うん。夜空とか、星とか…暗い時間が好きなんだ。昼間は、眩しくて痛いから…」
「へぇ、そうなんだ」
ティグが興味深そうに聞いている。
「おれは昼間の方が好きだけどな。太陽の下で剣振り回すの、気持ちいいし」
「人それぞれなのだ、隊長」
ルポが言った。
「でも、夜が好きってことは…」
ルポがぼくを見た。
「夜に出歩くのは平気なのだ?」
「うん…多分。昼間よりは、ずっと」
「じゃあ、夜に出歩けばいいじゃん!」
ティグがあっけらかんと言った。
「おれたちも、ばあちゃんがうるさくしなけりゃ、別に昼間じゃなくてもいいんだぜ?」
「うるさくしてるのは隊長の方なのだ」
ルポが肩をすくめて言った。
「ギデオンはどうなんだ?夜の森とかめっちゃ楽しいぞ」
「そうなの?」
「ああ、光る虫とか、夜にしか咲かない花とか。あと、月明かりの下で剣の稽古するの、すげぇ気持ちいいんだ」
「夜の森…」
ぼくは少し興味が湧いてきた。
ルポが頷いた。
「星もよく見えるのだ。隊長みたいな脳筋には理解できないだろうけど、風情があるのだ」
「おい、それどういう意味だ」
「褒めてるのだ」
「絶対嘘だろ」
二人のやり取りを見ているうちに、ぼくは少しだけ、夜の外出に期待を持ち始めていた。
「夜の森…見てみたいかもしれない…」
「マジで? じゃあ、今度案内してやるよ!」
ティグが嬉しそうに言った。
「約束な!」
「約束…」
ティグが拳を突き出した。ぼくは戸惑いながらも、自分の拳を合わせた。
「よし! じゃあ、そろそろ行くか。ルポの薬、そろそろ切れるだろ」
「薬?」
「ああ、お前らを見つけるためにルポが薬を飲んだんだ。切れたら、また馬鹿になるから」
「ああ。あと2分くらいなのだ」
二人は洞窟を出ていった。出口で、ティグが振り返った。
「じゃあまたな、ギデオン!ちっこいのも!」
「やっぱり覚えてないじゃないのだ、隊長」
ぼくらも小さく手を振った。
二人の姿が見えなくなると、オパールがぼくを見上げた。
「ギデオン先輩、よかったですね!」
「…うん。よかった」
ぼくは小さく微笑んだ。
胸の中にあった重い塊が、少しだけ軽くなった気がした。
「じゃあ、夜の外出、もっと楽しくできるように、素敵な飾りを作ってきますね!」
「…ありがとう、オパール」
「えへ〜 楽しみにしててください!」
オパールは嬉しそうに洞窟を出ていった。
ぼくは洞窟の奥を見た。ここは安心できる場所だ。でも、もしかしたら、外にも、安心できる場所があるのかもしれない。
夜の森。星空。友達。
ティグとルポ。そして、オパール。
少しだけ、期待してもいいのかもしれない。
そう思えた。
それから数日後…。オパールは約束通りに夜に現れた。
「ギデオン先輩!準備できましたよ!」
その手にはたくさんの新しい布が抱えられていた。今度はこないだのような派手目なものではなくて、深い青と黒を基調とした、落ちついた色合いのもの。
「これ、夜空をイメージして作ったんです!ジェイド先輩にも手伝って選んでもらって!どうですか?えへ~」
「…きれいだと思う」
本心からそう思った。まるで夜空そのものをまとっているみたいなそんな布だった。
「よし!じゃあ着せてあげますね!」
オパールは丁寧に、僕に布を巻いていった。今度はまるでドレスみたいな形に。
「それから…これも!」
小さな宝石のかけらをドレスのあちこちに縫い付けていく。
「これは星ですよ。ギデオン先輩が好きな夜空の星!えへ~」
布にちりばめられた宝石たちがまるで夜空を彩るかのように反射してきらめいていた。
「…本当に、夜空みたいだね」
「でしょ?さあ、外にでましょう!ギデオン先輩!」
オパールに手を引かれて、僕は再び外へと歩き出した。
今度は、暗い夜。月明りだけが僕たちを照らしていた。
「どうですか?昼間より落ち着きますか?」
「うん…。ずっといいと思う...」
夜風が心地よく頬を撫でた。外に出ること自体が怖くないわけじゃないけれど、昼間よりもずっと楽だった。
「よかったです!じゃあ、ここで踊りましょう!」
「踊る…?」
「はい!私、ダンスを習ったんですよ。下手ですけど…えへ~」
オパールは照れくさそうに言った。
「でも、ギデオン先輩と一緒に踊りたいです!」
「僕もあまり上手じゃないと思う…。ガビィアから教わったけど、うまくできているかあまり自信がないんだ...」
ガビィアはほめてくれたけど、よくよく考えてみると蚊に刺されたときの踊りみたいに思うときもある。あの地獄のような時間が過ぎてからはもう一生踊りたくなんかないと思ったけれど。
「大丈夫です!下手同士で踊りましょう!」
オパールは僕の手を取った。小さな暖かい手。
「ほらこうやって...」
不器用ながらも、オパールは習いたてのダンスでリードした。僕もゆっくりとステップを踏む。
月明かりの下、二人で夜を踊る。
不思議と、気恥ずかしさは薄れていったと思う。ここには、僕たちしかいない。
「ねぇ、ギデオン先輩?」
「うん..…?」
「星、きれいですね…」
「うん…」
僕らは空を見上げた。
満天の星空たちが僕らを包み込んでいた。
「私ね、いつもあの星たちみたいに、キラキラ輝きたいって思ってたんです…」
オパールの言葉に僕は少し驚いた。
「君も…そう思うの?」
「はい、でもね。今日わかったんです」
「何が?」
「輝くのは星だけじゃないんだって」
オパールは僕を見上げた。
「ギデオン先輩も今とっても輝いてますよ。このドレスを着て、月あかりの下で踊ってる姿…すごくきれいです!えへ~」
「僕が…?」
「はい!本当ですよ!」
その言葉が僕の心に染み入った。
「ありがとう…オパール」
「ねぇ、もっと星を見ましょうよ!天体観測しませんか?」
「天体観測…。いいね...」
僕たちは草原に腰を下ろして、夜空を見上げた。
「あれは…何座ですか…?」
「あれは、教主座だよ…」
「教主座?面白い名前ですね」
「僕が作ったんだ。教主のことを思いながら…」
「へぇ!ギデオン先輩って、星座作れるんですね!すごいです!」
オパールの純粋な驚きが、うれしかった。
「じゃあ、あれは?」
「えっと、あれは…オパール座にしようかな...」
「え!私のですか?」
「うん、君のことを思い出せるように」
オパールの顔が夜空の星達よりも輝いた。
「えへへ…うれしいです...」
僕たちはしばらくの間、星空を眺めていた。
風が吹いて、草が揺れる。オパールの作ってくれたドレスが風になびいた。
「…オパール」
「はい?」
「僕、少し外が怖くなくなったかもしれない…」
「本当ですか…?」
「うん…君のおかげで」
オパールは満面の笑みを浮かべた。
「よかったです…!本当に良かったです…!えへ~」
「ありがとう。こんな僕に...付き合ってくれて」
「ううん! 私こそ、ありがとうございます!」
オパールは僕の手を握った。
「ギデオン先輩と友達になれて、嬉しいです!」
「...友達」
その言葉が、温かかった。
「うん。僕も...嬉しいよ」
夜空の下、二人の竜族は寄り添っていた。
一人は、長い孤独の中で生きてきた古い世代の竜。
もう一人は、新しい世代の、純粋で優しい竜。
世代を超えた絆を星達が静かに見守っていた。