廃核の海 〜魔族アバターのまま現実世界に放り出された俺と不思議な美少女の物語〜   作:織雪ジッタ

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プロローグ


これは未来の物語。

西暦2120年。
世界は一度、終わりかけた。

原因は今も分からない。『何か』が大暴発し、紫色の光が成層圏を突き抜けて宇宙へと広がった。
その光は地球を包み込み、太陽を遮り、宇宙との通信も交通も断ち切った。

空は紫に染まり、世界は孤立した。

やがて地球は凍りつき、氷河期に沈む。

人類は巨大な密閉都市《カプセル》に逃げ込み、辛うじて生き延びた。

——そして長い長い時を経たある日

ある赤ん坊に紫色に輝く稲妻が落ちた。

すると途端に空は晴れ渡り、長かった氷河期が終わった。

しかし、人々が希望に包まれたその時、第二の絶望が訪れる。

海に沈んだ原子炉や無数の使用済み核燃料が世界を核汚染で満たした。
大地も空も海も汚染され、外の世界は“死”そのものとなった。

それでも人類は生き延びた。
カプセルを放射能シェルターとして使い続けたからだ。

だが、希望が戻りかけたその時だった。

死んだはずの海から、未知の知的生命体が現れた。

彼らは自らを『イシュタラ』と名乗った。

それは人のようでも獣のようでもあり、言葉を理解し、さらには特殊な能力も持っていた。

彼らは交渉のいとまもなく人類に宣戦を布告すると、またたく間に地上へと進出し次々とカプセルを襲撃した。

そして数千はあったカプセル群は数年のうちにその半分を失っていた。

人々は恐怖し、それを悪魔と恐れた。

世界は再び、恐怖に沈んだのだ。

これは、そんな時代を生きる一人の青年と、
後に彼の運命を変える少女の物語である。



こんな姿じゃ生きていけない
1話 閉ざされた世界


 

とあるマンションの一室、簡素なワンルームの部屋。

 

外はすっかり暗くなっていた。

 

夜と言っても空に星はなく、街の空を覆う全天球の巨大なカプセルの内側に取り付けられた無数のライトから、月明かり程の光が閉ざされた街をほのかに照らしている。

 

この巨大なカプセルは、氷河期が終わって20年以上も経った今も、放射能による大気汚染から現役で街の人々の生命(いのち)を守ってくれている。

 

そんな街の様子を窓の外に眺める事のできるその部屋に、年の頃二十代後半のその割に少し幼い顔立ちをした青年の姿があった。

 

彼は仕事から帰って来て、着替えもしていない少しよれたシャツに作業ズボンの様な格好で、ベッドにドカっと座りそのまま横になって目を閉じた。

 

ショウ「ふぁぁぁ!疲れたなぁ。。」

 

目を閉じたと言ってもこれから眠るわけではない。頭に埋め込んだ『インプル』という機器から直接脳に送られてくる映像を見ているのだ。

 

それは現代で言うTVやスマートフォンの様な役割を果たしていた。

 

この時代それは珍しいものではなく、ごくありふれた生活必需品だ。

 

そしてこの青年の名はショウ。

 

彼は、両親を知らずに祖父に育てられたせいか、あまり社交的な性格ではなく、どちらかと言うとこのインプルにどっぷりのめり込む様なインドア派の青年だ。

 

 

インプルによるショウの脳内イメージ----------

 

女性アナウンサー「51区18番地のカプセル10基が今朝未明、イシュタラの攻撃を受けました。各地の被害状況は。。」

 

ニュースでは『イシュタラ』によるカプセル襲撃の凄惨なニュースが流れている。

 

『イシュタラ』は元々マイナス50度にもなる氷河期時代を外の世界で生き抜いた程の生命力を持っている。

 

その上、世界が放射能に汚染されてしまった今でもカプセルの外で不自由なく生きていける、正に怪物だ。

 

その姿は多種多様で、人に似た姿の個体もあれば獣人や亜人、さらには悪魔のような姿をした個体まである。

 

高い知能で人の言葉を理解し、統率の取れた軍も存在する。

 

身体能力は人の数倍から数十倍もあり、特殊な超能力を持つものまでいる。

 

彼らはなぜか何より人間を忌み嫌い、世界中で次々とカプセルを襲撃しては殺戮の限りを尽していた。

 

放射能の渦巻く中、人間はカプセルなしには生きていけない。

 

カプセルさえ壊せば、それだけで放射能に汚染されてカプセル内の人々は簡単に全滅する。

 

にもかかわらず『イシュタラ』は、全滅を待たずにわざわざカプセルに侵入しては、人を殺して回った。

 

楽しんでいる訳でもなく、まるでそれが仇討ちか使命であるかの様に、『イシュタラ』たちは執拗に人を襲った。

 

連日の様に世界のどこかのカプセルが襲撃されては、それがニュースになっていた。

 

 

ニュースキャスター「現地からライブ映像をご覧ください。」

 

そして現地の様子が映し出される。

 

遠くから望遠レンズで撮影したであろうその映像には逃げ惑う人々に非道の限りを尽くす『イシュタラ』達の姿があった。

 

彼らは人間にわざと苦痛を与えて殺す事に固執する。

 

楽に死なせてはくれない。

 

人々にとってそんな悪夢が繰り返されていた。

 

この時代の放送法により、その惨状は何も隠されることはなく事実をありのままを報道されている。

 

メディアが情報に対して意図的に手を入れる事を法が禁じているのだ。

 

思想家や工作員が簡単に支配できるメディアによる印象操作や政治介入を避けるためだ。

 

だから、どんな映像であってもそれはそのまま流されていた。

 

ちなみに、そういった過激な情報には目印となる『タグ』がつけられているので見たくなければ再生リストに上がらないように設定すれば自動でカットされる。

 

しかし、ショウはそんな設定があることも知らずにそのままニュースを見ていた。

 

ショウ「うわっ酷いな。。最近こんなニュースばっかりだ。。とても見てられないよ。。」

 

ショウ「ホント気が滅入るよなぁ。。。」

 

ショウ「ここもいつこうなるか。。。」

 

少しため息をつき、そんな現実から逃げるようにインプルのチャンネルタイトルを切り替えていく。。。

 

そしてあるゲームタイトルが目に止まった時、心が哀愁の念で包まれて、しばらくそのタイトルに目を奪われた。

 

もちろん目を開けている訳ではないのだが。

 

そして、そのタイトルは『ファーストアドベンチャー18』

 

それはインプルから直接脳に、本物と見分けがつかない程のファンタジー世界を投影し、そして体感する事が出来る世界屈指の人気を誇ったVRMMORPGだ。

 

元々の制作会社の買収劇など色々あって、サークルアンデッド社という会社が引き継ぎ、そこから最初の作品となるシリーズ第18作目のそれは、シリーズ初のVRMMORPGとして世界に一大ブームを巻き起こした渾身の力作だ。

 

本物と見分けのつかない程のグラフィックもさることながら、五感の感覚までも再現し、まるでそこに生きているかのように『感じる』ゲーム。

 

それは、瞬く間に世界中を魅了した。

 

しかし、それも昔の話。

 

後発の類似したゲームが続々と発売されると、年々ログインする人も減り、さらに追い打ちをかけるように現実世界では「イシュタラ」という「本物」のモンスターが出現する。

 

そして、おびただしい数の被害者が増え続ける中、世間から不謹慎だと叩かれ、もはやかつての栄光の面影は見る影もなくなっていた。

 

ショウ自身も、今はアカウントが残っているだけでここ数年、ログインすらしていない。

 

ショウ「もう、さすがに誰も残ってないよな。。?」

 

それでも、ログインしていなかった数年の間で仲間の誰かからのメッセージが届いているかもしれない。

 

そう思い、一月分だけ課金をして久しぶりにログインしてみる事にした。

 

タイトルを選ぶと画面が切り替わり、近未来的な希望感に溢れたBGMが流れる。

 

と言っても、そこはまだゲームにの中ではなく、料金を支払ったりアバターを選択するロビーの様な空間だ。

 

そこでショウは課金を済ませてアバターの選択をする。

 

ショウの使っているアバターは、現実のショウ自身の見た目とはかなり違っていた。

 

実際の彼は実年齢よりもかなり若く見える。

 

少年の様にすら見える彼の見た目と、その彼が作ったアバターとは非常に対照的だった。

 

そのアバターのキャラメイクは、鋭く赤く光る瞳、銀髪に体も大きく筋肉隆々(ほそマッチョ)といった感じ。

 

種族は魔族、メインの職業は赤魔導士レベル99カンストとサポート職として黒白魔導士を付けていた。

 

装備には赤魔導士専用のレッドソーサラーローブという赤いローブをまとっている。

 

因(ちな)みにこのゲーム内でのこの赤魔導士という職業はいわゆる「器用貧乏」で、剣も黒白魔法も何でも扱えるのだが、それぞれはさほど強くはない。

 

いわゆるメインのアタッカーやメインの回復役になれない、バフ役や魔法使い達の更にサポート役の職業だ。

 

しかし、MP回復という他の職種にはない特技が重宝されて、パーティに出る時には仲間を探すに事欠かない人気職業でもあった。

 

ガンガン前に出るタイプではない、どちらかと言うと人助けが好きなショウには向いている職種だ。

 

そんなショウは自身の『幼い外見』にコンプレックスを感じていた。

 

それもあって、大きくて悪そうで強そうになりたいという憧れが常にあった。

 

それと同時に持って生まれた控えめで人助けに幸せを感じてしまうと言った内面もあり、おとなしい中身とは全く違ったヤバイ見た目のキャラメイクをしてしまっていたのである。

 

そんなアンバランスなキャラでショウは久しぶりにそのゲームにログインした。

 

機械的で近未来的な効果音と共にさっきまでのBGMはフェードアウトし、眼の前の景色が変わる。

 

と、同時に寝転んでいる筈の体の感覚がふっとなくなって別の体の感覚に入れ替わる。

 

ショウ:あぁ、この感覚、そうだ、こんな感じだった。。。

 

そんな事を思いながら、ショウの意識はまるで睡魔に吸い込まれるかの様にゲームの中の世界に吸い込まれていった。

 

 

そして気がつくと決して明るくはない小さな木製の小部屋でポツンと立っていた。

 

ログインするとまず『エッグハウス』と呼ばれる自分の部屋に入る。

 

ここで冒険の準備をして出かけるのだ。

 

クラシックギターで奏でられた癒しのメロディが流れ、パチパチと暖炉の炎が暖かくその木の部屋を包んいる。

 

見慣れた。。。いや、見慣れすぎていた光景だ。

 

自然とショウのテンションは上がってくる。

 

ショウ「うおお。。懐かしいなぁ。。」

 

そしてコンソールを開いて色々確認する。

 

ショウ「フレンドからのメッセージは。。特になしか。。」

 

ショウ「ギルドリンクも誰もいないみたいだな。。」

 

ショウ「まぁ、当然か。。」

 

そう、テンションがあがったのもほんの束の間だった。

 

人が居てこそのMMOだ。

 

何年も放置していたそこに、見知った人達の痕跡はなかった。

 

コンソールを閉じて、ため息をつく。

 

そして目の前には『タマリン』と呼ばれるタマゴに顔と小さな手足、背中に天使の様な小さな羽がついたキャラクターがぷかぷか浮かんでいる。

 

タマリン「ご主人様!おかえりオポー!」

 

ショウがタマリンに視線を向けると、それはログインした時の定型のセリフを言ってクルっと一回りした。

 

ショウ「これは相変わらずだな。。(笑)」

 

苦笑いするも少し気持ちを切り替える。

 

ショウ「さて、せっかくだし街の様子を見に行くか。。」

 

ショウはそう言うと、またコンソールを出して『デミューズ北部へ出る』を選択した。

 

すると一度周りが暗くなり、古びた木製のドアの音が響いた。

 

それと同時にこれもまた聴き慣れたアイリッシュを思わせるBGMが流れてくる。

 

ここで、ショウはどことなく違和感を感じた。

 

それが何を意味するのかはこの時はまだ、知る由もなかった。

 

そして明るくなると、どこまでも広がる広大なファンタジーの世界が目の前に現れた。

 




ここまで読んでくださりありがとうございます。
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