廃核の海 〜魔族アバターのまま現実世界に放り出された俺と不思議な美少女の物語〜 作:織雪ジッタ
ショウ「本当にいいんですね?」
竹田「もちろんです。覚悟は出来ています。どうぞこの場でお願いします。」
竹田「もしもの際は近くの私の配下の病院へ輸送して下さい。生命維持装置のトラブルにより死亡した事にする手筈になっております。」
ショウ「。。。そう、ですか。」
ショウ「でも、何もそんな危険のある事をあなたがやらなくても。。。」
竹田「私以上の適任者はおりますまい。それに、天子様(てんしさま)は常日頃より民の為にその身を捧げておられます。そのお役に立てる機会がこうして頂ける事を私は光栄に思っております。」
まるで隣町にでもいくかのようにさらりとした口調で発せられたその言葉にショウの心は言葉にならない気持ちでいっぱいになっていた。
目の前の老人は自らの命を天秤にかけてどうしてこうも清々(すがすが)しくいられるのだろう。
そう思うと何か自分が小さく思えた。
そしてこの老人を死なせたくないと思う程にズーンと重い空気がショウの肩にのしかかった。
竹田「そう、深刻にならないでください。どの道そう長く無い命ですから。」
笑顔で頷く竹田だったがナノマシーン適合者でない彼にとってこれは乱暴な人体実験でしかなかった。
それは竹田も十分理解している。
同じ回復魔法でもナノマシーンによって『管理』された細胞に働きかけるのとそうでないのとでは統率された軍人と小学生ほども違いがある。
寝ている小学生をいきなり叩き起こして歴戦の猛者達の訓練に参加させる様なものである。
しかし、休戦協定の調印式までには日がない。
ゆっくり臨床試験などやっている暇はないのだ。
他に選択肢はない。
ミネルバ「それではまいります。」
竹田「宜しくお願いします。」
その涼やかな言葉が暗い部屋に響くとそこにいた全員に緊張が走る。
ミネルバは緊張した面持ちで一歩前へ出ると魔法詠唱ポーズを取る。
それと同時に足元に白い魔法陣が輝きながら現れる。
それを見た初見の人々からは「おお。。。」というどよめきが漏れる。
その声をかき消すかのようにゴオオオオッという音がしてミネルバの周りを見知らぬ文字が光りながら取り巻いてゆく。
とはいえこれは回復魔法の中でも一番簡単な魔法だ。
その効果は殆ど一瞬だった。
聞いたこともないような言葉の短い詠唱の後、ミネルバはそっと呟きながら手を挙げると魔法はその効果を発動する。
ミネルバ「キュアⅠ(ワン)」
同時に竹田の体は白い光に包まれて小さくキラキラと輝き、そしてその光は消えた。
静まり返る部屋。
竹田「。。。。」
ショウはドキドキしながら様子を食い入る様に見ている。
ショウ「せ、成功。。。?」
そんなショウの淡い期待を他所に竹田はバタリと倒れ込んだ。
ショウ「た、竹田さん!?」
苦しそうな竹田。
ショウ「だっ大丈夫ですか!?」
思わず竹田に駆け寄るショウ。
残念そうな表情のバアルとアナト。
そして周りは騒然となった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一方イ特では最高指揮官であるエアバニーと帰還した剛本が対面していた。
81区警備局イシュタラ対策部特殊捜索1課、課長室。
その部屋は相変わらず簡素で特に何か凝ったものを飾っていたり質のいいソファがあったりする訳でもない。
ただ窓際の中央に置かれた大きなデスクにエアバニーがいてそれと対面した剛本が立っていた。
エアバニー「まずは感謝の言葉を送ろう。ありがとう、お前のおかげで我が特殊捜査課に蔓延していたナノマシーンウィルスを完全に抑え込む事が出来た。」
剛本「はっ。。。」
しかしエアバニーの賛辞にも剛本の表情は暗かった。
なぜなら重症化した人々はウィルス血清剤によりウィルスに打ち勝った後も後遺症で苦しんでいたからだ。
長期間、ウィルスに晒された為に遺伝子やナノマシーンが傷ついたのだ。
そしてそれは最初に感染した小町も例外ではなかった。
剛本:うかつだった。。。設備や対応の行き届いているイシュタラの国とここでは症状の深刻さがまるで違うとは。。。
剛本:ゴミみたいなプライドを捨てて、頭を地面にこすりつけてでも他守を先にここへ連れてくるべきだったのに、俺は。。。
エアバニー「おーい、剛本聞いてるかー?」
剛本「はっ。。。。」
エアバニー「。。。。」
エアバニー「小町の事は今は考えるな。危機的な状況はお前の持って来てくれた血清剤のおかげで回避できたんだ。」
剛本「はっ。。。」
エアバニー「。。。。」
エアバニー:ダメだな。。。これは。。。
エアバニーは深くため息をつくと自分の頭をくしゃくしゃとして、うーんと考えこんでしまった。
そこに、突然床から黒い影が現れる。