廃核の海 〜魔族アバターのまま現実世界に放り出された俺と不思議な美少女の物語〜 作:織雪ジッタ
アナト「他守、一つ確認したい事があるのだが、いいか?」
アナトは真剣な表情でショウをじっと見つめながらそう言った。
ショウ「な、なに?」
思い詰めたようなアナトとは対照的にショウの雰囲気は軽い。
むしろアナトの真剣さに少し怯える様に苦笑いを浮かべている。
それでもやはりアナトは神妙な面持(おもも)ちでショウに話を続ける。
アナト「もしかしたらミネルバはもう二度と目を覚まさないかも知れない。」
ショウ「え?一体何を言ってるんだよ?ミネルバなら例え死んだって召喚し直せる筈だよ。」
アナト「では聞くが、お前は今。。。」
ショウ「な、なんだよ。。。?」
そして、次の一言でその軽い表情は一変した。
アナト「お前は今、魔法が使えるのか?」
ショウ「え?」
アナト「そんな風に人の姿になったお前は今でもあの不思議な力を行使できるのか?」
ショウ「。。。。。!」
アナトに言われてショウは我に返った気がした。
そして急に不安になって慌ててファーストアドベンチャー18のコンソールを呼び出そうとした。
しかし、何も現れない。
ショウ「あ、あれ?コンソールが出ない。。。まさか。。。?」
何度やってもコンソールは出ない。
慌ててショウは魔法詠唱ポーズを取ってみた。
しかし、何も起こらない。
いつもなら足元に光輝く魔法陣が現れるはずだったが今は全くの無反応だ。
ショウは魔法詠唱のポーズを取ったまましばらく呆然とした。
ショウ「あ、あれ。。。?」
そんなショウの様子を見てアナトの疑念は確信に変わった。
アナト「やはりそうか。。。」
ショウ「お、おかしいな。。。?」
それでも状況の掴めないショウは次に脳内に埋め込まれた端末のオペレーションシステムであるインプルを起動しようとする。
元々ファーストアドベンチャー18はショウの頭に埋め込まれた端末の『インプル』にインストールしていたゲームソフトだ。
しかし
ショウ「インプルが。。。起動しない?」
愕然とするショウ。
ショウ「そ、そんな。。。?どうして?」
アナト「恐らく竹田が『それ』ごと『アヌ』をお前の肉体から引き剥がしたのだろう。」
ショウ「アヌを。。。引き剥がした?」
ショウ「。。。。」
ショウ「そう言えば。。。アイツを感じない。。。?」
アナト「やはりそうか。。。」
ショウ「な、何でインプルごと。。。?」
アナト「。。。さあな。しかし、恐らくお前からアヌを剥がすのに必要だったのだろう。」
ショウ「え。。。でも、それじゃあこれからどうやってアイツ等(ら)と戦っていけばいいんだよ?」
アナト「幸い、お前のティアマトのチカラが消えたわけじゃあない。きっと何とかなるだろう。」
ショウ「そんなこと言っても実際どうすればいいんだよ。。。?」
アナト「あんなに元の姿に戻りたがっていたのに不満か?」
ショウ「ミネルバも心配だし、これからどうして良いのか。。。不満じゃなくて不安なんだよ。。。」
アナト「ミネルバも消えた訳じゃない。何か方法があるはずだ。」
そう言うと落ち込むショウにアナトはすっと寄り添った。
少し、驚いたショウだったがアナトの言葉に目に涙を浮かべながらアナトの手を取った。
ショウ「アナトォー!ありがとう!頼りにしてるぞ!」
アナトはそんなショウを見て少しほっとしたのか、ヤレヤレといった感じでため息をつくと、すぐに気持ちを切り替える。
アナト「とりあえず天子様にこの事を報告しに行こう。何かご存知かも知れない。」
と、立ち上がってショウを引っ張った。
ショウ「え?あ、あぁ。。。わ、分かったよ。。。」
ショウは気持ちが切り替えられずに混乱したままだったが、他に何をしたら良いかも分からず、すがる思いでアナトに従ってついて行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
拝謁の間
ショウ「ここは。。。何か見たことがあるような。。。?」
アナト「何か思い出せそうか?」
ショウ「いや、そうじゃないんだけど。。。何か違和感があるんだ。」
そう、この場所は以前にショウ達が光仁天皇に拝謁した部屋と全く瓜二つであった。
しかし、ショウの違和感の通りここはその場所ではない。
違うのは両脇の公家達が生身の人間であるという事ぐらいだろう。
しかしそれらも見た目には全く分からなかった。
そんなことを敏感に察知して戸惑うショウの元へ光仁天皇が現れたのはその直ぐ後であった。
部屋の奥の方から女性の声がする。
「帝のお出ましにあらしゃいます。」
その声に一同が深々と頭を下げる。
アナトも例外ではない。
臣下としてではなく、異国の王女として敬意を表していた。
そんなアナトにショウの目が奪われている一瞬、時間が止まった様な気がした。
するとまもなく着物の擦れる音が足早に聞こえると光仁天皇は御簾(みす)越しにその姿を見せた。
そのまま少し急いだ様子で鎮座して、光仁天皇はすぐにその御簾を開けさせた。
そして直接ショウの顔を見ると少し安堵したかの様子を見せる。
光仁天皇「他守よ、ようやっと目が覚めた様じゃのぉ。ほんに良かった。気分はどうか?」
ショウ「は、はい。どこも悪くないのですが記憶が少し曖昧で。。。それから。。。あの、魔法が。。。魔法が使えなくなりました。。。」
光仁天皇「やはり。。。そうであったか。」
ショウ「あの、僕は一体。。。?どうなったのですか?」
光仁天皇「ふむ。。。」
光仁天皇は少し悩んだような素振りを見せて、それから語り始めた。
光仁天皇「どうやら、竹田がそちの中のアヌを抜き取るのにインプルが生み出したあの悪魔の様な個体を媒体にしたようじゃ。」
ちなみに悪魔の様な個体とは以前のショウの姿、tamoriの事である。
しかしショウはその言葉がよく分からなかった。
ショウ「媒体?アヌを抜き取るって竹田さんって一体何者なんですか?」
光仁天皇「。。。竹田は朕(ちん)と同じく加護を持った者であった。」
光仁天皇「加護とはティアマトの力とは似て非なるもの。」
光仁天皇「ティアマトが幾多の宇宙の森羅万象の根源であるとするなら加護はこの宇宙に満たされた自然の持つ力そのものじゃ。」
ショウ「満たされた。。。力?何ですか?それは?」
光仁天皇「ふむ。。。説明が難しいのではあるが。。。」
ショウ「すいません。。。とりあえず何もわからないです。。。」
光仁天皇「では、ことの始まりの話をするとしようぞ。」
ショウ「よ、宜しくお願いします。。。」
光仁天皇「ふむ。」
光仁天皇「まず、この宇宙が生まれた時、空間と共に物質と反物質が生まれた。本来なら両者は出会えば互いを打ち消し、宇宙は光すら生まれぬまま終わっておったはずじゃ。」「しかし創世の瞬間、何者かの調停の力が働き、物質と反物質は互いに混ざり合うことなく、別々の領域へと分かたれたのじゃ。」
光仁天皇「その結果、物質の世界と反物質の世界は互いに干渉しつつも決して触れぬ『二つの宇宙』として存在することになった。」
光仁天皇「これこそが造化三神(ぞうかさんしん)と朕は解釈しておる。」
ショウ:ダメだ。。。全く何を言ってるのか分からない。。。
しかし、光仁天皇の話は続く。
光仁天皇「やがて物質は物質同士、反物質は反物質同士が集まりそれぞれの星が天照す光を放ち始める。」
光仁天皇「しかし、それらは決して相見えぬ異次元の闇。その闇のツクヨミはボイドとなって互いの宇宙を加速膨張させ始めたのだ。」
光仁天皇「そして空間に満ちたそれらの力は今なお反発し干渉しあっている。」
光仁天皇「しかし、それらの調和を担う力もまた存在する。それがスサノオである。」
ショウ:え?スサノオ?それってそんな話だっけ?ヤバイ。。。どんどん話が分からない方向に進んでいく。。。アナトはこれ分かってるのか?
光仁天皇「朕(ちん)の一族は神代の昔より自然を信仰してきた。そしてアナトの母、イシュタルに出逢うことで目覚めたのじゃ。」
ショウ「は、はい。。。」
光仁天皇「この宇宙に密かに満ちたスサノオの力に触れる術をこの身に宿したのじゃ。それが加護である。」
ショウ「。。。」
光仁天皇「分かってくれたか?」
ショウ「いえ、全く。」
光仁天皇「。。。そうか。」
ショウ「すいません。。。」
光仁天皇「ふむ。。。」