廃核の海 〜魔族アバターのまま現実世界に放り出された俺と不思議な美少女の物語〜 作:織雪ジッタ
ショウは緊張からゴクリと喉をならした。
光仁天皇の緊張が伝わって来たからだ。
アナトもそれを感じ取って次の展開を注視している。
光仁天皇「聞く覚悟はあるか?」
天皇は赤みを帯びた光で包まれた真っ直ぐな眼でショウに問いかける。
それをショウはやはり真っ直ぐな気持ちで受け止めた。
ショウ「。。。はい。元々そのための旅です。前に進むには事実を受け止めて自分を受け入れないといけないと思います。」
光仁天皇「そうか。。。確かにその通りだ。そなたと。。。また、アナトにとってもこれは重要な事実であるよってな。。。」
アナト「!?」
アナトはこの言葉に面食らう。
アナト「私にも。。。?」
ショウ「どうしてアナトも。。。?」
光仁天皇「うむ。。。それを説明するにはまず、事の始まりから語らねばな。。。」
光仁天皇「その昔、アヌという最初の適合者が誕生した。」
光仁天皇「それは彼の息子、エンリルの抱えていた難病の治療の為の研究がきっかけだったそうだ。」
光仁天皇「しかし、世界は強すぎる彼の力を恐れた。策を講じてエンリルを標的にしてアヌを罠にはめたのだ。」
光仁天皇「そして彼は己の妻子を守る為に自(みずか)らを人柱(ひとばしら)になり、その命をかけて世界を相手に戦った。」
光仁天皇「世界の矛(ほこ)は凄まじく、その戦いで旧世界の一区の首都は消滅し、アヌは妻子の盾となって天に散った。」
光仁天皇「すると天に散ったアヌの大いなる力は空を覆い尽くしてこの世界を極寒の星に変えた。」
光仁天皇「その後、妻のエンキはまだ力の暴走の危険のあったエンリルを完全な覚醒者とさせるためにその力の研究に没頭した。」
ショウ「暴走。。。?」
光仁天皇「初期のナノマシーンはティアマトとの力のバランスが取れずに常に暴走の危険を孕(はら)んでいたのじゃ。」
ショウ「暴走したらどうなるんですか?」
光仁天皇「狂人となって自らの力で死ぬ。」
ショウ「え。。。?」
光仁天皇「だからエンキはエンリルを冬眠させて、暴走を止める為の研究に人生をかけたのじゃ。」
ショウ「それじゃぁ本当はいい人だったっていうんですか。。。?」
光仁天皇「うむ。。。初めはな。。。」
光仁天皇「その後、長久の年月を経てやがてその研究は成就し、エンリルと彼女自身も覚醒した。そこまでは良かったのじゃ。」
光仁天皇「そなた達がそのチカラで暴走しないのもエンキの研究のお陰ということもできる。」
光仁天皇「そして、その研究の手助けをしていたのが他でもないエルヴィンであった。」
ショウ達に衝撃が走る。
ショウ「え!?」
ミネルバ「え!?」
アナト「ま、まさか!?アレはずっと母様を護っていたはずです!それにさっき『くるみ割り人形』の襲撃を何度も退けたとおっしゃったじゃないですか!?」
ショウ「な、なにか訳があるんですよね?」
光仁天皇「彼。。。今は彼女と呼ぶべきか。。。ともかくもエルヴィンは敵ではあらしゃいません。覚醒後のエンキは人が変わってしまったかの様に残酷で冷徹になったそうでエルヴィンはそんなエンキとは袂(たもと)を分かったのじゃ。」
光仁天皇「適合者となって覚醒したエンキは無差別に大量の人体実験を始めやった。その悲惨さはそなた達も見たであろう?」
ショウ「はい。。。」
光仁天皇「エンキの変貌は正義感の強いエルヴィンには耐え難い事だったのであろう。」
ショウ「エルヴィンは小町さんという人と融合して今はコマチンって名乗ってました。」
光仁天皇「うむ、あの者には特別な力がある。そして、正義もな。」
ショウ「はい。。。自己犠牲してまで小町さんを救ったんです。悪い奴ではないと思います。」
アナト「。。。ああ、そうだな。。。他守の言うとおりだ。」
アナトも肩に入った力が抜けた。
光仁天皇はその様子を見て少し笑みを浮かべるも話を続けた。
光仁天皇「話を続けよう。」
光仁天皇「覚醒してエンリルの暴走の危険もなくなったエンキは次にアヌの復活を画策し始めたのじゃ。」
光仁天皇「彼女は天に散ったアヌの力に彼の意思が宿っている事を知っておったようなのじゃ。」
光仁天皇「そして側近であった三浦シュウに命じてアヌのクローンを作らせたのだ。」
ショウ「ひいじいちゃんが。。。クローン?」
アナトはそれを聞いて少し悪寒が走った。
アナト:なにか、嫌な感じがする。。。
ショウ「ちょっと待って下さい。クローンを作れるってことはアヌの細胞をそれまでずっと持ってたんですか?」
光仁天皇「アヌの復活を最初に計画したのもエルヴィンであったと聞いている。」
ショウ「え!?どうしてですか!?」
光仁天皇「ふむ、それは。。。」
ふと光仁天皇の視線がショウ達の後方へ向く。
するとショウ達の後ろから声が聞こえてくる。
コマチン「アチシがアヌやエンキと関わってて驚いた?」
ショウ「うわ!いつの間に!?」
アナト「兄様と剛本の所に行ったのではなかったのか?」
コマチン「そのつもりだったんだけどね、こっちの方が重要そうな話になっちゃったから。」
ショウ「なんだよそれ?なんでそんな事がわかるんだよ?」
コマチン「フフフ。アチシは特別だからね。」
ショウ「そういう所は変わってないんだね。。。」
コマチンは呆れ顔のショウを尻目に部屋の奥へ入るとくるりと振り返って笑顔でこう言った。
コマチン「アヌとの事はアチシから話すわ。」
普通ならこの場に於いてコマチンの態度は不敬な振る舞いになるのだがコマチンの事はやはり両脇の公家達には見えていないようだった。
まるで別の次元を生きているかの様に時間軸が違っていた。
そんなコマチンに光仁天皇は寛容である。
姿の変わった『エルヴィン』を即座に受け入れていた。
そしてコマチンはアヌやエンキ達とのいきさつをショウ達に簡潔に伝えたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
コマチン「。。。という訳。」
シーンとする薄暗い部屋。
そこにちょこんと座るコマチン。
しかし、コマチンの話の内容に全員が重い空気に包まれていた。
ショウ「アヌとは、それ程の奴なのか。。。」
ショウ「それに、コマチン。君はアヌの元々の研究パートナーだったウトナイって人とエンリルの飼い猫、それから小町さんの命が合わさった存在なんだね。」
ショウ「エルヴィンになった時もコマチンになった時も大爆発の中で生死を分けた瞬間に何かが起こったのか。。。不思議な話だね。」
ショウ「それにしても一発で一つの都市を消し去る爆打を数百発も退けるなんて、そして1000年もかけて復活しようとするなんて。。。アヌの執念は計り知れないな。」
コマチン「解説っぽいセリフありがと!」
ショウ「ハハ。。。」
ショウ「それにしても、そんな怪物が何で俺の中に。。。?」
コマチン「それは帝(みかど)から直接聞いてね。アチシの話はここまでよ。」
光仁天皇「コマチンよ、遥々(はるばる)来てくれて礼を言うぞ。」
コマチン「ナンノナンノ!こんな姿になっちゃったけどエルヴィンとしては長い付き合いですから。」
コマチンは光仁天皇とはかなり親密に見える。
200年も前からの他者には見えぬ付き合いだ。
その絆は深いものがあるのだろう。
ショウ達にもそれはすぐに感じ取れた。
そして、その『すぐに感じ取れる』ショウ達に光仁天皇の心は久しく感じたことのない喜びを覚えていた。
光仁天皇「さあ、そろそろ話の核心に迫ろうぞ。」