廃核の海 〜魔族アバターのまま現実世界に放り出された俺と不思議な美少女の物語〜   作:織雪ジッタ

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22話 殺戮─セラフィールドの真実

アルルは剛本からいままでの経緯を細かく聞くと難しい顔で頷いていた。

 

 

そうして、しばらく考え込んでからその重い口を開いた。

 

 

アルル「君の事は大体分かった。次は私の番だ。ありのままに話そう。」

 

 

アルル「当時、イシュタラの国は悲しみで満ちていた。罪のない海の生き物たちや体の弱い同胞たちが次々と放射能に侵されて死にゆき、さらにそれを救わんとしたイシュタル様をも失った。」

 

 

アルル「そして悲しみを怒りに変えた者達はヤムのプロパガンダに乗せられて軍をおこしたのだ。」

 

 

アルル「私もその一人だ。」

 

 

アルル「『セラフィールド』はイシュタラの国からは一番近い汚染源地域だ。立地的な事もあって最初の攻撃目標となった。」

 

 

アルル「そこは酷い放射能汚染で低位のイシュタラでは近づく事も出来ない有様だった。」

 

 

アルル「我々はまず44区付近から北極に別働隊を派遣してそこに穴を掘り汚染源のプラントを片っ端からその穴の底へテレポートさせた。」

 

 

アルル「手間取ったがなんとか汚染源の処理を終えて、それから各カプセルに対して総攻撃を行った。」

 

 

アルル「そこで、我々は見たのだ。」

 

 

アルル「魔神達のおぞましき光景を。」

 

 

剛本「おぞましき光景?」

 

 

アルル「君の亡くなられた父君の遺体は帰ってきたかね?」

 

 

剛本「いいえ。。あの場所は危険ですし被害者の数が多すぎてどうにもならないと。。」

 

 

アルル「それは少し違う。」

 

 

アルル「彼等は人を喰らい始めたのだ。」

 

 

剛本「なっ!?」

 

 

アルル「イシュタラに『捕食』と言う能力があるのを知っているかね?」

 

 

剛本「いえ。。?」

 

 

剛本はサークルアンデッドの地下でエアバニー隊長が施設の男に噛まれそうになっていたのを少し思い出した。

 

 

アルル「別に食べて栄養にする訳ではない。血液や肉などを捕食し、そのDNAやナノマシーンを解析して優れた所を取り込む能力だ。」

 

 

アルル「相手は適合者ではないただの人間だ。本来なら能力を持たない人間の捕食などなんの意味もないと思われていた。」

 

 

アルル「それに、我々イシュタラ軍のほとんどは人間は自分たちがばら撒いた放射能によって自ら滅びればそれでいいと思っていた。」

 

 

アルル「しかし魔神達は攻撃対象外のカプセルにも次々と侵入し、放射能汚染に関わりなく全ての人間達を乱獲してむさぼり喰ったのだ。。」

 

 

アルル「それは地獄の様な光景だった。」

 

 

アルル「魔神達は知っていたのだ。適合者でなくともナノマシーンに適合可能な者を捕食すればその適合能力に対して捕食効果がある事を。」

 

 

アルル「それから、カプセルの外へ逃げ延びた人間も放射能で死に絶え、やがて44区北部全体が死の街となった。」

 

 

アルル「この戦いの後、イシュタラ軍は大きく士気を下げ、反対に魔神達はその能力(チカラ)を大きく向上させた。」

 

 

アルル「そしてそれからは、そんな悲惨な永遠と戦闘が繰り返された。」

 

 

アルル「イシュタラ内部のパワーバランスは崩れ、数において勝るイシュタラ軍よりも今や魔神達の方が強くなってしまった。」

 

 

アルル「開戦当初こそヤム議長に賛同した我々だが、後になって自分たちの思慮の浅さに後悔した。」

 

 

アルル「もはや我々に止める力はない。」

 

 

アルル「開戦当初から攻撃に反対されていたバアル様は世界最大の汚染源が海の向こうの大陸の雪解け水にある事を掴み1区NV番地『ユッカ』にその対処に向かった。」

 

 

アルル「そしてアナト様は更に向こうの地球の裏側、81区2番地『ロッカショ』にも大きな汚染源があると突き止めてそこに向かわれた。」

 

 

アルル「そしてそこで、アナト様は君たちの隊長エアバニーと出会い、我々以外のナノマシーン適合者の存在とエンキの復活を知ったのだ。」

 

 

アルル「ヤムと魔神達は来たるべきエンキとの決戦に備えてさらに攻撃と乱獲を強めているが、こんなやり方を続けるのはイシュタル様の御心(みこころ)に反する。」

 

 

アルル「私は人間との戦いは停戦して放射能除去とエンキ討伐に的を絞りたいのだ。」

 

 

アルル「頼みの綱はバアル様、アナト様だがヤムの政略によりイシュタラの国を離れっぱなしだ。。。」

 

 

アルル「。。。」

 

 

剛本「随分。。勝手な話ですね。。」

 

 

アルル「何?」

 

 

剛本「自分達で勝手に戦争を始めて自分達の立場が弱くなったから次はバアル様ですか?」

 

 

アルル「それは。。」

 

 

剛本「もし、今のままでは駄目だと思うなら一つ考えて欲しい。」

 

 

剛本「命を懸ける覚悟はありますか?」

 

 

アルル「勿論だ。我々はイシュタラの国の為ならば命は惜しまない。」

 

 

剛本「。。。分かりました。」

 

 

少しの間静寂がつづく。。

 

 

剛本「この国では他者を殺せない。仮にあなたがヤムを殺したとしたらあなたは裁かれ魔神達とも戦いになる。」

 

 

剛本「そうなればエンキは倒せない。」

 

 

剛本「イシュタルに直接指名されたヤムは議会から外せない。」

 

 

剛本「となれば取れる道はひとつ。」

 

 

アルル「それは。。?」

 

 

剛本はアルルの目を見る。

 

 

剛本「。。。」

 

 

剛本「私がヤムを殺しましょう。」

 

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