廃核の海 〜魔族アバターのまま現実世界に放り出された俺と不思議な美少女の物語〜   作:織雪ジッタ

95 / 125
8話 トキメキの贈り物

狭い店内、陳列棚は低く一見すると見晴らしはいい様だがレジから見れば死角もたくさんある。

 

だから店の隅々の天井には鏡と監視カメラが設置してある。

 

現代なら丸く膨らんだ鏡でそこに映るものは縮小されてより広く映る様な鏡を使う。

 

しかしここにあるのはむしろくぼんでいて大きく映る鏡だ。

 

そしてその鏡は常に動くものを捉えてレジの方にその姿を大きく見せていた。

 

店主はそんな店内でアナトに見えない様にそっとある本をショウに手渡した。

 

ショウはその本を無造作に手にとって見る。

 

そこには可愛らしくそれでいてどこか気品のある装飾を施されたオリジナルフォントでこう書かれていた。

 

『トキメキパラダイス』

 

一瞬、ショウの空気が止まった。

 

ショウ:トキメキ。。。パラダイス?

 

店主「遠慮するな、取っておけ。」

 

ショウ「。。。。」

 

ショウ「な、なんすか?これ。。。?」

 

店主は何やら自信に満ちた表情だ。

 

ショウ「トキメ。。。うぐ!」

 

タイトルを読もうとした瞬間店主は慌ててショウの口をふさいだ。

 

そして小声ながらもきつい口調でショウをたしなめた。

 

店主「シィー!大きな声で読むんじゃねぇ!」

 

ショウが口をふさがれたまま頷くとようやく店主はショウの口から手をどかせた。

 

ショウ:そんな声に出しちゃいけないくらいヤバい本なのか?

 

ショウ「おっちゃん。。。これって一体。。。?」

 

店主はショウに真顔で至近距離から囁く。

 

店主「バイブルだ。」

 

ショウ「バイブル?」

 

店主は頷く。

 

ショウ:こんなふざけたタイトルのバイブルなんかないだろ。。。?

 

店主は明らかに怪しんでいるショウの表情を汲み取ると深くため息をついた。

 

店主「なぁ、あんちゃん、あんちゃん達はまだ若い。だからこそだ。若さゆえの過ちってやつを犯さない為には、先人たちの経験と知恵を知っておく事が大切なんだ。」

 

ショウ「。。。はい?」

 

店主「人生の岐路に立たされた時、人は思い、悩み、そして苦しむ。そんな時、人は子羊のように何かにすがりたくなるものなのさ。」

 

ショウ「子羊。。。?」

 

ショウ:おっちゃんいきなり何を言ってんだ。。。?

 

ショウはとりあえず子羊を思い浮かべた。

 

しかしショウの思い浮かべた子羊は無表情にメイメイと鳴くばかりのただの子羊だ。

 

店主「この本には酸(す)いも甘いも人生の教訓が詰まってる。」

 

ショウ「教訓て。。。羊のですか?」

 

店主「そうだ、悩める子羊のな。」

 

因みにそれは迷える子羊だ。

 

ショウ:子羊が悩む訳ねーだろ。。。

 

マジマジと本を眺めてみるが全くピンとこない。

 

その本は薄いピンク色のカバーでタイトルは白い縁に濃いピンクで印刷されている。

 

表紙には薄っすらとアニメチックな女の子がズラリと並んでいるシルエットがお札の透かしの様に刻印されているのが見える。

 

ショウ「そ、そんな大層な感じしないんだけど。。。?」

 

店主「フッ青いのぉ。。。まぁ後で一人の時に騙されたと思って読んでみな。」

 

ショウ「うーん、わかったよ。後で一人で読んでみるよ。」

 

それを聞いて店主は何やら自信に満ち溢れた表情でショウの目を見て頷く。

 

店主「よっしゃ、それでええ。」

 

しかしそこにアナトの声が割って入るとガラリと空気が変わる。

 

アナト「さっきから何をコソコソやっている?」

 

店主「うお!?」

 

「ぎょ!?」

 

ショウ「え!?いや!?何でもないよ!」

 

アナト「どうした?そんなに慌てて?」

 

ショウは慌てながらもこっそりとコンソールからその本をアイテムとしていずこかへ保存すると振り返って取り繕った。

 

そんなショウをキョトンとした感じで見るアナト。

 

ショウ「そ、それよりアナトは何か欲しいものでもあるのか?」

 

アナト「いや、特になかったんだがこれが見えたので買おうかと思ってな。」

 

そう言うとアナトは手に持っていた本をレジに差し出した。

 

二人に衝撃が走る。

 

ショウ&店主:トキメキパラダイス2ーーー!!!

 

ショウ「続編があったんだ。。。」

 

アナト「知っているのか?」

 

ショウ「い、いや読んだことは無いんだけど。。。」

 

店主「お嬢さん、そいつを選ぶとはお目が高いな。。。」

 

アナト「そうか?」

 

店主「いやぁ、気に入った!そいつはプレゼントだ。持ってってくれ。」

 

アナト「ふむ、では有り難く頂くとしよう。」

 

店主は満足げな表情で頷くが、ショウには訳が分からなかった。

 

ショウ:おっちゃん何だよその顔は!?

 

アナトは何一つ動じずにその本をしまうと何事もなかったかのようにショウに言った。

 

アナト「そろそろ行くか?」

 

ショウ「あ、あぁ。。。」

 

ショウ:トキメキパラダイスって一体なんなんだよ!??

 

ショウ:俺も後でこっそり読も。。。

 

「ゎた。ぃもょ。。。」

 

ショウ:ん?何か聞こえた?

 

ショウはあたりを見渡したが特に何もなかった。

 

ショウ「気のせいか。。。」

 

 

そうしてショウ達は店主に見送られてこの店を後にした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。