そのあとも、オパールは時々、僕の洞窟を訪れるようになった。
「ギデオン先輩!今日は新しい布を持ってきましたよ!えへ~」
「また、作ったの?」
「はい!今度は紫色の夜空をイメージしたんです!」
オパールの衣装を作る腕はどんどん精巧になっていった。まるで、職人みたいだと思う。
「君、才能あるんじゃないかな…」
「えへへ、そうですか?」
「うん。この衣装…本当にきれいだよ…」
それはお世辞じゃなかった。オパールの作る衣装は自分が着るにはもったいないくらいに本当に美しかった。
「じゃあ、今日も外に出ましょう!」
「…うん」
最初は躊躇っていた外出も、今では少し楽しいと思う。少なくとも夜なら…いや、オパールと一緒なら。
草原に出ると、いつものように星達が瞬いていた。
「ねぇ、ギデオン先輩」
「うん…」
「また、一緒に踊りませんか?」
「いいよ…」
今度は前よりも少しうまく踊れた気がした。オパールも少し成長したのかもしれない。僕らの息が自然とあってきていた。
星達の光の下で、僕たちは静かに踊った。観客のいないダンスホール。
静謐の夜空の中、オパールの小さな手が僕の手を優しく握っている。傷つけないように、そっと握り返すと温かくて柔らかな感触が返ってくる。
「ギデオン先輩」
「うん?」
「私ね、パーティーを開くのが好きなんです。みんなが集まって、楽しそうにしているのを見るのが」
「...そうなんだ」
「でも、前にパーティーを失敗させちゃって…みんなあんまり楽しんでくれなかったんです」
オパールの声が少し沈んだ。
「それで、すごく悲しくて…私、パーティーを開くの、向いてないのかなって思ったんです」
「…」
「でも!今日、ギデオン先輩と一緒にいてわかったんです」
オパールは顔を上げた。その瞳には、涙ではなく、希望が溢れていた。
「パーティーって、場所や飾りつけだけじゃないんですね。一緒にいる人のことを考えることが大切だって」
「…そうかもしれないね」
「だから!今度パーティーを開くときは、本当に来てほしい人だけを招待しようと思います!えへ~」
その言葉に僕は少し微笑んだ。
「それはいいアイデアだと思うよ」
「ですよね!?」
オパールは嬉しそうに手を叩いた。
「じゃあ、ギデオン先輩と、それから…教主と、ジェイドさんを招待しようかなって思うんです!」
「教主と…ジェイド?」
「はい!少人数で、ギデオン先輩が安心できる人たちだけです!えへ~」
僕は少しほっとした。教主もジェイドも、僕のことをよく知ってくれている人たちだ。
「それに、夜に開きますから!ギデオン先輩の好きな時間帯ですよね?」
オパールは僕の目を見つめた。その瞳には、期待と優しさが満ちていた。
「ギデオン先輩が楽しめるパーティーにしますから。約束です!」
「…本当に?」
「はい!だから、来てくださいね?」
パーティーはあまり好きな言葉じゃない。だけど、教主とジェイドとオパールだけなら…きっと大丈夫だと思えた。
「…それなら…行けると思う」
「やった!約束ですよ!えへ~」
オパールは飛び跳ねるように喜んだ。
「じゃあ、早速準備しなきゃ!教主にも伝えないと!」
「…オパール」
「はい?」
「ありがとう…気を遣ってくれて」
オパールは少し驚いた顔をした後、にっこりと笑った。
「えへへ、当たり前ですよ!ギデオン先輩が楽しめなかったら、パーティーの意味がないですから!」
しばらく踊った後、僕たちは再び草原に座って星空を眺めた。
「ねぇ、ギデオン先輩」
「うん?」
「この間、言われたこと…今も気にしてますか?」
その質問に僕は少し考えた。昼間に教主の妖精の国に向かう途中で二人の獣人に着飾っても意味がないと言われたことだと思う。
「気にしてると思う。二人が言ってたことは間違ってないから」
「どういうことですか?」
「僕は…ずっと、自分が偽物だって思ってきたんだ。ダーヤやオパール達とは違う。黒曜石は宝石じゃなくて、ただのガラスだから」
「…」
「だから…、彼らの言う通り表面だけを飾っても意味がないのかもしれない。僕はダーヤに敗れてから、暗い洞窟で心から変わろうとせずに中身を磨いてこなかったから。真の意味できれいな宝石に変わろうとしてこなかったから...」
「ギデオン先輩...」
オパールは僕の顔を覗き込んだ。
「でもね、私は思うんです」
「…何を?」
「中身を磨くって、一人で頑張ることだけじゃないと思います」
「え?」
「誰かと一緒にいること、誰かと話すこと、誰かと笑うこと…それも、中身を磨くことなんじゃないかなって」
オパールは空を見上げた。
「だってギデオン先輩、今日先輩は洞窟から出て、私と一緒に踊って、星を見てますよね?」
「うん…」
「それってすごいことだと思います!前の先輩は、きっとできなかったことですから!」
その言葉に僕ははっとした。
確かに…少し前の僕ならこんなことはできなかった。外に出ることも、誰かと踊ることも、こんなに楽しく話すことも。
「だから…先輩は、もう変わり始めてるんですよ。ちゃんと中身を磨き始めてるんです。えへ~」
「そうかな…」
「そうです!だから自信を持ってください!」
オパールは強く頷いた。
「私、ギデオン先輩のこと、応援してますから!」
「ありがとう...」
僕の声は少し震えていた。オパールの暖かさが嬉しくて、でも怖くて。気づけば椅子の端をつかんでいた。
「ねえ、オパール」
「はい?」
「君は…なんで、僕みたいな竜族にこんなに優しくしてくれるの?」
オパールは少し考えるような顔をした。
「うーん、なんででしょう~?えへ~」
「わからないの…?」
「わからないです!でもギデオン先輩と一緒にいると楽しいんです!」
オパールは無邪気に笑った。
「それに先輩は優しいですし、星のお話もたくさん知ってますし、一緒にいて楽しいです」
「そうなんだ…」
「はい!だからこれからもずっと友達でいてくださいね?先輩!」
「うん…」
僕は小さくうなづいた。
パーティーの日が近づいてきた頃、僕は教主のところを訪れた。
教主は背の高い若い人間で、いつも優しい物腰で僕たちに接してくれる。今日も、穏やかな笑顔で僕を迎えてくれた。
「やあ、ギデオン。どうしたの?」
「教主…少し、相談があって…」
「うん、いいよ。話して」
教主は椅子を勧めてくれた。僕は少し迷ったけれど、座って話すことにした。
「オパールが…パーティーを開くって言っていて」
「ああ、聞いたよ。楽しみだよね」
「うん…でも、少し悩んでいることがあって」
「何かな?」
教主は優しく僕を見つめた。
「この間…獣人の森で、ティグとルポに会ったんだ」
「うん」
「それで…彼らに、色々言われて…」
僕は言葉を選びながら話した。着飾っても意味がないと言われたこと。それが今も心に引っかかっていること。
「でも、後で彼らは謝ってくれたんだ。本当に反省してるみたいで…」
「そうなんだ」
「それで…オパールが、次のパーティーにティグたちも招待したらどうかって言ってて…でも、僕は…まだ少し怖くて…」
そこまで言うと、僕の声は小さくなった。
教主はしばらく黙って、僕の話を聞いていた。それから、ゆっくりと話し始めた。
「ギデオン、君が怖いって感じるのは当然だと思うよ」
「…え?」
「傷ついた心が癒えるには時間がかかるよね。謝られたからって、すぐに許せるわけじゃない」
「…うん」
「だから、無理に急ぐ必要はないと思う。まずは今回のパーティーを楽しむことが大切だよね」
教主の言葉に、僕は少しほっとした。
「でも…彼らは謝ってくれたのに、僕がまだ距離を置くのは…悪いんじゃないかって…」
「それは違うと思うな」
教主は優しく首を振った。
「許すことと、一緒にいることは別だと思う。君が彼らを許したとしても、もう少し時間をかけて関係を築き直したいって思うのは自然なことだよ」
「…そうなのかな」
「うん。ここは段階を踏むべきだと思う。まずは今回のパーティーで、安心できる人たちと楽しい時間を過ごす。それから、もし君が準備できたと感じたら、次のパーティーでティグたちを招待する。それでいいんじゃないかな」
「でも…オパールは、みんなで楽しみたいって…」
「オパールは優しい子だから、きっとわかってくれるよ。君のペースを大切にしていいんだよ」
教主はそう言って、僕の肩に手を置いた。
「それに、ティグたちだって、君が無理して受け入れてくれるよりも、本当に心から一緒にいたいと思ってくれる方が嬉しいはずだよね」
「…そうだね」
「そうだね。だから、焦らずにいこう」
教主の言葉に、僕の心はとても軽くなった。
「ありがとう、教主…」
「どういたしまして。パーティー、楽しみにしてるよ」
教主は優しく微笑んだ。
僕は教主の部屋を後にしながら、心の中で決めた。
今回のパーティーは、オパールとジェイドと教主と。安心できる人たちと、ゆっくり楽しもう。
そして、もし次があるなら…その時はティグたちも招待できるかもしれない。
少しずつ、前に進めばいい。
星空がゆっくりと輝くように。