廃核の海 〜魔族アバターのまま現実世界に放り出された俺と不思議な美少女の物語〜 作:織雪ジッタ
ショウ「その前にひとつ聞いていいですか?」
竹田「何なりと」
ショウ「実は僕達はある目的があってイシュタラの国からこの81区に戻ってきました。」
竹田「伺っております。お急ぎの所にこんなお願いをして申し訳なく思っております。」
バアル「その事については私からも謝りたい。陛下の容態がそこまでひっ迫しているとは知らなかったんだ。」
バアル「休戦協定を結ぶ場に陛下にご臨席していただく事はこの区にとってもイシュタラの国にとっても非常に重要な事なんだ。」
ショウはバアルのこの言葉に違和感を覚えた。
バアルは圧倒的に優位な戦況での敵軍の大将の一人だ。
そのバアルがなぜ人間の一区域のしかも今は区の中央から離れてひっそりと祭祀を全(まっと)うする天皇にそんなへりくだった物言いをするのか。
ショウ:陛下。。。か
ショウ「バアルは天子様をご存知なんですか?」
バアルは少し考えこんで、ショウを事をじっと見てからゆっくり語り始める。
バアル「うん。。。実は私やアナトには古くから受け継いでいる名前があるんだ。」
アナトは不敵に微笑む。
アナト「心して聞け。我らがここを護る理由のひとつだ。」
しかしショウはそんなアナト不満げな顔を見せる。
ショウ「な、何だよ?」
バアル「私の正式な名はバアル・カヤ。アナトはアナト・カヤだ。」
アナト「そして母様はイシュタル・フセイン・カヤだ。」
バアル「フセインは母の母方の姓になる為に私達は引き継いでいない。」
ショウ「あれ?そういえばバアルやアナトはお父さんはいなかったの?」
バアル「ああ。私達兄弟には父親が存在しないと母が言っていた。」
ショウ「父親が存在しない?何それ?本当に聖母様みたいな。。。?」
アナト「うむ、その話はまた今度だ。」
ショウ「?」
バアル「そしてカヤと言う姓には元々漢字があります。」
ショウ「漢字??イシュタラの国の王族の姓に??」
バアル「ええ。」
バアルはそう言うと空中に指で光る文字を書いて見せた。
賀陽
バアル「こう書きます。」
ショウ「へー、珍しい名字だなぁ。。。」
竹田「賀陽家は私共と同じ旧宮家です。」
ショウ「。。。。え?」
ショウ「えええええええええ!!??」
アナト「まあ、そういう事だ。」
ショウ:どう言う事だー!?
ショウは只々驚くばかりであった。
ショウ「あ、あの。。。アナトさん。。?ちょっと話が見えないのですが。。。?」
アナト「ん?」
ショウ「え?アナトが宮様の?え?でもイシュタラって、え?どういう事?」
ショウはハッとして
ショウ「あ、あの!アナトさん!ご機嫌うるわしゅうあらしゃいます!えっと、え?」
アナト「急に不自然に畏まるな、らしくないぞ。」
ショウ「そ、そんな事を言われても。。。」
アナト「既に祖父の代で家は途絶えてしまっている。気にするな。」
ショウ「そ、そうか。。。でも根っからのお姫様だったんだね。。。」
アナト「いや、母様は苦労人だった。お前が思っている様なものではない。」
ショウ:しかし何なんだ?どう言う事なんだ?わけわかんねーぞ?イシュタラって一体。。。?
完全に混乱したショウを見かねた竹田はショウにまた語りかける。
竹田「私共は今はもう普通の一般人ですのでお気遣いされません様に。」
ショウ:いや、普通ではないと思うけど。。。
ショウのこの反応はこの時代としては普通だった。
科学の力が衰えて人々はどこの区でも宗教に傾倒する傾向にあった。
唯一神を信仰する他の区では他の宗教の流入を拒絶するのが常識であった。
しかしここ81区においてはどんな神も宗教も認められていた。
特に1区主導で推し進められたカプセル群の建造はキリスト教徒以外には住みづらい世の中を形成している。
そんな中で八百万(やおよろず)の神々は全ての神を受け入れて調和を求めたのだ。
ここ81区27番地は特に移民の多い土地だ。
北欧の国々は真っ先に氷河期の影響を受けて崩壊しその時に日本へはフィンランド系の人々が多数流入した。
南へ行く程、国が崩壊する時期は遅れてイスラム圏の人々が離散する頃には81区でもキリスト教徒が移民の中心をなしていた。
そこへ後から自区のカプセルから溢れたイスラム教徒達が押し寄せる事となった。
それでも81区の特に西部地区に大規模な受け入れが実現したのは、他の区のキリスト教徒達の異教徒受け入れ反対で行き場を失った人々に対して人道的な対応をする様にと、天皇の強い意向があったからだ。
しかしこれまで戦争を繰り返して来た両者である。
当然反発もあった。
81区が他宗教に寛容であっても受け入れられた異教徒達は自分たちの宗教以外に寛容でなかったからだ。
とはいえ81区に於いて『客人』でもある彼らはカプセルという閉鎖環境の中でお互いの価値観を尊重するといった考えが出来なければとても暮らしてはいけない状況となった。
そしてそれを受け入れてここに定住した人々は『和』の区を作り上げた。
今は先住の日本の民と移民達の調和が天皇という要(かなめ)によって絶妙のバランスを保っている。
人々は君臨すれども支配せず、只々民の安寧を祈る存在であった時の天皇に自らの信仰とは別に畏敬の念を持っていた。
その感覚はここで育ったショウにも当然染み付いている。
そして今まで人間の敵であり未知の生命だと思っていたイシュタラの王子と王女であるバアル、アナトがその縁者だと言うのだ。
ショウは、一体何がどうなっているのかさっぱり分からなくなってしまった。
ショウ:お、落ち着け俺!何だ?何が起きてるんだ?みんなで俺にドッキリでも仕掛けているのか?
ショウ:いや、アナトはそんな事はしないし竹田さんからは適合者の波長を感じない。
ショウ:じゃあ今話してる事は。。。本当??
ショウ:天子様が不老不死?確かに天子様が代替わりしたなんて話は聞いたことがない。
ショウ:だいたい加護ってなんだ?200年前ってイシュタラの国が出来た年じゃなかったっけ?やっぱり何か関係があるのか?
ショウの頭の中でぐるぐると謎が思い巡るがやはり結論は出ない。
アナト「大丈夫か?」
ショウ「え?あ?あれ?」
その時だった。
ミネルバがショウに直接会話(SP)をしてきた。
ミネルバ→ショウ:ショウくん。。。聞こえる?
その言葉にショウの頭に稲妻が走った。
ショウ:ショ、ショウ。。。くん!!??
そしてショウの胸はドキドキと、トキメキし始めていた。