廃核の海 〜魔族アバターのまま現実世界に放り出された俺と不思議な美少女の物語〜   作:織雪ジッタ

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5話 81区27番地

現代日本のマンションを思わせる集合住宅。

 

それを81区の特にここ27番地ではフラットと呼んでいる。

 

ショウの住むそのフラットは幅5メートル程の小さな道に面している。

 

石畳の歩道と、それに沿ってアスファルトの道路が左手の大通りに向かって続いている小道だ。

 

近くにリニア鉄道が走っている事もあり、外に出れば頻繁にリニアの走る音がする。

 

歩道には街路樹が立ち並び人通りは少ない。

 

美しい景観で建物や町並みはロンドンのゾーン1を思わせる古いヨーロッパ調の風景だ。

 

因みにゾーン1というのはロンドンを走る環状線の中の区画のことを言う。

 

そのすぐ外側がゾーン2、そして3と広がっていく。

 

このゾーンによって交通機関の料金が変わるのだ。

 

カプセルの構造に起因した1区のゾーンとは基本的に違い、ここ81区27番地のゾーンはロンドンと同じように円形のゾーンから交通機関の区分けがされている。

 

例えばゾーン1の定期券を買えばゾーン1内の鉄道やバスなんかにも自由に乗れる。

 

ショウの暮らすこの81区27番地はそんなかつてのロンドンをイメージして作られており、それと同様の料金システムを採用していた。

 

そしてここはゾーンで言うとギリギリ2と3の間あたり。

 

とは言っても本当のロンドンとは異なり、ゾーン3あたりでもカプセル内は随分と都会だ。

 

ひしめく建物と道路で『緑』と言えば街路樹か公園までいかないとない。

 

そして街の人々に目を向ければ今度は北欧風の服装の人が目立つ。

 

氷河期、戦争、イシュタラの侵攻と度重なる不幸が生み出した大量の難民がこの区の風景をこの様に変えたのだ。

 

よそ者を嫌う大陸の区を渡り歩いてようやくこの81区に根を下ろした人々は長い年月をかけて混ざり合っていった。

 

ここ27番地は81区の中でも特別混血の傾向が強い街でもある。

 

つまりは昔から流れ者の多い街なのだ。

 

この街はそんな場所であった。

 

アナト達の服装がこの辺りのものとは多少違っていてもそれ程違和感がないのはそんな事情があったからだ。

 

外に出てみると日中だというのに相変わらずの薄暗さで何となく道を行く人々の表情もどこか暗く感じる。

 

それでもここはエアバニー達、イ特の登場によって世界で唯一イシュタラの侵攻から免れた81区だ。

 

暗く感じさせるその表情に恐怖の色は薄い。

 

他の区ならカプセルがいつ襲われるかも知れないという恐怖から街には人通り自体が殆どないぐらいだが、この街はこんな時勢でも大通りはいつも賑わっている。

 

日々大勢の人々が行き交い人間らしい暮らしを営むことが許されているのだ。

 

外に出たショウ達はそんな中、近くにあるというイシュタラの秘密基地に移動する為に最寄りの駅に向かった。

 

駅までは徒歩で10分に満たないほどの距離だ。

 

全員で、てくてくと歩きながら小道を抜けて大通りに出ると見慣れた店がある。

 

ニュースエージェントと書かれた黄色い看板。

 

ショウがイシュタラと間違えられた時に上手く逃してくれたあの店主の店だ。

 

ショウ:そう言えばおっちゃん元気かな。。。?

 

ショウ:あの時おっちゃんが機転を効かせて逃してくれなかったら今頃どうなっていたんだろう。。。

 

ショウ:考えるだけでも怖い。。。

 

ショウはぶるりと身震いをした。

 

エルヴィン「なんだ?オシッコか?」

 

ショウ「さっきも言ったろ?俺はトイレには行かないんだよ。」

 

エルヴィン「じゃあ何だよ?」

 

ショウ「んー、まあ、何でも無いよ。」

 

エルヴィンはキョトンとしていたが、ショウは肩をすくめて外国人がよく分からない時によくやるShrugのジェスチャーをしただけだった。

 

ショウ「なぁみんな、ちょっとだけあの店に寄ってもいいかな?」

 

バアル「何か買い物かい?」

 

ショウ「俺がイシュタラと間違えられて騒ぎになった時にあの店のおっちゃんに世話になったんだ。ちょっとだけお礼が言いたくてさ。」

 

バアル「そうか、もちろんいいとも。」

 

アナト「確かにあの騒ぎの中よく見つからずに帰れたな。」

 

ショウ「姿を消してたからね。」

 

バアル「それも魔法なのかい?」

 

ショウ「はい。後、音消したり匂い消したりもありますよ。」

 

バアル「へー。隠密行動にはもってこいの能力だね。」

 

アナト「お前、ひょっとして実は忍者なのか?」

 

確かにショウはオレンジのつなぎにエルヴィンに3本ヒゲを描れていて今にも『影分身』でもやりそうな雰囲気だ。

 

ショウ「いやいやいや、そんな訳ないから!(笑)」

 

アナト「そうか。。。それもそうだな。」

 

ショウ「あ、でもサブジョブで忍者レベル50持ってるよ。」

 

アナト「サブジョブで忍者?どういう意味だ?」

 

サブジョブとはファーストアドベンチャー18のゲームシステムでメインのジョブのレベル半分にレベル制限されたサブのジョブを追加設定できるというものだ。

 

ショウは基本的には魔導師系のジョブを専門に上げているがソロプレイの時用にサブとして盾のジョブも持っていたのだ。

 

ショウ「まぁ、本業じゃないけど忍術も多少使えるってことかな。」

 

それを聞いてアナトの目がときめくのが分かる。

 

アナト「本当か!?やっばりお前忍者なのか?そうか!忍者なのか!何かひとつやってみせてくれないか!?」

 

ショウはたじろぎながらもそんなアナトを拒否できない。

 

ショウ「え!?ここで!?マジ?」

 

コクコクとうなずくアナト。

 

ショウ「じゃ、じゃぁ。。。目立たないのを。。。」

 

そしてショウは両手で印を結ぶ。

 

すると魔法陣ではなく何やら梵字の様な文字がショウの周りを駆け巡る。

 

アナト「おおー!」

 

ショウ「空蝉(うつせみ)の術!」

 

アナト「おお??。。あれ?なにもなってない??」

 

ショウ「それはどうかな?」

 

アナト「見た目は変わらないみたいだが。。。?」

 

ショウはニヤリとする。

 

ショウ「アナト、俺に触れてみてよ。」

 

 

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