恋恋高校に高性能なパワプロくんが入学しました 作:肌がキレるティッシュ
~ショッピングモールへ向かう道~
パワプロは、思いつくままにいろんな話をしていた。
合宿のこと、最近の練習のこと、あおいとの変化球練習の話、矢部のどうでもいい失敗談。
パワプロ「でさ、あの時の矢部くんの顔が――」
はるかは隣を歩きながら、時々相槌を打つだけ。
それで十分だった。
はるか(……何を話せば良いか不安だったけど)
はるか(無理に話題を探さなくていい)
パワプロが話してくれる。
沈黙が怖くならない。
それだけで、胸の奥が少し軽くなる。
気づけば、建物の影が大きくなり――
「――あ、着いた」
目の前には、大きなショッピングモール。
人の流れと、冷房の効いた空気が、外の暑さを切り離す。
~ショッピングモール~
必要なものをいくつか買い回る。
食料、消耗品、細々した備品。
はるかがリストを確認し、パワプロが素直にカゴを持つ。
パワプロ「これもいるかな?」
はるか「はい、念のため買っておきましょうか」
パワプロ「了解!」
無駄がなくて、テンポがいい。
合宿準備という目的があるからこそ、変に意識せずにいられる。
そして、予定の半分程度の会計を終えて、両手には袋。
パワプロはそれをまとめて抱えると、ふう、と一息ついた。
パワプロ「よし……ちょっと休憩しよう。カフェ寄っていい?」
はるか「はい。私もちょうど、お茶したい気分です」
~モールのカフェ~
カフェに入ると、外の喧騒が一気に遠のいた。
冷たい空気と、コーヒーの香り。
席に座った瞬間、肩の力がすとんと抜ける。
パワプロはメロンソーダ、はるかはアイスティー。
氷がカランと鳴るだけで、さっきまでの熱気が夢みたいだった。
パワプロ「いやー、今日は盛りだくさんだったね。
パワプロ 「というかまだ買えてないのあるし…」
はるか「はい……想像より荷物多くなりました」
会話は途切れない。
買い物の話、合宿の段取り、あおいの捕球練習のこと。
はるかが笑うたび、胸の奥にあった緊張が、どんどん溶けていく。
はるか(……あれ?私自然に笑えてる)
はるか(私、今日の朝あんなに緊張してたのに)
気づけば、素で笑っていた。
パワプロ「じゃあ、そろそろ買い出しに戻ろうか」
はるか「はい。そうしましょう」
~モールの中央 イベント会場~
モールの中央が、やけに賑やかだった。
小さな子どもたちが集まり、色とりどりの風船。
ステージの上では、派手なスーツのヒーローたちがポーズを決めている。
戦隊シリーズのイベントだった。
はるか(…………!)
はるかは、目の色を変えて足を止める。
はるか「……パワプロさん」
はるか「ちょっと、観に行きませんか?」
パワプロ「え? ああ、いいけど……買い物は?」
はるか「大丈夫です。まだまだ時間はありますから」
即答だった。
パワプロ「そっか。じゃあ、ちょっとだけ」
二人は人混みに混ざり、ステージが見える位置に立つ。
パワプロ「戦隊モノかぁ……懐かしいなぁ」
パワプロ「はるかちゃんも、観てたの?」
はるか「はい。今も観てます」
パワプロ「そっかぁ、はるかちゃんも観てたんだね……ん?」
パワプロ「……え!? 今も!?」
はるかは首を傾げる。
はるか「はい」
はるか「これは◯◯シリーズで、今日出てるのは三代目レッドですね」
はるか「スーツのラインが少し違うの、分かりますか?」
パワプロ「……え、ええ?」
はるか「あと、あの敵幹部はテレビ版だと中盤で裏切るんですけど――」
止まらない。
はるかの口調は淡々としている。
熱く語るというより、「知っていることを普通に説明している」だけ。
パワプロ(……詳しすぎない?)
でも、はるか本人はまったく気にしていない。
はるか「毎年設定が変わるんですけど、今年のシリーズは特に――」
パワプロ「……す、すごいね……」
はるか「?」
はるか「そうですか?」
きょとんとした顔。
本人にとっては好きなものであって、『女子高生にしては変わった趣味』という自覚はない。
――はるかは、わりとオタク気質な天然だった。
ステージが終わり、司会のお姉さんがマイクを持つ。
「このあと、ヒーローたちとの握手会を行いまーす!」
子どもたちが歓声を上げる。
はるかは、迷いなく言った。
はるか「……握手会もあるみたいですね」
はるか「並びましょう」
パワプロ「……え?」
パワプロ「は、はるかちゃん? 買い出しは?」
はるか「大丈夫です。まだまだ時間はありますから(二回目)」
ニコリと笑ってはるかは言った。
その言葉を聞いて、パワプロは苦笑した。
パワプロ「……そ、そうだね」
二人は、子どもたちの列の最後尾に並ぶ。
周囲は親子連れだらけ。
パワプロ(……はるかちゃんの意外な一面を知れたな……)
一方のはるかは、楽しそうにステージを見ていた。
~買い出しの続き~
握手会の熱気もひと段落して、二人はまた合宿の買い出しに戻った。
はるかがスマホのメモを確認して、
パワプロが「了解!」とカゴを持って、
不足していたものを一つずつ埋めていく。
生活感のあるものばかりなのに、不思議と退屈じゃなかった。
パワプロ「こういうのって、終わると妙に達成感あるよね」
はるか「ふふ、分かります。チェックが全部消えると気持ちいいです」
パワプロ 「……おお!!」
パワプロ「良いの見つけちゃった!」
パワプロ「はるかちゃん……これも買っちゃわない!? 」
はるか「それは……!いいですね!きっとみんな喜びます」
~帰り道~
最後の会計を終わるころには夕方になっており、モールを出る。
外の光は少しだけ柔らかくなっていて、風が涼しい。
駅までの道。
荷物はほとんどパワプロが持ってくれている。
パワプロ「はるかちゃん、今日はありがとうね!」
はるか「こちらこそ、ありがとうございました」
パワプロ「すっごく楽しかったよ!」
パワプロ「はるかちゃんの意外な一面も知れたし……今日はこれて良かったなって思う」
はるか「私の意外な一面……?ありましたか?」
はるかは首を傾げて言った。
はるか「でも……私も来られて良かったです」
はるか「すごく楽しかったので」
パワプロ「うん!じゃあ、またねー!」
いつもの明るい声。
軽く手を振って、パワプロは改札の向こうへ消えていく。
はるか「……はい。また」
その言葉だけ、少しだけ遅れて、空気の中に残った。
一人になった帰り道。
胸のあたりが妙にふわふわしていた。
はるか「……本当に、楽しかったな……」
声に出したことで、今日が終わってしまうのが惜しくなった。
~合宿当日~
いよいよ、合宿へ出発する日。
はるか「パワプロさん、頼んでいた買い出しの荷物」
はるか「持ってきていただけましたか?」
パワプロ「もちろん!……っというか、もし忘れてたら取りに戻って、俺だけ全力で合宿所まで走っていくよ!」
はるか「ふふ。そうなったら……私、ちゃんと待っていてあげますね」
パワプロ「え、いいの? はるかちゃん、優しいなぁ!」
あおい「……?」
そのやり取りを横で聞いていたあおいは、ふと違和感を覚えた。
いつの間にか、二人の空気が前より柔らかくなっている。
あおい(……前よりも、パワプロくんとはるかの距離が近くなってる……?)
〜合宿での練習〜
パワプロ「よし!じゃあ、外野以外はいったん休憩に入ろう!外野は……少しだけアドバイスあるから、残ってもらえるかな」
パワプロ「守備の初動なんだけどさ……まず最初の一歩が遅れると――」
熱のこもった指導が続く。声は大きくないのに、妙に耳に残る。
外野陣が頷きながら聞き入る中、はるかは視線を外さず、ずっとパワプロのほうを見ていた。
あおい「ふぅ……はるか、そこのタオル取ってもらえる?」
はるか「……」じっ……
あおい「はるか?」
はるか「……」じーっ……
あおい「おーい。聞いてる? はるか?」
はるか「えっ!? は、はい!……あおい、どうしたの?」
あおい「いや、そこのタオル取ってほしくて」
はるか「う、うん……どうぞ」
あおい「……さっきから、ずっとパワプロくんのこと見てなかった?」
はるか「え……そ、そうだったかな……?」
あおい「……うん、見てた」
はるか「……そ、それより。水分補給、大丈夫?」
はるか「ドリンク、どうぞ」
あおい「あ、うん。ありがとう」
はるか「みなさんも、足りてますか?」
部員たち「ありがとー!」「欲しいでーす!」
はるか「はい、どうぞ。無理しないでくださいね」
あおい(……うーん。気のせい、だよね……?)
〜1日目の練習終わり〜
パワプロ「よし!今日はここまで!各自、ストレッチを5分やってから解散!」
メンバー「つ、疲れた……」
矢部「や、やばすぎでやんす……パワプロくん、完全に鬼でやんす……」
パワプロ「あはは!大丈夫大丈夫!明日はもっと限界までいくから!」
矢部「それ全然大丈夫じゃないでやんす……オイラ、明日は欠席するでやんす……」
パワプロ「平気平気。ちゃんと俺が起こしてあげるから!」
矢部「可愛い女子以外からの朝起こしイベントは遠慮するでやんす……」
パワプロ「――あ、あおいちゃん!このあと、ちょっとだけ変化球やらない?」
あおい「え、まだやるの!?
あおい「……うーん。でも、少しだけなら」
パワプロ「よっしゃ!実はさ、どうしても見てほしい球があるんだ」
はるか「……」
あおい「そこまで言うなら」
あおい「うん、やろっか」
はるか「あ、あの……私も、何かお手伝いできること、ありますか?」
パワプロ「え?ああ、変化球の練習だけだからね」
パワプロ「はるかちゃんは休んでて大丈夫だよ」
パワプロ「今日はお疲れさま!」
はるか「……はい」
パワプロ「じゃあ、あおいちゃん。あっちのネット使おう!」
あおい「うん」
そうして二人は、日が傾くのも忘れて、変化球の練習を続けていた。
~合宿所の女子部屋~
練習後、女子部屋に戻ったあおい。
あおい「つかれたーー!!パワプロくん、要求多すぎだよ……!!」
はるか「……パワプロさんと、どんな練習をしていたの?」
あおい「高速スライダーをもっとキレよくしたり、ボクのシンカーをさらに良くする方法を考えたり……まあ、いろいろだね」
あおい「でもまあ、最後はストレッチも手伝ってくれたし」
あおい「ストレッチをパワプロくんにやってもらうと痛いけど、翌日すごく楽なんだ」
はるか「……私は、ストレッチをしてもらったことないけど……」
あおい「そりゃマネージャーにはしないでしょ?」
はるか「……パワプロさん、どんな様子でした?」
あおい「え? いつも通りだよ。年中無休の熱血野球教室、って感じ」
はるか「……でも」
はるか「……あおいとの練習が、一番熱が入ってる気がする」
あおい「そ、そうかな?」
はるか「……うん」
あおい「……ねえ、はるか。パワプロくんと、何かあった?」
はるか「な、何もないよ」
はるか「じゃ、じゃあ……私、先にお風呂行ってくるね」
あおい「う、うん。いってらっしゃい……ボクも、少ししたら行くよ」
あおい(……やっぱり、はるか……)
〜合宿所の女子風呂〜
あおい「……あ。はるか、まだ湯船に入ってたんだ」
静かな浴場に、ちゃぷん、と音を立ててあおいも湯船に浸かる。
あおい「ふぅ……生き返る……」
はるか「……うん」
しばらくは、湯気と水音だけが二人の間を満たしていた。
その沈黙を破るように、はるかが小さく息を吸う。
はるか「ねぇ、あおい……ひとつ、聞いてもいい?」
あおい「ん? なに?」
はるか「……あおいは、パワプロさんのこと……どう思ってるの?」
あおいは一瞬、言葉を失い、口を開けたまま固まってしまう。
あおい「……っ!? ぶはっ……ゴホ、ゴホッ! ちょ、ちょっと……いきなり何!?」
はるか「ご、ごめん……でも……」
はるか「……あおいは、パワプロさんのこと、好きなの?」
あおい「え……もしかして、はるか……」
はるか「前から、少し気にはなってたんだけど……」
はるかは湯船の縁をぎゅっと掴み、視線を伏せる。
はるか「気づいたら、パワプロさんのことを目で追ってる自分がいて……」
はるか「あおいと二人きりで練習してるのを見ると、胸がざわざわして……」
はるか「……多分、好きなんだと思う」
あおい「……」
あおい「……やっぱり、そうだったんだね」
はるか「でも……」
はるか「……あおいも、パワプロさんのこと、好きなんじゃないの?」
あおい「……ボクはね」
あおいは少し考え込み、湯の中で肩まで沈みながら、ゆっくりと首を振った。
あおい「選手としては尊敬してるし……仲間としても、好きだよ。でも……」
あおい「恋愛として好きな男の子なんて、今までいたことないし……」
あおい「異性として好きかって聞かれると……たぶん、違うと思う」
はるか「……そっか」
その言葉を聞いたはるかは、胸のつかえが取れたように小さく息を吐き、
それでもどこか申し訳なさそうな、曖昧な笑顔を浮かべた。
はるか「……うん。話してくれて、ありがとう」
はるか「じゃあ……私、先に上がるね」
あおい「う、うん……」
ちゃぷん、と水音を立ててはるかが立ち上がり、
やがて浴場の扉が静かに閉まる。
あおい(……ボクは、パワプロくんのことを異性として好きじゃない……よね……?)
湯船に一人残されたまま、天井の湯気をぼんやり見つめる。
あおい(はるかが言ってた
《あおいとの練習が、一番熱が入ってる気がする》っていうのも……
きっと、はるかの考えすぎだよね……)
あおい(……でも)
あおい(もし、本当にそうだったら……)
あおい(……ちょっとだけ、嬉しいかも……)
あおい(……でもそれって、異性として、じゃないよね……?)
あおい「ああ〜っ! もうっ……!」
あおい「考えるほど、わからなくなるよ……!」
湯気の向こうに消えた扉をじっと見つめながら、あおいは胸の奥に残った違和感を飲み込めないまま、誰に聞かせるでもない独り言を、浴場いっぱいに響かせていた。