恋恋高校に高性能なパワプロくんが入学しました   作:肌がキレるティッシュ

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2年生 夏⑤

~ショッピングモールへ向かう道~

 

パワプロは、思いつくままにいろんな話をしていた。

合宿のこと、最近の練習のこと、あおいとの変化球練習の話、矢部のどうでもいい失敗談。

 

パワプロ「でさ、あの時の矢部くんの顔が――」

 

はるかは隣を歩きながら、時々相槌を打つだけ。

それで十分だった。

 

はるか(……何を話せば良いか不安だったけど)

はるか(無理に話題を探さなくていい)

 

パワプロが話してくれる。

沈黙が怖くならない。

それだけで、胸の奥が少し軽くなる。

気づけば、建物の影が大きくなり――

 

「――あ、着いた」

 

目の前には、大きなショッピングモール。

人の流れと、冷房の効いた空気が、外の暑さを切り離す。

 

 

~ショッピングモール~

 

必要なものをいくつか買い回る。

食料、消耗品、細々した備品。

はるかがリストを確認し、パワプロが素直にカゴを持つ。

 

パワプロ「これもいるかな?」

はるか「はい、念のため買っておきましょうか」

パワプロ「了解!」

 

無駄がなくて、テンポがいい。

合宿準備という目的があるからこそ、変に意識せずにいられる。

 

そして、予定の半分程度の会計を終えて、両手には袋。

パワプロはそれをまとめて抱えると、ふう、と一息ついた。

 

パワプロ「よし……ちょっと休憩しよう。カフェ寄っていい?」

はるか「はい。私もちょうど、お茶したい気分です」

 

 

~モールのカフェ~

 

カフェに入ると、外の喧騒が一気に遠のいた。

冷たい空気と、コーヒーの香り。

席に座った瞬間、肩の力がすとんと抜ける。

 

パワプロはメロンソーダ、はるかはアイスティー。

氷がカランと鳴るだけで、さっきまでの熱気が夢みたいだった。

 

パワプロ「いやー、今日は盛りだくさんだったね。

パワプロ 「というかまだ買えてないのあるし…」

はるか「はい……想像より荷物多くなりました」

 

会話は途切れない。

買い物の話、合宿の段取り、あおいの捕球練習のこと。

はるかが笑うたび、胸の奥にあった緊張が、どんどん溶けていく。

 

はるか(……あれ?私自然に笑えてる)

はるか(私、今日の朝あんなに緊張してたのに)

 

気づけば、素で笑っていた。

 

パワプロ「じゃあ、そろそろ買い出しに戻ろうか」

はるか「はい。そうしましょう」

 

 

~モールの中央 イベント会場~

 

モールの中央が、やけに賑やかだった。

 

小さな子どもたちが集まり、色とりどりの風船。

ステージの上では、派手なスーツのヒーローたちがポーズを決めている。

 

戦隊シリーズのイベントだった。

はるか(…………!)

はるかは、目の色を変えて足を止める。

 

はるか「……パワプロさん」

はるか「ちょっと、観に行きませんか?」

 

パワプロ「え? ああ、いいけど……買い物は?」

 

はるか「大丈夫です。まだまだ時間はありますから」

即答だった。

 

パワプロ「そっか。じゃあ、ちょっとだけ」

 

二人は人混みに混ざり、ステージが見える位置に立つ。

 

パワプロ「戦隊モノかぁ……懐かしいなぁ」

パワプロ「はるかちゃんも、観てたの?」

 

はるか「はい。今も観てます」

 

パワプロ「そっかぁ、はるかちゃんも観てたんだね……ん?」

パワプロ「……え!? 今も!?」

 

はるかは首を傾げる。

 

はるか「はい」

はるか「これは◯◯シリーズで、今日出てるのは三代目レッドですね」

はるか「スーツのラインが少し違うの、分かりますか?」

 

パワプロ「……え、ええ?」

 

はるか「あと、あの敵幹部はテレビ版だと中盤で裏切るんですけど――」

 

止まらない。

はるかの口調は淡々としている。

熱く語るというより、「知っていることを普通に説明している」だけ。

 

パワプロ(……詳しすぎない?)

 

でも、はるか本人はまったく気にしていない。

はるか「毎年設定が変わるんですけど、今年のシリーズは特に――」

 

パワプロ「……す、すごいね……」

 

はるか「?」

はるか「そうですか?」

 

きょとんとした顔。

本人にとっては好きなものであって、『女子高生にしては変わった趣味』という自覚はない。

 

――はるかは、わりとオタク気質な天然だった。

 

ステージが終わり、司会のお姉さんがマイクを持つ。

「このあと、ヒーローたちとの握手会を行いまーす!」

 

子どもたちが歓声を上げる。

 

はるかは、迷いなく言った。

はるか「……握手会もあるみたいですね」

はるか「並びましょう」

 

パワプロ「……え?」

パワプロ「は、はるかちゃん? 買い出しは?」

 

はるか「大丈夫です。まだまだ時間はありますから(二回目)」

 

ニコリと笑ってはるかは言った。

その言葉を聞いて、パワプロは苦笑した。

パワプロ「……そ、そうだね」

 

二人は、子どもたちの列の最後尾に並ぶ。

周囲は親子連れだらけ。

 

パワプロ(……はるかちゃんの意外な一面を知れたな……)

 

一方のはるかは、楽しそうにステージを見ていた。

 

 

~買い出しの続き~

 

握手会の熱気もひと段落して、二人はまた合宿の買い出しに戻った。

 

はるかがスマホのメモを確認して、

パワプロが「了解!」とカゴを持って、

不足していたものを一つずつ埋めていく。

 

生活感のあるものばかりなのに、不思議と退屈じゃなかった。

 

パワプロ「こういうのって、終わると妙に達成感あるよね」

はるか「ふふ、分かります。チェックが全部消えると気持ちいいです」

 

パワプロ 「……おお!!」

パワプロ「良いの見つけちゃった!」

パワプロ「はるかちゃん……これも買っちゃわない!? 」

 

はるか「それは……!いいですね!きっとみんな喜びます」

 

~帰り道~

 

最後の会計を終わるころには夕方になっており、モールを出る。

外の光は少しだけ柔らかくなっていて、風が涼しい。

 

駅までの道。

荷物はほとんどパワプロが持ってくれている。

 

パワプロ「はるかちゃん、今日はありがとうね!」

はるか「こちらこそ、ありがとうございました」

 

パワプロ「すっごく楽しかったよ!」

パワプロ「はるかちゃんの意外な一面も知れたし……今日はこれて良かったなって思う」

 

はるか「私の意外な一面……?ありましたか?」

はるかは首を傾げて言った。

 

はるか「でも……私も来られて良かったです」

はるか「すごく楽しかったので」

 

パワプロ「うん!じゃあ、またねー!」

 

いつもの明るい声。

軽く手を振って、パワプロは改札の向こうへ消えていく。

 

はるか「……はい。また」

 

その言葉だけ、少しだけ遅れて、空気の中に残った。

 

一人になった帰り道。

胸のあたりが妙にふわふわしていた。

 

はるか「……本当に、楽しかったな……」

 

声に出したことで、今日が終わってしまうのが惜しくなった。

 

 

~合宿当日~

 

いよいよ、合宿へ出発する日。

 

はるか「パワプロさん、頼んでいた買い出しの荷物」

はるか「持ってきていただけましたか?」

 

パワプロ「もちろん!……っというか、もし忘れてたら取りに戻って、俺だけ全力で合宿所まで走っていくよ!」

 

はるか「ふふ。そうなったら……私、ちゃんと待っていてあげますね」

 

パワプロ「え、いいの? はるかちゃん、優しいなぁ!」

 

あおい「……?」

 

そのやり取りを横で聞いていたあおいは、ふと違和感を覚えた。

いつの間にか、二人の空気が前より柔らかくなっている。

 

あおい(……前よりも、パワプロくんとはるかの距離が近くなってる……?)

 

 

〜合宿での練習〜

 

パワプロ「よし!じゃあ、外野以外はいったん休憩に入ろう!外野は……少しだけアドバイスあるから、残ってもらえるかな」

パワプロ「守備の初動なんだけどさ……まず最初の一歩が遅れると――」

 

熱のこもった指導が続く。声は大きくないのに、妙に耳に残る。

外野陣が頷きながら聞き入る中、はるかは視線を外さず、ずっとパワプロのほうを見ていた。

 

あおい「ふぅ……はるか、そこのタオル取ってもらえる?」

 

はるか「……」じっ……

 

あおい「はるか?」

 

はるか「……」じーっ……

 

あおい「おーい。聞いてる? はるか?」

 

はるか「えっ!? は、はい!……あおい、どうしたの?」

 

あおい「いや、そこのタオル取ってほしくて」

 

はるか「う、うん……どうぞ」

 

あおい「……さっきから、ずっとパワプロくんのこと見てなかった?」

 

はるか「え……そ、そうだったかな……?」

 

あおい「……うん、見てた」

 

はるか「……そ、それより。水分補給、大丈夫?」

はるか「ドリンク、どうぞ」

 

あおい「あ、うん。ありがとう」

 

はるか「みなさんも、足りてますか?」

 

部員たち「ありがとー!」「欲しいでーす!」

 

はるか「はい、どうぞ。無理しないでくださいね」

 

あおい(……うーん。気のせい、だよね……?)

 

 

〜1日目の練習終わり〜

 

パワプロ「よし!今日はここまで!各自、ストレッチを5分やってから解散!」

 

メンバー「つ、疲れた……」

 

矢部「や、やばすぎでやんす……パワプロくん、完全に鬼でやんす……」

 

パワプロ「あはは!大丈夫大丈夫!明日はもっと限界までいくから!」

 

矢部「それ全然大丈夫じゃないでやんす……オイラ、明日は欠席するでやんす……」

 

パワプロ「平気平気。ちゃんと俺が起こしてあげるから!」

 

矢部「可愛い女子以外からの朝起こしイベントは遠慮するでやんす……」

 

パワプロ「――あ、あおいちゃん!このあと、ちょっとだけ変化球やらない?」

 

あおい「え、まだやるの!?

あおい「……うーん。でも、少しだけなら」

 

パワプロ「よっしゃ!実はさ、どうしても見てほしい球があるんだ」

 

はるか「……」

 

あおい「そこまで言うなら」

あおい「うん、やろっか」

 

はるか「あ、あの……私も、何かお手伝いできること、ありますか?」

 

パワプロ「え?ああ、変化球の練習だけだからね」

パワプロ「はるかちゃんは休んでて大丈夫だよ」

パワプロ「今日はお疲れさま!」

 

はるか「……はい」

 

パワプロ「じゃあ、あおいちゃん。あっちのネット使おう!」

 

あおい「うん」

 

そうして二人は、日が傾くのも忘れて、変化球の練習を続けていた。

 

 

~合宿所の女子部屋~

 

練習後、女子部屋に戻ったあおい。

 

あおい「つかれたーー!!パワプロくん、要求多すぎだよ……!!」

 

はるか「……パワプロさんと、どんな練習をしていたの?」

 

あおい「高速スライダーをもっとキレよくしたり、ボクのシンカーをさらに良くする方法を考えたり……まあ、いろいろだね」

あおい「でもまあ、最後はストレッチも手伝ってくれたし」

あおい「ストレッチをパワプロくんにやってもらうと痛いけど、翌日すごく楽なんだ」

 

はるか「……私は、ストレッチをしてもらったことないけど……」

 

あおい「そりゃマネージャーにはしないでしょ?」

 

はるか「……パワプロさん、どんな様子でした?」

 

あおい「え? いつも通りだよ。年中無休の熱血野球教室、って感じ」

 

はるか「……でも」

はるか「……あおいとの練習が、一番熱が入ってる気がする」

 

あおい「そ、そうかな?」

 

はるか「……うん」

 

あおい「……ねえ、はるか。パワプロくんと、何かあった?」

 

はるか「な、何もないよ」

はるか「じゃ、じゃあ……私、先にお風呂行ってくるね」

 

あおい「う、うん。いってらっしゃい……ボクも、少ししたら行くよ」

あおい(……やっぱり、はるか……)

 

〜合宿所の女子風呂〜

 

あおい「……あ。はるか、まだ湯船に入ってたんだ」

 

静かな浴場に、ちゃぷん、と音を立ててあおいも湯船に浸かる。

 

あおい「ふぅ……生き返る……」

 

はるか「……うん」

 

しばらくは、湯気と水音だけが二人の間を満たしていた。

その沈黙を破るように、はるかが小さく息を吸う。

 

はるか「ねぇ、あおい……ひとつ、聞いてもいい?」

 

あおい「ん? なに?」

 

はるか「……あおいは、パワプロさんのこと……どう思ってるの?」

 

あおいは一瞬、言葉を失い、口を開けたまま固まってしまう。

 

あおい「……っ!? ぶはっ……ゴホ、ゴホッ! ちょ、ちょっと……いきなり何!?」

 

はるか「ご、ごめん……でも……」

はるか「……あおいは、パワプロさんのこと、好きなの?」

 

あおい「え……もしかして、はるか……」

 

はるか「前から、少し気にはなってたんだけど……」

 

はるかは湯船の縁をぎゅっと掴み、視線を伏せる。

はるか「気づいたら、パワプロさんのことを目で追ってる自分がいて……」

はるか「あおいと二人きりで練習してるのを見ると、胸がざわざわして……」

はるか「……多分、好きなんだと思う」

 

あおい「……」

あおい「……やっぱり、そうだったんだね」

 

はるか「でも……」

はるか「……あおいも、パワプロさんのこと、好きなんじゃないの?」

 

あおい「……ボクはね」

 

あおいは少し考え込み、湯の中で肩まで沈みながら、ゆっくりと首を振った。

 

あおい「選手としては尊敬してるし……仲間としても、好きだよ。でも……」

あおい「恋愛として好きな男の子なんて、今までいたことないし……」

あおい「異性として好きかって聞かれると……たぶん、違うと思う」

 

はるか「……そっか」

 

その言葉を聞いたはるかは、胸のつかえが取れたように小さく息を吐き、

それでもどこか申し訳なさそうな、曖昧な笑顔を浮かべた。

 

はるか「……うん。話してくれて、ありがとう」

はるか「じゃあ……私、先に上がるね」

 

あおい「う、うん……」

 

ちゃぷん、と水音を立ててはるかが立ち上がり、

やがて浴場の扉が静かに閉まる。

 

あおい(……ボクは、パワプロくんのことを異性として好きじゃない……よね……?)

 

湯船に一人残されたまま、天井の湯気をぼんやり見つめる。

 

あおい(はるかが言ってた

《あおいとの練習が、一番熱が入ってる気がする》っていうのも……

きっと、はるかの考えすぎだよね……)

 

あおい(……でも)

あおい(もし、本当にそうだったら……)

あおい(……ちょっとだけ、嬉しいかも……)

あおい(……でもそれって、異性として、じゃないよね……?)

あおい「ああ〜っ! もうっ……!」

あおい「考えるほど、わからなくなるよ……!」

 

湯気の向こうに消えた扉をじっと見つめながら、あおいは胸の奥に残った違和感を飲み込めないまま、誰に聞かせるでもない独り言を、浴場いっぱいに響かせていた。

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