廃核の海 〜魔族アバターのまま現実世界に放り出された俺と不思議な美少女の物語〜 作:織雪ジッタ
その店には高い棚はなく、入れば店内をぐるりと見渡すことができる。
売られているのは缶詰やインスタント食品から雑誌などで、いわゆるコンビニの劣化版の様な品揃え。
しかしながら品物のディスプレイは雑なものでどちらかと言うと駄菓子屋か何かと言った方が近いぐらい雑多でおよそ小ぎれいではない。
床もコンクリートがむき出しでタイルなどは貼られていない。
そんな店内の片隅に小さなレジコーナーがあり、その小さなスペースに不釣り合いな太った大きな男が座って何やら不機嫌そうに雑誌を読んでいる。
インドかアラブ系なのか頭にはターバンを巻き、その顔はどこか中近東の雰囲気を匂わせている。どこかその辺りの区の人との混血であろう事が伺える。
口ヒゲを生やし、そのヒゲの両方の毛先がピンと立っているのはおそらくヒゲを故意にセットしたものだろう。
それでいて極東の普通のおじさんのテイストも色濃く顔に出ているのが移民の多いこの地域の住人なのだなと思わず納得してしまう風貌だ。
読んでいる雑誌は売り物で『ガレッジボール』と呼ばれるこの世界で人気スポーツの専門雑誌だ。
ここ27番地と隣の28番地は共同でチームを持っており、そのホームスタジアムが28番地にある。
その名も甲十(こうじゅう)ビーストズと言う。
熱狂的な地元ファンの数の多さで知られるプロのチームだ。
チームとしてはそこまで強いと言うわけではないが1番地のファングというチームにライバル心があり地元ホームスタジアムでのファング戦ともなると毎回非常に盛り上がる。
そしてこの日はそのホームでの三連戦最終日。
ここまで2連敗と来ているので次は負けられない一戦いだった。
店主の表情が険しいのもそんな事情があった。
店主「くそが!何してやがる!昨日の東は最悪やったからなぁ、岩本ぉ!今日はホンマ頼むで!今日負けやがったらこのクソガキ許さんからな!」
独り言だと思えない程のハッキリとしたその口調からはおよそインドの欠片も感じられない。81区民の発音だ。
その男にショウは気付かれないように近づいてそっと声をかける。
ショウ「今日のファング戦、絶対負けられないな!」
店主「当たり前だ!ファングには負けん!んん?」
店主「お、おお。。あんちゃん!無事だったかぁ!どないしてたんや!?心配してたんだぞ!?」
さっきまでの不機嫌が嘘のように晴れて急にご機嫌になる店主。
ショウ「ただいま!あの時は本当に助かったよ、ありがとう。」
店主「ワハハハハ!そんなん気にすんな!いいって事よ!それより元気そうで何よりだな!」
と、あいかわらず東の方なのか西の方なのかハッキリしない口調でショウとの再会を喜んだ。
ここで店主はショウの体がひと回りいや、ふた回り大きくなっている事に気が付く。
店主「それにしても。。。あんちゃんなんかデカくなったな。。。?こんな短期間でそんなになるもんなのか?」
ショウの体ははち切れんばかりに筋肉がムッキーンとしている。
店主「それに背ぇまで伸びて。。。一体何があったんだ?」
ショウ「まぁ、色々ね。。。大変だったよ。」
店主「そうかぁ。。。まぁ無事で良かったなぁ。それより。。。」
ここで店主の目がアナトへ向く。
店主「あのお嬢さんはあんちゃんの連れか?」
ショウ「え?うん。まあ。。。」
店主「こりゃぁ驚いた。。。えらいべっぴんさんじゃねぇか。。。女優さんか?」
ショウ「え?あ、いやでも彼女は。。。」
店主「彼女?おいおいマジか?あんちゃん上手くやったな!」
アナト:?
ショウ「ちょっ!おっちゃん!声が大きい!違うよ!彼女は俺の命の恩人なんだ。色々助けてくれて。。。」
店主「なんや違うんか?」
ちらりとアナトを見ると店主は惚れ惚れとしたといった感じで
店主「いやぁ、あんな美人見たことねぇぞ。あんちゃん!ボケッとしてねぇでちゃんと捕まえとけよ!」
とショウに耳打ちするとショウは顔を真っ赤にして狼狽えた。
ショウ「バッ!違う!な、何言ってんの!?」
アナト「何をしている?その者がお前の恩人か?」
ショウ「え?あ、ああ、そうだよ。」
アナト「そうか、お初にお目にかかる。私はアナトだ。」
店主「どうもこんにちは!俺は中山礼事だ。このあんちゃんは馴染みのお客さんなんでね。長い付き合いなんだがこんなにきれいな娘を連れてきたのは初めてだ。いい奴なんで今後とも仲良くしてやっておくれよ!」
ショウ「何だよおっちゃん!自己紹介になってないよ!」
アナト「うむ、彼とは懇意にしている。」
アナト「騒ぎの時に他守が世話になったそうだな。私からも礼を言う。今は何も用意がなくてすまないが気持ちだ。少ないが受け取ってくれ。」
そう言うとアナトは小さな袋を手渡した。
店主「なんだい?見てもいいか?」
アナトは頷く。
中身は81区のお金で10万円金貨が10枚だ。
それを小銭でも渡すように店主に手渡したのだ。
そう、81区の通貨は円だ。
これには店主は驚いた。
まるで小銭でも渡すかのように100万円をポイッと渡したのだ。
店主「え!?こんなに!?あんちゃん、彼女は一体何者なんだ?」
改めて手渡された金貨を見つめる。
どう見ても本物だ。
店主「おいおいどうなってんだ!?どこかのご令嬢か?」
と、信じられないといった感じでクイクイとショウの服を引っぱる。
ショウ「いやぁ。。ある国のお姫様と言うかお嬢様というか。。。」
そう言えば着ている衣服も素材から高級感が漂っている。
店主「こいつぁ驚いた。。。あんちゃん隅に置けないどころか大金星じゃねぇか。。。」
アナト→ショウ:この男はどうしたんだ?チップが少なかったのか?また後日なにかちゃんとした物を送ろうか?
ショウ→アナト:いや、逆だよ。多くて驚いてるんだよ。
アナト→ショウ:そうか、それならいい。お前も早く用事を済ませてくれ。
ショウはアナトの目を見ながら頷く。
店主「お?何だよ?以心伝心ってやつか?妬けるねえ。」
ゲスい表情でショウにすり寄る店主。
ショウ「いやいや違うから!それよりおっちゃん、俺またしばらく留守にするから。」
店主「どこか行くのか?」
ショウ「ああ、実家の方にね。」
店主「実家ってオメェ確か。。。」
ショウ「うん。俺は天涯孤独だよ。まぁ、墓参りとじいちゃんの形見を取りにね。」
店主「そうか、それはいい。気をつけていきな。おっとそうだ。。。」
店主は何かを思い出した様にゴソゴソとレジの下から何かを取り出す。
店主「これを持っていきな。」
ショウ「これは。。。!」